イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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大分遅れましたが投稿します。

今回はとある方が活躍するフラグを立てましたのでお楽しみに。



第39話 蠢く黒き者

 ナザリック地下大墳墓の第五階層。

 

 其処はコキュートスの管理する領域であり、身も凍るような寒さの支配する極寒の領域である。

 

 巨大な氷山が白亜の大地から針のように突き出しており、地表から舞い上がる雪が視界を閉ざす。

 

 

「……」

 

 

 そんな過酷な環境を行くのは、守護者統括であるアルベドであった。

 

 防寒具すら身につけず、露出の多いドレスで雪原を歩むその姿は、傍から見れば正気を疑うような恰好であるが、防御性能に秀でており、且つ高レベルのアルベドにとってはこの程度の冷気など涼風に過ぎない。

 

 確固たる目的を持ったアルベドは、吹雪の中を淡々と進む。

 

 ――そして辿り着いたのは、御伽噺に出てくるような二階建ての洋館であった。

 

 

 メルヘンチックな雰囲気ではあるが、その場所は外見とは裏腹にこの世に顕現した地獄そのものである。

 

 『氷結牢獄』と呼ばれるその洋館は、ナザリックに敵対した者が送られる監獄だ。

 

 その洋館にはニューロニストを始めとした拷問官が居を構えており、阿鼻叫喚の嗜虐劇が日夜繰り広げられている。

 

  

 そんな氷結牢獄に侵入したアルベドは迷うことなく廊下を進み、とある絵画の前でピタリと足を止めた。

 

 アルベドの前には母親が子供を抱いているフレスコ画があり、そんなフレスコ画に手を翳すと半透明の腕がヌッと現れて、その手に握られていた不気味な赤子の人形を手渡してきた。

 

「……はぁ~」

 

 

 必要な手順とはいえ面倒であるとアルベドは溜息を吐きながら、絵画の近くにあった扉を開く。

 

 すると無数の赤子の泣き声が部屋中に響き渡り、部屋の中央に佇んでいた一人の女がブツブツと何かを呟き始めた。

 

 

「ちがうちがうちがうちがう」

 

 

 揺り籠に入っていた人形を忌々しそうに掴んだ女は、アルベドに向けてその人形を投げつける。

 

 予め判っていたアルベドは、無表情のままその人形を素手で打ち砕いた。

 

 打ち砕かれた人形の破片が周辺に飛び散り、破片が触れた場所から湧き出るように現れる半透明の赤子のような肉塊。

 

 腐肉の赤子(キャリオン・ベイビー)と呼ばれる魔物が辺りを浮遊しながら、恐怖を駆り立てるような悍ましい声を上げる。

 

 そんな中、喪服に身を包んだ黒髪の女は、皮の剥がれた素顔を見せ、その手に持った巨大な挟を振りかざしながら、今まさにアルベドに襲い掛かろうとする。

 

 

「――私の子ど「はい、姉さん」」

 

 

 しかし、急接近したアルベドによってそれは阻害された。

 

 黒髪喪服の女――ニグレドの胸元には、先ほどアルベドが用意した人形が押し付けられており、それを見たニグレドは若干不貞腐れながらも一言。

 

 

「――ノリが悪いわよ。私の可愛らしい方の妹」

 

「しっかりと手順は踏んだはずよ?」

 

 

 しれっと答えたアルベドに対し、ニグレドは納得いかなそうに肩を竦めた。

 

 ニグレドはアルベドと姉妹――という設定で作られたNPCである。

 

 先ほど妹であるアルベドを襲おうとしたのも、自らの創造主であるタブラがホラー好きであり、此処を訪れた者には必ずそうするようにとニグレドに命じているからだ。

 

 それを理解しているアルベドは襲われたことに怒りこそ覚えないものの、内心では酷く面倒だと感じていた。

 

 身代わりとなる赤子の人形を渡さねば、延々と物理攻撃を仕掛けてくるのだから。

 

 

(……本当に、我が姉ながら難儀な宿命を背負ったものね)

 

 

 裏切り者(タブラ)がナザリックを去って尚、このような形で自由を縛られているのだから。

 

 そんな姉を不憫に思いながらも、アルベドは近くにあった椅子に腰かける。

 

 受け取った人形を揺り籠に収めたニグレドは、改めてアルベドに向き直ると口を開いた。

 

 

「それで今日は何の用かしらアルベド。モモンガ様からのご命令?」

 

「いえ、違うわ。少し姉さんにお願いと相談があって来たのよ」

 

 

 そういってアルベドは、ここ最近の情報に疎いニグレドに近況報告をする。

 

 モモンガがアインズに改名したこと。ナザリックにイチグンという人間が賓客として招かれたこと。

 

 イチグンがアインズと友好を築いており、魔導国設立の為に冒険者となって外の世界を探索している等。

 

 それらの情報を嘘偽りなく伝えた上で、アルベドは本筋となる話題を切り出した。

 

 

「アインズ様にご友人が出来ることは、非常に喜ばしいことよ――でも、そんな男が不穏な動きを見せているのは看過できないわ」

 

「――それは一体どういう意味かしら?」

 

 

 不穏な言葉に、強張るニグレドの表情。

 

 そんな姉の反応に手応えを感じながらも、アルベドは信憑性の高い嘘を紡ぐ。

 

 イチグンの憑依した肉体がスレイン法国に所属するニグンのもので、スレイン法国は人類至上主義の国家であるということ。

 

 スレイン法国を擁護するような提案でアインズの行動を縛り、ナザリックの配下達を自分の手駒に引き入れている。

 

 更に最近では、冒険者としての活動に必要だからという名目で、宝物殿から貴重なアイテムを大量に持ち出しているのだとアルベドは語る。

 

 

「……成程、確かに不穏ね」

 

 

 そんな話を聞かされたニグレドは、苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めた。

 

 イチグンがアインズに取り入って油断させ、ナザリックを内部から攻撃しようと目論んでいるように思えてしまったのだ。

 

 

「勿論、私の心配が杞憂の可能性もあるわ――でも、常に最悪は想定して動くべではないかしら?」

 

「……そうね。そのイチグンという人間は私が定期的に監視しておくわ」

 

 

 ニグレドは探索に特化した高レベルの魔法詠唱者である。

 

 あらゆる妨害を無力化して対象を監視出来るし、無機物・生き物を探索出来る能力も兼ね備えている。

 

 アルベドの計画を実現する為には、絶対に欠かせぬ人材であった。

 

 

「お願いするわ姉さん。あと、このことはアインズ様には――」

 

「……ええ、勿論判っているわ。心苦しいけど秘密裏に監視するしかないわね」

 

 

 イチグンという人間が裏切り者であるにしろ無いにしろ、アインズには伏せるべき案件だということはニグレドも重々理解していた。

 

 もし裏切り者でなかった場合はアインズへの不敬となり、裏切り者だった場合はアインズの心を病ませる結果となるからだ。

 

 

(……姉さんの協力を得ることは計画達成の為の絶対条件。これであの男の動向を何時でも探ることが出来るわ)

 

 

 自らの思惑通りに事が進んだアルベドは、心の中でほくそ笑みながらも考えを巡らせる。

 

 アルベドの計画を達成する為には、とあるキーアイテムが必要となる。

 

 しかし幾ら探索に秀でたニグレドでも、世界秘宝であるそのアイテムの所在地までは探ることが出来ない。

 

 ならばそのアイテムを所有している人物を探れば良いかもしれないが、それも不可能なのだ。

 

 ニグレドの広域探索は、生き物・無機物問わずに位置を特定することが出来るが、探索する為には満たさなければならない条件がある。

 

 それはニグレド自身が、探索する対象を認識していること。

 

 探索する対象を認識していなければ、ニグレドは広大な砂漠の中から宝石を探し出すような徒労行為を行う破目になる。

 

 ツアレの探索にニグレドが起用されなかったのも、ツアレの顔をニグレドが知らないからである。

 

 

(流石に手掛かりなしで探索するのは、姉さんでも不可能だわ)

 

 

 表舞台で活躍しているような人物だったらまだしも、キーアイテムを所有していると思われる人物は、法国の特殊部隊として暗躍している為、素顔を探ることは難しいだろう。

 

 そもそもニグレドに特定の人物の探索を依頼すること自体リスクが大きい。

 

 何故なら計画が達成した暁にはイチグンは()()()()になる為、探索の段階でニグレドにも声が掛かるだろうし、その際に何故その人物の居場所を探ろうとしたのだとアインズに言及されることになる。

 

 それでは駄目なのだ。

 失踪事件との関連性を持たせぬよう極力証拠は残さず、自らの潔白を証明しなければならない。 

 

 イチグンがナザリックを裏切り、失踪したというシナリオを描かなければならないのだ。

  

 だからこそ、アルベドは発想を逆転させた。

 

 

「……なら法国が手駒を動かさざるを得ない状況をつくれば良いだけね」 

 

 

 そんなどす黒い思惑を抱きながらも、アルベドは氷結牢獄を後にするのであった。

 

 

  

 

 

 

 

 最近のナザリックでの生活は順風満帆である。

 

 というのも一番の懸念材料であったアルベドの嫉妬による狂行問題に解決の兆しが見えたからだ。

 

 きっかけとなったのは、アインズさんとアルベドの逢瀬を取り持った一件である。

 

 その一件以降、アルベドは俺と敵対するよりも味方に引き入れて利用した方が良いと判断したらしく。打算的ではあるものの、俺に対して友好的な姿勢を見せるようになったのだ。

 

 貴重なアイテムを俺に持たせるようにパンドラに手配したり、今まで以上に事務仕事を熟し、此方が困っていた案件にも積極的に手を貸してくれるなど至れり尽くせり。

 

 

 最初は何らかの罠ではないかと穿った見方をしてしまい、ネメシスに頼んで監視して貰っていたのだが、それらは徒労行為に終わってしまった。

 

 どうやら彼女は俺に手を貸すことでアインズさんの評価を高め、それと同時に俺を味方につけることでシャルティアを出し抜いてやろうと目論んでいるらしい。

 

 つまり、彼女にとって俺は殺すべき害敵ではなく。利用すべき手駒となった訳だ。

 

 その証拠に日夜、自室で妄想を口にしながらクフクフと奇妙な笑い声をあげていたとネメシスは語る。

 

 ……自分で言ってて悲しくなるが、アルベドの急激な変化に、此方への好意が微塵も見られないからこそ納得出来る理由であった。

 

 

 兎にも角にも、アルベドとの関係は大幅に改善されたと言っても良いだろう。

 

 和解とは程遠いが、敵対関係じゃなくなっただけで御の字である。

 

 あとはアルベドの希望通りにアインズさんとの仲を取り持ち、徐々に信頼を得ていけば良いだけだ。

 

 故に要らぬ勘繰りをされぬ為にも、ネメシスの監視は切り上げて、ある程度アルベドに裁量権を与えた。

 

 これで此方に害意がないことを示せるし、煮え湯を飲まされたアルベドも多少は留飲が下がるだろう。

 

 名付けて『僕、悪いスライムじゃないよ作戦』である。

 

 

「……後、気になるのは法国の動きだな」

 

 

 土の都壊滅の主犯を魔導王と睨んでいる法国であるが、現状は何もしてこない。

 

 それは件の事件により国家としての機能が麻痺しているという理由もあるが、一番大きな理由がエルフ国の侵攻だろう。

 

 最近になって特に動きが活発になっているらしく、そんな騒動を治める為に特殊精鋭部隊である六色聖典が動いているらしいが焼け石に水状態。

 

 エルフ側も法国の内情を判っているからか、法国各地に潜伏し、機を見計らって攻撃離脱を繰り返すゲリラ戦により国力を削ぎに来たのである。

 

 先の大戦により大量の兵を失った法国側は、ただでさえ少ない兵を細分化する破目に陥り、苦戦を強いられているという訳だ。

 

 そんな状況下で魔導王の案件に首を突っ込むなど藪蛇でしかない。というか突っ込んだら藪からドラゴンが出てきて法国全土を焦土に変えること請け合いである。

 

 

(法国としては苦渋の選択かもしれないけど、神都の護衛として待機させてる漆黒聖典を動かすしかないだろうな)

 

 

 占星千里の力で敵の潜伏場所を特定し、人外級の実力者である隊長が殲滅する。

 

 シンプルではあるが、非常に効果的な作戦であり、兵の損失も極力抑えることが出来るだろう。

 

 だがそれ相応のリスクも生じる。

 漆黒聖典という鬼札を手放すことで、神都の守りが薄くなってしまうのだ。 

 

 当然、神都には特級戦力である番外席次が控えている為、隊長不在でも問題はないのだが。土の都のように大量の魔物に蹂躙される可能性も少なからずある。

 

 もし番外席次が敵を討伐したとしても、戦いの余波で神都が崩壊すればアウト。

 

 だからこそ法国は、大きく人を動かすことが出来ないのだ。

 

 

「漆黒聖典といえば、クレマンティーヌの行方も気になるよなぁ」

 

 

 クレマンティーヌは事件のどさくさに紛れて、法国の秘宝を盗み出し国外逃亡したらしい。

 

 何を盗み出したかは現在調査中であるが、少なくとも火滅聖典や風花聖典を総動員させるほどの事をしでかしたのは間違いないだろう。

 

 クレマンティーヌとは面識があった為、スクロールを用いて居所を探ってみたのだが結果は不発。

 

 アインズさんの予想では、『隠れ蓑マント』(かくれみのマント)という魔道具を使って探知阻害しているのではないかとのこと。

 

 クレマンティーヌは近接戦闘や暗殺に特化した仕様だったし、実力相応の希少な魔道具が与えられていたはず。

 

 もしフル装備で逃走したならば、原作の彼女よりも厄介な存在となるだろう。

 

 

(……まさかとは思うが、世界秘宝は盗まれてないよな?)

 

 

 ……ハハハッ、いやいや流石にそれはないかぁ。

 

 だって宝物殿の奥には番外席次の居住スペースがあるし、幾らクレマンティーヌでも危険を冒してまでは侵入しないはずだ。

 

 だって彼女も隊長やニグンと同じく、番外席次に完膚なきまでに叩きのめされ、人間の尊厳を失うような真似を強いられた哀れな被害者である。

 

 彼女にとっても番外席次はトラウマの化身。虎の尾を自ら踏みに行くほど愚かではないはずだ。

 

 

「…………」

 

 

 ……無いよね?

 ……無いと信じたい。

 ……じゃないと俺の胃に大きな穴が開きそうです。

 

 

「……ハァ~」

 

 

 不安が尽きぬ現状に溜息を吐きながら、薄暗い空間で紅茶を啜る。

 

 ダージリンの芳香が、優しく体に染み渡っていった。

 

 

「我輩の淹れた紅茶は口に合いませんでしたかな?」

 

 

 そんな此方の様子が気になったのか、対面の椅子に座った相手は優雅な動作で尋ねてくる。

 

 体長30㎝程の小柄な体格。黒光りする肉体を覆い隠すように深紅のマントを被っており、頭に黄金に輝く王冠をのせ、先端部に純白の宝石をはめ込んだ王笏を持っている。

 

 その威風堂々とした佇まいは正しく貴族。気品と優雅を兼ね備えた非の打ちどころのない出で立ちだ。

 

 

「いえ、美味しかったですよ()()()

 

 

 ――ただし、外見は二足歩行のゴキブリである。

 

 カサカサと腹部で蠢く副腕や、テカテカと黒光りする身体を見て、生理的に受け入れられないものも多々いるだろう。 

 

 

(……思い返せば衝撃的なファーストコンタクトだったよなぁ)

 

 

 恐怖公との交流が始まったのは、シャルティア戦を終えた直後であった。

 

 シャルティアの全裸を拝んで狂喜乱舞していた俺は、強制転移でゴキブリの群にダイブして狂気乱舞。

 

 眷属達に食われかけ、情けなくも取り乱してしまったが。何だかんだで誤解がとけて、恐怖公と語り合ってる内に意気投合し、気付けば茶会に招かれる程仲良くなっていた。

 

 恐怖公は外見に似合わず理知的であり、貴族と設定された為か礼儀作法や領地経営に詳しい。

 

 故に雑談がてら貴族の作法について学んだり、魔導国設立の為の草案作りに協力して貰っているのだ。

 

 

(恐怖公は礼節弁えた素晴らしい人格者だ)

 

 

 ただ悲しいことに彼は外見がゴキブリである為、ナザリックの女性陣から敬遠されており、それを本人も自覚している為、拠点である黒棺(ブラック・カプセル)に引き籠って生活している。

 

 それを見かねた俺が、自室として与えられたロイヤルスイートに客人として招いてみたのだが、恐怖公に遭遇したシクススが立ったまま気絶してしまいお泊り会は中断。

 

 恐怖公は申し訳なさそうに謝りながら、足早にその場を去っていった。

 

 恐怖公の哀愁漂う背中を見た俺は、何ともやるせない気分になったものだ。

 

 

(よくよく見ると愛嬌があって可愛らしい外見なんだけどなぁ)

 

 

 足元に這い寄ってきた恐怖公の眷属達に餌を与えながら、その姿をしげしげと眺める。

 

 世間でのゴキブリのイメージは最悪といっても過言ではないが、見た目に関しては其処まで嫌悪感を抱くようなものではないだろうと個人的に思っている。

 

 角のないカブトムシのようなものだし、外見で言うならニューロニストの方が余程トラウマである。

 

 それに地面を素早く駆ける姿や、黒光りする身体はネメシスと似ており親近感が湧く。

 

 性格も素直で従順。餌を求めてカサカサと足元に這い寄ってくる姿には愛くるしさすら感じる。

 

 俺の中では此処にいる眷属達(ゴキブリの群)も、ネメシスと同じく愛玩動物的な立ち位置なのだ。

 

 

「ちょっ、何するのネメシス!?」

 

『…………』

 

 

 野球ボールサイズの黒い塊が、狂ったように連続体当たりを仕掛けてくる。

 

 その衝撃で紅茶の入ったティーカップが地面にこぼれ落ちるが、寸前のところで眷属達がキャッチ。

 

 黒い津波となって落ちたティーカップを運び、地面に飛び散った紅茶を啜って片付ける。

 

 一糸乱れぬ連携プレイは毎度のことながら感心させられる光景である。

 

 

「ところでネメシス殿は随分と身体が縮んだように見受けられますが、何か理由でもあるのですかな?」

 

 

 そんなことを考えていると、恐怖公からそんな質問が投げかけられた。 

 

 いつも傍に控えていたネメシスが、バスケットボールサイズから野球ボールサイズに縮んでいることが気になったのだろう。

 

 

「嗚呼、ネメシスは3体程に分裂して別行動してるんですよ」

 

 

 一体は此処、二体目はデミウルゴス牧場のお手伝い、三体目はパンドラの魔道具開発に協力している。

 

 ネメシスの分裂体は各々が独立思考で動ける為、同時進行で別々の仕事をこなすことが出来る。

 

 再度本体に統合されることで記憶の共有も出来るので、俺が請け負った仕事の一部を手伝って貰っているのだ。

 

 不眠不休で働けるし、利便性の高い能力を幾つも兼ね備えているネメシスは本当に優秀である。

 

 

「後は物資の移動にも役立つしね」

 

「物資の移動ですかな?」

 

 

 不思議そうにコテンと首を傾げる恐怖公に対し、ネメシスの保有する能力について説明する。

 

 ネメシスは自らの肉体に荷物を収納する能力を持っており、その許容量はナザリック第四階層に待機させているガルガンチュアを収納出来るほどに優れている。

 

 そして収納した荷物を取り出す際には自らの肉体を介する訳だが、何とそのルールは分裂体の肉体にも適応されているのだ。

 

 分裂体Aで収納したものを、分裂体Bから取り出すことが可能という訳だ。

 

 

「なるほど、つまり半永久的に使用出来る輸送経路を確保出来たということですな」

 

「そういうことです」

 

 

 無論ネメシスの召喚が解除されてしまえば強制的に分裂体も消えてしまう為、そういった運用は不可能である。

 

 ネメシスの召喚には常時MPを消費する為、今までは万全の状態であっても半日程度でMPが空になり、必然的にネメシスの召喚を解除しなければならなかった。

 

 しかし、それらの問題は先日の一件で解決してしまった。

 

 詳しい話は聞いていないが、ネメシスは『死の宝珠』を用いて召喚に必要となるMPを賄っているようで、召喚に必要となるコストがゼロとなった。

 

 そのおかげでネメシスを常時召喚しておくことが可能になったという訳である。

 

 

『イチグン様、宜しいでしょうか?』

 

 

 そんな説明を恐怖公にしている最中、唐突に《伝言/メッセージ》が入る。 

 

 話し掛けてきたのはパンドラで、頼まれていた魔道具が完成したから試作機をネメシスの体内に収納したとのこと。

 

 恐怖公も目の前に居るし、丁度良いタイミングであったとネメシスの身体に収納された試作機を取り出す。

 

 取り出したのは液晶モニターと直径1㎜程の超小型カメラであった。

 

 

「実は恐怖公に協力して頂きたい案件があるのですが宜しいですか?」

 

「ふむ、その面妖な魔道具と何やら関係があるのですかな?」

 

 

 ご名答です恐怖公。

 

 これは恐怖公だからこそできる仕事であり、ナザリックにおいて最も重要性の高い機密任務である。

 

 

 実はこの世界でもゴキブリという生物はあらゆる場所に生息している。

 

 そしてこの超小型カメラは魔法と科学の粋を集めて作られた一品であり、音声と映像をリアルタイムで対になる液晶モニターに映し出せる代物である。

 

 此処まで語ると、聡明な恐怖公は此方の頼みたい仕事を察してくれた。

 

 

「我輩は各国の情報をこの魔道具と眷属を用いて探れば良い訳ですな」

 

「その通りです。情報を制するものは有利に事を運べますからね」

 

 

 恐怖公の眷属ならば市井に溶け込んでいても不自然ではないし、一般大衆から貴族まで幅広く情報を拾えるだろう。

 

 恐怖公の働きが認められれば配下達の評価も変わり、いずれは敬遠されている現状も改善できるかもしれない。

 

 恐怖公がその手腕を発揮出来ぬまま、この地に引き籠ることはナザリックにおける損失だと思ったのだ。

 

 

「私としても、恐怖公にはもっと活躍して皆と交流を深めて貰いたいのです」

 

「…………」 

 

 

 そういうと恐怖公は押し黙り、何処か驚いたように此方を見上げる。

 

 しかし次の瞬間には優雅に頭を下げ、威厳ある口調で答えてくれた。

 

 

「――イチグン殿の度重なるご厚意感謝する。この恐怖公、全身全霊を賭してその任務を全うしてみせましょうぞ」

 

「ハハハッ、大袈裟ですねぇ」

 

 

 でも彼の協力が得られたのは上々である。

 

 これでまた一つ平和的に魔導国を設立する足掛かりが出来たと安堵する俺であった。

 

 

 





※イチグンは件の事故でゴキブリの認識が一変したようです。



アイテム紹介

『隠れ蓑マント』

・このアイテムを装備している間、探索系の魔法・スキルの対象にならない代わりに、自分も探索系の魔法・スキルが使用不可能になる。イベント限定のレアアイテムでアインズですら持ってないから欲しいと思っている。

 防御効果はまるでないが、偶々クレマンティーヌに適合した為、暗殺趣味の彼女は愛用している。

 法国の追手を巻く際にも貢献してくれた貴重品であるが、現在は無限の背負い袋の代わりに風呂敷として活躍中でございます。


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