イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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いよいよ冒険者としての活動スタート!

そして皆さんが活動報告やメッセージに書き込んでくれた中から、無事チーム名も決まりました。

沢山の書き込み有難うございます。

チーム名はもうちょっと先の話で盛り込む予定なのでお楽しみに!


第21話 冒険と伝説の序章

 

 

 城塞都市エ・ランテル。

 リ・エスティーゼ王国の東に位置する領地であり、国王ランポッサⅢ世直轄の領地である。

 

 このエ・ランテルは、隣国のバハルス帝国、スレイン法国の領土に面しているため交通量は多く、物資・人・金を含めて様々なものが行き交い栄えている。

 

 しかし、それと同時に王国は帝国と戦争中であり、近郊のカッツェ平野が最前線となるため、大軍を受け入れるために巨大な食料庫が建設されていたり、都市を覆うように堅牢な城壁に囲まれているといった物騒な側面もある。

 

 故にエ・ランテルは王国内に置いても重要な都市として位置づけられている。

 

 戦争時の防衛の砦であり、貴重な税収の収入源でもあるからだ。

 

 

 そんなエ・ランテルには、様々な依頼を熟す冒険者が沢山おり、そんな冒険者達の間では、とある噂が飛び交っていた。

 

 

「なぁ、聞いたか法国で起こった事件?」

 

「嗚呼、聞いた聞いた。大量の魔物達が神都に現れたって奴だろ?」

 

「なんでも巨大な竜が現れて、無作為に暴れ回ったらしいぜ?」

 

「物騒な世の中だぜ……まっ、そんなことがあるから俺達冒険者も食っていけるんだけどな」

 

「ハハハッ、チゲェねぇ!」

 

 

 隣国であるスレイン法国で起こった出来事は、尾びれ背びれがつき、冒険者の末端まで情報が広がっていた。

 

 警戒心の強いものは、そんな情報の出所であるスレイン法国について調べるが、大半の冒険者達は他人事であり、寧ろ何かしら物騒な事件が起こらないかと期待していた。

 

 

 冒険者という職業は、皆の想像している以上に夢の無い仕事なのだ。

 

 よくある英雄譚のように、活躍出来る機会など早々には訪れない。

 

 

 依頼がなければ収入はないし、誰にでも出来るような依頼は底辺を彷徨う冒険者達の間で取り合いとなる。

 

 無論、冒険者としての地位が上がれば名指しの依頼などもあるので、そんな貧乏暮らしとは無縁かもしれないが、その場合はより命の危険に晒される責務を負うことになる。

 

 そもそも、冒険者として大成することが難しい。下っ端時代に無理が祟り、命を落としたり冒険者として致命的な手傷を負うなど日用茶飯事。

 

 冒険者に憧れ、一攫千金を夢見て田舎を飛び出たは良いが、そんな理想と現実のギャップに失望し、大半の者達が冒険者として活動することを断念する。

 

 汗臭く泥臭く華がない仕事。

 それがごく一般的な冒険者なのである。

 

 

 そんな冒険者達の屯う安宿には、昼間にも関わらず酒を煽り愚痴を零す者達が何人もいる。

 

 ここ最近は実入りの良い依頼が無く、その閉塞感が鬱憤となり、多くの冒険者達が金を稼ぐ機会や活躍の場を求めているのだ。

 

 そんな安宿のウエスタンドアが、軋んだ音を立てながら勢い良く開いた。

 

 扉の近くで酒を飲んでいた冒険者は、扉の開閉によって冷たい外の空気が入って来たことに顔を顰めながら、安宿に現れた人物にガンを飛ばす。

 

 

「ったく、人が気分良く酒飲んでる時に邪m――」

 

 

 しかし、ドアを潜り抜けて来た者達を見て、思わず男は口を噤んでしまった。

 

 入って来た者達の恰好が、余りにも場違いなものであったからだ。

 

 

 先陣を切って扉を潜ったのは、全身に漆黒の鎧を纏った大男であった。

 

 背中には二本の巨大な大剣を保有しており、その装備の煌びやかさはこんな寂れた宿屋だと一際映える。

 

 王族直属の騎士であると言われても納得できる、立派な出で立ち(いでたち)だ。

 

 

 続いて現れたのは、禍々しい朱槍と黒い軽鎧で身を固めた黒髪の男であった。

 

 顔面を全て覆い隠すような不気味な白い仮面を装備しており、その異様な雰囲気に皆は呑まれる。

 

 怪しげな魔術師のような、呪われた騎士のような。何処か浮世離れした雰囲気の槍使いであった。

 

 

 そして最後に現れた女性に、酒場に居た男達全員が息を呑んだ。

 

 修道服のような衣装を身に纏った赤毛褐色の少女。その姿から信仰系の魔法詠唱者であると予想出来たが、彼らが注目したのは其処ではない。

 

 ――その少女が余りにも美しすぎたのだ。

 

 

 スリットから覗く魅惑的な太腿。

 健康的な小麦色の肌に、豊かに実った胸部。

 

 顔の造詣はまるで神が造ったのではないかと思う程に精巧であり、その金色の瞳で見つめられるだけで、男達の情欲が掻き立てられた。

 

 

 そんな欲望や興味の入り混じった視線を受けても、三人組は気にも留めず。カウンターで険呑な表情を浮かべながら此方の様子を観察している宿屋の主の下へ向かう。

 

 しかし、そんな三人組に対してちょっかいを出す考えなしの冒険者達も居た。

 

 一人の冒険者が下卑た笑みを浮かべながら、三人の進行方向に足を突き出して妨害したのだ。

 

 

「……おっと、痛ぇなぁ。俺にぶつかっておいて、詫びもなしで去ろうとは良い度胸じゃねぇか」

 

 

 そういって立ち上がるのは、鉄級冒険者の男であった。

 

 そのチームメンバーである二人の仲間達もニヤニヤ笑いながら立ち塞がる。

 

 

「あ~あ~、脚の骨に罅が入ってんなぁ。

コリャ神殿で治して貰うのに金貨5枚は必要だぜ」

 

「何ならそっちのお嬢ちゃんが、一晩俺達の相手をしてくれるだけでも構わないぜぇ」

 

 

 相手を挑発する三人組と絡まれた新入り達を、興味津々といった様子で観察する冒険者達。

 

 ここではよくある新人いびりだ。

 

 彼らの首に下がった銅級の冒険者プレートを見て、この三人組は今日登録したばかりの新人冒険者であると判断したのだ。

 

 バハルス帝国で起こった貴族の大粛清により、冒険者やワーカーに身を落とした者達もここ最近は増えている。

 

 恐らく貴族崩れの者達が、なけなしの財産で鎧を買って冒険者として再起を図ろうと目論んだのだろう。

 

 

 見てくれは良いが、所詮は見掛け倒し。

 実力の差を思い知らせ、あわよくば美味しい思いをしようと考えたのである。

 

 

 この三人組は素行の悪さから鉄級に留まっているが、実力で言うなら金級に匹敵すると言われている面子であった。

 

 そんな三人組に対して、新入り達はどういった対応をするのか。

 

 

 刺激の少ない生活を送っていた冒険者達にとって、このイベントは娯楽であり、今後新入り達が冒険者として活躍するに相応しいかの篩にかける選別の儀式でもあったのだ。 

 

 そんな冒険者三人組のネットリとした情欲の視線に晒されたルプーは、ケラケラと可笑しそうに笑いながら言った。

 

 

「アハハハッ♪ 悪いっすけど、弱くて吠えるだけの雄には全然興味ないっす」

 

「「――ああああ゛っ!?」」

 

 

 天真爛漫な笑みを浮かべながらの毒舌に、三人組は一瞬唖然とし。その後、烈火の如く顔を真っ赤にして怒り出した。

 

 

「そうっすね~。せめて此処に居るイチグンさんの指一本分ぐらいの強さになったら考えてもいいっすよ?」

 

 

 彼女がそういうと、怪しげな仮面をつけた槍使い――イチグンがピクリと反応する。

 

 

(――ちょっ、おまっ!?何、挑発しといて俺に丸投げしてんだこの駄犬っ!?)

 

 

 いきなりキラーパスを渡されたイチグンは、驚愕の表情を浮かべながらルプーを凝視するが。残念なことに仮面ごしの為、そんな表情の機微は判らない。

 

 外野からは、気味の悪い仮面の男がルプーと絡んでいた男を一瞥し、溜息交じりに肩を竦めたようにしか見えなかった。

 

 

 それを見た男はピキピキと額に青筋を浮かべ、拳を握り締めながら叫ぶ。

 

 

「舐めんなよっ、この世間知らずのボンボンがぁああ!!」

 

 

 挑発された男は、ルプーではなくイチグンに向かって全力顔面パンチ。

 

 イチグンはその理不尽さに呆れながらも右手を掲げ、人差し指一本でその拳を受け止めた。

 

 

「――え゛っ?」

 

 

 体重の乗った拳を、指先一つで受け止められた男は、困惑しながら自分の右手とイチグンの人差し指を交互に見やる。

 

 イチグンは困惑する男の拳を払い除け、右手をスッと男の目の前に翳すと、そのままデコピンの構えをとる。

 

 

「武技〈手加減〉」

 

「――ぐぺっ!?」

 

 

 凄まじい炸裂音と共に弾きだされたイチグンの中指は、男の額に着弾。

 

 その衝撃によって男の身体はグルグルと回転しながら後方の壁に勢い良く叩き付けられた。

 

 

「「……え゛っ?」」

 

 

 指一本で人体を吹き飛ばすという離れ業をやってのけたイチグンに、その場にいた冒険者達は目の前で起きた出来事が脳で処理出来ず、ポカンと口を開いたまま動けなくなる。

 

 そんな中イチグンは、近くにいた大柄の男の両肩をガシッと掴み、プランと空中に吊るしあげながら一言。

 

 

「――君達も、お空を飛んでみたいかい?」

 

「「ひ、ひぃいいいッ!?」」

 

 

 その一言に、絡んできた冒険者の仲間二人は、恥も外聞もなく許しを請いながら、蜘蛛の子を散らすように安宿から逃げていった。

 

 

「……あぅ……うぁ?」

 

 

 仲間に置き去りにされた冒険者は、何が起こったか判らぬまま壁に寄りかかり、揺れ動く景色をぼんやりと眺める。

 

 グニャグニャと蠢く視界の中、人混みを掻き分けて男の前に現れたのは、修道服を身に纏った褐色赤毛の美女であった。

 

 

「ん~、確か左足が折れてるんでしたっけ?」

 

「……はへっ?」

 

 

 一体何のことだと男が考える前に、ルプーの右脚が男の左脚を踏み抜いた。

 

 ベギャと鈍い音を立てて圧し折れた男の左脚は、本来曲がってはいけない方向に捻じ曲がる。

 

 

おんぎゃああっ!?」 

 

 

 その激痛にぼやけていた男の意識は覚醒し、目鼻口からドパッと体液が溢れ出た。

 

 見れば股間からもチョロチョロと生暖かい液体が漏れているようだ。

 

 

「おやおや、痛そうっすね。大丈夫っすか?」

 

「ふひっ!?ふぐぅうううう!!」

 

 

 そんな台詞と共に、ニコニコと笑いながら男の顔を覗き込むルプー。

 

 男は筆舌し難い恐怖の感情から、折れた左脚を引き摺るようにして彼女から逃げ回る。

 

 そんな惨めな姿を見て満足したのか、ルプーは男に向けて手を翳し、治療魔法を行使する。

 

 

「《中治癒/ライトヒール》」

 

 

 男の折れ曲がっていた左脚は神聖なる光に包まれて正常な状態に戻り、正常な左脚を取り戻した男は、困惑と恐怖が入り混じった表情で、ルプーと自分の左脚を交互に見やる。

 

 そんな彼に対して、ルプーは目を薄く細め、嗜虐的な笑みを浮かべながら言った。

 

 

「いや~綺麗に治ったみたいで良かったっすね♪

――もし治せない怪我を負っていたらと考えるとゾッとすると思わないかしら?

 

「ひっ!?……うぁ、うびゃぁあああ゛ッ!?」

 

 

 赤子のように泣き喚きながら、群集を掻き分け宿の外へと飛び出す鉄級冒険者。

 

 あの三人組がこの宿を利用することはもう二度とないだろう。

 

 そんな行動の一部始終を見ていた冒険者達はドン引きしており、イチグンも額に手を当て嘆くように天を仰いだ。

 

 リーダー格の全身鎧の大男は、申し訳なさそうな声色で宿屋の主に話し掛けた。

 

 

「……騒がせて済まない。三人相部屋で宿を借りれないだろうか?」

 

「……一日10銅貨だ。部屋は二階にある。連れには騒ぎを起こすなと伝えときな」

 

 

 そんな宿主の言葉に、モモンはペコリと会釈して階段を上がる。

 

 そんな彼に続くように、イチグンは無言のまま階段を上り、ルプーも鼻唄交じりで二人の後を追う。

 

 静まり返った酒場で、新入り三人組を眺めていた冒険者達の誰かがポソリと呟く。

 

 

「……すげぇ新入りが入って来たもんだぜ」

 

「……色々な意味でな」

 

 

 彼らの武勇伝は瞬く間に広がり、冒険者達の酒の肴になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古ぼけたかび臭いベッドの上で、褐色の肌が艶めかしく踊る。

 

 薄っすらと紅く染まった褐色の肌を玉のような汗が伝い。艶めかしい吐息と共に、許しを請うような哀願の声が部屋中に響き渡る。

 

 

「んあっ!?イチグンッ様ぁ……激しいっす……超ヤバいっす!!」

 

 

 パンッパンッと臀部が叩かれる度に、ビクンビクンと断続的に震えるルプーの身体。

 

 瞳を潤ませる彼女を見ても尚、俺はその行為を止めることはなかった。

 

 

「――こんのぉ、駄犬がぁあああ゛ッ!!」

 

「きゃうぅううううんッ!?」

 

 

 ルプーを膝の上に抱え上げた俺は、猛烈な勢いで彼女の尻を叩いていた。

 

 先ほどのルプーの嗜虐欲求を満たす行為により被害を被った俺は、このままでは冒険に支障をきたすと彼女を躾けているのだ。

 

 

 最初は言葉で言い聞かせようとしたが、ルプーは何が悪いのかすら判っておらず。挙句の果てに『超うけたっすね、あの冒険者達の馬鹿面ッ!』などと言いながら腹を抱えてケラケラ笑う始末。

 

 そんな駄犬の姿を見て、俺は肉体言語で躾けることを決意した。

 

 

 彼女の臀部を力強く叩きながら、一体何が駄目だったのかを一から十まで耳元で囁きつつ、痛みと共にルプーの空っぽの脳味噌に叩き込む。

 

 まるで理解していない反応を見せた時は烈火の如く叱り、理解を示した時は褒めながら優しく頭を撫でるといった具合に、アウラ直伝の飴と鞭を用いた躾を数十分に亘り実行した。

 

 

 腫れあがった臀部は褒める際に回復魔法で癒し、再び回復した尻を叩くという無限ループ。

 

 流石のルプーもこれには堪えたのか、普段は帽子に隠されているケモ耳がシュンと垂れ、衣服から飛び出た尻尾もダランと力なく垂れ下がっている。

 

 

「――判ったかルプー?

別に性格を偽れとは言わんが、節度ある冒険者として活動する以上、限度や場所には配慮しろよ?」

 

「……ふぁぃっす」

 

「よしよし、良い子だなルプーは」

 

 

 最後にルプーのケモ耳の裏側を、コリコリと指で擽るように撫でて労う。

 

 

「ふひゃぁああああんッ!?」

 

 

 ルプーはビクンと大きく身体を震わせた後に脱力し、気持ちよさそうに目を細めたまま動かなくなった。

 

 

「……ふぅ~」

 

 

 そんなルプーをベッドに寝かせ、一仕事終えた俺は額の汗を拭って息を吐く。

 

 これで彼女の嗜虐欲求を満たす為の暴走も、許容範囲ぐらいには緩和されるだろう。

 

 冒険者として名声を高めたいのに、ヤバい奴らだと思われてしまっては元の木阿弥だからな。 

 

 

 そんなことを考えていると、コンコンと控え目にドアをノックする音が聞こえてくる。

 

 

「……終わりましたか?」

 

 

 古ぼけた木製のドアが少しだけ開くと、部屋の様子を伺うように全身鎧の大男がヒョコリと顔だけ覗かせる。

 

 やんわり言っても不審者である。

 

 

「……何コソコソしてるんですかモモンさん。三人で相部屋頼んだんだから、堂々と入ってこればいいでしょうに」

 

「……いやだって、ルプーの声が。それがそのぉ、実にアレでしてね?」

 

「……主語が抜けてて、まるで意味が判りませんよモモンさん」

 

「ぐぬぬっ、コイツ態とか?ワザとなのかッ!?

あえて聞き返すことで、俺の狼狽える様を眺めて楽しんでるのかッ!?」

 

「いや、本当に訳が判らないんですけど?」

 

「……ハァ~、まぁいいや。何でもありませんよイチグンさん」

 

 

 そういって喉元まで出かかっていた言葉を呑み込んで、呆れたように脱力する漆黒の騎士。

 

 良く判らないが、別にアインズさんを揶揄うような真似などしていないぞ?

 

 そんな下らないやり取りをしながらも、別行動をとっていた彼にその戦果を尋ねてみる。

 

 

「ところでモモンさん、バレアレ家とのコンタクトはどうでしたか?」

 

「ちょっと予想が外れましたが、5割方目的は達成したって感じですね」

 

 

 何でもバレアレ家にはンフィーレアが不在で、祖母のリィジーしか居なかったらしい。

 

 彼は生成したポーションを、エ・レエブルに直接納品しに行ったらしい。

 

 何で態々彼当人がそんな遠くまで赴くのだと思ったら、何でもエ・レエブルに上質の錬金道具が入荷されたらしく、それを買い求める為に態々遠征したらしい。

 

 金貨100枚という大金らしいので、一般人にはまず手が出せない代物だが、ポーション売買により潤沢な貯蓄のあるバレアレ家ならば余裕だろう。

 

 研究の躍進の為とあらば、手間や金を惜しまぬそのバレアレ家の姿勢が、高品質のポーション開発を可能としているのだ。

 

 

 そんな職人気質の相手に、研究の最大目標とも言うべき赤いポーションを渡したらどうなるか?

 

 

「イチグンさんの言う通り、四の五の言わず飛びつきましたよ。今後活動拠点をカルネ村に移してくれるし、孫も説得して連れてくると。

此方のお願いも無条件で快諾してくれました」

 

 

 よし、流石元営業マン。

 これで貴重な人材であるバレアレ家を、ナザリックの陣営に引き入れることが出来たな。

 

 

(しっかし、大分原作との乖離が激しいなぁ)

 

 

 冒険者モモンとして旅立つ時期がズレているので、当然と言えば当然かもしれないが、まさかンフィーレア不在だとは思わなかった。

 

 コレは他の部分でも大きな変化があると身構えておいた方が良いだろうな。

 

 そんなことを考えていると、アインズさんから特大の爆弾発言が飛び出して来た。

 

 

「そういえば、世間話がてらリィジーさんに聞いたんですけど、隣国のスレイン法国で大量の魔物が湧いて大変らしいですよ?

イチグンさんは何か心当たりはありませんか?」

 

「スレイン法国で?この時期はそんな出来事は起こってなかったはずだけど……その噂の詳細は聞きましたかモモンさん?」

 

「ええ、何でも土の都にある地の神殿ってところから、無数の死霊やアンデッドが湧き出て、数十万人に及ぶ死者が出たらしいです」

 

「ふ~ん、そうなんだ。――え゛っ?」

 

 

 サラッと聞き流しそうになったけど、ちょっと待ってくれ。

 

 ……土の都……地の神殿。

 そこで死霊やアンデッドが大量発生。

 

 凄く嫌な予感がプンプンするのだが、一応確認せずには居られない。

 

 

「……一つ確認したいことがあるんですけど、良いですかモモンさん?」

 

「はい、何ですかイチグンさん?」

 

「貴方の持つ攻性魔法防壁に、反撃で魔物を召喚したりする魔法ってありますか?」

 

「第8位階魔法をランダムで発動するように設定してありますので、あると言えばありますけど……え゛っ、まさか()()()()()ですか?」

 

「……恐らく()()()()()です」

 

 

 ――やりおったよ、この骸骨魔王。

 

 既に原作以上の大量虐殺を、この世界に齎してるじゃねぇかッ!?

 

 下手すりゃ黒羊召喚する以上の、未曽有の人的大災害だろコレッ!?

 

 

「……正当防衛だったってことで何とかなりませんかね?」

 

「……いや、ならんだろ。というかコレ最早取返しつかねぇよ」

 

 

 引き金を引いたのは向こう側なので、アインズさんが悪い訳ではないと主張したいところだが、スレイン法国側に齎した被害が大きすぎる。

 

 スレイン法国は人間至高主義であり、ナザリックの目指す国の在り方とは真逆の存在。

 

 しかも世界秘宝を幾つか保有しており、最大戦力である番外席次の戦力も未知数。

 

 

 そんな相手に喧嘩を売る行為は危険なので、此方の準備が整うまでは極力対立は控えた方が良いとナザリックの配下達に宣言したばかりなのに、既に喧嘩は吹っ掛けた後であったというオチ。

 

 向こう側もこの騒ぎの首謀者を血眼になって探しているだろう。

 

 ――実に最悪な展開である。  

 

 

(……というか、数十万人死亡って。えっ、コレ俺のせいか?俺がナザリックに介入したせいでこうなったのか?)

 

 

 余りにもスケールが大きすぎて現実味がなく、罪悪感すら湧かないんですけど。

 

 

 そんな風に頭を抱えながら悩んでいると、天井からスッと音もなく一人の忍者が現れて跪く。

 

 アインズさんが金貨を大量に消費して召喚したLv80を超える忍者系NPCのハンゾウである。

 

 

「アインズ様、御命令されたエ・ランテルの周辺調査が終わりましたのでご報告致します」

 

 

 そんな前置きと共に、ハンゾウの口から淡々と語られたのは、眩暈がするような内容であった。

 

 

 漆黒聖典のクレマンティーヌは不在。街中に潜伏している形跡もないらしい。

 

 秘密結社ズーラーノーンの活動拠点であった共同墓地の地下施設も、つい最近まで活動してた形跡こそ残っていたが、構成員たちは誰一人として居らず蛻の殻だったという。

 

 つまり、あのズーラーノーン十二高弟の一人であるカジッドもエ・ランテルに存在しないのである。

 

 

 そして本来起こるはずであったアンデッド大量発生事件も起こっていない為、エ・ランテルは平穏そのものであり、冒険者達は食い扶持に困る程、暇を持て余しているという。

 

 

(……大幅に計画が狂ったどころの騒ぎじゃないぞ)

 

 

 最早原作知識など殆ど役に立たない。

 

 俺はこの冒険の前途多難な状況を、改めて理解するのであった。 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

 

 俺が介入したことにより、原作は完全崩壊しました。

 

 故にこの先に起こりえる出来事は、全く予想出来なくなってしまった。

 

 

 だからといってやるべきことが変わることはないし、成すべきことは成さねばならない。

 

 冒険者としての地位を確立。有能な人材を確保。魔導国建国の為の裏工作に下地作り。

 

 外部へと進出する主な目的はこれである。

 

 

 故にまずは冒険者としての下地を造ろうとした訳だが、いきなり辛い現実に直面した。

 

 

「……しょっぺぇ、世知辛すぎるだろ」

 

「一体どんな依頼内容が書かれてるんですかイチグンさん?」

 

「……子守の依頼。しかも女性限定で育児経験ありの冒険者求むだってさ。報酬も激安で、これじゃタダ働きみたいなもんだ」

 

「こっちはどうっすか?報酬も多そうっすよ?」

 

「駄目、階級制限が掛かってる。銀級冒険者以上じゃないと依頼は受けられないってさ」

 

 

 冒険者組合に早朝から顔を出し、依頼が掲示されている板を漁ってみたのだが、どれもこれも酷いもんだ。

 

 まず階級制限があり、初心者の銅級冒険者は受託出来ない依頼だらけ。

 

 銅級冒険者に残された依頼は雑草毟りや子守などの雑務ばかりで、おまけに依頼者が貧乏な一般市民なので、得られる報酬も雀の涙のようなものだ。

 

 それで在りながら冒険者の階級を上げるには、地道に依頼を熟して組合の信頼を高め、その上で昇格試験まで受けなければならないのだ。

 

 冒険者とは、俺が想像していた以上に夢のない仕事のようである。

 

 

(……こりゃ、早めに手を打っておいて正解だな)

 

 

 普通の手段で冒険者の階級を即座に上げるのは不可能に近い。

 

 ならばやることは至極簡単である。実績と信頼を自分達で意図的に創り上げれば良いのだ。

 

 そうと決まれば果報は寝て待て。このままベンチに腰掛けて優雅に待つとするか。

 

 

「しかし、イチグンさんが居てくれて本当に助かりましたよ」

 

「そうっすね、私達じゃ文字読めないっすから」

 

 

 そういって二人は俺を褒め称える。

 

 先ほどまでのやり取りでも判ると思うが、俺はこの世界の文字を読むことが出来る。

 

 何故なら陽光聖典隊長ニグンとしての記憶が、この肉体には宿っているからだ。

 

 

 文字の読み書きが出来る。

 当たり前のことかもしれないが、文明社会においては欠かせない要素である。

 

 重要な書面を理解出来なければ、貴重な情報を取り溢すことになるし、相手に良いように騙されてしまう。

 

 文字が書けなければ、日常生活の様々な行動において支障が出てしまうだろう。

 

 アインズさんもルプーも現状は数字を読み上げるぐらいしか出来ないので、文字の解読を俺がカバー出来るのは、かなり大きなアドバンテージと言えるだろう。 

 

 

(……まぁ難点を挙げるならば、会話は全て日本語として自動翻訳されるみたいだから、現地の言葉と混同するんだよなぁ)

 

 

 どうやら言語に関しては、俺もユグドラシルプレイヤーと同じ法則が適応されているらしい。

 

 口に出した日本語が、この世界の言葉に自動翻訳されて原住民に伝わっており、逆もまた然り。

 相手の話した異世界言語が一番近しい意味の日本語に自動翻訳される。

 

 故に俺がこの世界の言語を用いて原住民に話し掛けたとしても、異世界言語を日本語と見做して自動翻訳が機能する為、相手には意味不明な呪文で話し掛けて来るヤバい奴にしか見えないのだ。

 

 だから読み書きは異世界言語、会話は日本語という二足草鞋に成らざるを得ない。

 

 ニグンの記憶がある故に文字は読めるが。ニグンの記憶があるせいで、油断すると異世界言語と日本語を混同して使いそうになってしまうのだ。

 

 

(……まぁそれはまだ良いだろう。

そのおかげでこの世界の文字を読めるというアドバンテージが得られたのだから)

 

 

 言葉に対する問題で、俺が最も苦悩しているのはそんな些細な問題ではないのだ。

 

 

「……」

 

 

 チラリと床を見ると、円らな瞳の仔猫が、愛らしい仕草で此方を見つめながら『何見てんだよ、キモイ仮面野郎』と罵声を浴びせて来る。

 

 壁の隅をチョコマカと動き回ってる鼠が、若い受付嬢のスカートを覗き込みながら『――白か。尻の形も考慮して75点。まぁまぁだな』などと渋い声で下着の酷評を下している。

 

 【闘神魔王】(バルバトス)の設定に『動物の言葉を理解できるなどの能力を有する』なんてフレイバーテキストの記載があるせいなのか。

 

 小鳥の囀り、犬猫の鳴き声、魔物の咆哮。

 意志を持つ知的生命体の声が、全て日本語となって俺の耳に入って来るのだ。

 

 

(……心を読むって、きっとこういう気分なんだろうな)

 

 

 聞きたくもない真実を延々と聞かされる気分だ……ただ只管に苦痛である。

 

 ナザリックに引き籠っていた時は然程気にならず、寧ろ話せない配下と意思疎通出来て便利だと思っていたのだが。こうして外に出ると有象無象の声が聞こえてくるので五月蠅すぎる。

 

 今はそれらの雑音を聞き流すことで誤魔化しているが、何れこの能力のオンオフや、効果範囲のコントロールなどが出来ないか、特訓してみる必要があるな。

 

 

(……このままだとノイローゼになりそうだし)

 

 

 そんな風に考えながら、ぼんやりとロビーを行き交う冒険者達を眺めていると。ルプーはムスッとつまらなそうに頬杖をついて愚痴る。

 

 

「……むぅ~、冒険者の仕組みって面倒っすね。強い奴が上の階級って方が判り易くて良いじゃないっすか。何で態々そんな回りくどいことするんすか?」

 

「そりゃあ、獰猛な狂犬よりも訓練された闘犬の方が需要があるからだルプー」

 

 

 冒険者とは依頼人が居て初めて成り立つシステムなのだ。

 

 幾ら実力があるとは言え、依頼人の意に添わぬ行動ばかりする粗暴な輩に仕事は与えられない。

 

 だからこそ冒険者組合は、実力だけでなく素行も吟味した上で冒険者達を昇格させているのだ。

 

 冒険者達が何らかの問題を起こした場合に、最終的に責任を取るのは組合になるからである。

 

 それは階級が高ければ高い程顕著に表れ、より組合側は実力と人柄を吟味して選別するのだ。

 

 

「一種のブランディングだな。この人材使えるよ~。でも有能だから金とるよ~。そして斡旋したから紹介料頂戴ねって例えなら判り易いか?」

 

「めっちゃ判り易いっす!」

 

「ふむふむ」

 

 

 コクコクと頷くルプーとアインズさんを見て、更に冒険者の仕組みについて、自分なりの見解を述べる。

 

 

 組合側は冒険者を管理する立場なので、それなりに強行権もある。

 

 有事の際に有能な人材を昇格という報酬をちらつかせてやる気にさせたり、降格という脅しで無理矢理動かしたりなんてことも可能だ。

 

 顧客の大半は金を持つ権力者や貴族なのだから、無茶を通さねばならぬ場合もある。

 

 そういった際に従順な人材でなければ面倒であるから規則というものをつくり、冒険者達の行動に制限をかけているのだ。

 

 如何なる場合も冒険者は国家的な戦争に関与しないという取り決めも、諸国が冒険者達を軍事運用し、貴重な人材を摩耗することを避ける為だろう。

 

 

 それを聞いたルプーは目を見開き、納得いかなそうに吠えた。

 

 

「何っすかそれッ!?お二人は無能な貴族の狗にならないといけないんすかっ!?そんなの糞喰らえんグっ!?」

 

 

 爆弾発言をしたルプーの口を、アインズさんは即座に塞ぐ。

 ナイスアシストだアインズさん。

 

 ――そしてルプーはまた尻叩き確定。

 あれだけ貴族と繋がってる組合員がいるかもと言ったのに、大声で貴族を虚仮おろすような発言をするとはな。

 

 俺は呆れながらもそんな彼女に説明してやる。

 

 

「そういった柵が嫌いな奴らは冒険者ではなく、規則に縛られないワーカーの方をやってるさ」

 

 

 しかしワーカーはその特性上無法者の集まりになり、必然的に冒険者で請け負わないような汚れ仕事が多くなる。

 

 更に依頼は基本的に自分で確保しないといけないし、依頼主の素性調査なども行い、その依頼の信憑性や安全性なども自分達で確認しなければならない。

 

 名声を得るという意味でも最悪だ。

 元よりならず者の集まりという印象が強い為、それを払拭するには相当なインパクトが必要になる。

 

 最終的には生活が掛かっているので、実入りの良い依頼を受けるようになり、結果として冒険者以上に権力者の狗として動き回ることになるのだ。

 

 

「……八方塞がりじゃないっすか。冒険者として活躍しても、ワーカーとして活躍しても微妙っすね」

 

「それは考え違いだぞルプー」

 

 

 ルプーが最初に言っていたことも正しいのだ。

 

 頂点に立つには、皆に判り易い形で力を示すのが一番楽なのである。

 

 

 アダマンタイト級冒険者が何故民衆に支援され、大きな発言力を持つのか。

 

 それは替えの効かない稀少な人材だからである。

 

 替えが効かないからこそ組合側も無碍な扱いは出来ず、依頼主も下手な対応は出来ない。

 

 アダマンタイト級でなくとも、実績のある冒険者達には指名で依頼が入り、冒険者側に依頼を受けるか受けないかの裁量権が与えられる。

 

 

 つまり依頼主と冒険者の力関係が逆転するのだ。

 

 

「ならば話は簡単だ。有象無象に埋もれることなく一気に頂点まで駆け上がればいい」

 

 

 既に俺達はアダマンタイト級を軽く凌駕する力は持っているのだ。

 

 後はその実力を世間に示し、冒険者としての地位を確立するだけである。

 

 

「世界の在り方が気に喰わないなら、今はそれでも構わない。

――いつか俺達の力で、そいつを捻じ曲げてやればいいだけさ」

 

「「おぉッ~!!」」

 

 

 そういうとモモンさんとルプーは、感動した様子でパチパチと拍手。

 

 気付けば近くに居た冒険者達も立ち聞きしており、何やら注目を集めているではないか。

 

 

(……何、往来の場で熱く語ってんだ俺は)

 

 

 自らの熱弁により悶え苦しむ俺であったが、そんな時に予期せぬ人物から声を掛けられた。

 

 

「……あの~。もし依頼をお探しでしたら、僕達の仕事を手伝って貰えませんか?」

 

「……おっ?」

 

 

 そういって話しかけて来たのは、焦げ茶色の髪を持つ中性的な外見の()()()()

 

 銀級冒険者『漆黒の剣』の魔法詠唱者ニニャであった。

 

 

 

 




悲報

・イチグン、ドリトル先生になる。
・駄犬、早々にお仕置きタイム突入。


ルプーのアニメでの失望ネタが余りにも手緩かったので、思わず盛り込んでしまいました。後悔はしてるけど反省はしてない。

※因みにイチグンはナザリックでの隠居生活で、プレアデスの中でもルプーとは特に親密な関係を築いおり、奇妙な上下関係も出来ていた為、このようなパワハラ&セクハラ紛いの躾が出来ました。

どういった経緯で仲良くなったのかは、何れ本編でも語れたらよいなぁとは思ってます。

この面子での上下関係はモモン≧イチグン>ルプーって感じで認識しておいてもらえると有難いです。




 
~オリジナル武技解説~

武技〈手加減〉

この武技を使用している最中、通常攻撃で与えるダメージはゼロになる。
本来与えるはずだったダメージ分のノックバックが発動し、規定値を超えるノックバックが発動した場合は、状態異常【朦朧】も追加発動する。

※尚、スキル・魔法などと併用した場合は、どんなに相手にダメージを与えてもHPが必ず残り、瀕死状態に留まる。

 




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