イチグンからニグン落ち   作:らっちょ

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次回は2000登録目指して頑張ります!


――因みに記念すべき1001人目の登録者は自分でした。

コレがホントの自演乙



第9話 骸骨が仲間に誘いたそうに此方を見つめている

「……嗚呼、完全にやらかした」

 

 

 ズキズキと痛む頭を抑えながらベッドから起き上がり、傍に控えていたシクススから酔い覚ましのポーションを受け取って飲み下す。

 

 朧げに甦る昨晩のバーでの記憶。

 何やらヤバイことを口走ったり、やらかしたりした気がする。

 

 恐る恐るシクススに確認してみると、とんでもない事実が明るみとなる。

 

 酒に酔った挙句、階層守護者二人に対して喧嘩を売り、挙句の果てに真実の一部を暴露し、説教をかますという暴挙に出たのだ。

 

 我ながら阿呆の極みである。

 酒は飲んでも呑まれるなとは正しくこの事だろう。

 

 今、死んでいないこと自体が奇跡だ。

 いや、アインズさんの賓客として招かれていたからこそ殺さなかったのか?……だとしたら、今後生き地獄を見る破目になるだろう。

 

 一体どうすればあの二人の怒りを収めることが出来るだろうかと、朝一番から頭を悩ませていたのだが、その心配は完全に杞憂となった。

 

 目覚めて直ぐにデミウルゴスとコキュートスが俺の下に現れ、昨晩の出来事について深く謝罪してきたからだ。

 

 何故そうなるのかまるで意味が判らなかったが、きっとデミウルゴスがいい具合に勘違いしてくれたのだろう。

 

 下手に事を荒立てる必要もないので、

『――君達なら判ってくれると信じていたよ』などとそれっぽい返答を返しておいた。

 

 その途端に吠えるコキュートス。

 デミウルゴスも号泣。

 

 シクススは聖母の如き微笑みを浮かべ、何も言わずに俺達を見守る。

 

 

「至ラヌ我ガ身ナガラ、イチグン様ノソノ命懸ケノ恩ニ応エテ見セマス故」

 

「お困りの事がございましたら、私達に何なりと御申しつけ下さい」

 

 

 そういって忠誠心のようなモノを迸らせながら、深々と跪く階層守護者二人組。

 

 えっ、なんぞこれ?

 ぶっちゃけ今一番困ってるのは、君達二人をどう取り扱うかなんですけど?

 

 命懸けで一体何をやらかしたんだ昨晩の俺。誰か教えてくれませんかね?

 

 そんなハプニングこそあったものの、俺は今日も平穏無事に、ナザリックでの隠居生活を謳歌するのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 大食堂で朝食を終えた朝の一時。

 

 俺はシクススに慰められながら廊下をトボトボと歩いていた。

 

 

「……我ながら何と情けないんだ」

 

「イ、イチグン様。お気を確かに」

 

 

 シクススの献身的な優しさが今は辛い。

 慰められれば慰められる程に、余計惨めな気持ちになる。

 

 

 事の発端は、一般メイド達の清掃作業であった。

 

 ナザリックでは食事を終えた一般メイド達は、基本的に大食堂の掃除をしてから退室するルールになっているらしい。

 

 傍仕えとして俺に仕えているシクススや、プレアデスのメンバーなどは立場上掃除をしなくて良いらしいが、それはどうなんだろうかと疑問に思ってしまったのだ。

 

 ここ最近はシクススが常に付き添い。椅子の上げ下げから、扉の開閉に至るまで全てやってくれていた。

 

 故に自尊心というか自立精神というか、何とも言えない後ろめたさもあり、一般メイド達の掃除を手伝おうとしたのだ。

 

 最初は断る一般メイド達であったが、気分転換になるからやらせてくれと腕捲り。

 

 これでも一人暮らしで長年寂しく家事スキルを磨いた身。炊事洗濯掃除などはお手の物である。

 

 しかし、そんな自信は僅か30秒で粉々に砕け散った。持ち上げた椅子が重すぎてギックリ腰になってしまったのだ。

 

 

 痛みに悶絶する俺。

 必死に看護する一般メイド達。

 

 

 偶然その場に現れたルプーが、《大治療/ヒール》を使ってくれて事なきを得たが、何故俺にそんな雑務をやらせたのだと怒鳴り散らし、諫めるのが大変だった。

 

 仕事を手伝うどころか、余計な手間を増やしてしまい、一般メイド達に多大なる迷惑を掛けてしまった穀潰しの紐男イチグン。

 

 ホント、情けないにも程がある。

 だからこそ俺は、事の重大さに気付いてしまったのだ。

 

 

 たった数㎏の荷物を持っただけで腰砕け。

 

 筋骨隆々とした男が、子供でも持てるような荷物を持てなかったのだ。

 明らかに可笑しい現象である。

 

 

 だが、よくよく考えてみて欲しい。

 俺は開幕早々二回死に、そして二回とも下位の復活魔法で蘇生された。

 

 つまり大幅なレベルダウンが発生しているのだ。

 

 故にニグンが今まで培って来た力は全て使えず、天使の召喚も出来なければ、魔法も扱えない。

 

 それどころか元の身体である一ノ瀬 軍馬の肉体よりも、貧弱な身体能力になっているのだ。

 

 

 俺はその事実が恐ろしくなり、現在自分のステイタスがどのぐらいなのか確認したいと、デミウルゴスに相談してみた。

 

 そして相手のステイタスを探ることの出来る魔物が、俺のステイタスを診断した結果がこれである。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

名前:イチグン

 

種族:人間

 

職業レベル

 

【自宅警備員】(ニート) …Lv1

 

    総合計 …Lv1

     

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 ……へへヘッ。笑えよ、ベ●ータ。

 

 Lv1ですよれべるいち。

 イチグンがレベルイチって洒落たつもりか?

 全然笑えないんですけどこの野郎。

 

 それはともかく、【自宅警備員】(ニート)って何?

 

 確認したら全ステイタスに大幅なマイナス補正が入るだけで、なんの恩恵も齎さない職業なんですけど?

 

 しかも特定のレベルまで上げないと消えないとか、最早呪いの一種じゃないかコレ?

 

 余りにもあんまりな状況に泣きたくなる。

 これでは日常生活にすら支障が出るではないか。

 

 そんな愚痴をポロリと零してしまえば、隣を歩いていたシクススが満面の笑顔を浮かべながら一言。

 

 

「安心して下さいイチグン様。いざとなれば私がお世話します。車椅子や尿瓶も用意してありますので抜かりはありません」

 

「……」

 

 

 そんな彼女の悪意ない言葉に、俺の自尊心は深く抉られた。

 

 ニートどころか、介護老人扱いである。

 

 

「……ごめんシクスス。暫く一人にして貰っていいかな?」

 

「――――ッ!?」

 

 

 俺の言葉にガーンとショックを受けた様子のシクスス。……悪いが今だけは一人で黄昏たいのだ。

 

 『御用があれば直ぐに御呼び下さい』と呼び鈴のようなものを渡され、涙目のシクススはトボトボとその場を去っていった。

 

 

「……凄い罪悪感だ」

 

 

 でも誰にだって一人で泣きたい時はあるんだ。

 それだけは判って欲しい。

 

 俺は視線を上に向け、カサカサと天井を這い廻っている蜘蛛忍者に話し掛ける。

 

 

「そういうことだから、君達も悪いけど席を外して貰えるかな」

 

「ッ!?……拙者が視えているのですか?」

 

 

 視えてるよ。

 あえて見ないふりをしてたんだよ。

 

 朝目覚めた瞬間、天井にぶら下ってる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)と目が合い、思わず悲鳴を上げそうになったわ。

 

 飯食う時も常に天井から見張ってたし、デミウルゴスの命令で護衛についているんだろうけど、せめて不可視化した隠密状態で行動して欲しいものだ。

 

 

「あと今朝方から俺の影の中に誰か潜んでるでしょ?影の悪魔(シャドウ・デーモン)辺りかな、凄く気になるんだけど」

 

「ッ!?」

 

 

 自分の影に目を向けると、その影が動揺したかのように波打つ。

 

 まるで湖に石を投じたように、自分の影に幾つもの波紋が生まれ、其処からズルリと現れる人型の黒い悪魔。

 

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)は、鋭利な爪と蝙蝠の翼を持ち、影に擬態できる諜報活動に秀でた魔物である。

 

 

「「……」」

 

 

 そんな八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)影の悪魔(シャドウ・デーモン)は互いに顔を見合わせた後に、《伝言/メッセージ》のスクロールを使って誰かに連絡。

 

 ボソボソと何度かやりとりをした後に、ペコリと頭を下げてその場を去っていった。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 漸く一人になった俺は、広い廊下を歩きながら考える。

 

 予想以上にナザリックの面々と良好な関係を築くことが出来たが、如何せんこの身体のスペックには不安を覚えてしまう。

 

 何らかの事件に巻き込まれてしまえば、その余波で死にかねない。そう考えると今の隠居生活は、ある意味理想の状態と言えるのだ。

 

 死亡フラグが混在する外界とは完全に遮断されているし、過剰ではあるものの、食事や世話係まで用意されているのだ。

 

 ちょっとしたことに目を瞑れば、正に理想郷と言えるだろう。

 

 

「……寧ろこの状況に順応するべきなのか?」

 

 

 先程のシクススの反応を鑑みるに、メイドとしての役割を与えられた者にとっては、介護のような奉仕作業も苦痛ではない様子。

 

 ならば甘んじてその奉仕を受け入れ、俺は何もせずに世話をされ、隠居生活を楽しめば良いではないか。

 

 

「……あ゛っ」

 

 

 そんな屑な考えを抱きながら廊下を歩いていると、向こう側から鼻歌を口遊みながら上機嫌で歩いてくるナーベラルを発見。

 

 俺を見たとたんに真顔になり、チッと舌打ち。

 

 そんな反応に挫けそうになりながらも、気さくに挨拶してみたのだが、形ばかりの無言の会釈で返答されてしまった。

 

 足早に去っていくナーベラルの背中を眺めながら改めて思う。

 

 

「……やっぱあかんわ。この状況」

 

 

 ある程度の交友関係を築いたとは言え、未だに俺の存在を快く思わない者達も存在している。

 

 信頼関係を築いたとは言ったものの、それは砂で出来た城のようなもので、いつ崩れても可笑しくはない。

 

 そんな時に頼れるのは、自分自身しか居ないのである。

 

 早急に力をつける必要がある。

 少なくとも子供に負けないぐらいの体力や腕力は必要だろう。

 

 

「……部屋に戻って筋トレでもするか」

 

 

 やらないよりはマシだろうと、決意を新たに自室に舞い戻ったのだが。何やら部屋の扉の前に不審な骸骨が徘徊しているではないか。

 

 

 「誘ったら……いや待て……一緒に……これも違うな。冒険者に……嗚呼、でも断られたら……彼だって、冒険したいはずだよな?」

 

 

 ブツブツと何かを呟きながら、扉の前をグルグル歩き回るアインズさん。

 

 ドアをノックしようとした寸前で手を引っ込め、顎に手を当てて思案し。またノックしようとした寸前で手を引っ込め、思案するという無限ループ。

 

 一体何がしたいのか判らないが、このままだと部屋に入れないので、取りあえず話しかけてみる事にする。

 

 

「アインズさん、一体どうしました?」

 

「ひゃんっ!?」

 

 

 ピンと背筋を伸ばした状態で、甲高い悲鳴を上げる骸骨。

 

 両手で胸を抱き寄せるような仕草をしながら飛び上がるその姿は、まるで男を知らない初心な乙女である。

 

 だが残念なことに外見は骸骨で、中身は三十路のおっさん。

 

 その実態は女を知らない初心な骸骨。

 まるで萌えない誰得のシチュエーションにゲンナリである。

 

 そんなアインズさんは骨をギギギと軋ませながら、グルンと首だけ180度回転させて此方に振り向き、カタカタと顎を揺らしながら返事を返す。

 

 

「う、うわっ~、ぐ、偶然ですねイチグンさん。

丁度私も仕事がひと段落ついて、ブラブラしてたんですよっ!」

 

「……これを偶然の出会いと(うそぶ)くのかお主は」

 

 

 大根役者にも程がある。

 あからさまに嘘だろそれ。

 

 先程まで俺の部屋の前で待機して、ゾンビのように譫言(うわごと)を呟きながら徘徊してたじゃないか。

 

 というかそのアンデット特有のトリッキーな動きやめーや。マジで心臓に悪いから。

 真夜中に見たら腰抜かすぞホント。

 

 そう指摘すると、アインズさんはグルンと身体ごと此方に向き直り、申し訳なさそうに頭を下げながら、此処に来た要件を話し始める。

 

 

「実はですね、イチグンさんに相談というか提案がありまして」

 

「提案ですか?」

 

「はい。実は外の世界の諜報活動の一環として、私は今後冒険者モモンとして、ルプスレギナと共に活動するつもりなんです」

 

 

 うん、知ってます。

 

 小説でもそのような理由で冒険者となって活躍していたが、実際のところは魔王ロールにより溜まったストレスを発散させる為である。

 

 諜報活動と銘打っているものの、これから入手するであろう情報の大半は既に俺が伝えているので、大した情報を得ることは出来ないだろう。

 

 

「まぁそれはそうかもしれませんが、情報を踏まえた上で冒険者として活動するのは重要だと思いますよ」

 

「と言いますと?」

 

「起こり得る未来は、イチグンさんの影響で変化していますし。その余波で外の世界の情勢も大きく変わるのではないでしょうか?

故にその実態調査と、より詳細な情報収集が必要になるかと」

 

 

 成程、確かに俺というイレギュラーな存在が介入したことによって、未来は不確定となった。

 

 予期せぬ敵の出現なんかも在り得るし、情報を踏まえた上で行動すれば、より素晴らしい結果が残せるだろう。

 

 何とも慎重且つ優秀な発想である。

 与えられた情報を鵜呑みにせずに選別し、ナザリックの利潤を追求しようとしているのだ。

 

 

「勿論、基本的な方針は変えません。

冒険者モモンとして活躍しながらも、魔法詠唱者アインズとして暗躍し、最終的には国を創って、異種族が受け入れられるような社会体制を形成するつもりです」

 

「魔導国アインズ・ウール・ゴウンの設立ですね」

 

 

 ギルドの名で建国するのは、この異世界に迷い込んだ仲間達が居た際の道標とする為。

 

 異形種を受け入れる社会体制を築くのは、100年の揺り返しで出現するかもしれないプレイヤーとの対立を避け、仲間や配下達の安住の地を創る為といったところか。

 

 ならば尚の事、原作のようなルートは避けるべきだ。本人も知らぬ内に、魔王ルート一直線だったからな。

 

 もうちょっと原住民に優しい仕様に軌道修正するべきだろう。

 

 

 そんなことを俺が考えていると、アインズさんはソワソワしながら話を続ける。

 

 

「……それでですね、私は冒険者として活躍する訳じゃないですか。ルプーだけだとチームとしては物足りないと思いませんか?」

 

「ユリとかソリュシャンに同行して貰えばいいのでは?」

 

「……ルプー以外のプレアデスには、他の任務に就いて貰う予定ですし。配下をゾロゾロと連れて歩くのも本末転倒ですよね」

 

「嗚呼、なるほど。原住民をチームに囲い込むつもりですか。それは名案だと思いますよ」

 

「えっ!?」

 

 

 現地人との混合チームにすることで、冒険者モモンにしっかりとした身元保証人が出来る。

 

 アダマンタイト冒険者である『蒼の薔薇』みたいな、最初から名声の高いチームと協力体制を築けば、地道な冒険活動をしなくとも、簡単に名声を得られるだろう。

 

 ついでに稀有な異能や種族を保有し、魔法詠唱者としてもこの世界でトップクラスの実力を持つイビルアイを仲間に引き込めば、ナザリックの将来的な利益になる。

 

 新規魔法の開発や異能の研究も進むだろうし、現地の異形種である彼女を受け入れることで、他の和平を望んでいる異形種へのデモンストレーションにもなる。

 

 更に言うなら蒼の薔薇のリーダーであるラキュースは、王国の大貴族であり、大きな権力とコネクションを持っている。

 

 それを上手く利用することが出来れば、魔導国を設立する上で、優位に物事を進めることが出来るだろう。

 

 立地的な利点を見ても、原作と同じく王国・帝国・法国の三大国家に囲まれているエ・ランテル辺りに拠点を創るのが理想的だろうしな。

 

 

「な、なるほど。それは良い案ですね」

 

「あれっ?そのつもりで話してたんじゃないんですか?」

 

「……違いますよ」

 

 

 そういって大袈裟に溜息を吐きながら肩を落とす骸骨。

 

 う~む、先程から要領を得ないというか何というか。言いたいことがあるのならば、ズバッと言って欲しいものだ。

 

 そういうとアインズさんは気恥ずかしそうに悶えながらも、話の要点をハッキリと告げた。

 

 

「……イチグンさんも、私と一緒に冒険しませんか?」

 

「……へっ?」

 

 

 青天の霹靂とは正にこの事だろう。

 

 アインズさんが、俺をチームメンバーとして勧誘したのだから。

 

 ということは先程までの会話も全て、俺を仲間に誘う為の布石だったのだろう。

 

 

 それに気付くと同時に、ハッと思い出す。

 アインズさんの性格や、今に至るまでのバックボーンを。

 

 彼は基本的に物腰が低く、相手を立てる性格である故に滅多に我儘を言わない。

 

 ギルドを管理する際も、常に中立の立場で荒事を諫めていた。自分の意見で場の空気を乱すことを極端に嫌っていたのだ。

 

 

 そんな彼は現実世界での孤独な身の上もあり、極度の寂しがり屋でもある。

 

 嘗ての仲間達との冒険を夢見て、ユグドラシルのサービス終了までギルド拠点を維持し。異世界に転移した後も尚、仲間の影を追い求めているのだから。

 

 だからこそ彼は外の世界に冒険を求め、俺を仲間に誘った。

 

 これは彼の我儘であり、一定以上の信頼を俺に抱いてくれた証でもあるのだ。

 

 

 ツンツンと両手の人差し指を合わせながら、此方の反応を伺うようにチラチラと視線を送るアインズさん。

 

 某RPG風に言うならば、

『がいこつが なかまにさそいたそうに こちらをみている』といった感じだろうか。

 

 故に俺もそんな彼の心意気に笑みを浮かべながら、嘘偽りのない本音を返す。

 

 

「ゴメン無理」

 

 

 絶句したまま固まるアインズさん。

 眼孔の炎がフッと掻き消え、絶望のオーラが辺りに漂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イチグンの現在の肉体は、陽光聖典隊長ニグンのもの。

 

 つまりスレイン法国に在籍しており、更に言うなら特殊任務の遂行中に失踪した扱いとなっている。

 

 そんな中でイチグンが冒険者として活動すれば、スレイン法国に睨まれてしまい、余計な争いの火種となるだろう。

 

 そもそも彼の現在のレベルは1であり、職業も【自宅警備員】(ニート)というステイタスが大幅にダウンする不遇職。

 

 その戦闘能力は一般的な農民の子供以下。

 通常の生活をするだけで、息切れやギックリ腰になってしまうのだ。

 

 嘗てのニグンのように天使を召喚したり、魔法を行使したりなど夢のまた夢。彼に出来ることなど、精々部屋に引き籠るくらいである。

 

 とてもではないが、荒事の多い冒険者など勤まらないだろう。

 

 

 ――そんな自らの現状を鑑みて、確実にお荷物になるだろうと、冒険者として外の世界へ旅立つことを断ったイチグンであったが。彼を仲間に誘いたいアインズは本気を出した。

 

 

「じゃあその問題が解決すれば、一緒に冒険出来ますねっ!」

 

 

 コレクターとして保有していた大量のマジックアイテムの中から、貴重な神器級のアーティファクトである『変装の腕輪・極』(へんそうのうでわ・きわみ)を用意。

 

 これによってイチグンの外見的な問題は解消した。

 

 

 残る問題は彼の脆弱な身体能力であるが、それもアインズ・ウール・ゴウンのギルド長からすれば些細な問題であった。

 

 レベルが下がって弱体化したなら、

 レベルを上げ直して強化し直せば良いだけの事。

 

 この世界ではフレンドリーファイヤーが有効であり、ギルド拠点には無数のPOPモンスターが存在している。

 

 ならば話は至極単純だ。

 然るべき装備を揃えた上で、そいつらを倒して経験値に変えれば良い。

 

 

 そう結論を下したアインズの行動は早かった。

 

 イチグンと共に第6階層の闘技場に転移したアインズは、低レベルのPOPモンスターである骸骨(スケルトン)を掻き集めて、闘技場にズラリと整列させ、その場に待機させる。

 

 イチグンは無抵抗のモンスターを撲殺。

 流れ作業のように骸骨(スケルトン)を粉砕して、己の経験値に変えていく。

 

 土下座のような姿勢を崩さぬまま、一切抵抗せずに塵となって消えていく骸骨の姿には、流石のイチグンも思うところがあったらしい。

 

 

「……この骸骨(スケルトン)達が、凄く気の毒なんですけど。本当にこんな方法でレベルを上げても良いんですかアインズさん?」

 

「良いんです。寧ろ何か喜んでますし」

 

 

 滅び逝く骸骨(スケルトン)達の心の中にある感情はただ一つ。至高の方のお役に立てて死ねたという狂喜の感情である。

 我々の業界ではご褒美ですという奴だ。

 

 また一体イチグンの手により、ゴシャリと粉砕される骸骨(スケルトン)

 

 しかし先程までの骸骨(スケルトン)と違うのは、消えた瞬間にまた元の位置に復活したという点である。

 

 リスポーンした骸骨(スケルトン)を粉砕。

 また蘇る。

 

 再度リスポーンした骸骨(スケルトン)を粉砕。

 またまた蘇る。

 

 まるでもぐら叩きのようにゴツゴツと何度も殴打し、数十回の復活と死亡の繰り返しの末に、骸骨(スケルトン)Xは逝った。

 

 彼は他の骸骨(スケルトン)よりも、役に立ったことを誇りに思いながら、この世から消失するのであった。

 

 

「いやぁ、明らかなネタ装備がこんなに役に立つなんて思いませんでしたよ」

 

「いや、俺も元ネタは知ってますけど、神器級でこの武器を再現するなんて完全に予想外です」

 

 

 イチグンの手に握られているのは、黒い金属バットに棘を生やしたような殴打武器である。

 

 ギルドの問題児、るし☆ふぁーが貴重な素材を勝手に使って造り出した神器級のネタ装備。

 『撲殺天使』(エスカリボルグ)である。

 

 『撲殺天使』(エスカリボルグ)の主な性能は、殴打攻撃威力超向上や聖属性特大付与。

 

 それに加えて、高確率で倒した敵を、その場にペナルティなしで蘇生させるという効果もある。

 

 どのような種族・職業でも使え、物理攻撃に特化した仕様になっている分。武器を所持している間、スキル・魔法は一切使えなくなる。

 

 

 使い勝手が悪く、実戦では使えない代物。

 ましてや敵を完全復活させるなど、無意味な効果としか思えないが、今回のようなレベリングの際は話が別である。

 

 蘇生させた敵を倒すことで、経験値が追加で加算される。更にユグドラシルとは違い、敵は一切抵抗せずに攻撃を受けてくれるのだ。

 

 イチグンはただ得物を掲げて振り下ろすだけ。

 実に効率の良いレベリングである。

 

 

 力が大幅に向上する『剛腕の指輪』を9個装備し、『生命維持の指輪』(リング・オブ・サステナンス)で疲労を無効化したイチグンは、『撲殺天使』(エスカリボルグ)を振り回し、文字通り骨が折れる作業を続けた。

 

 そんな物騒な光景を眺めながら、アインズはフフフッと喜色を隠せずにニヤケてしまう。

 

 

「それにしてもイチグンさんは本当に運がいいですよ。何せ【自宅警備員】(ニート)の職業を、いつの間にか取得していたんですからね」

 

「厭味かよっ!?」

 

「違いますよ」

 

 

 アインズの言葉は決して厭味などではなく、純粋な賞賛である。

 

 ユグドラシルでも、低レベルの時にログインして何もせずに建物の中に引き籠った状態が続くと、超低確率でこの【自宅警備員】(ニート)と呼ばれる職業が発現した。

 

 何のスキルも魔法も覚えず、ステイタスの大幅ダウンを招くだけの不遇職なのだが、この職業の真価は別のところに存在する。

 

 

 この職業はある一定のレベルまで上げると消失し、ランダムで同レベルの職業を入手出来るのだ。

 

 このランダムというのが本当に出鱈目であり、どのような入手困難な稀少職でも、未発見の職業でも、下位職から派生するタイプの職業でなければ獲得出来るのだ。

 

 中には【自宅警備員】(ニート)から、行き成り【世界王者】(ワールド・チャンピオン)になった猛者もいるぐらいだ。

 

 ユグドラシルでも一時期この出来事が話題になり、新参プレイヤー達が一山当てることを夢見て、ログインしたまま何もせずに建物内に引き籠り続けるという現象が生まれた。

 

 後に『ニート予備軍症候群』と語られるようになる、ユグドラシルの数ある黒歴史の中の一つである。

 

 懐かしいなぁと過去の思い出に浸りながらも、アインズは更にこの職業の齎す恩恵についてイチグンに語る。

 

 

「しかもこの職業、消えるとボーナスが発生するんですよ。ログアウトするまで入手経験値2倍のボーナスが」

 

「……え゛っ?」

 

 

 ゲームには当たり前のように存在するログアウトの概念が、現実世界となった此処には存在しない。

 

 

「つまり、今後イチグンさんが入手する経験値は全て2倍になります」

 

「ニートやべぇ!?」

 

 

 その有用性を理解したイチグンは、狂喜乱舞で得物を振るう。

 

 そして何百体目かのスケルトンを粉砕した瞬間。絡みついていた楔が無くなったかのように、イチグンの身体が軽くなった。

 

 

「おめでとうございますイチグン様。レベルが上がったようですね」

 

 

 傍で控えていたデミウルゴスが拍手と共に、現在のイチグンのステイタスを転記した紙を手渡してくる。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

名前:イチグン

 

種族:人間

 

職業レベル

 

【狂戦士】(バーサーカー) …Lv10

 

  総合計 …Lv10

     

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 イチグンはLv1からLv10に昇格。

 そして遂に脱ニートを果たす。

 

 新たに入手した職業は【狂戦士】(バーサーカー)などという如何にも物騒なものだが、それでも彼は無力な自分を脱却したことに歓喜していた。

 

 

「ところでアインズさん。この【狂戦士】(バーサーカー)って職業は――」

 

 

 新たに取得した職業がどういったものなのか、ユグドラシルに詳しいアインズに尋ねようとしたイチグンだったが、その言葉は尻すぼみとなって消えた。

 

 何故なら羊毛紙を受け取ったアインズが、頭を掻き毟りながら発狂していたからだ。

 

 

「……マジかよコイツ。超難度の期間限定クエでしか手に入らない前衛職を引き当てやがった。

 

あの建御雷さんですら課金アイテム使いまくって撃沈し、取得出来なくて発狂していたのに。

 

それをニートからゲットとか……えっ、何ソレ?

やまいこさんと同じタイプの人種なのか?

 

俺なんて『流れ星の指輪』(シューティングスター)一つ入手する為に、ボーナス全部突っ込んだのにっ!!

 

ああ、もうっ!世の中絶対不公平だろっ!?糞ッ、糞がぁ!!」

 

 

 運否天賦。

 人の運命とは何とも残酷なものだろうか。

 

 アインズは世の中の理不尽さを嘆いた。

 

 ガチャで爆死した過去の自分を思い出して憤慨し、たった一回のチャンスで大当たりを引き当てたイチグンを妬む。

 

 そんな行き場のない怒りを発散させるように、アインズは闘技場の地面を八つ当たり気味に蹴り上げた。

 

 轟音と共に抉れる大地。

 魔法職とは言え、Lv100の力で抉られた地面は、土塊となって散弾銃のように辺りに四散する。

 

 整然と並んでいた骸骨(スケルトン)達は、その余波に巻き込まれ消滅。圧倒的感謝をその胸に抱きながら消えていった。

 

 

「……うわぁ」

 

 

 そんなアインズを見たイチグンは察した。

 自分は相当ヤバい職業を引き当てたのだという事実に。

 

 そのせいでアインズの嫉妬心(パルスィゲージ)限界突破(リミットブレイク)

 

 連鎖する形で溜まっていた鬱憤が爆発し、配下の居る前で、このような奇行に走ってしまったのだろうと。

 

 そんな奇行を目の当たりにしたデミウルゴスは、宝石のような眼をカッと見開きながらも、アインズを止めずにその行動の意図を探ろうとする。

 

 

「……突然の狂乱。アインズ様は大丈夫でしょうか?もしや何者かの精神攻撃によるダメージがッ!?」

 

「あ゛っ~、大丈夫だデミウルゴス。

暫くしたらきっと落ち着くから。アレも彼の弱さの一つだから、優しく受け入れてあげてくれ」

 

「おおっ、そうでしたかっ!」

 

 

 明後日の方向に勘違いして、動き出そうとしたデミウルゴスを阻止するイチグン。

 

 デミウルゴスは素直にその忠告を受け入れ、アインズでも人を羨んで妬み、子供染みた癇癪を起すのだと理解した。

 

 より身近な存在になったアインズに親しみを覚えながらも、それをさり気無く教えてくれたイチグンに対し、更なる忠誠心が湧き上がる。

 

 

 デミウルゴスという悪魔は、敵対者にとってはこれ以上ない程に狡猾で邪悪な存在であるが、一度味方だと判断した相手には友好的であり協力的である。

 

 そしてイチグンはそんな悪魔の選考基準を、これ以上無いほどの最高水準で満たしていた。

 

 だからこそ彼は、イチグンの助言を受けて急成長する。

 

 主の意に反した容赦のない策を弄する残酷な悪魔ではなく。主の意を汲み取った上で、最高の策を献上する有智高才の参謀に。

 

 

 こうして二人のプレイヤーの下らないやり取りにより、ナザリックは人知れず強化されていくのであった。

 

 




 
 
・本編で語られることのない裏設定

Q1.現地で相当な実力者であるはずのニグンさんが、2回のデスペナでLv1とか可笑しくない?


A1.蘇生魔法は肉体ではなく、魂にかけると原作では語られている。

イチグンはニグンと軍馬の二つの魂が混ざり合った状態なので、二重でペナルティが発生しております。

そして鉄級以下の冒険者(強い村人ぐらい)では蘇生魔法に耐えれないというイビルアイの話を基に、Lv6(エンリ)程度のレベルダウンが発生していると仮定。

つまり6×2×2でLv24のデスぺナが発生。

階位魔法7レベル刻み説を採用するなら、第4位階魔法を使えるニグンは少なくともLv22~Lv28ということになる。

ニグンは難度90(Lv30程度)のラキュースに敗走したという経験もありますので、当小説ではニグンはLv25程度だったと仮定します。

故にLv25-Lv24=Lv1となります。

……イチグンはあと一回死んでたら、灰になって消滅しておりました。

そして魂が二つ混在しているということで、経験値も実は2倍入っているという仕様。

ニートの恩恵もあり、彼は4倍の経験値を手に入れているのです。……代わりにレベルアップに必要な経験値も2倍になっておりますが(意味無)



Q2.【狂戦士】(バーサーカー)を引き当てたのは、そんなに運が良かったの?

A2.【狂戦士】(バーサーカー)【自宅警備員】(ニート)で引き当てることの出来る確率は、課金ガチャで『流れ星の指輪』(シューティングスター)を引き当てるよりも遥かに低い確率です。

数多の職業がある中で、そんな激レア職を1発で引き当てたから、アインズさんも発狂しました。



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