ガンダムブレイカー3 on New ~英雄たちの自由~   作:鷹峯アオイ

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1・それぞれの未来へ

「……ものである。……どう? なかなか良くない? ガンプラバトルの歴史も振り返りつつ、模型店の必要性を説いたこの序文。結構自信あるんだけど」

とある大学のカフェ。手元の文章を読み終わり、茶髪の少女ミサは目の前に座る黒髪の青年アラタの目をまっすぐ見つめた。その目は自信に満ちていて、心なしか前のめりになる。アラタは、その目を見て何とも言えなくなくなってしまう。

「……いいのか? 言いたいこと言って」

「どうぞ。どんな意見でも受け止めるよ」

ミサは胸を張る。自信満々といった表情に申し訳なさを感じながらも、アラタはひとつため息をついた。

「じゃあはっきり言うぞ。微妙だからな。その序文の出来」

「えっ……?」

ミサの自信にあふれた表情が揺らぐ。アラタは、机の上からレポートを取るとミサのことは見ずに次々と言葉を並べ立てた。

「まず、ところどころに口語的ともとれる表現が混ざってる。ほとんど文語体だから悪い意味で浮く」

「うっ」ミサが言葉を詰まらせる。アラタは構わず続けた。

「あと、そもそも若干話の持っていき方に無理がある。論理が飛躍しすぎている感じがする。ガンプラバトルの歴史を振り返り、これからの未来を考えていくような内容だったらともかく、このテーマでこの序文はちょっと無茶。あと、これはちょっと個人的な見解だけど」

「なに?」

「自分たちのこと『英雄』だなんて普通書くか? ウィルやロボ太も含めて名前は一切書いてないけどさ、これ俺たちのことだろ」

ミサが体をのけぞらせる。若干冷や汗をかいている所を見ると、書いているときに彼女自身もうっすらそのことは気づいていたのだろう。……もっとも、自分たちは5年前のあの事件が終わり日本に帰ってきたとき確かに「英雄」と呼ばれたのだが。

ミサは言葉をやっとやっとで出し続けている。なんだか申し訳ない。が、これも現実だ。

「ぐっ……総合評価は……?」

アラタは残念そうに目を伏せながらもはっきりと言い放った。「まぁ、レポートの序文としてはいささか評価が分かれるものだろうな」

その言葉を聞き、がっくりと机に突っ伏すミサ。そんな彼女にレポートの草稿を返してやり、アラタは自分のパソコンの近くに置いてあったコーヒーを一口すすった。せめてもの慰めの言葉をかけようとする。が、あまりいい言葉も思い浮かばない。批評ならあんなにさっくりとできたのに、と自分の思考の不思議さに少しだけ思いを巡らせながら、アラタは自分のすぐ目の前にいる女子のつむじを見つめた。

「まぁ、読んでいる側にしたらタイムリーで興味が引かれる話題を使ってるから、最初の導入や話題提示としては使えんじゃないの? 教授によって好き嫌い分かれるだろうけど」

ミサは倒れたまま。あまり慰めにはならなかったらしい。アラタ自身も、あまり慰めることができた感じはしなかった。ミサのお粗末なレポートと自分の口下手さに、アラタは二度目のため息をついた。

 「あーもう! なんでこんなにレポートってめんどくさいの! もっとフランクに書いてもいいじゃん!」

「俺にあたるな。だいたい、俺が理系だって知ってるだろ。文系のミサのレポートそんなに添削できんよ」

「理系は論文第一なんでしょ!?」

「……まぁ、文系よりはそうだろうけど。あと、ここカフェだから静かにな」

ミサはふくれっ面のまま手元に置いていたカフェラテを一気にストローで飲んでいく。

「キミ、ここ最近カドマツに口調似てきたよね」

「そうか? まぁ、あの人はバリバリの理系だろうしな。てか、あの人今何やってるんだ」

「めでたくハイムロボティクストイボット部門の開発主任に昇進だってさ。モチヅキさんとも交際始めたらしいよ」

「マジか。いいのかよ、佐成メカニクスはハイムのライバル社だろ?」

「男女の愛の前には会社のライバル関係なんて些細なことなんじゃないの?」

「そういうものかね」

 ラテを机に置き、どこか上の空のような雰囲気になるミサ。その目は、今は遠くになってしまった何かを見ているようなものだった。

「あの頃は楽しかったね。特に何かを意識するわけでもなく、毎日遊んだり一緒に勉強したり。次の試合の作戦をチームで話し合ったり、一緒にガンプラを作ったり……」

5年前、アラタと共に世界大会を制覇した少女は懐かしい日々に思いをはせる。懐かしさとともに、今は傍にいない仲間のことを思うと悲しさや寂しさも湧いてくるのだった。

「キミがいて、ロボ太がいて、カドマツがいて……。ウィルがいて、モチヅキさんがいて、インフォちゃんがいて、イラト婆ちゃんがいて……。みんながあそこにいた。あの、騒がしくも楽しい日常に。今は、いない人たちもいた」

アラタは、その言葉に対してかける言葉を見つけられずにいた。ただ、苦し紛れのような調子で「……いなくなった人たちを想ったところで、その人たちやあの日々が戻ってくるわけじゃない」とだけこぼした。

言い終わってから、アラタは自分の言葉の無神経さに落胆した。何か別のことを言わなければ。そうは思っていても、何と言えばいいのか分からない。何も言えず、ただパソコンの画面を見続けることしかできないアラタを見て、ミサは少しだけ笑みを浮かべた。

「そうだね。キミの言う通りかもね」

ミサは笑いながらカフェラテを飲み切る。笑ってはいても、どこか無理のある笑顔のようにもアラタには見えた。

「しかし、イラト婆ちゃんもいなくなっちゃうなんてね。わたしたちが大学合格を報告しに行った日の翌日にポックリだもん。わたしたちの未来を見届けようと待ってたのかな」

「最後まで口うるさい婆さんだったよ。俺たちの未来を見るってんならもう数年長生きしてもいいだろうに」アラタも軽く笑って応じた。

「もう、あれから五年なんだよね」

「あれって……」

「ロボ太が、どこかへ行っちゃった日から」

「あぁ……。そう、だな」

なんとなく、しんみりした空気が戻ってくる。五年前、宇宙のどこかへと消えてしまったもう一人の仲間を、いまだ彼らは取り戻せずにいた。そのことは、彼らの心にいまだ深い傷の様なものを残していたのだった。

 ミサがもう一度笑顔を作る。

「みんな変わってる。彩渡商店街は昔みたいな活気に戻ったし、カドマツとモチヅキさんは付き合い始めたし。……悔しいけど、カマセの奴もハイムの専属ファイターになったし。ウィルのタイムズユニバースと商店街も友好関係になったし、ツキミ君とミソラちゃんも鹿児島ロケットに就職できた」

ミサは、空になったカフェラテのカップを見つめる。底に残ったカフェラテとカップの底の模様がまるで目のようになって、自分たちをじっと見つめているように見えた。

「みんな、未来に向かって進んでるんだよね。ロボ太達が託してくれた未来に向かって」

アラタは「あぁ。そうだな」と頷いてみせる。さっきと同じ言葉だったが、口調がわずかに変わるのが自分でも感じ取れた。

 不意に、ミサから自分へとむけられる視線が妙に冷たいことにアラタは気づく。ため息でもつきそうな勢いだった。

「なんだよその目は。『それに引き換えわたしたちは……』みたいな表情してさ」

ミサは表情を変えて軽く膨れる。ツーンと、あからさまにアラタに対してそっぽを向いてみせた。

「なんでもないっ」

立ち上がってカップを捨てに行くミサの後ろ姿に、アラタは声をかける。「なぁ、ミサ」

「……なに?」ミサが振り返る。5年前はツインテールにしていた茶髪を下ろしロングのストレートにした彼女の姿は、アラタの記憶の中にある彼女の姿よりずっと大人に見えた。

「今日、帰り一緒に……」

ミサの表情がうっすらとだけ赤らむ。その先に続く言葉を待っているようだった。

「今日さ、帰りに一緒にイラトゲームセンター寄っていかないか? 久しぶりに二人でガンプラバトルやろうぜ」

その言葉を聞いて、ミサの顔が落胆したような、予想通りとでもいうような、けどどこか楽しそうな、そんな複雑な表情を浮かべる。

 しかしすぐに気持ちを切り替え、アラタに仄かな恋心を抱く少女は5年前から変わらない無邪気な笑みを見せるのだった。

「いいよ。久しぶりに暴れよっか」

ミサはカップをゴミ箱に放り込み、大きく伸びをする。「よーし! じゃ、帰り楽しむためにも午後の講義頑張りますか!」

そう言ってアラタに手を振りながら歩いていくミサを見送りながら、アラタは――かつて「英雄」とまで呼ばれたほどの世界最高のガンプラファイターの一人は――自分へ寄せられた恋心に返事をできずにいる、自分の意気地なさを疎ましく思うのだった。

 

 

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登場人物及び機体紹介

 

今回はオリジナル主人公の紹介です。ミサはほぼ五年前のままだと思ってください。髪は降ろしましたが。

 

ホリエ・アラタ(通称アラタ・漢字表記は堀江新(多分))

22歳(大学3年)であり、彩渡商店街チームのメンバーかつ真のエース(今でもミサは自分のことをエースと名乗っていたり)。

覚醒使いであり、ガンプラの操縦技術は他の追随を許さないレベルのガンプラファイター。ガンプラ作製技術も、彩渡商店街チームの一員として活動していくうちにめきめきと腕を上げていった。

普段は比較的温厚な性格であり常識人ではあるが、少しばかりぶっきらぼうな話し方が目に付く。

五年前の事件後、ガンプラバトルシミュレータやアセンブルシステムの開発や発展に携わりたいと考える様になり情報工学部に進学した。ミサと同じ大学だったと知ったのは合格発表の日。

ミサが自分に恋心を寄せていることに気づいてはいるものの、どうにも返事を返しにくく宙ぶらりんのままになっている。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場する機体を好み、そこに登場する機体をカスタマイズしたガンプラを愛用する。バトル中はその機体のせいもあって若干荒々しいバトルスタイルになりがち。本人も自覚している。

ガンブレ学園のシステムは≪ガンダムバエル≫や≪ガンダムバルバトスルプスレクス≫、≪ガンダムキマリスヴィダール≫に対応していることを知り若干うらやましく思っている。

また、ミサの≪ガンダムアザレア≫に憧れにも似た強い思い入れを抱いており、アザレアのパーツ構成を一部まねてくみ上げた≪ガンダムアザレアノクターン≫をサブとして所持しているが、初めて使用した際ミサに少し怒られたためめったに使っていない。

 

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