フォー・サイドがヤバい目に遭う!
仲間思いの良いチームなのにぃい!?
アインズさん、救いはないのですかっ!?
第七話「蜘蛛に絡められる蝶」改め、
「アインズに宜しく!」
そしてイチグンとシャルティアの勝負も決着!
果たして、勝利の女神は一体どちらに微笑むのだろうか?
天に舞うのは、深紅の鎧を纏いし戦乙女。
地を這うのは、両腕を失った狂戦士。
シャルティアはフワリと地面に舞い降りると、槍を構えてイチグンを見据えた。
シャルティアが空中という利を捨て、地面に舞い降りたのは、空中戦では圧倒的に相手に分があると判断したからだ。
魔力も残り少ないので、《飛行/フライ》による継続的なMP消費を避けるという狙いもあった。
そして彼が立ち上がるのを待つのは、この余興をこの上なく楽しんでいるから。
先ほどの不意打ちはあくまで挨拶代わりであり、彼女の目的はこの死亡遊戯の続行である。
決着は互いに死力を尽くした上で決める。
故に彼が闘える状態になるまで、シャルティアは静観する腹積もりであった。
再び始まった戦闘に闘技場に居た観客達は、更なる盛り上がりを見せるが。当事者であるイチグンとしては勘弁願いたい状況であった。
「――《中治癒/ライトヒール》」
身体の欠損も含めて治せる第5位階の治癒魔法を行使。失った両腕や身体中に空いた風穴を修復しようと目論んだが、それは不完全なものになってしまう。
身体に空いた風穴は塞がったものの、両腕の再生は叶わず。黒い靄のようなものに阻害されてしまった。
(……くそっ、やっぱ
シャルティアの持つ職業
シャルティアの攻撃によって与えられた手傷は、低位の回復魔法では癒すことが出来ない。
イチグンの持つ異能の効果により、身体に空いた風穴に関しては
しかし、両腕の治療だけはイチグンの異能の対象範囲外だった為、シャルティアのスキル効果が発動。結果として両腕は復元出来なかったのだ。
更に言うなら、その攻撃により『呪い』の状態異常も発動してしまった為、回復魔法によるHP回復すら出来ず、時間の経過と共にHPが減っていくという三重苦に陥っていた。
体力回復と両腕の治療を諦めた彼は、
真っ黒な義手が出来上がり、発狂するような痛みも幾分か和らいでマシになる。
地面に転がった大剣は拾わずに、真正面のシャルティアを見据える。
開戦時に使用していた朱槍が黒い義手から湧き出るように現れ、それをイチグンは新たな武器として敵の襲撃に備えた。
(……本当に、出鱈目な存在でありんすね)
一方でシャルティアは、そんなイチグンの様子を観察しながら驚愕していた。
系統を無視した魔法行使。
その上で生粋の戦士職並の近接戦闘能力を保有し、凶悪な召喚モンスターを手足のように使役することが出来る。
そんな出鱈目な力を保有する相手が、Lv55であり人間であるという事実。
今まで信じていた常識が崩れ去り、自らの力を根底から否定されるような気分になった。
(……切り札を切るにしても、相手の保有する力が判らないのが痛手)
時間停止が不発に終わり、障壁をすり抜けるようにダメージを与える力。
それはスキルなのか魔法なのか、それとも全く別のナニカなのか?
そんな未知の力を持つ相手に、自分の持つ切り札は有効打となり得るのか?
単純な彼女らしからぬ葛藤が生じてしまい、その迷いから距離をとり、敵を静観することを選ばせたのだ。
恐らく長期戦になるだろうと身構えるシャルティアに対して、イチグンは真逆の考えを抱いていた。
(――長期戦だけは絶対に駄目だ。
――短期で決着をつけなければ勝ち目がない)
複数のバフによるステイタスの底上げ。
それらの効果は、もう数分としない内に消えてしまうだろう。
度重なる猛攻により手傷を負って体力を摩耗しており、時間の経過と共に人間であるイチグンの身体の動きや思考は鈍る。
そうなれば驚異的な回復力を持つ吸血鬼。
シャルティア・ブラッド・フォールンを倒すことはより困難になるだろう。
更に数多のスキル・魔法・武技の乱用によるMP消費も決して馬鹿には出来ない。
何故なら彼は、現在も少なくない魔力を消費しつづけているのだから。
(……まさか眷属の召喚・使役コストのMP消費で、此処まで苦しむことになるとはなぁ。ゲームだとMP回復ポーション乱用で余裕だったのに)
イチグンのプレイしていたゲームでは、魔物を召喚している最中は術者のMPが継続的に消費される仕様だった。
そして消費されるMPも魔物の種類によって左右されるのだが、
MP自動回復やMP消費緩和の神器級装備を身に着けることで、今までは誤魔化して来たが。こうも激しい戦闘行為が続くと話は変わってくる。
(……せめて召喚・使役コストを軽減出来るランク技能を取得出来たら良かったんだけどなぁ)
だが残念なことに、そのランク技能はR8。
つまりLv80以上ないと取得できないものの為、Lv55のイチグンではどうあがいても取得出来ないのだ。
継続戦闘能力の高い
一対一。ましてや格上の相手との長期戦闘には向いていない。
つまり闘いが長引けば長引くほど、シャルティアが有利になるのだ。
故に彼は一撃の可能性に賭けることにした。
一度も実戦では使用したことのないスキルを使用する決断をする。
「
自らの体力と魔力が最高値の4分の1を切らなければ使用出来ない
トランペットを持って現れた4人の高位天使達に、流石のシャルティアも警戒する。
「――っ!!」
一体どんな攻撃を嗾けてくるのだろうかと身構えていた彼女であったが、召喚された座天使達は一目散に四散して逃げていった。
「……えっ!?」
思わずその行動を目で追ってしまったシャルティアの隙を突く形で、イチグンは特攻し。取り出した朱槍による攻撃を仕掛ける。
「くっ!!」
弾丸のような刺突攻撃を、槍の側面を殴りつけることで逸らすシャルティア。
その瞬間、まるで勝者を讃えるようなトランペットのファンファーレが鳴り響く。
トランペットの音と共に、イチグンの身体を緑色の燐光が覆い尽くす。
無防備に攻め込んでくるイチグンに対し、シャルティアはスキルを用いつつ槍を頭部目掛けて放つが、ガキンッという金属音と共に弾き返された。
「なっ!?」
ジンジンと痛む手首を無視しながら、バッとその場から飛びのくシャルティア。
余りにも不自然な感触に驚くも、その膨大な戦闘経験が即座に違和感の答えに気付く。
(……似ている)
ユグドラシル時代もダメージ判定のないオブジェクトなどを攻撃すると、このような不変の金属を殴りつけたような感触が返って来た。
この世界では味わったことのない久しい感触に、シャルティアの直感が彼の能力の本質を言い当てた。
「……む、無敵状態?」
「――ご名答」
そんなシャルティアに応えるように、ニッと笑いながら槍を振るうイチグン。
攻撃に傾倒した隙だらけの攻撃でも、シャルティアはダメージを与えられない為、反撃は許されず、躱すことしか出来ない。
トランペットの音が止むと同時に、緑の燐光も消える。
イチグンの動きが変わり、攻撃から一変、防御を重視した動きに変化した
「ま、まさかっ!?」
シャルティアは先ほど四散した天使達を視界の隅に確認する。
赤髪の天使がトランペットを演奏した瞬間。シャルティアの足がその場に縫い付けられたように動かなくなった。
距離をとったイチグンが二丁の長銃を取り出し、雨霰の如く銃弾を浴びせる。
「ぐっ!?」
シャルティアは巧みな槍捌きで銃弾を弾き返すが、全てを防ぐことなど到底不可能。
再びシャルティアの身体を銀の礫が蝕んだ。
演奏が止まると同時に、再びシャルティアが動けるようになった。
距離を詰め、猛攻を嗾けるイチグンの攻撃をボロボロになった肉体で何とかやり過ごす。
青髪の天使がトランペットを演奏した瞬間、シャルティアの動きが乱れる。
右手を出そうとすると左手が、左脚を出そうとすると右脚が動く。精神異常の効かないシャルティアが混乱状態に陥ったのだ。
「がふっ!!」
統制のとれない身体の隙を突かれ、腹部を槍で貫かれ血反吐を吐き出すシャルティア。
追撃しようとするイチグンを、何とか攻撃魔法で払い除けて距離をとる。
トランペットを掲げた黒髪の天使が、ファンファーレを鳴らした。
シャルティアは視界と音の一切を奪われて、盲目・難聴状態となった。
「――あぁ゛ッ!!」
攻撃の気配を察知したシャルティアは、なりふり構わず横っ飛びで転がる。
その獣のような直感でイチグンの槍による連撃を回避するも、完全には避けきれずに脇腹や脚を槍で抉られ大きなダメージを負った。
再び視覚と聴覚の戻ったシャルティアが、血反吐を吐き捨てながらイチグンとその後方に控える天使を睨み付ける。
(……あの天使共の加護か。……厄介でありんす)
召喚された天使自体は脆弱な存在である。
しかし、その天使が齎す福音は厄介そのものだ。
あのトランペットの演奏が、スキル発動の鍵となっており。それぞれ効果の違う4種類の恩恵を術者に齎すのだろう。
シャルティアは思考を加速させながら、一番厄介な天使を特定。
まず真っ先に破壊しなければならないのは、あの金髪の天使だと判断した。
確認は取れていないが、アレが恐らく術者を無敵状態にする天使だろう。
シャルティアは
凄まじい速度で射出された光の槍が、少女型の天使に向かって放たれる。
ワタワタと慌てるような仕草を見せる天使であったが、もう手遅れだ。その身は串刺しにされるだろう。
「――その行動は読んでたさ」
そんなシャルティアの反応に対し、イチグンはニヤリと嗤う。
天使の持っていた金色のトランペットがグネリと変形し、黒いスライムとなって天使の前に躍り出た。
〈R5:我が身を盾に〉
天使の代わりに攻撃を受けたスライムは、その聖なる白い槍に貫かれ消失。
死に際に反撃と言わんばかりに、邪悪なる黒い槍が放たれる。
「……くっ、がっ!!」
高威力の
強酸性の毒性の強い黒槍が凄まじい速さで飛来し、シャルティアの華奢な身体を串刺しにした。
毒の効かぬ吸血鬼だが、身に着けていた装備は別である。
頑強な鎧は溶かされて、黒い槍が無防備な柔肌に直接ダメージを与える。
更に其処を起点として酸が侵食し、シャルティアの防具を劣化させていく。
溶け落ちた鎧の隙間から、彼女の白蝋のような肌が露わになった。
槍を杖代わりにして、倒れそうな身体を支えるシャルティア。
そんな彼女を無機質な瞳で見下ろすイチグン。
「……もう終わりにしないか?」
「……かふっ!!……フフッ、そんな冗談は好きじゃありんせん。
こんな心踊る戦いを途中で投げるなんて、馬鹿な妾でも無理でありんす」
そういって力強く立ち上がったシャルティアは、口元の血を腕で拭い取り。ニコリと笑いながらスキルを発動する。
「
シャルティアは血で造られた短刀を逆手に握り、勢い良く心臓を貫いた。
唐突な自傷行為に思わず固まるイチグンだったが、観客席で戦況を眺めていたアインズは違った。
「――ッ、ペロロンチーノさん。
そんな切り札まで仕込んでいたのかっ!!」
その行動の意味を理解した彼は思わず叫ぶ。
血の代償を支払うことで得られる恩恵。
それは自らの召喚する
そしてシャルティアの持つ最大の切り札は――
「
自らと同等のステイタスを持つ
死の間際で代償を払う程に効果が向上する。
そしてシャルティアは戦況を見誤らなかった。
死に瀕した状態で、自らが滅びうる一歩手前の代償を捧げたのだ。
Lv100のステイタスを遥かに凌駕した眷属が顕現する。
白い燐光を放つ天使が槍を掲げると、イチグンの視界から消え失せた。
「……なっ!?」
魔法による転移などではない。
純粋な素早さによる高速移動。
視界から白い戦乙女が消えたと同時に、フィールドの四隅に浮かんでいた四人の天使達が炸裂音と共に居なくなる。
エインヘリアルの刺突攻撃で全て消し飛んだのだ。
そしてイチグンの死角から迫る影。
反射的に
「ごふっ!?」
砕け散る黒い破片と共に、フィールドの端まで吹き飛んでいくイチグン。
その勢いのまま闘技場の壁に激突し、両脚が在り得ぬ方向に捻じ曲がった。
痛覚すらなくなり、意識が飛びそうになるのを必死で耐えることしか出来ない。
そんな牙の折れた狂戦士の姿を眺めながらも、シャルティアは獲物を追い詰める狩人の如く、一切の油断も慢心せずに魔法を発動する。
「《魔法三重化/トリプレットマジック》
《大致死/グレーター・リーサル》×3」
膨大な負のエネルギーを産み出し、それを糧として傷ついた肉体を修復。
捻じ曲がっていた指先や腕は元に戻り、ポッカリと身体に空いた大穴も、瞬く間に塞がっていく。
体力も万全とはいかないまでも、負のエネルギーを吸収したことにより四割方回復した。
シャルティアのMPは全て尽きた。
スキルも殆ど使い終えてしまった。
切れる札は場に出し終えて、後はゲームの幕引きを待つのみとなる。
「……これで終わりにしますか?」
満身創痍となり壁に凭れ掛かったまま動かぬイチグンに、鈴のなるような声で問いかけるシャルティア。
(……はははっ、なんじゃそら)
先ほどとは真逆の立場であるなと、自らの置かれた苦境に笑うイチグン。
成程、シャルティアの気持ちが良く判った。
これでは終われない。
終われるはずがない。
――まだ自分は切れる手札を全て出し切っていないのだから。
漢の意地にも似た負けん気がイチグンの心に湧き上がり、萎えかけていた闘志に炎が灯る。
朦朧とした意識を持ち直すように唇を噛み千切り、その肉片と共にベッと地面にどす黒い血を吐き出す。
脇差ほどの長さの刀を取り出したイチグンは、グチャグチャに折れ曲がった自らの両脚を、太腿から躊躇なく斬り落とした。
「ぐっ、あ゛ぁっ!!」
激痛と共に鮮明になる五感。
斬り落とした両脚を押し退けるようにして、先ほどの攻撃で飛び散った黒い欠片がイチグンの足元に集束して変形。
彼を支える足となり、戦士を雄々しく立ち上がらせる。
「……フフッ!!ウフッ!!アハハハハッ!!」
そんな彼の姿を見て、紅い瞳を爛々と輝かせながら声高らかに笑う吸血鬼。
まるで極上の料理を前にした美食家のように、ペロリと舌なめずりしながら頬を紅く染め、恍惚の表情を浮かべる。
獰猛な四足獣のように身を屈めるシャルティアと、それに合わせるように槍を構えるエインヘリアル。
白と赤に彩られた戦場の乙女。
鏡合わせのような槍の切っ先が、等しく敵に狙いを定め、その命を穿たんとする。
そんな絶対絶命のタイミングで、イチグンの口が僅かに動いた。
「……何故……俺が……スキル……を……なかっ……判るか?」
「えっ?」
荒々しい呼吸音と共に紡がれたその言葉。
この乱戦の場では聞き逃してしまいそうな程にか細い声であったが、研ぎ澄まされたシャルティアの聴覚には、その言葉がハッキリと聞こえた。
『何故俺がスキルを使用しなかったか判るか?』
その言葉を耳にした瞬間。
シャルティアの脳裏には、今までの戦闘が走馬燈のように流れる。
激しい乱戦の記憶。
彼の眷属が天使のトランペットに擬態し、スキルを用いた反撃はしていた。
しかし、彼本人は
あれだけチャンスがあったのに、何故追撃にスキルを用いなかったのか?
否、使わなかったのではない。
既に彼はスキルを使用している最中だったのだ。
「――最初から、この一撃に賭けてたんだよ」
シャルティアの切り札
その存在を最初からイチグンは知っていた。
故に何時使用されるか判らぬ切り札を警戒しながら、シャルティアと戦わなければならなかったのだ。
自らのステイタスと同じ分身を召喚される。
そうなれば最早小細工など通用しない。
格上二人を相手どっての戦闘など勝ち目はないと理解していた。
故にイチグンは、自らの切れる手札で最善の役を選んだ。
『ならば両者とも一撃で屠るしかない』と。
効果はこのスキルを使用した後に用いる攻撃スキルの威力向上。その倍率は自身のHPMPが少ないほどに高まる。
攻撃スキルを能動的にチャージ出来る。
チャージした時間だけ対象となった攻撃スキルの威力が向上。チャージ中は魔法・スキルの使用に制限が掛かってしまう。
イチグンは
即座に
その後、とある攻撃スキルを
(もうこれで終わってもいい……だから……ありったけを……)
死に瀕した英雄の御霊が、これでもまだ足りぬと叫び、彼に新たなる力を授ける。
武技〈限界突破〉
武技〈脳力解放〉
武技〈能力向上〉
武技〈能力超向上〉
今まで扱えなかった武技を重ね掛けで発動。
刹那の一瞬、自らの潜在能力を極限まで高める。
白く眩い燐光がイチグンの全身を包み込み、祝福の鐘が鳴り響く。
その神秘的な白い光は、イチグンの握り締めた槍に集束する。
本来は
あらゆる劣勢を根底から覆す。
覇王が放つ蹂躙の一撃。
「――喰らえ。
ジェノサイドォッ……ブレイバァアアッー!!」
それは光の奔流であった。
槍の先から放たれた紫炎の波動が、上下左右放射線状に広がる。
攻撃性能が高いということもそうだが、何よりも特出すべきなのが、その馬鹿げた殲滅能力である。
使用者のバフなどによって上昇したステイタスに比例して、攻撃範囲が拡大されるのだ。
極限までステイタスを向上させたイチグンの
ゲームでは絶対にあり得ぬ、桁違いの威力で放たれたその攻撃は、幾重にも施された頑強な結界を内側から食い破り、大きな蜘蛛の巣状の亀裂をつくった。
「――――あぅっ!?
《魔法最強化/マキシマイズマジック》
《魔法効果範囲拡大化/ワイデンマジック》
《魔法三重化/トリプレットマジック》
《結界修復/プリズン・リカバリー》×3!」
その危うさに気が付いたマーレが慌てて観客席から立ち上がり、即座に結界修復の魔法を唱えた。
結界の規模がデカいだけに桁違いの魔力を持っていかれたが、何とか罅割れは収まり、観客席に被害が及ぶことがなかった。
余りに規格外の出来事に、ポカンと呆けたまま動けなかった骸骨魔王も漸く我に返り、配下のファインプレーを褒め称える。
「よ、良くやったマーレよッ!!」
「は、はぃ!お役に立てて何よりですアインズ様ッ!」
屈託のない笑みを浮かべて喜ぶマーレには悪いが、アインズはとても笑えるような状況ではなかった。
自分や階層守護者は兎も角、下手をすれば観客席の配下達は全員纏めて灰になっていただろうと肝を冷やす。
当然、そんな爆心地である闘技場は酷い有様であった。
「……闘技場無くなってるじゃん」
アウラが死んだ魚の目で、土煙の立ち昇る闘技場を見つめる。
自らの管理している第6階層の闘技場。その4分の3程が綺麗に抉れて更地になっていたのだ。
丹念に積み上げられた外壁は消滅し、随分と風通しが良くなってしまった。
コレを全て元通りにするのは私の仕事なのだろうかとゲンナリする。
「……結局、どちらが勝ったのかな?」
「……さぁ、両方死んだんじゃない?」
双子の弟であるマーレの素朴な疑問に、姉のアウラは投げやりに答える。
あんな爆心地の中心部に居たのでは、どちらか一方は確実に死んでいるだろう。
立ち昇っていた土煙が徐々に薄くなり、闘技場の様子が鮮明になっていく。
皆が固唾をのんで見守る中、土煙から現れたのは――
「……ゴブッ!!……あ゛ぁ、もうぐそったれっ」
「フフッ、間一髪でありんした」
腹部を槍で穿たれ、手足を失った状態で壁に磔にされたイチグンと、ボロボロになりながらも、勝者の笑みを浮かべて槍を握るシャルティアであった。
シャルティアとイチグンの勝敗を分つ鍵となったのは、咄嗟の機転と地力の差であった。
シャルティアはイチグンの攻撃を受けきれないと判断するや否や、ステイタスの上昇したエインヘリアルをイチグンに突撃させ肉盾とし、地面に向けて
槍先を起点として放物線上に広がる
シャルティアはイチグンの近くにおり、即座に地面に穴をあけて地中に身を潜めた為、攻撃の射程範囲外へと逃れることに成功した。
そして攻撃をやり過ごした後は、土煙に紛れて突撃。精魂尽き果てたイチグンは躱すことが出来ずに壁に磔にされたのである。
もしエインヘリアルのステイタスが向上していなければ、肉壁としての役割を果たせずにシャルティア諸共消し飛んでいただろう。
もしシャルティアが咄嗟に機転を利かせなければ、イチグンは勝利を収めることが出来たかもしれない。
だがそれも含めて勝負は時の運である。
勝利の女神はシャルティアに微笑み、イチグンは選ばれることが無かった。
――ただそれだけの話なのだ。
「素晴らしい余興に付き合って戴き、誠にありがとうございましたイチグン様」
シャルティアは得物を手放すと、壁に磔にされたままのイチグンに、淑女のように優雅な一礼を魅せる。
そんなシャルティアの姿を見て、イチグンは苦笑いを浮かべながらも悔し紛れに呟いた。
「……いっそ、一思いに殺ってくれ」
「あい、判りんした」
次の瞬間、シャルティアの鋭い爪がイチグンの首を通過する。
胴体から切り離されたイチグンの首は、コロコロと地面を転がりながら、シャルティアの空けた穴にスポンと入った。
「あ゛っ」
シャルティアの間抜けな声をBGMに、イチグンの生首は奈落の底へと落ちていく。
(……おむすびころりんってか?)
そんな下らないことを考えながら、彼の意識はグルンと暗転するのであった。
超エキサイティングッ!!
・読み飛ばしてもOK
今回の死亡遊戯で使用した
オリジナル魔法・スキル解説(※は元ネタ)
《結界修復/プリズン・リカバリー》
第10位階の補助魔法。
破損した結界などを元の状態まで修復できる。尚、消費するMPは結界の範囲や程度によって様変わりする為、コレを三重で発動したマーレはMP枯渇一歩手前になりました。
※完全オリジナル
《猛毒の霧/デッドリー・ミスト》
第7位階魔法。そのまんま猛毒の霧。
負のエネルギーも発生してるので、アンデッド系は回復も可能。
煙幕のように真っ黒な霧が辺りを覆い尽くすので、使い方を間違えると視界が阻害されます。
※完全オリジナル
《中治癒/ライトヒール》
第5位階の信仰系回復魔法。
《大治癒/ヒール》と違って、状態異常などは治せないけどそれ以外は変わらず。
※完全オリジナル
《鮮血の咆哮/ブラッティハウリング》
広範囲の殲滅魔法。亡者の咆哮と共に血の刃が襲い掛かる。闇属性の攻撃になるっぽいから暗黒魔粘体の恰好の餌食になりました。
※テイルズシリーズ。イメージとしてはエターニアが近い。
《
ランク5の魔法。かなり使い勝手の良い遠距離攻撃型。発動待機時間も短く、使用者の魔法攻撃力によって射程が変動し、物体貫通効果も付与されている。
これの上位魔法にはゲイ・ボルクがある模様。前提条件としてこの魔法を取得してないと覚えられないらしい。
※東方プロジェクト、レミリアのスペルカード
《飛翔/エーラ》
一部の種族しか覚えられない特殊な魔法。翼を生やして飛行速度を底上げします。《飛行/フライ》と併用しないと使えない為、《飛行/フライ》を取得した魔法詠唱者であることは前提条件となる。
イチグンは混沌召喚士の恩恵で取得出来た。
R4の魔法枠を一つ消費して覚えました。
※FAIRY TAILのハッピー
ただ跳ねるだけ。でも物理攻撃力と素早さの数値によって飛距離と射出スピードが変動するので、イチグンは肉体を銃弾のように飛ばすことが出来ました。
R3のスキル枠を消費してイチグンは取得。
※完全オリジナル
体力と魔力が最高値の4分の一以下の時に発動出来る。四人の天使を召喚し、演奏が聞こえる範囲で敵と自分に特殊な補助効果を与える。
金髪天使:自身を無敵状態
赤髪天使:敵を足止め
青髪天使:敵の動作混乱
黒髪天使:敵の盲目・難聴
これらの効果を上から順番にインターバルを挟みながら発動する。レベルの存在しないオブジェクト扱いの魔物なので混沌召喚士でも同時使役が可能。
それぞれに耐久値が存在しており、黒>青>赤>金の順で耐久値が高い。壊す順番を誤るとインターバルを挟みながらずっと無敵状態になる凶悪なスキルです。
ゲーム時代は術者の周りを飛び回っていただけなので、比較的楽に攻略出来たのに、現実世界では意志を持ち、敵から逃げ回る仕様になったので相手は涙目となりました。
※ロックマンエグゼ3、ララチューバ系チップ。
※バルバトスの神話
自らのHPを犠牲に使役する眷属の強化が出来ます。HPが四分の一以下で、且つこのスキルによって特定のラインまでHPを削ることによって発動。
失敗するとHPを削るだけの自滅技になったり、スキル使用でHP0となり死亡します。最初は召喚出来る眷属の数を倍に出来るとか馬鹿げた効果にしてました。
※遊戯王カード
英雄を目指したいのは白兎の少年だけでなく、褐色肌の厳ついおっさんもです。
攻撃スキルを能動的にチャージして高威力でぶっぱなす。
白い燐光が身体から溢れ、鐘が鳴り響いたらフルチャージ完了の合図。
※ダンまち
言わずと知れた攻撃技。
超広範囲に高威力の攻撃をぶっぱするので堪らない。
ゲーム時代に泣いたのは私だけではないはずだ。
※テイルズオブデスティニー2
勇ましく川神魂を見せたイチグンに敬礼。
使うと高揚・好戦・中二病状態になります。
因みにこのスキル、任意発動スキルに見せかけた、自動発動スキルです。戦闘中に気分が高揚すると勝手に発動したりします。
※マジ恋
攻撃スキルや魔法を用いずに敵を倒すと、物理攻撃力と素早さが上がります。(尚上限はある模様)
故に大量の雑魚を嗾けるのは自殺行為でございます。
※ベルセルク
手足や背中から空気を射出。射出にはMPを消費する。至近距離で相手に向けて放つことにより、攻撃技としても使用可能。
イメージとしてはアイアンマンのリパルサーみたいな感じです。
※アイアンマン
文字が違うのはご愛敬。
斬撃と共に複数の鎌鼬が発生。地面で使用した場合は石礫も飛んでいきます。
※テイルズシリーズ
〈R5:我が身を盾に〉
暗黒魔粘体のランクスキル。
攻撃対象となった時、相手の近くに居た際に身代わりになることが可能。
本編では語られておりませんが、
因みに召喚モンスターは、プレイヤーとは別途Lv10毎にスキル・魔法を一つずつ覚える為、実質召喚系の職業を持つプレイヤーは、65種類のスキル・魔法を覚えることが可能になります。
故に同じ魔物でも、所有してるスキル・魔法によって性能は千差万別。ニグンの異能でLv66となっている暗黒魔粘体はR6のスキルが使えるのです。
※遊戯王カード
死に際程効果を発揮するスキル。
一日一回しか使えない上に、一度使用すると暫くの間、HPMPを回復出来なくなるというデメリットがあります。正に決死の一撃スキルです。
※完全オリジナル
イチグンの残機85→84。
GAME OVER. LOAD CONTINUE
⇒TO THE NEXT STAGE!