Báleygr   作:清助

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第二章 Ash and Snow
第八話「天空闘技場」


 

 勝っても負けても灰のように汚れるから

 負けても勝っても雪のように綺麗だから

 

                             

                                  天空闘技場の観客より

 

 

 

 

 

 

 

第2章 Ash and Snow

 

 

 

 

 

 

 

 戦場の聖地に到着して幾分かの時が経過していた。

 ホテルに滞在しながら念の修行を続けること2週間。基礎的な念技術は一通り学び終え、やることと言ったら後は「登る」だけである。

 つまり現在進行形で何をしているかと言うと――。

「おっと」

 不意につかれた拳を捌く。

 通常の速さでは足りない。持っていた腕の力学方向とは真逆にオーラを一瞬だけ放出し、加速をつけて攻撃をいなす。

 念能力者なら誰もが無意識にやっていることだ。足にオーラを集めたところで移動速度は変わらない。突き詰めれば身体動作よりも早い流と、エンジンのように体外に放出させるオーラ技術が身体をより速くする。さながらロケットのような、操作系と放出系のオーラカテゴリを組み合わせた加速戦闘の技術。

 堅によるオーラ消費が静止時よりも稼動時に多いのはそのためである。ロケットが推進力を得るには膨大なエネルギーが必要だ。すべての能力者はオーラによる流の運用とは別に、推進オーラの消費により爆発的な加速を得ている。

「……っ」

 拳はフェイクだった。

 捌かれた体勢を反転させながら繰り出された回し蹴りは、俺のわき腹に鈍い衝撃を与える。追撃が来ないように俺は反射的に後ろに後退しながら呟いた。

「勉強になるな……」

 念は最低限しかしていない。攻撃もしていない。

 相手は武道家とはいえ念を覚えていない一般人だ。当然攻撃は痛くないし、オーラを乗せたこちらの攻撃は当たれば相手の骨を容易に砕くだろう。

 勢いをつけて飛び蹴りをしてみるが、暖簾のようにひらりとかわされた。がら空きになった胴に再び拳を叩きつけられたので、軽く吹き飛んだふりをする。

 周囲に沸く歓声の中で、攻撃を加えた男は顔を顰めていた。

 ――鉛を殴ったような感覚。

 きっとこう思っているだろう。

 念能力者との絶対的な壁はあまりに高い。相手が念を習得した強化系能力者だった場合、俺は既に2回は死んでいた。そして一介の武道家の攻撃を捌き切れない俺ごときに、旅団を相手にできる地力はないに決まっている。

 必要なのは体術だ。

 ゾルディック家の育成方針のように、念を覚える前にまず己の肉体を極めるべきだったのだ。

 何が孤児だったからだ、だ。

 そんなのは言い訳にしかならなかった。

 せめて基礎である身体を鍛えるチャンスはいくらでもあったはずだ。

 ここの所修行を共にする兄弟弟子のウィルを見ているとよくわかった。

 俺は凡人だ。

 それこそどうしようもない凡人。

 堅による持続時間は既にウィルに追い越され、比較的得意な分野である絶の技術も精巧なキシュハのオーラには遠く及ばない。念の総量に至っては師匠の遥か下をいく。

 流も硬も円も未熟。

 1年でこれだ。果たしてあと2年で旅団の強さに追いつけるようになるのか。

 師匠は気にするなと言った。

 お前はよく考える分、回り道をし過ぎている、と。

 ウィルのように一直線な愚直さでいいのだと。

「……っ」

 ――天才と比べんな。

 最小限に留めていたオーラを噴出させて、相手の拳を受け止めた。

 驚愕する相手に対して、俺は暗い笑みを浮かべるのを我慢することができない。

「回避の練習、助かったよ」

「なん……」

 そのままオーラを纏った手で軽く押しやると、相手は木の葉のように場外に吹き飛んだ。

 大逆転に熱狂する歓声の中で、審判が捲くし立てるように200階へのクラスあがりを宣言した。

 片手を軽くあげながら悠々と会場を去る。

 通路の長い廊下を歩いていくと、俺の視界に仁王立ちで構える少年が映った。

「相手に対してあんな中途半端な戦い方は失礼だと思います」

 今しがた脳裏を過ぎった兄弟弟子のウィルだった。

 栗色の髪の下で揺れる表情は幾ばくか固い。

「あれが俺のやり方なんだよ。少しくらい許してくれ。それよりもお前はどうなんだよ。キルア・ゾルディックとは戦えたか?」

「本人の姿を確認しましたけど幼少期に戦うのは無理そうです」

「……はい?」

 耳がおかしくなったのだろうか。

 それ自体が当初の目的だったはずだが、出鼻を挫かれたような気がする。

「天空闘技場の下位層では、対戦する相手が完全にランダムな事を忘れていました。現在50階クラスをうろついているキルア君が、対戦相手を事前に勧誘できる200階クラスまで来るのは原作通りの年表でいうと1994、5年です。さすがに2年も待てませんよ。そもそもキルア君と同じような勝ち負けのテンポで天空闘技場の階層を進めなければ、彼と対戦することは不可能だったんです」

 既に今日俺と同じように、200階への片道切符を手に入れてしまったウィルは深いため息をついた。

 自然と口からうなり声が漏れる。

「一方的に試合外で対戦を仕掛けるのは? 条件に天空闘技場でキルアと戦えばいいニュアンスしか入っていないならいけるはずだ」

「暗殺一家を敵に回したくはないです」

 俺の提案した案にも、ウィルは表情を曇らせたまま答えた。

「キルア君本人は気づいてなかったみたいですけど、何人か見張りがいます。ちらりとしか見えませんでしたけど、多分ゾルディック家の執事です」

「ああ……そりゃそうか……」

 下手すれば命を落とすような場所に、言葉の通り子供を投げ入れる親馬鹿はさすがにいないだろう。

 しかしなんというか……めんどくせえ。

「確かに考えてみれば妙な話だ。難易度Eといえど、やり方によっては原作に全く影響力を及ぼさないような条件解除が、果たして死神の意図するところかって事に気づくべきだったな」

「その通りでした。否応なしに原作時期のキルア君と戦うしかなさそうです。本当に悪質な念ですねこれ」

 一筋縄ではいかない。

 通路を出てエレベーターに向かう。ロビーでは夕飯時が近いのか、むさ苦しい男たちが盛大な祝杯を挙げていた。

 彼らを無視して俺たちはエレベーターに乗り込んだ。

「酔いそうです」

 閉口一番にウィルが真顔で告げる。

 この少年は天空闘技場に来た当初、筋金入りの乗り物酔いを懸念して外階段を利用していた猛者である。

「吐くなよ」

「一応キシュハさんに特製の酔い止め改を貰ったので大丈夫だと思いますけど……あ、200階お願いします」

「畏まりました。上へ参ります」

 エレベーターガールが上昇の掛け声を発声する。

 その背中をちらりと見やる。割と強力な念使いだ。此処の従業員の一部は選手より強い気がする。 容姿が記憶と違うので、原作アニメの方で念を覚えたゴンとキルアをぼこぼこにしていたエレベーターガールではないようだ。

 俺は階数表示のディスプレイに視線を移しながら、隣の相棒に声をかける。

「そういや最近見ないけど、師匠とキシュハは?」

「一度里の方に帰ったみたいです。師匠からの伝言は『同胞への最終決戦の警告を広めておけ、それとどちらかがフロアマスター挑戦権を得たら連絡しろ』。キシュハさんからは『実はあなたが修行で気絶してた時とか能力開発のためにこっそり心臓止めてたごめん』だそうで」

「酷いカミングアウトだなそれ」

 脈打つ胸元を無意識に押さえつける。まさかこれが恋か。ありえん。まったくもって心臓に悪い話を聞いた。

 俺は嫌な思いを振り払って腕を組んだ。

「それにしてもフロアマスターはともかく、最終決戦の警告ねえ……」

「思ったんですけど、始めからそれが師匠の狙いだったかもしれません」

 そう言われて俺は少し考える。

 もしかして師匠がふらりといなくなるのは、世界中を飛び回って情報を伝達しているためなのか。いやそこまでやるのはさすがにお人よし過ぎる気がする。

 首を捻りながら答えた。

「んー……条件の関係上、敵対するかもしれない同胞でも共通の敵は死神。お前の考えは当たっているかもな」

「まあともかく。師匠の課題をクリアして里に行ってみる前に、少しでも仲間は増やしたいですね」

「そりゃ多いに越したことはないか……」

「ああ、あとこれは僕向けですがもうひとつ伝言」

「ん?」

「『強化系念能力者たちを殺害している転生者がいる。天空闘技場にいるという情報があるから気をつけろ』。同胞の間では<キラー>と呼ばれているそうです」

 俺は肩を竦めた。

「おっかねえ話」

 ちん、と乾いた音を立ててエレベーターは200階についた。

「酔いませんでした」

「わかった。わかった」

 呆れながら揃って足を踏み入れる。

 ぴりぴりとしたお決まりの感覚。

「……まあ、予想はしてたけどな」

「いますね」

 複数のオーラが通路の奥から伸びていた。

 ロビーに出ると、こちらを見ている者たちが多数。

 数人ほどいいオーラをしている。

 俺は凝で油断なく見据えながら大きく息を吸い込んだ。

「スウィート・レイン」

 怪訝な顔をするもの、無視するもの、立ち上がるもの。反応は各々だがオーラはごまかせない。

「テレビを見ているスーツの男と角にいる二人組みのゴスロリ少女に揺らぎあり。あとはあからさまに反応した受付傍のアロハシャツの青年……思っていたより少ないですね」

 実際に反応した同胞はもっとたくさんいたが、今ウィルが言った者たちは一様にオーラの質が良かったものたちだ。

「確認した。まともな同胞は少なくとも4人か」

「誰にいきます?」

「アロハシャツは却下だ。センスが悪い」

「酷い理由ですね……。僕はスーツ姿の男の人は勘弁です。オーラが歪すぎます」

 決まりだな、と呟きながら室内の一角に向かう。

 通り過ぎていく人々の視線に嘲りの色が浮かんでいる。二人とも見た目が少年の域を出ていないのと、オーラを必要最低限しか出していないからだろう。

 最初に感じた感覚といい、どうもここの住人は原作のヒソカのように、態とオーラを当てて実力を測ろうとする真似事が好きらしい。

 わかっていない。

 念能力者の実力はキメラアントのような規格外ならともかく、オーラ量そのものより質の方が熟練度を左右するし、そもそもウィルの方は10分の1以下に抑えているというのに。

 その証拠に向こうにいる少女たちの眼には、油断ならない視線と凝が反映されていた。

 そんなことも知らない3人組の男が、こちらにも聞こえるような声で呟いている。

「雑魚だな……いいカモだぜ……」

「ははっ、あんな程度の念でよくここに来ようと思ったなあいつら」

「ああ……特に黒髪の寝癖頭の方はへろへろじゃねえか。どうしたらあんな弱弱しいオーラが出来るんだ?」

 全くだ、と言いながら挑発するように爆笑をしている。

 当の本人の俺もオーラを偽装しているから何とも思わなかったが、横で聞いていた相棒の琴線にはしっかりと触れたらしい。

 ――轟ッ。

 そんな嵐のような凄まじい練を、涼しい顔でウィルは開放した。

 3人組の男はもちろんのこと、奇異の眼でこちらを見ていたものや友好的な笑みを浮かべていたものすらその表情を驚愕させる。

「おいウィル、引っ込めろ。周りからの視線が痛い」

 そういうとウィルはむう、と困った顔をした。

「すいません。けど仲間をけなされてまで我慢できるほど、僕は大人じゃありませんので。自分がオーラを出すまで完全に舐められていましたよ、僕ら」

「俺の事で怒ってくれてありがとうよ、やられたくもない注目を浴びて嬉しくて死にそうだ。相手さんの舐めた舌火傷させたのを確認したら、さっさと引っ込めてくれ」

 納得のいかない表情をしながら、ウィルの念が練から纏に戻る。本来の纏も凄まじいほどに密度の濃いオーラだ。正直並んでいる俺にも無駄な圧力がかかっていたのでほっとしながらも目標地点に近づいていく。

 ゴシックロリータ調の衣装を身に纏った二人組みはどうやら双子のようだった。二人とも西洋人形のような面立ちで服が映える。歳はキシュハよりもやや幼いくらいだろうか、身に纏うオーラは中々に洗練されていた。

 戦えば勝てるかどうかわからない。

 姉妹たちのオーラには揺らめきが見えた。

 どうやら警戒しているようだ。それもそうである。横にいるウィルの膨大なオーラ量を見た後ならば、念をかじっているものなら誰でも緊張する。

 おかげでロビー全体にいる他の同胞の誰もが、萎縮してしまい声をかけようとしない。

 双子たちの方を見ると片方――白いカチューシャをつけている方の足に圧縮したオーラを確認する。

 こちらも凝で注意しつつもさらに近づきながら軽く微笑んだ。

「ルカだ。こっちの小さいのはウィル」

 小さいは余計です、と隣で不服そうな声が聞こえたが無視する。少女たちは怪訝そうに眉を潜めながらもそれぞれ口を開いた。

「ミモザ・メルヒルと言います」

「……ラヴェンナよ」

「白いカチューシャの方がミモザさんで、赤いリボンの子がラヴェンナさんね……今日からこの200階クラスでお世話になるからどうぞ、お二人ともよろしく」

 握手を求めようと手を差し伸べると、白カチューシャの方が答えた。

「私たちに何か御用でしょうか?別に自己紹介にしに来たわけじゃないですよね?」

「いやあ……お二人は此処に来てどのくらいなのかなって……」

「2ヶ月ほどでしょうか……それが、何か?」

 見た目通りのおっとりとした口調だ。先ほどからこちらを睨み付けている――特にウィルの方を――赤いリボンをつけたラヴェンナと比べると、こいつの方が若干実力は上に思える。

「経験豊富な美少女たちで良かった。修行の一環でフロアマスターになりたいんだが、とりあえず此処での情報が欲しいんだ。あんたらが一番まともに見えたから声をかけてみた。服装の方はともかく」

 ネゴジエータールカよ、最後の一言は余計だ。

 ウィルの白い目が痛い。呼吸をするように毒の含んだ言葉をいうのは、キシュハから移されてしまったので許してくれないのだろうか。まったくもって俺は清廉潔白である。

 しかしながらミモザはそれを聞いて、まあと花のような笑みを広げた。

「美少女だなんて……いいですよ。えっと、具体的にはどんな情報が欲しいですか?」

 毒のない笑みだ。なんだか久しぶりに邪気のない人間に当たってしまったようで、俺の罪悪感がぐいぐい上昇中だ。

 少し悪いかなと思いながらも会話を続けようとした俺に静止の声がかかる。

「待って」

「どうしたの、ラヴェンナ?」

 黙っていた赤いリボンの方が一歩前に出た。

 その眼には相変わらず凝が浮かんでいる。

「私達の条件に被るかもしれない。一方的に情報を渡すのはデメリットしかない」

 明らかに転生者同士の条件争いの懸念に気づいている口調だった。

 しかもこいつ、俺と同じような思考だ。

 即答で帰ってきた言葉に俺も満面の笑顔で返す。

「同胞同士仲良くできないかな?俺はゴン・フリークスと仲良くなれれば条件達成だからラヴェンナさん達の敵になる可能性なんかないと思うよ」

 ウィルよ、思い切り嫌な顔をするな。ばれる。

 聞いていたミモザは一人だけ聖女のように微笑んでいた。

「ルカさんの言う通りよ、ラヴェンナ。せっかくご好意で話しかけてきてくれたんだから、助け合わないと」

「ミモザ、この男が言ったことが本当だという根拠はないの。まあ、修行と称して天空闘技場に来た時点であからさまに戦闘が必要な条件みたいだけどね」

 ばれた。

 久しぶりに舌がよく回る狸に出会った気がする。

 ただこいつが勘違いしているのは、死神の念の詳細を考えた奴ならば天空闘技場に修行に来てもおかしくないという点だ。

 つまり最終決戦のことを想定していない。

 俺は両手をあげた。

「オーケー参った。降参だ、お嬢さん。じゃあ交換条件をしないか?」

「交換? 有益な情報を持っているとは思えない」

 師匠には情報をなるべく広めろと言われたが、どうせ伝えるならこれくらいの得はあってもいいだろう。

 俺はにやりと得意げに笑った。

「ところがどっこい……「スウィートレイン終了後の死神からゴン・フリークスを守れなければ、世界は滅びます」ウィルさーん?」

 くっ、まさか予定外の援護射撃が来るとは。

 眼を僅かに見開く少女たち。盗み聞きをしていた外野からも物議の波があがってしまった。

「この件については皆が知るべきことなんです。ルカさんの悪い癖ですよ」

 そう言いながらウィルは、死神の念能力の裏情報についてすらすらと語ってしまった。こういうときの相棒の馬鹿正直さには頭を抱えるしかない。

 

 

 

「――というわけで、死神と戦わなければどのみち助からない可能性が高いです」

「失念してた……自分たちの念能力の解除を気にしすぎてそこまで考えていなかったわ……」

「恐らく索敵や護衛、討伐も含めて数十人規模の強力な念能力者たちが必要になってきます。この最終決戦のことは頭の片隅にでも入れておいてください」

 ウィルがそういい終えると、ラヴェンナは頭が痛そうにこめかみを抑えた。死神の念能力から厄介なのに、その上で戦う可能性があるとなると当然の反応だ。

 ふとその胸の膨らみに眼が行く。

 極めて豊かだ。

 ラヴェンナはロリ巨乳だった。

 しばらく凝視した俺は悟りを開いたような眼でそのまま視線を平行移動し、もう片方に焦点を当てる。

「まさに断崖絶……どうしたんだミモザさん?」

「いえ、何か失礼な視線を感じましたので」

 慈母のごとき壮絶な笑みを浮かべた夜叉がいたので、読心術をされないように全力で思考を封印した。

 しかしおかしい。双子でいえば天然系の方が豊かな体躯と相場が決まっているのに……現実は非情である。

「これ、ホームコードです。もしも生き残って最終決戦に協力する気があったら、そちらに掛けてきてください。僕たちの師匠に繋がるはずですので」

 場が妙な雰囲気になってきたのでウィルが愛想笑いを浮かべながらなんとか修正する。誰のせいとかいう議論は受け付けるつもりはない。

 ラヴェンナはウィルから名刺を受け取ると、口を尖らせて複雑そうな顔をした。しばらく唸ると、親の敵でも見るかのようにこちらを睨んだ。

「ありがと……それで? どんな情報が欲しいの? スリーサイズ以外なら答えてあげる」

 眼を丸くしてウィルと顔を見合わせる。相棒も肩を竦めたので、ラヴェンナの方に懐疑の視線を戻す。

「意外だな。もう少し駆け引きの好きな人間だと思ってたけど」

「あんたと一緒にしないでくれる? 騙されるのが嫌いなだけ。むかつくけど、恩には恩で返すわよ」

 ウィルの正直さが思わぬ方向に転がったわけだ。何故か自分への好感度が下降気味に聞こえるがこの際気にしない。

 とりあえず此処の情報、他の転生者の情報を知りたかった。

 俺が嬉々として口を開こうとすると、ラヴェンナの肩をちょんちょんと叩く者がいた。

「ねえねえ。ラヴェンナ、ラヴェンナ」

「なに?」

 ミモザは微妙に影の入った笑みを浮かべながら、怪訝そうな表情をするラヴェンナに耳打ちをやり始めた。しばらく様子を伺うと、ラヴェンナの容貌が鼠を見つけた猫のように変化していってしまった。

「嫌な予感しかしない」

「多分8割はルカさんのせいですよ」

 大企業の重役のように重々しく呟いた俺に、呆れた様子でウィルが返答した。

 

 


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