本日深夜、オバロ三期第5話放送!
今回はンフィーが主役!
こんな勇敢な彼が、後々ベッドで覇王エンリに組み伏せられて涸れ果てるとは誰も思うまい……。
今回の話の副タイトル
~竜王、死出の旅に赴く~
~ストロベリーな番外小話~
ようやくナザリックの外の話を書けたぜッ!
数多の亜人や異形が混在して暮らす大国。
アーグランド評議国。
その領土内にある、厳重に秘匿された広大な洞窟でとある異変が起こる。
其処に伏していた巨大な竜が、ガバッと勢い良く首を起こし、どこか焦燥感のある様子でキョロキョロと辺りを探る。
この世界にも数える程しか存在しない竜王の一体であり、世界最強といっても過言ではない程の存在。
「――ッ!!世界の法則が歪められたっ!?」
竜王としての鋭敏な知覚能力を持つツアーは、他の者達では気付かないであろう世界の変化にいち早く気が付いた。
本来であれば存在しないはずのものが、無理矢理捻じ込まれたような不気味な感覚。
新たな情報が書き込まれたが故にリソースが足りなくなり、古い情報の一部分が欠損してしまったような喪失感。
今、この瞬間。
新しい法則と古い法則が混ざり合い。今までとは全く異なる世界の法則が確立されてしまったのだ。
「クソッ!!」
それを察知した瞬間、ツアーは臨戦態勢をとって咆哮を上げる。
その地鳴りのような咆哮は、アーグランド評議国に住まう竜達への警報である。
それに応えるようにツアーの発した咆哮とは全く異なる声が、アーグランド評議国全土に響き渡る。
アーグランド評議国に存在する全ての竜王が、自分達の世界に襲来した未曽有の脅威を理解したのだ。
ツアーも自らが長年守って来たギルド武器の前に立ち、いつ外部から敵が襲撃してこようと、迎え撃てるように構えておく。
「………」
黙したまま、感覚を研ぎ澄ませるツアー。
蟻一匹逃がすものかと、注意深く辺りを警戒する。
数秒が経過。
生きた心地がせず、呼吸すらままならない。
数分が経過。
心臓がバクバクと脈打ち、まだ見えない敵の影に怯え続ける。
そして数時間が経過。
流石に落ち着きを取り戻し、冷静な判断が下せるようになったツアーが、ポソリと困惑した様子で呟いた。
「……もしかして、襲ってこない?」
一向に変化の訪れない状況に、敵に此方を襲撃する意思はないのだと判断。
炎の入り混じった大きな溜息を吐きながら、ツアーはフッと肩の力を抜いた。
油断するには早いが、無策のまま事を運ぶ必要はなくなった。此方が敵の存在を掴めていないように、相手も此方の存在を掴めていないのだ。
ならば敵の正体を知っている分、此方の方が有利なはず。そう考えながらツアーは、この出来事を引き起こした者達の正体を考察する。
「……100年の揺り返しでやって来たプレイヤーか。単身で此方に来たか、ギルド拠点ごと此方に来たかは不明だけど――どう考えても危険な存在だね」
少なく見積もっても、世界の法則を歪めることが出来る力は保有している。
それはこの世界を守護するツアーにとっては、見過ごせない事実であった。
この世界には数百年前より、100年程の周期でユグドラシルのプレイヤー達が迷い込んでいた。
彼らの齎す知識や道具は、この世界に大いなる恩恵を齎したが、それ以上に破壊を齎し、世界を混沌の渦中に陥れた。
600年前。六大神と呼ばれる者達が現れ、生存競争に敗れつつあった人類を救済し、今現在も残る大国であるスレイン法国の礎を創った。
彼らのお陰で人類は破滅を免れ、今日まで生き残っているといっても過言ではないだろう。
500年前。八欲王と呼ばれる者達が現れ、世界の法則を歪める力を行使し、己が欲望であらゆる存在を汚し穢した。
最終的には仲間内で醜い宝の奪い合いを行い、その闘争の末に消滅。今はその欲望の残滓のみが、世界に多大なる影響を及ぼしている。
200年前。十三英雄と呼ばれる者達が現れ、邪悪な魔神達を討伐して、世界に平穏を齎した。
ツアーもそんな旅に同行し、プレイヤーのすさまじさを垣間見た。とるにとらない脆弱な存在が瞬く間に成長し、凄まじい力を身に着けたのだから。
その他にも『口だけの賢者』などの様々なプレイヤー達が、この世界に迷い込んで何かしらの影響を与えて来た。
だからこそツアーはプレイヤーの脆さも強さも理解している。
彼らは莫大な力に見合わぬ、脆弱な精神の持ち主なのだ。
欲望に流され、情に絆され、自らの感情で好き勝手に動く。
故に危険であり、何が引き金となって世界が滅ぶのか判らない。
出現する場所も不特定であり、現れる正確な時期も不明。どのぐらいの力を保有しているのかもまるで未知であり、種族も含めて多種多様な者達が存在していた。
故にツアーが事前に相手を探知し、対策を打つことなど不可能に近い。精々相手が理知的で善意ある存在であることを祈るぐらいだ。
ここ二百年の間はプレイヤー達も殆ど現れず、現れたとしても自分達で対処可能な相手ばかりであった。
だが今回の相手は違う。
何の躊躇も戸惑いもなく、世界の法則を書き換えて混沌を齎した。
その危険度は八欲王クラス。
莫大な力を持っていることは、世界の法則を書き換えたことで実証済み。
善か悪かで問われれば、限りなく悪に近しい存在だろう。早急に始末して、世界がこれ以上穢されるのを防ぐ必要がある。
「でも今回の相手は、迂闊に動くことすら出来ないんだよね」
世界の法則を書き換えられた影響なのか、ごく限られたものにしか扱えない、この世界に元から存在していた魔法。
「……使えるには使えるけど、使い勝手が可也悪くなったし、威力に関しても若干衰えてしまったようだ」
そのようなハンデ付きの状態で、嘗て多くの竜王達が滅んだ要因である八欲王クラスのプレイヤーと事を構えなければならないのだ。
控え目に言って地獄を見るだろう。
ハッキリ言うなら死は免れない。
いや、死すら生温い苦痛を味わい続けるかもしれないのだ。
「……リーダーの国の言葉で何て言ったっけ。
嗚呼、確か『それ何てエロゲー』だったかな?」
それを言うなら
しかし、そんな痛々しい竜王の独り言を正してくれる存在など此処には居ない。
何故なら嘗て旅を共にした仲間達の大半は死に絶え、残った仲間も今は世界を自由気儘に歩き回っているからだ。
孤立無援とも言うべき状況に、乾いた笑みを浮かべるツアー。
それでも彼はこの世界を守る為に、立ち上がる他選択肢はないのだ。
入念な準備の末に、外の世界を探索することを決意した竜王。
こうして勇者ツアーの、絶望と苦難の旅が幕を開けるのであった。
スレイン法国。
人間の生存圏内において、最も力のある強国である。
600年前に現れた強大な力を持つ6名のプレイヤーによって、他種族との生存競争により、滅びつつあった人類が救われた。
そんな乱世を生き延びた人類が礎を築き、建国されただけあって。プレイヤーの影響が至る所に残っている。
スレイン法国は人類を救済した6名のプレイヤーを六大神と崇め、中央にある神都をグルリと囲むように6つの巨大都市が存在している。
それらは六大神の偉大さを象徴する都市であり、それらの都市には地・水・火・風・闇・光の神殿が築かれており、六大神に祈りを捧げる熱心な信徒の巡礼地として賑わっていた。
1500万人以上の人々が暮らすスレイン法国は、他の国家と比較しても、国力が圧倒的に優れている。
その理由の一つが、六大神が齎した近代的な法整備による都市管理の結果である。
最高神官長が国のトップとして存在し、次いで六つの宗教の最高責任者である6人の神官長がいる。
それらに加え、司法・立法・行政の三機関長。魔法の開発を担う研究館長。軍事機関を管理する大元帥。
合計12名による管理体制と権力の分散。
これによりスムーズな統治が行われ、リ・エステーゼ王国のように、腐敗した政治の生まれにくい状態が出来ているのだ。
更に軍事力についても、人類の繁栄する国家の中では飛び抜けて優れている。
六大神の残した遺産に加え、八欲王の騒動で入手した秘宝の数々。更にプレイヤーの血を引いた神人と呼ばれる存在を隠し持っており、六色聖典などの選りすぐりの才能を持つ、人類によって構成された特殊部隊まで保有しているのだから。
普通ならばそんな国力を保有している国家は、他国を侵略して領土拡大を狙っても可笑しくはないだろうが、スレイン法国はあえてソレをしなかった。
何故ならこの国の真の目的は人間という種族の繁栄であり、人間の生存圏の拡大であるからだ。
現在の人類の生存は、か細い一本の糸によって繋ぎ止められているようなものだ。
何時、亜人種や異形種が人間の生存圏を脅かしに来ても可笑しくはない状況。そんな中、人類同士で貴重なリソースを巡り争い合うなど言語道断である。
だからこそスレイン法国は亜人種や異形種を敵視し、徹底的に排除しようとする。
――それらが人間を脅かす可能性が高いから。
だからこそスレイン法国は人類が一致団結し、一つの国家となることを目論んでいる。
――弱い人間はそうすることでしか敵に抗うことが出来ないから。
故に綺麗ごとだけではなく、スレイン法国は洗脳・暗殺・奴隷制度・人体実験などの汚い仕事にも手をつけてきた。
人類を神に選ばれた種族と豪語しているだけあり、彼らは人類の盾となり、矛となり、日々人類繁栄の為に奔走しているのだ。
スレイン法国の存在が無ければ、人類の生存圏は瞬く間に食い潰され、人類は他種族に滅ぼされてしまうだろう。
――そして今、そんなスレイン法国は、嘗て無いほどの危機に陥っていた。
・・・・・・
「この状況で竜王国から救援の催促状だと?……馬鹿も休み休み言えッ!」
「……あの漆黒聖典の裏切者めぇ!だから実力だけで人格を考慮しない人選は駄目だと前から言っていたのだっ!」
「クソッ!土の都の復興に人手が圧倒的に足りんッ!他の都市から支援は出せないのかっ!?」
「出せるはずないだろっ!貴様達の呼び寄せた化け物で水の都も甚大な被害を受けているんだっ!」
「あのクソエルフ王がぁ!コレを機と言わんばかりに法国領土に奇襲を仕掛けてくる!」
「それより
集まった12人の権力者たちが阿鼻叫喚といった感じで喚き散らし、国の行く末を予想し絶望する。
それほどまでに現在スレイン法国の置かれている状況は最悪であったのだ。
――ことの切っ掛けは、陽光聖典隊長ニグンの監視であった。
『魔封じの水晶』の使用を確認した土の都の神官長は、土の巫女を触媒に行われる儀式魔法により、ニグンの現在の状況を確認しようと目論んだ。
しかし、その安易な行動は未曽有の大災厄を発生させる引き金となる。
対策なしで発動した《次元の目/プレイナーアイ》による監視魔法が、アインズの攻性魔法防壁に引っ掛かり、反撃のカウンター魔法が発動。
そしてアインズが常時発動していた攻性防壁魔法は、自らの持つ第8位階魔法でランダムに反撃するという仕様だった。
本来であれば《破裂/エクスプロード》による反撃のみに留まり、土の巫女とその周辺だけに被害を齎すはずであったが、ランダムで選ばれた魔法が最悪だった。
死霊系の第8階位召喚魔法。
《不死者の進軍/コープス・パーティ》
死霊系の第7階位召喚魔法。
《死者の軍勢/アンデス・アーミー》の完全なる上位互換であり、低位アンデットに加えて、中位や上位のアンデットをランダムで召喚するというものだった。
更に補足するならば、アインズが死霊系の召喚魔法を行使した扱いとなったので、召喚された魔物達は彼のスキルなどの恩恵により、通常のものより遥かに強化されていた。
この世界では凶悪な魔物として名高い
偶々近くで待機していた漆黒聖典の活躍により、被害は最小限で抑えられたが、それでも数十万人にも及ぶ死者が出た。
そして運の悪いことに、ランダムで召喚された魔物の中に、Lv90を超える魔物。
その魔物は、漆黒聖典の隊長ですら手も足も出ぬような化物であり、事態収拾の為に切り札として隠されていた番外席次を投入する破目になった。
激闘の末に何とか討伐されたが、その戦いの余波で、漆黒聖典の
更にその混乱の最中、漆黒聖典のクレマンティーヌが裏切り。
久しぶりに退屈せずに済んだ強敵との戦いに、絶死絶命は頗るご機嫌であったが、その他の面子は絶望の渦中にあった。
切り札の秘宝を奪われた上に、貴重な戦力を失ってしまい、破滅の竜王の復活は間近であると予言されているのだから。
風花聖典は直ぐに部隊を編成し、裏切者のクレマンティーヌの粛正と秘宝の奪還に向かう。
それ以外の六色聖典の面子は、崩壊した土の都の復興作業を熟しながらも、各自が必要最低限の任務を全うしていた。
必要最低限の任務しか出来ない最大の理由は、先の戦いにより兵の損失が激しい為に、今は神都の防衛を固め、敵の襲撃に備えるより他に選択肢が無かったからだ。
そんな中、12名の権力者達も神都に集まり、今後の国の運営に関して話し合いを進めていたのだが、会議は罵詈雑言が飛び交うばかりで、一向に実りのある会話は出来なかった。
「……ハァ~、ギャアギャアと五月蠅いわねぇ」
そんな会議室の片隅で、壁に寄りかかっていた少女が煩わしそうに顔を歪める。
白銀と漆黒のセパレートに別れたセミロングの髪に、左右で色の違うオッドアイ。
幼さの中に可憐さを内包した小柄な少女である。
少女のすぐ隣には十字槍を模した
しかし少女は、どこ吹く風と言わんばかりにその視線を受け止め、好戦的な笑みを浮かべながら呟いた。
「敵が現れたら倒せばいいだけじゃない。
何ならその
「「……」」
そう言った少女の言葉を、戯言だと侮るものはこの場に居ない。
何故なら彼女こそが法国最強の切り札。
漆黒聖典番外席次『絶死絶命』であるからだ。
先の騒動で現れた
今回の騒動において最大の功労者と言えるだろう。
故に憔悴した神官達は、それも手段の一つではないかと思い始めていたが。彼らの話を静聴していた最高神官長が此処で初めて口を開いた。
「……確かにそれも手段の一つだろうが、今はまだ機ではない」
また似たような襲撃があるかもしれない状況下で、番外席次をスレイン法国の外で行動させるのはリスクが大きすぎる。
もしまた同じような強敵が現れた場合に、スレイン法国は対抗手段が無くなり崩壊してしまうからだ。
そもそも今回の動乱で、アーグランド評議国の竜王達が活発に動き回っているのに、そんな中で彼らと敵対する要因となる番外席次の存在が公になってしまえば、全面戦争は必至。
故にこの局面に至っても、番外席次を表舞台で活動させるのを避けているのだ。
「ハァ~、つまらないわねぇ」
そう言って盛大な溜息を吐きながら、会議室を後にする番外席次。
有事の際の護衛として呼んだはずの彼女が、この場を離れることに難色を示す者達も居たが、そんな者達に向かって彼女は一言。
「小心者の老人達の御守役だなんて御免だわ。何かあったら私が動けばいいだけじゃない」
そういってスタスタと去っていく番外席次の背に、罵声を吐き出す神官達。
「……穢らわしいエルフの血筋が」
「……貴様の方が年上だろうが糞婆」
そんな恨み節を聞こうが、弱者である彼らに彼女が興味を示すことはないのであった。
・・・・・・
番外席次が神殿の廊下を歩いていると、何やら慌ただしい気配が伝わって来た。
「……何かしら?」
見れば魔法の研究を日夜行っている研究館の本館に、慌てた様子で多くの人々が出入りしている姿が見られた。
興味を示した彼女が其処に歩み寄ると、そんな彼女に声を掛ける人物が現れる。
「おや、こんなところで会うとは奇遇ですね。神官長達の会議は終わったのですか?」
声を掛けた相手は中性的な外見を持つ男性であった。
地面に届くほどの
しかしその手に握られているのは見すぼらしい槍であり、何処かチグハグな印象を見ているものに与えた。
彼は番外席次に次ぐ法国の戦力。
漆黒聖典第一席次の『隊長』と呼ばれる人物であった。
そんな隊長の問いかけに対し、番外席次はあっけらかんと答える。
「途中で抜け出して来たわ」
「……あははっ、そうですか」
何とも彼女らしい行動だと思うと同時に、神官長達の心労が容易に想像出来てしまい隊長は大いに哀れんだ。
そんな隊長の様子を気にすることなく、番外席次は騒ぎの大本である魔法研究本館から現れた彼に尋ねる。
「ところで貴方、この騒ぎは何なのかしら?」
「……それは今の段階では教えることは出来ません。少しばかり厄介な事実もあるので最高神官長の判断を仰がなければ情報を公開出来ないのです」
「……」
そんな言葉を聞いた番外席次は、無言で戦闘鎌を構える。
「わ、判りました!言います、言いますからっ!
全く以て新しい魔法がこの世界に出現したんですよッ!」
それを見た隊長は、慌てた様子で彼女に情報を伝えた。
それを聞いた番外席次は、心底不思議そうな様子で首を傾げる。
「たかが新しい魔法如きで、この騒ぎは大袈裟じゃないかしら?
1年に数個ぐらいは、あの本にも新しい魔法が書き込まれるのでしょう?」
そういって自分が疑問に思っていることを口にする番外席次。
スレイン法国の所有していた世界秘宝の中には、
その呪文書は新たに生まれた魔法も含め、この世界に存在する全ての魔法の効果や恩恵を自動で記録してくれる。
そんな性能を持っている為、法国の貴重な秘宝でありながらも魔法の研究の為に、魔法研究所の本館で管理されているのだが、それが新しい魔法を観測しただけでこの騒ぎになるのは少しばかり可笑しいのだ。
そんな彼女の疑問に答えるように、隊長は再度口を開く。
「……本当に
その呪文書に今夜記載されたのは、今まで存在していたアーグランド評議国に存在する竜王達が得意とする
「『ランク魔法』と呼ばれるものらしいのですが、その魔法がどうやら召喚系に属する魔法のようなのです。
おまけに発現したのは1つではなく、十数個近く新しい魔法が呪文書に書き込まれたんですよ」
「――へぇ、つまり
「……その可能性が濃厚なのではと研究所の職員達が騒いでますね」
数週間程前に起こった、数多の魔物達によるスレイン法国の蹂躙劇。
そして新たに発現した『ランク魔法』という未知の形態に属する召喚魔法の数々。
何らかの関りがあると見るのは当然だし、複数個同時に発現したということは、それらが同時にこの世界で使われたという証明でもある。
何故なら
「そういえば私が倒した魔物も『御方の為に』とか頻りに呟いてたわね。誰かに召喚使役された魔物である可能性が高い訳でしょ?
つまりそのランク魔法の使い手とやらが、この騒ぎの元凶ってことかしら?」
「……かもしれませんね」
そう答えた隊長の表情はかなり渋い。
何故ならその召喚された魔物である
もし番外席次が投入されなければ、隊長は今此処に居なかっただろう。
故にそんな化け物を召喚使役出来る怪物が存在するなど、想像したくなかったのだ。
「……フフフッ、凄く興味深いわね」
一方で絶死絶命は、そのランク魔法を使いこなせる謎の存在に強い関心を示す。
彼女は常に自分を倒せるような強者の存在を望んでおり、そんな強者との間に強い子を成すことを夢見ている。
アレほど凶悪な魔物達を召喚した相手である。本体はどれ程に強いのだろうか。番外席次が興味を持たぬ訳がないのだ。
「……私としては勘弁して貰いたいですけどね。クワイエッセのように魔物の使役に特化した相手ならまだしも、魔物の使役はあくまでオマケで、本体が凶悪な戦力を持っていたという可能性を考えるとゾッとしますよ。
同格の存在同士が、徒党を組んでいる可能性も捨てきれませんからね。」
その隊長の懸念は実にまとを得ていた。
ランク魔法は使えないものの、その相手は彼らの信仰する神すら超える死の支配者。
そしてそれに匹敵するほどの配下達が多数存在するナザリック大地下墳墓がこの世界に顕現したのだから。
「猶の事良いじゃない。面白そうだもの」
しかし、自分よりも格上の相手と戦ったことのない番外席次にはその危機感が皆無だ。
あるのは未知の強敵と戦う事が出来るかもしれないという高揚感のみである。
「……はぁ~、貴方ならそういうと思いましたよ」
そんな彼女の言葉に苦笑しながらも、身を案じる言葉を投げかける隊長。
そんな言葉に番外席次は不機嫌そうにムスっと顔を歪めながら、彼の鼻先をツンツンと指先で突いた。
「私の敗北を気にするよりも、貴方はもっと強くなりなさいな。
先日も無様な敗北をしたばかりなのだから」
「うぐっ!?……人が気に病んでいることを、ハッキリと言うのは余り褒められたものではありませんよ?」
そういってバツが悪そうにしながらも、何処か照れ臭そうに頬を赤く染める隊長。
彼は番外席次に手酷く鼻頭を圧し折られた経験があり、苦手意識こそあるものの。それ以上に彼女の強さに憧れのようなものを抱いていた。
そしてそんな憧れが恋心となったのが、先日の騒ぎで未知の魔物の襲撃を受けた際である。
自らが敗北した強敵を打ち砕くその姿は、彼にとっては天から舞い降りた
そんな姿に惚れ込んでしまうのも無理もない話だろう。
(……いや、それは単なる切っ掛けに過ぎなかったな)
思えば自分は昔から番外席次の背中を追いかけていたのだと隊長は過去を振り返る。
才能に胡坐を掻いて天狗になっていた自分の鼻頭を叩き折り、馬の小便で顔を洗うことを強制された際は、自らの矮小さを理解しながらも、何時かこの女を殺してやると息巻いたものだ。
しかしそんな相手が実力をつけた自分を認め、褒めてくれるのは嬉しかった。
いつしか殺意はなりを潜め、妙な尊敬と仲間意識が芽生えていた。
『神人の血を残す為』と神官長達に数多の美女を押し付けられ、子を成すようにと縁談を勧められたが、その須らくを断り続けている。
危険な任務に没頭し、空いた時間で鍛錬に勤しんだのも、強者を求める彼女に実力で応えることで、自分に好意を抱いて貰おうという求愛行動だったのかもしれない。
一度それに気が付いてしまうと、彼も若い男である。
今まで意識しなかったことすら意識を向けるようになってしまい、その悪戯に細められたオッドアイや、艶めかしい唇に視線が吸い寄せられてしまう。
そんな挙動不審な隊長の様子を見た番外席次は、心底訳が判らないといった感じでキョトンと呆けながら彼の顔を覗き込む。
「……何、赤くなっているのよ貴方は?」
「い、いえ。別に何でもありませんよっ!?」
誤魔化すように視線を逸らす隊長を訝し気に眺めながらも、番外席次は気まぐれな猫のように身を翻し、悪戯な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「――それに私が敗北を味わうという結果も、また一興じゃないかしら?」
「……と言いますと?」
「だってそんな強者が男なら、私の望みが叶うもの」
そういって番外席次は何処か可笑しそうにクスリと笑いながら語り出す。
「どんなに不細工でも、性格が捻じくれていても、人間以外でも問題ない。だって私を倒せる男なんですもの。
そんな男との間に生まれる子供は、一体どれほどのものなのかしら?」
そういって自らの下腹部を優しく擦る少女。
その笑みはどこか壊れており、狂気の感情に満ち溢れたものであった。
裏切りのクレマンティーヌ。
隊長は初心童貞。
番外席次は脳筋可愛い。
そして漆黒聖典の隊員二人はシャルティアに殺されることなく退場。出番は何れつくれたら……いいなぁ。
尚、カイレは発狂したあとクレマンティーヌに衣装を剥がれ、全裸で壊滅した土の都を疾風走破した模様。
最初に発見した神官曰く、『……この世にアレほど悍ましい光景があるとは思いもしなかった』らしい。
※因みに、《不死者の進軍/コープス・パーティ》で
やったねモモンガッ!引き強いねっ!(白目)