イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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本日深夜、オーバーロードアニメ放映。


……そして投稿予約ミスにより、時間がズレて19時(イチグン)に更新出来なかった。
一日投稿予約時間がズレていたみたいです。

故に20時30分(ニアミス)に投稿します





 



第27話 君の名は…

 

 

 

 今後の方針に関する議論を終えた俺達は、再びカルネ村へと舞い戻った。

 

 そしてカルネ村で待機していた漆黒の剣と合流し、トブの大森林へと薬草採取に向かう。

 

 村で待機する予定であったリィジーも、俺達がゴブリンを惨殺した光景を見ており、カルネ村の復興も問題ないと判断したからなのか、トブの大森林の探索に同行することとなった。

 

 そんな旅の道中で、ニニャのアドバイスに従い、チーム名を決めたことも話題に挙がった。

 

 

「おぉ、『冥府の番犬』(ケルベロス)ですか!」

 

「法国の御伽噺に出てくる強大な使い魔の名前ですね。割と有名な話ですから、市政にも伝わり易くて良い名前だと思いますよ」

 

「確か人類を脅かしていた凶悪なドラゴンを喰い殺したと語られている神獣であるな」

 

「……何か妙に納得しちまうなぁ。

三人のあの戦いっぷりを見れば、ドラゴン二、三体程度なら何とかなりそうだと思っちまうぜ」

 

 

 そういって漆黒の剣の面子からも、概ね良好な反応が返ってくる。

 

 どうやらケルベロスは、俺の思っていた以上にこの世界では有名な神獣らしい。

 

 ……実は隣にいる漆黒の戦士が数体同時に使役できますよぉなんて言えば、ご冗談をと笑われるかとんでもないパニックに陥るだろうなぁ。

 

 舞台裏を知りながら、知らぬ存ぜぬフリをするというのは、中々に負担が大きいものだ。 

 

 

 そんな此方の気苦労が伝わったのか、地面を這いずっていた黒い塊が蠢き、その金色の瞳で此方を見上げる。

 

 

「……ハハハッ、何でもないさ()()()()

 

 

 そういって軽く表面を撫でてやると、嬉しそうにぷるんと震える暗黒魔粘体(ダークネス・スライム)

 

 

 チーム名が『冥府の番犬』(ケルベロス)に決定した際、どうせならと俺が使役する眷属の名前も決めようという話になった。

 

 アインズさんはここぞと言わんばかりに、『芋餅ぷるん』と名付けてはどうだと勧めてきたが。名付けられる当人が心の底から拒絶していたし、そもそも使い回しの名前で賄おうとするのは個人的に嫌だった。

 

 VR-MMORPG(仮想世界)時代から俺の冒険を支えてくれた眷属であるし、今も頼りになる相棒として活躍してくれている。

 

 そんな眷属の名ぐらいは自分で決めたいと思い、頭を捻ってつけた名前が『ネメシス』である。

 

 

 ギリシャ神話の義憤と神罰の化身である女神ネメシスが元ネタとなっており、様々な姿に変化できることや、『(のが)れることの出来ない者』という逸話なども、死して尚甦り、敵を妨害する暗黒魔粘体(ダークネス・スライム)の執念深い戦闘方法に通じるものがあった。

 

 夜の女神であるニュクスの娘であるとも語られているし、星の輝きを思わせる金色の瞳や、闇夜のような真っ黒な外見も相俟ってピッタリではないかと採用。

 

 当人も豪く気に入った様子であり、身を捩って歓喜の感情を表現していた。

 

 

 現在、そんなネメシスを召喚した状態で、目当ての薬草の群生地であるトブの大森林の奥地へと向かっている真っ最中である。

 

 ネメシスは凄まじい速度で木々の間を駆け抜け、命令に縛られることのない自由行動を満喫している様子。

 

 

(……本来ならMPの消耗を避ける為に、召喚状態を持続するのは愚策なんだけどな)

 

 

 ネメシスにも感情があるし、物事を判断する知性がある。

 

 そんな眷属を必要な時のみ召喚し、便利な道具扱いするのは流石に躊躇われた。

 

 故に今後も可能な限りネメシスは召喚しておき、自由に行動させるつもりである。

 

 戦闘をしないという前提ならば、半日程度ならば召喚していても問題ないしな。

 

 

 そんなこんなで俺達は、トブの大森林の奥地まで辿り着き、薬草採取を行う。

 

 ここでモモンに扮したアインズさんとルプーは、危険な外敵を追い払ってくると別行動をとり、俺は護衛と採取活動も兼ねて漆黒の剣やリィジーと行動を共にする。

 

 

 二人が別行動をとる理由は言わずもがな。

 

 森に潜んでいるアウラと合流し、『森の賢王』とは名ばかりの、呑気な巨大ハムスターを俺達に嗾ける為である。

 

 ハムスケは俺からすれば愛らしい姿にしか見えないのだが、現地人には知性あふれる立派な神獣に見えるらしい。

 

 故にハムスケを引き連れて歩くだけで、チーム『冥府の番犬』(ケルベロス)の株が上がり、名声を勝手に高めてくれるという訳だ。

 

 

(……あとは実験も兼ねてるしな)

 

 

 ニグンの異能である『眷属の強化』が、どういった条件で現地の生物に作用するのかという確認作業でもある。

 

 もし相手に此方への従属の意思があるだけで、強化が適応されるならば凄まじいことになる。

 

 Lv30強程度の実力を持つハムスケは、一気にLv40を超える戦力になるし。比較的容易に戦力の増強を図ることが出来るだろう。

 

 そして従属の意思がなくなった瞬間に強化の適応外となるので、敵勢力への寝返り防止対策にも繋がる。

 

 まさに一石二鳥の効果を齎すのだ。

 

 

(……尤も、ナザリックの配下達で検証した結果を踏まえるなら、それは()()()だろうけどな)

 

 

 ニグンの異能の対象となるのは、魔法的な主従関係の繋がりが出来た魔物に限るという条件が適応されているのだろう。

 

 《支配/ドミネート》などの魔法による一時的な支配では発動しなかったし、配下達が俺の命令に従う意思があったとしても適応外であった。

 

 異能の効果が適応されたのは、アインズさんの特殊技能により使役する権限を譲渡された死の騎士(デス・ナイト)や、一時的に騎乗者との繋がりが出来る騎乗獣。そして俺が召喚使役する暗黒魔粘体(ダークネス・スライム)のネメシスである。

 

 

 これらの魔物の共通点は、使役時に魔物と術者の間に、魔術的な繋がりが生まれることである。

 

 だから魔術的な繋がりが生まれない使役では、ニグンの異能の効果は発揮されない……はずだ。

 

 

(……しかし、原住民とプレイヤーの間で大きな差異があるのも事実だ) 

 

 

 そういった差異により、従来通りの効力を発揮しなかったり、本来の条件を無視して職業を取得出来たりするという事象も発生している。

 

 故に予想通りの効力を発揮するかどうかの確認は必要不可欠なのだ。

 

 だからこそ、この機会にハムスケを俺達に嗾け、現地戦力としてナザリックに取り込むと同時に、異能の効果検証も同時に行おうという腹積もりである。

 

 

「う~む、しかしそのネメシスという粘体生物は凄いのぅ」

 

 

 リィジーが感心した様子で森を駆け回るネメシスを眺める。

 

 当初の予定では薬草採取に詳しいリィジーやダイン指導の下で、薬草を回収する手筈になっていたのだが、隣で俺達の行動を観察していたネメシスが薬草採取活動に参戦。

 

 高い木々に生えている葉は触腕を伸ばして回収し、狭い岩の隙間に生えている苔は柔軟な身体で潜り込んで回収。

 

 人間では不可能な動きで効率よく薬草採取を熟し、自らの体内へと保存する。

 

 通常の薬草採取活動では一度に運び出せる荷物にも限界がある為、どうしても少量の薬草しか運び出せないのだが。その問題すらもネメシスが解決してくれるおかげで、一回の採取活動で稀少な薬草を大量に確保出来るのだ。

 

 

(……よほど名前を気に入ったんだろうなぁ)

 

 

 名を与えてから、命令を与えた時のネメシスの張り切り具合が凄まじい。

 

 というか命令を与えていない時も、今回の薬草採取のように自らの判断で最善の行動をとるようになったのだ。

 

 褒めて褒めてと言わんばかりに、足元に擦り寄って伸び縮みするネメシス。

 

 

「よしよし」

 

 

 近くの朽ち木に座り込んだ俺は、そんな眷属を優しく抱え上げて、ひんやりとした滑らかな体表を揉み解すように撫でた。

 

 

「ぐふふっ、希少な薬草が選り取り見取りじゃわい。研究が捗るのう」

 

 

 嬉しそうに小刻みに震えるネメシスの隣では、リィジーも想像以上に稀少な薬草を回収できてご満悦だ。

 

 エ・ランテルに戻り次第追加報酬を支払うことを確約したので、漆黒の剣と冥府の番犬両チームで折半するように話を進めたのだが、此処で遠慮したのがリーダーのペテルである。

 

 

「碌な働きもしていないのに、こんな大金は受け取れませんよっ!?」

 

 

 ペテルは自らのチームの働きは、その報酬を受け取るのに値しないと告げると、当初の依頼金のみを受け取って追加報酬分は冥府の番犬で受け取るようにと勧めて来た。

 

 しかし、今のところ現地の活動資金にはアテがある為、然して金銭は必要がなかった。

 

 そもそも活動資金が不足しているのは漆黒の剣であるのだから、貰えるものは貰っておけば良いのだ。

 

 そう言っても真面目なペテルは負い目を感じているのか、追加報酬を受け取ることを躊躇っている様子。

 

 ならばと俺は彼にとある提案をする。

 

 

「では私から漆黒の剣の皆さんに指名依頼ということでお願いがあります」

 

「……私達にですか?」

 

 

 そういって疑問を浮かべるペテルに、魔導王アインズや大悪魔ヤルダバオトの存在を冒険者仲間に伝え、警戒を促して欲しいと頼む。

 

 これで大悪魔ヤルダバオトの脅威を伝えつつ、魔導王アインズの存在を世間に広めることが出来るだろう。

 

 その言葉を聞いたペテルはキリっと表情を引き締めながら、リーダーとして宣言する。

 

 

「判りましたっ!その依頼は私達にお任せ下さいッ!」

 

 

 そういって力強く宣言するペテルに、賛同するように頷くダイン・ルクルット・ニニャの三人組。

 

 

(……漆黒の剣に任せておけば、噂の流布に関しても安心だろう)

 

 

 信用のない冒険者が噂を流布しても戯言で終わってしまうが、信用のおける冒険者が噂を流布すれば信憑性が高まるからな。

 

 思わぬ話の流れになってしまったが、上手く事を進めることが出来たので結果オーライである。

 

 そんなタイミングで、近くの茂みを掻き分けながら、俺達の前に人影が現れる。

 

 

「どうやら、薬草採取も無事完了したようですね」

 

「こっちも終わったっすよ」

 

 

 茂みから現れたのは、別行動をとっていたアインズさんとルプーである。

 

 手にはこの森に生息している危険な魔物の討伐証明部位が握られていた。

 

 それを見たペテルは労う様に二人に声を掛ける。

 

 

「お疲れ様です。モモンさん達が危険な魔物達の侵入を阻んでくれたおかげで、安全に薬草を回収することが出来ました」

 

「それは良かった。お役に立てて何よりですよ」

 

 

 そういって社交辞令を述べたアインズさんは、ペテルとの会話もそこそこで切り上げ、俺に念話で話し掛けて来る。

 

 

『――イチグンさん。実は想定外の出来事が起こっているみたいなんです』

 

 

 そして俺は、またもや原作乖離による厄介な出来事が発生していることを思い知るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林。

 

 太古から存在する豊かな自然環境に恵まれた土地であり、危険な魔獣や亜人種が跋扈する人外魔境の地でもある。

 

 トブの大森林は、最も危険な大森林の奥地である中心部を起点とし、東西南北と5つの地域に区分けされている。

 

 

 東には小鬼(ゴブリン)妖巨人(トロール)などの亜人種が住み着いており、『東の巨人』と呼ばれる戦闘妖巨人(ウォー・トロール)が支配している。

 

 西には数多の魔法を使用出来る『西の魔蛇』と呼ばれる存在が居るとされており、魔法の対策を持たぬ者達は探索不可能な危険地帯だと認識されている。

 

 北にはアゼルリシア山脈より流れる川により形成された巨大な湖があり、其処では湿原地帯での生活を好む蜥蜴人(リザードマン)蛙人(トードマン)が暮らしていた。

 

 

 そして現在モモン達が訪れている南の森の奥地には、『森の賢王』と呼ばれる強大な力を持つ魔獣が君臨しており、東や西の支配者と三竦み状態で森の覇権争いを行っているとのこと。

 

 今回、リィジーに頼まれた依頼は、そんな森の賢王が君臨する土地での薬草採取である。

 

 しかし、チーム『冥府の番犬』の真の目的は、その過程で()()()()遭遇した森の賢王を返り討ちにして使役し、冒険者としての地位や知名度を高めることだ。

 

 

 故にモモンに扮したアインズは、イチグンにリィジーの護衛を任せ、先に森の奥地で潜んでいたアウラと合流していた。

 

 アインズは今回の仕事以外にも、アウラに様々な任務を与えており、その主だった仕事は、偽ナザリックの建造とトブの大森林の実権掌握である。

 

 弟であるマーレが多を滅することに特化した魔法詠唱者(マジックキャスター)ならば、姉であるアウラは多を率いることに特化した魔獣使い(ビーストテイマー)だ。

 

 闇妖精(ダークエルフ)【野伏】(レンジャー)という種族・職業構成も相俟って、こういった森での諜報活動が得意であり。こういった裏工作の際には、特に重宝とされているのだ。

 

 

 そんなアウラと今から実行するマッチポンプの最終確認を行うつもりだったのだが、想定外の出来事が発生していた。

 

 

 

「……何、一瞬で消えただと?倒されたではなくか?」

 

「……こいつの話ではそうみたいですね」

 

 

 アウラは、主の命に従って()()()()を引き連れてアインズの前に現れたのだが、その者の齎した情報により、アインズは混乱していたのだ。

 

 

「あの化け物を倒すなんて、それこそ無理な話だよっ!」

 

 

 アインズの質問に答えたのは、奇妙な生命体であった。

 

 頭に毛髪ではなく、植物の葉が生えており、少女のような人型であるが、肌の色は森の木々を思わせる緑黄色だ。

 

 木の妖精(ドライアード)であるピニスンは、囚われの身となった自身の不運を嘆きながらも、アインズの質問に正直に答えた。

 

 

 ピニスンが恐れていた、世界に破滅を齎すと言われている魔樹ザイトルクワエ。

 

 イチグンから齎された情報により、利用価値が高いと判断したアインズは。原作のように魔樹を討伐するのではなく捕獲することを選択し、ナザリックの資源として有効活用しようと目論んだ。

 

 故に二週間ほど前から偽ナザリックの建造に着手したアウラに魔樹ザイトルクワエの居所を探らせていたのだが……想定外の出来事が起こっていたのだ。

 

 

 何と魔樹ザイトルクワエは、復活して暴れ出したと同時に消えたという。 

 

 しかもそれを行ったのが、一人の年若い人間の女であったとピニスンは語ったのだ。

 

 

「最初は魔樹の一部を封印した7人組が、復活の気配を察知して、この地にやって来たんだと思ったんだけど……」

 

 

 そんな淡い期待を抱いたピニスンとは裏腹に、行き成りその場で殺し合いを始めた7名の男女。

 

 その戦闘はピニスンでは理解が及ばぬ程に凄まじいもので、数多くの魔法が飛び交い。それらを紙一重で躱す女戦士は、まるで疾風のようだったと興奮した様子で語った。

 

 

「……でもそんな騒ぎが切っ掛けで、魔樹が封印から目覚めて大変だったんだ」

 

 

 復活したザイトルクワエにより、7人中5人が抵抗する間もなく瞬殺された。

 

 運良く攻撃を免れた2人の内、1人は手傷を負いながらもその場から素早く撤退。

 

 残るは女戦士だけになったのだが。その女戦士が苦し紛れに小石を投げたかと思えば、次の瞬間にはザイトルクワエは跡形もなく消えていたのだとの事。

 

 

「……魔樹を封印してくれたんだと思ってお礼を言ったら、何故か腹立たしそうに蹴り飛ばされるし。

何故か人喰い大鬼(オーガ)妖巨人(トロール)が大量に現れて、私の本体が宿った樹の近くで伐採を始めるし、踏んだり蹴ったりだよっ!」

 

 

 本当に肝が冷えたし、いい迷惑であったと愚痴をこぼすピニスン。

 

 そんな話を聞かされたアインズは、益々状況が判らなくなってしまう。

 

 

(……その年若い人間の女とは一体誰なんだ?)

 

 

 イチグンの話によると、ザイトルクワエはレイドボス級の体力を持つ、Lv80後半程度の巨大な魔物らしいので。それを一撃で倒したとなると相当出鱈目な力を保有している女戦士ということになる。

 

 しかし、魔樹に瞬殺されるような者達と拮抗していたという事実を踏まえると、出鱈目な強さを持っていたという線は薄くなる。

 

 つまり何らかの手段を用いて、ザイトルクワエの脅威から逃れたと考えるのが妥当だろう。

 

 

(……だとしたらザイトルクワエは、一体何処に居るんだ?)

 

 

 ユグドラシルとは違い、この世界では討伐した魔物達の屍は消えることなくその場に残り続ける。

 

 なのに体長100mを超える巨大な魔樹の残骸が、一片たりとも残らないというのは不自然なのだ。

 

 

 アインズは悩んだ末に、とある一つの可能性に辿り着く。

 

 

「……まさか世界秘宝(ワールドアイテム)かッ!?」

 

 

 思わず声を荒げるモモンの姿を見て、ビクンと震え上がるアウラとピニスン。

 

 

 現在アインズが所有している『山河社稷図』(さんがしゃしょくず)のように、相手を異次元空間に隔離するアイテムや。『聖者殺しの槍』(ロンギヌス)のように、対象そのものを使用者と共に完全抹消することの可能なアイテムならば、この不可解な現象にも説明がつく。

 

 アインズもユグドラシルの大手ギルドを運営していたことがあり、世界秘宝に関する知識も普通のプレイヤーよりは詳しいが、流石に全200種類あると言われているアイテム全ての効能を掌握している訳ではない。

 

 つまりアインズが知らない世界秘宝を用いられた可能性が高いのである。

 

 

 動揺が精神安定化によって収まったアインズは、冷静な思考で推察する。

 

 

(……そうだと仮定するなら、下手人は恐らく破滅の竜王を討伐する為に派遣されたスレイン法国の漆黒聖典だろう)

 

 

 スレイン法国ならば世界秘宝を保有していても可笑しくはないし、人類にとって危険な場所であるトブの大森林を探索出来るような人材を派遣出来たことにも納得が出来る。

 

 イチグンの原作知識で、破滅の竜王対策でトブの大森林の奥地に向かおうとしていたことを知っているので猶更だ。

 

 

(……だけど不可解な部分もある)

 

 

 漆黒聖典は12名の選りすぐりの人材で構成された暗躍部隊と聞いていたし、国が半壊した状態で、そんな面子を7名も国外に放出するのかと問われると、首を捻らざるを得ない。

 

 自分であったなら、いざという時の為に備えて手元に置いておこうと考えるからだ。

 

 

(……もし仮に漆黒聖典だったとしても、味方同士で殺し合う理由が判らないし)

 

 

 ピニスンの話だと1人の女を追い詰めるように、他の6人が攻撃していたらしい。

 

 その話が事実であるならば、互いに殺し合うような敵対関係にあったということになる。

 

 

「――ふむ、成程な」

 

「……何か判ったのですかアイ――じゃなくてご主人様?」 

 

「――嗚呼、無論判ったとも」

 

 

 何が起こっているのか、自分にはさっぱり判らないという事実が。 

 

 そんな心情をアインズはひた隠し、アウラに偽ナザリックの建造に集中し、完成次第配下達と共にナザリックに引き上げるように指示を出す。

 

 

「ご命令通り『西の魔蛇』は捕獲してナザリックの素晴らしさを理解させ、支配下に置きましたが。東の巨人の制圧や蜥蜴人(リザードマン)の集落の統治はどうされますか?」

 

「一旦保留だ」

 

 

 何が起こっているか判らぬ状況下で、不用意に活動範囲を広げるのは危険すぎる。

 

 多くの人の目がある街での活動は兎も角、森林などの見通しも悪く広大な土地を管理するのは、今はまだ時期尚早であるとアインズは判断したのだ。

 

 下手すれば大切な配下達が洗脳され敵勢力に下るばかりか、其処からナザリックの重要な情報が漏れる可能性がある。

 

 今回は偽ナザリックの建造と、トブの大森林の南と西の統治の目途が立っただけで御の字だろう。

 

 

 そう判断したアインズは、アウラに森の探索活動は一旦休止することを伝え、計画通り森の賢王を嗾けるように伝える。

 

 

「……え゛っ、私は?」

 

 

 まるで居ないものとして扱われていたピニスンは、自分の今後を憂いで思わずアインズに尋ねてしまう。

 

 するとアインズは、何でもないことのようにサラリと告げた。

 

 

「……取りあえずお前の身柄はナザリックで確保するか。この周辺には一体しか居ない稀少種族のようだし、何らかの実験にも使えるだろう」

 

「じ、実験っ!?」

 

「何、危険な真似は強要しない。アウラの管理する第6階層で畑でも耕して貰おう」

 

「私は本体から長時間離れると死んじゃうんだよっ!?」

 

「安心しろ。既にシャルティア――私の配下に指示して、お前の宿り木は第6階層に植林するように手配したからな」

 

「横暴だぁ!?」

 

 

 ピニスンは余りの理不尽さにアインズを非難するが。その瞬間、近くに居たアウラが身も心も凍り付くような殺気を放ちながら呟く。

 

 

「――何、不満でもある訳?」

 

「――イエ、何モアリマセン」

 

 

 ピニスンは悟った。

 自分に選択の余地など初めから残されていなかったのだと。

 

 そんなピニスンの悲痛な想いとは裏腹に、アインズは淡々と命令を下した。

 

 

「では頼んだぞアウラ」

 

「はい、お任せ下さいアインズ様ッ!」

 

 

 そういってビシッと元気よく敬礼したアウラは、ピニスンを小脇に抱えたまま、凄まじい速さで森の奥地へと去っていく。

 

 

(ふ、不幸だぁあああああ!)

 

 

 自分の意思は完全無視で攫われたピニスンは、ドナドナと心の中で悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

(――成程な、確かに訳が判らない状況だな)

 

 

 アインズから事のあらましを聞いたイチグンは思い悩む。

 

 魔樹ザイトルクワエの消失は原作にはなかった事象であり、その謎の7人組というのにも心当りがまるでなかったからだ。

 

 

(……『十三英雄』ではないよなぁ?)

 

 

 七人組やザイトルクワエという言葉で真っ先に思い浮かんだのが、原作でプレイヤーの可能性を示唆されており、魔樹の一部を討伐した十三英雄の存在である。

 

 しかし、魔樹の一部を討伐したのは200年も昔の出来事であるし、十三英雄ならば仲間同士で争っていた理由が判らない。

 

 世界秘宝を使ったとするならば、それは何処から入手し、どのような効果を持つものだったのだろうか。

 

 魔樹ザイトルクワエは、本当に死滅したのだろうか。死滅していないとするなら、一体何処に消えてしまったのだろうか。

 

 判らないことは沢山あり、やるべきことは山積みであった。 

 

 

 故にアインズが偽ナザリックの建造に注力し、配下達をナザリックへと退避させ、トブの大森林の支配活動を保留にしたのは英断であったとイチグンは考えていた。

 

 下手に戦力を拡散させてしまえば、何か異常が発生した際に此方が気付くのも遅れるし、何かあった時に打てる手も狭まってしまう。

 

 

 今回は西と北のトップを支配下に置き、偽ナザリックの建造のみに留めておこう。

 

 そんな風に話のまとまったアインズとイチグンは、再び漆黒の剣と合流し、エ・ランテルへの帰路に着く。

 

 

 ――そしてその道中、漆黒の剣の前に新たな脅威が近づいていた。

 

 

「っ、何かでけぇものが俺達に向かって一直線にやってくるぞ!!」

 

「おっ、噂の森の賢王って奴っすかね?」

 

 

 切羽詰まった様子のルクルットとは裏腹に、暢気に構えるルプー。

 

 

「……皆さんは、俺達の後ろに下がって下さい」

 

「……全員が逃げ切るのは不可能ですし、この広場で迎え撃ちましょう」

 

 

 そう言って槍と大剣を構えたイチグンとモモン。

 

 漆黒の剣の面子も各々が武器を引き抜いて、敵の襲撃に備えた。

 

 

「某の管理する領地に侵入した無法者は其方たちでござるか?」

 

 

 そんな声と共に茂みを掻き分けて現れた魔獣に、その場にいた半数以上の者達がゴクリと唾を呑み込んだ。

 

 白銀の獣毛に包まれた巨体に、長く伸びる鞭のような尻尾。

 

 その四足には鋼鉄をも切り裂く鋭い爪がついており、立ち上がった魔獣の腹部には複雑な魔法陣のような紋様が燐光と共に浮かび上がっていることから、この魔獣が魔法を使用出来ることを示していた。

 

 理性無き獣のように本能のままに襲ってくることなく、人の言葉を理解して話しかけてくることからも判るように、高い知性を保有していることが判る。

 

 そんな魔獣が目の前に現れ、敵意を剥き出しにしながら自分達を睨み付けている事実に、思わず竦み上がる漆黒の剣やリィジー。

 

 しかし、冥府の番犬の三人組はそんな魔獣を前にしても、暢気に念話で会話を交わしていた。

 

 

『……やっぱどう見てもハムスターだよなぁ』

 

『こんだけデカいとインパクトはありますけどね』

 

 

 敵意を剥き出しにして此方を威圧する姿も、イチグンやモモンにとっては愛らしい姿にしか思えない。

 

 精悍な顔立ちというよりは愛嬌のある顔立ちであり、古臭い武士のような喋り方をすることもあり、存在自体が一種の冗談に思えてしまう。

 

 

 しかし、ルプーからすれば違ったのか、キョトンと不思議そうに首を傾げながら感想を口にする。

 

 

『……そんなに変っすか?実際の強さは兎も角、見た目は何かカッコ良くて強そうに見えますけど?』

 

『『あれがっ!?』』

 

 

 そんなルプーの言葉に驚愕するアインズとイチグン。

 

 自分達の認識の方がズレているのだろうかと、真剣に思い悩むのであった。

 

 

「某と互いの命を賭けた殺し合いを行う覚悟の決まった者はおるでござるか?」

 

「――では、俺が行こう」

 

 

 そんなやり取りをしてる内に、一対一の殺し合いで勝敗を決めることになり、イチグンが自ら一歩前に歩み出て名乗り出る。

 

 

「某の名は森の賢王。仲間を守る為に己の身を犠牲とした、勇敢なお主の名を教えて欲しいでござる」

 

「イチグンだ」

 

「イチグン殿でござるな。其方の名前、死して尚、この森の賢王が語り継ぐでござる」

 

 

 森の賢王の言葉を聞いたイチグンは何とも言えない残念な気分に陥っていた。

 

 既に何回も死んでるし、死ぬつもりなど更々ないのに、もう殺された扱いとなっているのだから。

 

 そんな微妙な空気の中、イチグンは思わず確認する。

 

 

「……アインズさん、もしこいつに名前をつけるなら何にしますか?」

 

「……名前ですか?」

 

 

 実はイチグンはハムスケのことを、森の賢王としか紹介していなかった。

 

 故に本来辿るはずであった歴史から外れたこの世界で、森の賢王に対しモモンがどういった名前をつけるのか気になったのである。

 

 

「……大福……いや、ハムスケかな?」

 

「……成程、それはいい名前ですね」

 

「えっ、ホントですかっ!?」

 

 

 

 その結果は原作と同じく、『ハムスケ』で変化なし。

 

 原作との乖離が激しかったのに、こういった部分では乖離しないのか。

 

 そんな安心感からハムスケという名前をイチグンが褒めると、嬉しそうに反応するモモン。

 

 どうやら森の賢王の名はハムスケで決定したらしい。

 

 

「……あの~、そろそろ殺し合いを始めても良いでござるか?」

 

 

 空気を読んで攻撃を仕掛けることの出来なかったハムスケが、様子を伺うようにイチグン達に話し掛ける。

 

 結局、機を逸したハムスケは仕切り直しと言わんばかりに決戦の場に相応しい闘技場へと皆を案内するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はイチグンとハムスケの戦い……と見せかけて、ネメシスとハムスケのバトルになります。
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