ガンダムブレイカー3 on New ~英雄たちの自由~ 作:鷹峯アオイ
夕暮れ。オレンジ色にうっすらと染まり始める空を眺めながら校門前で音楽を聞いていたアラタは、後ろからぼんやりと聞こえてくる声に振り返った。
「ごめーん。教授にちょっとだけ質問してた。待った?」
「いや、全然」
アラタは耳につけていたイヤホンを外しミサに向き直る。ミサが、イヤホンを指さして微笑んだ。
「それ、ずいぶん長く使ってるよね。キミの誕生日にわたしとカドマツでプレゼントしたやつでしょ。物持ちいいなぁ」
「大切に使ってるからな」
ミサがくれた、大切な思い出だから。アラタはその言葉を口には出さず、イヤホンと一緒にケースにしまい込んだ。
ミサは「イヤホンも幸せだろーねー」と笑いながらアラタの横に回る。彼女は、アラタの顔を横から覗き込んだ。
「ねぇ、さっき何聞いてたの? ガンダムソング?」
「Uruの『フリージア』」
アラタの返答を聞いてミサが歌いだす。「きーぼ―のーはな―♪ つーなーいーだーきずーなが―♪」
アラタもそれに続く。「いーま―ぼくらの―♪ むねの―なか―♪ にある―から―♪」
「いい曲だよね。一時期ネットで大暴れしてたけど。『止まるんじゃ』」
「やめてくれ。俺は純粋な気持ちでこの曲を聞きたいんだ。ネットとか、ネタワードとか、そういうこととこの曲は関係ないはずなんだ……!」
ミサが面白がるように笑う。アラタも、それに一瞬むくれながらも、すぐにつられて笑った。お互いに笑いながら歩くという、はたから見ればカップルか何かにしか見えない光景だったが、彼ら自身特に意識してはいなかった。
「なぁ、好きなガンダムソングってなんだ?」
アラタが訊く。ミサは少し悩んだ様子を見せ、すぐに顔を上げた。
「んー、『ニブンノイチ』とかかなぁ。後は、『Diver’s High』とか」
「ビルドファイターズシリーズの曲か。SEEDシリーズの機体をベースにしたガンプラ使ってるのに、あんまりSEEDは見てこなかったのか?」
ミサはうーん、と唸ってしまう。「SEEDね。別に嫌いではないし、全話見たし、機体も好きなんだけどね。ただ、イケメン男子同士の絡みという点で考えると00の方が好きかな!」
「……そうですか」
アラタはどう反応していいか分からず愛想笑いを浮かべることしかできない。自分が訊いたのに随分と失礼な反応だよな、と思いつつもどうしたらいいか見当もつかない。一瞬、ミサの頭の上に「腐女子」という単語を見た気がしたが、何も言わないでおくことにした。
突然、ミサの顔色が変わった。少し真剣な表情でアラタの目に視線を合わせる。
「ねぇ、ガンブレ学園のことどう思う?」
アラタはその視線の変化に気が付き、釣られて少しだけ固い顔でミサを見る。
「どう思うって言われてもな……。ガンブレ学園って確かあれだろ、学園都市計画の一環で2、3年前に設立されたっていう……」
私立ガンブレ学園。その名前だけなら、アラタも所々で目にしてはいた。
――5年前に起きた2度に渡る軌道エレベーターでの事件。それらを防いだガンプラバトルの人気が沸騰していくにつれて、日本のモノづくり産業に大きな注目が集まることになった。その影響を受けて、日本における芸術系学部と工業系学部の要素を併せ持った新学部の設立を求める声が高まっていった。
そこで、ちょうどそのころ取りざたされていた学園都市計画にこの学部を組み込み、新たな産業発展の礎にしようという話が持ち上がった。
政界も学園都市計画にはやぶさかではない反応を見せていたため、この学園は私立としては破格の補助金を国から得て設立されることとなった。
学園の名は、私立ガンブレ学園。ガンプラにまつわる技術を磨き、そこから日本の工業や芸術を担う人材を輩出しようというものだった。
ガンブレ学園というとガンプラばかりやっていそうなイメージが付きまとうが、実際は通常授業もきちんと行われるうえに、単なる模型製作技術にとどまらない多岐な専門技術を教え込まれる学園として学園は設立されていった。
独創的なものを生み出すセンス。そしてそれらを支える立体工作の技術に塗装技術。アセンブルシステムを支える情報工学までもを生徒に教え込むガンブレ学園は、まさに設立の目的通り「工学部と芸術学部の融合学部」としての地位を確立していた。
「……って感じだよな」
言い終わり、アラタはひとつ息をついた。ミサが何とも言えない笑顔を見せている。
「長文乙!」
「ミサが訊いたんだろが!」
ミサは舌を出してへぺろとやってみせる。ミサとしては、まさかアラタがここまで語ってくるとは思っていなかったのだが。
アラタは軽くため息をつく。ミサはこの5年でヲタ女子化が進んだ気がする。それが良いことなのか悪いことなのかは別にして。
アラタは前を向く。気づけば目的地のかなり近くまで来ていた。
「それで、そのガンブレ学園がどうかしたか? どう思うって言われても、工学の幅広い知識をガンプラ通して学んでいくってんなら別に構いやしないと俺個人は思ってる。授業料はバカ高そうだが」
ミサは少しだけ笑顔に影を落とし、「うん、そうだね……」とだけ呟いた。その落とされた影の理由を、アラタはとても尋ねることはできなかった。
「いらっしゃいませ。イラトゲームパーク改めアヤトゲームセンターへようこそ。ミサさん、アラタさん、お久しぶりです」
「インフォちゃん久しぶりー! 元気してる?」
「はい。今日もマスターから引き継いだ店長業務を頑張っています」
彩渡商店街唯一のゲームセンター、イラトゲームパークはいつの間にやらアヤトゲームセンターへと名前が変わっていた。店主であったイラトが逝去したことと、この辺りにゲームセンターが他にないことからのネーミングなのだろうが、少しだけ寂しい気分にアラタはなった。
5年前、この店でワークボットとして働いていたインフォは、イラトの死後店長となってこの店の経営を切り盛りしていた。
仮にもワークボットである彼女(?)が店長となるのは極めて異例のことであったが、イラト本人がそれを希望していたこと、そして何よりワークボットをはじめとしたロボットの社会的地位の向上がそれを支えていた。
「5年前、ロボ太さんが皆さんと共に彩渡商店街チームとして世界大会制覇目前までたどり着き、軌道エレベーターの危機も救ったことで私たちロボットの地位は向上しました。皆さんがどう呼ばれているのかは私には存じ上げませんが、私たちロボットにとってロボ太さんは紛れもない『英雄』なのです」……とはインフォ本人の弁である。
その英雄は、今一体どこにいるのだろうか。何を感じて、宇宙をさまよっているのだろうか。不意にそんなことを考え出し、アラタはゲームセンターの天井を見つめるのであった。
そんな彼の姿を、彼に恋する少女はじっと見つめる。そして、そんな彼女の姿もまた、インフォにばっちりと見られていた。
「ミサさん、もしや青春中ですか」
「もうずいぶん前から青春してると思うけど……」
「ロボットでよければ相談に乗りますよ。大丈夫です。モチヅキさんでもカドマツさんとお付き合いしていると聞きました。胸はなくても恋はできます」
「……今何か言ったかインフォ」
「いえ。ただ、どんなコンプレックスがあっても恋愛はできると申しました」
「てめぇ―! わたしが大学生になっても貧乳だって言いてぇのか! あれから5年、多少は実ってんだよ! 残念だったね!」
インフォにつかみかからんばかりになり、次いでなぜか妙に威張るミサ。どこまでも飄々としているインフォ。そんな彼女たちの不毛な言い争いを見ながらアラタは「何やってんだ、あいつら……?」と、どこか他人事のような調子でつぶやいた。
と、アラタの後ろでガンプラバトルシミュレータが音を立てた。バトル終了の合図だ。
ゲームセンターに入った時にはシミュレータは全機稼働中であったので、空くのを待っていたアラタは、そこから出てきた少年と青年を見て一瞬戸惑った。
少年は、泣いていた。大粒の涙をぼろぼろとこぼし、手には何かを握っている。ぶつぶつと何かを呟き、意識そこになしといった状態だった。
反対に、もう一方のシミュレータから出てきた青年は底意地の悪い、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
咄嗟に、泣きじゃくる少年に駆け寄る。ポケットからハンカチを出していた。
「君、大丈夫か? いったい何があった?」
「あ、アラタ兄ちゃん。俺の、俺のガンプラが……。俺のヘビーガンダムが……」
よく見ると、5年前からよくこのゲーセンに通っていた少年だった。あの頃も彩渡商店街チームの戦いをよく見てたよな……と、アラタは妙に冷静な頭で思い出す。
少年の手をのぞき込む。そこにあったのは、見るも無残に破壊されたガンプラだった。数々の重装系ガンダムのパーツをミキシングして構成されたガンプラが、装甲はおろか関節という関節が砕かれ再起不能な状態に陥っている。あまりに悲惨な状況に、アラタは二の句を告げなくなってしまった。
異変を察したミサがインフォに絡むのをやめて二人のもとに駆け寄る。ミサも、そこにあったガンプラの亡骸を見て言葉を失った。
少年はやっとやっとのような形で口を動かし続ける。
「いつもみたいに、ガンプラバトルやってたら、あそこにいる奴に、いきなり、対人戦挑まれて……。筐体も、ステージも、レギュレーションも、全部あいつに指定されて、挑んだら、変なステージで戦わされて……。負けてガンプラが帰ってきたら、こんなになってたんだ……」
周りを見渡すと、施設の隅で少年が泣いておりインフォちゃんが必死に慰めていた。「あの子も?」とアラタが尋ねると少年は泣きながら頷き「同じような形で、やられたんだ」とこぼした。
立ち上がり、アラタは青年に食ってかかる。
「なぁ、あんた。あの子と何をした」
青年は不敵な笑みを浮かべる。背丈や顔つきなどを見る限り、自分と同じくらい、つまり大学生ぐらいか……とアラタは感じた。
「何って、ガンプラバトルをしただけさ。ほかに何がある」
「嘘を言え。ガンプラバトルシミュレータで行われるガンプラバトルで自機が実際に破壊されるはずがないだろう」
「……あるんだよ。そういうレギュレーションが」
アラタは、自分の耳を疑った。だが、すぐに状況を理解するとインフォに声をかける。
「インフォちゃん、どういうことだ」
「一年ほど前でしょうか。試験的に新たなガンプラバトルレギュレーションが導入されたのです。通称「ブレイクバトルモード」と呼ばれるこのモードは、シミュレータ本体の改造も行わなければならない仕様でしたので、この施設では全12機中2基でしか導入しておりません」
そこまで言われてアラタは思い出す。少年が「筐体も相手に指定された」と言っていたことを。おそらく、そのブレイクバトルモードとやらが実装されている筐体を使わせたのだろう。アラタ自身には、どのマシンがそのモードを実装しているのか見分けることはできなかったが、この青年には見分ける方法が分かっているのだろうか。
「インフォちゃん、そのブレイクバトルモード? って……」
「私立ガンブレ学園の生徒の一人によって提案されたレギュレーションであると聞いています。『実際に自分のガンプラを動かして戦っているのだ』という実感をプレイヤー側により強く植え付けるために作られたと」
インフォは続ける。彼女に搭載された人格プログラム及び感情模倣プログラムの恩恵で人間に近いイントネーション、つまり彼女の声のもととなった声優の話す調子にはなっているが、それでも拭いきれない無機質感がどこかうすら寒いものをアラタやミサに植え付けた。
「このブレイクバトルモードを選択した状態でバトルに参加し、バトル時に耐久力がゼロになる……つまり撃破されると、シミュレータ内部に増設されたマジックアームなどによってそのガンプラが再使用不可能なレベルまでに破壊される。そう言ったシステムとなっているようです」
「ようですって……。このシミュレータを導入したのはインフォちゃんでしょ?」
インフォは首を横に振る。「いえ。手続き上、このゲームセンター経営に関するいくつかの権限は私ではなく、彩渡商店街全体を統括するシマムラ・セイイチ氏に譲渡されています。この新型シミュレータの導入に決定の印を押したのも私ではなくシマムラ氏です」
つまり、インフォが普段はこうして店長としてこのゲームセンターを経営してはいるものの、書類上の店長ないしは経営責任者はそのシマムラとかいう人物になっていることになる。そうだとすれば、新筐体の導入やメンテナンスの要請もインフォではなくシマムラの口から行われるということだ。
アラタはその事実に愕然としたものを感じていた。ロボットの地位が向上したとはいえ、実質的には未だにロボットは人間の下にしかいられないというのか。ロボットはロボットであり、人間に仕えることしか許されない存在なのだろうか。
違うと思いたかった。少なくとも彼は、5年前自分と共に世界で戦ったあの勇敢なラクロアの勇者は自分たちと対等な位置にいたはずだった。
しかし、それはあくまで主観的な思いに過ぎない。この考えも、思い出というフィルターをかけられて記憶という形で編集を行われた自分の頭の中に残る情報から導かれるものだ。対等と思っていても、心のどこかでは彼を見下していたのかもしれない。それを想うと、アラタは人間がロボットに抱いてしまう意識というものに嫌悪感を抱かずにはいられなかった。そして、人間の可能性を信じきれない自分自身にも。
ミサが少年を慰めながらも強い目つきで青年をにらみつける。その目には少しの迷いもなかった。
「許せない! こんな方法でこの子たちが大事にしていたガンプラ(思い出)を砕いてしまうなんて……」
青年は歪みかけた笑顔を崩さない。ミサの視線にも全く怯んではいなかった。
「そいつらのガンプラがそうなったのはそいつらが弱かったからだ。強ければ失わなかった。思い出を守れなかったのは、そいつらが愚図だったからだ」
「なんだそれは……。ガンプラバトルが実際の戦いだとでも言いたいのか」
アラタの言葉に青年は微笑で返す。言葉はなくとも、それが肯定のサインだと感じ取れた。
アラタの頭にカッとした何かが上っていく。気づけば、言葉を荒げていた。
「違う! あれは戦いなんかじゃない。ガンプラバトルだ。あれは、ゲームであって遊びなんだ。遊びだからこそ、本気になれる。失敗や敗北を恐れず全力で挑戦できるんだ。そこに、お前の戦いを持ち込むな!」
「あんたの言ってることこそちげぇんだよ。あれは、ゲームでもなければ遊びでもねぇ。何か大切なものをかけた戦いなんだ。強い方が正義になる。負けたやつは弱者であり悪になるんだ。それを5年前証明したのは、他でもないあんたらだ。違うか? 『英雄』、アラタにミサさんよ……?」
あんたらがやったのは、軌道エレベーターっつう人類の希望を守るための、敗北の許されない戦いだった……。青年の言葉に、アラタもミサを二の句を告げなくなっていた。
「……それが、ガンブレ学園のスタイルなのか」
絞りだしたアツヤの言葉にミサが反応する。
「え? ガンブレ学園って、どういう……」
アツヤはゆっくりと手を持ち上げて青年の身に着けていたポーチを指さす。そこには、ポーチに縫い付けられたエンブレムがあった。
「そのエンブレムはガンブレ学園のものだ。何回かニュースで見たことあったから覚えてたよ。お前、あそこの卒業生だろう」
青年が「そういうことだ」と応じる。相変わらずの、余裕のある笑みだった。
「ミサ、さっきガンブレ学園について尋ねてきたのはこういうことか?」
ミサが少し言いにくそうに口を開く。「……うん」
「3年前にガンブレ学園が設立されて、今年からその卒業生が大学に少しづつだけど進学してるの。で、一部の卒業生があちらこちらの大学でガンプラバトル部に押し入ってめちゃめちゃにしてるって……」
「後輩から聞いたけど、今の生徒会はいい仕事しているようだ。オレが卒業した時の生徒会は腑抜けきってたからな。あんなのが上にいたんじゃ、生徒のレベルも下がっちまう。強いガンプラファイターは、あの環境じゃ生まれねぇよ」
大ぶりなしぐさで、アラタたちを挑発するように言葉を並べ立てる青年。二人の怒りが、最高潮に達しようとしていた。
「……強いガンプラファイターになろうとするのも、ユニークなガンプラを作ろうとするのも自由だ。さっきのお前の言葉を思い返せば、ガンプラバトルを戦いととらえるお前の考え方も一つのガンプラバトルの形なんだろうと思える。そういう意味では、お前の考え方を俺は否定はできない。……一般論ならな」
アラタは少しだけ下を向いていた顔を前に向ける。上っていたカッとした何かは、すでに頭だけでなく全身を駆け巡っていた。
「だが、俺個人の感情論なら別だ。お前のガンプラバトルを、俺は到底認められない。お前の戦いや正義は、俺の正義とは決して相容れないものだろうからな」
青年はアラタの目を見返す。相変わらずどこか余力のありそうな目だったが、少しだけ本気になったようにも見えた。
「じゃあどうする?」
「正義と正義のぶつかり合い。それが戦争であって、ガンダムで描かれてきたテーマのはずだ」
アラタは毅然と言い放った。
「だから、俺はお前と戦う。強い方が正義……なんだろう? どっちが正義か決めようじゃないか。お前に、ガンプラバトルを申し込む」
青年はフッと笑った。
「いいぜ。なら、チーム戦と行こうか。かつての英雄、彩渡商店街チームの戦いを見せてもらうぜ」
隣にいたミサを見る。「ミサ、悪いけど一緒にやってくれないか」
「水臭いな。わたしだって怒ってるんだから。久しぶりに、わたしたちの連携を見せちゃおう!」
そこまで言って頷いたミサだったが、「あ、ただ……」と言葉をつなげた。
「いまわたしのガンプラないよ。アラタもまさか持ってきてないでしょ?」
アラタはしぶしぶ首を縦に振る。もともとレンタル機体でバトルをするつもりだったのだ。こんなことになるとはまさか予想していなかったから。
そんな二人に、それまでの会話を泣きながら聞いていた少年たちが声をかけた。
「ミサ姉ちゃん、アラタ兄ちゃん、おれたちが二人のガンプラ取ってくるよ。ミサ姉ちゃんの模型屋にあるんでしょ? ≪ガンダムグシオンリビルド≫と≪ガンダムアザレアリバイブ≫……だよね? 軌道エレベーターで戦った機体」
「ホント? とってきてくれるの?」
少年はうなずく。涙をぬぐったその目は、少しだけ燃えていたようにミサには思えた。
「うん。その代わり……」
「分かってる。この戦い無事に買って、みんなのガンプラ直すの手伝うから」
ミサに言葉を取られ、若干やるせないアラタだったが、少年二人の顔をしっかりと見つめた。
「頼む。えっと……」
「シュンヤだよ」
「コウだよ」
「頼んだ。シュンヤ、コウ。悪い。絶対に勝つから」
シュンヤとコウは大きく頷くとゲームセンターの外へと走り出していった。ミサが青年の方へと向き直る。
「って訳だから、少し待ってもらっていい?」
「構わないぜ。どっちにしろオレの仲間がつくまで時間はかかる。それまでは、お互い作戦タイムと行こうぜ。ただし」
「ただし?」アラタが訊き返したのに対して、青年はシミュレータ二機を指さした。
「お前らはあの筐体でバトルしてもらう。ステージ選択などもこちらでやらせてもらうぜ」
「……いいよ」ミサが硬い表情のまま了承する。ミサもアラタも、その選択された筐体がブレイクバトルモード対応の筐体なのだろうと勘付いていた。
このゲームセンターにあるブレイクバトルモード対応シミュレータは二機だけ。つまり、こちらは自機破壊のリスクがあるが相手はそれがないということだ。ステージ選択やレギュレーション選択もあちらで行われるということは、すでにこの時点で相手側に大きなアドバンテージを持たせていることになる。
とはいえ、こちら側からバトルを申し込んだ以上ここでそれを断ってしまっては何の意味もない。二人とも、そう考えたからこそ黙ってこの不条理を受け入れた。その理屈以上に、「自分たちがこんな奴らに負けてたまるか」という、半ば危険ともいえる元世界王者としての意地とプライドと自負があった。
アラタとミサにとって、およそ五年ぶりのガンプラバトルが幕を開けようとしていた。
システムに光がともる。スピーカーから「ガンプラバトルシミュレーションシステム、スタートアップ!」と人工音声が無駄に陽気な調子で声を上げた。
「イニシャライズィングタスク、コンプリーティッド。スキャニングシステム、オールグリーン。プリペアリングタスク、スタート! プリーズ、セットュアガンプラ!」
システムの音声ガイドに従い、操縦スティックの中央に配置された台にアラタは自分のガンプラ、≪ガンダムグシオンリビルド≫を置いた。
台座が奥へと下がっていき、≪ガンダムグシオンリビルド≫がシミュレータ本体に収納されていく。なるほど、これで撃破されればこの中でガンプラが破壊されるというわけだ、とアラタは納得していた。
「プリーズ、ウェアザVRグラス!」
指示に従い、手元に置いてあったVRグラスを身に着ける。二年ほど前にガンプラバトルシミュレータが大幅な仕様変更を行い、VRを利用した物へと変わったのだという。しかも、脳に信号を送っていくタイプのものだ。今は入力のみで出力はできないが。
全く、技術は次々と進化していくものだ。「ガンダムビルドダイバーズ」に登場する「ガンプラバトルネクサスオンライン」のようなものが出来上がるのも、そう遠い未来ではないのかもしれない。アラタは、こんな状況にも関わらず少しだけ笑っていた。
VRグラスが起動し、目の前が一気に明るくなる。
「ヴィジュアル、ヒアリング、オールグリーン。コントロールシステム、オールグリーン。プリーズ、セレクトラングェイジ」
「ジャパニーズ」
「OK.……ようこそ、ガンプラバトルシミュレータへ。これより、VRハンガーへと移動します」
目の前の世界が色づき始め、気づいたときには目の前に≪ガンダムグシオンリビルド≫がいた。VRハンガーも、5年前は随分とチープなものだったのによくもまぁここまで進化したものだ。あの時は三人称視点のものだったが、今はここまで一人称視点である。……もっとも、自分の操作は未だに二本のスティックだが。これからの技術発展に期待である。いや、待てよ? 俺がその発展に貢献しようとしてるのか。
そんなことをアラタは考えつつ操作感を確認する。すると、目の前に「メッセージが届きました」と通知が出た。
メッセージを開けると、ルーム番号が記されていた。恐らく、ここで戦うという意味なのだろう。マルチプレイの筐体を操作しルーム番号を入力する。ルームの画面が開き、チームが振り分けられた。あちらが指定したのだろう。アラタとミサは同じチームになっていた。
チーム内通信が自動で開き、ミサの声が「あー、あー、通信テスト中。アラタ、聞こえる―?」と流れてきた。流れてきたというより、頭の中に直接響いてくるといった感じに近い。ニュータイプか何かにでもなった気分である。
アラタは「えー、本日快晴にけり」と半分冗談で返す。ミサが「うん、大丈夫そうだねー」と笑った。
「それじゃ、やりますか」
「あぁ。ハンディマッチだが仕方ない。ロボ太の分も張り切りますよ」
アラタが頷くと、ウィンドウに表示されるミサも頷く。システム音声が声を上げるとともに景色が一変し、モビルスーツのコックピットの中になった。鉄血機体を使用しているからなのかコックピット内のディスプレイが随分と小さい。これだったら内部フレームをいじって全天周モニターに換装しておくべきだったかもしれない。
「まぁ、こういうのも含めてバトルだからな」
ゆっくりと≪ガンダムグシオンリビルド≫が降下していく。カタパルトにセットされ、体が揺れる。シートも随分と性能がアップしている。
「それじゃ、行こう! ミサ、ガンダムアザレアリバイブ!」
「アラタ、ガンダムグシオンリビルド」
「「チーム彩渡商店街!」」
「いっきまーす!」
「出る!」
その掛け声とともに、ミサの≪ガンダムアザレアリバイブ≫とアラタの≪ガンダムグシオンリビルド≫が同時にカタパルトからはじき出される。
飛び出したその先には……二人の見たことのないステージが広がっていた。ぱっと見月面基地か何かのように見えるが、あちらこちらで火花のエフェクトが上がっている所を見るにただの基地ではない。そこかしこに塹壕か何かにも見えてくる施設跡が点在しており、戦略的な行動には重宝しそうなオブジェクトだった。
「何これ!? 見たことないステージだ……」
「ここまでやるか? これじゃこっちは完全アウェーだぞ」
未経験のステージにミサもアラタも戸惑いは隠せない。しかし、どんなステージでやるにしろやることは基本的には変わらない。敵を見つけ、叩く。その基本プロセスに持ち込むためにも、まずは索敵を行う必要があった。
アラタはスティックを素早く操作し≪ガンダムグシオンリビルド≫を通常モードから照準モードへと変形させる。高性能センサーが作動し、様々な情報――電磁波の流れまでも――を視野に直接投影し始めた。これもVRグラスの効果なのだろうか。以前はただ索敵能力強化と狙撃時のロックオン精度向上程度の効果しかなかったのに。阿頼耶識システムでグシオンリビルドと繋がっている気分になってくる。
しかし、これはこれで見づらくも感じる。多少のわずらわしさを感じながらも、アラタは網膜に直接投影されるように視界に次々と表示される情報に目を通す。
そして彼は見つけた。ある一点にわずかではあるが電磁波の揺らぎがあることを。
「そこか……!」
≪ガンダムグシオンリビルド≫を急上昇させ、射線の通る位置まで移動させる。120mmロングレンジライフルを構え、ライフルのスコープ型センサーと≪ガンダムグシオンリビルド≫の頭部センサーを接続させる。レティクルの中に敵プレイヤーの一機を捉えたのを確認すると、ゆっくりとトリガーを引き絞り始めた。
≪ガンダムグシオンリビルド≫のロングレンジライフルから放たれた、120mmのライフル弾は確かに敵の頭部を捉える……はずだった。トリガーを引ききる寸前、アラタは電磁波の揺らぎが一気に膨れ上がるのを感じた。
否、正確に言うのならば膨れ上がったのではない。ステージのあちらこちらで、同時多発的に揺らぎが発生したのだ。その異変を感じ取ったアラタは、センサーの連動を外し周りを見渡す。
ステージの様々な場所に、NPC機体がポップしていた。出現した機体自体は≪ジム・カスタム≫や≪ハイゴッグ≫など容易に制圧できそうな機体ばかりであったが、いかんせん数が多い。ステージ全体で50体近くはポップしていた。
ミサの近くにも≪ザクⅡ≫の集団がポップしミサに向かっているのを識(し)り、慌てて通信を開いた。
「ミサ、そっちに≪ザクⅡ≫が向かってる。結構数が多いが、大丈夫か?」
ミサはその声を聞きレーダーを見ると、確かにいくつもの機影がこちらに迫っていた。「危ない危ない。教えてくれてありがと」と軽く返すと≪ザクⅡ≫の群れに向かってミサは単身で突っ込んだ。と同時に、アラタの索敵能力に頼って自分でもそれをやるのを忘れていたことを反省するミサであった。
アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫の頭部を通常モードへと戻し辺りを見回す。あたりに機影はない。レーダーにも、特に反応はなかった。
ミサの援護に行くか……。そう思ったその時、ミサが「あれ、これって何だろう?」と呟いた。「コックピットのウィンドウ上部に、なんか変なカウントが出てる」との言葉に促されアラタは目の前のモニターを見る。確かに、謎のカウントが表示されていた。
タイムカウントか? と、アラタは一瞬思った。しかし、「0:0」と表示されているのはタイムカウントとしては何かおかしい。それに、タイムカウントは別に既に表示されている。
機体撃破数? とミサは思った。しかし、既に≪ザクⅡ≫を3体ほど撃破しているのにこの表示はおかしい。
二人が、「一体これはなんだ」と同時に感じた時。システム音声が突如鳴り響き、「クエストスタート! 第3勢力を20体破壊せよ! 繰り返す! クエストスタート! 第3勢力を20体破壊せよ!」と告げた。とともに、モニターの左上に「第3勢力を20体破壊せよ ☆☆ 3/20」とのメッセージウィンドウが表示される。
「な、何これ!? こんなの見たことないよ!? ていうか、さっきからザクとしかやりあってないけど、敵プレイヤーもいるんだよね!?」
ミサは、目の前の≪ザクⅡ≫に照準を合わせメガキャノンのトリガーを引きながら叫んだ。≪ガンダムアザレアリバイブ≫の腕に使われたパーツ、≪トールギスⅢ≫のメガキャノンから放たれた一条のビームが≪ザクⅡ≫の胴を貫き、爆散させる。その爆音に交じって、アラタの「あぁ。今確認した。やっぱりいる」という声が届いた。
つまり、こういう風にNPCガンプラと戦ってこのお題をクリアしながら敵プレイヤーも撃破してけってこと!? ちょっといくらなんでも難しくない!? 忙しいことこの上ないよ!? ミサは心の中で叫ぶ。その叫びはどうやら口にも出ていたようで、アラタが「そうだな。かなりきついレギュレーションだ……」と同意した。
ミサは≪ザクⅡ≫が集まっている1点めがけてハイパードッズライフルを撃ち放つ。ピンク色のねじれた光が≪ザクⅡ≫の群れを引き裂き、その体を爆発の光へと変えていった。
それを見ながら、ミサはアラタからの通信を受け取る。少しだけ逼迫していた。
「! ミサ、気を付けろ。そっちに…………る。俺も……ら、…………」
ひどくノイズの混じった通信。しまいには切れてしまった。それを訝しみながらもミサは≪ガンダムアザレアリバイブ≫を駆り、両手に構えたアロンダイトで≪ザクⅡ≫の胴体を両断した。
カウントが「10/20」へと変わる。後、半分。そう考えて一息ついたところで、ミサは今まで少しだけおざなりになっていた思考を再開させた。
さっきの通信カットはなんだろう。システムのエラー? いや、めったに起こることのないエラーがここで起こるとは考えにくい。だとしたら……。
ミサは思考を巡らす。――このガンプラバトルシミュレータは、結構リアルに作りこまれたゲームだ。実体弾はビームに当たればかき消されるし、ビームでもビームを当てれば相殺できる(だから、ガチでうまい人は敵のライフルの軌道を読んでビームサーベルで敵の弾を切り払ってみせる)。
そうなると、今の通信切れも単なるエラーとは考えにくい。むしろ、何かしらの要素でカットされたと考える方が妥当だ。
ガンダム作品で通信エラーを引き起こす要素と言えば、宇宙世紀もの共通のミノフスキー粒子、「機動戦士ガンダムSEED」のニュートロンジャマー、「機動戦士ガンダム00」のGN粒子、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」のエイハブ粒子……。
このうち、ニュートロンジャマーの可能性はまず除外してもいい。あれはモビルスーツに搭載できるような代物ではない。
とすれば残り3つのうちいずれか。どれも、やろうと思えばモビルスーツから散布・生成できる。つまり、敵機がわたしかアラタのどちらかに近づいているということ。
しかし、アラタにもし接近していたとしたら、アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫のセンサーでたちどころにそれを察知し戦闘に入るだろう。そうすれば、さっきの通信には戦闘音が多少なり混ざるはずだ。
それが、なかった。ということは、つまり。
その結論にミサが達したのとほぼ同時に、≪ガンダムアザレアリバイブ≫に何かが激突し、ミサは大きく揺さぶられた。
衝撃の走った方向へと機体を向ける。そこには、黒と赤で彩られた機体がいた。
独特のセンサー形状、各部に取り付けられた大型スラスター、フレームが一部むき出しになったその特徴的な装甲配置……「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場する、≪シュヴァルベ・グレイズ≫だった。
しかし、とミサは自分の認識を疑った。この機体がなぜここにいる、とも。なぜなら≪シュヴァルベ・グレイズ≫の機体データはガンプラバトルシミュレータには存在しないから。
ガンプラバトルシミュレータを使って行われるガンプラバトルでは、使用できる機体は「ガンプラバトルシミュレータのデータベースに登録されているガンプラのパーツを使ったもの」に限られる。それ以外、例えば≪リゼル≫のような対応していない機体や、スクラッチビルドで作り上げたオリジナル機体を使おうとしてもスキャン時にエラーを吐かれてしまう。例外として、MGでしか販売されていない機体や今となっては入手困難な機体などはスクラッチビルドで作り上げたものであってもデータベースに登録されてさえいれば使用できる。
しかし、≪シュヴァルベ・グレイズ≫はその例外には当てはまらない。だとすれば、これは……。
ミサは≪ガンダムアザレアリバイブ≫を慎重に後退させつつ相手の機体を探る。そして気づいた。よく見ると≪シュヴァルベ・グレイズ≫そのものとは若干違うところがあると。
胸部はガンダムフレーム機体をいじったものであるし、腰に取り付けられた大型ブースターは、よく見ると≪ガンダムTR-1 ヘイズル≫のシールド・ブースターだ。頭部に関してはおそらく≪ユニコーンガンダム≫を改造してそれらしく見せている。
つまり、いわゆる再現改造機体だ。ミサもその存在を聞いたことはあるが、実際見たのはこれが初めてであった。アラタは以前、≪ガザC≫を再現した機体を見たことがあったらしい。
しかし、これで相手の種はある程度は分かった。再現機体だとすれば、原作の機体に備わっている機能も一部程度しか発揮できまい。一気に肉迫して叩っ切ってやる。そう思っていた
だが、ここでミサは敵の力量を侮っていた。目の前にいる≪シュヴァルベ・グレイズ≫は原典とは違ってツインリアクターなのだ。無論、機体の性能は基本的にはそのガンプラの作りこみや出来の良さだ。が、同じ完成度であればエイハブ・リアクター1基よりは2基の方が出力が高いのは言うまでもない。
ミサが≪ガンダムアザレアリバイブ≫にアロンダイトを引き抜かせようとしたその瞬間、≪シュヴァルベ・グレイズ≫が動いた。手にしたランスユニットを構え、全身のスラスターというスラスターを一気に吹かして迫ってくる。
慌ててシールドを構えようとしたときには、すでに遅かった。ランスユニットが≪ガンダムアザレアリバイブ≫の腰に食い込み、一気に吹き飛ばされる。
吹っ飛んだミサは何とか≪ガンダムアザレアリバイブ≫の姿勢を安定させる。そして視線を上げると、そこにはランスユニットと一体化したライフルを構える≪シュヴァルベ・グレイズ≫の姿があった。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫のライフルが火を噴く。ショートバレルのライフルから放たれた十数発のライフル弾をミサはシールドで全て受け止めると、メガキャノンを構え迷いなくトリガーを引く。
まっすぐに≪シュヴァルベ・グレイズ≫に向かっていったビームは、しかし、その表面で拡散してすべて後方へと流れていった。流れたビームが地面や壁に衝突して派手な爆発を引き起こす。
その光景を見てミサはおもわず歯噛みした。……あの≪シュヴァルベ・グレイズ≫、かなりの作りこみだ。ナノラミネートアーマーの性能がしっかりと再現されてる。鏡面構造をした装甲に阻まれてビームが通じない。
もちろん、ナノラミネートアーマーとて連続でビームを食らい続ければ塗料が熱で剥離してダメージが通るようにはなる。しかし、そんなことをちんたらとやっている暇はない。ミサは≪ガンダムアザレアリバイブ≫のスロットルを全開にした。
バックパックの大型スラスター――≪スタークジェガン≫のものだ――とGNドライブがともに機体を押し上げ、瞬間的に空へと舞い上がる。
高所を取ったミサは、バックパックに増設したI.W.S.Pの大型レールキャノンを構える。
鉄血のオルフェンズに登場する機体たちも、レールガンやダインスレイヴでは破壊されたのだ。これをこの距離から叩き込めば……!
トリガーを押し込もうとしたとき、アラート音が響いた。後ろを確認すると、そこには敵プライヤー2機。仲間に合流された……! この時点で、すでに1対3だ。圧倒的な数的不利である。
それに注意を取られたミサは、視界の外から放たれたライフル弾に気づかなかった。3発が機体に連続して叩きこまれ、大きくよろめく。
そして、ミサは敵機の内の1体、こちらも赤と黒に彩られた≪GN-XⅢ≫がその手にGNビームサーベルを構え、振り上げるのを見た。
間に合わない。やられる……!
覚悟して目を思わずつぶろうとしたその時、目前の≪GN-XⅢ≫が轟音とともに大きく横に吹っ飛んだ。
合流してきた敵機のもう一人、赤と黒に塗装された≪サーペントカスタム≫も吹っ飛ばされる。
≪ガンダムアザレアリバイブ≫と≪シュヴァルベ・グレイズ≫が同時にその衝撃の発生源を見る。そこには、アラタの≪ガンダムグシオンリビルド≫がいた。≪ガンダムアザレアリバイブ≫にも搭載されている、I.W.S.Pのレールキャノンを構え、≪ガンダムフラウロス≫のように、あるいは≪ガンキャノン≫のように四つん這いになって発射している。当然のように、頭部は照準モードだ。
レールキャノンの砲口から弾丸が次々と放たれ、≪シュヴァルベ・グレイズ≫に襲い掛かる。すんでの所で躱していく≪シュヴァルベ・グレイズ≫は、≪ガンダムアザレアリバイブ≫から距離を取った。
それを見て、≪ガンダムグシオンリビルド≫が頭部を通常モードに変形させ一気に距離を詰めてくる。重武装機とは思えない機動力で接近していく≪ガンダムグシオンリビルド≫は、リアスカートにハルバードの代わりにマウントされたソードメイスを両手に構え、≪シュヴァルベ・グレイズ≫めがけて振り下ろした。
十分な速度の乗ったソードメイスの一撃は、それ自体の質量の大きさもあってステージの地面に大きなクレーターを穿った。メイスの攻撃自体は回避した≪シュヴァルベ・グレイズ≫だったが、巻き起こされた石の群れが襲い掛かり、ナノラミネートアーマーに衝突して鈍い音を立てた。
「外した……!」
少しだけ苦々しく吐き捨てたアラタは、自身が作ったクレーターを抉るように大きくソードメイスを振り上げた。再び石が巻き上げられ、目つぶし兼攻撃としてショットガンか何かのように放たれる。
ナノラミネートアーマーを搭載したモビルスーツと言えども、センサー部分までカバーしているわけではない。頭部パーツの耐久力が切れて頭部が外れてしまえば、ロックオン不能になるばかりか視界の大部分が失われる。
それは、上級者同士の戦いでは致命傷になる。それは敵としても避けたいだろうとアラタはにらんだ。きっと、防御か回避をするだろうと。そしてそれこそ、アラタの狙っていた敵の行動だった。
アラタの狙い通り、≪シュヴァルベ・グレイズ≫が腕部装甲で頭部パーツを守る。一瞬の間、≪シュヴァルベ・グレイズ≫の視界は自らの腕によって遮られた。その隙を、アラタが、≪ガンダムグシオンリビルド≫が見逃すはずもなかった。
「そうだ! それを、待っていたんだ!」
≪ガンダムグシオンリビルド≫のスラスターを全開にして噴射させ、一気に距離を詰める。操縦スティックを大きく倒し、ソードメイスを≪シュヴァルベ・グレイズ≫の腕に叩き込んだ。≪シュヴァルベ・グレイズ≫の腕部装甲がひしゃげ、腕ごとまとめて吹き飛んだ。パーツ外れだ。飛散させた石をもろに受け止め続けていたことで腕部パーツの耐久力は減っていた。だからこそ、ソードメイスの一撃でパーツアウトを引き起こせたのだ。
腕をもぎ取られた≪シュヴァルベ・グレイズ≫は、怯んだように大きく後退する。それを見て≪GN-XⅢ≫と≪サーペントカスタム≫が援護に駆け寄ったが、それらもアラタは120mmロングレンジライフルの連射で怯ませてみせた。≪GN-XⅢ≫の頭部と、≪サーペントカスタム≫の左腕が吹き飛ぶ。レールキャノンで一度狙い撃った部位を、もう一度正確に射撃して見せたのだ。
たまらず下がっていく敵チーム。それに合わせてアラタは武器を120mmロングレンジライフルへと持ち替え、素早く3連射した。もっとも、ろくに照準も合わせてはいないので当たるとは思っていなかったが。
案の定かすりもしない120mm弾だったが、別に当たらなくとも牽制になればそれでよかったので特に深追いはせずアラタは≪ガンダムアザレアリバイブ≫をかばうように≪ガンダムグシオンリビルド≫を立たせた。そのままGNシールドを≪ガンダムアザレアリバイブ≫の腕に当てて接触回線を開く。
「ミサ、無事か?」
簡素でシンプルな言葉。だが、それだけに素直に心配してくれていたことが分かって、ミサは少しだけほっこりとした気持ちを感じるのだった。
「……うん。耐久力2割くらい削られたけど、まだやられるようなものでもない」
「そうか。やられた機体を酷使するようで悪いが、クエスト達成に全力を注いでNPC機体を狩りまくってくれないか。敵プレイヤー3人は、俺がまとめて相手しておくから」
「え……? それ、アラタは大丈夫なの?」
ミサの問いかけに≪ガンダムグシオンリビルド≫がゆっくりと振り向く。心なしか、微笑んでいるようにミサは見えた。悪魔の名を冠したガンダムだというのに。
「心配するなって。別にガチでやりあう訳じゃない。適当に相手して足止めするだけさ。……そりゃあ、欲を言えば一人ぐらい倒してしまいたいが」
あまりに素直な欲の告白にミサは思わず吹き出してしまう。≪ガンダムアザレアリバイブ≫を立ち上がらせ、レーダーで第3勢力の位置を確認する。ステージの南東と東に集まっているのを確認したミサは、≪ガンダムアザレアリバイブ≫を一気に飛翔させた。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫たちがそれを追って飛ぼうとする。やはり、手負いを狙うか。アラタは「させるかぁっ!」と吠えると、ライフルを3連射、次いでソードメイスを≪シュヴァルベ・グレイズ≫めがけて投げつけた。
揺らぐ≪シュヴァルベ・グレイズ≫。それを見逃さず、アラタは敵チームとの距離を一気に詰めた。
その時だった。≪シュヴァルベ・グレイズ≫の腕にかすかに謎の光が走った。異変を感じ取ったアラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫に制動をかけ、身構える。≪シュヴァルベ・グレイズ≫が振り返った時、その右腕は≪ハイゴッグ≫のものとなっていた。
「なっ!?」
何が起こった、とアラタが叫ぶ暇もなく≪ガンダムグシオンリビルド≫の頭部が≪ハイゴッグ≫のものとなった≪シュヴァルベ・グレイズ≫の右腕につかまれる。ふさがれた視界に、黄色いビームの光がともり始めた。
ビームの光が爆ぜ、モニターが白に染まる。目を思わず覆ったアラタだったが、そもそもこれはVRグラスで脳に直接映像信号が送られている。手をスティックから外して顔を覆ったところで何の意味もない。
ビームの照射が止み、再びモニターが暗転する。だが、アラタの目は未だちかついていた。まったく、なんでこんな人間の目の面倒くさいところまで再現してしまうのか。アラタは開発者に文句を言いたくもなった。
幸い、パーツアウトは発生していない。だが、後2発ほどこれをやられればさすがに限界だろう。どうにか引きはがさなければ。
しかし、いったいこれはなんだ。なぜ≪シュヴァルベ・グレイズ≫の腕が≪ハイゴッグ≫になった。接触回線がとうに開いているのを確認し、アラタは苛立たしげに言葉を吐いた。
「おい、お前何をした。お前の機体の腕は外れてたはずだろう」
青年の声が届く。仲間内の通信ではないので顔は見ることはできないが、声だけでも十分その態度が伝わって来た。明らかに、面白がっていた。
「面白いだろう? リアルタイムカスタマイズっつってな。学園では設立当初からバトルシステムに搭載されてた代物さ。この筐体にも、アドオンを追加して対応させて見せたのよ」
「お前、それは……!」
「不正だとでも? それはちょいとお門違いですよ、『英雄』サン。あなたの筐体は学園が発案して作られたものだ。最初からこのシステムは導入されてる。条件はイーブンのはずだ」
アラタは明滅する目でモニターを見回す。よく見ると、メインモニター下部に「Stocking Parts」というウィンドウがあった。「換装」「破棄」の表示もある。
要するに。敵プレイヤーやNPC機体を撃破した時などにドロップするパーツを、ただ拾うだけでなくバトル中に好きなタイミングで換装して使えるようにするというシステムなのだろう。ある意味、データ上でのガンプラバトルだからこそできる荒業だ。
しかしそれは、他人或いはコンピュータが作ったパーツを無理やり奪って使用するということに他ならないのではないだろうか。アラタは、そこに考えが辿り着くとともに再びふつふつとした怒りが沸き上がるのを感じていた。スティックを握り締め、乱暴に吐き捨てる。
「そんな手で……俺に、触るな!」
怒りのままにアラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫の右手で≪ハイゴッグ≫の腕をつかんだ。そのまま力任せに引っ張り、引きはがそうと試みる。負荷がかかる頭部パーツがかすかに悲鳴を上げていた。
≪ハイゴッグ≫の腕故にクローは頭部パーツに食い込んでしまっている。だが、関節の強度も弱いしアクチュエーターのパワーも力不足感が否めない。何より、装甲の強度が足りていなかった。やはり、NPC機体のパーツということなのだろう。
「放せよ!」
吠えたアラタに呼応するように、≪ガンダムグシオンリビルド≫が≪ハイゴッグ≫の腕を握り潰す。耐久力が0になり、≪ハイゴッグ≫の腕が爆散した。≪シュヴァルベ・グレイズ≫の余裕が崩れたのが見て分かった。
後方へと飛んでいく≪シュヴァルベ・グレイズ≫を、アラタは逃さず追撃した。
「人が作ったパーツを奪って戦おうなんて。姑息な真似をするからっ!」
バックパックにマウントされた大型特殊メイス、通称レンチメイスを構え、開口させて≪シュヴァルベ・グレイズ≫の左肩関節を挟み込む。内部に仕込まれたチェーンソーが高速回転し、挟み込んだパーツの耐久力を一気に削っていった。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫の左腕がちぎれ飛ぶ。閉じたレンチメイスを、アラタは大きく振り回した。
「吹っ飛んじまえ!」
レンチメイスが≪シュヴァルベ・グレイズ≫の胴に食い込み、大きく吹き飛ばした。大型スラスターでも減衰しきれない勢いで地面に激突した≪シュヴァルベ・グレイズ≫を、アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫の光学センサーを通して睥睨した。
総合耐久力はすでにイエローゾーンに入っている。あと一押しすれば倒せるだろう。
少しだけ自分の息が上がっているのに、アラタは気づいた。怒りで大声を出しすぎたからなのだろうか。それにしても、この程度で息を上がってしまうとは情けない。ここ数年は運動はおろかガンプラバトルもあまりやってはいなかった。運動などそれこそ大学の体育の授業は休まず出席した程度だ。体力が高校生の時ほどあるわけもない。スマホゲームや携帯ゲーム機はちょくちょくやっていたから、ゲーマーとしてのキャリアは問題なく上がっているだろうが。
アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫をゆっくりと降下させる。レンチメイスを開口し、地に伏せる≪シュヴァルベ・グレイズ≫の胴体と足を分けてしまおうとした。
ゴトン、と何かが落ちる音がする。視線を下げてアラタはその音の発信源を見る。そこにあったのは、白い円筒状の物体。
フラッシュバン。そう思った時にはすでに遅かった。フラッシュバンが炸裂し、あたりに閃光が広がる。≪ガンダムグシオンリビルド≫のデュアルアイセンサーはそれをすべて律義に拾い上げ、ディスプレイに表示していった。
アラタの視界が再び明滅する。脳信号で「見て」いるからなのか、こういったものに対する「慣れ」というものが一切ない。強い光を何度浴びても、その度「とてもまぶしい」となる。アラタは不安定な視界で、飛び立っていく≪シュヴァルベ・グレイズ≫とその仲間たちの姿を見た。その方向は、ミサが戦っている場所へと向かうものだった。
「待てよ……! 逃がすか……!」
アラタは良く見えない目で敵機を捉えながら、フットペダルを踏みこみ空へと飛ぼうとする。しかし、スラスターから放たれたのは青白い噴射光ではなく、なんとも情けない音だった。機体ステータスを確認する。スラスターの欄が、「Overheat」となっていた。
――こんな時に……! さっきまでの戦いで、全力でスラスターを吹かしすぎた。
何度フットペダルを踏み込んでも機体は浮き上がらず、小馬鹿にしたようなエラー音が鳴るだけ。オーバーヒートしたスラスターの回復には、あと30秒はかかるだろう。その間には、あいつらはミサのもとにたどり着いてしまう。
アラタは、全力でミサの声を叫んだ。通じることはないとわかってはいたが、それでも叫ばずにはいられなかった。
そして、このおよそ1分後アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫の本当の姿(かたち)を見せることになる。
「よし、20体撃破……っと」
ミサは、抜刀したアロンダイトをバックパックに懸架してふぅ、と息をつく。「クエストクリア―!」と(無駄に)明るい声でシステム音声に告げられ、ちょっとだけミサはイラついた。これが無機質な、いかにも「システム音声」然としたものだったらまだそんなでもなかっただろうが、中途半端に人臭いものだから余計に苛立ってくる。開発元に要望を出してやろうか。
瞬間、アラート音が鳴り響いた。くだらない思考をやめ、ミサは周りを見回す。遠くに、≪ジムⅢ≫の大群が見えた。
と同時に、システム音声が「クエストスタート! ジムⅢを破壊せよ!」と告げる。残り討伐数を示すカウントも表示された。
何これ!? またやらなきゃなんないの!? ミサは文句を言いたくなる気持ちを抑えてハイパードッズライフルを構える。その文句を、≪ジムⅢ≫にぶつけて発散してやろう。そんな少しだけ意地の悪いことも考える彼女だった。
アラート音がもう一度鳴る。上空から、GNビームライフルの赤黒いビームが降り注いだ。ミサは瞬時にスティックとフットペダルを操作し、マニューバでそれを回避する。ミサが世界大会(ほぼ)優勝のチームメンバーであることを物語る機動であった。アラタの陰に隠れてしまいがちでも、ミサの実力は確かなものであった。
しかし、いくらミサと言えども10体を超える≪ジムⅢ≫と敵プレイヤー3機の相手をするのは分が悪かった。敵プレイヤーたちは、全員が手負いになっているとはいえその実力は日本大会レベルの上、≪ジムⅢ≫たちのヘイトは完全にミサに向いていた。タゲが集中し、雨あられのようにミサイルが降り注ぐ。
GNフィールドを張りつつハイパードッズライフルやメガキャノンで応戦するも、意識の向け方がつい中途半端になってしまいじわりじわりと被弾してしまう。全体耐久力がゆっくりと減っていき、危険域に突入する。
遂にミサが我慢の限界に達した。ハイパードッズライフルを構え、照射する。そのまま機体を回転させ、≪ウイングガンダムゼロ≫のローリングバスターライフルがごとくあたりを一掃しにかかった。ほとんどの≪ジムⅢ≫が次々とそのどっずビームに巻き込まれ爆散していく。ミサの周りに、爆発光の連鎖が巻き起こった。
しかし、敵プレイヤーたちはそれを予測し、ブーストでしっかりと回避していた。ミサにしてみれば、今の攻撃はむしろ≪ジムⅢ≫の殲滅とそれによる敵数の減少にあり、プレイヤーに当たろうがが当たるまいが別に構いやしなかったのだが。ミサは≪ガンダムアザレアリバイブ≫を敵機に正対させ、エネルギー切れを起こしたハイパードッズライフルに代えてメガキャノンを構える。その意識は、完全に敵プレイヤー3機に向いていた。
だが、ミサも予測していなかったことが起こった。どういった気まぐれをAIが起こしたのかは知らないが、1機の≪ジムⅢ≫がジャンプしてビームを回避していたのだ。
普通、AI制御のNPC機体は回避目的ではジャンプを使わない。回避はプログラムによって当たり判定を見抜きながら行うステップ回避のみであり、その方向も右側に避ける、つまりプレイヤー側から見れば左側に回避しようとする。それをミサもわかっていたからこそ、回転する方向も速度もわざわざ調整していた。初回の「当たり」を回避されたとしても、追っていったビームが次のステップ回避までに起こる無敵時間の隙間に重なるように。
だが、1機の≪ジムⅢ≫がジャンプしてそれを回避してしまった。この挙動は、敵プレイヤーの≪サーペントカスタム≫が放ったビームカノンをミサが回避し、その流れ弾が件の≪ジムⅢ≫を掠め、タゲが切り替わり≪サーペントカスタム≫に攻撃を当てようと≪ジムⅢ≫がジャンプした……というものだったのだが、当然誰もそんなことにまで気が回ってはいなかった。
仲間の≪ジムⅢ≫を多数殲滅させられたことで再びヘイトがミサに集まり、ジャンプした≪ジムⅢ≫が空中から両肩と腰のミサイルを一斉に発射する。至近距離であった事もあって、アラートが鳴り響いたときには10発以上のミサイルが≪ガンダムアザレアリバイブ≫に直撃していた。
GNフィールドでも抑えきれない衝撃がミサを揺さぶり、同時に≪ガンダムアザレアリバイブ≫の耐久力をレッドゾーンにまでもっていく。背後からの急襲を受け倒れこんだミサが顔を上げてみたのは、ランスユニットを構える≪シュヴァルベ・グレイズ≫の姿だった。
GNフィールドを貫通し、ランスユニットが≪ガンダムアザレアリバイブ≫の胴を貫く。耐久力が0になり、モニターに「Dead」の文字が表示された。
「アラタ……ごめん」
ミサがそうつぶやいたのと同時に、≪ガンダムアザレアリバイブ≫は爆散した。辺りにその亡骸とでも表現できる≪ガンダムアザレアリバイブ≫のパーツたちが転がっていく。
そして、アラタはまさにこの瞬間、ミサや敵機たちのもとへと到着したのだった。
「やったなぁっ!」
アラタは、ただ怒りのままに叫んでいた。
フットペダルを昂る感情のままに踏み込み、爆炎の中に立つ≪シュヴァルベ・グレイズ≫に向かって突撃する。構えたソードメイスを、怒りのままにたたきつける。振り回す。
が、そんな単調な攻撃がそうやすやすと上級者同士の戦いにおいて通用するはずもなく、第一撃第二撃と躱され続ける。それらがますますアラタの苛立ちと怒りを加速させたのは想像に難くない。
そして、そんなアラタを嘲るように青年の声が響く。光信号通信を使うことで、エイハブ・ウェーブとGN粒子が飛び回る中でも通信を開いてきた。
「どうしましたか、『英雄』アラタサン? 動きがずいぶんと直線的になってますよ? 鉄血機体の使い過ぎで少し短絡的な考えになってますか?」
お前も鉄血機体だろう、と返す余裕もなかった。挑発にまんまと乗せられ、ますます感情的な攻撃が多くなる。無論、そんなことになれば相手の思うつぼであり、事実この数十秒でのアラタの被ダメージ量は数分前の激突でのそれをはるかに上回っていた。しかし、それとは対称的に与ダメージ量は明らかに減少していた。攻撃は半分近くが躱され、残り半分も的確なガードで決定打とはなり得ないものへと変えられていた。動きと攻撃が、読まれ始めていた。ソードメイスやレンチメイスといった≪ガンダムグシオンリビルド≫の武装は、その質量の恩恵で与えるダメージは大きいが、反面その重さ故にどうしても一撃にかかる時間はビームサーベルなどと比べれば遅く、考えなしに振り回してもそう簡単には当たらない。動きが力任せになれば、逆にそれを利用されるのが関の山なのだ。
アラタにしてみれば、戦いの中で味方の機体を、つまりは仲間を失うという経験はこれが初めてであった。もちろん、ガンプラバトルシミュレータで乗機が破壊されたところでファイターが死ぬわけもないのだが、さっきまでは確かにフィールドにいた仲間がそのステージ上から消える、という様はアラタの心を大きく揺さぶっていた。それは、アラタの腕がこれまでチームメンバーを一度も撃破されたことのないものであるという、確かな実力の証明を裏返したものでもあったのだ。
≪ガンダムグシオンリビルド≫のソードメイスと≪シュヴァルベ・グレイズ≫のランスユニットが激しくぶつかり合う。そこに、≪GN-XⅢ≫のGNビームライフルと≪サーペントカスタム≫のダブルガトリングガンによる援護射撃が放たれ、たまらずアラタは一旦機体を後退させた。
荒げていた息をどうにか整え、しっかりと敵チームを見据える。そこには強い意志があったが、とても「英雄」としての、強者としての余裕はなかった。余裕だけなら、むしろ敵チームの3人の方があった。
「『英雄』アラタと言えど、直情的になることはあるんですねぇ。随分と息もあがってるじゃないすか」
ですます調を使いながらも、明らかに馬鹿にしたような青年の声。アラタは怒りを覚えながらも「そりゃあ、俺だってロボットやAIじゃないからな。疲れもすれば息も上がるさ。」と答えてみせる。余裕があるように言って見せるが、その声色からは疲れや焦りが滲み出ずにはいられなかった。せめてもの反撃にと、「だが、それはお前らもじゃないのか?腕や頭をロストした状態での戦闘は苦しいだろう」と精一杯の嫌味を込めて言ってみせるアラタだった。
だが、そんな言葉に動揺する様子もなく青年は笑い声をあげる。その声は、アラタの怒りを煮えたぎらせるには十分なものだった。
「やっぱり、もう一人の『英雄』ミサさんがやられたのがでかいんすかね。明らかに余裕がないっすよ」
「ひょっとして、ただのチームメイト以上の関係だったりして。だからあんなに……やば、だとしたらマジウケる」
青年の仲間たちが口々に呟く。あえて通信内容を漏らしていた。耳に入ってくるその口調にアラタは強く歯ぎしりする。
「良いっすよね、ガンプラバトルは」
突然、青年の一人が呟き始めた。その口調は、次第に歪んだものへと変わっていく。
「こうして敵と戦って、自分たちの使える技全部使って……」
≪シュヴァルベ・グレイズ≫の顔が一瞬嗤ったように見えた。アラタは、なんとも言えない悪寒を感じた。≪GN-XⅢ≫や≪サーペントカスタム≫までもが自分を嘲っているように見えた。
「アラタさん、面白いもん見せましょうか」
アラタの返事も待たず、青年たちが次々とガンプラのパーツを換装していく。換装の光が止んだ時、そこには異形のガンプラがいた。
≪ガンダムアザレアリバイブ≫の腕をつけた≪シュヴァルベ・グレイズ≫。バックパックをつけた≪GN-XⅢ≫。そして、頭部をつけた≪サーペントカスタム≫の姿。
アラタはその姿を、何も言わず見ることしかできなかった。赤と黒に彩られた3機に、ピンクと白で塗装されたパーツは不釣り合いであり、一層その異様さを際立たせていた。
「そうですよ、その姿が見たかった! 敵プレイヤーを倒して相手を独りにした時の絶望に満ちた顔や、自分のガンプラが本当に壊されたと知った時の悲しみに満ちた顔を見る時の快感ったら! 味方の亡骸(パーツ)が奪われて、相手に使われていく様を眺める奴らの顔を見る時の悦びったら! こんなの、ほかのゲームでは味わえない。それを見た時、オレは自分が本当に強いんだと分かるんだ。たまらなく嬉しくなるんだ!」
嬉々とした声。だがその裏には、ねじ曲がった快楽欲求と、純粋な強さへの飢えがあった。それを感じ、アラタは複雑な気持ちを抱いていた。
不意に、「メインクエストスタート! 敵チームを殲滅せよ!」とシステム音声がクエスト内容を告げた。クエスト内容の文字が白ではなくオレンジになっており、何か重要性を示していると容易に想像できた。
「いや~、面白いもの見れました。オレらはついてる。『英雄』たちのこんな姿を見れて、加えてこのクエスト! これはね、たとえそこまでのクエスト達成数で負けていてもこいつをクリアすれば問答無用で勝利っつうモノなんすよ。滅多に出ないんすけどね。ラッキーですわ。なにせ、既に3対1なんですもの。ガンプラの性能も、≪ガンダムアザレアリバイブ≫のパーツを使ったことで大きな差がなくなってる」
アラタは、その声を聞きながらスティックを握りしめていた。怒りの気持ちはあったが、それ以上に奇妙な嬉しさを感じていた。その嬉しさの原因を、アラタ本人も探りかねていた。
強敵と戦えるから? 違う。これでこの戦いが終わらせられるから? 微妙に、違う。
そうか、これは。
「……そうだな。俺もついている。なんせ、今のままじゃ俺一人だったからな。勝負に勝つために、ちまちまとクエストをこなさなきゃいけないところだった。だが、メインクエスト(これ)が出た。これで、ミサの仇を取りつつ勝ちに行けるって訳だ。つくづく、俺もラッキーだよ」
そのどこか甘い声は、敵チームの動揺と怒りと苛立ちを誘った。敵を挑発し、さらに揺さぶろうと声を投げかけた途端、どこか余裕のある、まるで何かアニメの主人公のようなセリフを返されたのだから。
そんなことも知らず、アラタは言葉を続ける。怒ってはいても、冷静そのものだった。≪ガンダムアザレアリバイブ≫のパーツを見せつけられたことは、アラタの静かな怒りを昂らせはしても荒ぶる怒りを高めはしなかった。≪ガンダムアザレアリバイブ≫を弄ぶかのような彼らの行為は、アラタをかえって冷静にさせた。それは、アラタの心に「あいつらだけは絶対に墜とす」というたった一つの目標を生み出したからなのかもしれない。
「俺は今、怒ってる。お前らにもそうだが、何より俺にだ。お前らみたいな輩にミサを墜とさせてしまった、俺の弱さにだ。だから、その弱さを捨てるために、俺はお前らを叩く。完膚なきまでに」
青年が苛立ち交じりに≪シュヴァルベ・グレイズ≫のランスユニットを向ける。ライフルを発射するため、トリガーに指をかけていた。
「さすが『英雄』サンっすね。くっさいセリフ、ありがとうございます。主人公気取りの余裕ですか」
アラタは思わず笑う。自分でも気持ち悪いほどに甘美で、歪んでいた。
「お褒め頂きどうも。だが、一つ訂正してほしいな。これは『余裕』じゃないさ。『決意表明』だ。それに、俺は『英雄』なんかじゃない」
「ただの……『悪魔』だ。とびっきり残酷な、な」
アラタは大きく笑う。それと同時に≪ガンダムグシオンリビルド≫の光学センサーが怪しく煌めく。通信に乗ってきたアラタの笑い声と、それにリンクするかのような≪ガンダムグシオンリビルド≫の光が、青年たちを思わず怯ませた。
「いくぞ、グシオン。後先なんか今は考えない。ただ、目の前のあいつらを墜とす。叩き潰す。ぐしゃぐしゃになるまで。だから、お前の怒り、憎しみ、負の感情、全部まとめて俺によこせ! リミッター解除!」
その声に呼応して、≪ガンダムグシオンリビルド≫のデュアルアイセンサーが緑から赤へと変化する。それは、ガンダムフレーム機体が持つリミッターをアラタが自分の意志で解除した印だった。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫たちが後ずさりする。さっきまでの余裕は失われかけていた。
――馬鹿な。ガンダムフレームのリミッター解除機能は、ガンプラバトルシミュレータのデータベースには登録されていない。つまり、何かしらの強化システムを代用していることになる。機体機能向上系の特殊アクションスキル。そして、センサーの発光パターンが緑から赤へと変わるその仕様。だが、機体やそのフレームに過剰負荷がかかっている様子はない。つまり。
「HADESシステムか……!」
「機動戦士ガンダム サイドストーリーズ」に登場した、EXAMシステムを基にした戦闘用OS、「HADESシステム」。これならば、今≪ガンダムグシオンリビルド≫に起きている現象に当てはまる。加えて、HADESシステムの「使用するためには薬物による人為的な身体強化が必要」という設定に「真価を発揮するためには阿頼耶識システムの施術を受ける必要がある」というガンダムフレームの設定が噛み合いやすい。2つの親和性は、かなり高いものであろう。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫に乗る青年が舌打ちをした瞬間、≪ガンダムグシオンリビルド≫が赤い光だけを残して消えた。そして、それと同時に≪サーペントカスタム≫も≪シュヴァルベ・グレイズ≫たちの視界から突如として消えた。
≪ガンダムグシオンリビルド≫は、リミッター解除の効果で跳ね上がった反応速度を生かし、一気に≪サーペントカスタム≫への突撃を行っていた。頭部をつかまれた≪サーペントカスタム≫は、その勢いのまま攫われていき、そして地面にたたきつけられた。すかさずアラタは≪サーペントカスタム≫の腰を≪ガンダムグシオンリビルド≫の左足で踏みつけて抑え込んだ。
≪サーペントカスタム≫の上に立つ構図となった≪ガンダムグシオンリビルド≫が、バックパックからハンマーを取り右手に構える。本来両手で扱うべき超弩級の質量兵器だが、リミッターを解除した今の≪ガンダムグシオンリビルド≫が振り回す分には、片手で十分だった。
大きくハンマーを振り上げた≪ガンダムグシオンリビルド≫が、そのまま一気に振り下ろす。スラスターの勢いをのせて叩きつけられたハンマーは、≪サーペントカスタム≫の胸部装甲を紙か何かのようにひしゃげさせ、内部のコックピットにあたる部分までも潰してみせた。
無論、コックピット部分に大きなダメージを食らってもガンプラバトルシミュレータでは即死判定を食らわせられることはない。だが、コックピット部分への攻撃はダメージ倍率が跳ね上げられる仕様となっている。コックピットを的確に捉えたハンマーの一撃は、元々のダメージの高さもあって≪サーペントカスタム≫の全体耐久力を安全域から一気に0まで削り切った。
≪サーペントカスタム≫が大きな爆炎に包まれ、その中から≪ガンダムグシオンリビルド≫が血のような赤色をしたセンサーを輝かせる。リミッター解除をしてから10秒足らずの撃破劇に、≪シュヴァルベ・グレイズ≫たちは恐れを抱いた。
そしてそれにより、≪GN-XⅢ≫の動きが鈍っていたのにアラタは目を付けた。左腕に装備したGNシールドをクローモードへと変形させ、≪GN-XⅢ≫めがけて一気に突撃する。
しかし、≪GN-XⅢ≫はこれをきちんと回避し、≪ガンダムグシオンリビルド≫の背後を取った。
――馬鹿が。そのシールドのギミックは、奇襲や不意打ちで使って初めて効果を発揮する。そんな見え見えの突撃、食らうわけないだろ!
「隙だらけなんだよぉ!」
だが、≪GN-XⅢ≫を駆る青年は忘れていた。先刻≪ガンダムグシオンリビルド≫が見せた突撃の早さを。あの速さをもってすれば、自分が反応するより早くGNシールドは≪GN-XⅢ≫の胴体をくわえ込んでいただろう。そうして、機体を真っ二つにしていただろう。
だが、アラタはそうはしなかった。それは、≪GN-XⅢ≫に油断をさせるために他ならなかった。恐怖は、思考も鈍らせる。正常な判断を妨げる。アラタは、10秒足らずで≪サーペントカスタム≫を耐久力が安全域の状態から一気に撃破してみせることで、敵チームに恐れを抱かせようともしたのだった。
「どっちがだ?」アラタは、流れてきた青年の声に返す。レールキャノンを動かし、ノールックで連射する。左右2門のレールキャノンが矢継ぎ早に弾丸を吐き出し、1発2発と≪GN-XⅢ≫を捉えていった。
レールキャノンの直撃を受け、空中でよろめく≪GN-XⅢ≫。その胴体を、アラタはレンチメイスで挟み込んだ。チェーンソーが高速回転を始め、≪GN-XⅢ≫ノ装甲を切り裂いていった。やがてチェーンソーは、その内部フレームも切断していった。
「今度こそ、捕まえた」
起伏なく呟き、そのまま≪GN-XⅢ≫の胴体と足をちぎり取る。下半身をもぎ取られ、地面に落ちる≪GN-XⅢ≫。そのコックピット部分めがけて、アラタは閉口したレンチメイスを右手一本で振り下ろした。Eカーボン製の装甲もむなしく叩き潰され、≪GN-XⅢ≫も≪サーペントカスタム≫の後を追う形で爆発四散した。
≪シュヴァルベ・グレイズ≫は、あまりの出来事に何もできず、ただ呆然と仲間がやられていく様子を眺めていることしかできなかった。
≪ガンダムグシオンリビルド≫がそのリミッターを解除してから、40秒ほどで2機、撃墜された。ガンプラバトルにおいては、それは圧倒的実力の差とみなされるような出来事だった。
≪サーペントカスタム≫と≪GN-XⅢ≫を相次いで屠り、その間ダメージを食らった様子もない≪ガンダムグシオンリビルド≫。その赤い双眸が、残光を引きながら自分を睨んだように見たのを感じ、≪シュヴァルベ・グレイズ≫に乗る青年は叫んでいた。
「この……悪魔がぁっ!」
ランスユニットのライフルを正確に連射していく。だが、GNシールドとナノラミネートアーマーの装甲、そしてその機動力と反応速度の前にはライフル弾も大きなダメージは与えられなかった。
振り上げられたレンチメイスが、≪シュヴァルベ・グレイズ≫の頭部を捉える。視界が大きく揺れ、動きが止まったその右肩関節に狙いを定め、レンチメイスで挟み込んだ。
「その腕を……使うな!」
右肩フレームを切断し、次いでレンチメイスを手放す。左手で首を、右手で左腕を掴んだ。
「返してもらうぞ、このパーツ!」
叫ぶままにスティックを大きく倒す。リミッターという枷を解かれた悪魔が、雄たけびを上げるかのように全身のモーターを唸らせ、≪シュヴァルベ・グレイズ≫の頭部と左腕部を反対方向に力任せに引っ張った。
過剰な負荷のかかった≪シュヴァルベ・グレイズ≫のフレームが悲鳴を上げる。左腕パーツの耐久力が減っていき、終いに引きちぎられた。それは、ミサと青年たちの戦いで≪ガンダムアザレアリバイブ≫の耐久力がパーツごとに見ても大きく減っていたことも大きく影響していた。
手に持った≪ガンダムアザレアリバイブ≫の左腕をそっと地面に下ろし、当たり前のように強引な解体作業を続ける。右足を掴み無理やりもぎ取る。右足の次は左足。左足の次はバックパック。まさに「悪魔の所業」とも形容できそうな一方的な暴力で、≪ガンダムグシオンリビルド≫は≪シュヴァルベ・グレイズ≫を蹂躙していった。その様はミサは見てはいなかったが、ゲームセンターに備え付けられた大型モニターを通してシュンヤとコウ、インフォは観戦していた。このあまりにも残酷な戦いぶりは、少年たちの心に「喜」だけでは到底説明できない複雑な感情を抱かせた。
頭部と胴体、腰だけを残し達磨のようになった≪シュヴァルベ・グレイズ≫の頭部を掴み持ち上げ続けながら、アラタは何もせずしばらくそのまま立っていた。すでに≪シュヴァルベ・グレイズ≫の耐久力はレッドゾーンに突入しており、それもあとわずかといった程度のものだった。
「なぁ、お前。今、何を感じてる? 恐怖か? 悔しさか? それとも、ただの悲しみか?」
青年は答えない。しばらくして、絞り出すように声が漏れ出てきた。
「……全部だよ。オレらの正義は、やっぱり『英雄』の正義には敵わないのかってな。あんたはどうなんだ。何を思ってる」
アラタは、しばらく黙っていた。言葉を探していた。だが、それも長くはかからなかった。ゆっくりと、穏やかな声色で告げる。≪ガンダムグシオンリビルド≫の赤いセンサーと、アラタの声の表情には明らかなミスマッチがあった。
「……俺はな、安心した。俺は、うれしかった。お前らが、ちゃんと『ガンプラバトル』をやってることに。お前らが、大事なことを俺に気づかせてくれたことに」
青年の息が一瞬乱れたのを、アラタは聞き取った。青年が何か言おうとするのを遮るように言葉を続けた。
「お前らは、ガンプラバトルでの強さを正しく追い求めてた。たとえ、その強さの先で見ようとしているものがねじ曲がったどす黒いものであっても、正しい強さで何かを得ようとしてた」
VRグラスをかぶったまま、アラタは笑っていた。その表情は青年には伝わらなかったが、もし青年が見れば困惑しただろう。その顔は、あまりにも純粋で、あまりにも柔らかな笑顔だったから。そこには、何の含み事もない感謝があった。
「だから、俺はお前らの戦いに敬意を表する。お前らのやり方は認められなくても、お前らの『戦い』は『ガンプラバトル』だった。俺がやってきたことも、結局はお前らと変わんなかった。何かを得るために、何かを守るために、戦い続けてたんだ。手段は遊びでも、そこだけは遊びじゃなかった。俺は、自分のやってきたことが『ただの遊び』であると信じていたかった。だから、お前らの正義を否定した。……そんなちっぽけで当たり前なことに、俺はお前たちとの戦いでやっと気づけたんだ」
だから、最大限の敬意を以って彼を倒す。アラタはそれを伝えようと、≪シュヴァルベ・グレイズ≫の四肢を引きちぎった。逃げられ、話せなくならないように。
「……ナイスファイト。戦ってくれて、気づかせてくれて、ありがとう」
アラタは120mmロングレンジライフルを≪シュヴァルベ・グレイズ≫のコックピット部分に押し当て、そのままトリガーを引いた。弾丸が装甲を貫き、≪シュヴァルベ・グレイズ≫の耐久力が0になった。なんの偶然か爆散はせず、センサーが沈黙して機能停止するだけにとどまった。
それを、アラタは地面に落とし、頭部を乱暴に何度も踏みつけた。装甲が歪み、センサーにひびが入っていく。バトル上は意味のない行為であったかもしれないが、それはアラタ自身の気持ちの複雑さ、二面性を表すものという面で見れば確かに意味があるものだった。
「……だけど、やっぱり俺は許せない。俺の弱さも、お前らがミサやあの少年たちを侮辱するようなことをしたことを。これは、打ち消せるようなものじゃないんだ」
「バトルエンド! 勝者、チーム彩渡商店街!」
アラタが自分の絡まりあった感情を吐き出すのと同時にシステム音声が鳴り響き、ステージが次第にポリゴンと化していく。戦闘終了に伴って崩壊する世界を見ながら、アラタはスティックから手を放し息を大きく吐いた。視界が、次第に暗転していった。音が、遠のいていった。
バトルが終了してもなんとなく出る気にならなかったアラタが、ガンプラバトルシミュレータから出て最初に見たのは、少年たちの複雑な顔色だった。
「……悪い。あんな戦いみせちまって」
アラタは軽くうつむいたまま詫びる。だが、少年たちは首を横に振ると、アラタの手を取った。
「アラタ兄ちゃん、おれたちの仇取ってくれてありがとう。それに……ミサ姉ちゃんのも」
アラタははっとして横を見る。そこには、弱々しげな笑顔を見せるミサがいたその右手には、無残に破壊された≪ガンダムアザレアリバイブ≫があった。
「ミサ……」
ゴメン。そうアラタが言うより前に、ミサは「お疲れ。ナイス勝利!」と笑った。だが、その笑顔には明らかな陰りがあり、それはアラタもシュンヤもコウも容易に見抜けていた。
だが、ミサはそれについて何かを言わせまいとばかりに少年たちの手を取る。
「ごめんね。サクッと勝ってガンプラ直すの手伝うって言ってたのに、直すもの増えちゃった」
ミサは気丈に笑顔を作り続けて、少年たちの目を見る。その笑顔を、アラタは正視することは到底できなかった。
「これから、わたしの家に行こ? 工作ブースで急いで直しちゃお。善は急げだよ」
そう言って振り向いたミサは、アラタの肩を軽く叩いた。
「悪いけど、あの子たち送って行ってくれない? わたし、ちょっと外の空気吸ってくる」
外へと≪ガンダムアザレアリバイブ≫を握りしめながら出ていくミサの姿を見送る。ミサが外に出たのを確認すると、アラタは少年たちに向き直った。
「ミサがああ言ったところなんだけど、今日はもう帰ることにしてくれないか。結構時間も遅いし、それに……」
「ミサ姉ちゃんがなかなか戻ってこれない、でしょ?」
シュンヤが口を開く。アラタはゆっくりと頷いていた。
「だから、今週の休日にしよう。それまでに、ザックリでいいから改修案を考えてきてくれないか。俺のスマホにそれを送って。いろいろと材料は用意しておくから」
そう言ってアラタはスマホを取り出す。少年たちとトークアプリの連絡先を交換し、ひとまずは別れた。
アヤトゲームセンターの陰。そこに、ミサはいた。いるのに気づいてはいたが、顔を出しにくいアラタはそのすぐ傍の壁にもたれかかり、声だけをミサにかけた。
「ミサ、いるか?」
「うん」と、小さな声がアラタの耳に届く。アラタは、「ゴメン」とこぼした。
「なんでキミが謝るの」
ミサは苦笑する。だが、その真意はミサにも分かっていた。分かった上で、余計な重石をアラタの心に乗せまいと必死に平常を繕っていた。
そして、その優しさはアラタも分かっていた。分かっていたから、それにただ甘えていてはだめだと思っていた。
「アザレアがやられたのは、俺の弱さのせいだ。俺が甘かったから、あんなことに、なった」
「違うよ。わたしの機体がやられちゃったのはわたしのせい。キミが余計な責任感じることはないよ」
アラタは、手を強く握りしめた。
「……取り繕わないでくれ。余計な気を回さないでくれ」
ミサの声が止まった。
「ミサは今、すごく辛いって分かってる。俺みたいな他人でも分かってるんだから、ミサ自身はもっと分かってるはずだ、だから、自分の気持ちに嘘はつかないでくれ。俺のことなんてどうでもいいから、自分の気持ちに正直になってくれ」
アラタは、声を絞り出した。「英雄」とまで呼ばれたファイターの態度としては、あまりにもみじめなものだった。だが、これがまぎれもない「人間としてのアラタ」だった。
「……そうしてくれないと、俺はお前の隣にいる資格がなくなる。俺は、自分がたまらなく小さく感じる。俺は、ミサの隣で一緒に歩いていけるような存在でありたい。だから、俺にだけは遠慮も隠し事もしないでほしいんだ。文句があったら言ってほしいんだ」
卑怯だと、思った。自分を守るために、ミサの気持ちを無理やり歩ませているようで。だが、そうでもしないと、ミサは一人でふさぎ込んでしまいそうで怖かった。自分に、泣きついてでもいいから気持ちを吐き出してほしかった。
「じゃあ、一つだけ文句言う。……足止めできてなかった。後、来るの遅い」
2つじゃないか、とは言わなかった。ただ素直に「すまない」とだけ言った。面と向かって頭を下げられない自分が、情けなく感じられて仕方なかった。
ミサの言葉は続く。誰かに向かって発せられてるようなものには感じられなかった。ただ、頭の中の思い出を思い出すのに任せて語っているように思えた。
「最初に作った改造ガンプラがね、これだったんだ。父さんたちのアドバイスもあって、何とか作り上げた。最初に出来た時には、とっても嬉しかった。特にこの足なんか、ずっとこのローゼンズール使ってるんだよ。最初はアカツキベースのはずだったのに、いつしかアカツキパーツ一つもなくなっちゃったり……。いろんなことがあった」
ミサの声に、だんだんと嗚咽が混ざり始めた。思い出を語るうちに、心にどうにか封じ込めた悲しさが再びあふれ始めていた。
「ねぇ、もう少しだけ、傍にいて。前までは、辛いことがあってもアザレアが傍にいてくれたから一人じゃなかったけど、今いないから。一人になってしまいそうで、怖いから。少しだけ、寄り添わせて」
「いたいだけいろよ。泣きたければ泣いていい。愚痴をこぼしたければこぼしていい。なんでも受け止めるから。今日は、いつまでも一緒にいてやるから」
「……ありがとう、アラタ」
その声を皮切りに、ミサの目から涙が一気にこぼれだした。両手に握った≪ガンダムアザレアリバイブ≫を見つめ、大粒の涙を流していく。
「ごめんね、アザレア。わたし、もっと強くなるから。大切なもの、手放さないように強くなるから。あなたをもうこんな姿にしないように、もっと強くなるから……!」
ミサの泣き声が、彩渡商店街の夜空にひっそりと響いた。その声を聞きながら、アラタは≪ガンダムグシオンリビルド≫を見ていた。
――俺たちがやってきたバトルは、こんなものだったのか? 強さがすべて、弱いものは何もかも失う。それが、俺たちが笑いながらやってきたものか? 何かを守るため、何かを得るため。そのための戦いが、俺たちのやってきたガンプラバトルの全てだっただろうか?
違うはずだ。俺たちのやってきたのは、自由なバトルだった。時には真剣に、時にはふざけて。パーツを組み合わせて作ったしょうもないネタ機体を見せ合ったり、縛りプレイをして笑いあったり、時には……。いろんな形があったあの日々が、あれこそが、俺たちのバトルだったはずだ。それを「強さがすべて」としてねじ伏せようとするのなら、俺はやはり今のガンブレ学園の考え方は賛同できない。
もう一度、戦おう。俺たちの「自由」を守るため。何かを得ようとするなら、勝ち取らなければならない。
だから、また付き合ってくれ、グシオン。俺も、強くなるから。大切なものを失わないように。大切な人を、これ以上悲しませないように。アラタは、夜空を見上げた。
悪魔と花の機体を駆る「英雄」たちの戦いが、また始まろうとしていた。
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よもやま話、というより作者の雑談
今回、非常に長くなりました。理由は言わずもがな。ガンプラバトルの様子を細かく描写しようとしたからです。さて、皆さんにはしっかりとバトルの様子が伝わったでしょうか。それこそ、アニメや漫画のような絵が脳内に浮かんでくるぐらいに。さすがに無理でしょうか(苦笑)。
さて、本編が長ければそれにまつわる注釈や設定紹介などをするこの欄も長くなります。皆さん、ここまでの本編でお疲れかもしれませんがよろしければもう少しお付き合いください。まぁ別に、読み飛ばしてもらってもいいっちゃいいんですけどね。
まずは≪ガンダムグシオンリビルド≫についてです。≪シュヴァルベ・グレイズ≫達に関しては赤と黒に彩っている以外は何ら変わらないので省略。≪シュヴァルベ・グレイズ≫は再現機体でしたが。
Name:ガンダムグシオンリビルド
Builder:ホリエ・アラタ
Fighter:ビルダーに同じ
Used Parts:頭 ガンダムグシオンリベイク(HG)
体 ガンダムバルバトスルプス(HG)
腕 ガンダムキマリス(HG)
足 ガンダムグシオンリベイク(HG)
バックパック ガンダムバルバトス・特殊大型メイス装備(HG)
近接武器 ソードメイス(HG)
射撃武器 120mmロングレンジライフル(HG)
シールド GNシールド(キュリオス) (MG)
Optional Equipment:ハンマー(ガンダムグシオン)
サイドバインダー(ガンダムアスタロト)
大型レールキャノン(I.W.S.P)
ハルバード(ガンダムグシオンリベイク)
レンチメイス(ガンダムバルバトス 第6形態)
アラタのガンプラ。「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場する機体・ガンダムグシオンリベイクをベースにカスタマイズした機体である。
開発コンセプトは「レベルを上げて物理で殴ればいい」。あまりにもあんまりすぎるコンセプトだが大マジである。
そのコンセプト通り、高い水準でくみ上げられたガンダムフレーム機体のパーツで構成されており、多数搭載した質量兵器及び実体弾射撃兵装で敵を殴り倒す荒々しい機体。グシオンリベイクの頭部変形機構も問題なく搭載しているため遠距離射撃を行う際には変形して使用する。
兵装同士が干渉しないよう微細な調整が加えられている他、追加されたサイドバインダーやグシオンリベイクのシールドに搭載されたブースターの恩恵もあって重武装とは思えないほどの機敏な動きが可能。
実弾射撃武器しか装備していないのでIフィールド使いにも問題なく対処できる……が、ウイングガンダム系列や一部のSEED系列の機体のような照射ビーム(通称ゲロビ)使いには弾がかき消されるので相性が若干悪い。
ナノラミネートアーマーの力で実体弾・ビーム共に高い防御力を発揮するもの、良くも悪くも原作通り近接格闘となればさすがにダメージは負う。
ガンダムバルバトスが劇中で見せた、いわゆる「リミッター解除」を搭載している(正確には、HADESシステムで疑似的に再現している)為、いざとなればこれを開放して一気に暴れ始める。その様はまさに悪魔が如し。
なお、ガンダムキュリオスのGNシールドを装備しているのは半分ネタ。元祖ニッパーシールドを使用している、というわけである。
次は、この物語におけるガンプラバトルシミュレータについて。この後の本編で触れられるかもしれませんが、触れないかもしれないのである程度はここで解説しておきます。
まず、この小説でのガンプラバトルは、「ガンダムブレイカー3」:「Newガンダムブレイカー」:「ガンダムビルドダイバーズ」=5:1:4といったイメージ。
「戦場の絆」の筐体をさらに発展させたみたいな全球型のポッドの中にシートと2本のスティック、2つのペダルがあって、スティックにはそれぞれ5個のボタンがあって……といった形になっています。VRグラスを着用することで、視覚と聴覚は脳に直接電気信号を送って見せています。「ソードアートオンライン」のフルダイブシステムを限定的にしたみたいな感じです。ナーブギアやアミュスフィアよりはオーグマーに性質は近いのかもしれません。ポッド全体が、ゲーム中の時期の動きに合わせある程度は振動したり動くようになっているので、前述のVR仕様のおかげもあって臨場感はとてもあります。
ガンプラの作りこみは機体のスキャン時にチェックされ、それがそのまま機体の性能に反映されてます。「ビルド」シリーズに近いですが、「ガンダムブレイカー3」のレベル制のイメージもあります。また、インナーフレーム制は一般の筐体にはありませんが、トランザムなどのような特殊アクションを行うには対応したパーツとある程度のパーツレベル(=ガンプラの作りこみ)が必要、という仕様になってます。熟練度システムもあり、カンストさせればどんなパーツでも(パーツレベルの制限はあるものの)発動可能です。原作で強力だったものほど発動には高いパーツレベルが必要です。
パーツアウトに関しては、かなり独自設定が含まれてます。
まずこの小説でのガンプラバトルにおける「耐久力」は、「全体耐久力」と「パーツ耐久力」に分かれてます。ダメージを受けると、全体耐久力が減るとともにその攻撃を受けたパーツのパーツ耐久力が減っていく、という形になってます。
そして、パーツ耐久力が0になった瞬間その部位は外れる……という仕組みです。
「Newガンダムブレイカー」のリアルタイムカスタマイズシステムも導入されてますが、パーツ耐久力が0のパーツは装備できないので、基本的に「相手のパーツを外す⇒そのパーツを拾って即装着」という流れにはできないようになってます。全体耐久力が0になってもパーツ耐久力はそのままなので、相手を倒してドロップしたパーツを拾って装着することはできますが。
このパーツ耐久力及び全体耐久力は、「トランザムバースト」や「クアンタムバースト」のような回復系特殊アクション、または「ナノスキン」や「DG細胞」のようなパッシブ系回復スキルで回復できます。拾ってストックしてあるパーツにもこの効果は及ぶので、耐久力が0になったパーツを拾っても、こういった手順を踏めば装着可能です。
機体の動きは非常に多彩に設定されたモーションプログラムを、ボタンとスティックとフットペダルの組み合わせで繰り出していくという、ある意味格ゲーに近いシステムとなっています。
また、使用するガンプラの情報やユーザープロフィール、特殊アクションの熟練度などはすべて共通のデバイスに記録されており(ビルドシリーズにおけるGPベースやダイバーギアのようなもの)、それをプレイするたびに読み込ませて様々な記録を管理しています。
機体に使用できるパーツ・特殊アクションは、シミュレータのデータベースに登録されているものに限られています。それら機体データは、公式から有料(時々無料)配布されるアドオンを追加してやれば増えていきます。ステージも増えます。ただ、そのアドオンで機体データを追加していく都合上「あそこの機体ではこのガンプラ使えたのにここだとエラー吐かれて使えない」なんてこともしばしば。(ただ、素材となるパーツがデータベースに登録されているものなら、たとえビルダーズパーツを盛りまくって原型を留めていなくても使えるため、実際は使える機体はデータ以上に多いと考えられる。ビルドシリーズの機体を使おうとする程度ならかなりやりやすい。元々のベース機があるガンプラが多いため、それらをビルダーツパーツで改造すればそれらしくできるから)
自由度がとても高く、世界的にも人気も高いゲームですが、ただでさえガンプラをきちんと作らないと強い機体が使えないというシビアなシステムの上に、操縦システムがスティック2本×フットペダル2つ×ボタン10個という複雑さなので、その難易度は作中世界に数多あるゲームの中でもトップクラスです。逆に言えば、そんなハードな環境でのアラタのようなトップレベルのプレイヤー、つまりファイターたちの実力ははっきり言って化け物クラスということに……。
ちなみに、5年前の段階、つまり「ガンダムブレイカー3」本編の時代では1プレイ200円という料金システムでした(随分とこの手のゲームにしてはかなり良心的)が、今は半年ごとのライセンス更新に9000円かかるもののその半年は遊び放題、という定額制オンラインゲームのような感じです。この料金を高いとみるか低いとみるかでその人のやりこみ度が分かるとかどうとか。