四期制作決定とかの報告ないかなぁ……ネイアちゃんの活躍が見たいと思っているのは私だけではないはずだ!
そして、シャルティアとの戦闘回以上の文章量……四万字超えたので二分割します。
夜の静寂を一変させるような警鐘がエ・ランテル全体に鳴り響く。
その警鐘を聞いた住民達は何事だろうかと外に出るが、伝令兵が齎した凶報にパニックに陥る。
城塞都市の西側にある共同墓地に大量のアンデッドが発生。
その数は十や百どころの騒ぎではない。
千――否、万を超える死者達が目覚め、エ・ランテルの居住地に向けて進軍しているのだ。
そんな報告を受けた冒険者組合の長であるアインザックは、即座に魔術師組合の長であるラケシルと連携し、エ・ランテルに居る冒険者や戦う術を持つ者を招集して、共同墓地の北入口と南入口に向かわせた。
エ・ランテルの共同墓地は東西南北の四つの区画に別れており、城塞都市の構造上、西と東は巨大な分厚い城壁が墓地と居住区を隔離している。
深い堀と跳ね橋によって出入りも制限されている為、有象無象の亡者達が乗り越えることは出来ないが、南と北の出入口は警備兵が常駐している簡素な石造りの防壁があるだけだ。
アンデッド達もそれを理解しているのか、南と北に別れて進軍しているとの報告も入った。
故に招集した冒険者達を、アンデッドの侵攻を防ぐ為に南と北に向かわせたのだ。
現在エ・ランテルに在中している戦力は四千弱。対するアンデッドは目算でも一万以上は確実に居る。
しかも戦力として数えた者達の中には、普段は事務方で活躍しており、荒事を経験したことのない魔法詠唱者までいるのだ。
そのことを鑑みるならば、実質的な戦力は半分以下。しかも予期せぬ奇襲である為、碌な対策すら練れていないのだ。
そんな事実を踏まえた上で、都市長のパナソレイは迷いなく決断した。
「住民達に避難勧告を出せ。冒険者達には住民が避難するまでの間時間稼ぎをして貰う。そして、住民達の避難が完了次第、北と南の正門から逃げるように伝えろ」
「と、都市長?」
「エ・ランテルは一度捨てる」
都市の被害や周囲からの叱責を覚悟の上で、パナソレイは住民全員に避難勧告を出す。
アンデッド達を現存戦力で討伐することも可能かもしれないが、このような規模の災害は自然発生ではあり得ない。
高確率で秘密結社ズーラーノーンが関わっているだろうし、失敗した時の人的被害を考えると軽率な判断は下せない。
故にエ・ランテルを一度捨て、王国に応援を要請して、戦力を確保した上でアンデッドを駆除する方が堅実だと考えたのだ。
恐慌状態に陥っていた民衆を迅速に纏め上げ、最善の判断を下したパナソレイは有能な指導者と言えるだろう。
――しかし、そんなパナソレイの英断はカジットに読まれていた。
「――なっ、
4体のスケリトルドラゴンが上空より飛来し、エ・ランテルの東西南北に備えられていた門を襲撃したのだ。
門を守っていた憲兵達は抵抗虚しくその巨体に踏み潰されて全滅。
門の開閉を管理する仕掛けは破壊され、城壁の瓦礫により外への逃走経路は塞がれた。
撤退することは不可能。
つまり、冒険者達は共同墓地から無限に湧き上がるアンデッドを全て討伐しなければならないのだ。
・・・・・・
そんな絶望的な状況の中、万を超える不死者の群が共同墓地の南入口に集結した冒険者に襲い掛かる。
敵の大半は脆い骨の身体を持つ
単体なら容易に勝てる
津波のように押し寄せてくる亡者に取り囲まれ、生きたまま全身を貪り食われる冒険者達。
疲れや恐れを知らぬ不死者は、常に全力で動き回れるので下手な魔獣よりも厄介である。
死の間際まで暴れ回る
「くそっ、回復まだかっ!」
「前衛フォローに入れッ!」
矢継ぎ早に叫ぶ冒険者達であったが、誰もが戦線を維持できないと諦めていた。
――敵の侵攻を食い止める前衛が足りない。
――そんな前衛を補助する後衛が足りない。
――負傷者を癒す回復役が足りない。
何もかもが圧倒的に足りず、生者と死者の間には歴然とした戦力差がある。
負傷した冒険者達が後退することにより、死者はより勢いを増し。死者達の勢いが増す程に、冒険者達の士気は下がる。
冒険者達の心に絶望と恐怖が宿り、それが楔となって身体の動きを鈍くする。
また一人、また一人と冒険者達が倒れ、鮮血と腐臭が墓場に充満する。
そんな中、生者達を嘲笑うかのように呻き声を上げながら進軍する死者達。
まるで悪夢のような光景。
希望を見出せぬ地獄絵図であった。
「皆、最後まで絶対に諦めるなっ!」
そんな中、暗闇を切り払うように鋭い斬撃が走る。
後方から現れた金髪の青年は、負傷している女冒険者を庇う様に前に立つと、鮮やかな剣捌きで
また剣を用いて攻撃するだけでなく、鋭い回し蹴りにより
「《植物の絡みつき/トワイン・プラント》」
髭を生やした大男が魔法を発動すると、無数の植物の蔦が地面から生え、前衛を襲っていたアンデッド達を絡めとる。
前方のアンデッドの動きが止まったことにより、後方のアンデッドの侵攻も止まり。余裕が出来た冒険者達は即座に後退。
大男の唱えた回復魔法により、負傷していた冒険者達は戦線に舞い戻り、アンデッド達を押し返す。
「《魔法効果範囲拡大化/ワイデンマジック》
《衝撃波/ショック・ウェーブ》 」
中性的な顔立ちの魔法詠唱者が杖を翳すと、その先端から衝撃波が生まれ拡散する。
脆弱な
「グォオオオッ!!」
そんな魔法詠唱者の存在を脅威と感じたのか、他の冒険者を襲っていた
「させるかっての!」
だがそんな突進は飛来する矢に阻まれた。
雁股の鏃により両目を抉られた
其処を他の冒険者達が袋叩きにして二度と猛威を振るわぬように止めを刺す。
四人の金級冒険者――漆黒の剣の活躍によって戦線は一気に立て直され、冒険者達の瞳に希望の光が宿る。
「「オォオオオオオオッ!!」」
疲弊した者、負傷した者、仲間を喪った者。
全員が勝鬨を上げるように勇ましく吼え、再び無数のアンデッドに立ち向かった。
そんな切っ掛けを作り出した漆黒の剣のリーダーであるペテル・モークは、最前線で魔物達を切り払いながら思う。
(――凄い、何だこの剣は)
軽く頑丈で、これだけのアンデッドを切り裂いても切れ味が全く落ちない。
身体も嘗てない程に軽く、この剣を握りしめているだけで力が湧き上がってくる。
それも当然である。
彼の握りしめている武器は遺産級の武器であり、王国の四宝である
更に敏捷性や腕力を向上させる効果も付与されているので、剃刀の刃に匹敵する名刀と言っても過言ではないだろう。
「武技〈戦気梱封〉ッ!」
そんな国宝級の武器に加え、イチグンからコツを教えて貰ったことにより覚えた武技を用い、己の氣を武器に込めることで斬撃の威力を底上げする。
まるで疾風のように、戦場を駆け回りながら活躍するペテル。
斬撃に耐性のあるはずのアンデッドが、紙切れのように切り裂かれていく光景に、他の冒険者達は戦いの最中であることも忘れてギョっとする。
そんなペテルに痺れを切らしたのか、
「くっ!?」
左右からの挟撃。
装甲車のような骸の怪蟲が牙を剥き、その巨躯に見合わぬスピードで突進してくる。
だがペテルはあえて二匹をギリギリまでひきつけ、衝突する寸前でバックステップにより回避した。
二匹の怪蟲は互いに激突し、絡み合って身動きが取れなくなる。
「武技〈斬撃〉ッ!!」
そんな隙を見逃すことなく、自らの得意技を用いて反撃するペテル。
ペテルの振るった渾身の斬撃は淡く煌めき――そして紅く燃えた。
黒い刀身が紅蓮に染まり、頑強な身体を持つ怪蟲を二匹纏めて両断。そして断面が発火し、業火に焼かれた怪蟲達は動かなくなった。
「「うぉおおおおおおっ!!」」
ペテルが二体纏めて強敵を討伐したことにより、冒険者達の士気は大いに盛り上がる。
圧倒的に不利であった戦況は大きく傾き、冒険者達が優位に立ち始めた。
(――え゛っ?)
一方でペテルは今起こった現象に困惑しながら武器を見据える。
少しでもダメージを与えようと追撃したつもりなのに、二匹纏めて一刀両断。おまけに謎の発火現象まで起こったのだから当然の反応だろう。
だがある意味これは必然ともいうべき結果であった。
彼は低レベルで数多のアンデッドを討伐したのだ。当然、大量の経験値が手に入りレベルも上がる。
レベルが上がったことにより己の能力が底上げされ、今までは出来なかったことが出来るようになった。
それがペテルが得意としていた武技〈斬撃〉を、全く新しい武技へと昇華させたのである。
――そして、成長を実感していたのはペテルだけではなかった。
(――魔導王より授かったこの短杖のおかげか、より魔力を広範囲まで操れるようになったのである)
ダインは敵を植物の蔦で足止めし、傷ついた者達を癒しながら理解する。
嘗て己の操る植物は、一度に敵を二人足止め出来る程度の威力や精度しかなかった。
それが倍以上のアンデッドを足止めしても余力があり、蔦で絞殺することも可能なぐらいに威力が高まっている。
そして広範囲の魔力を掌握出来るようになったことで、今まで出来なかった広範囲に影響を及ぼす魔法が扱えるようになったのだ。
「《魔法効果範囲拡大化/ワイデンマジック》
《集団軽傷治癒/マス・ライト・キュアウーンズ》」
ダインの短杖から放たれた緑色の燐光が、亡者の蠢く薄暗い墓地を照らす。
光を浴びた冒険者達の手傷は癒され、逆にアンデッド達は煙を上げながら呻き苦しむ。
回復した冒険者達の手によって弱ったアンデッドは討伐され、また生者達の勢力は勢いを増した。
そんな彼らの快進撃を後押ししたのは、ニニャの放った強大な魔法であった。
(……よし、いける)
大量のスケルトンを流れ作業のように始末していたニニャは、あるタイミングを境に自分の内側に眠る魔力の質が変わったことを自覚した。
器が広がり、より魔法の深淵に足を踏み入れたという奇妙な高揚感。
ニニャは握りしめた杖を触媒に、今まで知識だけでしか知らなかった魔法を使う決断を下す。
「――皆さん、ボクの前から離れて下さいッ!
《魔法最強化/マキシマイズマジック》
《雷撃/ライトニング》ッ!」
まるでレーザービームのような紫電が、雷鳴と共に空気を焦がしながら直線上に居た敵を薙ぎ払う。
高い耐久性を持つ
「だ、第3位階魔法だとッ!?」
近くに居た魔法詠唱者が、信じられないと言わんばかりに絶叫する。
使えれば白金級は確実と言われている第3位階魔法を年若い魔法詠唱者が行使したことにも驚いたが、何よりその威力が桁違いであった。
男の知る《電撃/ライトニング》が児戯に思える程の破壊力。
それは遺産級の杖という装備の差もあるが、ニニャの潜在能力がこの死闘を経て開花したことが最も大きな要因だろう。
《魔法最強化/マキシマイズ・マジック》は、希少な第3位階魔法の使い手の中でも、ほんの一握りの才あるものにしか扱えないからだ。
「……かぁ~、ちくしょうっ!あいつら無駄に目立ちやがってッ!」
一方で、思うような成果を上げれずに歯痒い思いをしているのはルクルットであった。
ルクルットの武器は弓であり、刺突攻撃に耐性のあるアンデッドは相性が悪い。
装備している弓は遺産級だが、主な効果は命中補正と連射性能アップだ。
連射性能は上がったとしても、矢は有限であるため無駄打ちが出来ない。
敵を倒すことでMPが回復するという効果もあるが、そもそもルクルットは魔法詠唱者ではないためMPは必要ない。
故にルクルットに出来るのは、アンデッドの攻撃に晒されない安全地帯からの援護射撃。
それでも十分に活躍しているのだが、仲間達三人が獅子奮迅の活躍を見せる中で、自分だけコソコソと後方から矢を射るのは彼の性分ではなかった。
「弓使いはアンデッド狩りに向いてねぇんだよ……っと!」
そう愚痴りながらもルクルットは矢を番えて、アンデッドに襲われてる冒険者達をフォローする。
――そんなルクルットの祈りが天に通じたのだろうか。
彼の放った何の変哲もない矢は、不浄を払う神聖な輝きを纏いながら
矢の刺さった
「……ハハハッ、マジで?」
その幻想的な光景に、思わず頬を引き攣らせながら苦笑いするルクルット。
彼もまたこの戦闘によってレベルが上がり、新たな職業を取得。
戦力外通告を受けていた弓使いは、一気に主戦力に成り上がった。
「いける、いけるぞっ!!」
少しずつ減っていくアンデッドの軍勢に、冒険者の一人が嬉しそうに叫ぶ。
しかし、そんな冒険者の言葉を否定するかのように上空より邪悪な影が舞い降りた。
「――ッ
その正体を理解したニニャは、苦い表情を浮かべる。
何故ならその種族特性により、全ての魔法を無力化してしまうと言われているからだ。
「――ダイン、フォローをッ!」
それを察したペテルは近くに居た魔法詠唱者に補助魔法を掛けて貰い、ダインに合図を送る。
「《魔法効果範囲拡大化/ワイデンマジック》
《植物の絡みつき/トワイン・プラント》」
ペテルの言葉に阿吽の呼吸で応えるダイン。
彼の操った大量の植物の蔦により、骨の竜は身動きを封じられ、上空へと逃れるタイミングを逸する。
「武技〈炎刃〉ッ!」
裂帛の気合と共に習得したばかりの武技を惜しみなく振るうペテル。
その攻撃は地面に拘束されたスケリトル・ドラゴンの首を跳ね飛ばす――はずだった。
「なっ!?」
ペテルの攻撃を阻んだのは、成人男性を覆いつくす程の巨大なタワーシールドであった。
そんなタワーシールドを掲げるのは、重厚な鎧をその身に纏った巨大な屍。
カッツェ平原の悪夢と一部の者達に恐れられる伝説のアンデッド――
「グォオオオオオ……」
怨念を宿した不気味な唸り声。
その空虚な眼孔がペテルを見下ろすように睨む。
「――――っ!?」
不穏な気配を察知したペテルは、即座にその場から飛び退いて防御の構えをとる。
背中からは大量の冷や汗が流れ出て、心臓が破裂しかねない程に激しく脈動する。
唐突に現れた未知のアンデッドの存在に生者は気圧され、戦いにより高揚していた心が一瞬で醒める。
そんな不穏な流れを振り切ろうと思ったのか、血気盛んな冒険者達が剣を掲げて叫んだ。
「ビビってんじゃねぇ!いくぞ野郎共ッ!」
「「おうっ!!」」
山賊のような男が鼓舞すると、それに合わせるように突撃する筋骨隆々とした冒険者達。
そんな冒険者を見た
「グォオオオオオ!」
咆哮と共に一閃。
それだけで山賊のような男が上半身と下半身に二分割となる。
巨体や重装備に見合わぬ俊敏性。
圧倒的な力と速度で突撃した冒険者達を斬り殺していく。
「ひっ、ひぎゃぁあああ゛っ!?」
突撃に加わった冒険者は圧倒的な暴力を前に戦意喪失し、武器を放り投げて冒険者達の下へと逃げるが、あっさりと死の騎士に追いつかれ、背後から心臓を一突き。
宙づりにされた男は、断末魔と共に血を噴き出して絶命。僅か数十秒足らずで十人以上居た冒険者達が惨殺されてしまったのだ。
「……おいおい、マジかよ」
そんな戦闘の直後、冒険者の一人が受け入れがたい現実を目撃して絶望する。
「《魔法最強化/マキシマイズ・マジック》
《雷撃/ライトニング》ッ!」
それを理解して即座に動いたのは、漆黒の剣のニニャであった。即座に強化された第3位階魔法を発動し、死の騎士を狙い撃つ。
頑強な
「そ、そんな!?」
ニニャは目の前で起こった出来事に愕然とする。
拘束されていた
よく見れば
本来なら自我や知性を持たぬアンデッドが、己の役割を理解した上で連携をとっているのだ。
「「グォオオオッ!」」
咆哮と共に死の騎士がペテルに襲い掛かり、骨の竜は上空に舞い上がる。
「くそっ!」
ペテルは強化魔法や装備によって底上げされた敏捷性により何とか一撃を回避したが、続く二撃目は避けることが出来ない。
巨大なフランベルジュの切り上げに対し、両手に持った小盾と剣を交差させて衝撃に備える。
「――がはっ!?」
固い金属同士がぶつかる衝撃音と共に、ペテルの身体は木の葉のように宙に舞う。
左腕の小盾は砕け、剣を持った右腕はあらぬ方向へと捻じ曲がる程の威力。身体がバラバラにならなかったことが奇跡と言えるだろう。
そんな満身創痍の彼に迫るのは無骨な鉄塊。
巨大な盾によるシールドバッシュで、ペテルの肉体は数十m程吹き飛んで地面に激突した。
「「ペテルッ!?」」
ペテルの負傷に動揺するニニャとダインであったが、よそ見をしている暇などない。
硬直した冒険者達を上空に漂う巨大な捕食者がつけ狙っているのだから。
皆が動揺しているタイミングを見計らったかのように、
しかしそんな捕食者の奇襲を、優れた耳を持つ狩人は事前に察知していた。
「この禿鷹野郎がっ!」
ルクルットの放った聖なる光を纏った矢は、右翼と左翼を連続で穿ち貫いた。
真下に居た死の騎士を圧し潰すように地面に墜落した。
「ダインッ、ペテルの治療を頼んだ!」
「っ、任せるのである」
即座にペテルの下へと駆けつけたダインは、ありったけの回復魔法をペテルに掛ける。
「――がはっ、ごほっ!」
息を吹き返したペテルに安堵するダインであったが、彼の状態は最悪だ。
体中の至るところに致命的な手傷を負っており、ダインの回復魔法で治せる範疇を遥かに逸脱している。
戦線に復帰するのは不可能だと判断したダインは、傍にいた赤髪の冒険者に頼んでペテルを後方に下げる。
赤髪の冒険者が手持ちのポーションを惜しみなく振りかけており、ペテルの荒々しかった呼吸も安定した。
「…………」
仲間の無事を確認したダインは意識を戦場に戻し、鋭い眼光で敵の落下地点を睨むルクルットに問いかける。
「――やったであるか?」
「――だといいけどなぁ」
かなりの高度から落下したので、打撃攻撃に弱い
巨大な骨の塊に圧し潰された謎のアンデッドも、致命傷を負ったはずだ。
そんなダインやルクルットの予想は、最悪の形で裏切られることになった。
ムクリと起き上がる
翼に穴が開いて飛べなくなったようだが、戦闘を行う余力はあるようで威嚇の咆哮と共にその瞳を光らせる。
そして
死の騎士は元々防御に特化した魔物であるため、この程度の物理的な衝撃は大したダメージにならないのだ。
「むぅ、信じられん!?」
「……冗談キツイぜ」
そんな事実を知らないダインとルクルットは、未知のアンデッドの耐久性に恐れ慄く。
果たしてこの不滅の存在を討伐する手段はあるのだろうかと。
「――ちっ!」
立ち上がった
だがその矢は巨大なタワーシールドによってあっさり防がれてしまう。
アンデッドには非常に有効な攻撃手段となるルクルットの矢であるが、武装した死の騎士には効果が薄い。何故なら
ならばと
そして
ルクルットの攻撃を警戒し、防御を固めたまま数の暴力で押し切るつもりなのだ。
「……あのすかした骨野郎、生意気にも
周囲に居る有象無象のアンデッドとは比べ物にならない脅威である。あの二体だけは別格だ。
そんな主戦力の二体を警護するように押し寄せてくる亡者の群に、お調子者のルクルットも流石に表情を歪めてしまう。
(……あんだけ肉壁に埋もれてると、矢もまともに当たら――ん、待てよ?)
アンデッドが犇めく光景を見て、ルクルットはとある妙案を閃いた。
「皆、ありったけの矢を俺のところに持ってこいッ!押し寄せてくるアンデッドは倒さずに防御に徹しろ!」
そんなルクルットの叫びに、冒険者達は訝し気な表情を浮かべる。
貴重な矢の予備を全て寄越せ、敵を討伐するなと言っているのだから。
しかしチームの頭脳であり、ルクルットとの付き合いが長いニニャだけは、彼の思いついた作戦の全容を瞬時に理解した。
「――っ、そういうことか!」
ニニャは前衛に武器を捨て盾を構え敵を足止めするように指示を出し、魔法詠唱者には強化魔法を掛けて即席の防壁を作るように指示を出す。
「早くしないと手遅れになる!!皆、死にたいんですか!?」
「「――――ッ!?」」
ニニャの鬼気迫る剣幕に、背中を押されて動き出す冒険者達。
大量の矢をルクルットの下へと運び、盾を構えて徹底防御の構えをとる。
「――頼むぜ」
ルクルットは神に祈りながら、大量の矢を
山なりに飛んだ矢は死の騎士と骨の竜を飛び越えて、背後の
聖なる矢が突き刺さった
「「グォオオオオオッ!!」」
ルクルットの矢が
後退しようにも背後は大量の亡者達で埋め尽くされており、下がることが出来ない。
前方も無数のアンデッドが道を塞いでおり、冒険者達も防戦一方で討伐していない為、進むことが出来ない。
「――ハハハッ、そういうことかよっ!」
察しの悪い冒険者達にも、ルクルットの作戦が理解出来た。
これは死者の群による肉壁の檻だ。
檻の中に二体の猛獣を隔離し、攻撃の届かぬ離れた場所から狩人が猛毒を散布して殺す。
柔軟な思考を持つルクルットだからこそ思いついた奇策である。
「――っ!」
ひたすら聖なる矢を放ち続けるルクルット。
ルクルットの使用しているスキルはMPを消費するため、本来なら連続して放てるものではないのだが、彼の持つ遺産級の武器が
そして背後には亡者達がまだまだ蠢いている。故に矢が尽きぬ限りは、彼はこのスキルを使用出来るのだ。
「皆、ここが正念場だから堪えてくれよッ!」
周りを鼓舞しながら、ひたすら矢を上空に放ち続けるルクルット。
それに応えるように盾を構えてアンデッドの侵攻を食い止める冒険者達。
だが、そんな彼らの善戦も
「グォオオオオオ!」
防御を固めていた冒険者達の陣地に次々と投げ込まれるアンデッド達。
それにより防衛の布陣は崩れ、破綻した防壁から濁流のように他のアンデッド達が侵入してくる。
アンデッドが進軍したことにより前方の空間にゆとりが生まれ、その隙間を縫うようにして
狙うはただ一人。
安全地帯から矢を射続けるルクルットである。
「――アンデッドにケツを狙われる趣味はねぇんだよ!」
それを察したルクルットは後退しながら矢を射るも、
援護に回った屈強な冒険者達も死の騎士の魔の手に掛かり、柘榴のように弾け飛び、塵のように切り飛ばされる。
それを見た他の冒険者達は足が竦み、ルクルットの守りを放棄して退避。
こうしてルクルットと死の騎士の前には誰も居なくなった。
「――ハハハッ、マジかよ」
最早ルクルットは笑うしかなかった。
頼りになる仲間達は近くにおらず、近くに居た冒険者達は誰も彼を助けようとはしない。
目の前にいるのは屈強な不滅の騎士。
相対するのは貧弱な人間の弓使い。
――どうあがいても死は免れない絶望的な状況であった。
「……ど畜生が」
諦観の篭った呟きと共に、弓を構えようとするルクルット。
だがそれよりも早く
そして右手に握った巨大なフランベルジュを天高く掲げて、力任せに振り下ろす。
その一撃はルクルットの脳天から股下まで、紙切れのように両断出来る威力を秘めていた。
(――あっ、死んだわコレ)
走馬灯のような緩やかな時の流れの中、その刃の切っ先を静かに見据えるルクルット。
しかし刃がルクルットの頭に触れる刹那の瞬間、間延びした時間に介入者が現れた。
「いやぁ~、危ない危ない。間一髪っすね♪」
巨大なフランベルジュを止めたのは、十字架を模した
美術品のような細やかな装飾の施された戦闘杖は、その外見に反して凄まじい強度らしく、高威力の斬撃を受け止めても傷一つ付いていない。
いや、そんな些細なことよりも着目すべきなのは、その攻撃を受け止めた人物だろう。
赤髪に褐色の肌。
この世のものとは思えぬほどの美貌を持つ十代後半の女性。
そんな華奢な女が、片手で
しかも
一体いつの間にこの場所に現れたのかもわからない。
実は幻影なのではないかと思わせる程に、その存在自体が非現実的であり神秘的である。
「随分奮闘したみたいだけど、大丈夫っすか?」
神官ルプーは、天真爛漫な笑みを浮かべながらルクルットに手を差し伸べる。
月下に照らされた死屍累々の墓地。
生者と死者を見下し嘲笑うその姿は、正しく冥府の番犬である。
そんなルプーの柔らかな手を握りしめながら、ルクルットは曇りなき眼で彼女を見つめる。
(――天使だ、結婚しよう)
どうやら彼の眼球は硝子玉で出来ており、現実を正しく見据えていないようだ。
「グォオオオ……」
突如現れた奇抜な恰好の女神官に、感情の希薄な
――一体何処から現れた。
自分の目の前には鬱陶しい弓使いしかいなかったはずなのに。
――渾身の一撃を受け止められた。
しかも片手で此方を見もせず無造作にだ。
「さてと――お遊戯はお終いかしら?」
ルプーが初めて
そんな彼女の姿を見た
――この女は他とはまるで違う。
己の存在が脅威とみなされていないのだ。
雰囲気がガラリと変わったルプーを前にして、
「「…………」」
腰を落として盾と剣を構える
手に持った戦闘杖をクルクルと器用に回しながら、敵との間合いを詰めるルプー。
まさに一触即発の空気の中、そんな二人の戦闘に介入する者が現れた。
「助太刀に来たでござるっ!」
白銀の獣毛に覆われた魔獣が、巨大なボールのように丸まりながら
盾で防御しても抑えきれぬ衝撃が、死の騎士の巨体を遥か後方に吹き飛ばした。
そのずんぐりとした体型とは裏腹に、空中で鮮やかに体勢を整えたハムスケは、その短い四つの脚で大地に降り立つ。
四つの脚には黒い具足のようなものが装着されており、伸縮自在な尻尾にも似たような防具がつけられていた。
「大丈夫でござるかルプー殿?」
叡智を感じさせる声で、仲間の安否を気遣う森の賢王。
そんな魔獣の登場に、劣勢に陥っていた冒険者達は大樹に背中を預けるような心強さを感じたが、ルプーだけは違ったらしい。
「――凄く邪魔っすよ?」
「痛いでござるっ!?」
そんな言葉と共にハムスケの胴体に前蹴りを叩き込んだルプー。
ドゴンッという凄まじい音が鳴り響き、ハムスケの身体が僅かに宙に浮いた。
相当その蹴りが痛かったのか、ハムスケの大きな瞳は涙で潤んでいた。
ハムスケからすれば仲間のピンチに颯爽と現れたつもりであったが、ルプーからすれば自らの遊びを妨害した邪魔者以外の何者でもない。
故にニコニコと笑顔こそ浮かべているものの、瞳はまるで笑っていなかった。
そんなルプーの圧力に、全身の獣毛を逆立たせて怯えるハムスケ。
猫に睨まれた鼠ならぬ、狼に睨まれたハムスターである。
「……も、申し訳ないでござるぅ」
ハムスケは完全に委縮してしまい、その巨体を小さく丸めて謝罪する。
そんな情けなく弱々しい姿を見た冒険者達は、森の賢王が掌サイズの愛玩動物になってしまったような頼りなさを覚える。
しかし、ここは戦場の真っ只中。
のんびりとそんなやり取りを観察している暇も、頭を下げている余裕もないのだ。
アンデッドの群は、未だに津波の如く押し寄せてきているのだから。
「グォオオオオオ!!」
後方で蹲っていた
ボロボロの身体を引き摺りながらの捨て身の体当たり。
飛べなくともその巨体が暴れ回るだけで冒険者に甚大な被害を与えるだろう。
「そうはさせんでござるっ!」
それを見たハムスケは脱兎のごとくその場から走り出し、今まさに襲われんとしていた冒険者達を飛び越え、
体格的には圧倒的に大きな
元々重症を負っていたこともあり、その体当たりを受け止めることが出来ずに砕け散る
「――オォォォォ」
怨嗟の篭った断末魔が共同墓地に響き渡り、肉体を構成していた大量の骨は空気に溶け込むように消えていった。
「……す、スゲェ」
そんな怪物同士の戦いを見た冒険者達は、森の賢王の圧倒的な力を前にして感嘆の溜息を洩らす。
ハムスケも周りから上がる賞賛の声に、ピクピクと嬉しそうに鼻を鳴らしながら誇らしげな表情を浮かべる。
しかし、そんな状況で厄介な援軍が現れた。
闇夜に浮かび上がる巨体が月光を遮り、その咆哮によって空気が波打つ。
「……
漸く倒したばかりの脅威が、再び上空に現れた。
先ほどの死に際に放った敵の断末魔は、脅威を知らせ、増援を求める合図でもあったのだ。
終わりのない悪夢に冒険者達の心が折れそうになるが、そんな彼らの心境など無視して敵は襲い掛かってくる。
最初に
上空から獲物を仕留める鷹のように、鋭い爪を翳して急降下する。
まともに喰らえば森の賢王とて重症は免れないと思わせるような猛攻であった。
しかし、ハムスケはどっしりとその場に構えたまま微動だにしない。
野生の本能が
「武技〈要塞〉でござるっ!」
ただでさえ頑強なハムスケの獣毛が、武技〈要塞〉によって強化された。
アダマンタイト以上の硬度になった白銀の獣毛は、刃物どころか大砲すら無傷で弾き返す程の防御力を持つ。
そんな頑強な物体に、骨程度の強度しかない
答えは両足の崩壊という結果で証明された。
「グォオオオッ!?」
攻撃を仕掛けた方がダメージを受ける。
アンデッド故に痛みは感じないが、高い知性を与えられたことで不可解な現象に対する困惑が生まれてしまう。
ならば他の雑魚から蹴散らすだけであると上空に逃げて体勢を整えようとする。
四足獣で翼を持たぬ相手は飛ぶことが出来ないと判断し、他の敵を狙う方針に切り替えた骨の竜は利口だと言えるだろう。
――しかし、それはあくまで常識を判断基準にした場合である。
ハムスケは空を飛ぶことは出来ないが、
「逃がさないでござるよっ!」
ハムスケは上空に離脱する敵を睨みながら跳躍する。
凄まじい跳躍力であるが、空に浮かぶ
重力に導かれるまま落下するハムスケの身体であったが、何もない空中でハムスケは更に跳ねた。
「「はぁ!?」」
天を仰いだ冒険者達は唖然とする。
まるで宙に足場でも存在するかのように、ハムスケの巨体が軽やかに跳躍し、夜空に舞い上がっていくのだから。
ハムスケが足場の存在しない空中を跳ねることが出来るのは、その四足に装着された武具の恩恵によるものだ。
MPを消費することで、空中を飛び跳ねることが可能になる。
アインズからすれば、それだけの効果しか齎さないネタ装備であった為、《飛行/フライ》を扱えるようになるネックレスの方が余程利便性が高いだろうと考えていたのだが、イチグンの考えはまるで違った。
こと戦闘においては、瞬間的な加速や方向転換が出来る空中跳躍の方が有利だと判断し、試験運用としてハムスケの装備に組み込んでみたのだ。
天を駆けるハムスケはあっという間に
起動した武器はジェットエンジンのような青白い炎を噴射。
ハムスケの身体はその勢いのまま、鼠花火のように光の円陣を描きながら縦に高速回転する。
「喰らえでござるっ!武技〈強殴〉」
その殴打攻撃は強烈であった。
そしてその勢いを殺さぬまま、宇宙から降り注ぐ隕石のように敵陣に着地するハムスケ。
轟音と共に爆炎が発生。その劫火が亡者達を焼き尽くして地獄へと送り返す。
彼女の落下した地面は陥没し、巨大なクレーターとなっていた。
「うぅ~、目が回るでござるなぁ~。これは要練習でござる」
千鳥足で立ち上がるハムスケの姿を愛らしいと思う者達はこの場に居ない。
まるで災害のような森の賢王の攻撃に、冒険者達は心底味方で良かったと安堵するのであった。
ハムスケの活躍により周囲の敵は一掃されたが、墓地の奥からアンデッド達が際限なく現れ、直ぐに戦力が補給される
そんな亡者の群をぼんやりと眺めながら、ルプーは心底つまらなそうにぼやいた。
「……恐怖公の眷属みたいっすね」
戦うに値しない雑魚の癖に潰しても潰しても補充され、死者である為、痛みも感じず怯えもしない。
そんな相手に玩具としての価値を見出せなかったルプーは、早々にこの遊戯を終わらせることにした。
「よっと」
巨大な十字架を模した戦闘杖を背中から外し、右手に握りしめるルプー。
そんなルプーの不穏な気配を察知したのか、巨大な影が彼女の前に立ちふさがる。
「うはぁ~、死に掛けの癖にしつこいっすねぇ」
ルプーの前に現れたのは、歪んだタワーシールドを構えた
度重なる冒険者達の攻撃やハムスケの不意打ちをその優れた耐久力で切り抜けてきた強大な魔物は、未だに衰えぬ戦意を見せる。
「――アハハハッ!」
だが、それは逆効果でしかなかった。
不屈の闘志を見せて足掻く
笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。
栄えある玩具として選ばれた
「――起動」
その言葉と共にルプーの握り締めていた戦闘杖は神聖な光を纏う。
ルプーの持つ武器は、
この戦闘杖は1日に1回。
信仰系魔法の効力を下げる代わりに、魔法の効果範囲を爆発的に拡大することが出来るのだ。
「グォオオオオオ!!」
――アレを使わせてはならない。
不毛な攻撃を繰り返す
まるで巫女が祝詞を読み上げるように、彼女は
「《魔法最強化/マキシマイズマジック》
《魔法位階上昇化/ブーステッドマジック》
《魔法距離延長化/ロングレンジマジック》
《魔法効果範囲拡大化/ワイデンマジック》
《魔法抵抗突破化/ペネトレートマジック》
《集団中治癒/マス・ライトヒール》」
神聖なる癒しの光が、共同墓地の南区画一帯を覆いつくす。
その聖なるエネルギーにより、墓地に居た数千体のアンデッド達は纏めて浄化される。
亡者によって埋め尽くされていた広大な墓地は、瞬きする間に
そして変化が訪れたのは、死者だけでなく生者もである。
「お、俺の腕が!!」
「……嘘だろ。身体中の怪我が古傷も含めて全部綺麗に治っちまった」
戦いにより手足を欠損した冒険者達に新たな手足が生え。瀕死の重傷を負った冒険者達も過去の古傷も含めて怪我が癒され、失っていた体力が回復する。
そんな奇跡を目の当たりにした一人の神官は、その瞳から濁流のように涙を溢しながら血肉で汚れた地面に跪いて頭を垂れた。
「……オオオッ、女神よっ!」
神々しい燐光を纏うルプーを、光の女神の再臨であると褒め称える生者達。
しかし、ルプーは彼らの声に応えることなく、前を見据えたまま動かない。
「――っ、まだ生きているのか!?」
ルプーの魔法により治療されたペテルは、剣を抜いて身構える。
彼に致命傷を負わせた
冒険者達が知る由もないことであるが、
そしてルプーは、その事実を知っていた。
アインズが
最早まともに動くことすら出来ない
立つことの出来なくなった
そんな死の騎士の耳元で、ルプーは囁くように呟いた。
「――フフッ、無駄な努力ご苦労様」
そんな言葉と共に、横薙ぎに振るわれる戦闘杖。
杖に弾き飛ばされた
それに合わせるように胴体は倒れ、灰となって崩れ落ちた。
共同墓地南区画の死闘は、たった一人の年若い女神官の手によって幕引きとなったのだ。
あまりにも呆気ない結末に、その場にいた冒険者達の誰もが勝利を喜ぶことすらできず放心状態になるが、そんな中ペテルだけは何かに気付いたようにハッと叫んだ。
「――っ、共同墓地の北側にもまだ大量のアンデッドが居るはずです!直ぐに応援に向かいましょう!」
彼女の回復魔法なら多くの傷ついた冒険者を癒し、戦況をひっくり返すことが出来るはずだ。
そんなペテルの切羽詰まった反応に対し、ルプーは呑気に答える。
「無理っす。今ので魔力空っぽになったっすから」
「――っ、そう、ですか」
あれほどの大魔法を行使したのだから当然であると納得するペテルであったが、実際にはルプーはまだまだ余力を残している。
彼女が助太刀に行かなかったのは、面白みのない亡者達の相手をするのが面倒であったからだ。
遊び相手にもならぬ雑魚に構う程、彼女は物好きではない。
そしてもう一つの理由を挙げるなら――主の活躍の機会を奪うような無粋な真似はしたくないという気遣いと忠誠心である。
「そもそも、助太刀なんて必要ないっすからね」
そんなルプーの言葉に困惑する冒険者達であったが、その彼女の言葉の意味を直ぐに理解した。
「お、おい――
一人の冒険者が共同墓地の北区画がある場所を指差す。
其処から赤い彗星のようなものが、夜空を幻想的に彩りながら飛翔しているではないか。
そして天空に舞い上がった赤い彗星は、上空で弾け無数の光の帯に分裂。
赤い
ここからは週二更新が週一更新になります。
新しい章に突入するための重要な部分なので、じっくりと推敲しながら投稿したいと思いますので、これからも拙作をよろしくお願いいたします。