イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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本日深夜、オーバーロード三期放送。
ガラリと場面が変わるので超楽しみです。

ジルの毛根撲滅のカウントダウンスタート。



そして、タイトルからも判るように特大の死亡フラグが立ちました。
どういった内容かは下記の本文を閲覧してくださいな
 
 


第16話 余興という名のデスゲーム

 

 人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)

 

 人生は何が起こるか判らないからこそ楽しいのだという者も居るが、それは臨死体験をしていない楽観的な奴らの戯言である。

 

 もし未来が読めるなら、こんな事態は避けられたはずだ。

 

 もし相手の心が読めるなら、目の前の相手が何故激怒しているか判るのに。

 

 

「――さぁて、一方的な殺戮を始めるでありんす」

 

 

 ナザリック第6階層の広大な闘技場。

 其処で深紅の鎧を纏った吸血鬼が、殺る気満々といった感じで牙を剥くように笑う。

 

 『笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点である』などとどこぞの死に狂った剣客漫画で語られていたが、それを我が身を以て体感するとは思いもしなかった。

 

 

 そしてそんな俺達を囲むように、観客席に座っている無数の配下達。

 

 皆がこれから行われる血塗れの惨劇に興味深々と言った様子。

 

 観客席にある天幕付きの豪華な席には、階層守護者達も屯っている。

 

 デミウルゴスはニヤリと黒い笑顔を浮かべ、アルベドはその無機質な黄色い瞳で観察するように此方を睨んでいる。

 

 そしてその二人を侍らせるように真ん中の席に座るのは、このナザリック地下大墳墓を統べる死の支配者(オーバーロード)

 

 モモンガこと

 アインズ・ウール・ゴウンである。

 

 

 四面楚歌で闘争は免れない状況下。

 本来ならば真っ先に彼に助けを求めるべきなのかもしれないが、今回ばかりはそうもいかない。

 

 何故ならこの『死亡遊戯』を企画したのは、()()()()()()()()()()()()だからだ。

 

 

「――皆の者、忙しい中集まってくれたことに感謝する」

 

 

 彼は威厳ある支配者の声で、配下達の騒めきを諫めると、此処に集った者達に語り掛けるように話し始める。

 

 

「普段、粉骨砕身の覚悟で働くお前達の為に、今日は余興を用意させて貰った。

 

階層守護者の中でも指折りの実力を持つ鮮血の戦乙女シャルティアと、嘗ての力を取り戻しつつあるイチグンさんのルール無用の死合いだ。

 

――存分にこの舞台を楽しむが良い」

 

 

 そんなアインズさんの言葉で、地鳴りのような歓声を上げる配下達。

 

 死合い(しあい)――試合の誤字にあらず。

 文字通り負けたらどちらか一方が死ぬ殺し合いである。

 

 この舞台に立った以上、最早後に引くことは出来ない。

 

 俺もシャルティアも相手を殺すことでしか、この舞台から降りることが出来ないのだ。

 

 だからこそ、あえて言わせて貰おう。

 

 

 ――どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

 

 あの傷心事件から約5日が経過。

 

 心に負った深い傷は未だに癒えることはないが、それでも人は前を向いて歩かなければならない。

 

 過去の自分を、綺麗サッパリ捨て去ることなど出来ないのだ。

 

 故に俺は、不評であった現実世界(リアル)の姿を捨て、MMOキャラをイメージした外装に変身した。

 

 

 此方は配下達に頗る好評であった。

 皆これでもかというぐらいに神輿を担いでくれるし、特にデミウルゴスなんかは、必死さすら感じる程に褒め称えてくれた。

 

 ……アハハ、わ~いヤッタネ。褒められたよ。

 思わず涙が止まらなくなるぜ。

 

 

 そんなこんなで冴えないオタクはイメチェン。

 厨二病全開の吸血伯爵スタイルに成り代わった。

 

 黒いスーツのような衣服の上に、鮮血のような深紅のコートは、某漫画に出て来るラスボス系主人公の吸血鬼をリスペクトしている。

 

 腰元まで伸びた闇夜のような黒髪と、肉食獣のような獰猛さが垣間見える端正な顔立ちが支配者の風格を漂わせる。

 

 鷹のように鋭い目つきは、左が深紅で右が黄金の虹彩異色症(オッドアイ)となっている。

 

 手には十字架の模様が入った白い手袋を装備し、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)とか使えそうな朱槍を右手に持っている。

 

 

 まんまゲームのアバターが実体化したような姿。

 唯一違うのは人間であることを考慮して、耳が尖っておらず、牙が生えていないところぐらいだろうか?

 

 ……おっと、瞳孔も肉食動物みたいになってるから修正っと。

 

 

「――よし、これなら大丈夫そうだな」

 

 

 目の前に置かれた巨大な姿見の鏡で、変身後の姿を最終確認。

 

 ふむ、これなら何処からどう見ても人間だし。ニグンの面影もないからスレイン法国にもバレないだろう。

 

 

(……それにしても、この恰好は何というか)

 

 

 何というか痛い、余りにも痛すぎる。

 

 あくまでゲームだから厨二病全開でロール出来るのであって、現実世界までそれを持ち込むとなると話が変わって来る。

 

 この恰好で『闇の炎に抱かれて消えろっ!』とか言ったら、恥ずかしさの余り、俺が黒歴史(やみのほのお)に焼き殺されそうである。

 

 パンドラを見て悶え苦しんでいたアインズさんの気持ちが、ほんの少しだけ判った気がした。

 

 

「おめでとうございますイチグン様。【内氣操作】(ナイキ・マスター)も、Lv4からLv5になったようですわ」

 

 

 そんな風に自分の姿恰好に悶えていると、目の前に居たソリュシャンがステイタスの鑑定結果を教えてくれた。

 

 その結果を聞いて真っ先に喜んだのは、目の前に佇む執事服を着こなしたダンディズム溢れる老人である。

 

 

 

「おお、それは私としても嬉しい限りです」

 

 

 そういって厳つい顔を緩めて笑うのは、家令(ハウス・スチュワード)のセバス・チャン。

 

 プレアデスのリーダーであり、Lv100の近接戦闘を得意とする武闘家でもある。

 

 そんな彼から格闘技術を学んだ俺は、感謝の気持ちを込めながらペコリと頭を下げる。

 

 

「ありがとうございますセバスさん。

貴方の指導のおかげで【内氣操作】(ナイキ・マスター)を取得することが出来ました」

 

「勿体なきお言葉。コレもイチグン様の類まれなる武才故の結果でございます」

 

「ハハハッ、過大な評価ありがとうございます。

……勿論、コキュートスにも感謝してるよ?

【漆黒戦士】(ダークウォーリア)は俺のビルド構成に合ってるからね」

 

「イチグン様ハ数多ノ武器ノ中デモ、特ニ剣ト槍ノ扱イガ秀デテオリマス。

今後モ鍛錬トアラバ、是非私ヲ御呼ビ下サイ」

 

 

 そういってプシューと冷気を吐き出すコキュートス。彼も指導の成果が目に見える形で表れて凄く嬉しそうである。

 

 

 あの不貞寝事件から、一週間ばかりの時間が経過。

 

 俺は不眠不休でコキュートスから武器の扱いを学び、セバスから近接戦闘の技術を指導して貰ったことにより、遂に職業レベルを取得することが出来た。

 

 これで未習得となっていた職業レベルも埋まり、55レベル全てが職業レベルを取得している状態となった。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

名前:イチグン

 

種族:人間

 

職業レベル

 

【狂戦士】(バーサーカー)   …Lv10

【凶騎士】(ベルセルク)   …Lv10

【闘神魔王】(バルバトス)  …Lv10

【混沌召喚士】(カオスサマナー) …Lv15

【内氣操作】(ナイキマスター)  …Lv5

【漆黒戦士】(ダークウォーリア)  …Lv5

 

 総合計    …Lv55

     

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 職業レベルの割り振りを見てみると、近接戦闘に特化したビルド構成に思えるが。その実態は状況に応じて高度な魔法も使い熟せる魔法戦士である。

 

 本来ならユグドラシルの魔法使いは、高位の魔法を使う者程、使う魔法の種類が限られている。

 

 何故ならより高位の位階魔法を使うには、職業・種族レベルの積み上げが必要だからだ。

 

 

 例えば、第8位階魔法を使用出来るナーベラルは、種族レベルをLv1だけしか取得しておらず。残りのLv62は全て職業レベルに振られおり、更にその内のLv56は魔力系統に属する魔法職取得に充てられている。

 

 何故、そんな極端なビルド構成になっているかというと。第8位階の魔法を使用する為には、そうせざるを得ないからだ。

 

 

 魔法詠唱者の使用出来る位階魔法は、魔法職レベルの合計値が7上がる毎に位階が上がる。

 

 第一位階ならばLv1~Lv7。第二位階ならばLv8~Lv14という感じで、その位階魔法を行使する為の前提レベルを満たさなければならないのだ。

 

 つまり第8位階を使用するには、最低でもLv50の魔法職ビルドの積み上げが必要になる。

 

 更に言うなら位階魔法は魔力系・信仰系・精神系といった具合に分類されており、ただ魔法職を取得するだけでは高い位階を取得することは出来ないのだ。

 

 

 もし魔力系の魔法職をLv50・信仰系の魔法職をLv50取得したとするなら、Lv100のプレイヤーでも、それぞれ第8位階までの魔法しか使えない。

 

 逆に言えば、ナーベラルのように魔力系統に絞って魔法職を取得すれば、Lv60前半でも第9位階を行使出来る一歩手前まで育成出来るのだが、特化した相手は対策が容易になってしまうという罠もある。

 

 

 故に魔法職は綿密な計算の下に育成しなければならないと、アインズさんからユグドラシルの話を聞かされていたのだが、俺が目覚めた職業である【混沌召喚士】(カオス・サマナー)はそんな前提を完全崩壊させた。

 

 

 取得出来る数こそ限られているものの、系統に囚われず階位魔法を覚えることが可能なのだ。

 

 現在Lv55の俺は、その気になれば第5位階の魔法を6つまで行使出来る。

 

 その上でユグドラシルには存在しないランク魔法まで扱うことが出来るのだ。

 

 出鱈目だとアインズさんが嘆くのも仕方のないことだろう。

 

 

「……あとはニグンの持っていた異能(タレント)が想像以上に凶悪でしたからね」

 

「……もし彼のレベルがもっと高かったり、アウラのように大量の魔物を使役する能力に長けてたらと考えるとゾッとするなぁ」

 

 

 そう、ニグンの持っていた異能に関しても、数多の検証実験の末に詳細が判って来たのだが――予想以上にヤバいものだった。

 

 

 原作では『召喚した眷属を強化する』異能などと語られていたが、実際の効果は『使役する眷属を強化する』異能であったのだ。

 

 

 つまりどういうことかというと、彼が召喚した魔物だけでなく、彼に指示命令権限のある全ての眷属が強化されるのだ。

 

 使役対象となった魔物はレベルが底上げされ、その魔物にとって最適の種族・職業レベルを自動取得する。

 

 ――それがニグンの異能の詳細である。

 

 

 しかも魔物の強化される度合いは己のレベルに比例して向上する。

 もし仮に計算式に直すなら――

 

 

 『自身のレベル÷5≒魔物の強化レベル』

 

 

 つまりLv55の俺が使役する暗黒魔粘体(ダークネス・スライム)の実際の強さは、Lv55+Lv11=Lv66となる訳である。

 

 

 しかも、それだけに効果は留まらない。

 

 ニグンの支配下にある魔物が、魔物を召喚使役した場合。効力は半減するものの、それらにも強化が適応されることが判明したのだ。

 

 もしもニグンがLv100だったとしたなら、支配下にある魔物達は+Lv20の種族・職業レベルが追加され、更にその配下達が召喚使役する魔物にも+Lv10の強化が施される。

 

 鼠算式にその脅威度が跳ね上がる。

 恐らくこの世界でも10指に入る程、強力且つ凶悪な異能だろう。

 

 

「後は取得条件を無視して、新しい職業を覚えられたのも大きいですね」

 

「これに関しては、俺が原住民の肉体を持つからなのか、【混沌召喚士】(カオス・サモナー)の副次効果なのかは不明ですけどね」

 

 

 本来なら前提となる職業取得が必要となる【内氣操作】(ナイキ・マスター)【漆黒戦士】(ダークウォーリア)を覚えられたことも大きなアドバンテージだ。

 

 これに関しては、職業取得条件を無視出来る原住民の肉体を持っていたからなのか、はたまた【混沌召喚士】(カオス・サモナー)という職業によって前提条件が満たされたのかは不明だが、俺の予想では恐らく両方の要因が絡んでいるだろうと考えている。

 

 この職業が取得出来るランク技能に、【内氣操作】(ナイキ・マスター)【漆黒戦士】(ダークウォーリア)が覚えるスキルと似たようなものがあり、それを実践で使っている内に職業レベルにこれらが追加されたからだ。

 

 

(……短期間で、やれることは全てやりきったと思う)

 

 

 これらに加えて、新たなる武技の修得。

 更にアインズさんが『強欲と無欲』によって大量召喚した魔物を、討伐したことによって生じるステイタス大幅向上。

 

 今なら高レベルのプレイヤーともそれなりに戦えるのではないだろうか?

 

 それが気になったのは俺だけではないようで、アインズさんも顎に手を当てながらコキュートスに尋ねる。

 

 

「――コキュートス、お前は彼の今の実力を鑑みてどう思う?

純粋な戦力として評価した場合の、お前の意見を教えて欲しい」

 

「……デハ、僭越ナガラ語ラセテ頂キマス。アインズ様」

 

 

 そういってコキュートスは冷気を吐き出しながら、淡々と質問に答える。

 

 

「誠ニ脅威的デス。一対一ノ近接戦闘デノ試合ナラバ、Lv80後半ノ前衛職ニモ引ケヲ取ラヌカト」

 

「……ほうっ、それはそれは。何とも喜ばしい評価だな」

 

 

 アインズさんは目を爛々と輝かせながらも、落ち着き払った状態で威厳たっぷりにそう返す。

 

 《伝言/メッセージ》では、『いやいやヤバすぎるでしょ!?Lv55がLv80後半に匹敵とか反則ですよッ!』などと慌てた様子で俺に話し掛けてきているのに。

 

 ……何というか器用な骸骨である。

 

 そんなやり取りをしていた俺達であったが、コキュートスはカチリと口元を鳴らし、興奮した様子を隠し切れぬまま更に言葉を紡ぐ。

 

 

「――尤モソレハ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ルール無用ノ実戦ナラバ、イチグン様ノ実力ハLv100ノ階層守護者ニスラ届キウルヤモ知レマセヌ」

 

「「……うえ゛っ!?」」

 

 

 コキュートスのそんな言葉に、二人揃って変な声を上げてしまった。

 

 

 コキュートス曰く、俺には武技やランク魔法・技能などの圧倒的なアドバンテージがある。

 

 その上で手足のように使役出来る強力な壁モンスターの存在は厄介であり、系統に囚われず支援魔法や攻撃魔法を行使出来るのも大きな利点だという。

 

 それらを上手く使えば、Lv90程度なら完封。

 戦闘に特化した自分のような階層守護者相手でも、苦戦は免れないとのこと。

 

 

「……コレダケノ実力ヲ持チナガラ、未ダ発展途上(Lv55)トハ。将来(Lv100)ガ楽シミデナリマセン」

 

 

 そういってプシューと極寒の冷気を吐き出すコキュートス

 

 ……楽しみにしてるところに、水を差すようで悪いんだけど。俺もうカンスト(Lv55が上限)なんだ。

 

 そういうとコキュートスは残念そうに肩を落としたが、俺としては落ち込む要素など皆無である。過剰なまでの強さを手に入れることが出来たのだから。

 

 

「……成程、階層守護者に並ぶ実力ですか」

 

 

 事の成り行きを傍で見守っていたデミウルゴスが、何やら思いついたのか、長い棘付きの尻尾をフリフリと揺らしながら考察中。

 

 そして考えが纏まったのか、ピンっと尻尾を立てながらニヤリと黒い笑顔。

 

 今度は皆に聞こえぬように防音魔法を使いながら、アインズさんに何かを相談し始めた。

 

 二人が内緒話を始めて数分が経過。

 防音魔法を解いた二人はテクテクと俺の方に歩み寄って来る。

 

 

 (……あっ、何か凄く嫌な予感がする) 

 

 

 黒い嘲笑を浮かべながら現れた骸骨に不吉を感じた俺は、緊張しながらも一歩後退。

 

 そんな此方の様子とは裏腹に、アインズさんは俺の肩に両手を置いて、とんでもない提案をしてくる。

 

 

「――イチグンさん、階層守護者と1対1で殺し合いをしてみませんか?」

 

「え゛っ、何言ってんのこの骸骨?」

 

 

 つい素で反応してしまった俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デミウルゴスの提案は、余興という名の示威行為であった。

 

 未だナザリックの者達の中には、人間であるイチグンが好待遇を受けているのを快く思っていない者達が居ることは事実。

 

 その大半が人間という脆弱な存在を侮り、そんな種族に堕ちたイチグンを見縊っているのだ。

 

 ナザリックに何の利益も齎さぬ脆弱な者が、至高の主の隣に座ることなど許されぬと。

 

 

「故に私は、イチグン様の現在の実力を判り易い形で皆に誇示するのが宜しいのではないかと提案します」

 

 

 今のイチグンは脆弱な存在などではなく、Lv100の階層守護者に匹敵する実力者なのだ。

 

 その実力の一端を垣間見れば、そんな者達もイチグンの存在を認めざるを得ないだろう。

 

 

「そして鬱憤の溜まっている配下達のガス抜きにもなります」

 

 

 そんな戦いを余興として提供することで、配下達に血と殺戮の娯楽を提供。

 

 それと同時に効率よくナザリックの配下達に、イチグンの強さを印象づけすることが出来る。

 

 

「そして最後にイチグン様の持つ未知のランク魔法やランク技能の数々を紹介。

それらが齎す莫大な利をナザリックの皆に示すのです」

 

 

 そうすることで彼の齎す利益を皆が判り易く知ることが出来る。

 

 何れ至高の41人に迎え入れたいと願っているアインズの布石にもなるのだ。

 

 

「私の予想ではイチグン様のギルド加入により、凄まじい利益がナザリックに齎されます」

 

 

 最後にイチグンがギルメンになることによって得られるであろうメリットを淡々と羅列する狡猾な悪魔に、アインズはパカンと口を開いたまま呆ける。

 

 

(……えっ、何コレ?有能過ぎて怖いんだけど)

 

 

 たったあれだけの出来事から、壮大な計画を練り上げてしまったデミウルゴスの頭脳に驚愕と畏怖の感情を覚えるアインズ。

 

 このままでは上司の面目丸潰れであると思い、ついちっぽけな見栄を張ってしまうのであった。

 

 

「――ふむ、中々面白い提案だデミウルゴス。しかし演目の内容が目劣りするな」

 

「と言いますと?」

 

「彼の相手をするには、この魔物達では力不足だとは思わんか?」

 

 

 デミウルゴスの立案した計画では、前座としてLv55程度の魔物を複数体相手どり、最後にLv90の魔物とタイマンバトルをする予定であった。

 

 しかしそれらの魔物は使い捨ての効く召喚NPCであり、多くの配下達には馴染みのない魔物である。

 

 故に配下達も、対戦相手の魔物が本当に強いかどうかを理解しきれないのだ。

 

 

「そのような魔物達では、十全にイチグンさんの実力を誇示することが出来ないだろう」

 

「ッ……仰る通りですアインズ様」

 

 

 痛い所を突かれたデミウルゴスは、思わず顔を歪めてしまう。

 

 その魔物の持つ実力の善し悪しに関わらず、ネームバリューの低い相手と戦ったところで、得られる名声はたかが知れている。

 

 余興としての演目に相応しくない。

 有体に言うなら、インパクトに欠けているのだ。

 

 

「故に私から提案なのだが、演目の内容は1対1の一騎打ちに絞る。

 

そして戦う相手はナザリックの皆が強さを理解している実力者。シャルティア・ブラッド・フォールンを推挙する。

 

――これならば余興は盛り上がるとは思わんか?」

 

「……っ!?」

 

 

 そのアインズの発言には、流石のデミウルゴスも驚いた。

 

 シャルティアは階層守護者の中でも1対1の戦闘においては最強であり、ユグドラシル時代は上層を守っていた実績もあるので戦闘経験は豊富である。

 

闘争は彼女の本分とも言うべき事柄だろう。

 

 

 更に異世界転移後、シャルティアには大きな仕事を与えていなかったので、此処で活躍の場を設けてやりたいというアインズの親心もあった。

 

 マーレは拠点隠蔽、アウラは偽ナザリックの設立。コキュートスとセバスはイチグンの武術を指南しており、アルベドやデミウルゴスはナザリックの運営にガッツリと関わっている。

 

 

 一方でシャルティアに与えられた仕事は、ユグドラシル時代と同じく1~3階層の警邏のみ。

 

 しかもその警邏すら、巧妙に隠蔽工作の施された現在のナザリック地下大墳墓においては、不必要ともいえるような仕事なのだ。

 

 これで気の短い彼女に、焦るなという方が無理な話である。

 

 

 それにシャルティアは、長年侵入者を駆逐してきた実力者として配下達に名は知れ渡っており、ネームバリューという意味では最高のキャスティングだ。

 

 

 確かに彼女との死合いは映えるだろう。

 

 ――其処に()()()()()()()()()()という注釈がつくが。

 

 

「無論、シャルティアが自分専用にカスタマイズされた武装を使っては流石に勝ち目がない。

故に彼女の武装は、全てレプリカを使用するという制限も設けよう」

 

「確かにそれは必要な処置でしょうが……本当にそれだけで宜しいのでしょうか?」

 

 

 主武装が使えないのは、シャルティアにとって大きなハンデであるが。それ以上にイチグンはレベル差という大きなハンデを背負っているのだ。

 

 Lv100とLv55の死合いなど、まともな戦いにはならない。

 

 大人と子供以上の実力差があるのだから、一方的に嬲られて終了である。

 

 コキュートスの見立てでは、イチグンの身体能力などはLv80後半の前衛職に匹敵するとのことだが、それでもLv10以上の実力差が存在しているのだ。

 その差は決して小さなものではない。

 

 

 しかもイチグンの種族は人間で、シャルティアは真祖(トゥルーヴァンパイア)なのだ。

 

 この種族における性能差というのも馬鹿には出来ない。

 

 人間の肉体は脆弱であり、ちょっとした手傷が戦闘に支障を齎す。

 

 もし腕一本でも失ってしまえば、継続戦闘は不可能だろう。

 

 

 対して吸血鬼は屈強であり、ちょっとした手傷などものともしない。

 

 腕一本失おうが、直ぐに新たな腕を生やして戦うことが可能である。

 

 

 そしてアンデッドという種族特性もあり、各種状態異常や耐性に関しても滅法強い。

 

 それはつまり、毒や精神異常などの搦め手を用いた戦法が通用しにくいということだ。

 

 

(……そんなシャルティアとイチグン様が戦うことになる)

 

 

 下手をすれば瞬殺で、イチグンは見せ場をつくることなく公開処刑される破目になるだろう。

 

 そんな危険な対戦相手を宛がうなど、とても正気の沙汰とは思えなかったのだ。

 

 

「フフッ、シャルティアと彼が戦うことが不安かデミウルゴス?」

 

「……はっ、誠に不敬ながら。まともな死合いになるかも怪しいと思っております。

シャルティアは只の近接戦闘に特化した戦士職ではありません、近接戦闘も熟せる高位の魔法詠唱者ですから」

 

 

 物理攻撃を遮断する防壁も張ることが出来る上に、遠距離からの魔法攻撃も可能。

 

 元々高い吸血鬼としての身体能力を、補助魔法などで底上げされたら太刀打ちできない。

 

 あらゆる状況に対応出来る万能性。

 だからこそシャルティアは階層守護者で最強と言われているのだ。

 

 生粋の戦士職であるコキュートスが相手の方が、まだ勝算があると言えるだろう。

 

 

「普通ならばそうなるだろうな。

――だが彼にはとっておきの切り札(ジョーカー)がある」

 

 

 しかし、アインズの考えはまるで真逆であった。

 

 寧ろシャルティアが相手だからこそ、彼の力が猛威を揮う。

 

 魔法詠唱者としても高い実力を持つ相手にこそ、その異常性がより際立つのだ。

 

 

「私の考察では、イチグンさんの勝率は3割……いや4割はあるだろう」

 

「……それほどのものなのですか?」

 

 

 アインズが深く頷いたことで、ゾクリとした愉悦がデミウルゴスに走る。

 

 嘗ての力を取り戻しつつある偉大なる支配者。

 その実力の一端を垣間見る機会を得ることが出来るのだ。

 

 これに勝る余興は、早々お目に掛かれないだろうとデミウルゴスは確信した。

 

 

「それに負けたとしても、拮抗した実力者であるならば配下達の評価も高まるだろう。

下手に召喚NPCを用いるよりも、良い案だとは思わんか?」

 

「成程、流石アインズ様ッ!

その常に数手先を予見する聡明な頭脳。まさにアインズ様こそが端倪すべからざる御方という言葉に相応しい存在でしょう」

 

 

そういって褒め称えるデミウルゴスに、気分良く頷くアインズ。

 

どうやら上司としての威厳を示せたようだとホッと一安心――したところで、鋭いキラーパスが発射される。

 

 

「是非ともそのような演目で、余興を準備させていただきます。

――しかし、一つだけ懸念事項があるのですが、宜しいですかアインズ様」

 

「うっ、うむ!?な、何かにゃデミウルゴス君」

 

 

 質問されたアインズは若干キョドリながらも静聴する。

 

 そんな主に対し、デミウルゴスは自らの懸念事項を伝えた。

 

 

「シャルティアは階層守護者。

その役割上、もし死亡した場合は蘇生魔法による処置の対象外となり、強制的にユグドラシル金貨5億枚を消費しての復活になるとイチグン様より聞き及んでおります。

その点に関しては、問題なしと判断しても宜しいでしょうか?」

 

「……あ゛っ」

 

 

 そうだったとアインズは思い出す。

 

 階層守護者達はユグドラシルのルール上、蘇生魔法の対象外なのだ。

 

 蘇生魔法乱用による階層守護者の戦力としての無限運用を抑制する為である。

 

 そのことをイチグンにも雑談がてら話したはずなのに、教えた張本人がすっかり忘れていたなど間抜けにも程がある。

 

 

 何とか切り返さなければと頭を悩ませるアインズ。

 

 ――その時、骨に電流走る。

 

 

「……ふっ、勿論それは判っているさデミウルゴス。

この課金アイテム『ばとるどーむ』を用いることで解決するつもりだ」

 

「おぉ、通常の方法では入手出来ないというあの伝説のアイテムですかっ!!」

 

 アインズが取り出した半透明の宝玉に、ざわざわと慄くデミウルゴス

 

 

 『ばとるどーむ』は、PvPの為に生み出された課金アイテムだ。

 

 ユグドラシルでは通常フレンドリーファイアは出来ないが、このアイテムに登録されたプレイヤー同士はダメージを与え合うことが可能。

 

 そしてこのアイテムは元々PvPの訓練用として造られたものである為、このアイテムを使用した状態で対戦相手に殺されても、一切のデスペナルティを受けずに復活出来るという効果があるのだ。

 

 

(……一応効果は確認済みだけど。階層守護者にも有効かどうかは不明なんだよなぁ)

 

 

 まぁ、いざとなれば宝物殿の金貨を使えば良いかなどと楽観的に考えるアインズ。

 

 度重なるイチグンの死と復活で、彼の生死概念も大分狂ってきているようだ。

 

 

「流石はアインズ様、私如きの心配事など杞憂でしたか。恐れ多い発言をお許しください」

 

「良い、お前の全てを許そう。今後も気になることがあれば、遠慮なく意見を述べるが良い」

 

 

 じゃないと取返しのつかないミスしそうだし。

 

 そんな思惑を飲み下しながら、魔王ロールを続けるアインズ。

 

 

 しかしそんな思いとは裏腹に、この『死亡遊戯』の企画立案こそが、イチグンにとって取り返しのつかない事態を招くことになるのであった。

 

 

 

 

 

 




 
 
流石、骸骨魔王。
息をするように死亡フラグ(イチグンの)を設立するとは。

死神の称号は伊達ではないな。

 
 

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