イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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プロローグ的な話はこれにて終了!
 
次回から漸くナザリックの面々と本格的に絡み始めます。

 

そしてオバロ三期はやはり面白かった。
 
初っ端から一般メイド達の日常ネタがあったり、
女子会ネタがあったり、風呂ネタがあったりとフルスロットル。

作画も明らかに良くなってますし、
今後のアニメ展開も凄く期待してます。

※良かったところ

・一般メイド達が可愛かった。
(特にシクスス)

・バイコーンネタがあったところ
(アルベドさんマジ処女ビッチ)

※気になったところ

・エイトエッジアサシンが思った以上にムシムシしてた。
 (……もっと忍者っぽいものを想像してました)

・アニメ公開されている予定の話数が少ない。
 (……展開が勇み足になることだけは勘弁して欲しい)



第4話 目覚め、そして興覚め

 身体が鉛のように重い。

 

 五感が著しく鈍っており、息を吸うだけでも身体がしんどくなる。

 

 そんな疲弊した身体を優しく包み込むように受け止めてくれる布の塊。

 

 ――重い瞼を開けると豪華なベットの上に俺は横たわっていた。

 

 

「えっ、うぁ?」

 

 

 此処は一体何処だろうか?

 

 記憶が混濁しており、何故こんなベッドで横たわっているのかが判らない。

 

 思考に靄が掛かったかのように不鮮明で、頭が上手く回らない。

 

 そのままボケっと天井を眺めていると、ふと真横から声を掛けられた。

 

 

「おっ、気が付いたようだな」

 

「おんぎゃああああっ!?」

 

 

 視界にヌッと現れる骸骨。

 俺は悲鳴を上げ、フカフカのベッドから転がり落ちるようにして逃げた。

 

 

「くっ、くりゅにゃ! くるにゃぁあ゛っ!!」

 

「ま、待て!落ち着けッ!頼むから落ち着いてくれ!」

 

 

 呂律の回らない舌で叫びながら、必死に床を這いずり、部屋の出口に向かって匍匐前進する俺。

 

 後ろからゆっくりと追って来る骸骨に向かって、床に転がっているものを適当に投げつける。

 

 

「ちょ、待って。本当に待って!?」

 

 

 骸骨の身体に当たり、ポフンと弾かれて地面に落ちるスリッパにタオル。

 

 

 何だこの訳の判らぬ状況は?

 無力な俺を、この邪悪な骸骨は一体どうするつもりなんだ?

 

 

「たしゅけてぇ、だれかたしゅけてくりゅええええ!?」

 

「ええい、大人しくしろッ!

《人間種拘束/ホールド・パーソン》」

 

 

 骸骨が何かを唱えた瞬間、自分の身体が一切動かなくなる。まな板の上の鯉ならぬ、床の上のオタクである。

 

 未だに靄のかかった思考の中、必死で抵抗しようともがくが、そんな俺に対して骸骨は優しく諭すように語りかけて来る。

 

 

「此方に敵意は一切ない。だから安心しろ」

 

「……ほんりょ?」

 

「嗚呼、本当だとも」

 

 

 そういってソッと壊れ物に触れるように、俺の背中を優しく撫でる骸骨。

 

 次の瞬間、背中を炙られる様な激痛が走った。

 

 

「んがぁあああああ!?」

 

「――あ゛っ、ごめん。

〈負の接触〉(ネガティブタッチ)切り忘れてたわ」

 

 

 ふ、ふざけんじゃねぇぞ!この玉無し骸骨!

 そういう天然ボケは要らねぇんだよ、この戯けがぁあああ!

 

 ドボドボと背中に掛けられたポーションにより傷が癒され、記憶の混濁も収まった。

 

 漸く滑らかに口が回るようになった俺は、初めてまともに目の前の骸骨魔王と対話する。

 

 

「――敵意は無いのに、拷問するし、洗脳するし、攻撃するんですね。

俺、今日だけで一体何回死ねばいいんですか?」

 

「いや、あの……本当にすみませんでした」

 

 

 そういって土下座しながら、申し訳なさそうに謝罪するアインズさん。

 

 ナザリックのNPC達に見られたら、問答無用で俺が殺されるからやめてくれ。

 

 そう言いながら骨だけの手を引っ張ると、

アインズさんは戸惑いながらも、神妙な様子で問いかけて来た。

 

 

「――貴方には聞きたいことが山ほどあるんですが、少しお付き合いして貰っても宜しいですか?」

 

「ええ、幾らでも付き合いますよ」

 

 

 どうせ先程の洗脳による尋問で、重要な情報は洩れている。

 

 下手な誤魔化しや嘘は、敵対行為だと思われかねない。疑わしきは罰しろなんてオチは絶対に御免被るぞ。

 

 俺はこの世界の住人であるニグンの肉体と記憶を持ちながら、憑依転生した異世界の住人である。

 

 そしてアインズさんの今後の活躍が、俺のいた世界では小説となっており。それ故に俺はナザリックの内情や、鈴木悟という人物の情報を知っていた。

 

 それらの事実を一切隠すことなく、馬鹿正直に全て話した。

 

 

「……えっ……嘘……え゛っ……うえぇえええ!?」

 

 

 俺が何かを語る度に発光する骸骨の身体。

 相当な心の葛藤があるのか、精神安定化が全然追いついていない様子。

 

 漸く光が収まったかと思えば、訝し気な様子でアインズさんは俺に尋ねて来る。

 

 

「――それ、事実なんですよね?何か証明出来るモノとかあります?」

 

 

 流石に俺の発言を疑わしく思ったのか、慎重さに定評のあるアインズさんは、その証拠を求めて来た。

 

 この突拍子もない事実を証明する為の確かな証拠かぁ――それならば腐る程にあるさ。

 

 

「『モモンガを愛している』」

 

「うぐっ」

 

「『アルベド、胸を触るぞ。構わにゃいな』」

 

「ぐはっ!?」

 

「『Wennn es meines Gottes Wille(我が神の御望みとあらば)』」

 

「ぐぁああああああっ!?!?」

 

「30歳童貞で魔法詠唱者って、

ちょっとしたブラックジョークですよね」

 

「いっそ殺せ、殺してくれぇえええっ!!」

 

 

 何かに苦悩するかのように、頭を抱えながら床をのたうちまわる骸骨。

 

 発光しながらグルグルと回るその姿は、まるで鼠花火である。最後は爆発して木っ端微塵に砕け散りそうだ。

 

 そんな下らないことを考えていると、ドガンッという破壊音と共に重厚な扉が木っ端微塵に砕け散った。

 

 

「へっ?……んがぁっ!?」

 

 

 壊れた扉から黒い人影が飛び出して来たかと思えば、次の瞬間には顔面を片手で鷲掴みにされ、空中に吊るしあげられてしまった。

 

 黒い艶やかな髪をポニーテールにした、ナザリックの戦闘メイド六連星(プレアデス)の一人。

 

 二重の影(ドッペルゲンガー)のナーベラル・ガンマは、敵意を剥き出しにし、ミシリと顔面に食い込む手に力を込めたまま語った。

 

 

「……アインズ様、お怪我はありませんか?」

 

 

 床に転がっていたアインズさんも、余りの出来事に口を大きく開いたまま放心状態で固まっている。

 

 それが更に勘違いを加速させたのか、ナーベラルはその美しい顔を、これ以上無いぐらいに憤怒で歪ませながら言った。

 

 

「――この糞にも劣る塵虫(ゴミムシ)風情が。

至高の御方の頂点に立つアインズ様に危害を加えるなど、余程その脳味噌は愉快に出来ているようだな」

 

「ら、らめぇえええっ!?」

 

 

 白魚のような細い指先が、俺の頭蓋骨にミシリと音を立てながらめり込んでいく。

 

 あと少しでも力が加われば、卵の殻のように頭蓋骨が砕け散り、脳漿を床に撒き散らすことになるだろう。

 

 

「貴様のような蓑虫(ミノムシ)は、この世のあらゆる痛みを与えながら万死を与え、その躯は恐怖公の眷属の餌とし、ナザリックの糧にしてあげるわ。

喜びなさい。蛆虫(ウジムシ)以下の貴方にすら価値を見出してあげるのだから」

 

 

 ナザリックの拷問フルコースに、無数のゴキブリの餌袋とか嫌すぎるッ!?

 

 必死でジタバタと暴れるも、腕力の差は圧倒的。その細腕はピクリとも動かず、拘束が緩むことは一切ない。

 

 バチバチッと青白い閃光を纏いながら近づく左腕に、もはやこれまでかと本日三度目の死を受け入れていたのだが、そんな状況下で助け舟が出された。

 

 

「―― 一体、何をしているのだ。ナーベラルよ」

 

 

 その威厳のある声にナーベラルはビクンと身体を震わせ、そのまま俺を床に落とす。

 

 先程までの憤怒の表情は消え失せ、何処か恐怖を孕んだ涙目になっている。

 

 アインズさんの声が怒気を含んでいることに彼女も気付いたのだろう。

 

 

「た、大変申し訳ありません!

緊急事態だと判断し、部屋の扉を破壊してしまいました!後で如何ような罰でも受けますッ!」

 

「「そっちかよ」」

 

 

 思わずアインズさんとハモった。

 

 ナザリックでの人間の価値は頗る低いとは判っていたが、まさか扉一枚にすら劣る程に低いとは思いもしなかったぞ。

 

 何故怒られているのか判らずに、オロオロと視線を彷徨わせながら狼狽えるナーベラル。

 

 それを見たアインズさんは、呆れたように溜息を吐きながら言った。

 

 

「……私は予め言っていたはずだ。彼に危害を加えるな。二人きりで話がしたいから誰も部屋に入って来るなと。

なのに何故お前は勝手に部屋に乱入し、許可なく彼を殺そうとしているのだ?」

 

「そ、それは……申し訳ありません。

アインズ様の御身に危険が迫っていると判断し、咄嗟に行動してしまいました」

 

「それは大義であると感謝しよう」

 

「はっ!勿体なきお言葉」

 

「しかし、その()()()()とやらを一体どうやって察知したのか、教えて貰っても良いかな。ナーベラル・ガンマよ」

 

「……」

 

 

 アインズさんがそういうとナーベラルは無言になり、パッと見で判るぐらいに顔を青くしてガタガタと震え始める。

 

 

「……成程、聞き耳を立てていたのか。

アレほど私の部屋には探りを入れることを禁じていたにも関わらず、お前はそれを破ったのだな?」

 

「も、申し訳ありませんッ!」

 

 

 即座に土下座して許しを請うナーベラルだったが、プライバシーを侵害されたアインズさんの怒りは止まらない。

 

 

「お前にとって、私の命令は軽んじても構わない。その程度のものであったと判断して良いな?」

 

「ッ!違いますッ!断じてそんなことはありませんッ!」

 

「違わないだろう。現にお前は私の命令を悉く破っているのだから」

 

「……あっ……うぁ」

 

 

 アインズさんがそう切り捨てると、ナーベラルの瞳からツゥーと涙が流れ落ちる。

 

 そんな絶望の淵に立たされている彼女に対し、アインズさんの口から告げられるトドメの一言。

 

 

「……はぁ、興覚めだ。

お前には失望したぞ、ナーベラル・ガンマ」

 

「ひぅ!?」

 

 

 その言葉はNPCである彼女にとって、如何なる拷問や凄惨な死よりも厳しい一言である。

 

 彼女達の存在意義の全てを、自らの忠誠を捧げる創造主に完全否定されたのだから。

 

 

(というより、それはルプスレギナに対しての名言だっただろッ!?)

 

 

 何だかヤバい流れになり始めたので、軌道修正を行う為にアインズさんに話し掛ける。

 

 

「――まぁまぁ、アインズさん落ち着いて下さい。元を正せば、私が誤解を招くような発言をしたのが切っ掛けですし。

アインズさんも『いっそ殺せ』なんて言うから彼女も慌てたんですよ」

 

「……むぅ、しかしですね」

 

「幸いにして、私もアインズさんも無事だった。

――ならお互いの為にも、この件は無かったことにしましょうよ」

 

「……顔面から流血してますけどね」

 

 

 それは言わないお約束。

 死ななければ儲けもんぐらいに思わないとやってらんねぇよ。

 

 そんな此方の気持ちが伝わったのか、アインズさんはフゥと小さく息を吐き出して告げる。

 

 

「――ナーベラルよ、この件に関しては不問とする。

彼の器の大きさと慈悲深さに努々感謝するように。――部屋から出ていけ。監視や護衛は一切不要だ」

 

「わか……り……ま……した」

 

 

 ヨロヨロと力なく立ち上がったナーベラルは、虚ろな瞳で大粒の涙を流しながらもペコリと一礼。部屋からトボトボと去っていった。

 

 ――壊した扉を直さぬままに。

 

 

「……《上位道具創造/クリエイト・グレーター・アイテム》」

 

 

 アインズさんがヤレヤレといった様子で扉に向かって掌を翳すと、壊れた扉と全く同じものが部屋の出入り口を塞いだ。

 

 

「それ、超便利ですよね」

 

「ええ、ユグドラシルと仕様が変わって、一番有難い魔法ですよ」

 

 

 その気になれば、消しゴムから家屋まで一瞬で造れるらしい。

 

 但し物体として維持するのに魔力を必要とするので、恒久的には使えないらしいが。一時的に部屋の出入り口を塞ぐ扉を創造するぐらいなら余裕のようだ。

 

 

「因みに、この時点でもある程度判っているかもしれませんが。ユグドラシルのルールは、良い意味でも悪い意味でもプレイヤーに制限を与えますよ」

 

「……というと?」

 

 

 本来、魔法詠唱者であるアインズさんは剣などを装備して使用出来ないが、この魔法で創造した剣ならば装備することが可能。

 

 それは剣ではなく、魔法で創造した道具として認識されるからだ。

 

 この世界の原住民ではあり得ないが、プレイヤーが殺された場合は、レベルダウンの後にリスポーンが発生。コレは過去の八欲王の討伐記録で証明されている。

 

 NPC達は従来のルール通り、ユグドラシル金貨によって復活することが可能である為、死というリスクに関しては、プレイヤー並びにNPCは優遇されていると言えるだろう。

 

 

 その一方で日常生活にまで支障が出るような行動制限もある。

 

 例えば植物の採取活動や料理の調理など。

 

 ユグドラシルに職業として存在する行動に関しては、その職や専用スキルを取得していないと強制的に失敗になるのだ。

 

 

「……あれ?でもアルベドは料理を含めた家事が出来るし、此処に居るメイド達も一通りの炊事作業は出来るみたいなんですけど?」

 

「ああ、それは恐らくフレイバーテキストの影響ですね」

 

 

 ユグドラシルでは単なる裏設定でしかないそれらも、この世界では現実のものとして反映されている。

 

 メイド達はナザリックのメイドであると設定されており、メイドという定義が広く解釈されて、一通りの作業が出来るのだろう。

 

 だから設定に『主婦業一般に関しても優れた能力を持つ』と記載されたアルベドも家事全般を熟せるのだ。

 

 もしユグドラシル時代にフレイバーテキストで、『無限の魔力を保有』とか『如何なる手段でも殺せない』とか記載したNPCが居たら、とんでもないことになっていたのではないだろうか?

 

 

「尤も検証はしていないので、私の知識とはズレがあると思いますが、そこら辺の確認作業は、アインズさんにお任せしますよ」

 

「……」

 

 

 そういうとアインズさんは、近くの椅子に座り込んで顎に手をやって悩み始める。

 

 今聞いた話を熟考した上で、思考が纏まったのか口を開いた。

 

 

「――判りました。貴方の話を全面的に信用します」

 

 

 スクッと立ち上がったアインズさんが、冷静にそう告げる。

 

 思ったよりも随分あっさりとした反応である。

 

 

「確かめなくていいんですか?

何だったらもう一度《支配/ドミネート》使ったり、《記憶操作/コントロール・アムネジア》で、俺の記憶を覗いて貰っていいですよ?」

 

 

 それで身の潔白と安全が保障されるというのならば、幾らでも協力するつもりである。

 

 なんせナザリックに追従する以外、俺に生き残る道は無いのだから。

 

 

「――いえ、やめておきますよ。

誠意には誠意で応えるのがナザリックの流儀ですから。私は貴方を信用することにしました」

 

 

 そういって穏やかな口調で語るアインズさんに、思わず感心してしまう。

 

 いやはや、流石主人公というか、器が大きいというか。自分の方が圧倒的に立場が上なのに、協力的な相手には敬意を払い、物腰柔らかに対応するとは。

 

 

「ホント、上司の鏡だよなぁ」

 

「えっ?」

 

 

 自分のミスを押し付け、俺をクビにした上司に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

 って爪が無いや、骸骨だもんね。仕方ないね。

 

 そしてそんな信用出来るアインズさんだからこそ、俺は安心して交渉を持ち掛けられるのだ。

 

 

「――ところでアインズさん。

 そんな俺の知識の中には、ナザリックにとって不利益となる未来の情報もあるんですが。事前に対策を練れば、より有利に事を運べるとは思わないですか?」

 

「――協力の条件は?」

 

「我が身の安全と、ナザリックでの生活保障をお願いします」

 

 

 外の世界は危険がいっぱい。

 凶悪な魔物が跋扈しており、俺は恐らく裏切者としてスレイン法国に追われることになるだろう。

 

 逃走生活の末に待っているのは破滅だ。

 それならばいっそ勝ち馬であるナザリックの保護下に入り、協力関係を築く方が良いではないか。

 

 ぶっちゃけ特殊部隊での暗躍とかもう沢山だ。

 豪華絢爛なナザリックで優雅に隠居生活を楽しみたいのである。

 

 そう説明するとアインズさんは快くOKを出してくれた。流石アインズ様は話が早いで候。

 

 略してさすアイ早漏。

 

 

「他には何かありますか?」

 

「あとはそうですね――強いて言うなら育毛剤が欲しいです」

 

「――嗚呼、割と切実な問題ですよねソレ」

 

 

 寂しい頭部を擦りながら呟く俺に、アインズさんはクスリと可笑しそうに笑いながらも、ポーションを授けてくれるのであった。

 

 

 

 

 

 




 
イチグンは死ななかったが、ナーベラルは盛大に爆死した模様。
 
ナーベちゃんポンコツ可愛い。




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