ガンダムブレイカー3 on New ~英雄たちの自由~   作:鷹峯アオイ

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今回は前回と比べると大分短いです。バトルもありません。


3・青年の思いと父の思いと

彩渡商店街の夜は、暗い。別に彩渡商店街に限った話ではないのだが、商店街の夜はアーケードが閉まっているうえに居酒屋などの一部の店をのぞけばほとんどが閉店中なので、明かりがどこもついておらず、街灯が唯一の頼りになってくる。

当然、そうなれば雰囲気はミステリアスになる。まれにロマンチックにもなるが、やはり大抵はミステリアスもしくはホラーチックだ。

おまけに、彩渡商店街の街灯は一部が切れかけている。5年前あれだけ一気に知名度を上げ、来客数も膨れ上がったにもかかわらず、このあたりの設備は未ださびれたままだ。どうにかしてほしい。

誰に聞かせるわけでもないモノローグを心の中で続けつつ、アラタはふぅ、と息をついた。いい加減疲れてきた。

アラタの背中には、ミサがおぶさっている。すやすやと寝息を立てる彼女のぬくもりを感じながら歩けるというのは何とも素敵な展開と言えば素敵な展開なのかもしれないが、そうはいってもやはり人一人をおぶりながら延々と歩くのは辛い。アヤトゲームセンターからミサの模型店への道のりは意外と長かった。

彼女の体重はいったいいくらぐらいあるのだろうか。ミサが女性、しかも大学生というお年頃である以上そうやすやすと訊けるはずもない。というか下手に尋ねたら殺される。殺される気がする。

しかし、こうしておぶっている分には彼女は自分より10キロ以上は軽く感じる。15キロ、ぐらいは軽いだろうか。あれだけ活発なところがあっても、やはり年相応の体つきというのはあるのだろう。アラタは、さして重いわけでも軽いわけでもない自分の体を考えながらぼんやりと歩き続けていた。残りの道程の長さを考えるより、こういうことを考えていた方がいくばくか気が楽になる。そんな気がした。

不意に、ミサが軽く身をよじる。ミサや自分の体つきのことを考えていたアラタは、その瞬間背中に柔らかい感触が走るのを覚えて、顔が熱くなっていくのを感じた。……これも年相応、なのだろうか。ミサがインフォに言っていた「あれから5年、多少は実ってんだよ! 残念だったね!」という言葉を思い出す。あながち嘘でもないらしい。

あぁ、早く着かないかな。そうアラタは心の中で愚痴のようなものをこぼす。

結局、何を考えても気は軽くはならないようであった。

 

彩渡商店街の一角にある模型店、「ワタウチ模型店」でユウイチはのんびりと今日の売り上げを集計していた。レジに入力された今日の収支から入っているべき金額を算出し、実際にレジに入っている金額と照らし合わせていく。

金額があっていることを確認したユウイチは、レジから入力内容をすべて出力しひとつづつ確認していく。老眼気味の目には、地味に堪える仕事だった。眼鏡をはずし、時折目頭をもむ。眼鏡をはずした瞬間少しだけ眠気が襲い掛かってきて、ユウイチは軽くあくびをした。

――今日の売り上げはまずまず。やはり主に塗料や細かい改造用部品方面の売り上げが大きな割合を占めている、反面、大型のものになればなるほどこういった特に大きなイベントも近くにはない日は全く持って売れなくなっていく。少しだけ小さめの商品を増やすか……? とはいえ、「プラモデル」という時間による商品の劣化が食品などと比べてはるかに遅い商品を扱っている以上、そう簡単に在庫の整理を行えない。仕入れの金額もバカにならないからだ。

ふと、店の隅に目をやる。パーフェクトグレードの≪アルビオン≫が堂々と鎮座していた。5年前ミサが発注し(てくれやがっ)た商品だ。どうやっても売れそうになかったので、いろいろと苦労して個人で購入した扱いにし、アラタや当のミサに作成の手伝いを頼んだものだ。完成におよそ半年近くを要し、膨大な量のランナーごみがでたのもいい思い出と言えばいい思い出だ。

ミサたち彩渡商店街チームが世界大会を制し、軌道エレベーターの危機を二度も救った。そのおかげか彩渡商店街は活性化し、ワタウチ模型店も一度だけだが品切れを起こすほどに大盛況した。これも、彼女たちがガンプラバトルで活躍したことが理由なのだろう。

繁盛した模型店を、客のニーズにこたえるために大規模に改修。模型店の隣にあった空き地を買い取り、そこにまで店を広げた。結果、今まで置けなかったような大規模商品も陳列できるようになり、さらには店の商品の一部や客が作った作品を展示できる作例展示スペースも出来た。ただ、これでも≪アルビオン≫は入らなかったが。さすがに全長5メートル越えのものは収まらなかった。店の棚の配置を工夫してどうにか配置できた。

そんな、家族の思い出とでも言えるような物を思い出し、ユウイチは一人微笑んだ。アラタとは、ミサが仲良くしていたこともあって何かと関わる機会も多かった。仕事の手伝いや個人的な手伝いなどもしてもらって、ある種もう一人の家族のような気分になっていた。彼には両親がすでにいないということもあったのだろう。自分たちに、母親がいないことも。

アラタは、少しぶっきらぼうな話し方をする癖こそあったものの、とても温厚で優しい少年だった。真面目で、何かと人のことを気にかける性格もあったので、ミサとは同い年で血のつながりはないながら、まるで兄妹のような距離感に見えた。実際、アラタはかなりの早生まれでミサは逆に遅生まれなので、1歳近くの年の差があるのだが。

ミサが「○○大学に行く」と言い出した時、ユウイチは少し驚きこそしたものの特に何も言わなかった。学力については少々心配なところがあったものの、猛勉強の甲斐もあってなのか特に大きな問題もなく無事進学した。

「ここの経営を手伝えるよう、大学で経営学んでくる」と言ってくれたのはユウイチにとって嬉しいことではあったが、自分がここで模型屋を営むせいで彼女の未来を狭めているのではと考えたこともあった。

本心を言えば、娘が何かしたいことがあり、それが社会や人様に迷惑をかけるようなものでなければどんなものであっても応援したい。娘の夢にとってこの店が足枷になっているというのなら、店を売り払ってそれでお金を作ってやってもいい。彼女がやりたいことにとってこの店が邪魔なのだとしたら、そんなものはなくたって構いやしないのだ。

 経営者としては、この考え方はあまりにも短絡的で、かつ問題あるものなのかもしれない。だが、それが一人の愛娘を持つ父親というものなのだ。

 幼いころは、自分が学校で楽しい生活を送れるようにと身を削って働く両親の姿を見て「なんでそこまでするのだろう」と思ったこともあった。

お台場にマチオやミヤコと共に親には内緒で出かけ、そして帰ってきたときにはこっぴどく怒られた。だが、最後に「楽しかったか?」と訊かれ頷くと両親は「ならよかった」と笑い、それ以上は何も言わなかった。後になって、マチオが自分以上にとてつもなく叱られたというのを知ったせいもあるかもしれないが、この時も「何でもっと怒らないのか」と不思議な思いを抱いた記憶がある。

 だが、全て今になったらわかる。親というのは、そういうものなのだ。生態、と言ってもいいかもしれない。多少大げさかもしれないが、それでもいいだろうとすら思える、一人の親となった自分がいた。

 親というのは、何より自分の子供のことを大切に思ってしまう。自分の愛する子供が夢を叶えようとしているのなら、その陰で何だって手伝ってやろうと思えてしまう。テレビやネットでは、時折ニュースで「子供を親が殺害した」だの「育児放棄」だのと痛ましいニュースが今でも絶えることがない。だが、それは「子供を何より愛する」という親としての必要最低条件を満たしていない阿呆がやることであり、そんな者たちは自らを「親」と名乗ってはいけない。子供に何物にも勝る愛情を注げないものは、親ではないのだ。

 子供を何より愛しているから、道を踏み外しそうになったら全力で引き留め、時には厳しい言葉も使って元の道に戻す。だが、尖った言葉も時に見せる冷たい態度も全て愛情の裏返し。最後には無尽蔵の愛が顔を出す。詰まる所、親というのはある種のツンデレなのかもしれない。ユウイチは心の中で苦笑した。

 親にとって、子供の幸せ程幸せなものはない。だからこそ、娘の隣で多くの幸せを分かち合い、生み出し、共に歩んでいたアラタには、感謝の言葉を心の中でかけることしかできなかった。ミサが志望大学のパンフレットを見ながら「アラタもここ行きたいんだって。奇遇だよねー」と少し照れ隠しをするように笑っていたのを見て、ユウイチは微笑ましくなった。

 子供はいつか親の元から離れ、それぞれの人生を歩んでいく。その過程には、多くの困難があるだろう。故に、そこには誰か隣で支えてくれる人が必要なのだ。支えあい、笑いあい、分かち合っていく。そんな、心から共に生きていこうと思えるパートナーを自らの子供が見つけられたのなら、それは親にとっても最高の幸せになるのだろう。

 アラタが、ミサのパートナーになってほしいとは言わない。まだミサにとってもアラタにとっても選択の時間はある。ゆっくりと、一緒に歩んでいける人を探してほしいとは思う。だが、もしミサがアラタと共にこれからを歩いていくと決めたのなら。その時はきっと最高のパートナーになれるだろう。これまでどんな困難も乗り越えてきたあの二人なのだから。

 気づけば、集計を終えていたのにユウイチは気づいた。立ち上がり、軽く伸びをする。外していた眼鏡をかけなおし、明日の営業に向けて商品の陳列をしようとした。

 その時、ふと視界に何か影が映りこんだ。視線を横に向けると、そこにはミサを背負い立ち尽くすアラタの姿があった。鍵は開いていないため、自動扉の前で何もできずただ立ち続けている。

 ユウイチは軽く驚きこそしたが、それ以上の何か特別な反応をするわけでもなく、自動扉のロックを外してアラタとミサを中に入れてやった。

 おぶられているミサに目をやると、なんとも穏やかな寝息を立てている。その目頭は若干赤くなっており、泣いたことを容易に想像できた。だが、不思議と目の前にいる青年が娘を泣かしたのかと想像することはできなかった。

 「あの、すみませんこんな遅くに。ミサがちょっといろいろあって寝ちゃって……どっか寝かせられませんか?」

アラタが軽く汗を流しながら尋ねる。ユウイチが「それならそこのソファに」というと、アラタはソファにミサを優しくおろした。随分と長い距離を背負ってきたのか、疲労の色が見て取れた。持ってきた毛布をソファで眠るミサにかけてやり、アラタを見る。軽く肩を回していた。

 「すまないね、ずいぶんと面倒をかけたみたいで」

「あ、いえ、こんぐらい大丈夫です。……えぇと、じゃあ、俺はここで」

何となく決まりが悪そうなアラタは、軽く会釈をして立ち去ろうとする。ユウイチは、そんなアラタの背中に自然と声をかけていた。

 「……なんすか?」

アラタが少し緊張しているような顔でユウイチを見る。ユウイチはその表情に何とも言えない気持ちを覚え、笑った。

「もうお酒は飲める年だよね? それだったら、よかったらだけどちょっと一杯付き合ってくれないかな。個人的に頼みたいこともあるし」

 アラタは一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべる。実際、このとき彼はいったい何を言われるのかと内心ヒヤリとしていた。だが、ユウイチの笑顔を見て断りづらい空気になっているのも察しアラタは「じゃあ、はい。分かりました」と頷いていた。

 それを見てユウイチは、「ありがとう」とまた笑って見せた。その笑顔に、アラタは何とも言えない畏怖にも似た思いを抱いていた。

 ――これが父親の威厳、というやつなのだろうか。

そんな奇妙なことを考えていたりもしたアラタだった。

 

 

 

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よもやま話、というより作者の雑談

 

 

今回は随分と短くなりました。

 

いつも不安定ですみません。

 

 

さて、まず謝らなければなりません。

 

ミサとユウイチの名字を(独自設定も多分に交じった二次創作小説とはいえ)勝手に設定してしまいすみませんでしたっ!

どうしてもこれから書くうえでミサの家族関係などを掘り下げることになると思い、こうなりました。申し訳ございません……。

 

 

改めてご紹介。ミサとユウイチのこの世界での名字は「ワタウチ(綿内)」です。これは「ミサ」という名字に相性がいい名字の中から程よくマイナーなものを選びました。はっきり言ってかなり適当。

 

 

後、ついでにミサの漢字表記も考えてしまいました。「未爽」です。「爽」という字には(当然ながら)「さわやかである・さっぱりとしている・小さなことにくよくよしない」などの意味が含まれているため、「未来に向かって小さなことでくよくよせず明るく元気に育ってほしい」みたいな意味をユウイチが込めたりしたんじゃないかな……と妄想しました。かなり特殊な感じしますけどね。「未爽」で「ミサ」って。

 

 

それではまた次回。

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