イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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※注意事項

・時系列がバラバラ。
・動物虐待の描写あり。
・AV(アニマルビデオ)要素あり。
・オバロなのにポケモンがメインです。
 
上気のことを容認出来る方のみ本編をお読みください。
 



第36話 ナザリック・プライベートタイム

 

 

 ナザリック地下大墳墓第6階層。

 

 其処は双子の姉弟であるアウラとマーレが管理する守護階層となっており、豊かな大森林を模した造りになっている。

 

 この階層の一番の見所は、壁面に再現された空であり。自然をこよなく愛していたギルドメンバーのブルー・プラネットが監修しただけあり、凄まじい完成度を誇っていた。

 

 昼は暖かな木漏れ日が大地に射し込み、夜は満天の星空が森の木々を優しく照らす。

 

 地下であることを忘れる程の雄大な景観が、訪れた者の心を魅了する素晴らしい場所である。

 

 

「――嗚呼、癒される」 

 

 

 イチグンはそんな第6階層の大樹に寄りかかり、目を瞑ったまま森林浴をしていた。

 

 闘技場で延々とアンデッドを討伐し続けてレベリングしていた彼は、荒んだ心を癒す為に心地良い自然に身を委ねてボーッとしているのである。

 

 時折彼の下に訪れる小動物に、アウラから貰った餌を与えながら愛で撫でる。

 

 血生臭い出来事とは無縁の穏やかな時間が、彼にとっては掛け替えのない安息であった。

 

 

(……おろっ?アレはイチグン様っすね) 

 

 

 そんなイチグンの姿を目撃したのは、偶々第6階層に用事があって訪れたルプスレギナであった。

 

 この場所は元々ギルドの女性メンバーの茶談会に使われていた場所であり、許可のない男性は滞在を許されない聖域なのだが、そのことをルプスレギナが咎めることはなかった。

 

 食堂での一件もありイチグンに好印象を抱いていた彼女は、アインズに許可を貰った上で此処に居るのだと察したからだ。

 

 

(……ふむ)

 

 

 ルプスレギナは気配を殺し、草木の隙間からイチグンの様子を観察する。

 

 何の警戒心も抱かず、欠伸交じりに木陰で涼んでいるではないか。

 

 そんな無防備な姿に、ルプスレギナの悪戯心がムクリと鎌首をもたげる。

 

 

(ふひっ、ちょっと驚かすぐらいなら大丈夫っすよね?)

 

 

 そんな思惑を抱きながらも、ルプスレギナはスキルを発動。

 

 すると彼女の身体が変貌し、赤茶色の毛並みに円らな琥珀色の瞳を持つ、一抱え程のサイズの四足獣に成り代わった。

 

 

「クゥ~ン」

 

 

 仔狼になったルプスレギナは、草木を掻き分けながらイチグンの前に現れ、愛くるしい鳴き声を上げながら擦り寄る。

 

 

「あははっ、可愛いなぁ。お前もアウラの飼ってるペットか?」

 

 

 そんな仕草に心を鷲掴みにされたイチグンは、目の前の仔狼がルプスレギナだとは気づかぬままに優しく抱き上げた。

 

 

(くふふ、計画通りっす!)

 

 

 抱き上げられたルプスレギナは、どのタイミングで人型に戻って驚かそうかと目論むが、そんな彼女の悪巧みは予期せぬ反撃で不発となった。

 

 

「よしよし」

 

 

 ルプーを膝の上に乗せたイチグンは、気の向くままにルプスレギナを愛で始めたのだ。

 

 顎を擽るように撫で、ピンと尖った三角耳を梳くように撫で、背骨をツゥーとなぞる様に撫でる。 

 

 

(こ、これはヤバいっすね)

 

 

 その巧みな愛撫の技術に、ルプスレギナは戦慄した。

 

 強すぎず弱すぎず、ふわりと毛皮の表面をなぞる掌の何と心地の良いことか。

 

 思わず膝の上で脱力し、身を委ねてしまう。

 

 本来の目的を忘れ、前足に顔を埋めるようにして大人しく撫でられ続けるルプスレギナ。

 

 そんな彼女の姿を眺めながら、イチグンはふと疑問に思ったことを口にする。

 

 

「……お前の種族は一体何だろうな?見た目は普通の仔犬っぽいんだけどなぁ」

 

 

 此処はナザリック地下大墳墓。異形種が集まるギルドであり、この大森林にも多種多様な魔獣達が暮らしている。

 

 一見普通の仔犬のような外見でも、実は凶悪なドラゴンだったというオチも少なからずあるのだ。

 

 そしてイチグンの予想は凡そ当たっていた。目の前に居るのは無邪気な仔犬などではなく、腹黒い人食い狼なのだから。 

 

 

 犬扱いされても然して気にすることなく、呑気に欠伸を上げながら夢見心地のルプスレギナ。   

 

 蕩けきった仔狼の肉体はゴロンと膝の上から転がり落ちて、芝生の上に足を折り曲げた状態で仰向けになる。

 

 フワフワの獣毛に包まれた腹部がイチグンの前に晒された。

 

 

「はいはい、次はお腹を撫でればいいんだな?」

 

 

 それを見たイチグンはクスリと小さく笑いながら、スッと無防備な腹部に触れる。

 

 足の付け根から腹部をなぞる様に撫で、肋骨をなぞる様に胸に触れ、柔らかい腹部を食むように親指と人差し指で優しく摘まむ。

 

 

(んふぁっ!?ちょ、待っ……ひゃうんっ!?)

 

 

 唐突に快楽の渦に放り込まれたルプスレギナは、そんな魔の手から逃れようと身を捩りもがく。

 

 しかし、イチグンはそんな心境を察することが出来ず、じゃれついているだけだと判断。悶えるルプスレギナに追撃を加えた。 

 

 

「ココか、ココがええんか?ほれほれ~」

 

 

 片手の愛撫は両手を用いた本格的なものに移行し、全身を隈なく撫で回される感覚に、ルプスレギナの理性は瞬く間に溶かされていく。

 

 そして水を入れ続けた風船が割れるように、蓄積していた快楽が一気に爆ぜた。

 

 

「アオォオオ~ン!!」

 

 

 大森林に響き渡る甘い熱を孕んだ遠吠え。

 

 四肢を爪先までピーンと伸ばし、ビクビクと痙攣するルプスレギナ。

 

 数秒程硬直した後に、今度は倦怠感と共に全身が弛緩する。

 

 開いた口元から舌をダランと垂らし、瞳はトロンと潤んだまま焦点が合わない。

 

 白く塗り潰された意識の中で、快楽の余韻に浸りながらルプスレギナは思う。

 

  

(く、癖になりそうっす)

 

 

 その日以降、ルプスレギナは仔狼の姿で第6階層に足を運ぶのが日課になった。 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック第6階層にある大森林には、様々な魔獣達が共存している。

 

 水の中に住まう者、草木に潜む者、上空を漂う者。

 

 大小様々で種族もレベルもバラバラだが、共通して言えるのは彼らは()()()()()()()()ということだ。

 

 

 どういう意味かというと、この大森林には自然の掟ともいうべき弱肉強食の概念が存在しないのだ。 

 

 肉食魔獣も草食魔獣も共存し、互いを脅かすことなく生活しているのである。

 

 

 それを可能としているのが、名調教師であるアウラの力である。

 

 定時になれば併設されている闘技場で餌が与えられるので飢える心配がない。

 

 アウラが大森林のトップに君臨している為、無作為に暴れ回ったところで調教部屋送りになるのがオチである。

 

 

 だからこそ、此処に居る魔獣達は己の領分を弁えた上で自由気儘に暮らしている。 

 

 この大森林はアウラという女王が管理する一種の多国籍国家なのだ。

 

 故に此処に居る魔獣達は野生の動物に比べて警戒心が薄い。

 

 何故ならナザリックを脅かせるような存在は、早々に現われないと本能が理解しているからだ。

 

 

「……それにしても警戒心が無さすぎるとは思うけどなぁ」

 

 

 大森林を訪れた俺は、いつもの如く10匹の魔獣達に囲まれて身動きが取れなくなった。

 

 囲まれたと言っても、彼らに敵意は一切なく。寧ろ全力で甘えてくる為、無碍に出来ずに足止めを喰らっているといった表現が正しいだろう。

 

 

「ピッカッ!」

 

 

 目の前に居た体長40㎝程の小柄な黄色い魔獣が、鳴き声と共に俺の頭に飛び乗る。

 

 まるで二足歩行の鼠のような姿に、稲妻のような尻尾がトレードマークの魔獣。

 

 

「おはよう()()()()()

 

 

 目の前の魔獣は、俺の知るゲームのマスコットキャラクターそのものであった。

 

 ――何故か俺は、オーバーロードの世界でポケモンとの邂逅を果たしたのである。

 

 

 ユグドラシルでは版権切れのゲームとコラボしたイベントが多々あり、過去人気を博した『ポケットモンスター』もそんなコラボの対象であった。

 

 彼らは携帯魔獣(ポケットモンスター)という種族で一括りにされており、拠点防衛用のNPCやテイマーの操る魔獣として活躍していたらしい。

 

 ナザリックのギルメンである餡ころもっちもちは、そんなポケモンの大ファンであり、自らの好きなポケモンを10匹厳選して大森林の拠点防衛NPCとして配置したらしい。

 

 それが俺の頭に乗っかっているピカチュウと、足元に屯っている9匹の猫のような外見のポケモン達である。

 

 

「イーブイ・フレンズの皆も元気そうだな」

 

「ブイッ~♪」

 

 

 擦り寄ってきた茶色い毛並みのポケモン(イーブイ)を抱き上げながら、その進化形態である他の8匹も存分に愛で撫でる。

 

 イーブイ・フレンズとは、彼らの通称であり。進化元のイーブイを含む、進化形態のサンダース、シャワーズ、ブースター、リーフィア、グレイシア、ニンフィア、エーフィー、ブラッキーの9匹を指し示す言葉でもある。

 

 全員Lv10なので、防衛拠点のNPCとして召喚した割には心許ない戦力かもしれないが、ナザリック大侵攻の時にはその愛くるしい外見で多くの冒険者達を魅了し、罠に嵌めて翻弄したという実績も持っている。

 

 

(……プレイヤー達の気持ちは凄く良く判る)

 

 

 こんな可愛い魔獣が敵として現れたら攻撃するのを躊躇うし、思わず抱きしめて愛でたくなるだろう。

 

 擦り寄ってくるイーブイ・フレンズ達を、存分に可愛がることの出来るこの状況は役得である。

 

 

「ブイ~」

 

「ブスタァ~」

 

 

 イーブイとブースターはモフモフとした毛並みが心地良く掌に馴染む。

 

 特にブースターの尻尾のモフモフ具合は凄い。炎タイプだからか体温も高く、肌寒い季節には至高の湯たんぽになるだろう。

 

 

「シャワ~」

 

「グレ~」

 

 

 逆に水タイプのシャワーズと氷タイプのグレイシアはひんやりしており、体表はスベスベだ。

 

 シャワーズを撫で続けていたらドロリと身体が溶けて液状化し、シャワーズの尻尾を枕替わりにしていたグレイシアは驚いて冷気を放出。

 

 グレイシアとシャワーズが氷結融合し、世にも奇妙な氷のオブジェが出来上がった。

 

 

「ブラッ?」

 

「クフィ?」

 

 

 そんな氷のオブジェを解凍しているブースターを眺めながら、傍に居たブラッキーとエーフィーを手繰り寄せる。

 

 この二匹の毛並みは短く、僅かに光沢を帯びており、サラリとした滑らかな獣毛は癖になる触り心地である。

 

 体重が妙に軽いのは、二匹が自分の身体を念動力(サイコキネシス)で浮かせているからだろう。

 

 手を放すとブラッキーとエーフィーは戯れながら空中散歩を楽しみ始めた。

 

 

「ダースッ!!」

 

「おっと?」

 

 

 そんな二匹ばかりに構っていたからか、サンダースがクイクイと袖元を引っ張って存在をアピールしてくる。

 

 サンダースを撫でる時は細心の注意が必要だ。何故なら毛先が硬く、針のように尖っているからだ。

 

 嘗てそれを知らずにワシャワシャと撫で回し、掌が血塗れになったのは苦い記憶である。

 

 

 毛の流れに逆らうことなく梳くように撫でてやると、気持ち良さそうに猫撫で声を上げるサンダース。 

 

 少し静電気で痺れるが、電気タイプ故致し方ないだろう。

 

 

「フィ~ア♪」

 

「リィ~♪」

 

 

 サンダースと戯れていると、リーフィアとニンフィアが茂みを掻き分けて現れた。

 

 リーフィアが身体から生えた蔓を編んで籠をつくり、そんな籠をニンフィアが身体を取り巻く紐のような器官で支えている。

 

 籠の中には大量の木の実。

 どうやら皆のオヤツを持ってきてくれたらしい。

 

 

「ありがとなニンフィア、リーフィア」

 

 

 そんな二匹を撫でながらも、受け取ったモモンの実を齧る。

 

 食感は林檎なのに味は桃という奇妙な果実だが、毒消し効果もあるし、甘くて美味しいので小腹が空いた時の軽食にはぴったりだ。

 

 

「……ふぁあああ~」

 

 

 腹が満たされ、ぽかぽかとした陽の光に眠気を誘われた俺は、そのまま芝生の上に寝転がる。 

 

 そんな此方の行動に合わせる様に、イーブイ・フレンズのメンバーは俺の近くに身を寄せ、互いに折り重なる様に身を丸めて地面に横たわり目を瞑った。

 

 ピカチュウは頭から胸元に移動し、スリスリと頬擦りしながら甘えてくる。

 

 

「ははっ、愛い奴め」

 

「チャァ~♪」

 

 

 そんなピカチュウの頭を撫でながら、心地良い微睡に任せ瞳を閉じる。

 

 嗚呼、仕事に追われず、惰眠を貪ることの出来るスローライフの何と素晴らしいことか。   

 

 ――しかし、そんな安らぎの時間は長くは続かなかった。 

 

 

「――ブイッ!?」

 

 

 スヤスヤと寝息を立てていたイーブイが、突如跳ね起きて身を震わせる。

 

 『危険予知』で何らかの脅威を察知したのか、跳び起きた瞬間に脱兎の如くその場から逃げ出したのである。

 

 

「ブラッ!?」

 

「エフィィ!?」

 

 

 次に動いたのは、感知能力の高いブラッキーとエーフィーであった。

 

 ブラッキーは身代わり人形を残して煙のように掻き消え、エーフィーはテレポートでその場から離脱する。

 

 

「一体、何ごt――」

 

 

 唐突な逃亡劇に呆気にとられながらも、何が起こったんだと周囲を探った俺は思わず言葉を失った。

 

 何故なら予期せぬ人物が其処に居たからである。

 

 

「……」

 

 

 近くの茂みに身を潜めるように隠れていたのは、プレアデスの一人である自動人形(オートマトン)のシズ・デルタであった。

 

 傍らには天体望遠鏡のような機材が置かれており、そのレンズ越しに俺達の様子を観察しているのである。

 

 

「シャァ!?」

 

「リィッ!?」

 

「ブスタァ!?」 

 

 

 そんなシズの姿を確認したイーブイ・フレンズは半狂乱状態に陥る。

 

 ブースターは即座にシズの居る方向とは反対側に駆け出し、シャワーズは身を溶かしながら近くの小川に飛び込み、リーフィアは蔓を使って樹上に退避。

 

 電光石火の逃亡劇である。

 

 

(……え゛っ、何コレ?)

 

 

 ポケモン達の過半数が逃げ出すという異常事態に困惑する俺。

 

 一方でシズは、そんな此方の様子をまるで意に介さず、うつ伏せの状態から音もなく立ち上がると、無表情のまま此方に歩み寄ってくるではないか。

 

 

「ダースッ!!」

 

「……フィア」

 

 

 そんな彼女の姿を見て、警戒心を剥き出しにするサンダースとニンフィア。

 

 サンダースはシズの前に立ち、威嚇しながら全身の毛を逆立たせて紫電を纏う。

 

 ニンフィアは小刻みに震えながら俺の背後に隠れ、紐のような器官を用いて護りを固めて蹲る。

 

 

「……ピカァ」

 

 

 二匹ほど露骨ではないにしろ、胸元に抱きかかえたピカチュウも悲痛な鳴き声を上げている。

 

 これらの事象を鑑みるに、ポケモン達は皆シズの事を恐れているのだろう。

 

 

「――怖くない」

 

 

 そんなシズは、某ジブリ映画の名台詞を呟きながら警戒心MAXのサンダースに指を伸ばす。

 

 

「――ほら、ね?怖くない」

 

「!?」

 

 

 無表情のままヌッと迫る掌に恐怖を感じたのか、サンダースは戦意喪失し『逃げる』のコマンドを選択。

 

 ニンフィアもいつの間にかいなくなっており、その場に二人と一匹だけが取り残されてしまった。

 

 

「「……」」

 

 

 奇妙な静寂に包まれたまま、互いに見つめ合う俺とシズ。  

 

 沈黙を破ったのは、シズのポソリと呟いた文句であった。

 

 

「――ズルい」

 

「えっ?」

 

「――モフモフ、沢山、ズルい」

 

 

 ……言葉足らずで今一つ良く判らないが、ポケモン達に囲まれていた俺が羨ましかった。自分もポケモン達を可愛がりたかったという解釈で良いのだろうか?

 

 そう尋ねると、コクコクと頷いて肯定するシズ。

 

 その間も視線は俺が抱えいるピカチュウを捕捉したままである。

 

 

(……そういえばシズは可愛いものが好きって設定だったしなぁ)

 

 

 愛くるしイーブイ・フレンズのメンバー達は、彼女にとって愛でるべき対象なのだろう。

 

 だが持ち前の鉄仮面が発動し、威圧感を与えてしまう為、避けられているといったところか。

 

 物悲しそうなシズの姿に心動かされた俺は、抱えていたピカチュウをスッと彼女の前に差し出す。 

 

 

「撫でてみるか?」

 

「――ッ」

 

 

 その言葉に目を大きく見開き、残像が残る程のスピードで首を縦に振るシズ。

 

 無表情なのに情緒豊かな彼女の反応に、思わずクスリと笑ってしまう。

 

 

「……ヂュゥゥ゛ッ!」

 

 

 一方でシズの手に渡ったピカチュウは、凄く嫌そうな唸り声を上げ、批難するように俺を睨んだ。

 

 どうやらシズに彼の身柄を受け渡したことに不満を持っているらしい。

 

 

(何故シズは、ポケモン達からこうも邪見にされているんだ?)

 

 

 そんな疑問を抱いたのだが、その答えは直ぐに判った。

 

 

「――可愛い」

 

 

 ピカチュウを受け取ったシズは、右腕で胴体を締め上げながら、左手でグリグリと頭部を抑え込む。

 

 それは愛で撫でるというよりは、拷問という言葉が最も相応しいだろう。

 

 

「ビガッ!?……ヂュゥッ……」 

 

 

 頭部や腹部が歪な形状に変形したピカチュウは、そんな危機的状況を脱しようともがくが、途轍もない力で拘束されている為、身動きが一切取れない。

 

 拘束を振り解くことが出来ないと判断したピカチュウは、頬袋に蓄えたエネルギーを消費して無差別放電。辺りに青白い閃光が迸る。

 

 ピカチュウを抱いていたシズも当然感電するが、元々両者との間にはLv40近くのレベル差があったので、大したダメージは入らない。

 

 

「――照れてる、可愛い」

 

 

 それどころか、ピカチュウの必死の反撃を照れ隠しと捉え、ますます拘束する力が強まってしまったではないか。

 

 

「ピッ、ピィイイイイッ!?」

 

 

 ミチミチと肉が拉げる音に、メキメキと骨が軋む音。このままだと電気タイプのピカチュウが、ゴーストタイプのピカ/チュウになってしまうだろう。

 

 

「ちょ、シズッ!ストップ、ストォーップッ!」

 

「……?」

 

 

 キョトンと首を傾げるシズから、慌ててピカチュウを奪還する。

 

 どうやらシズは、自分が何をやらかしたのかをまるで理解出来ていないらしい。 

 

 下手に誤魔化すよりも、ストレートに言ってやった方が彼女の為だろうと今の問題行為を指摘する。

 

 

「……シズ、その可愛がり方だと確実にポケモン達から嫌われるぞ?」

 

「……む、そんなことない。ピカチュウは喜んでた」

 

 

 謎の自信と共にグッタリと横たわるピカチュウの頭を撫でようとするシズ。

 

 しかし、伸ばされた手はピカチュウの尻尾によってバシンと叩き落された。

 

 

「……えっ?」

 

 

 そんな反応を見て、信じられないと言わんばかりに絶望の表情を浮かべるシズ。

 

 行き場を失った掌を凝視している姿の何と痛ましいことか。

 

 

(ただ加減が出来ず、常に無表情だから誤解を招いているんだよなぁ)

 

 

 ピカチュウには命を脅かす敵だと認識されているが、実際のところはピカチュウを愛でたいだけなのだ。

 

 何とかポケモン達とシズの仲を取り持つことは出来ないだろうかと、頭を悩ませていると、茂に隠れて此方の様子を伺っているポケモンを発見した。

 

 

「イーブイ、おいで」

 

「……ブイッ~」

 

 

 真っ先に逃げ出したイーブイは、シズを警戒しているようだが、その場から微動だにしない姿を見て安全だと判断したのか、此方に駆け寄り勢い良く飛びついてくる。

 

 そんなイーブイを抱き止めながらも、体育座りで蹲っているシズに話し掛ける。

 

 

「シズ、可愛いものを思う存分愛でたい気持ちは判るが。少しは相手の気持ちを考えて優しく撫でてやったらどうだ?」

 

「……優しく?」

 

 

 そう、優しくだ。

 シズは可愛いものが好きだからこそ気持ちが昂り、愛でる時に力が入り過ぎているのだろう。

 

 でもそれは独り善がりな愛情表現に過ぎない。

 

 相手を理解した上で接しなければ、相手も自分のことを永遠に理解してくれないままだ。

 

 相手を憂う気持ちが優しさだというなら、シズに足りないのは正にソレだろう。

 

 

「……優しく……撫でる」

 

 

 俺の言葉を反芻するように呟いたシズは、イーブイが怯えないようにしゃがんで視線を合わせ、ソッと壊れ物を扱うかのように優しく頭部に触れた。

 

 

「……ブイッ♪」

 

 

 普段と違ったシズの対応に戸惑いながらも、頭を撫でられたイーブイは心地良さそうに喉を鳴らす。

 

 そして暫くするとイーブイは、シズの指先を擽るように舐めた。イーブイなりの親愛の証である。

 

 

「ふふっ、可愛い」

 

 

 イーブイの無邪気な仕草につられるように、シズは満面の笑みを浮かべた。

 

 

(あら、可愛い)

 

 

 そんな笑顔に見惚れながらも、未だに拗ねているピカチュウを宥めていると、逃亡したイーブイ・フレンズ達もこの場所に舞い戻ってきた。

 

 警戒心の高いイーブイがシズと戯れている事が切っ掛けとなったのか、他の面子もシズの事を受け入れ、大人しく撫でられ始めた。

 

 上手く仲を取り持つことが出来て何よりである。

 

 

「……んっ」

 

 

 イーブイ・フレンズと戯れるシズという尊くも心温まる光景をぼんやり眺めていると、何故かシズが俺の顔を凝視し始める。

 

 ガサゴソと腰元についているポーチを漁った彼女は、中から取り出したものを俺の額にペタリと貼り付けた。

 

 

「……イチグン様にあげる」

 

 

 彼女が額に貼り付けてきたのは、1円玉を模したシールであった。  

 

 彼女は気に入ったものに、このシールを貼る癖があるので、俺はシズに気に入られたということだろう。

 

 

(ただ額に貼るのだけは止めて欲しい)

 

 

 まるで仏像の白毫みたいではないか。

 流石に四六時中額に1円シールを貼り付けておく訳にはいかないので、『黒の契約者』の仮面の内側に貼り付けることで納得して貰った。

 

 

「んっ?」

 

 

 そんなやり取りをシズと交わしている最中、近くの茂を掻き分けながら二匹の仔犬のような魔獣が現れた。

 

 赤茶色の癖のある毛並みと、黒と白のサラリとした毛並みがフワリと風で揺れる。

 

 

「お前達も来たのか」

 

 

 この二匹は顏馴染みの魔獣で、大森林に来ると高確率で遭遇する。

 

 赤いフワフワとした癖毛の仔犬がレギーナ。黒と白のサラサラの毛並みの仔犬がショートケーキという名前だ。

 

 

「「…………」」

 

 

 そんな彼女達はシズの姿を見るや否や、ピキリと身体が硬直する。

 

 ピカチュウの二の舞になることを恐れているのだろう。

 

 

「シズを怖がらなくても大丈夫だぞレギーナ」

 

 

 そう呼び掛けて手を広げると、トコトコと気まずそうに歩み寄ってくるレギーナ。

 

 そんなレギーナの姿を見たシズは、コテンと可愛らしく首を傾げながらも不思議そうに呟く。

 

 

「……レギーナ?」

 

「ああ、この仔狼の名前。自分でそう名乗ったぞ?」

 

 

 【闘神魔王】(バルバトス)という職業の恩恵なのか、俺は高い知能を持つ動物との対話が可能になった。

 

 この大森林に居る魔獣達と、円滑なコミュニケーションを図れるので非常にありがたい。

 

 レギーナとショートケーキは外見こそ仔犬だが、その実態はこの大森林に居を構える魔獣である。

 

 森林浴をしている最中に偶然出会ったのだとシズに語ったのだが、何故かシズは首を横に振って否定する。

 

 

「……訂正、その魔獣はレギーナではない。ルp「ガウッ!!」」

 

 

 いきなりレギーナがシズを威嚇するように吼えた。

 

 特段何もしてないのに吼えるとは、人懐っこいレギーナにしては珍しい反応である。 

 

 

「すまんな、何だかレギーナは腹の虫の居所が悪いみたいだ。……で何が違うんだシズ?」

 

「……何でもない」

 

 

 そういってシズはレギーナから視線を外してイーブイ達を愛で始める。

 

 レギーナは撫でなくて良いのかと差し出してみたら、可愛くないからいいと断られてしまった。

 

 こんなに愛くるしいのに解せない反応である。

 

 

「ショートケーキは今日もブラッシングをご希望かな?」

 

「ワウッ」

 

 

 そんなレギーナを膝の上に抱き上げて、ショートケーキに話し掛ける。

 

 口元には高そうなブラシが咥えられており、ご機嫌な様子で尻尾をブンブン振っている。

 

 彼女はかなりの綺麗好きであり、ブラッシングが大のお気に入りだ。だから、毎回ブラッシング用の道具を持参の上でこの場所に現われるのである。 

 

 ショートケーキから受け取ったブラシで全身をブラッシングすると、黒と白の艶のある毛並みがより映える。

 

   

「……何やってるの?ペs「ワンッ!!」」

 

 

 温厚なショートケーキもシズを威嚇するように吼え始めた。

 

 珍しいことが立て続けに起こるものだと首を傾げながらも、咆哮に遮られたシズの言葉の続きを促す。

 

 

「……ううん、何でもない。気のせいだった」

 

 

 そういって歯切れの悪い言葉を残しながら、シズはピカチュウにそっと手を伸ばす。

 

 ピカチュウはビクリと身を震わせ、その場から逃げ出した。

 

 どうやら彼のトラウマは一朝一夕で克服出来るものではないらしい。

 

 

「……まぁ、気長に仲直りすればいいさ」

 

「……んっ」

 

 

 残念そうに肩を落とすシズを慰めながらも、膝の上で大人しく待機していたレギーナを撫でる。

 

 背骨をなぞる様に撫で、顎の下を擽りながら耳をモフモフ。

 

 肋骨を指先で突きながら、尻尾の付け根をコリコリと揉み解し、足の付け根からお腹を優しく摘まむように撫でてやる。

 

 するとレギーナは身を捩る様に仰向けになり、ピーンと四肢を伸ばしながら咆哮。

 

 

「アオォオオオオンッ!!」

 

 

 瞳を潤ませながら脱力するいつも通りの反応に苦笑いしていると、何故かシズが酷く冷めた目で此方を睨みながら一言。

 

 

「――イチグン様は変態。把握」

 

「……え゛っ、何でそうなるの?」  

 

 

 蔑みの言葉と共にシズのジト目に睨まれゾクゾクと――ではなくジクジクと心が痛んだ。

 

 いきなり変態呼ばわりされる程の事はやらかしていないと思うんだけどなぁ。

 

 

「あっ、こんなところに居たんですね。探しましたよイチグン様ッ!」

 

 

 そんな微妙な空気の中、周囲に響くのは快活な少女の声。

 

 この大森林を管理している闇妖精(ダーク・エルフ)のアウラは、樹木の上からアクロバティックな動きで飛び降りると、そのまま俺の目の前に音もなく着地。

 

 緑と青のオッドアイを宝石のように輝かせながら、勢いに任せて感謝の言葉を口にした。

 

 

「本当にありがとうございましたッ!

イチグン様のお口添えのおかげで闘技場は元の状態まで復旧し、私もアインズ様から莫大な報酬を頂きましたッ!」

 

 

 そういって腕に嵌めたデジタル時計を嬉しそうに掲げるアウラ。

 

 この腕時計にはアウラの創造主であるぶくぶく茶釜の声が登録されている為、彼女にとっては如何なる金銀財宝よりも価値の高い代物なのだ。

 

 だからこそ彼女はそんな切っ掛けをつくった俺に対し、過剰なまでに恩義を感じており。謝礼代わりに何か出来ることはないかと尋ねてくるのだが、其処まで感謝されると心苦しくなってしまう。

 

 シャルティアとの闘いの余波で闘技場が大破し、アウラには多大な迷惑を掛けてしまったし、寧ろこのぐらいの報酬は在って然るべきだと思う。 

 

 

「……本当に何も要らないの?」

   

「しいて挙げるなら、これからもこの場所でのんびり過ごす許可が欲しいかな?」

 

 

 足元に駆け寄ってきたイーブイ・フレンズを撫でながらそう答える。

 

 この素晴らしい場所で過ごす時間は、アウラの腕時計と同様に掛け替えのない宝物なのだ。 

 

 

「あはっ、いつでも()()の階層に遊びに来てくださいねイチグン様ッ!」

 

 

 此方の心情を察したアウラがそう言って立ち去ろうとするが、何か気になることがあったのか、レギーナとショートケーキを眺めながら一言。

 

 

「……ところでルプスレギナとペストーニャは何で仔犬の姿に化けてるんですか?」

 

「……え゛っ?」

 

 

 そんなアウラの台詞に驚いた俺は、振り返ってレギーナとショートケーキを凝視する。

 

 

「「――ワンッ」」

 

 

 俺の視線に晒された二匹は、真実を誤魔化すように吼えるのであった。

 

 

 

 





THE・言い訳

……イーブイ・フレンズの映画見ながら書いてたら遅くなりました。ポケモンの新作を買いたくなるぐらいイーブイが可愛いすぎるのがいけないんです。文章でその魅力を伝えきれずにジレンマです。


裏設定

携帯魔獣(ポケットモンスター)

アイテムを一日一回しか使用できない。スキルを4つしか使えないという制限があるものの、その分凶悪な種族専用スキルを覚え、ステイタスの成長補正も優秀、進化により性能を爆発的に底上げ出来ることから拠点NPCとして人気の高い召喚モンスターでした。

運営の一人が熱狂的なファンだったので、一部のアイテムが世界級のアイテムとしてユグドラシルに登場したという噂もチラホラ……




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