イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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大分遅れてしまいましたが、第三章開幕。

のっけから不穏な気配全開でございますが、よろしくお願いいたします。


 


第三章 ~愛憎暗躍編~
第38話 破滅への序曲


 

 

 ナザリックのロイヤルスイートの一室。

 

 半ば恒例行事となりつつあるアインズさんとの雑談会にて、俺達は頭を悩ませていた。

 

 

「――すみませんイチグンさん。完全に私の不手際でした」

 

「――いえ、俺も失念してましたからお相子ですよ」

 

 

 いつもなら魔導国設立の為の作戦会議と称し、雑談するだけの気楽な時間なのだが、今回ばかりはガチの会議だ。

 

 嘗てカルネ村で逃がした帝国偽装兵が法国に情報を持ち帰り、魔導王アインズ・ウール・ゴウン=大悪魔ヤルダバオトという図式を悟られてしまったのだ。

 

 そして、そんな魔導王と共闘関係にある冥府の番犬もグルであり、信用に値しない存在であると警戒されているのである。

 

 

「……完全に計画が狂ったなぁ」

 

 

 当初の計画では、スレイン法国には自発的に動いて貰う予定であった。

 

 先の事件で法国は土の都が崩壊し、深刻な人材不足に陥っていることは判っていたので、戦力として冥府の番犬を囲い込もうとするのは容易に想像出来た。

 

 そうなれば此方に有利な条件で協力関係を結べるだろうし、スレイン法国という巨大組織の後ろ盾を得ることで厄介な権力者達の介入を抑制出来るだろう。

 

 故にエ・ランテルの騒ぎでは、リスクを承知の上で突出した力を持っていることを世間に公表したのである。

 

 エ・ランテルで起こった事件を迅速に解決することが出来るし、売名行為という意味でもこれ以上ないタイミングであると思ったからだ。

 

 

「なのに結果は真逆だ。法国に不信感を抱かせて、神殿勢力から睨まれる破目になった」

 

「寧ろ、エ・ランテルの騒ぎも私達が引き起こしたとか思われてそうですね」

 

 

 その可能性が濃厚だ。

 だからこそ此方に接触せずに泳がせることで、敵か味方か見定めようとしているのだろう。

 

 ……本当に胃が痛くなるような状況である。

 

 そんな重苦しい雰囲気の中、対面に座っていたアインズさんは何かを確認するように尋ねてくる。

 

 

「イチグンさんとしては、法国はどのように対処するつもりですか?」

 

「出来れば完全に敵対するような真似は避けたいですね」

 

 

 それはニグンとしての記憶がある為、祖国が滅亡するような結末を回避したいという思惑もあるのだが、それ以上に追い詰められたスレイン法国が何をしでかすか判らないという恐怖心が強いからだ。

 

 法国は世界秘宝を保有している。

 俺が把握しているのは、『傾城傾国』と『無銘なる呪文書』(ネームレス・スペルブック)だけであるが、その他にも危険な世界秘宝を多数保有しているだろう。

 

 

「……特に怪しいのは、漆黒聖典の隊長が装備していた『殉教者の槍』(じゅんきょうしゃのやり)ですね」

 

 

 見た目は古びた槍なのに、異様な程に頑強であり。竜の攻撃を真正面から受け止めても圧し折れない代物らしい。

 

 名前の由来も、装備者の命と引き換えにあらゆる強敵を屠る力を宿しているからだという。

 

 俺はこれと似たような効能を持つ世界秘宝を知っている。

 

 

「――ッ、まさか『聖者殺しの槍』(ロンギヌス)ですか!?」

 

「その可能性は高いと思います」

 

 

 使用者と対象を完全に抹消する世界秘宝。

 

 このアイテムを使われてしまえば、アインズさんは大切な配下を失うことになるだろう。

 

 世界秘宝を所有しているアインズさんも、絶対に安全であるという保証はない。

 

 可能性は低いが『支える神』(アトラス)を法国が所有していたと仮定し、『聖者殺しの槍』(ロンギヌス)と併用されてしまえば、アインズさんは消失してしまう。

 

 そうなればナザリックが崩壊するのは、火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「それ以上に警戒するべきなのは、漆黒聖典の番外席次ですね」

 

 

 彼女は単独でLv100相当の相手を撃破出来る実力を持っている上に、希少な異能の持ち主でもある。

 

 異能の力により神々が残した秘宝と肉体が同化しているらしく、一度その力を用いれば、あらゆる邪悪な存在を浄化することが出来るらしい。

 

 

「え゛っ、ちょっと待って下さい。それってもしかして……」

 

「もし同化している秘宝とやらが、『光輪の善神』(アフラマズダー)だったら最悪だと思いませんか?」

 

 

 カルマ値がマイナスの敵に大ダメージを与える使い切りの世界秘宝。

 

 ワールド一つを覆い尽くす程の効果範囲らしいので、この世界で発動した場合の効果範囲もそれに類するものになるだろう。 

 

 つまり回避不能の全体攻撃である。

 配下達のカルマ値がマイナス寄りのナザリックにとって、天敵ともいうべき世界秘宝なのだ。

 

 

「法国は下手に手を出すと何が起こるか判りません。ただでさえ国の情勢が不安定なのに、追い打ちをかけるような真似をすれば『人類の存続を賭けた聖戦だッ!』とかやりかねませんよ?」

 

「……うわぁ~、妙に実感の篭った例えですね」

 

 

 そりゃあそうでしょうとも。

 陽光聖典隊長ニグンの実体験に基づいた発言なのだから。

 

 良くも悪くも狂信的な宗教国家である為、一度人類の敵だと認識されれば、如何なる犠牲を払っても駆逐しようと考えるような者達ばかりだ。

 

 だからこそ行動の線引きは重要だ。

 

 もし法国との大規模な戦闘行為に発展すれば、世界の均衡を保つ為という名目で、竜王達の居る評議国が横やりを入れてくる可能性もあるからだ。 

 

 そうなれば平和的に魔導国を設立するどころか、あらゆる種族を交えた世界大戦に発展してしまうだろう。

 

 それは俺達の望むところではないし、目的と手段を履き違えてはいけない。

 

 結果も大事だが、其処に至るまでの過程も重要なのだから。

 

 

「動くとしても慎重に動かざるを得ないですね」

 

「相手が友好的に接触してくるまで気長に待つのも一つの手かもしれませんよ」

 

  

 二人で話し合った末、当面は法国と対立するような真似は極力避ける方針に決定。

 

 簡単な情報収集のみに留め、ナザリックの基盤固めに注力することになった。

 

 堅苦しい話を終えた俺達は、いつものように談笑しているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。

 

 

「――入れ」

 

 

 一瞬で陽気な骸骨から威厳ある魔王に切り替わったアインズさんは、その来訪者を部屋に招き入れる。

 

 部屋に入って来たのは、手元に書類の束を抱えたアルベドであった。

 

 

「お忙しいところ失礼いたしますアインズ様。頼まれていた書類を纏めておきました」

 

「……そうか」

 

 どうやらアインズさんから頼まれた仕事を終わらせ、その報告に訪れたらしい。  

 

 唐突に降って湧いた仕事に辟易したのか、アインズさんは小さく溜息を吐きながら一言。  

 

 

「――ご苦労だったなアルベド。目を通しておくからお前は下がっていいぞ」

 

「――ッ、はぃ」

 

 

 書類をパラパラと捲りながら、気怠そうに呟いたアインズさんの姿を見て、一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべるアルベド。

 

 ドレスの裾を強く握りしめたまま俯くが、次の瞬間にはギリッと歯を食い縛り、俺を親の仇の如く睨みつけてくるではないか。

 

 

(……うわぁ~お、何て骨体)

 

 

 連日の書類業務で鬱憤が溜まっているとはいえ、その塩対応には流石にドン引きですよアインズさん。

 

 そしてそんなアルベドへの塩対応の皺寄せが、全て俺に降りかかるという悪循環。

 

 俺は半ば呆れながらも、アインズさんが目を通していた資料を全て奪い取った。

    

 

「――あ゛っ。ちょっと、何するんですかイチグンさん」

 

「この書類は俺が目を通しておきますよ――貴方は他にやることがあるでしょうに」

  

 

 そういって悲しそうに佇むアルベドを指差すと、漸く自らの失態に気付いたのかオロオロと慌て始めるアインズさん。

 

 

「ア、アルベドよッ!少し二人だけで話をしないか!?」

 

「……私如きが話相手で宜しいのでしょうか?」

 

「嗚呼、勿論だともッ!寧ろアルベドでなければ駄目なのだッ!」

 

「……あ、アインズ様ぁ」

 

 

 必死でアルベドを慰めようとするアインズさんに、そんなアインズさんを潤んだ瞳で見上げるアルベド。

 

 そんな二人のやり取りを尻目に、ヒラヒラと手を振ってお邪魔虫は退室。

 

 これでアルベドは最愛の主と二人きりの蜜時を過ごすことが出来るだろう。

 

 これを機に、多少強引な手段を用いてでも仲を深めて欲しいものだ。

 

 

「……主に俺の安寧の為にもな」

 

 

 骸骨の貞操一つで、我が身の安全が保障されるなら安い代償である。

 

 そんな思惑を抱きながらも、俺は足早にその場を去るのであった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 守護者統括であるアルベドは、至高の存在であるアインズを愛していた。

 

 アインズの寵愛を得る為ならば、どのような犠牲も厭わないというほどの狂信的な恋心である。

 

 だからこそ常にアインズの傍にいるイチグンという男の存在が許せなかった。

 

 彼女にとってイチグンは許し難い恋敵であり、羨望と嫉妬の対象であったのだ。

 

 

 故にアルベドはそんな邪魔者をナザリックから排斥する為に、あらゆる手段を講じたのだが計画は悉く失敗。

 

 否、対策を打つのが遅すぎたというべきだろうか。

 

 

 当初のイチグンは並の人間以下の存在でしかなく、アインズとの関係も単なる同郷の知人でしかなかった。

 

 だからアルベドもイチグンの事を脅威として見ておらず、何か不具合があれば始末すれば良いと捨て置いていたのだ。

 

 

 だが放置した結果は惨憺たるものであった。

 

 イチグンはアインズの心を掌握し、彼にとって無くてはならない最も大切な存在になっていた。

 

 アインズの傍らには常にイチグンが控えるようになり、必然的にアルベドは居場所を奪われてしまう。 

 

 イチグンは賓客として招かれた立場を利用し、階層守護者を含めた配下達を自らの勢力に取り込み、瞬く間にナザリックでの地位を築き上げた。

 

 配下達の過半数以上が彼の存在に肯定的であり、デミウルゴスなど新たなる至高の存在としてイチグンをナザリックに迎え入れようと日々画策している。

  

 

 これは不味いと感じたアルベドは、自分と同様の感情を抱いているナーベラルを仲間に引き入れ、イチグンを抹殺する計画を練り上げたのだが、それらはイチグンの示威行為により無駄であると理解させられた。

 

 イチグンは短期間で失った力を取り戻し、階層守護者最強であるシャルティアと拮抗する実力を身に着けていたのだ。

 

 この示威行為により実力行使による抹殺が不可能となったばかりか、イチグンの存在に否定的だった配下達も彼の存在を認め、その力を崇拝するようになってしまったのである。

 

 

 シャルティアとの死亡遊戯を切っ掛けにイチグンの発言力は益々高まり、アインズは更にイチグンの存在を重宝するようになった。

 

 不穏な動きを見せていたアルベドは排斥され、その後釜にはイチグンの手駒に成り下がったデミウルゴスやパンドラズ・アクターが居座った。

 

 それは守護者統括であるアルベドにとって屈辱以外の何物でもない。

 

 その元凶であるイチグンは、幾度殺しても足りぬぐらいの忌々しい害悪である。

 

 

 表面上は友好的に接しながらも、何とか怨敵であるイチグンを排除する機会を伺うアルベドであったが、それらは全て計画段階で頓挫することになる。

 

 例えイチグンを殺したところで、彼に固執しているアインズならば必ず蘇らせるだろうし、まずもって守護者最強と拮抗出来るような存在を殺せる戦力を確保することが難しい。

 

 そもそもイチグンは未だ成長途上にあり、着実に力を取り戻しているのだ。時間をかければかける程に状況は不利になっていくだろう。

 

 聡明なデミウルゴスやパンドラが彼の味方についたことで、長期的な策略で立場的に彼を追い込むことがほぼ不可能になった。

 

 計略を見抜かれ、自らがアインズの親友を排斥しようと目論んだ反逆者であると断罪されるリスクが極めて高いからだ。

 

  更にイチグンはアルベドを敵だと認識しているのだ。そのような状態では、例えどれ程緻密な策謀で陥れようと目論んでも、それを逆手に取られて出し抜かれる未来しか見えない。

 

 だからこそアルベドは、イチグンに手が出せなかったのである。

 

 

 そして、そんな閉塞状態が続くとアルベドは自らの置かれた状況を顧みて思い悩むようになる。 

 

 もしかしてイチグンを排斥しようとした自分の選択は間違っていたのではないかと。 

 

 

 デミウルゴスやコキュートスなどの彼に協力的な配下達は優遇され、アインズの為に尽力できる権利も与えられた。

 

 一方でアルベドやナーベラルなどの彼に敵意を剥き出しにする者には重要な責務が与えられず、ただの作業要員として窓際に追いやられる破目に陥っている。

 

 嫉妬心に狂ったアルベドは、それは配下達の心を掌握する為の飴と鞭であり。効率良く味方と敵を分別する為の見せしめであると思い込んでいた。

 

 

 しかし、そう考えると不自然な点が幾つもある。

 

 ナーベラルの失言失態を寛容な精神で見逃し、糾弾するような真似をしない。

 

 本当に敵対者を排斥しようと目論んでいるならば攻撃材料になるはずなのに、寧ろそれらがアインズの耳に入らぬように揉み消しているのだ。

 

  

 更に敵意を持たれていると理解しているはずなのに、アルベドとアインズの仲を取り持とうと動いている。

 

 最初は懐柔しようと目論んでいるのかと警戒したが、一切見返りを求めないのが理解出来ない。

 

 今も尚、アインズとアルベドが二人きりで話せる機会を作り出し、自らは邪魔にならぬよう早々に退散したのだから。

 

 

(……もしかして私は、取るべき選択を誤ったのかしら?)

 

 

 だからこそアルベドはこれまでの嫉妬や憎悪の感情すら忘れ、大いに悩むことになる。

 

 本当にイチグンと敵対し続けることが正しいのか、判らなくなってしまったからだ。

 

 イチグンの差し出した手を取るか否か。 

 

 そんな選択肢の狭間で揺れ動いていたアルベドであったが、そんなタイミングでアインズが話し掛けてくる。

 

 

「――ハハハッ、本当にイチグンさんには敵わないなぁ。こうやってアルベドとじっくり話す機会が出来たのも彼のおかげだよ」

 

「そうですね」

 

 

 アインズは嬉々とした様子でイチグンを褒め称える。

 

 彼とのこれまでの冒険を語り、まるで宝物を自慢する子供のように些細な出来事を楽しそうに語る。

 

 そんな話にアルベドは耳を傾け、微笑みを浮かべながら相槌を打つが、その心は氷のように冷たくなっていった。

 

 

(――嗚呼、アインズ様は私を見てはくれないのですね) 

 

 

 彼の瞳は確かにアルベドを捉えているのに、彼が観ているのはイチグンと築き上げた想い出なのだ。

 

 だからこそ目と鼻の先に存在しているはずのアインズが、手の届かぬ遥か彼方へと遠のいていく錯覚をアルベドは抱く。

 

 いつもなら嬉しいはずのアインズとの会話も、今のアルベドにとっては苦痛であった。

 

 そして決定的だったのが、アインズの口にした衝撃的な言葉であった。

 

 

「――実はなアルベド。私は仲間達の探索に固執するのを辞めようと思っているのだ」

 

「えっ!?」

 

「無論、それは仲間達を探すこと自体を諦める訳ではない。今まで通りタブラさん達がこの世界に迷い込んでいないかの調査は続けるつもりだし、発見次第ナザリックに勧誘するつもりだ」

 

 

 その為に異形種が受け入れやすい魔導国を設立する腹積もりであり、仲間達が散ったという噂も市井に流したのだから。

 

 しかし、仲間がこの世界に迷い込んでいる可能性は極めて低い。その為に全てを犠牲するような真似など出来ないとアインズは判断したのである。

 

 

「私が大切にすべきなのは、仲間達と築き上げた過去の想い出などではなく今だからな」

 

 

 それは旅を通じて成長したアインズが、仲間達への執着心に囚われていたまま、今を楽しめないことは愚かであると理解したからこその英断である。

 

 本当に大切にすべきなのは過去ではなく、大切な配下達と共に歩む未来であり、そんな未来を造る為に尽力したいという決意表明でもあったのだ。

 

 

「――ッ!」

 

 

 しかし、その言葉を聞いたアルベドの捉え方はまるで違った。

   

 仲間達と築き上げたナザリックよりも、自分を理解してくれるイチグンの方が大切なのだと誤認したのだ。

 

 

 もしイチグンが現実世界(リアル)に戻ると決意すれば、アインズは配下達を残して現実世界(リアル)へと帰還するだろう。

 

 そうなれば配下達は、主の存在しないナザリックで再び悠久の時を過ごすことになる。

 

 アルベドは空席の王座を眺めながら、いつ帰るかも判らないアインズを待つことになるだろう。

 

 

(……そんな未来は絶対に許されないわ)

 

 

 揺らいでいたアルベドの決意は固まった。

 

 イチグンは相容れぬことの出来ぬ怨敵であり、ナザリックにとっての害悪なのだと。

 

 

「……」

 

 

 アインズの部屋から退室したアルベドは、無言のまま広く豪華な廊下を淡々と歩く。

 

 微笑の仮面を被ったアルベドは、如何に迅速にイチグンを排除し、アインズの心から消し去るかという事ばかりを考えていた。

 

 

(――正攻法は駄目。生半可な策謀も不可能)

 

 

 物理的に排除しようにも相手は非力な人間ではなく、規格外の力を持った怪物である。未だ力は成長途上にあり、将来的には手も足も出ないような強者になるだろう。

 

 生半可な策謀はイチグンに見抜かれるだろうし、補佐としてパンドラやデミウルゴスなどのナザリック随一の頭脳派が居る為、大々的に動くことはリスクが大きすぎる。 

 

 必然的にイチグンを排除する計画は小規模なものになり、早期段階で行わなければならなくなる。

 

 

(――それに監視の目も厄介ね)

 

 

 アルベドは相手に気取られぬように自然な動作で辺りを見回す。

 

 すると淫魔(サキュバス)の種族スキルで、何者かが周辺に潜んでいることを察知した。

 

 詳細は判らないが、恐らくイチグンが召喚した黒いスライムが観察しているのだろうと当たりをつける。

 

 事実、ネメシスが物陰に身を潜ませており、アルベドに不審な動きがないかを偵察していた。

 

 このような密偵が不定期に派遣される為、アルベドの行動範囲は更に抑制されてしまう。 

 

 監視の目を欺きながら、困難な目標を短期間で達成しなければならないのだから、通常ならば不可能であると諦めるだろう。 

 

 

 しかし、必死で現状を打開しようと模索するアルベドの執念は、とある考えに辿り着いてしまった。

 

 

「――クフッ、アハッ、何でこんな簡単なことに気付かなかったのかしら?」

 

 

 それはあまりにも破滅的で浅慮な計画。

 

 だが嫉妬と妄信に囚われたアルベドにとっては、これ以上ない程の天啓であった。

 

 

 ――障害物は其処に在るからこそ害悪になり得る。

 

 塵一つ残さず消え失せれば何の障害にもならないだろう。

 

 

 ――イチグンに固執するのは、アインズの傍らに実在しているからである。

 

 ギルドメンバーのように居なくなれば、いずれは過去の残滓に成り果てるだろう。

 

 

「クフッ、クフッ、クフフフフッ!!」

 

 

 アルベドは愉悦のあまり、声を抑えることが出来ずに嗤う。

 

 その姿を監視している存在を認知していても、壊れたように嗤い続ける。

 

 それすらも彼女の策略であり、怨敵を破滅へと誘う罠であったからだ。

 

 

 嫉妬の怪物は瞳を爛々と輝かせ、破滅への序曲を奏でるのであった。

 

 

 

 

 




 
 
アルベドはどんな計画を思いついたのやら……ヒントはこの話の中に記載されていますので予想してみてください。


 

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