馬鹿ップルだった頃の二人をご覧ください。
リア充ってホント猿。
時刻は午後2時。
澄み渡る晴天に紫煙で円状の雲を浮かべてみるが、木枯らしが無情にもかき消して行ってしまう。
その空しい光景に人生とはなんぞやと、禅問答に耽りそうになるのを足元から聞こえる荒い息遣いが邪魔してくる。
視線を煙から足元へ移すと、不満げに足元で出発を催促してくる洋犬が一匹。
ゆっくりとしゃがみ込み、ソワソワしている毛玉をなでくり回すと、自分が何を期待して催促していたのか忘れたかのようにじゃれてくる。
「主人に似たのか、ちょろい奴だなぁ。サブレ」
溜息混じりにコイツの主人を思い浮かべながら話しかけると、腹を向けた状態で”へ?”みたいな間抜けな顔を向けてくる。
・・・いや、マジで同じリアクションするよな。こいつら。
あまりのシンクロに若干ビビりながらも、自宅の玄関が開くのを確認して立ち上がる。
ピンクがかった髪の毛を綺麗にお団子にし、服装はばっちり流行を取り入れた秋服こでーねーとした女の子が階段をかけ下りてくる。
メイクも薄く施しているのか唇の艶めかしいツヤにしばし目を奪われる。
「ごめんね!おまたせ!!」
「いや、マジで遅えよ・・・」
「もー、なんでそういうこというかなー」
不満げに頬を膨らます由比ヶ浜結衣が、俺のマジレスに笑顔と共にあげていた手を緩く握って殴ってくる。
いや、そんな可愛い仕草されても普通に待たせ過ぎだろ。
時計を確認すると2時15分。
サブレの散歩ついでにデートを提案してから既に40分以上経過している。
「犬の散歩でそんなめかし込んでどうすんだよ・・・。いつもみたいにくまさん柄のパジャマで十分でしょ」
「くまさん言うなし!!もう変えたの知ってるでしょ!!」
再び激怒しながら拳を握る彼女をなだめるが、余程ご立腹なのか攻勢はなかなか止まない。
というか、俺が言ってるのは子供っぽいパジャマとか待ち時間の事じゃなくて、と口に出して説得を試みようとすると足元から寂しげな泣き声が聞こえてくる。
つぶらな瞳で仲間外れにされている事に抗議をしているサブレだ。
その垂れ下がった尻尾と耳がコイツの寂しさをありありと表している。
「サブレ、ごめん!お姉ちゃん、サブレに寂しい思いさせちゃったね!!」
「あっ、馬鹿!!」
さっきまでの激昂はどこへやら。俺の制止を振り切り、ガハマサンは瞳を潤ませながらサブレへと飛びついて行く。
感動の主従愛を溜息混じりに眺めていると、しばらくして由比ヶ浜の動きがふと止まり、サブレを一旦地面に戻して振り返る彼女の服は、大量の毛にまみれていた。
「うぅ、ヒッキー・・・」
「言わんこっちゃない」
おそらく卸したてであろうコートとマフラーは見るも無残に毛にまみれており、現在進行形で足元にじゃれつくサブレが黒のストッキングにも容赦なく毛をなすりつけている。
「・・・ヒッキーの言う通りだったね。着替えてきていい?」
涙目の由比ヶ浜の服についた毛を軽くほろってやっていると、由比ヶ浜が申し訳なさそうに申し出てくる。
その表情は先ほどまでの明るいモノではなく、少しがっかりしたような表情だ。
そんな顔をされると非常に居心地が悪い。
そもそも、手間暇かけて彼女が身だしなみを整えてきたのは誰のためなのか?
例え、それが今回のように空回りすることになったとしても、その彼女の気持ちを無碍にするのはなんだか忍びない。
それに、まだ自分は大切な事を彼女に伝えてはいないのだ。
「いや、ここまでくっついたらどうせ家でコロコロしなきゃダメだろ。帰ってから一緒にやりゃいい。それに・・・」
彼女の服を一通り払い終え、サブレのリードを手に取る。
そのどさくさに紛れて、由比ヶ浜の手を取り、軽く引く。
「せっかく似合ってんだ、わざわざ着替える事もねえだろ」
こんな臭い台詞を聞いた彼女がどんな顔をしているかなど確認できる訳がないが、引かれるままに歩いていた彼女が途中から腕を組んできたので機嫌は悪くないのだろう。
手が恥ずかしさで湿ってきてたので非常にありがたい。
「へへ、ヒッキー。ありがと」
呟くような彼女の声にさらに頬が熱くなった気がするが、木枯らしがその熱を冷ましてくれる。
天気は快晴。
少し肌寒いが、二人と一匹で歩くにはちょうどいい。
今日は絶好の散歩日和だ。
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ガハママからサブレを預かったのはつい先日の事だ。
「留守中の結衣とサブレをよろしくねー」と気軽な一言で旦那を引きずりながら彼女達は旅行に言ってしまい、状況が理解できていない由比ヶ浜とサブレが残された。
まあ、遺憾ながら、ガハマ家に女の子と番犬にもならなそうな犬一匹を残すわけにもいかずに、自分の下宿先にお招きしたのが三日前である。
(というか、由比ヶ浜が通い妻よろしくウチに来てくれているので、そこにサブレが足されただけなのだが)
半同棲生活も一年も経つとドキドキがなくなるモノらしいが、相方のおかげかそんな事もなく過ごし、さらに犬一匹増えただけで随分と生活がにぎやかになった。
そのサブレが四六時中くっついて来るせいか、実家に顔を出すとカマクラが不機嫌そうに鼻を鳴らして体をこすりつけてくる。
後で調べたら、これは所有権を匂いを付けて主張する行動らしく、猫に主人では無くモノ扱いされている事が判明した。
マジかよ、カースト内にすら入れて貰えてねえのかよ。
ちなみに、由比ヶ浜も他の女性とぶつかったり等の接触があった日は、匂いで分かるらしく、その日の晩に入念にマーキングをしてくる。
おかげで次の日の朝は、大学内で「リア充死すべし」と唱えられ続ける羽目になる。
戸塚と遊んだ日もマーキングされるのはなんででしょうか?
これはもう逆説的に戸塚は女の子なんじゃない?そうに違いない。いや、もう男女関係なく戸塚との未来を真剣に考えなくてはいけないだろう。俺にだって男としての責任がある。
などと益体もないことを考えていると、手の甲をグッとひねられる。
「・・・いてぇだろうが」
「なんか他の子の事考えてるでしょ」
女の子では無いが、戸塚とのハネムーンを計画までしていたので、ジト目で睨んでくるガハマサンの視線からつい逃れてしまう。
というか、エロ画像はオッケーなのに何でここまで他の女には厳しいのか・・・コイツの判断基準ってホントに謎だ。
「むー、油断するとスグに他の女の子をひっかけて来るんだから!!」
「いや、別にひっかけてねえだろ・・・」
むくれる彼女に苦笑を浮かべながら答えると、ガハマサンはさらに目を細めながらこちらを睨んでくる。
「ほー、彼女との待ち合わせ場所に別の女の子とお茶してるのも?」
「ルミルミに勉強教えてただけだろ?総武高に行きたいからって今から頑張ってるなんて真面目な奴だよな」
「へー、いろはちゃんと部室に二人きりでいるのも?」
「材木座が無きものにされているのがアレだが・・・、アイツ意外と本読むのな。試し読みしてもらうと結構いい指摘がくんだよなぁ」
「ふーん、沙希のお買いものに付き合うのも?」
「卵パック買う時の頭数は貴重だからなぁ」
「はー、平塚先生と二人で遠出してラーメン食べに行くのも?」
「ホントに穴場知ってるよなぁ、あの人。俺なんかとラーメン食いに言ってる時間なんか無いはずなんだがな・・年齢的に」
「・・・」
つらつらと挙げられていく冤罪の数々に金さんも真っ青なお裁きをくだして行くと、由比ヶ浜の眉間に見る見るうちに青筋が立っていく。
ていうか、大学違うのに何でそこまで俺の動向知ってんの、この子おっぐふぁ!!
女子のネットワークの広さに戦慄を覚えていると、いつの間にか組んでいた腕を解いた由比ヶ浜の拳が俺の水月に突き刺さる。
あまりの的確な打撃に脳内で平塚先生がフラッシュバックしつつ、俺は膝をついてしまった。
「ヒッキーの馬鹿っ!!」
単純明快な罵りを残して彼女はサブレを連れてずんずん進んでいく。
一体、何がそんなに気に障ってるのか・・・いや、なんとなく検討はついてるけど。
改めて言われると彼女以外の接触多いな、俺。
なんなら、あと雪ノ下姉妹関係や実家の町内会の強制参加のレクレーションでの折本との再会などあるのだが言わぬが華だ。
体を起こして、由比ヶ浜がどれくらい先に行ってしまったのかを確認すると思っていたほど進んではいない。
怒ってますと言わんばかりの歩き方をしつつ、こちらをちらちら気にしている彼女に思わず笑ってしまう。
いちいち、そんな事を気にしなくても由比ヶ浜以外と付き合う事など無いというのに、心配してくれる彼女がいる自分は幸せ者なんだろう。
いまだ痛みの抜けきらない腹部をさすりながら、機嫌を直してもらうための精いっぱいの言葉を用意しつつ、彼女のあとを追いかける。
お久しぶりです。
毎日暑くてとけそうです。
そんな中で、付き合ってる時期の八結を投稿です。
ガハマサンのマーキングの部分のネタを思い浮かんでから、いつか書いてやろうと思っていたネタです笑
モテル旦那を持つと大変ですね。