祝お気に入り2000突破!
記念の一話追加投稿!
オリジナル設定の魔法やスキルの説明回。
召喚モンスター登場。
そして当小説初のバトルシーン。
上手く描写出来ているか不安です。
嘗て取得したことのある種族や職業。
つまり、イチグンが嘗てプレイしていた
だからこそ生粋の人間であるはずのニグンが、
そんな世界秘宝による騒動があった後。
イチグンは
宝物殿から舞い戻ったイチグンとアインズは、その足で闘技場に向かい。再度下がったレベルを上げ直した。
此処で活躍したのが、アインズが宝物殿から持ち出した世界秘宝『強欲と無欲』である。
700種類以上の魔法を使えるアインズが、経験値を消費して召喚する高レベルの魔物を、コストを無視して大量に召喚。
更に招集されたデミウルゴスも、自らのスキルを用いて稀少な悪魔達を使役する。
これらを討伐したことにより、イチグンのレベルは再びLv55となり、
故にイチグンのステイタスは、プレアデスと似たようなレベル帯でありながら。比肩出来ぬほどに出鱈目な数値となってしまったのだ。
そんなプレアデスの一人であり、相手のステイタスを探れる能力を持つソリュシャン・イプシロンは、彼のステイタスを見て驚愕する。
「……とてもLv50台とは思えぬ潜在能力です。
基礎能力の劣る人間の肉体でコレなのですから、
「流石はイチグン様。嘗ての力を取り戻しつつあることを心よりお祝い申し上げます」
「……ハハハッ、ありがとうデミウルゴス」
そういって尻尾をブンブン振りながら配下の礼をとるデミウルゴスに、イチグンは苦笑いしか出てこない。
元々人間だったし、貧弱な身体しか持っていなかったのだ。
急激なパワーアップに一番戸惑っているのは彼自身であることは言うまでもない。
故にイチグンは、そんな動揺を誤魔化すように咳込みながらも、人間に対してあまり良い印象を持たぬ配下達のイメージアップを図る。
「――ですが、あまり人間という種族を見縊るのは止めた方が良いですよ二人共。彼らの中にも突出した力を持つ者は確かに存在するのですから。
私の居た
「……はっ?」
そんな言葉に真っ先に反応を示したのは、配下達ではなくアインズであった。
ゲームの中ならまだしも、彼が話したのは現実世界での話である。
ごく普通の人間が幾ら鍛えたところで、階層守護者どころか自動POPの雑魚モンスターにすら勝てないだろう。
故にアインズはこっそりと
《伝言/メッセージ》にて、イチグンのその言葉の真意を問いただす。
『……イチグンさん、それは配下達の意識改革の為の方便ですか?』
『えっ、何のことですか?』
『いやいや、ゲームなら兎も角。階層守護者に勝てる人間が現実世界に居る訳ないじゃないですか』
『……いや、普通に沢山いると思いますけど?』
『えぇえええ゛っ!?』
イチグンの言葉に、戦慄を覚えるアインズ。
彼曰く、自分の元居た現実世界では、空中を浮遊する少女が居たり、刀一本で鋼鉄を切り裂く剣豪が居たり、飛来する隕石を拳一つで破壊する猛者達がうじゃうじゃ居たとの事。
更に、巨大ロボットが街中で暴れ回ったり、平和な街中で軍用戦闘機が機銃掃射を始めたりなど日常茶飯事。
特殊な力を持った者に、自らの肉体の制御を完全に奪われたり、筋骨隆々とした大男に後ろの貞操を狙われたこともあるらしい。
(いやいや、一体どんな現実世界なのソレッ!?
ナザリック以上に人外魔境じゃないかっ!!)
イチグンのいた現実世界に関しては、劣悪な自然環境以外は自分達のところと似たようなものだと想像していたのにコレである。
アインズは何度も精神安定化を繰り返しながら、とある真理に辿り着く。
(……嗚呼、だから彼はナザリックの環境にも適応出来たのか)
そんな環境からやって来たのなら、多少のことでは揺らがぬ精神性が養われているだろうとも。
後で絶対詳しい話を聞き出そうと決意するアインズであった。
驚愕の真実を知らされ、固まっているアインズとは裏腹に。配下達二人は素直に忠告を聞き入れ、人間に対する警戒心を高める。
しかし、心のどこかでは人間に対しての差別意識があるのか、ソリュシャンが素朴な疑問を抱いてしまう。
「……ところで一つ疑問に思ったのですが。
何故イチグン様は種族レベルではなく、職業レベルを再取得したのでしょうか?
その世界秘宝で、吸血鬼としてのお力を取り戻された方が、何かとご都合が宜しいのでは?」
ソリュシャンが言いたいのは、人間種がナザリックで客人として招かれていることに対する不和を緩和した方が良かったのではないかという提案である。
ナザリックは異形種ギルド。
人間であることは異端なのだ。
当然、ナザリックにも人間は少なからず存在しているが、その全てはナザリックを管理する為に至高の主が生み出した存在である。
仲間と部外者で扱いが違うのは、配下達にとっては当然のことである。
故に賓客として招かれた人間のイチグンに対し、内心では快く思わぬ者達が居ることも知っている。
ある意味この発言は、ソリュシャンなりの彼への気遣いでもあったのだ。
そんな彼女の反応に苦笑しながらも、イチグンは言葉を濁して答える。
「……まぁ、そこら辺は色々と事情があるんですよ」
確かに
吸血鬼になることで、自らの価値観が変貌することを恐れたのだ。
人間らしさを失った自分を、果たして自分と呼べるのだろうか。
我、思う故に我が在る。
ならば我を見失ってしまえば、自らの存在も消えてしまうのではないかと不安を覚えたのだ。
「……」
そんなことを考えながら、イチグンはアインズを眺める。
イチグンの視線に気づいたアインズは、キョトンと不思議そうに首を傾げていた。
「ハハハッ、それは杞憂かな?」
「えっ、何のことですか?」
「いや、何でもありませんよアインズさん」
人間味溢れる
きっと人間の本質は、そう簡単に変わるものではないだろうと思えたのだ。
いつもの調子を取り戻したイチグンはソリュシャンに向き直り、その疑問に対して合理的な答えを用意する。
「私がこの職業レベルを真っ先に取得したのには、幾つか大きな理由があります」
「……理由ですか?」
「要約するなら、効果検証の目的が大きいですね」
ユグドラシルには実在しない職業が、この世界ではどれほどの効力を発揮するのか。
――非常に興味深い話である。
ユグドラシルに存在しない未知の魔法は、ナザリックに莫大な利益を齎す可能性もあるからだ。
「それにこの肉体が持つ
ランク魔法はR1~R10まで存在しており、Lv10でR1のランク魔法を10個。Lv20でR2のランク魔法を9個。そして最大Lv100でR10のランク魔法を1個。
最終的に55種類のランク魔法を覚えることが出来るのだ。
「逆に戦士職なんかはLv10毎に必ず10個ランク技能を入手出来るので、最大Lv100までに100個のランク技能を覚え、あらゆる状況に対応出来る万能性を持たせることが出来ます。
但し、魔法職と比べて一撃の威力や効果が乏しいものが多く。R10のランク魔法と比べて、R10のランク技能は大分見劣りするんですけどね。
無論、ランク魔法は発動までに待機時間があるので、ランク技能程使い勝手が良くないですし、即座に使用したりする戦況には向きません。
だから魔法職は一撃火力型か後方支援補助型。戦士職は前衛特化型か万能型にタイプが別れるんですよ」
「な、成程」
いつになく饒舌になったイチグンの話に、アインズは気圧されながらもフムフムと相槌を打つ。
イチグンのプレイしていたゲームでは、プレイヤーのステイタスは主に
その中でも
そしてイチグンが取得していたのは、数ある職業の中でも最高峰として名高いレア職。
魔法戦士職の
「この魔法戦士職の優れた所は、ランク魔法取得の代わりにランク技能を獲得出来るところなんですよ。
つまりビルド構成次第では、前衛職と後衛職の両方を熟せるんです」
「……えぇ~、それ反則じゃないですか」
アインズは呆れたように唸る。
つまるところ魔法職と戦士職の良いところだけを、寄せ集めたようなような仕様だからだ。
しかし、そう都合の良いものではないとイチグンは語る。
純粋な戦士職より、ランク技能を獲れる数は限られているし、取得できるスキルや魔法の種類にも大きな制限が設けられているからだ。
更に魔法戦士職はレア職である為に、取得するまでに困難な条件を熟さなければならない。
またスキル・魔法の構成を誤ると、まるで使えないキャラクターが完成してしまう。
スキル・魔法構成に合わせた種族・固有技能の取得。それに合わせた武器や防具の作成に小道具の用意等々。入念な下地作りが必要になる。
故に魔法戦士職は玄人向きであり、廃課金プレイヤー向けの職業と言われていたのだ。
「それで気になるのが、本来Lv100まであるはずの
「ユグドラシルではどんな職業でも、上限がLv15まででしたからね」
つまりユグドラシルのルールと混じり合っているのである。
イチグンは、ランク5の魔法を6個取得出来た。それは彼のレベルの合計値がLv55だからだと判断して良いだろう。
そして
「だからイチグンさんの場合だと、Lv55の魔物を召喚出来るってことになりますよね?」
「うん、そうなるね」
「……なのに何故そんなに浮かない顔をしてるんですか。戦闘メイドクラスの自分専用の眷属を召喚出来るんですよ?」
「……アハハハッ、その理由を聞いてしまいますかアインズさん」
召喚士系統の職業は、イチグンのプレイしていたゲームでは『ラック職』や『課金職』と呼ばれ敬遠されていた。
何故なら、召喚する魔物の性能に大きく戦闘能力が左右されるのに、あろうことか召喚使役可能な魔物は1体のみであり、その魔物の選出方法は完全なる運だからだ。
通常はこのランク1の魔法で最初に召喚した魔物が、自分が生涯を共にするパートナーとなる。
やり直す方法は課金アイテムによる再抽選のみで、その課金アイテムはそこそこな値段の代物である。
そして
バランスブレイカーと称される凶悪な魔物を召喚出来る反面、その他の魔物は使い物にならない程、弱いという有様。
この職業についた蔑称は
『混沌のブラックホール』。
再抽選により、金を無限に吸い込む様からそう名付けられたのだ。
かくいうイチグンも、目当ての魔物を引き当てる為に、ボーナスを全額この再抽選につぎ込んでしまった愚か者である。
大当たりを引いても狙った魔物ではない為、泣く泣く再抽選を行い、最弱モンスターを引き当てた時の絶望感。
最早、言葉で言い表すことなど不可能だろう。
「……貴方も同じでしたか」
そういって慈愛に満ち溢れた優しい声で、イチグンの肩にポンと手を置くアインズ。
置かれた右手の人差し指には、彼のボーナスの集大成である
「という訳で、このランク1の魔法は
召喚される魔物よっては恥も外聞もなく発狂するかもしれませんが、其処は仏の心で見逃して下さい」
「……わかりました。ご武運をイチグンさん」
そんなアインズの神妙な声に、無言で頷いて応えるイチグン。
近くで控えていたデミウルゴスも祈るような気持ちで手汗を握り、ソリュシャンも興味深そうにその光景を眺める。
「《
魔力の奔流と共に、地面に現れる漆黒の魔法陣。
複雑な模様が流れる水のように流動し、それらが空中に収束し、漆黒の球体となる。
漆黒の球体はドクンドクンと心臓のように脈動した後、パリパリと表面に亀裂が走り、卵の殻のように砕け散る。
そして中から現れたのは、一抱え程の大きさのプルプルとした黒い塊。
円らな黄色い瞳を持つスライムであった。
「……っ、失敗か」
アインズはその結果に思わず落胆する。
明らかに強者の気配を纏っていない無害そうな魔物であったからだ。
デミウルゴスも奥歯を噛みしめ、悔しそうに天を仰いだ。
如何なる魔物でもイチグンが召喚したものだと受け入れるつもりであったが、この結果は余りにも惨すぎる。
目の前の魔物の放っている気配は脆弱であり、まるでナザリックの上層で無限に湧き出る有象無象のスケルトンのようだ。
たった一回しかないチャンスを物に出来ずに、無念としか言いようがないだろう。
「……嘘だろ。マジかよ」
イチグンも召喚されたモンスターを見て、茫然自失といった様子で立ち尽くしている。
余程ショックが大きかったのだろうと、アインズとデミウルゴスは彼の心中を察し哀れんだ。
しかし、そんな二人の反応とは裏腹に。イチグンはプルプルと全身を小刻みに震わせて歓喜の雄叫びを上げた。
「よっしゃぁあああ!
来たコレッ!大当たりだっ!
「えぇっ!?」「何ですとっ!?」
アインズとデミウルゴスは同時に驚いた。
如何にも弱そうなこの魔物こそが、イチグンの求めていた最凶の魔物であったからだ。
『何かの間違いではないか?』とデミウルゴスは真後ろに控えたソリュシャンに視線を向けるが、彼女は驚愕の表情を浮かべたままピクリとも動かない。
いや、正確には動けなかったのである。
目の前に行き成り現れた禍々しい上位種の存在に、近縁種である
「ソリュシャン、一体どうしたのだ?」
「……あっ。す、すみませんアインズ様ッ!
イチグン様が召喚した魔物が余りにも桁違いの存在感で」
「えっ?」
「……凄まじい潜在能力です。
誠に不敬ながらヘロヘロ様に匹敵する上位種族かと。……私など足元にも及ばない強さです」
「えぇえええっ!?」
アインズは驚いたが、無理もないだろう。
明らかに弱そうなこのスライムを、相手の強さを探れるソリュシャンが自分より遥かに格上と断言。
更には彼女を創造したヘロヘロに匹敵する存在であると言い切ったのだから。
ソリュシャンを含むナザリックのNPC達は、このギルドの設立者である至高の41人を特別視しており、とりわけ自分を創造したギルメンには贔屓が強い傾向がある。
そんなNPCが自らの創造主と同等の存在であると言い切った。
それはつまり、この愛らしいスライムが
「まぁ一見弱そうに見えますけど、この
その見た目の愛らしさからは想像出来ないが、中身は凶悪そのもの。
ゲームでは『害悪の帝王』と称されていた程に、厄介な魔物なのだ。
「よしよし、おいでおいで~」
「……」
まるで犬猫を可愛がるように、両手を広げてしゃがみ込むイチグン。
それを見たスライムは、プルプルと感極まったように振動し、黄色く光る瞳を揺らめかせながら――彼に向って突進した。
「ごふっ!?」
停止状態から最高速度に。
黒いプヨプヨとした塊は弾丸となって射出される。
「あっ」「何っ!?」「ちょっ!?」
余りの速さにソリュシャンは目で追えず、デミウルゴスとアインズも、攻撃が唐突すぎて反応出来なかった。
そんな突進を腹部に喰らって、ゴロゴロと転がっていくイチグン。
グネグネと流動する黒い粘体がまるで触手のように絡みつき、イチグンの身体を覆い尽くして締め上げていく。
「クソッ!一体どうなっているんだ!?」
アインズは予期せぬ出来事に吠えた。
イチグンが自分のスキルで召喚した魔物に襲われたからだ。
今までアインズが召喚した魔物達は皆従順であった為、完全に失念していたが。
何らかの不具合が起こっても可笑しくはない。
つまり召喚主を召喚した魔物が害する可能性も十分に在り得たのだ。
安全を確認してから、検証実験に臨むべきであった。
アインズは自分の迂闊さを呪いながらも、襲われているイチグンを巻き込まぬように魔物を攻撃する。
「――《心臓掌握/グラスプ・ハート》!」
死霊系の即死魔法を喰らったスライムは、パァンと水風船のように破裂した。
ビチャビチャと飛び散った破片が闘技場の地面に散乱する。
「何ッ!?」
しかし、その飛び散った破片はウネウネと流動しながら一箇所に集まり、再び元の黒いスライムの姿へと再生。
その攻撃でアインズは敵と認識されたのか、黒いスライムは黄色い二つの瞳を爛々と輝かせながら、凄まじい速さでアインズに襲い掛かった。
「させませんっ!〈悪魔の諸相:豪魔の巨腕〉!」
しかし、その襲撃を察知したデミウルゴスが即座にアインズとの間に入り、肥大化した腕で敵を薙ぎ払う。
戦闘を得意としない非力な部類とはいえ、Lv100のステイタスを保有する階層守護者。その身体能力はこの世界の住人と比べ、隔絶したものである。
更にスキルで強化された右腕を用いて全力で殴りつけたのだ。普通のLv55の魔物ならば木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。
「くっ……これ……はっ!?」
しかし、結果はまるで違うものだった。
地面に根を張るように触手を伸ばしたスライムは、吹き飛ばされることなくその場にとどまり、強靭かつ柔軟な身体で、拳の威力を完全に押し殺してしまう。
デミウルゴスは驚愕した。
殴った感触がLv55の魔物の防御力ではない。
まるで頑丈な金属の城壁にゴムを幾層も重ねたような手応え。
Lv100のスキルを用いた打撃ですら、この魔物にはまともなダメージを与えるに至らなかったのだ。
「――――ッ!」
デミウルゴスが苦戦する最中。
音もなく接近したソリュシャンが、黒い粘体に向かって自らの持ち得る最大限の攻撃を仕掛ける。
彼女は
猛毒・麻痺・幻覚・発狂。
様々な効能を付与した強酸性の溶解液を黒いスライムに吹き掛ける。
「……えっ?」
だが、黒いスライムは無傷そのもの。
それどころかソリュシャンの攻撃を受けて、減っていたHPが全回復した。
状態異常攻撃が効かず、HPが回復した理由は単純明快である。あらゆる状態異常を無効化し、毒物で回復する特性を持っていたからだ。
鬱陶しそうにソリュシャンを一瞥したスライムは、黒い触腕を伸ばして鞭のように振るいながら牽制攻撃。
その速さに避けることも出来ずまともに喰らってしまうソリュシャンだが、思いの外衝撃は少なく、ダメージも然程喰らわなかった。
「……どうやら攻撃性能は乏しいようですわね」
防御力と速度はレベルを逸脱したものであるが、攻撃力はLv10前半程度の威力しかない。これならば捨て身で行けば、自分でも足止めは可能である。
そう考えたソリュシャンであったが、そんな彼女に異変が起きた。
「かっ!!かふっ!?あ゛ぁああああっ!?」
身体の中身を掻きまわされるような激痛。
身体は動かず、思考に靄が掛かり冷静な判断が出来ない。
身体の形状の維持すら困難になり、肉体の制御を完全に手放してしまう。
ドロリと粘体になったソリュシャンは、ピクピクと蠢くことしか出来なくなった身体を呪いながらも、スキルを用いて自らの状態を確認する。
(……何よ……コレ)
沈黙・封印・麻痺・猛毒・激痛・朦朧・衰弱。
状態異常のオンパレードであり、まともに動けるような状態ではなかった。
あの触腕での一撃は、単なる物理攻撃ではない。様々な状態異常を発生させる特殊攻撃だったのだ。
何より恐ろしいのが、異形種で且つ
このスライム自体が猛毒の塊であり、あらゆる害悪を内包した存在。
故に接触は危険であり、本来なら遠距離から始末するべき相手なのだ。
「ぐっ……むっ……」
高Lvで悪魔という種族特性もあり、スライムの状態異常攻撃にも耐えていたデミウルゴスだったが。徐々にその攻撃は彼の身体を蝕み、ジワリジワリと体力を奪っていった。
(何と厄介な魔物だッ!)
素早く防御力も高く、数多の状態異常攻撃を仕掛けてくる。
しかも粘体である為、通常の物理攻撃は通用しないし、一度接触したらまるでガムのように付着して剥がれない。
そして今も尚、スライムはデミウルゴスの右腕に張り付いたまま、ウゾウゾと顔面に向かって侵食範囲を広げている。
このまま口や鼻に入り込み、窒息死させるつもりなのだろうか。はたまた手の届かぬ体内を攻撃する算段だろうか。
どちらにしてもそうなれば詰みである。
「――舐めるなッ!」
デミウルゴスが珍しく声を荒げ、地獄の劫火を身に纏う。
ナザリックの頭脳である彼は、非常に優秀な指揮官である。そして優秀な指揮官である故に、あらゆる魔物の特性や弱点を知識として理解している。
そんな知識の中に、この黒いスライムの情報はないが、こういった粘体の魔物に有効な攻撃手段には心当たりがある。
それは炎系統の攻撃に弱いということだ。
彼の守護階層にいる領域守護者のような特殊な個体を除き、スライム系統の異形種は炎に弱い傾向が強い。
そして、そんなデミウルゴスの考察は見事に当たっていた。
炎によってその身を炙られ、苦しそうに蠢く黒い粘体。
弱まる拘束に勝利を確信したデミウルゴスであったが、此処で想定外の出来事が起こる。
スライムが自らの身体の一部を分裂させてその場から離脱。遥か遠くに射出された分裂体は、猛烈な勢いで再生し始める。
「……無駄なことを」
逃げようが消滅するまで焼き払ってやればいいだけのこと。
そう考えていたデミウルゴスであったが、それは大きな間違いであった。
「なっ!?」
デミウルゴスの身体に残ったスライムの残骸が、異様に肥大化しながら眩い輝きを放ち始める。
「――チッ!
《魔法最強化/マキシマイズマジック》
《上位防御障壁/グレーター・プリズン》」
傍で事の成り行きを見守っていたアインズは、即座にデミウルゴスに守護の魔法をかけ。倒れていたソリュシャンとイチグンを回収し、闘技場の端に転移する。
アインズが転移した次の瞬間には、デミウルゴスを起点に爆発。デミウルゴスの全身が黒い爆炎に包まれた。
「がはっ!!」
爆発の規模は想定していたよりも小規模であったが、その威力はLv50の魔物が放った攻撃とは思えぬ程に絶大であった。
それも当然の結果言えるだろう。
何故ならこの自爆攻撃は、自らの受けたダメージが大きいほどに、威力が高まるカウンタースキル。
Lv100の全力の攻撃を喰らえば、威力が跳ね上がるのも必然である。
アインズの加護を受けて尚、瀕死状態となり。意識を失って地面に倒れ伏すデミウルゴス。
ポカンとしたまま、固まるイチグンを他所に。アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げ、禍々しいオーラを放ちながら身構える。
「……防御と速度に特化したステイタス。
更に耐久を無視するような状態異常をばら撒き、高威力の自爆攻撃と肉片からも復元する超再生能力か」
成程、確かに恐ろしく厄介である。
イチグンが絶賛するのも良く判る程に凶悪な魔物だ。
しかしアインズは揺らがない。
冷静さを失って無策のまま特攻することこそ愚か者の証。今までの情報を踏まえた上で、対処すれば良いだけである。
「ならば肉片一つ残さず消え失せるが良い。
《暗黒孔/ブラックホール》」
アインズがスタッフの力により強化された状態で、第10位階魔法を使用する。
虚空に出来た巨大な黒い孔が、土埃を巻き起こしながら対象の魔物を破片ごと吸い込んでいく。
黒いスライムは地面に身体を張り付けて踏ん張ったようだが、絶対的な吸引力にベリベリと引き剥がされてしまう。
抵抗虚しく地面から引き剥がされたスライムは、そのまま暗闇に呑み込まれて消えていった。
「――やはりこの魔法は有効だったようだな」
アインズは思わずホッと溜息を吐く。
ボロボロになった配下達を急いで治療しなければと、徐々に小さくなっていく黒い孔から視線を逸らしてしまう。
「――嗚呼。それアカン奴や」
「……えっ?」
そんなアインズとは裏腹に、黒い孔を見てポソリと呟くイチグン。
一体どういう意味なのか問いただそうとしたアインズだったが、その問いかけをする前に異変が訪れた。
小さくなっていた黒い孔が、消滅する寸前で再び肥大化。
吸い込んだはずの魔物が、異物が紛れ込んでいたかのように吐き出され、無傷のまま闘技場に舞い戻って来たのだ。
「……ハイ?」
思わずガクンと顎を外して呆けるアインズ。
黒いスライムは『よくもやったな』と言わんばかりに、黄色い瞳を爛々と輝かせながら、邪悪なオーラを発し始める。
邪悪なオーラは目視出来る黒い靄となり、その黒い靄は虚空に出来た黒い孔を覆い尽くす。
すると黒い孔は、まるで存在を掻き消されたかのように薄れていき。逆に黒い靄はその濃度が濃くなり、スライムの体内に帰属するように吸収されていく。
「……
「……マジですか?」
先に言えよとアインズは思ったが、最早手遅れである。
スタッフの力により威力が底上げされた、第10位階の闇属性魔法を喰らったスライムは超絶強化された。
身体が肥大化して、一回りも二回りも大きくなる。
伸ばした無数の触腕の先端が刃物のように鋭くなり、愛らしい外見から一変して禍々しい外見になる。
敵意と殺意を剥き出しにしたまま、アインズに襲い掛かるスライム。
槍の穂先のような触腕をドリルのように回転させながら、凄まじい速度で突進するその姿は、宛ら黒いミサイルである。
その弾頭は正確無比にアインズの胸部を貫く軌道であったが。突如、空中で急制止したまま動かなくなった。
「イ、イチグンさん!?」
何故なら、アインズの前にイチグンが両手を広げて佇んでおり。それを確認したスライムが攻撃するのを躊躇ったのである。
「――やはり、そういうことか」
それを見て何かを確信したイチグンは、スライムに歩み寄ると、そのプルプルとした身体にそっと触れる。
スライムもそれを受け入れるように禍々しいなりを潜め、シュルシュルと元のサイズまで小さくなり、円らな黄色い瞳を潤ませながらイチグンを見上げた。
イチグンはそんなスライムを優しく撫でる。
スライムも一切抵抗することなく、嬉しそうに震えながらその掌を受け止める。
その仕草はまるで飼い主にじゃれつく仔猫のようである。
「……えっ、何コレ?」
アインズは大いに困惑した。
先程まで死闘を繰り広げていたはずなのに、いつの間にかドキュメンタリードラマの一場面のようになっているではないか。
訳が判らないまま、イチグンとスライムのやり取りを見ていた彼であったが。そんなほのぼのとしたやり取りに、大きな変化が訪れた。
「――ハハハッ、そっかそっか。
よしよし、よ~し……ふんぬらばっ!!」
慈愛に満ちたイチグンの愛撫は一転。
鬼の形相でスライムの頭を鷲掴みにすると、そのまま地面に力強く叩きつけてグシャリと圧し潰した。
『……?』
潰されたスライムは直ぐに再生したが、状況が良く判っていないのかキョロキョロと周囲を見渡し、主の顔色を窺うように黄色い瞳を潤ませながら上目遣い。
「ふんっ!!ふんっ!!」
イチグンはそれを見ても鬼の形相を崩さず、再びスライムの身体に手を添えて、あらん限りの力で叩き潰す。
グシャッ!グチャッ!メチャッ!ビチャ!
という粘着質な何かを叩き潰す音だけが周囲に響き渡る。
最初は困惑した様子で復活していたスライムも、主の怒りの原因が自分であると気付いたからなのか、心なしか黄色い瞳が涙目になっていった。
「……あ、あの~。イチグンさん大丈夫ですか?」
そんなイチグンの奇行を心配したアインズが、恐る恐るといった感じで声を掛ける。
するとイチグンはスライムを叩き潰す暴挙をピタリと止め、憔悴した表情を隠さぬまま視線をアインズに向けた。
「……アインズさん」
カッと目を見開いたイチグンは、その場で軽やかに跳躍。
クルクルと後方宙返りを決めながら身体ごとアインズに向き直ると。膝から着地し、両手を綺麗に頭上で揃えたまま、額を勢い良く地面に叩きつけて叫んだ。
「誠に申し訳ありませんでしたッ!」
それは実に見事なジャンピング土下座であった。
もしもLv100になったら、アルベドを凌駕する物理防御力と魔法防御力を持ち、シャルティアよりも圧倒的に素早い怪物になります。
※尚、物理攻撃力に関しては1ガゼフにすら満たない模様。
その上で全状態異常完全無効を持ち、デバフをばら撒くという害悪っぷり。
現実世界になってからは、フレイバーテキストに基づく設定も加わり、勝手に自分の分体をポイポイ造り出したり、欠片でも残っていると復活するヤバい奴になりました。
倒す方法は高火力の炎・神聖属性による範囲殲滅か、術者であるイチグンを倒すこと。
何気にソリュシャンのように体内に大容量の荷物を収納できる能力も兼ね備えております。
※因みにこの子はお供NPCじゃないですよー
あくまでイチグンの職業スキルによって召喚された魔物ですからね
お供NPCの存在は暗黒魔粘体とは別枠で存在しております。