※グロ注意、お食事中の方は御免なさい。
初めての1万字越え――そして改行の罠。
スマホで確認すると読みやすいのに、WEBで確認するとスカスカで見難い。
逆にWEBで読み易く改行すると、スマホだとギチギチで見難い。
取りあえずスマホで見やすくなるように改行してますが、皆さんはどういう基準で改行しているのだろうか?
……誰か教えて下さいな
人間とは良くも悪くも慣れる生き物だ。
豪華絢爛な食事に舌鼓を打ち、優雅にリゾート施設で娯楽を楽しむ。
アインズさんと談笑しながら、専属メイドのシクススに世話をされつつ、今日も一日楽しく過ごしたとフカフカのベッドでグッスリ就寝。
確かに最高だ。
下っ端社員として働いていた頃では、こんな生活在り得ない。誰もが羨むような夢の隠居生活と言えるだろう。
「でも違うんだ、違うんだよぉシクスス!」
「……えっと、何が違うんですか?」
シクススがジッと後ろで控える傍らで、俺は豪華な朝食が用意された机を眺めている。
今日もまた未知の食材をふんだんに使用した至高の料理の数々。でも俺が求めているのは、こんな大それたものではないのだ。
「……せめて一緒に食事をしないかシクスス。
何か俺一人でこんな馬鹿みたいに広い部屋で食事をしていると、無性に寂しくなるんだが?」
「……その料理はイチグン様の為に用意されたものなので。もし寂しいならば、私のメイド仲間を招集して傍に控えさせましょうか?」
違うっ、そうじゃないんだシクスス!
それだと更に特別扱いされているみたいで、息苦しさを感じてしまう。
無数の美人メイドに視姦されながら、黙々と飯を食べるって一体どんな羞恥プレイだよ。
俺はもっと和気藹々とした和やかな雰囲気で飯を食いたいのだ。
具体的に言うなら、ぼっち飯は嫌である。
「俺は一人で食う豪華で優雅な朝食よりも、シクスス達と会話を楽しみながら食卓を囲いたい」
「……イチグン様」
シクススが俺の無茶ぶりに対し、悲しそうに顔を歪める。
我ながら何とも我儘であると思うが、この一人だけ特別扱いされるのが当たり前の状況に慣れてしまえば、俺は心の平衡が保てなくなると思う。
アインズさんが俺との会話を楽しみにしている理由も、正しくこれが原因だと思われる。
気兼ねなく本音を吐けるような話相手が欲しいのだ。
何でも付き従う配下ではなく、何かを一緒に楽しめる仲間を求めているのだ。
(……まぁ、でも無理だよねぇ)
判っていたけど、言ってみただけである。
彼女に与えられたアインズさんからの命令は、『俺を客人として失礼のないように丁重にもてなせ』である。
NPCの立場や心情として考えるならば、結果的に俺のお願いは、与えられた仕事に手を抜けと言っているようなものだ。
シクススは割と融通が利くけど、それでもアインズさんから与えられた使命と俺のお願いでは、アインズさんの使命が優先されるだろうしな。
そう思いながら、ぼっち飯脱却を諦めかけていたのだが、何故かシクススは覚悟を決めたように一言。
「――判りました。アインズ様に嘆願してみますッ!」
「えっ?」
そう言って綺麗な一礼と共に颯爽と部屋を去っていくシクスス。
予想外の行動にポカンとする俺。
その数十分後、シクススの提案はアインズさんに聞き入れられ、俺はメイド達と同じように大食堂で昼食を楽しむことになった。
・・・・・・
ナザリックで働く一般メイド達は、人間と変わらぬ外見であるが、種族は異形種に分類されるLv1の
彼女達は人間よりも優秀な身体能力を持つ代わりに、活動に大量の食事を必要とする種族ペナルティがある。
普段は
殆ど不眠不休で働き、無償の奉仕を捧げ続ける彼女達は、まさしくメイドの鏡とも言うべき存在だろう。
そんな彼女達の数少ない憩いの場が、第9階層にある施設『大食堂』での食事である。
この大食堂ではビュッフェ形式で料理が提供されており、メイド達は各々が好きな食べ物を取り皿にとって、自由に食事や会話を楽しんでいる。
華やかなメイド達が大量の料理を取り皿に確保し咀嚼する姿は、ある意味圧倒される光景である。
一体あの細い身体の何処にそんな食糧が入るのだ?そんな感想を抱いてしまうぐらいにはインパクトがあった。
当初はナザリックに賓客として招かれている俺の登場に、大食堂に居た者達は慌てながらも、従者としてもてなそうと動いたのだが、俺が手で制して、シクススが皆に食堂に来た旨を説明。
最初は忠誠心を確かめる為の罠ではないかと、半信半疑で此方の様子を伺っていた者達もいたが。同じ席で食事を楽しみながら談笑している俺とシクススの姿を見て、それは杞憂であると悟って貰えたようだ。
シクススの同僚であるフォアイルやリュミエールを始めとした、一般メイド達との何気ない会話を楽しむ。
時折、茸頭の副料理長が俺の前に料理を並べてくれるのだが、明らかに他とは毛色の違う豪華なものだったので、折角だから一緒に食べないかとメイド達に提案。
すると目をキラキラと輝かせながら、餌に喰いつくメイド達。
シクススの反応から薄っすら察してはいたが、一般メイド達と仲良くなるには餌付けが一番効果的のようだ。
そしてそんな餌に喰いついたのは、一般メイド達だけではない。
腹ペコ狼娘と蜘蛛娘もバッチリ食いついたようである。
「マジっすかっ!コレ全部食べちゃっていいんすかっ!?ホント、今日は嬉しいことばかり立て続けに起こるっすね♪」
「このクッキーと紅茶美味しいねぇ♪」
元気溌剌といった様子で巨大な骨付き肉を掴み、ガブリと豪快に齧り付く赤毛の褐色女性。
その隣では幼い外見をしたお団子ヘアーの和装メイドが、大皿に盛られたクッキーを下顎部分から咀嚼していた。
彼女達は戦闘メイドプレアデスの構成員である
偶々大食堂に顔を出した彼女達は、俺とメイド達が食事を共にしていることに興味を示していたので、もしよければと席に誘ってみれば、二つ返事で頷いてくれた。
俺としてもプレアデスと直接関わることは滅多にないので、コレを機にと食事を楽しみながらも情報収集に勤しむ。
ナーベラルはどうしたって?
半ばコミュニケーションをとることを放棄している。何せ今も尚、食堂の片隅で此方を睨みつけながら威嚇しているのだから。
そんなナーベラルを横目で見ながら溜息一つ。
それを察したルプスレギナが苦笑しながらも、気さくに話しかけて来た。
「最近のナーちゃんは情緒不安定っすからねぇ。
何だかんだで思い込みが激しいっすから、イチグン様に対して妙な勘違いでもしてるんじゃないっすか?」
「もぅ、アインズ様から丁重にもてなすように申しつけられてるのにぃ。私が注意して来ますかぁ?」
「いえ、良いですよエントマさん。彼女なりに思うことがあるのでしょう。お気持ちだけは有り難く受け取っておきます」
そんなことをすれば関係が悪化するのは目に見えているし、下手をすれば問答無用で殺されるかもしれないので、波風は経てないのが無難だろう。
此方がやんわりと諭しながら死亡フラグを回避すると、ルプスレギナがピュゥ~と口笛を吹きながら茶化してくる。
「大人な対応っすね~。後、私達相手に敬語なんか要らないっすよ。名前もルプーで構わないっす」
「私もぉ、エントマで構いませんわぁ」
「おっ、マジで?じゃあルプーにエントマ宜しく」
いや~、肩肘張った対応って疲れるわぁ。
俺が姿勢を崩してダランと机に突っ伏しながらパンを貪ると、ルプーとエントマがキョトンとした様子で呆けている。
「……何かいきなり緩い感じに豹変したっすね」
「……雰囲気がさっきまでと全然違ぁう」
これが素だから仕方ない。
寧ろ四六時中畏まった対応とかサブ疣が出る。
ある程度仲良くなったなら、最初から本性を晒す方が互いに気が楽で良いだろう。
「アインズさんも案外、魔王の役を演じているだけで、従者達にはフランクに接して欲しいかもよ?」
「またまた冗談が過ぎるっすよ。あのアインズ様ですよ?そんな無礼なことしたらニューロニストの拷問フルコースっすよ」
「アインズ様はぁ、一人で静かに過ごされるのが好きみたいだしぃ。私達配下がお傍に控えることも許されないのぉ。……二人きりでお話が出来るイチグン様が羨ましぃ」
「……嗚呼、成程ね」
何という痛恨の勘違い。
アインズさんの魔王ロールの悪影響はこんなところにも出ているらしい。
孤高どころか嘗ての仲間を求めて世界征服目論むような寂しがり屋だぞ。
一人になりたがるのは、単純に配下達の前でボロを出したくないからだと思う。
何とかアインズさんと配下のそういった確執を埋めないとなぁ。いっそ食事会でも開くか……ってアンデッドだから飲食不要じゃないか。
それどころか睡眠も不要な為、ベッドメイキングの必要もなし。
だからこそ一般メイド達もアインズさんと関わる機会が薄くなるし。料理長達に至っては、あの素晴らしい料理を振る舞う機会すら無いのだ。
……コレは思わぬ盲点である。
こういった部分でもアインズさんは、配下達とすれ違っていたのかもしれないな。
「いつかアインズさんも、皆と一緒に食事を楽しめるようにしてあげたいな」
「そうっすねぇ」
「ですわぁ」
そんな感じで心の距離が縮まったルプーやエントマと会話を続け、話題はご機嫌なルプーの自慢話に移り変わる。
どうやら彼女は、アインズさんが今後冒険者として活躍する際。そのパートナーとして大抜擢されたらしい。
今後は冒険者仲間である神官ルプーとして市政に溶け込み、諜報活動する予定であると意気込んでいた。
「おお、良かったじゃんルプー」
本来、その役目はナーベラルのものであったが、アインズさんに彼女達の性格や未来の情報を伝えたことにより、それを踏まえた上での人材配置が行われたのだろう。
実際、ナーベラルが冒険者として行動を共にするのは悪手だしな。
人間見下しまくるし、直情的に行動するし、色々とポンコツだし。
その点ルプーならば、人間相手にでも気さくな人柄を演じられるし、余計な確執を生まずに上手く立ち回ることが出来るだろう。
「……うぅ~、私もアインズ様のお傍に居たかったのにぃ」
満面の笑みを浮かべながら尻尾をブンブン振るルプーとは裏腹に、エントマは机にペタンと突っ伏して、頭から生えている触覚をヘニョンと垂らす。
どうやら彼女も旅のお供に立候補したそうだが、選考基準から外れていた為に、候補にすら選ばれなかったらしい。
まぁパッと見は和装の美少女に見えるけど、その実態は数多の虫が集まって擬態した姿だからなぁ。外見的な問題から、彼女は今回の任務から外されてしまったのだろう。
「……私が上位種族の
そういってバンバンと机を両手で叩くエントマ。
かなり悔しそうだったので、さりげなくフォローを入れておく。
「まぁまぁ、エントマは俺の知る未来では大活躍するぞ?アインズさんからも凄く大切にされてたし、将来的にはその能力を買われてきっと重宝されるさ」
「ホントぉ!?」
嘘ではない。
具体的に言うならゲヘナという王都侵略作戦において、エントマは財貨の探索や物資の運搬に蟲遣いとしての技能をフル活用し、多大なる貢献をしたのである。
まぁその活躍も、作戦途中の摘まみ食いで台無しになったんだけどな。
それが切っ掛けでアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』との戦闘に発展。現地でも飛びぬけた実力を持つロリ吸血鬼のオリジナル殺虫魔法で、手酷いダメージを負って途中退場することになる。
アインズさんはエントマが傷つけられたことに、己の立場すら忘れてブチ切れそうになっていたし、エントマを含めた配下達が相当大切にされていることが良く判る。
そんな起こり得たかもしれない未来の出来事を、彼女の失態をぼかしつつ語ると、エントマは嬉しそうに甘ったるい声で呟く。
「アインズ様ぁ。私これからも頑張りますわぁ」
そういって両手を頬にあてながら、可愛らしく身体をくねらせるエントマ。
その感情に併せるかのように、頭の触覚もピョコピョコ動いていた。
(はぁ……エントマちゃんかわゆ……)
その幼く愛くるしい姿を、菩薩の如き慈愛の心で眺めていると、ルプーが興奮した様子で手を挙げながら此方に詰め寄って来る。
「ハイハ~イッ!私はどんな活躍してたっすか!?是非とも教えてくださいっすイチグン様っ!」
「……ルプーかぁ」
君は色々とやらかしまくるよ。
重要な情報を仕入れたにも関わらず、それを一切報告しなかったり。挙句の果てにンフィーレアが開発した新ポーションの提出を忘れてたり。
アインズさんからは失望を言い渡され、ネットでは駄犬と称され、弄られつつも愛されていたキャラである。
そんな小説の内容を思い出して、目の前の天真爛漫なルプーと、飼い主に捨てられた可哀想な子犬の姿を重ね合わせてしまう。
「――ルプー、頑張れよ」
「え゛っ?」
俺は哀憫の表情を浮かべながらそう呟き、ポカンと呆けるルプーの肩を励ますように優しく叩いた。
するとルプーは縋るように此方の右腕を掴み、ガクガクと揺さぶりながら問いかけてくる。
「ちょ、未来の私は一体何やらかしたんすかっ!?」
「イヤ、特ニ何モシテナカッタヨ?
……だから問題になったんだけどな」
「何で片言なんすかっ!?最後何て言ったんすかっ!?目を逸らさず、ちゃんと私を見ながら言って下さいよっ!?」
キャンキャンと涙目で吠えるルプーを尻目に、俺はシクススが運んで来たホットミルクを口に含んで、食後のひとときを楽しむ。
程よく人肌に温められた濃厚な味わいのミルクに、蜂蜜のようなものが混ぜ込まれているのか、少しトロリとした喉越しがあり渇いた喉に優しく染み渡る。
(ただのホットミルクですら、こんなに美味いのか)
ちょっとした料理にすら手間を惜しまぬその姿勢に感動すら覚える。
しかも魔法的な効能もあるのか、やたら感覚が冴え渡り鋭敏になる。
向上した視力を確かめるようにキョロキョロと辺りを見回すと、大食堂の出入り口付近の扉にジッと隠れ、コチラを観察する人影を発見。
よくよく見るとそれは漆黒のローブを纏った骸骨であり、頭からピョコンと立派なうさ耳を生やしていた。
「ぶほっ!?」
いやいや、何やってんのアインズさん。
その視覚への暴力とも言うべきインパクトに、口に含んでいた牛乳を全て吹き出す。
「わぶっ!?い、行き成りなんなんすかっ!?」
そしてその吐瀉物は真正面に居たルプーに直撃。顔から胸にかけて白濁液塗れとなる。
ルプーは此方をジト目で睨みながらもゴシゴシと素手で顔を拭い、掌に付着したミルクを舌でペロペロと綺麗に舐めとった。
いや、舐めるなよ拭けよ。
俺は咳ごみながらも、近くに置かれたおしぼりをルプーへそっと差し出す。
「だ、大丈夫ですかイチグン様?」
「えひょ、だいじょうびゅだシクスス……ルプーもすまんな」
「いや、まぁ別にいいっすけど。行き成りどうしたんすか?」
いや、それはあのウサ耳骸骨に言ってくれ。
流石にあんなの見たら誰でも吹き出すに決まってるだろう。
俺は口元を拭いながらも、文句を言うようにボソリと呟く。
「……そんなところで隠れて何やってるんですかアインズさん」
「「えっ!?」」
俺がその言葉を呟いた瞬間、食堂に居た者達とウサ耳骸骨が動揺する。
配下達は慌てて席から立ち上がると、周囲を確認するように視線を彷徨わせた。
「あっ、あるぇー?課金アイテムまで使って隠蔽したのに。……え゛ぇっ、何でバレるん?」
アインズさんも何やらブツブツと呟きながら発光し。サワサワと自分の身体を確認するようにまさぐりつつ、俺と自分を交互に確認している。
「いやいや、ホントに何やってんの皆?」
あんな目立つ姿で大食堂の出入り口に自らの主が突っ立っているのに、食堂にいる配下達は誰一人として其処に視線を向けないのだ。
「アッ、アインズ様は本当に近くにいらっしゃるのぉ?」
「本当も何も、大食堂の出入り口に棒立ちしてるだろエントマ」
そういって俺が指をさすと、皆の視線が其処に集中する。
配下達の視線を一身に集めて、狼狽えるアインズさんであったが。次の瞬間には精神安定化が発動したのか、溜息を一つ吐いてバッと腕を横に振るう。
するとアインズさんの身体から黒い靄が離れるようなエフェクトが発生。その瞬間に大食堂にいた配下達の態度は劇的に変化する。
ある者はその場で即座に平伏し、ある者はピキリと固まったまま動かない。
ルプーやエントマも何かに怯えるようにプルプル震えているし、ナーベラルに至っては虚ろな瞳のまま大粒の涙を流していた。
先程までの賑やかだった大食堂の光景は一変。
まるで通夜のような物悲しく重苦しい雰囲気に場が支配されていた。
「――ふむ、皆楽しくやっているようで何よりだ」
「いや、何処がだよ。アンタの目は節穴か」
両手を広げ悠然と歩きながら、そんな戯言を宣うオーバーロードに思わずノリツッコミ。その眼孔にズブリと指を挿し入れてやる。
この状況を創り出したのが自分であると重々理解しているからなのか、アインズさんは気まずそうにボソリと弁明する。
「……いや、一応私も皆に気を遣って隠蔽工作は施したんですよ?でも何故かイチグンさんに看破されるし、逆にこっちがどういうことか聞きたいぐらいですよ」
「えっ、隠れてたんですか?」
「ええ、課金アイテムまで使いました。普通なら姿は愚か、気配や匂いすら感知出来ないはずです」
確認するように隣に居たシクススを見る。
すると彼女は、それを肯定するようにコクリと小さく頷く。ルプーやエントマもブンブンと首を縦に振って同意している。
……どうやら俺だけがアインズさんの存在を認識出来ていたらしい。
一体何故だろうかと疑問に思ったが、机の上に置かれたマグカップを見て氷解した。
「多分、このホットミルクの効果じゃないですか?飲んだら妙に五感が冴え渡りましたし、そういう魔法的な効果でも付与されてるのでは?」
「……食事によるステイタス補助やスキル発動か。ピッキー、このホットミルクにはどんな効果が付与されているんだ?」
アインズさんが副料理長であるピッキーに料理の説明を求め、ピッキーは慌てながらもホットミルクの効能を説明。
『潜在能力が解放され、五感が強化される。
一定時間〈隠蔽看破〉のパッシブスキルが発動』
それがこの料理によって齎される恩恵であった。ホットミルクが強化魔法やスキルの代用品に成り得るのだ。
「……ふむ、料理による補助効果付与については知っていたが。此処まで強力な補助効果があるなど知らなかったな」
思わぬ有益情報に、ほくそ笑むアインズさん。
きっと原作ではアンデッドという種族故に飲食を必要としなかった為、知り得なかった事実なのだろう。
「大義である。今後ナザリックの戦力増強に、お前たちの料理が役立つこともあるだろう」
「も、勿体なきお言葉。恐悦至極にございますっ!」
そういってピッキーは深々と頭を下げる。
アインズさんの役に立てることを嬉しく思っているのだろう。思わぬ形で彼らの有用性をアピール出来てしまったな。
「ところでアインズさんは何故食堂に?」
「えっ?あ、いやっ、その……イチグンさんに相談したいことがありまして。流石に皆の居る前では話せませんし、後で私の部屋に来てもらえませんか?」
聞かれたくない話ということは、原作知識を踏まえながら今後の活動方針について考えるといったところか。
此方が了承の意を示すと、アインズさんはコクリと頷きながら漆黒のマントを翻し、転移により颯爽とその場を去っていった。
――ウサ耳を生やした状態で。
(後で思いっきり揶揄ってやろう)
アインズさんの失態を眺めながらそんなことを考えていると、行き成りピッキーが跪いて頭を垂れた。
「有難うございますイチグン様ッ!
全てはこのことを見越しての行動だったのですね!?」
「えっ、い、一体何のことかな?」
行き成りの感謝の言葉に困惑する俺。
マジで彼が何を言っているのか判らないんだが。
するとそれに追い打ちをかけるように、シクスス・ルプー・エントマの三人組が、判っていますからと言わんばかりに話し掛けて来る。
「フフッ、
「そうっすよ、見え見えっす」
「だからぁ、ココで食事を摂ったんですねぇ」
……一体どういうことだってばよ?
シクスス達の話を纏めると、この大食堂での昼食は全て俺が仕組んだ策略であるらしい。
普段アインズさんと関わる機会が少ない一般メイド達に、アインズさんと顔を合わせる場をつくると同時に、飲食の必要がない彼に料理長達の有用性をアピール。
そして人間である俺に対し、拭いきれない不信感や差別感を持っている者達に、好意的な態度で接しながらも、その実力の一端を示して魅せた。
配下達が誰一人として至高の存在に気付かぬ失態を犯す中。自分はいち早くその存在を察知し、その場で冗談を交えながら対等に会話を交わし、配下達のミスの尻拭いをした。
更に至高の主からの信頼を一身に受け、その叡智を頼られているのだ。
これでその存在を軽んじ、内心でも見下す者達が居るならば、余程の阿呆か至高の主への忠誠心が足りぬ愚か者であると。
「……」
『流石イチグン様、心より感服致します』と、偶然の出来事を手放しで賞賛するアインズさんの配下達。
そんな空気の中で、『それ、勘違いだから』等と言えるだろうか?
否、言えるはずがない。
というか言ったところで、話半分に受け止められてしまうだろう。
俺はニヒルな笑みを浮かべながら、肩を大袈裟に竦めつつ語る。
「……ヤレヤレ、皆の勘の鋭さには困ったものだ」
もう投げやりだ。なるように成れ。
さも自分が狙ってやった事のように振る舞うと、大食堂に響き渡る大歓声。
『アインズ様万歳ッ!イチグン様万歳ッ!』と地鳴りのような声が鳴り響き、ナーベラルを除いた皆がお祭り騒ぎとなった。
料理長達も明るい未来に意気揚々とし、その場にいた全員にいつもよりも数段上の料理が振る舞われる。
――嗚呼。きっとアインズさんは、こうして取り返しのつかないところまで逝ってしまったのだな。
ナザリックの闇を垣間見た俺は、悟りを開きながらも差し出されたショートケーキを口に含む。
そのふんわりとした優しい甘さが、疲れきった脳にじんわりと染み渡った。
「わ~い、今日は料理長が丸々一体振る舞ってくれるんだって」
「おぉ、普段は在庫が少ないから一部しか食卓に並ばないのに。料理長も大盤振る舞いっすね」
そんなお祭り騒ぎの中、エントマとルプーが何やらワクワクといった様子で会話をしている。
どうやら料理長特製の一品料理が間もなく出来上がるらしい。
普段は一部しか食卓に並ばないような貴重な食材を使った料理。一体どんなものなのだろうか、非常に好奇心を煽られる。
暫くして副料理長が運んで来たのは、巨大な蓋付きのオードブル皿。其処から焼けた肉とスパイスの芳ばしい匂いが漏れている。
「此方はエントマ様とルプスレギナ様からご要望を頂いた『ベリュースの姿焼き』になります。」
そんな言葉と共に、パカリと銀で出来た巨大なオードブル皿の蓋が開かれる。
――そして俺は絶望を見た。
「………エッ?」
オードブル皿に入っていたのは人間だった。
苦悶の表情を浮かべたまま焼き上げられた頭部。腹部は縦に大きく切り裂かれ、其処には色とりどりの野菜や果実が生け花のように詰め込まれている。
まるで服従する犬のように仰向けになり、天に向かって折り曲げられた手足には等間隔に出来た無数の切り傷。
全身はこんがりと焼け爛れており、地獄の劫火で焼かれた罪人のような有様になっていた。
そんなこの世のモノとは思えぬ料理を前にして固まる俺を他所に、ルプーとエントマは嬉々として感想を述べる。
「くぅ~、良いっすねこの表情ッ!
まるで死にたいのに死にきれずに悶え苦しんだみたいでウケルっす」
「ん~、いい匂ぃ♪見た目は気持ち悪くて臭そうなのにぃ」
「一度アンデット化した状態で老廃物の詰まった内臓を完全除去。蘇生させてから全身を細かな刃で刻みつつスパイスを塗り込み、生きたまま血液を抜いて、代わりに数種類の調味料を流し込むことで、肉全体の下味を整えつつも、臭みを完全に取り除きました」
そんなピッキーの解説を聞き流しながら、エントマはベキっと右腕を圧し折って、バリバリと貪り始める。
ルプーもそれを見て食欲をそそられたのか、左手首を圧し折ってその肉を鋭い牙で噛み千切った。
そんな凄惨な二人の食事風景を見ても、此処に居る者達は悲鳴を上げないし驚きもしない。
あのシクススですら、二人のがっつき方に苦笑するぐらいで、食材に使われたモノに対しては微塵も気に留めていないのだ。
何故ならこの光景こそが、彼女達にとっての日常であり普通の出来事。
人間という存在は、本来ナザリックの者達にとって玩具や食料程度の存在なのだ。
「……ウプッ、ングッ」
喉元までせり上がっていた嘔吐物を、ゴクリと喉を鳴らしながら必死に胃袋へ押し戻す。
もし俺に陽光聖典隊長ニグンとしての記憶や経験が無ければ、無様にゲロを撒き散らしながら泣き喚き、失禁していただろう。
そんな此方の心情を知ってか知らずか、ルプーは屈託なく笑いながらオードブル皿に置かれた食材の頭部を鷲掴みして、胴体からブチリと切り離すと此方に差し出してくる。
「そんな物欲しそうな顔しなくても、ちゃんと一番美味しいところはイチグン様にあげるっすよ」
ズズイと目の前に迫る生首。
焼け爛れた皮膚に、恐怖と苦痛を宿した白く濁った瞳。
やぁ、ベリュース隊長また逢ったね。
出来ればもう二度と逢いたくなかったよ、アハハはッ――――あふぁ。
「おっ、オロロロロロロッ!!」
耐え切れなくなった俺は、その場で盛大に吐き戻した。
お祭り騒ぎだった大食堂は一変。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのであった。
エントマ(……はぁ、エントマちゃんかわゆ)
ルプー(トドメを刺すとは……流石だぜ駄犬!)
ベリュース(上手に焼けましたぁぁああ゛っ!!)
実際にナザリックの大食堂で人間が飯食ったら起きそうな出来事。
……因みにベリュースの姿焼きは人間が食べても可也美味しい模様。