本日深夜、オバロ三期放送!
もうそろそろ黒羊ちゃんが出て来る頃合いですね。
そしてこの作品のデミウルゴスも、聖王国両脚羊の育成をはじめるようです。
カルネ村への旅は、朝日が昇ると同時に再開される。
現代科学の恩恵のないこの世界では、太陽が登って沈むまでの日照時間が人類の活動時間であるからだ。
「今から向かうカルネ村は、トブの大森林に面した小さな村なんです」
「僕達も依頼の一環で何度か立ち寄ったことがあるんですが、辺境の地にある長閑な農村でしたよ」
「うむ、昔からよく薬草採取の為に孫のンフィーレアや冒険者を連れて来ていてのう。何人か知り合いもおったのじゃが……」
漆黒の剣の言葉に相槌を打つように答えたリィジーは、顔を顰めて言い淀む。
リィジーは顔馴染みの常連客から帝国軍に偽装した何者かの襲撃により、近辺の農村が壊滅したという噂を耳にしていた。
王国戦士長ガゼフの手により、その者達は討伐されて一応の騒ぎは収まったらしいが、被害は惨憺たるものであった。
今回の騒ぎで廃村になった村はいくつもあり、生き残りの村人たちは焼き討ちを免れたカルネ村へと護送され、新しい生活を送っているらしい。
しかし、今回の事件で生き残った者達の大半は女子供であり、働き盛りの若い男手が殆ど居ない。
そんな者達を小さな農村に無理矢理寄せ集めたのだから、カルネ村での生活は想像も絶するほどに過酷なものとなってしまうだろう。
「……一応、黄金の姫がカルネ村の数年間に及ぶ免税を嘆願して、それは通ったらしいのですが」
「……焼け石に水である。襲撃の被害を受けたカルネ村に働けない女子供ばかりを集められては、食うにも困る貧困生活を送ることになるのである」
「……ったく、王国貴族様はホントに良いご身分だぜ。俺達下々の者に面倒事は丸投げして放置なんだからな」
「全くですね。蛆虫のように利益に群がる癖に、利益にならないと判断すれば何の関心も示さない屑共の集まりですよ」
漆黒の剣の辛辣な言葉の数々は、王国の杜撰な管理体制が目に見えて判る反応である。
今回の事件も普通なら襲撃を受けた村人達を保護し、事件を解決に導いた立役者であるガゼフは賞賛されて然るべきだろう。
しかし貴族派閥の者達は、そんな英雄に対して批難囂々。
何故敵を生きたまま捕らえられなかったとガゼフを無能扱いした上で、生き残った農民へは一切の保護処置は施さぬという有様だ。
最終的には黄金の姫と呼ばれるラナーの介入により、このような形で収まったが。幾ら免税されたからといっても、貧困に喘ぐ農村に食い扶持が増えるのは大きな痛手である。
おまけに農作業に関しても、今が一番働き手の必要な時期なのだ。
そんなタイミングで多くの難民を受け入れねばならないというのは、焼き討ちを免れたカルネ村すら飢饉による二次災害を受けて廃村になりかねない事態である。
そんな王国から爪弾きにされた人々に未来はあるのだろうか?
そう言われてしまえば、首を横に振らざるを得ないだろう。
(……エモット家は大丈夫かのう?)
リィジーは知人であるエモット家の事を脳裏に思い浮かべながら、彼らの無事を神に祈る。
バレアレ家とエモット家は旧知の仲であったし、何より孫のンフィーレアはエモット家の長女であるエンリに淡い恋心を抱いていることをリィジーは知っていた。
リィジーは今回の依頼を視察目的と銘打ってはいるが、実際のところは支援目的である。
その証拠に外傷を癒す塗り薬や保存食が、大量に荷馬車に詰め込まれているのだから。
彼女はそんな荷馬車の上から見下ろすような形で、先陣を切って馬車の前を歩く三人の冒険者達に目を向ける。
(……昨日の出鱈目な戦闘といい、この
懐に厳重に仕舞い込んだ赤いポーションを眺めながら、思わず疑念を抱いてしまうリィジー。
彼らが超常的な力の持ち主であることは判ったが、自分に近づいた目的が今一つ判らないのだ。
最初に近づいて来た漆黒の戦士モモンから言われたのは、、バレアレ家と協力体制を築きたいというものであった。
冒険者としての活動資金を工面して貰い、有事の際に全面的にバックアップすることを条件に、定期的に赤いポーションを提供するというもの。
薬師として長年ポーションの完成系を追い求めたリィジーは直ぐに了承し、どんな無茶な要求でも呑むつもりであったのだが、蓋を開けてみれば拍子抜けであった。
最初の頼み事が、冒険者として登録した自分達を、実力が高くて信頼のおける冒険者達とセットで雇って欲しいというものであった。
冒険者としての名声を高めることが目的のようで、多少大袈裟な演技も必要だったが、赤いポーションの為なら役者の真似事ぐらいお安い御用と言わんばかりに承諾した。
そして次に頼まれたのが、危険なトブの大森林奥地での薬草採取依頼に同行して欲しいと言うものであった。
流石にこの協力には命の危険がある為、躊躇ってしまうリィジーであったが。そんな彼女の反応を見たモモンは計画通りと言わんばかりに、森の探索は雇った冒険者達と自分達だけで行うから、安全な近くの村で待機することを勧められた。
リィジーとしてもその提案は、渡りに船であった。
カルネ村の人々の安否確認も出来るし、ポーション研究に必要な薬草なども大量に揃えることが出来るのだから。
依頼内容を打ち合わせる際に、却下されることを視野に入れながらも、リィジーはエ・ランテルからカルネ村への移住も検討していることを話してみたが、モモンは思わぬ好展開であると言わんばかりに、カルネ村への移住を勧めて来た。
だからこそリィジーは、相手の意図がますます判らなくなったのだ。
冒険者として今後活動するつもりならば、カルネ村に移住させるよりも、エ・ランテルで薬師として活躍した方が何かと都合が良いはずである。
その方が冒険者としての活動を全面的にバックアップ出来るし、必要なタイミングで指名依頼を出し、冒険者組合の彼らに対する評価を高めることも出来るからだ。
なのに今回の事件で被害を受けた辺境の農村であるカルネ村への移住を勧め、エ・ランテルで活動しなくても問題はないと言い切っているのだから。
モモンはリィジーの助け合いの精神に心動かされた等と、それらしい理由を述べていたが。彼女からすれば胡散臭いことこの上なかった。
そんな理由で勝手な行動を許すような御人好しならば、端から金銭などを要求しないだろうし、名声を高める為にと一芝居打つような小狡い真似もしないだろう。
貴重な魔道具で武装したところや、魔物を塵のように始末する様からも圧倒的な力と財力を保有していることが良く判る。
つまり金でも力でもない、何かしらのメリットがあるからこそ、彼らはリィジーの提案を呑んだのだ。
(……悪魔は人の魂を代価に、どんな願いでも叶えると言うが。こ奴らもそんな魔性の類ではあるまいな?)
まるで見えない巨大な何かの掌の上で踊らされ、行動を誘導されているような違和感。
貸し一つなどとモモンは冗談交じりに呟いていたが、その貸しが実はとんでもないものなのではないかとリィジーは不安になったのだ。
「……う~む」
そんな感情を抱きながら彼らを観察していると、漆黒の全身鎧を纏った大男が何かを発見したのか、森の畦道に移動する。
巨大な朽ち木を左手で持ち上げ、その隙間で樹液を啜っていた巨大な
その姿は殺伐とした戦士というよりも、童心に返って昆虫採集を楽しむ大人であった。
「うむ、気のせいじゃったわい」
先程までの不安や疑念が綺麗に消え去ったリィジーは、荷馬車に座って長閑な草原をぼんやりと眺めるのであった。
・・・・・・
「な、何じゃアレはッ!?」
カルネ村付近にやって来たリィジーは、その光景に思わずギョッとした。
遠方に見えるのは、巨大な丸太を敷き詰めて造られた頑強そうな防壁である。
其処では身の丈3mは在ろうかという
そんな巨大な防壁の周りには、深い堀のようなものも造られており、近くの小川にでも繋がっているのか、絶え間なく水が流れている。
そんな巨大な堀によって壁の内側と外側は完全に分断されており、丸太で出来た人力式の跳ね橋によって人の出入りが管理されており、容易に侵入出来るような場所ではなくなっていた。
更に外の様子を観察する為なのか、複数の矢倉が建設されており、弓を番えた兵まで居るではないか。
恐らく敵の襲撃に備えた防衛設備なのだろうが、その造りは城塞都市であるエ・ランテルに勝るとも劣らぬぐらいに立派なものであった。
辺境の農村に訪れた急激な変化に戸惑う冒険者一行であったが、何かに気が付いたルクルットがギョッとする。
「……おいおい、あれよく見てみろよ」
「……え゛っ、
彼の言葉に釣られるようにニニャが矢倉を凝視すると、弓を番えた兵が緑色の肌を持つ筋骨隆々とした亜人であることが判った。
しかもその隣には人間の女性までおり、仲睦まじそうに談笑しているではないか。
向こうも此方の存在に気が付いたのか、ペコリと会釈して手を振って来る始末。
亜人特有の人間に対する敵意はなく、実に友好的な態度である。
「――ハハハッ、一体何がどうなっているんだ?」
「……私にも良く判らないのである」
自らの素直な心情をボソリと呟いたペテルに、同意するように相槌を打つダイン。
そんな混乱の極みに達した彼らの下に、更なる非常識な存在が現れた。
「「……え゛っ?」」
何も存在しないはずの上空に真っ黒な
現れた二人組の内、片方は奇妙な仮面を装備した魔法詠唱者であった。
見るからに豪華な装備を身に着けており、手に握り締めた七つの蛇が絡みついたかのような黄金の杖は、感嘆の溜息が出る程の神々しさを放っている。
空中に浮かびながら彼らを見下ろすその姿は、正しく万物を統べる王といった容貌であり、言葉では言い表せぬ威圧感が滲み出ていた。
もう一人はメイドのような恰好をした絶世の美女である。
艶のある黒髪を結い上げて夜会巻きにしており、眼鏡の奥に見えるその怜悧な瞳は、見る者に知的な印象を与える。
健康的な色香に溢れるルプーとはまた違った魅力があり、そんな美女の襲来にルクルットは警戒することも忘れて見惚れていた。
予期せぬ二人組の登場により場に沈黙が訪れていたが、そんな沈黙を破ったのは事の成り行きを静観していたイチグンであった。
「……もしやとは思いましたが、やはり貴方でしたか魔導王」
「……懐かしい魔力を感知したかと思えば、やはり貴殿だったか我が友よ」
槍を降ろして臨戦態勢を解き、彼らの下へと歩み寄るイチグン。
唐突に現れた二人組も空中から地上へと舞い降り、怪しげな魔法詠唱者が一歩前に歩み出る。
そしてがっしりと熱い抱擁を交わす。
怪しげな仮面を装着した者同士による感動的な再会シーンは、見ているものを微妙な気分にさせた。
「……えっと、此方の方はイチグンさんのお知り合いですか?」
そんな空気に耐え切れなくなったのか、ニニャが控え目に手を挙げながら質問してくる。
するとイチグンはその質問を待ってましたと言わんばかりに、怪しげな魔法詠唱者から身を離して彼を紹介する。
「彼が以前話していた魔導国の支配者。アインズ・ウール・ゴウン魔導王だよ」
「「え゛ぇ~!?」」
その答えに驚愕する漆黒の剣とリィジー。
目の前に居た相手が想像以上の大物であり、そんな大物とイチグンに個人的な繋がりがあったからである。
「うわぁ~、ユリ姉じゃないっすか!久しぶりっすっ!」
「フフフッ、ルプーは相変わらず元気なようね」
「あの転移事件の後、皆の安否が気になっていたのだが……こうして無事に再会出来て嬉しいよユリ」
どうやらモモンやルプーも彼らとは親しい間柄のようであり、一緒にやって来たメイドであるユリとの会話に華を咲かせている。
彼らは再会を一頻り喜んだ後、近況報告を交えながらも情報共有を行った。
魔導王は転移実験により、数名の配下達と共にこの未開の地に飛ばされてしまい、途方に暮れていた際にカルネ村を発見し、カルネ村を襲撃している偽装兵達を撃退。
何だかんだで交流を深めている内に、カルネ村の住人達と仲良くなり。それ以降、この村を拠点として仲間や配下達を探索しているのだと語った。
この過剰なまでのカルネ村の発展は、魔導王が拠点を提供してくれる礼代わりに復興を手伝った結果であった。
この村に住む
その村娘がエンリであることを知ったリィジーは、驚きながらも帰らぬ人となった彼女達の両親に黙祷を捧げ、親を失った年若い姉妹の身の上を憐れんだ。
尤も、今回の騒動で親を亡くしたのはエモット家だけではない。
他の小規模な村でもカルネ村と似たような出来事が起こっており、親を失った孤児達がカルネ村に集められているのだ。
「……全く以て嘆かわしい。国が民を見捨てるなどあってはならないことだ」
そんな彼らの境遇を憐れんだ魔導王は、全面的に保護を約束した。
召喚した
復興や開拓に人手を割かなくてて済んだ分、女性達は親を失って失意の底に居る幼子たちの面倒を見る事が出来た。
更に配下であるユリが子供達を教育する場を設けており、子供達は辛い現実にも挫けずに日々成長しているとのこと。
そんなカルネ村の内情を聞かされた漆黒の剣とリィジーは感心した。特にニニャなどは崇拝にも近い感情を魔導王に抱いたぐらいだ。
腐りきった王国貴族の蛮行の被害者である彼女にとって、慈悲深く理知的な魔導王の行動は賞賛に値するなどの陳腐な言葉では語れぬほどの偉業であったからだ。
嬉しそうに魔導王の偉業を語るエンリや、それに共感するように頷くニニャの傍らで、魔導王は更に話を続ける。
「幸いにも探索の結果、何名かの配下達は見つかったし。こうして親友とも再会を果たすことが出来た」
その配下達の中で動けるものは、現在も仲間や配下達の探索活動を続けているとのこと。
しかし、大きな懸念材料もあると魔導王は声を低くして語った。
今回の転移実験の失敗は作為的なものであり、悪意ある第三者が魔導国に大規模な被害を与える為に行ったものであると調査の結果判ったのだ。
その言葉を聞いたイチグンは、ハッと何かに気付いた様子で魔導王に尋ねる。
「……まさか、奴の封印が解かれたのかッ!?」
「……そのまさかだ。大方、魔導国の実権を握ろうとでも目論んだのだろうな。
後先考えぬ周辺国家の権力者共が、私を排除しようと古の秘術を用いて奴を封印から解き放ったのだ。
――あの怨敵である大悪魔ヤルダバオトをな」
自らの失態だと言わんばかりに拳を強く握り締めながら、魔導王は大悪魔ヤルダバオトについて語った。
ヤルダバオトは凄まじい能力を秘めた悪魔であり、数多の魔物達を召喚使役し、世界に破滅と災厄を齎す危険な存在である。
命を命とも思わぬ蛮行を平然と行い、彼の影響によって滅びた都市は数知れず。
そんな大悪魔ヤルダバオトが転移実験を誘発し、更にこの地にやって来ているかもしれないと呟いたのだ。
「……大悪魔ヤルダバオト」
壮大な話を聞かされたペテルは呆然とするも、直ぐに顔面蒼白になる。
莫大な力を保有している彼らが、危険と見做すほどの存在がこの地に潜んでいるかもしれないからだ。
「……そして奴の行動目的も、恐らくは以前と同じだろう」
「……至高の存在である『災厄の魔神』をこの世界に召喚することが目的か」
幾万にも及ぶ悪しき魂を触媒とし、幾万もの善なる命を生贄に捧げることで召喚出来ると言われている災厄の魔神。
個人で世界を崩壊させる力を持つと言われている魔神がこの世に顕現してしまえば、自分達では太刀打ち出来ぬだろうと魔導王は口惜しそうに語った。
「……しかも厄介なことに、ヤルダバオトは人類を遥かに上回る狡猾な頭脳を持っている」
嘗ての経験を苦々しく語る彼の言葉に、漆黒の剣は引き寄せられるように食いついた。
当初は悪党ばかりをつけ狙って破滅を齎していた為に、ヤルダバオトは力を持たぬ民衆たちから神のように崇め祀られ絶大な支持を受けていた。
しかし、彼の真の狙いは効率よく魔神召喚の触媒を集め、自分の手先となる駒を大量に揃える事だったのだ。
いつしか崇拝は狂信となり、悍ましい行動を平然と行う暴徒達で溢れかえり、周辺国家は国を存続出来ないほどの甚大な被害を受けた。
そんな中、41人の仲間達と共に立ち上がったのが、後に魔導王と呼ばれることになったアインズ・ウール・ゴウンであり、彼らの活躍によって間一髪のところで魔神の召喚は阻止され、大悪魔ヤルダバオトは死闘の末に封印。
再び秩序と平穏が齎されたのだという。
そんな魔導王の話の最中、イチグンは顎を抑えながらボソリと呟く。
「……もしそうだとするなら、かなり不味い状況だな」
「一体それはどういう意味なのだ?」
そういって不思議そうに尋ねる魔導王に対し、イチグンは淡々と語った。
この王国の腐敗した内情や、疲弊した民達がそんな状況を救ってくれる存在を求めていることなど。
王国は大悪魔ヤルダバオトの儀式の苗床となる状態が、既に出来上がっているのだ。
「――あっ!?」
頭の回るニニャは、そんな現状を踏まえて何かに気が付いたのか、ハッとした様子で顔を上げた。
「……も、もしかしてスレイン法国で起こった事件も」
「――嗚呼、恐らく大悪魔ヤルダバオトの引き起こした事件だろうな」
イチグンは僅かに声を上擦らせながらも、神妙な様子で語った。
人類救済を掲げ、既に秩序と信仰が出来上がったスレイン法国の存在を疎ましく思った大悪魔が。現地の戦力を図る目的や、死と恐怖を振り撒くという娯楽目的で法国に配下達を仕向けたのだろうと。
大国を半壊させた大悪魔の存在を示唆され、思わず身を強張らせる漆黒の剣の面々であったが、魔導王は怯えることなく淡々と告げた。
「――我が友よ、また嘗てのように協力しては貰えないだろうか?」
「――協力とは?」
「――大悪魔ヤルダバオトの討伐。若しくは奴の蛮行を食い止めて欲しい」
魔導王は現在、散り散りとなった配下や仲間達を集める為に奔走しなければならず、どうしてもヤルダバオトへの対策が後手に回ってしまう。
魔導王が迎え撃つ準備を整えている間に、敵が万全の状態を整えて攻勢に出てしまっては遅いのだ。
自由に動けて、且つ信頼のおける実力者の協力が必要不可欠であると語った。
「……無茶な要望であるということは重々承知しているが、どうかこの我儘を聞き入れては貰えないだろうか?」
そう言って王という立場すら顧みず頭を下げようとした魔導王。
そんな彼の行動を肩に手を置くことで止めたイチグンは、何処か親しみを込めながら告げた。
「貴方に願われるまでもなく協力しますよ魔導王――いえ、アインズさん」
「――ありがとう、我が友よ」
静かにそう呟いた魔導王は、どちらともなく差し出された手を握り、大悪魔討伐の誓いを交わす。
ピリピリと張り詰めていた空気が緩やかになったタイミングで、イチグンはモモンに視線を向けた。
「そもそもチームリーダーであるモモンさんも、奴とは浅からぬ因縁がありますし、貴方の提案にも乗り気ですからね」
そういって肩を竦めておどけるイチグンに対し、モモンは背中に背負った大剣を片手で抜き取り、騎士が主に忠誠を捧げるかの如く掲げながら堂々と宣言する。
「フフフッ、勿論だとも。今度こそ奴の脳天にこの刃を叩き込んでやろうではないか。
デミ……デーモン、ヤルダバオトの蛮行。我々が必ず阻止して見せましょう」
「微力ながら頑張るっす!」
そういって怯えることなく大悪魔ヤルダバオトに立ち向かうことを選択したモモン達を、尊敬と賞賛の入り混じった瞳で眺める漆黒の剣の面々。
今後の計画について内密に話したいことがあると、魔導王は村長であるエンリに漆黒の剣やリィジーの案内を任せ、モモン達を引き連れて闇の歪の中へと消えていくのであった。
◆
「「……はぁ~」」
カルネ村からナザリックの円卓の間へと戻った俺とアインズさんは、その解放感から思わず大きな溜息を吐く。
椅子の背凭れに体重を預けるように脱力しながら、アインズさんはポソリと呟いた。
「……上手く行きましたかね?」
「……上手くいってくれないと困ります」
彼らに真実がバレてしまっては、何のために盛大な自作自演をしたのかが判らなくなってしまう。
慣れない演技などするものではないなとぼやいていると、目の前に佇んでいた魔導王がグニャリと変形し、軍服を着こなした埴輪顔の
「いえいえ、イチグン様の演技は実に素晴らしかったかと。正に千両役者顔負けの人を惹きつけて止まない名演説でした」
そういって優雅な一礼をしながら、舞台のフィナーレを飾るパンドラズ・アクター。
それは此方の台詞である。
予め知っていても、あの魔導王が実は本物のアインズさんではないかと思う程にそっくりであった。
そんなパンドラを誇らしそうに讃えるのは、本物の魔導王であるアインズさんだ。
「お前もご苦労だったな。実に素晴らしい役者っぷりだったぞ。
――これで計画は上手く進められそうか?」
「はい、イチグン様の立案した『まっちぽんぷ』を上手く誘発出来るかと愚考します」
「ハハハッ、俺のじゃなくてデミウルゴスの立案な」
原作のデミウルゴスが王都で実行に移した作戦である『ゲヘナ』。
俺は少しばかりその作戦にアレンジを加え、都合よくシナリオを書き換えただけである。
今回このような捏造設定を、漆黒の剣の面々に流布したのは三つの大きな目的がある。
まず一つは原作と同じく、ヤルダバオトという仮想の敵をつくることにより、冒険者としての名声や民衆の意志をコントロールするというものだ。
英雄譚でもそうだが、英雄というのは明確な敵が居ることで初めて際立つ。
それらを自在にコントロールすることが出来れば、冒険者としての名声を高めることも簡単だし、民衆の扇動なども容易に行える為、魔導国を設立する上での諸問題を解決し易くなる下地がつくれるのだ。
そして二つ目が、敵対者の陽動目的である。
スレイン法国などの強者の存在を警戒する者達へ、市政の噂を利用して大悪魔ヤルダバオトという脅威を認識させる。
法国などは実際に甚大な被害を受けている為、この騒動を引き起こした相手を躍起になって探しているだろう。
そんな時にヤルダバオトという大悪魔の存在を仄めかせば、敵対者を誤認させることが出来、捜索を攪乱することが出来るのだ。
またその大悪魔に対抗する手段を持ち合わせている魔導王アインズ・ウール・ゴウンの評価が高まるという付加価値もつくため、上手くいけば好条件で諸国と同盟を結ぶことも可能だろう。
三つ目が、早期段階からのギルドメンバーの探索だ。
原作のアインズさんは、図らずも魔導国アインズ・ウール・ゴウンを建国することにより、この世界に存在しているかも知れないギルメン達への道標とした訳だが、それでは一手遅いのだ。
もしかしたらアインズ・ウール・ゴウンのギルメン達は、転移直後は人間の生存圏内に居たが、魔導国設立の前に違う土地へと移ってしまった為に、ナザリックの存在に気が付かなかったという可能性も少なからずある。
そうじゃないにしても、早期段階からギルメン達にナザリックの存在を仄めかして招集を図るのは悪い策ではない。
もし魔導王アインズ・ウール・ゴウンの名が広がり、嘗ての仲間達がそんな噂話を知れば、何かしらのリアクションを起こすだろうし。民衆の中からギルメンの所在に繋がる重要な情報を提供してくれる者達が現れるかもしれないからだ。
故に初手から魔導王アインズ・ウール・ゴウンや大悪魔ヤルダバオトの存在を仄めかすという訳である。
(……悪しき魂を触媒云々や、善なる命を生贄云々の設定は、単なるエゴと保険だけどな)
大悪魔ヤルダバオトが動き出すというのは、とどのつまりはそういうことだ。
デミウルゴスは牧場運営を実行に移すつもりである。
アインズさんが人間であった過去を知った為、デミウルゴスは牧場運営を行わないだろうと勝手に思い込んでいたが、結果は真逆であった。
人間を見下さなくなったからこそ、ナザリックに匹敵する第二第三の勢力がこの世界に現れるかもしれないと懸念しており、早急な対策が必要であると判断して牧場運営を企画立案したのである。
ナザリックの資源は、現在も刻一刻と摩耗しており、危険な敵対勢力が存在している中で、消耗品であるスクロールなどの量産手段も確立されていない。
そんな状態ではいざという時に遅れをとってしまい、物資の供給不足からナザリックの配下達を危険に晒してしまうかもしれないからだ。
そんなデミウルゴスの悲痛な訴えを聞いたアインズさんは大いに悩んだ。
当初は俺の顔色を窺って牧場経営の実行を躊躇っていたのだが、最終的には将来ナザリックに起こり得る最悪を懸念してデミウルゴスに牧場運営の許可を出した。
ただし、原作のように老若男女善人悪人関係なしに行うのではなく、悪人や敵対者に限るという条件付きでだ。
恐らくアインズさんは俺の気持ちを配慮して条件を提示し、デミウルゴスも厳しい条件であると理解しながらも譲歩してくれたのだろう。
そんな彼らが下した判断を、根本から否定するような真似など俺には出来なかった。
故に俺は、出来るだけ被害者を減らすという考え方にシフトした。
悪行三昧を繰り返すと大悪魔ヤルダバオトの餌食になるという噂が市井に広がれば、王国貴族たちも悪行を控え、この国の腐った内情も少しは改善されるかもしれない。
それによって悪人は減り、本来犠牲になっていた無垢な命が救われることになるだろう。
善なる命を持つ者の命を生贄に捧げようと目論んでいる設定も、この王国の状態でヤルダバオトが悪人達を粛正すれば、救われた民がヤルダバオトを崇拝して、余計なトラブルを起こしかねないからな。
極力犠牲を出さぬためにも、これらの噂を流布して定着させることは必要な処置なのである。
そんな風に今後の展望について語っていると、ニコニコと嬉しそうに俺の顔を眺めているユリと目が合う。
「……俺の顔に何か面白いものでもついてますかユリさん?」
「……えっ?」
怪しげな仮面は外してあるのに、先程からニコニコとガン見されてて超気になるんですが。
そう指摘すると、ユリは気恥ずかしそうに視線を逸らし俯いてしまう。
「あるぇ~?ユリ姉、もしかしてイチグン様を見て発情してるんすか?」
「は、発情ッ!?ち、違うっ、ボクはそんなにはしたなくないッ!!」
揶揄うようなルプーのツッコみに、ユリの淑女善とした口調が崩れて、ついでに首も崩れ落ちる。
見た目は人間にしか見えないユリだが、その種族は
(故に首が取れるのは日常茶飯事なのは判ってはいるんだけどなぁ……)
ゴロゴロと目の前に転がって来た生首が、キョロキョロと視線を彷徨わせながら慌ただしく口を動かす姿は軽くホラーである。
そんな自らの頭部を拾い上げて胴体にくっつけたユリは、コホンと咳払いしながら冷静に語った。
「イチグン様の考え方に共感を覚えて嬉しく思っただけです。私の考え方はナザリックでは異端ですから」
「……あ゛っ~、納得っす。ユリ姉の考え方って、何となくセバス様やイチグン様に似てるっすからね」
――嗚呼、成程そういうことか。
善性の高い彼女はこのヤルダバオトの噂の流布により、多くの罪なき人々が救われる可能性を喜んでいた訳だな。
確かに自分の考えを理解して貰えない時って孤独感を味わうし、自分の考えを理解してくれる相手が居たら喜んでしまうかもしれない。
「それにイチグン様にはカルネ村での仕事を与えて頂いた恩もありますから」
そういって柔らかい笑みを浮かべるユリ。
彼女の言っているのは、カルネ村での護衛任務を兼ね備えて、孤児たちの教師として活躍している件についてだろう。
単純にそこら辺は適材適所の人材を派遣したに過ぎないのだ。
彼女の創造主であるやまいこさんが教師であったという事実も踏まえ、親を失った孤児達の面倒を見ながら村の者達と友好関係を築けるのは、ユリ以外に適任者は居ないと思っただけである。
そもそもルプーがカルネ村に配属されたら、村人を玩具扱いしてトラブルを起こしまくるだろうからな。
「フフフッ、確かにその通りですね」
そう説明するとユリはクスリと可笑しそうに笑い、ルプーはガウガウと不機嫌そうに吠えた。
「ちょっ、私に対する扱いや評価が酷くないっすかイチグン様!?」
「いや、だって事実だしなぁ」
実際原作のルプーは、そんな感じで失望コースまっしぐらだったからな。
その代わり冒険のパートナーとしては頼りにしてると言えば、あっさりと機嫌を直してじゃれついてくるルプー。
普段は帽子の中に隠れているケモ耳を擽るように撫でると、尻尾がブンブンと揺れ動いた。
……案外チョロいぞ、この
悪い狼に騙されやしないかと心配になる。
そんな馬鹿なやりとりを行いながらも、今後の展開について5人で議論を交わし、遂に話は大詰めとなった。
「さてと、いよいよ最後の議題になった訳だが……これはチームの命運を分ける議題でもある」
「おおっ、それほど重要な議題とは一体何でしょうか!?」
パンドラの大袈裟な反応に対し、僅かな不安を抱きながらも最後の議題を提示した。
「――チーム名の選定だ」
その瞬間、アインズさんの眼孔が待ってましたと言わんばかりにギラリと不穏な輝きを放つのであった。
チーム名の公開は次回に持ち越し。時間と尺が足りなかったよぉ……
アインズさんのネーミングセンスも眼孔と同じくギランと光る予定です。