イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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本日、深夜。オバロ三期放送!
2話目カルネ村の話になるっぽいですね。

ルプー失望フラグが
着々と積み上げられております。



第6話 交友とKill You

 ナザリックでの隠居生活は4日目に突入した。

 

 相変わらずの至れり尽くせり具合。

 人を違う意味で駄目にしそうなギルド拠点である。

 

 アインズさんとの友好関係も頗る良好だ。

 ユグドラシルではないとは言え、俺もギルド長として大型ギルドの運営に奔走した廃課金プレイヤーである。

 

 お互いに通じ合えるものは多く、更にそこに現実世界での話や仕事での愚痴が加わり、気が付けばアインズさんの自室で駄弁ることが多くなっていた。

 

 アインズさんも普段は魔王ロールをしている為、気安く話し掛けてくれる存在がおらず。心の安寧を求めて、この二人きりの会話を楽しみにしているらしい。

 

 そして今日もまたアインズさんの私室で、情報提供とは名ばかりの懇親会が行われていた。

 

 

「えっ、朝6時から夕方6時の勤務体制が基本とかマジですか? 週休1日って労働基準法ガン無視じゃないですか」

 

「ハハッ、俺の居た現実では労働基準法なんて機能してませんでしたから。

――それよりも昔のギルメンに呼びかけて、誰一人として最終日にログインしなかったイチグンさんに同情しますよ」

 

「ハハッ、笑えるぐらい惨めでしょ?

メールもSkypeもまともな返信すらない。仕事クビになって24時間何をするでもなくギルド拠点に引き籠って、お供NPC相手に一人芝居ですよ」

 

 

 誰も居ないギルド拠点で、来ない仲間を待ち続ける苦痛。

 

 嘗ての仲間達との楽しい思い出がある故に、誰も居ないと余計惨めな気持ちになる。

 

 それを見かねた他のプレイヤーから、自分達のギルドに入らないかと勧誘されたこともあったが、それでも俺は誰も居ないギルドにしがみつき続けた。

 

 いつかまた元の栄光を取り戻せるはず。

 此処が自分の居場所なのだ。

 そう根拠なく信じ、仲間の帰還を待ち続けた。

 

 結果、誰一人として仲間は戻らず。

 俺の居場所はあっさりとなくなった。

 

 本当に笑える程に間抜けな話である。

 

 

「……全然笑えませんよ。俺だって同じだったんですから」

 

「……アインズさん」

 

「……一人で寂しかったんですよね。皆で築き上げた全てが無駄になるのが虚しかったんですよね。また仲間と出会えることを楽しみにしてたんですよね」

 

「……うぐっ、ひっく、うぅ、うぉおおお!!

そうだ、その通りなんだっ。何故誰一人として来なかったんだ!?俺は最終日をあんな形で迎えたくながっだっ!!」

 

 

 大号泣しながら醜い心の膿を吐き出す俺を、目の前のアインズさんは慰めながら全部受け止めてくれる。

 

 アインズさんが心底羨ましかった。

 数人とは言え彼の呼びかけに答えて、最終日にギルメンがログインしてくれた。

 

 俺にはそんな信頼関係が築けなかった。

 『つまらないゲーム如きに貴重な時間を割くか』などと嘗ての仲間から言われてしまった。

 

 

 今も尚、アインズさんが築き上げたナザリック地下大墳墓は健在し、NPC達には意志が宿り、彼を至高の存在として慕い敬って仕えてくれる。

 

 俺の築き上げた全てはあの日消えてしまった。

 ギルド拠点も、お供NPCも、時間と金をかけて集めた貴重な武器や道具も全てだ。

 

 そして訳が判らぬままに異世界へと憑依転生し、元居た世界との繋がりも完全に断たれて、本当の意味で孤立してしまった。

 

 不条理な現実が嫌だった。

 俺はあの居心地の良い仮想世界を、何としても護りたかったのだ。

 

 そういうとアインズさんは、赤い眼光をユラリと細めて呟いた。

 

 

「……俺も同じですよ。このナザリックこそが自分の居場所なんです。

嘗ての仲間達が再びこの地へ舞い戻ってくるのを、心の底から待ち望んでいるんです」

 

「……その件はお役に立てず、本当に申し訳ありません」

 

 

 俺の知る知識では、彼のギルメン達はこの地へ戻ってこなかった。

 

 少なくとも人間種の生存圏内には居ないと思われる。そもそもこの世界に来ていない可能性の方が遥かに高いのだ。

 

 そんな情報を事前に知ってしまったアインズさんのショックは、きっと計り知れないものだっただろう。

 

 にも関わらず、彼は一切の憂いなく言い切った。

 

 

「まだ小説では語られていなかっただけで、実際は存在しているかもしれないじゃないですか」

 

「……確かに亜人の生存圏内であるアーグランド評議国なんかは、詳細がまるで語られていませんでしたからね」

 

 

 だがアインズ・ウール・ゴウンのギルメン達の実力を踏まえると、もしこの世界に居たならば何らかの影響を与えているはず。

 

 それらの噂が影も形もないということは、彼らのこの地に存在している可能性は限りなく低いだろう。

 

 聡明なアインズさんならば、それが判っているはずだ。

 

 

「100年の揺り返しで他のプレイヤーがやって来るなら、ギルメン達もいつかこの地に現れる可能性はありますよね」

 

「……在り得なくはないですね」

 

「はい。だから待ちますし、探しますよ。

――例え数百年掛かろうが、数千年掛かろうが絶対にね」

 

「………」

 

 

 ――嗚呼。彼が何故ナザリック大地下墳墓の支配者を演じ、数多の癖のある配下達を統率出来たのかを思い知らされた。

 

 彼は心優しい仲間想いな鈴木悟であると同時に、この大墳墓を護る死の支配者(オーバーロード)のモモンガなのだ。

 

 仲間達を大切に想い、過去の栄光に縋るからこそ、アインズ・ウール・ゴウンというギルドに並々ならぬ執着心を抱いている。

 

 だからこそ彼は魔王を演じるのだ。

 ナザリックを護る為に、ギルド長として配下達を導く為に。

 

 

(……何というか、アインズさんらしいな)

 

 

 俺はそんな一途な彼の姿を好ましく思うと同時に、薄氷の上を渡り歩くような危うさを感じてしまった。

 

 何としてもそんな彼の***を失わせてはならない。……そう強く認識させられた出来事であった。

 

 

 そんなタイミングでコンコンとドアをリズム良くノックする音が聞こえてくる。

 

 アインズさんが入室の許可を出すと、シクススが紅茶と茶菓子を持って部屋に現れた。

 

 

「――失礼致します。イチグン様に紅茶と茶菓子を用意しました」

 

「有難うシクスス……って何か目が赤くない?」

 

「い、いえっ。花粉症なので」

 

 

 へぇ~、人造人間も花粉症になるのか。

 驚きの新事実である。

 

 健康診断レッドだったヘロヘロさん辺りが、変な病弱設定でも入れたのかなぁと勝手に予想する。

 

 『お大事に』と声を掛けると、アインズさんが微笑ましそうにそのやりとりを眺めていた。

 

 

「どうやらシクススとも仲良くやれているようですね」

 

「俺には勿体ないぐらいに、よく出来たメイドさんですよ」

 

 

 モーニングコールからベッドメイキングに至るまで。何から何まで本当に世話になりっぱなしなのだ。

 

 流石に入浴の世話だけは気恥ずかしいので辞退し、アインズさん共々、スライムの三吉君に背中を流して貰っている。

 

 筋骨隆々とした中年男と大柄な骸骨で、揃って変な喘ぎ声を出してしまったのは完全なる黒歴史である。

 

 そんなことを考えている間に、アインズさんは空中に出来た黒い渦に手を突っ込んで何やらゴソゴソ。

 

 巨大な可愛らしいラッピングの箱を取り出して、そのままシクススに渡した。

 

 

「私からの細やかな礼だ。メイド達皆で食べるが良い」

 

「こ、これは!? もう二度と手に入らないと言われている幻の菓子。

『孤独なる聖者のチョコレート』ではっ!?」

 

「う、うむ……まぁ単なる私の気まぐれだ。

アンデッドの私は飲食不要であるし、アイテムボックスの肥やしにするよりも、お前に褒美として与えた方が良いと思ってな」

 

「そ、そんなっ!?

至高の御方の菓子を一般メイドの私が食べるなど恐れ多いです」

 

「……シクスス、口元の涎拭ったら?」

 

 

 恐れ多いと遠慮しながらも、彼女の瞳は完全に箱に釘付けである。

 

 目は口ほどに物を言うというが、この場合は目と口で物欲しがるだな。

 

 

(確かナザリックのメイド達って、その種族故に皆大食漢なんだっけ?)

 

 

 恭しく箱を受け取って退室するシクススを見送り、俺はある予想を立てながらも、アインズさんに聞いてみる。

 

 

「因みに入手条件って、バレンタインデーの日に特定時間ずっとログインしてるとかですか?」

 

「……小説で見たんですか?」

 

「いえ、単純に名前で予想しました」

 

 

 俺も似たようなアイテム持ってましたからと苦笑すると、アインズさんは無言でサムズアップするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインズより厳しい言葉で突き放され、絶望の渦中にいたナーベラルであったが、それも先日までの話。

 

 今ではその心の闇もすっかりと晴れ、身体の奥底から止めどない忠誠心が湧き上がって来る。

 

 

「嗚呼、アインズ様ッ!

私の心身を使い潰してでも、絶対なる忠義を御身に捧げて見せますッ!」

 

 

 そういって誰も居ない廊下でフンスと拳を握り締めて、気合を入れるナーベラル。

 

 自らの主の温情と期待に働きを持って応えなければ――そう自分に言い聞かせ、決意を新たにしているのだ。

 

 

 

 

 

 ――数日程前。失意のどん底に居た彼女を、アインズが名指しで私室に来るように命じた。

 

 ナーベラルは己の失態を鑑みて、プレアデスを解任され、ナザリックから追放されるのではないかと震えあがっていたが、偉大なる彼女の主は寛大であった。

 

 

『――先日は感情的になって済まなかったナーベラルよ。厳しく叱咤してしまったが、それもお前の成長を思ってのことだ。

その厚い忠誠心は嬉しく思う。今後の働きに期待しているぞ、ナーベラル・ガンマよ』

 

 

失意のどん底から一転。

アインズの言葉を聞いた彼女は多幸感に包まれ有頂天になった。

 

 

「その厚い忠誠心は嬉しく思う……今後の働きに期待しているぞ……ウフフッ」

 

 

 呪文のように何度も繰り返すその言葉。

 ナザリックのNPCである彼女達にとって、創造主からの期待や誉め言葉は、如何なる金銀財宝よりも価値がある。

 

 特に失意のどん底にいたナーベラルにとっては麻薬にも等しい劇薬だ。

 

 アインズの言葉を都合よく解釈した彼女は、その裏に込められた警告を、まるで読み解くことが出来なかったのだから。

 

 

「L.L.L~♪」

 

 

 そんな理由もあって鼻歌交じりに上機嫌で廊下を歩くナーベラルであったが、廊下の向こう側から歩いてくる人物を目撃すると雰囲気は一転。

 

 

「……チッ!」

 

 

 眉間に皺が寄る程に不機嫌になり、思わず舌打ちする。

 

 何故ならその人間こそが自身の最大の敵であり、ナザリックの存続を脅かしかねない存在だからだ。

 

 

「や、やぁナーベラルさん。おはようございます」

 

「……」

 

 

 引き攣った笑みを浮かべながらも、気さくに挨拶をするイチグン。

 

 そんな彼にペコリと形ばかりの会釈をして、冷ややかに睨みつけるナーベラル。

 

 その僅かなやりとりだけで、二人の関係性が最悪なのを誰もが悟るだろう。

 

 イチグンもそんな彼女の棘のある対応に、朝一番から心が粉々に砕け散りそうになっていた。

 

 

(……もうマジ泣きしそう。

俺、其処まで嫌われるようなことしたか?

寧ろフォローしまくってるし、普通なら感謝されても可笑しくないだろっ!?)

 

 

 実はアインズが部屋に呼び出してまでナーベラルを慰めたのも、イチグンがNPCである彼女の心情を説明し、フォローするように進言したからなのだ。

 

 そうとは知らないナーベラルは、恩人に対して敵意全開である。

 

 アインズが今の光景を目撃していたなら、二度目の失望を彼女に言い渡していただろう。

 

 

 不快なものを見たと言わんばかりに、足早にその場を去ったナーベラルは、その足で第9階層にあるロイヤルスイートの一室で立ち止まり、コンコンとドアを特定のパターンでノックする。

 

 

「入っていいわよ、ナーベラル」

 

 

 その部屋でナーベラルを待っていたのは、妖艶な黒髪の美女。ナザリック地下大墳墓の守護者統括であるアルベドであった。

 

 ここ数日間、アルベドは定期的にナーベラルを呼び出し、とあることを確認しているのだ。

 

 

「で、ここ一週間ほど彼を調査してどうだったかしらナーベラル?」

 

「アルベド様の予想通りですね。

奴はナザリックの配下達と交友関係を築こうと奔走しております」

 

「そう、私の懸念していた通りの結果だったのね」

 

「……はい。あの羽虫(ハムシ)はアインズ様を陥れ、ナザリックを乗っ取ろうとしております」

 

 

 そういって隠しきれない憎悪を剥き出しにして語るナーベラル。

 

 アインズがナーベラルに失望したその日。

 アルベドはナーベラルに接触し、起こった出来事の一部始終を掌握。その上でこの招かれた客人が、アインズに害を齎す存在であると彼女に告げた。

 

 未来を予知出来る彼は、その力で配下すら知らないアインズの秘密を知った。

 

 その弱みを握った上でアインズを脅し、自らを有利な条件でナザリックに賓客として迎え入れるように誘導。

 

 ナザリックにまんまと潜り込んだイチグンは、表向きは友好的に接しつつも、裏では配下達を洗脳し寝返らせようとしている。

 

 そして機を見計らって覇権交代。

 ナザリックからアインズを追放するつもりなのだと説明した。

 

 

 その説明を聞いたナーベラルは、失意の感情すら忘れて憤怒した。

 

 アインズの様子が可笑しかったのも、自分が失望されたのも、諸悪の根源は全てイチグンであると認識したのだ。

 

 そしてその確証をナーベラルが得たのは、アインズが名指しで自身を呼び出した時である。

 

 常に完璧である至高の主が、あの時の発言は本意ではなかったと戦闘メイド如きに頭を下げ、これからの活躍に期待していると言ったのだ。

 

 つまり、あの場での発言は本意ではなく嘘。

 実際は、自分の介入によるイチグンの愚行の阻止を賞賛していたのだ。

 

 しかし、あの場でイチグンに弱みを握られていたアインズは、ナーベラルに対して厳しい言葉を投げかけ、追い払うしかなかったのだとアルベドは補足するように説明する。

 

 

「失意のどん底にいるナーベラルに助け舟を出すことで、自らの心象を良くし、アインズ様への忠誠心を揺るがそうとでも思ったのでしょう。

――でも残念ね、私達の心はその程度では微塵も揺らがないわ」

 

「……えぇ、寧ろあの蛞蝓(ナメクジ)に殺意が湧きました」

 

 

 そしてナーベラルは誓う。

 奴の凶行を止めるのは自分であると。

 例えこの身を使い潰してでも、至高の主を護り抜くのだと。

 

 そしてアルベドの密命により、ナザリックでのイチグンの行動を監視。

 

 ――その結果、恐るべき事実が判明した。

 

 

 一般メイドのシクススは既に洗脳されており、その交友関係にあるフォアイルやリュミエールにまで魔の手が伸びている。

 

 更に妹分である戦闘メイドのエントマ、ルプスレギナにも目を付けられ、階層守護者であるデミウルゴスやコキュートスまで彼に友好的なのだ。

 

 そして日夜行われているアインズと二人きりでの談合。その頻度は多くなり、談合時間も日に日に長くなる。

 

 つまり自らの主は、それだけ奴に弱みを盾に強請られているのだ。

 その心労は計り知れないだろう。

 

 だからこそナーベラルは、立場を弁えながらも発言する。

 

 

「……アルベド様、僭越ながら提案させていただくのですが。皆に奴の本性を晒し、誑かされぬよう注意喚起はしないのですか?」

 

「駄目よ、今その手を打つのは悪手だわ。

最悪私達がアインズ様への謀反を企てていると疑われるもの」

 

「な、何故ですかっ!?」

 

 

 今のところイチグンという男はナザリックに友好的。故に責め立てる材料がなく、追い落とす理由が存在しないのだ。

 

 更にアインズからの勅命によりナザリックに滞在している為、他の配下達も一定以上の敬意は払わなければならない。

 

 そんな中で彼を無意味に糾弾するような真似をすれば、忽ち孤立無援の状態に陥ってしまうだろう。

 

 此方が何を言っても妄言と切り捨てられ、その混乱を機として、イチグンはますますナザリックで幅を利かせるようになる。

 

 暗殺を企てようとも、狡猾な奴のことである。

 何らかの対策を既に行い、敵対者を炙りだし始末する算段はあるのだろう。

 

 つまり、どう転んでも悪い目が出てしまうのだ。

 

 

「故に今出来るのは、静観して敵の様子を探ることよ。表面上だけでも友好的な態度をとって、有益な情報を掴むのが無難ね」

 

「ッ~~!?何て卑劣で狡猾なっ!!」

 

 

そういって猛るナーベラルに対し、アルベドは金色の瞳を細めながら、優しく諭すように語りかける。

 

 

「今は雌伏の時、辛いかもしれないけれど心を強く保つのよナーベラル。そして油断することなくあの男の監視を続けなさい」

 

「はっ、お任せください!必ずやアルベド様

――いえ、アインズ様のご期待に応えて見せますッ!」

 

 

 そういって颯爽と去っていくナーベラル。

 彼女は今後もイチグンに敵意を抱きながら監視することになるだろう。

 

 そうなればイチグンの注意がナーベラルに向く為、自分はそれを利用し、策を弄して上手い具合に立ち回り、奴をこの世から完全に抹消することが出来る。

 

 ナーベラルからイチグンの情報を収集し、何かしらの失態を行えば其処から奴を切り崩すことが出来る。

 

 アルベドはそんな風に思考を巡らせながらも、吐き捨てるようにその一言を呟いた。

 

 

「――くだらない」

 

 

 そもそも今回の件において、アルベドはイチグンがナザリックを乗っ取ろうと画策しているなど、露程にも思っていなかった。

 

 至高の存在の頂点に立つ、自らの愛してやまないアインズが、人間に堕ちた雑魚程度に脅されて言いなりになるなどあり得ない。

 

 イチグンがナザリックの面子を立て、友好関係を築こうとしているのも、単純に分を弁えているからに過ぎないのだ。

 

 恐らく未来を先読みする力で、ナザリックの保有する桁違いの戦力を掌握したのだろう。

 

 だからこそ敵対するのは愚かだと判断し、恭順を選んだのだ。そうアルベドは理解していた。

 

 

「対象の未来を読み解く力は、確かに有用で脅威ね。でもその力を失ってしまい、二度と行使出来ない存在に価値は無いわ」

 

 

 アルベドは独自に探りを入れて、彼が吸血鬼としての力を完全に失い、一般人以下の存在に成り果てているのを確認した。

 

 彼が優遇されているのは、未来の情報を知っているからだが、その情報を脳から抜き取る手段などナザリックには幾らでもある。

 

 それにも関わらず、アインズが態々客人として彼を受け入れ、協力者として情報提供して貰うといった遠回しなことをしたのは何故か?

 

 

 ……決して認めたくはなかったが、彼という存在自体をアインズが気に入っているからだということをアルベドはこの数日間を通して、嫌という程に理解させられた。

 

 価値の無い存在には在り得ぬ程の高待遇。

 ロイヤルスイートの一室を与え、至高の41人と同じ食事を用意させる。

 

 事ある毎に彼の名を呼び、親し気に話しながら二人にしか判らぬ会話で盛り上がる。

 

 ただ同郷の(よしみ)である。

 それだけをダシにして、守護者統括である自分以上にアインズの窮愛を受けているのだ。

 

 

「――身の程を弁えろ、塵屑が」

 

 

 それがアルベドには何よりも許せなかった。

 

 愛する者の関心を、全てあの男が奪っていく。

 配下である自分ではなく、降って湧いたあの男の言葉に耳を傾ける。

 

 アインズが上機嫌な時は、何かしらの形でイチグンが関わっていることをアルベドは知っている。

 

 アインズが冒険者となり、彼と外の世界を旅しようとコッソリ計画を立てている姿をアルベドは見てしまった。

 

 

 もしアインズがナザリックに何の関心も示さなくなり、他のギルドメンバーと同様に、この地へと戻らなくなってしまったら?

 

 

 考えただけでも悍ましく、発狂しそうなほどに胸が苦しくなる。

 

 

 アルベドにとってアインズの存在こそが全てであり、狂おしいまでの忠誠と愛欲の対象なのだ。

 

 守護者統括という立場の前に、彼女はアインズを愛する一人の女。

 

 他の何を犠牲にしてでも、アインズの愛を手に入れたいのだ。

 

 

「――イチグン、貴様は絶対に殺す」

 

 

 故にそれを阻む異物は悉く排除する。

 その行いこそが、自分にとって最高の未来に繋がると信じているから。

 

 アルベドの金色の瞳は、嫉妬と殺意でユラユラと不気味に揺らめいていた。

 

 

 




『孤独なる聖者のチョコレート』/消費アイテム

【フレイバーテキスト】

聖なる夜に一人寂しく過ごす者(非リア充プレイヤー)慈悲深い神(運営)から与えられし、奇跡のチョコレート。

このチョコレートを食べた女性は天にも昇るような多幸感を味わい。逆に男性はそのほろ苦さに涙が止まらなくなると言われている。



【アイテム効果】

・低Lvの女性キャラの全ステイタス大幅向上。
・高Lvの男性キャラの全ステイタス大幅低下。
・ステイタスの上昇低下率はLvに比例する。



そんなアイテムを初めて受け取ったモモンガは思わず叫んだ。

「喧嘩売ってんのかっ!?糞運営ふざけんなっ!!」



――という訳で、第6話はアルベドとナーベラルのヒドインコンビがお送り致しました。

イチグンの***は何を懸念しているのでしょうか?
予想してみましょう。
 
 





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