今回はガハマさん、三浦、めぐめぐが登場します。
エロくはないですが赤裸々です笑
大学に入学を果たしてから約一年が経過し、目新しいものもなくなりつつある休日の昼下がり。
まだ少し肌寒さを残す街並みを歩いていると、久しい顔を見つけ思わず顔がほころんでしまう。
懐かしさに早速そちらに足を向けるが、見慣れない人物が一緒にいるのに気付き、躊躇いが生まれてしまう。
卒業し、別の学校に進んだ時点で別のコミュニティーができるのは仕方のない事だとは分かっているが、なんだかやりきれない感情を感じてしまう。
そんな感情の対処に答えを出せずにいると、向こうの方が自分に気づき、大きな声で自分を呼ぶ。
「わあ、優美子!!久しぶり!!」
卒業した時のまま・・・いや、その時よりも女性らしさの増した華やかな笑顔で由比ヶ浜結衣は手を振ってくる。
自分とは違い、恋を叶えたおかげか昔の卑屈そうな所は見当たらず、ただ自分との再会を喜んでくれるのが嬉しい。
その笑顔につられるように止めた歩みを再開させると、向かい合って座っていた柔らかそうな印象の女もこちらを振り返る。
「あ、学園祭で歌ってくれた子だよねぇ。あの時はありがとねー」
「は?だれ、あんた?」
その女が振り向いた途端にポワポワと馴れ馴れしく話しかけられ、ついつっけんどんに返してしまう。
「ゆ、優美子!私たちの二年の時の生徒会長さんだよ!!」
結衣の慌てたようにフォローを受け、ぼんやりとそんな人間がいた事を思い出す。その人物もこんな間の抜けた口調だった様な気がする。
「はは、あんま目立つつながり無かったからね。改めてはじめまして。城廻めぐりです」
私の険のある対応にも眉を潜めることなく、彼女は自己紹介をして握手を求めてくる。
今まで会って来たどのタイプとも違う反応に、肩すかしを感じつつもこちらも手を差し出す。
別に噛みついてこない相手に舌を出すほど、好戦的な性分でもない。
「・・・三浦優美子。よろしく」
思いのほか穏やかな自己紹介となった事に結衣も驚いたのか、口を半開きにポケーとしている。しかし、すぐに気を取り直した彼女が場をとりなし、喫茶店の店員にもう一つの椅子を用意してもらい、どたばたしながら久しい友人とのお茶会が再開された。
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「で、ねぇねぇ。さっきの話の続き聞かせてよ!」
「え、えー。優美子も来たし、もういいじゃないですか」
お茶やケーキなど注文の品が出そろった所で、めぐりが待ち切れないといった表情で話題を切り出し、それに対して結衣は恥ずかしがりながらも、まんざらではない表情で言い渋る。
「なんの話してたん?」
どうやら自分が来る前にその話題で盛り上がっていたらしいのだが、話が見えずに紅茶を啜りながら素直に聞いてみる。
「え、結衣ちゃんの夜の生活の秘訣だよー」
「ブッ、がっは、ご、ほ・・・・・っ馬鹿じゃないの!!!」
ほんわか打ち返された剛速球に口に含んだ紅茶を全て吹き出し、思わず怒鳴ってしまう。
こんな昼間からなんて話をしてやがるんだ!この女は!!
「えー、でも、私の彼氏が全然手を出してくれないからホントに困ってるんだよー。同じ奥手な彼氏を持つ結衣ちゃんの戦略を学んで、頑張ってもらわなきゃ!!」
この女、雰囲気はゆるふわなくせに、中身は淫乱肉食系らしい。
しかし、そんな事よりも重大な事実が今の発言に潜んでいた。
「・・・え、結衣。もう、済ませたの?」
軋んだ動きで尋ねた私に、彼女は耳まで真っ赤にして俯きながら小さく頷く。
「・・・いつ頃?」
「・・・半年くらい前、かな?」
恥ずかしげに、それでも、嬉しそうにはにかみながら彼女は言う。
そんな幸せそうな顔されてしまったら、こっちの立つ瀬がない。
「あー、馬鹿らし。私だけ焦ってんのチョー恥ずいじゃん」
脱力しながら椅子に座り直し、吹き出した紅茶をハンカチで拭いていく。
「あの、言ってなくてごめんね、優美子?」
「謝る様なことじゃないでしょーが。・・・少し寂しかったけどね」
「優美子・・・」
私の呟きを聞いた彼女は困ったように紅茶のお代りを注いで、もう一言だけ謝った。
当初はヒキオと付き合ってどうなる事かと思ったが、こんな幸せそうな顔をしているのだ。大切にしてくれているのだろう。
自分にとってはそれだけ知れたら十分だ。
そんな二人のちょっとした距離をクラッシュしてくる人物がいたことを忘れていた。
「で、結衣ちゃんは彼氏にOKのサインを伝えるときはどんな合図をだすのかな?」
ほんと、何なんだこの女は。
「あんたさぁ・・・」
あんまりな女の言動に私もついに声を荒げるが、めぐりは静かに私の肩に手を置きゆっくりこちらを見る。
「ひっ」
その薄く開いた目に私は修羅を見た。
「わたし、彼氏と付き合って三年目なの。同棲を始めて二年目なの。その間、一回も手を出されてないんだ」
「えっと・・・」
「もう就活が始まるまでが勝負なんだよ。だから、今日は何があっても引けないの」
淡々と囁くような彼女の言葉の鬼気迫る迫力に私も結衣も頷く事しかできなかった。
「んじゃ、どうやって誘うのか教えてもらっちゃおうかな?」
彼女は肩の手を離すと同時に、朗らかな雰囲気に戻りつつもメモ帳を取り出し臨戦態勢に入る。
笑顔に細められた目の奥の恐怖を思い出してか、結衣も観念したように赤面しつつも語りだす。
「ええっと、ウチの場合はですね、ヒッキー・・じゃなくて彼氏が誕生日にくれたチョーカーを着けたまましちゃったのが切っ掛けでそれを寝る前に着けてるのが・・・サインだったり・・無かったり」
だんだんと語るのが恥ずかしくなってきたのか結衣の声は尻すぼみになっていくが、めぐりは真剣にメモを取っていく。
真剣な話を邪魔された時は腹がたったが、やはり私も未経験者だ。
こういう話に興味がないわけではなく、つい聞き耳を立ててしまう。
「その時の服装とかはやっぱり、そーゆー服の方がいいのかな?」
「えっと、最初のうちはそんなに気にしてなかったですけど、こう、バリエーションとか多い方がいいかなーと思って少しずつ試してみましたよ?」
当初あった照れも少しずつ解消されてきたのか、結衣の語る口調にも熱が入りはじめ、携帯でお勧めの店まで紹介し始めている。
まあ、こういう下方向のネタを話せる人間というのは存外いないもので、さらに、茶化さず真剣に聞く人間はさらに貴重だ。
そういう意味では蓄積されていた惚気話ができて、結衣も気分が乗ってきたのだろう。
そう思い、私は黙って友人のお喋りに耳を傾けることにした。
「でも、彼氏の好みとかあるよね?それってどうやってしらべてるの?」
「うーん、やっぱり一番簡単なのはヒッキーのパソコンの隠しフォルダを見ることかなー?」
「あ!!その手があったかぁ~!!」
・・・マジか、こいつら。
黙って聞いていようと思っていた矢先に飛んできた話題に思わずこめかみを押さえ、口を挟んでしまう。
「・・・ちょっと待って。結衣的には彼氏が自分以外のそーゆー写真を持ってるのはアリなん?」
「うーん、そりゃちょっとは嫌だけど”男の人はある程度仕方ないのよ~”ってママも言ってたし。好みを手探りで探すより分かりやすくて安心できるよ?」
結衣ママ、娘に何を教育してんだよ。
そう心中で呟きながら、あまりの自信ありげな表情にこちらの常識の方が揺らいで来てしまっている。
というか、自分が理想を抱き過ぎているだけで、現実的な恋とはこんなにも赤裸々な、身も蓋もない現実の積み重ねなのだろうか?
そんな自己問答に陥っているうちに二人の会話はさらに加速していき、もう完璧に自分の理解の範疇を超えていく。
最中に荒っぽく首輪を引かれるのが興奮するだの、おねだりした激しいプレイのあと申し訳なさそうに痕をなでてくるのが可愛いだの、携帯のチェックをすると自分より戸塚や平塚とのメールが多くて腹が立つなど。
つらつらと会話を聞いていても、ほとんど理解できない内容が白熱していき、気がつけば日は落ちていき、あたりは真っ赤に染まっていた。
そのころになるとめぐりのメモ用紙も真っ黒に染まり、彼女が満足げにそれを閉じたところでお開きの空気となる。
「いやー、貴重なお話ありがとうね!!結衣ちゃんのテクニックを使えば彼の籠絡まちがいなしだよ!!」
「いえいえ、なんか勝手に惚気ちゃっただけで申し訳無いです!!でも、めぐりさんなら絶対大丈夫ですよ!!」
そんな事を言いあいながら彼女達は、長年連れ添った戦友の様な笑顔で腕をくみ交わしていた。
力尽きている私はもうただただ、その風景に溜息を洩らすしかない。
人は変わる。
よくそんな言葉を耳にするがきっとそれは嘘だ。
変わったと思うならばそれはきっと、その人間が持っていたものを見落としていただけなのだ。
今の結衣もきっとそんな一部分なのだ。
後はそれを許容できるかが、友人と知り合いの線引きなのだろう。
私よりずっと先に行き、新しい自分を次々と見つけていく彼女。
自分のテリトリーを大きく駆け出した彼女に自分はどんな評価をつけるのだろう?
挨拶が終わりこちらに歩いてくる彼女を見つつ、そんなことを考える。
「ごめんねー、優美子!!なんか置いてきぼりで会話にあつくなっちゃって!!」
「いいわよ、別に。あんな目されてまともな会話なんか出来やしないし」
心の思考が現れてしまったのか、返答に棘ができてしまった。
そんな自分にまた頭を痛めるが、次の彼女の言葉に思わず顔をあげてしまう。
「ごめんって。じゃ、次は何処いこっか?飲み屋でも優美子は大丈夫?」
「つ、次って?」
問い直した自分に彼女は不思議そうにこちらを見つめてくる。
「え、もしかして優美子このあと予定とかある?せっかくだから姫菜も誘って飲みにいこー、とか思ってたん、だけ、ど・・・」
言葉尻を窄ませながら、窺うように見てくる彼女に思わず苦笑してしまう。
やはり、人は変わらない。
遠くに感じた彼女が一瞬で昔と同じ距離感に戻ってきてくれるのだ。
ならば、私が出す結論も変わら無い。
彼女が遠くまで駆け出していくならばそこまでが私のテリトリーだ。
それが不器用で夢見がちな私の友人への線引きなのだろう。
そう頭の中で結論づけ、携帯を取り出してもう一人の友人に電話をかける。
こっちはどんな変化を遂げているのか、と心を躍らせながら。
どうも、作者です。
新シリーズ開幕です。
重めしっとり系の”川崎家の専業主夫シリーズ”に対して、頭軽い系の”ぼっち缶シリーズ”です。
疲れた時や、笑いたいときにこちらを呼んでいただければと思います笑。