イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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祝!オーバーロードアニメ三期放送!

オーバーロードの小説が面白すぎて書きたくなりました。
初投稿ですので、拙い部分はありますが宜しくお願いいたします。



プロローグ ~憑依転生編~
第1話 イチグンからニグン落ち


 その日、一つの世界が終わりを迎えた。

 

 壮大なファンファーレと共に、スクリーンに刻まれるメッセージ。

 

 過剰なまでに美麗な言葉で書き綴られているが、その内容は俺にとってはこの上なく最悪なものであった。

 

 

「……アハハッ、終わった」

 

 

 狭苦しいアパートの一室。

 

 俺は頭部に付けていた近未来的なデザインのヘッドギアを外し、椅子の背凭れに身体をあずけるようにして脱力する。

 

 10年間プレイしていたVR-MMORPGがサービス終了日を迎え、今まで自分の築き上げて来た全てが、塵一つ残すことなく消え去ってしまったからだ。

 

 

 俺の名前は一ノ瀬 軍馬(いちのせ ぐんま)

 何処にでもいるような、社会の爪弾き者の一人である。

 

 

 俺は長年やっていたオンラインゲームでイチグンというアバターを作成し。トップランカーとして長きに渡り活躍していた。

 

 ギルド長として大型ギルドも管理しており、全盛期においては知らぬ者は居ないという程に有名なプレイヤーだったのだが――それも最早過去の話。

 

 

「――嗚呼、ホント何やってるんだろ俺」

 

 

 つい先日、仕事をクビになったばかりだというのに、飲食・睡眠すら忘れ、一日中仮想世界に入り浸りゲーム三昧。

 

 そしてゲーム最終日だというのに特段何もすることなく、ギルド拠点に引き籠り、つい今しがた終わりを迎えてしまった。

 

 ギルメン達は、誰一人としてログインせず。

 1体だけ存在するお供NPC相手に下らない一人芝居を行い。その度に言いようの無い虚しさと悲しさを味わった。

 

 それすら出来なくなった今は、あらゆる感情が抜け落ちたように放心状態。

 

 椅子に腰掛けたまま、一切動けずに居た。

 

 

「……」

 

 

 無言のまま視線だけを彷徨わせると、本棚に置かれた小説がふと目に入り、今の自分と似ているなと嘲笑する。

 

 

 OVER LORD(オーバーロード)

 

 

 主人公の鈴木悟が、ユグドラシルというゲームで使用していたアバターである骸骨魔王の肉体を持った状態でギルド拠点ごと異世界に転移。

 

 其処で数多のNPC達に崇められ勘違いされながら、未知の世界での冒険を楽しみつつ、虐殺を行うというダークファンタジーである。

 

 その小説の冒頭で、彼が仲間達の去ったギルド拠点で複雑な感情を抱えながら、ゲームの終焉を迎えるという場面があったのだが、今の自分にはその気持ちが痛い程に理解できた。

 

 

「……ただ只管に寂しくて、虚しいな」

 

 

 言いようの無い孤独感を味わい、嘗ての栄光を思い出す度に虚しくなる。

 

 自分にとって掛け替えのない居場所だった。

 其処では確かに自分が必要とされていた。

 多くの仲間達に囲まれ、現実での自分の境遇すら忘れ、楽しく過ごすことが出来た。

 

 だが所詮は仮想の現実でゲームである。

 時代が移ろうにつれて、皆は他の目新しいオンラインゲームに興味を示し、プレイヤーが減ることによって、ゲームは衰退していった。

 

 そして運営が立ち行かなくなり、今日を以てサービス終了となった。

 

 ただそれだけの話なのだ。

 

 

「……はぁ~」

 

 

 それは前々から判っていたことではあったが、納得出来るかどうかは話が別である。

 

 自分の築き上げて来た全てが、たった一日で崩壊したのだから。失意から来る溜息の一つぐらい吐きたくもなるだろう。

 

 

「……ふぁあああ~」

 

 

 そして口から大きな欠伸が出た。

 彼此24時間以上も睡眠をとってないし、何も食べていないのだ。

 

 空腹は気になったが、無気力な状態で飯を食う気にもなれず睡眠を選択。そのまま近くのベットに倒れ込むように身体を預ける。

 

 

(……寝て起きたら、モモンガみたいにアバターのまま異世界転移してないかなぁ)

 

 

 などと下らぬ夢物語を抱きながらも、まどろみに意識を預けるように深い眠りに就いた。

 

 

 ――それが俺のこの世界での最後の記憶であり、地獄の日々の序章であるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽光聖典の隊長であるニグン・グリッド・ルーインは、嘗て無い程の絶望と恐怖を味わっていた。

 

 

「あり……えないっ!」

 

 

 複数の炎の上位天使(アークフレイム・エンジェル)がたった一つの魔法によって全滅。自らの使役していた監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)すら、小さな黒い炎で燃やし尽くされた。

 

 縋るような思いで使用した魔封じの水晶により、最高位の天使を召喚したまでは良かったが、目の前の魔法詠唱者には通用せず。

 

 あらゆる悪を滅する必殺の一撃ですら、無防備に笑って受け止められた。

 

 今しがた召喚した自分の切り札である威光の主天使(ドミニオンズ・オーソリティ)は、空中に現れた黒い穴に吸い込まれるように消えていった。

 

 最早言葉を発することすらままならない。

 部下たちも同じ気持ちなのか、皆がその異様な恐怖に呑まれ静まり返っていた。

 

 

(何故こんなことになったのだッ!?)

 

 

 そんな絶望的な状況下の中、ニグンは必死で考えを巡らせていた。

 

 リ・エスティーゼ王国戦士長

 ガゼフ・ストロノーフの抹殺。

 

 スレイン法国の特殊部隊である陽光聖典の自分達に、人類繁栄の為に与えられし特殊任務であり、使命だった。

 

 ガゼフ抹殺についてはニグンも少なからず思うところがあった。人類繁栄を掲げながら、人類の優秀で稀少な人材を殺すのだから。

 

 だが、こんな矛盾した任務にも意味がある。

 王国の戦士長であるガゼフが死に王国の力が弱まれば、王国は帝国に淘汰されることになるだろう。

 

 リ・エスティーゼ王国の腐敗は凄まじく、王族と貴族は派閥争いを繰り返し、民草を食い潰しながら我欲の赴くままに贅を尽くす。

 

 更には八本指と呼ばれる巨大犯罪組織が、裏で貴族や王族と繋がりを持ち、麻薬・売春・暗殺などの犯罪行為を横行させる始末。

 

 そんな王国の領土を支配しようと、帝国は躍起になり年々小競り合いを繰り返し、数万人にも及ぶ死者が毎年出ている。

 

 

 愚かという他に言葉はない。

 

 

 人類は強者ではなく、弱者である。

 人類の生存圏のすぐ外側には、種として人間よりも遥かに強い亜人達が生息し、今も尚、人類の生存圏を脅かそうと侵攻を続けているのだ。

 

 竜王国はそんな亜人達の防波堤となり、年々国力を落として滅亡の一途を辿っている。

 

 そんな中で数多の人間が住まう帝国と王国が小競り合いを続け、人間が人間を殺し続けるという不毛な争いが行われているのだ。

 

 弱い人間だからこそ皆が団結し、この未曽有の危機に立ち向かわなければならないのに。

 

 ガゼフが死ねば王国の崩壊が早まる。

 王国が崩壊すれば、優れた指導者の居る帝国が王国領土を支配し、腐敗した貴族は一掃され、多くの人類が救われることになる。

 

 

(だからこそ己が手を汚そうとも、この任務に臨んだというのにッ!)

 

 

 罪のない村人を襲い、卑劣な手段でガゼフを誘き出した。その上で自分達の精鋭部隊で包囲して抹殺する予定であった。

 

 確実に任務を達成する為に、必要な行為であると無理矢理自分を納得させ、蛮行を楽しむ法国貴族のドラ息子にも目を瞑った。

 

 それなのに、その忍耐や努力の全てが無駄になった。突如現れた謎の魔法詠唱者が、ガゼフを逃がし悉くを蹂躙したからだ。

 

 国より授けられた切り札すら一蹴され、圧倒的な力の差を見せつけられて、心を圧し折られた。

 

 圧し折られた心でニグンは必死に考える。

 この正体不明の魔法詠唱者の目的と正体を。

 

 そしてそんな思考の果てに、

 とある一つの結論に至った。

 

 

(……まさか、奴は『ぷれいやー』なのか?)

 

 

 自らの崇める神と同じ力を保有する者達。

 世界を破滅にも繁栄にも傾けることの出来る出鱈目な存在。

 

 だからこそ規格外の力を個人で保有し、未知の魔法を行使することが出来る。

 

 考えれば考える程、自分の仮説が正しいものであると証明出来てしまう。

 

 

(最悪だっ!何としてもこの情報を本国に伝えねばッ!)

 

 

 既に自分達は敵対行動をとってしまった後だ。

 更に目の前の魔法詠唱者からは、生者を脅かす邪悪な気配が漂っている。

 

 優秀な信仰系魔法詠唱者であるニグンは、この謎めいた魔法詠唱者が人類を脅かす危険な存在であると察した。

 

 だからこそ、何としてもこの情報を正確に本国に伝えねばならないのだ。

 

 故にニグンは即座に動いた。

 

 

「まっ、待って欲しいッ!アインズ・ウール・ゴウン殿!いやゴウン様ッ!私達、いや私だけで構いませんっ!命を助けて頂けるなら望まれる額を用意致しますッ!」

 

 

 その言葉を聞いた部下達に動揺と怒りが走るが、どんな風に思われても構わないとニグンは既に割り切っていた。

 

 例え無様に命乞いをする小物だと思われようが、部下の命を差し出した恥知らずな輩だと思われようが、自分が本国に帰還することの方が重要だと考えているからだ。

 

 

(貴様らは事の重大さがまるで判っていないッ!)

 

 

 早急に対応しなければ、人類が今日明日にでも滅んでしまう。

 

 その脅威を正確に把握している自分が法国へ情報を持ち帰らなければ、また下手な手を打ち、相手の怒りを買ってしまうのだ。

 

 しかし、そんなニグンの必死の命乞いを、漆黒の鎧を纏った女戦士は嘲笑交じりに切り捨てる。

 

 

「貴方間違ってるわ。人間という下等生物は頭を下げ、命を奪われる時を感謝しながら待つべきだったのよ」

 

「……か、下等……生物」

 

 

 ニグンは今ハッキリと理解した。

 目の前の生き物は、人間を道端に転がっている小石程度にしか認識していないのだと。

 

 そして自分達の愚行を許すつもりは一切なく、あらゆる苦痛の末に殺され、この情報を本国に持ち帰ることが出来ないのだと。

 

 そんな失意のニグンに追い打ちをかけるように、硝子が割れるような音と共に空が罅割れた。

 

 

「――ふむ、どうやら何らかの情報系魔法を使って、お前を監視しようとしている輩が居たようだな。尤も私の攻性防壁が起動したから、大して覗かれてはいないだろうがな」

 

「――か……んし?」

 

 

 途切れ途切れにその言葉を呟くニグン。

 目の前の魔法詠唱者は、自分が何者かに監視されていたのだと囁いたのだ。

 

 

(監視、カンシだと?私を監視していたのか!?本国が?何故、一体どうし……アアッ、あ゛っあああああっ!?)

 

 

 そしてニグンは思い至った。

 この特殊任務を依頼したスレイン法国上層部の不自然な言動の数々を。

 

 人類の繁栄の為だという名目でガゼフを抹殺。

 徹底した本国との繋がりを断つ為の裏工作。

 いざ精神支配をされた時の自決魔法に、人間相手には過剰戦力とも思える威光の主天使(ドミニオンズ・オーソリティ)という切り札。

 

 全て法国が仕組んだ罠だったのだ。

 目の前の男が手駒にしているであろうガゼフを攻撃し、戦場に当人を誘い出す。

 

 その上で自分達を嗾けて戦闘を避けられぬ状況をつくりだし、敵の保有する戦力を正確に掌握しようと目論んだ。

 

 故に自分達は監視されており、念のためというあからさまな嘘と共に魔封じの水晶を渡され、ぷれいやーの力量を図る物差しとされたのだ。

 

 

(……最初から、俺ハ本国ニ、切り捨てラれて、イタノカ?)

 

 

 人類の繁栄の為にと、辛い任務も鍛錬も熟して来た。非道な行いすらも、奥歯を噛みしめながら実行してきた。

 

 死の瀬戸際に立たされて尚、国や人類の将来を案じ、情報を本国へと持ち帰る為に恥を捨てて命乞いした。

 

 なのにそんな自分に対し、法国は使い捨てるという最悪の回答で応えたのだ。

 

 そうニグンは悟ってしまった。

 

 

「クフッ、ハハッ、アハハハ……クハハハハハハッ!!」

 

 

 血の涙を流しながらニグンは笑う。

 

 踊らされた自分が惨めで可笑しくて、腹立たしくて悲しくて。滑稽な道化のように嗤い続けた。

 

 そんなニグンの心情や行動が理解出来ず、困惑したまま立ち竦む敵と部下達であったが。ニグンのグチャグチャになった心の猛りは止まらない。

 

 

「くひゃっ、しぎぃいいいいいいいっ!!」

 

「ひえっ!?」

 

 

 奇声を上げながら自らの毛髪を素手で毟り取り、両腕を天に掲げたまま、完全に機能停止。

 

 地面にポタポタと滴り落ちる血涙。

 フワリと風で舞い上がる髪の毛の残骸。

 

 先程まで魔王モード全開だったアインズも、その狂奇的な行いに情けない悲鳴を上げて後退る。

 

 グチャグチャになった心情を受け止めきれず、ニグン・グリッド・ルーインの人格が崩壊したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……え゛っ?」

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな精神が崩壊したニグンの肉体に、一ノ瀬 軍馬の精神が宿った。

 

 こうして不幸なゲームオタクの、死と隣り合わせの異世界生活が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.果たして彼は、この状況から生き残ることが出来るでしょうか?

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