変更箇所
・腹パン、骸骨ボウリングネタ削除。
⇒土下座、余興被害ネタ追加。
・
⇒オンオフ出来ない&一部能力が弱体化しました
本日深夜オバロ放送!
先日は先走りましたが、今日こそはアインズに宜しく回だなっ!
そしてタイトルは『一握りの希望』なんて書かれているけど、どう見ても絶望しかない件について。
……もしかして餓食狐蟲王のアニメ登場もワンチャンあるかも?
余興が終わり、興奮冷めやらぬ闘技場跡地にて、二人の闘士が称えられていた。
シャルティアは喜色を隠せぬといった様子でアインズの前に立ち、キラキラとそのルビーのような瞳を輝かせている。
その姿は彼女の幼い容姿も相俟って、欲しかった誕生日プレゼントを心待ちにしてはしゃいでいる子供のようである。
一方でイチグンは無表情のまま静かに佇み、光沢のないオッドアイで虚空を見据えていた。
悟りを開いた修行僧のように落ち着き払ったその姿は、数多の死闘や苦行を乗り越えた歴戦の戦士そのものであった。
そんな彼の凛とした立ち姿に、ナザリックの配下達は見惚れ、敬意の感情を抱いた。
壇上に上がった二人に対し、王座に座ったアインズは賞賛の言葉と共に報酬を授ける。
「シャルティアよ。この度の余興は大義であった。そんなお前の忠義の報酬、そして勝者としての褒美にこのアイテムを授けよう」
「ありがとうございますアインズ様ッ!
今後もこのシャルティア・ブラッド・フォールン。御身に忠義を捧げ続けますッ!」
そういってメイド達が運んで来た本と指輪を、恭しく受け取るシャルティア。
それらを同時に褒美として賜ったシャルティアは有頂天となった。
「そしてイチグンさんも素晴らしい戦いでした。
嘗ての力を失いながらも、階層守護者最強に拮抗してみせたその実力は、流石としか言いようがありません」
「お褒めにあずかり光栄ですアインズさん」
そんな言葉と共に静かに会釈したイチグンに、一部の配下達から爆発的な歓声が巻き起こる。
どうやらこの余興で、熱狂的な彼のファンが生まれたらしい。
大歓声が巻き起こる中、アインズが両手を広げて配下達を諫めると、一瞬で闘技場内は静寂に包まれた。
そんな静寂の中で、アインズは支配者としての風格を漂わせつつ、配下達に語り掛ける。
「皆の者、そんなイチグンさんがお前達に一言物申したいことがあるそうだ。
どうか彼の話を傾聴し、その事実を真摯に受け止めて欲しい」
そういってイチグンに視線を送ると、彼はコクリと静かに頷いて配下達に向き直る。
数多くの配下達の視線に晒されながら、イチグンは威厳ある口調で衝撃的な言葉を発する。
「君達ナザリックの配下には、致命的に足りないものがある――それは危機感だ」
その言葉にざわめく配下達を、右手に握り締めた槍を地面に打ち付けることで強引に黙らせるイチグン。
彼は鷹のように鋭い眼光で配下達を見下ろしながらも、力強い口調で語る。
「はっきりと言おう。君達は人間という存在を舐め過ぎだ。
優れた種族特性を持つ異形種ということに慢心するのは構わないが、その慢心が己を死に至らしめ、ナザリックを崩壊に導くだろう」
その辛辣な言葉に、ゴクリと唾を呑み込むナザリックの配下達。
十分な間を置いた後に、イチグンは更に言葉を紡いだ。
「今の私の身体は脆弱な人の身に過ぎない。
だが逆に言えば人の身であろうが、私程度の力を得られる可能性はあるということだ。
そんな人間達がナザリックの外では数百万、数千万と蠢いているのだぞ?
確かに大半の者達は、君達にとって取るにとらない些末な存在だろう。
だが中には飛び抜けた力を保有する者達も、確かに存在していることを理解して欲しい」
そんな相手に油断した者達が劣等種であるという差別意識の下に行動する。
それがどれだけ愚かしいことなのかを配下達は痛いほどに理解出来た。
そして配下達が危機意識を持った絶妙のタイミングでアインズが口を挟む。
「故に私は暴力による高圧的な世界征服ではなく、人間種・亜人種・異形種の垣根を超えた国家を築くことによる平和的な世界征服を目指そうと思う」
種族の区別なく優秀な人材を囲い込み、それらを国力として他を圧倒する強国を築き上げる。
そして長期間に渡り善政を敷きながら、民草の心を陶酔させることにより、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に轟かせ、不変の伝説とするのだ。
そんな支配者の壮大な計画を聞かされて、配下達の心は感動で震えていた。
自らの考えていた陳腐な暴力による支配など、霞んで見える程にその計画が魅力的に思えたのだ。
「故にその下準備として、私自らが市井の調査を行いながら、優秀な人材の勧誘を行っていこうと考えている」
冒険者モモンとして活躍することで名声を獲得。その過程で将来利益となり得る優秀な人材に目星をつける。
そして裏では魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンとして暗躍し、将来魔導国を創る為の下地固め。
その数十手先まで考え抜かれた計画と、支配者自らが先陣を切って動くという行動力に慄きながらもアインズを讃える配下達。
――実際のところ、そんな計画の大半はデミウルゴスが立案し、それをイチグンが監修した上で出来上がった将来設計なのだが、そのような事実は狂信的な配下達にとっては些末な事実である。
「そして冒険者として行動する際、様々な事象を考慮した結果。私は配下としてルプスレギナを同行させ、イチグンさんにサポートして貰うのが理想的であると判断した」
真っ赤な嘘である。
単に自分がイチグンと一緒に冒険を楽しみたいからであり、その旅に堅苦しい配下や人間関係で問題を起こしそうな配下を同行させたくないというのが本音だ。
だが今までの計画を聞かされた配下達は、そんな主の我儘すら深い意図があっての行動だと思い込み、すんなりと納得した。
「そして私が不在の時は、このパンドラズ・アクターの命に従って行動するように心がけろ」
「アインズ様よりご紹介に与りました。パンドラズ・アクターです。
力及ばずとも、我が創造主より与えられし大役、しかと演じ切って魅せましょう」
そういって大袈裟なリアクションを取ることなく、スッと静かに頭を下げるパンドラの姿に、アインズはウンウンと頷きながら上機嫌になる。
「ハハハッ、謙遜はしているが、コイツは私が自らの手で創造した自慢の配下だ。
パンドラは
頭脳もデミウルゴスに並ぶ切れ者であるし、パンドラならあらゆる状況に対応出来るだろう」
そんなアインズの言葉を聞いて、配下達は驚きの声を上げる。
アインズ自らが生み出した被造物という事実だけでも、ナザリックにおいて大きなステイタスなのに、至高の御方の力を扱うことが出来、ナザリックの頭脳として名高いデミウルゴスに並ぶ知恵者という有能さ。
流石はアインズの造り出した被造物であるとパンドラを褒め称える配下達であったが、そんなパンドラの心境は穏やかではなかった。
(ん~っ、アインズ様ッ!!その尊いお褒めの言葉だけで、私の忠誠心が躍動しそうですッ!
嗚呼……是非ともこの場で、全身を使い、この湧き上がる感動を表現したいッ!)
必死でそんな己の衝動を抑え込むパンドラを尻目に、アインズは淡々と指示を下す。
「そしてアルベド。お前はそんなパンドラをデミウルゴスと共に補佐するのだ。
守護者統括として運営管理能力に長けたお前なら、安心して任せられる」
「――はい、判りましたアインズ様」
そういってニコリと笑うアルベドであったが、彼女の内心は穏やかではなかった。
普通であればパンドラの担う役割は、守護者統括である自分が行って然るべきだからだ。
それなのに、自分はアインズの代行役を降ろされ、名前しか知らぬような領域守護者の補佐に徹しろと命じられた。
それは彼女にとって、堪らない屈辱であった。
それでも愛するアインズの命であると、苦渋を飲み下し命を受け入れたアルベドは、悔しさから無意識に拳を握り締める。
そんな彼女の様子を壇上から眺めるイチグンの心境は、非常に苦々しいものであった。
(……心苦しいが、コレは必要な処置だ)
実はアインズ不在時の代行役であったアルベドを降ろし、パンドラの補佐に宛がうように誘導したのは他ならぬイチグンである。
イチグンがアルベドを代行役として据えさせなかった理由は単純明快だ。
――彼女が何をしでかすか、一切判らなかったからである。
これからイチグン達は外の世界を調査する為、ナザリックに滞在する時間も必然的に短くなる。
アインズ不在をいいことに、嫉妬に狂ったアルベドが、自分を排除する為にとんでもない強行策を行うかもしれない。
そんな相手に、アインズの代行という大きな権力を与えてしまうのは悪手でしかないのだ。
故にイチグンは、それとなくアインズにパンドラを代役に据えるように提案した。
アインズへの忠誠心が高く、有能なパンドラがトップに立てば、アルベドは暴走しにくくなる。
更に目端が利くデミウルゴスを同じ補佐としての立場につけることで、彼女の不審な動きを牽制する狙いもあったのだ。
(……こうなることは予想出来たのに、
イチグンは
だからこそ、何とかそんな彼女の敵意を逸らし、友好的な関係を築こうと画策した。
しかし、その結果は大失敗。
いや、対策を打つのが遅すぎたというべきか。
イチグンが動いた時には、既に彼はアルベドの怨敵であり、排除すべき危険な存在として認識されていたのである。
イチグンがアインズとの仲を取り持とうと動いても、それすら何らかの罠であると疑い拒絶する。
最早、真面に交流出来るような状態ではなかったのだ。
そんな最悪の関係性であるにも関わらず、アルベドはイチグンの前では仮面を被り、笑顔を浮かべて当り障りのない対応をしていた。
造り物の笑顔を浮かべながら、如何に自分を陥れてやろうかと画策しているアルベドの姿に、イチグンは過去のトラウマが甦り、苦手意識から彼女に深く踏み込めなかった。
無論、この問題をアインズに相談することもイチグンは検討したが。大いに悩んだ末に、彼はアインズに言うべきではないと判断した。
それは
計画は実行段階に移っていたが、それも今回の余興により白紙に戻っただろう。
その状態でアルベドの暗躍をアインズに伝えたところで、ナザリックに不穏の種をばら撒くことになるだけだ。
下手をすればアルベドが暴走し、なりふり構わない手段を用いるかもしれない。
故にイチグンは、アインズには『彼女は嫉妬心故に暴走するかもしれない』程度の警告だけに留めており、自分を抹消しようと動いていた事実は伏せた。
――そして結果が、このザマである。
(……敵意を剥き出しにするナーベラルの方がまだマシだ)
イチグンは経験上知っている。
笑顔の悪意ほど恐ろしいものは存在しないと。
だからこそ彼は、最低限度の保険を打たねばならないと判断し。今回のような策を打つ破目になってしまったのだ。
直ぐに解決出来るような問題ではない。
時間を掛けながら、ゆっくりとこの難題に向き合っていこうと考えたのだ。
この施策が吉と出るか、凶と出るかは誰にも判らない。
――ただ一つだけ言えることは、一度投げられた賽は、二度と元には戻せないのだ。
・・・・・・
旅立ちの演説が終わり、自由解散となった配下達は、未だに興奮冷めやらぬといった様子であった。
皆口々に語るのは、アインズの世界征服の概要と余興で見たイチグンの雄姿である。
中でも戦闘に特化した配下達の、イチグンに対する評価の変わりようは凄まじかった。
嘗ては陰口を叩いていた者達が、クルリと掌返しで彼を讃え崇めていたのだ。
彼が人間であることを卑下するものなど誰もいない。寧ろ人間で在りながらアレほどの力を示した事実は、彼の評価を高める要因にしかならなかった。
暴力というのは一種のカリスマであると、判り易く実感できる出来事である。
そしてそんな活気溢れる闘技場跡地でも、一際賑わっているのが出店のようなものが立ち並ぶ空間である。
其処では有志で集った者達が忙しなく動き回っており、商いに精を出していた。
「此方はイチグン様のふぃぎゅあっすよ~。
初回版数量限定、一体4000
「大変、お買い得ですわぁ~」
「3つとも下さいッ!」
イチグンの姿を模した人形を売り捌くルプスレギナとエントマに、
他の出店でも似たようなやりとりが行われており、皆が手に持った紙幣や金貨を用いて物々交換をする。
そんな光景を眺めながら、デミウルゴスは宝石のような瞳をキラリと光らせて呟いた。
「――ふむ、試験段階としてはまずまずといったところですか。
貨幣経済の仕組みに慣れる為の下地としては、今回の余興は絶好の機会ですからね」
そういってサラサラと書類を作成しながら客の動向を探る悪魔は、スーツが似合うこともあり、まるでやり手のビジネスマンのようだ。
イチグンの存在によってナザリックに齎された変化は大きい。
そんな大きな変化の一つが、配下達への給金制度と貨幣経済の導入である。
ナザリック地下大墳墓では、配下達が無償で働くのが当然であった。
しかし、それでは将来魔導国を設立する際に、配下達と原住民の経済意識における格差が激しくなり、余計な確執を生んでしまうのではないかとイチグンは懸念したのだ。
そんな不安を払拭しようとデミウルゴスが自発的に動き、ナザリックの一部の配下達に仕事に応じて給金を配る制度を造り上げ、将来魔導国でも用いる予定の金貨や紙幣をデザインし鋳造。
その上でそれらを消費する場を設け、疑似的な貨幣経済を配下達に体験させているのだ。
立案から実行に至るまで、デミウルゴスがこれらの仕組み作りに要した時間は僅か一週間弱。
しかも余興の企画進行など、他の大きな仕事と同時進行でやってのけたのだから恐ろしい。
彼なら手書きノートの複製も、一晩と言わず一時間でやってのける。
そう確信できるぐらいの仕事の速さである。
そんな様々な思惑が複雑に絡み合った出店運営において、一際異彩を放っているテナントがあった。
他の出店は仮設テントなのに、その場所だけは近未来的な建造物が建てられている。
其処に蜜に群がる蟻のように集まる配下達。
その長蛇の列は建造物に収まりきらず、店の外観を覆い隠していた。
建物の中で一般メイド達が接客対応する中、そんなテナントの経営責任者は店頭に立ったままジーっと長蛇の列を眺めている。
無表情ではあるが、時折満足気にコクコクと頷いているところを見るに、彼女の機嫌は頗る良いのだろう。
「どうやらシズの試作品も順調に売れているようですね」
「――んっ、好調」
そういって得意げにピースサインを掲げるのは、プレアデスの一人であり
彼女はデミウルゴスから科学開発部門の長に任命され、イチグンの知識を下に現代科学の発明品を再現。
それらに改良を加えた試作品を、この場を借りて大々的にアピールしながら販売しているのだ。
一般メイド達は彼女に頼まれて集まった助っ人であり、報酬として売り上げの一部が給金として支払われるので皆精力的に働いている。
「……おお、映像を記録する板かっ!」
「……これは凄いな。魔結晶と違って何度でも再生出来るぞ」
そんな数多くの商品の中でも特に人気だったのが、映像を音声と共に記録できるタッチパネル式のタブレットであった。
イチグンの居た世界のものと比べると、機能は随分とグレードダウンするが、一から造り上げた試作品として考えるならば上々。
魔道具とはまた違う科学製品に、客たちは興味津々といった様子であった。
そして何よりも優れているのが、コレは単なる科学技術で造り上げたものではなく、科学と魔法両方の技術を高度に組み合わせて造り上げた作品なのだ。
魔道具の造詣に詳しいパンドラも一枚噛んでおり、動力源は電気ではなく、大気中の魔力で稼働するように仕様変更されている。
そして魔法のスクロールのように貴重な素材を使った消耗品ではない為、繰り返し何度も使えるし量産も可能。
クリーン且つ、画期的なアイテムなのである。
そんなシズの手掛けた発明品の数々を眺めながら、デミウルゴスは彼女の努力を労う様に呟く。
「――どれどれ、私も仕事用に何か使えそうなものを購入するとしますか」
「――んっ、コレがオススメ。
値段は高いけど、事務業務に便利。セットで250000G」
そういって彼女が指差したのは、プリンターとパソコンの模倣品である。
まだまだ改良の余地はあるが、簡単なマクロソフトや書類作成機能は完備。
今まで手作業でやっていた書類作業の見直しや取り纏め、印刷複製などが簡単に出来ることもあり、デミウルゴスは即決で購入した。
「――流石、デミウルゴス様。大金なのに迷いがない」
「素晴らしいものは正当に評価されて然るべきですからね。
――それに私の出店したテナントも、シズの店に負けず劣らず稼ぎがありますし、このぐらいの出費ならば誤差の範囲内でしょう」
そういってチラリと窓の外を除くと、禍々しい雰囲気の出店に大量の配下達が群がっていた。
其処で店番を務めているのは、普段大図書館で司書として働いている
皆が露店に置かれた本を読んで感涙し、何やらオーバーアクションで決めポーズを取りながら、互いに講評し合っていた。
中には本とセットで、傍らに置かれた武器の
そんな意味不明な状況を見たシズは、コテンと首を傾げながらデミウルゴスに尋ねる。
「……アレ、何を販売してるの?」
「フフフッ、アインズ様とイチグン様の『伝記』と『格言集』ですよ」
そういって眼鏡を指先でクイッと上げ、誇らしげに語るデミウルゴス。
彼は二人の威光を配下達に浸透させる取り組みの一環として、イチグンやアインズの今に至るまでの歴史を過大解釈しながら書物として取り纏めていた。
そして今回の余興でイチグンが用いた
『伝記』と『格言集』として、露店で大々的に販売したのだ。
イチグンの雄姿に触発された血の気の多い配下達は、そんな伝記や格言集を挙って購入。彼の言動を真似ることで、一種の陶酔状態に陥っていた。
出店の傍に置かれた大量の武器も、よくよく見ればイチグンが余興で使用していた武器の
「――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「豚のような悲鳴を上げろッ!!」
浅黒い肌を持つ巨人が、身の丈に合わない槍を掲げて決め台詞。
豚の魔物が二丁の長銃を振り翳しながら、狂気的な笑みを浮かべている。
「――そう、なんだ」
そんな光景を見たシズは、スッと窓から視線を外して何も見なかったことにした。
ナザリックの底知れぬ闇を、垣間見た気分になったからだ。
有体に言って、カオスな状況である。
当人の知らぬ内に黒歴史が拡散され、ナザリックに厨二病患者が増殖した瞬間であった。
・・・・・・
活気溢れる闘技場跡地の雰囲気とは裏腹に、守護者統括であるアルベドは苛立っていた。
何故なら自らが計画していたイチグン抹殺計画が、全てご破算になってしまったからだ。
(……アレがLv55ですって?……巫山戯るなよあの毒蟲がッ!!)
(相手の持つ手札も不明ッ!この状況で動くには余りにもリスクが高すぎるッ!)
アルベドの練っていた抹殺計画は、あくまでイチグンが貧弱な存在であることを前提としたものであった。
幾ら余人を超える力を手に入れたとは言え、Lv55程度の相手ならばLv100の自分は余力を持って制圧出来ると考えていたのだ。
(甘かったッ!奴の狡猾さを楽観視していたッ!)
しかし蓋を開けてみると、敵はいつの間にか階層守護者に並ぶ実力を手に入れていた。
これでは計画を実行に移せない。
自らの計画実行に費やした根回しや労力は全て無駄となってしまったのだ。
無論、アルベドだって敵の情報収集は事前に行っていた。
イチグンがLv55となった際も、いち早く情報を仕入れたが、プレアデスのシズにやや劣る程度の実力であり、レベルも打ち止めとなったことも確認済みである。
だからこそ、その程度ならばと捨て置いていたのだが、それが完全に裏目となってしまったのだ。
(……先に実力の底を見せたのは罠。此方を泳がせる為の囮だったのね)
実力の底を見せたように匂わせつつ、情報を誤認させたまま裏で力を蓄えていた。
アインズに閉口令を敷くように誘導し、一部の配下達にしか正確な実力を開示しなかったのがその証拠である。
守護者統括としての仕事もあるアルベドは、多忙な責務の合間を縫って、他の配下達には気付かれぬよう水面下で行動していた為、十分な相手の情報を入手出来なかった。
故にナーベラルを草として配置したのだが、肝心のナーベラルは人間であるイチグンを心底見下しており、碌な調査もしないままに彼を雑魚だと決めつけて報告していた。
自分の目で一度確認していたこともあり、そんな彼女の報告をアルベドは鵜呑みにしてしまったのだ。
「……も、申し訳ありませんアルベド様」
そんな誤報を齎したナーベラルは、静かに猛るアルベドを前にして涙目となる。
思わず舌打ちしてあらん限りの罵声を浴びせたくなったが、寸前のところで思い留まる。
(……落ち着きなさいアルベド。それは完全に悪手だわ)
そんなことをしてしまえば、折角の協力者を失ってしまう。
それどころかナーベラルを経由して自分の企みがアインズに漏れ、守護者統括としての立場すら危ぶまれてしまうだろう。
そうなれば最早、抹殺計画を練るどころの騒ぎではなくなってしまうのだ。
アルベドは奥歯を噛み砕くことで怒りを抑え込み、引き攣った笑顔を浮かべながら彼女を慰めた。
「――誰にでも失敗はあるわナーベラル。これで敵の強かさが良く理解出来たわね?
奴を人間だからと侮るのは止めなさい……今後の貴方の働きに期待してるわナーベラル」
「……ア、アルベド様ッ!!
このナーベラル・ガンマ。必ずやその温情に応え、あの愚かなる
「――エエ、凄ク期待シテイルワ」
ナーベラルの残念すぎる返答に、思わず台詞が棒読みになってしまうアルベド。
駄目だコイツは使えないと烙印を押し、今後は自分も定期的にイチグンを監視しようと決意した。
「……はぁ~」
ナーベラルとの談合を終えたアルベドは、誰も居なくなった闘技場へと続く回廊で大きな溜息を吐きながら愚痴を零す。
「……本当に厄介な相手ね」
最早、認めるしかなかった。
あのイチグンという男は、この上なく危険で狡猾な害敵であると。
ただの暴力一辺倒の輩ならば、搦め手の策を用いてどうとでも始末出来る。
しかし奴は暴力を頼らず、その先見の明と智謀によって此方の行動を詰将棋の如く封じていくのだ。
奴の事を警戒していた自分ですら、その甘言に誑かされそうになったとアルベドは歯痒そうにイチグンとのやり取りを思い返す。
イチグンは冒険者のパーティーメンバーとしてアルベドを勧誘した。
守護者最硬の防御力を持つアルベドこそ、アインズの護衛に相応しいと。
アインズと共に居ることが出来ると有頂天になり、思わず首を縦に振りそうになったアルベドだが、寸前のところで思い留まった。
その行動の裏を読んでしまったからだ。
だからこそアインズと共に冒険したい想いを苦渋の決断で見送ったにも関わらず、更なる罠に絡めとられてしまったと忌々し気に歯噛みする。
(……あの狡猾な悪魔め。コレは二重の罠だったという訳ね)
アルベドの練っていた策は、守護者統括というナザリックを管理する立場だからこそ出来る暗殺であった。
故に冒険者として外に出てしまえば、それも出来ず暗殺を延期せざるをえない。
その間にイチグンはナザリックの配下達と結託し、自分を排斥するつもりだったのだろうとアルベドは深読みしたのだ。
真相はアルベドとアインズの仲を取り持とうとイチグンが動いただけなのだが、彼を敵と見做しているアルベドはそうは思わない。
結果としてアルベドは『守護者統括としての職務があるので』という尤もらしい理由でアインズとの冒険を自ら辞退。
まずは危険な外敵から排除しようと、泣く泣くアインズとの冒険を諦めたのだ。
だが漸く実行に漕ぎ着けた計画は、余興による示威行為で実現不可能であることがわかり、入念に練り上げた暗殺計画は全て白紙になった。
更にアインズを唆し、自らの守護者統括としての立場や職務までも取り上げた。
――これは見せしめであるとアルベドは判断し、悔しさや憎しみが心の奥底から溢れ出す。
「――糞がッ!!」
やるせない苛立ちが怒りの咆哮となり、その行き場のない怒りは暴力となる。
アルベドの剛腕で殴られた外壁に亀裂が走り、その破片が通路に崩れ落ちる。
そんな惨状を引き起こしても、彼女の心の靄は一向に晴れることはなかった。
人を誑かす悪魔のような巧みな話術で配下達を説き伏せ、次々と自分の陣営に引き込む手腕。
そしてナザリックに利益を齎すことで、瞬く間に確固たる地位を築いてしまった。
高い武力を持つコキュートスや、自分以上に頭の回るデミウルゴスが彼を全面的に支援しているのも最悪である。
このままではそう遠くない未来に、イチグンは新たなる至高の存在としてナザリックに迎え入れられることになるだろう。
そうなれば最早、自分の居場所など無くなるのは明白であった。
(……奴は確実に私の敵意に気付いている。
……幾ら笑顔で取り繕ってみても無意味だったという訳ね)
表面上は敵意を見せぬように細心の注意を払いながら行動していたのだが、それでも此方の害意を察知してイチグンは対策を打ってきた。
時には甘言で此方を誘惑し、便利な手駒として使い捨てようとする冷酷さも持ち合わせている。
だからこそ意に添わぬ行動をとった自分は、見せしめとしてアインズ不在時の代行役を降ろされたのだ。
そして自らの従順な手駒となったパンドラを、上位の命令系統に据えることで、此方の不穏な動きを抑圧。
更に保険として、デミウルゴスを同じ補佐としての立場に置き、此方の行動を監視させるという徹底ぶり。
その狡猾で悪意に満ち溢れた計画には、敵ながら天晴であると思わず脱帽してしまうぐらいだ。
(……奴は私をナザリックから排除するつもりね)
段階的に守護者統括としての信用や立場を奪い取り、自然な流れで敵対者である自分を炙り出して排除する。
そして自らを脅かす敵の居なくなったナザリック地下大墳墓で、イチグンはもう一人の支配者として君臨し、アインズから無償の親愛を受けるのだ。
愛してやまないアインズの関心も、自分の居場所も立場も、全てあの男の采配で奪い取られてしまう。
「――そんな未来は絶対に許されないわ」
ナザリック地下大墳墓の守護者統括はこの私なのだ。
アインズの親愛も、アインズを支える役割も、本来ならば自分が受けて然るべきものなのだ。
――
彼女は
「――愛していますモモンガ様。心の底よりお慕いしております」
彼女は守護者統括として見送って来た。
至高の41人と呼ばれる
一人、また一人と自分勝手な理由でナザリックを見捨て、現実世界へと帰還したまま戻らぬギルドメンバー達。
そんな彼らを嘆きながらも見送り、たった一人で配下達を護るためにナザリックを維持し続けたギルド長のモモンガ。
そんな慈悲深いモモンガの在り方に、彼女は配下としての立場も忘れて惚れ込んでいた。
自らの創造主であるタブラ・スマラグディナも含め、モモンガを惑わす存在は須らく彼女の敵であった。
故に彼女はアインズ・ウール・ゴウンというギルドが嫌いであった。
それらがモモンガの心を縛る鎖となっているから。
守護者統括の立場に誇りが持てるのは、モモンガから与えられた職位であるから。
モモンガと二人きりになれるのであれば、こんなギルドなど崩壊しても構わないとすらアルベドは思っているのだ。
だからこそモモンガの心と身体を、彼女は際限なく欲する。
――愛憎深いからこそ、モモンガに盲目的に恋しているのだ。
故に彼女はイチグンの存在を許容出来ず、相容れない。
――人が向ける愛情や関心は、有限であると知っているから。
その有限な愛情や関心を、
「……計画の練り直しね」
そう呟いた彼女の瞳には一切の迷いがない。
ドロドロと渦巻く愛憎の感情の赴くまま、彼女は最悪の未来を選択するのであった。
不穏過ぎる終わり方になりましたが、一応次回から外で冒険する予定です。
ルプー・モモン・イチグンの冒険活劇。
彼らのチーム名を何にしようか迷い中なので、何か良い名前があったら活動報告に提案を!(コッソリ提案したい方はメッセージでもOKです)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=192709&uid=243654
※チーム名【漆黒】は無しの方向にしようと思ってます。
※チーム名決定しました!