ガンダムブレイカー3 on New ~英雄たちの自由~ 作:鷹峯アオイ
何の告知もなく一時中断してしまい申し訳ありませんでした。
これからはちゃんと仕事しますので、どうかこれからもお願いします。
頬を、叩かれている。誰かが頬を叩いている。その衝撃に、まどろみの中にあった意識が現実に引き戻される。
「おーい、アラタ~。起きろ~。朝だぞ~」
頭上からミサの声が届く。彼女の明るくはっきりとした声が、アラタの酒を飲んだ頭に少しだけ響いた。
起き上がり頭を軽く掻く。風呂上がりろくに髪も乾かさず寝たせいか、完全に寝癖が出来上がっていた。ミサが「ギャグマンガの爆発後みたい」とからかってくる。元から若干癖毛気味で軽くウェーブがかかっている髪型ではあるのだが、あまり笑われ続けるのもいい気持ちがしないので、顔を洗うついでにとかしてくることにしよう。
洗顔のために洗面所に向かおうとして、部屋のレイアウトが違うことに気づく。そこで初めてここが自分が普段住むアパートでないと分かり、アラタは昨日の出来事を思い出した。昨晩のガンプラバトルの後の出来事、コウイチさんとの会話。全てだ。
しかし、なぜ自分はミサの声にはあまり違和感を抱かなかったのか。今までミサと一緒に寝たことなどなかったと思うのだが。……まぁ、いいか。不意に現れた疑問を眠気や目やにと共に冷水で洗い流し、アラタは洗面所を後にした。
朝食を食べ、食後に一杯のコーヒーをいただく。心なしか二日酔い気味だった頭もスッキリしたところで、ミサが声を張り上げた。
「新しいガンプラを、作るよ」
アラタもコウイチも、しばらく声が出なかった。もう一口コーヒーに口をつけて、それでようやくコウイチの方から返事をした。
「新しいガンプラって……。ガンプラバトル用の?」
「それ以外に何があるの」
アラタはコーヒーカップをテーブルに置いて息をつく。
「新しいガンプラ、か。今まで作ったものを使って楽しむ、じゃダメなのか?」
ミサは何も言わなかった。その沈黙は、アラタに言外で伝えてきた。「ダメなのだ」と。俺がそう考えていることも、きっと彼女には伝わっていたのだろう。アラタが立ち上がると、ミサは不敵な笑い顔を浮かべた。
「まぁ、そうだよな。あんな負けたみたいな試合、納得できないよな」
アラタがコーヒーを飲み干す。熱い液体が喉を通り過ぎていき、彼にそれと同じくらい熱い気持ちをくれた。
「やるぞ。新しい機体で、今度は完璧に勝つ」
「そうこなくっちゃ!」
コウイチは、どこか子供を見るような気持ちで二人の若人を眺めていた。手のかかる息子と娘を持ったようでもあり、けれどそれとともにそんな二人に、そんな二人がこれから作り出す作品やバトルに心躍っている自分がいた。
結局、その場にいた誰もが今は大人になり切れていなかった。しかし、その子供らしさこそがガンプラファイターには必要なのだろう。コウイチは、ともすれば言い訳にしかなりえないそんな思いを抱きながら、自分もコーヒーを飲み干していった。
元従業員ロボット、今はオーナーロボットのインフォちゃん。その声が、ゲームセンターにやってきたアラタとミサの二人に届いた。
「いらっしゃいませ。昨日のリベンジですか」
いやいないだろ、そもそもその相手。一応あいつらには勝ってるし。アラタは心で突っ込み口はスルーを決め込んでガンプラバトルシミュレータ、その隣にある談笑コーナーに向かった。大学は今日は休み。無論やましいものでもサボりでもなく、土日なので講義がないというだけ。
土日なので人は当然いる。ゲームセンターは、平日の分を取り戻しにかかっているかのように盛り上がっていた。
「さて、とりあえずゲームセンターにやってきたわけだが」
アラタは自販機で水を二本買ってきて一本ミサに手渡す。期間限定デザインのガンダムボトルが机に二本並んだ。
アラタは一度自宅に戻って持ち出してきたパソコンを机に置く。ワープロソフトを立ち上げ、ミサと向かい合った。
「やっぱまずは研究だよね。ガンブレ学園の生徒の間で、どんな機体がトレンドなのか」
「けど、メタ機体だと強さが一時的になりかねない。どんな相手にでも対応できる汎用性も必要だぞ」
アラタもミサも完全に思い悩む。相反する意見が出てしまうと、さすがに止まらざるを得ない。
「とりあえず、ここ数週間のトップランカーの機体を見てみるか」
アラタはガンプラバトルシミュレーターの横に置いてあるデバイスにパソコンを接続し戦歴データを受け取る。受け取ったデータを開き、機体データを閲覧した。
「これ違法でも何でもないはずなんだが、あまりやっているプレイヤー見ないよな」
「今はスマホで見られるからねぇ。グラフや表にしてまとめるとかでもしない限りやらないでしょ」
そんなものか、と答えながらアラタはデータを取り込み整理し続ける。もともとこういう集計作業が好きでついまとめてしまう性格だったので、ごく自然とアラタは作業を行っていた。
ランキング上位プレイヤーの機体データを整理した表を見て、アラタはため息をつく。
「やっぱり、あまり一貫性はないな。各々好きなガンプラを使ってる」
「まぁ、それがガンプラバトルだし」
結局何も変わっていないことを感じて、アラタもミサも机に突っ伏してしまう。振出しに戻る、だ。
「そもそもどういう路線で行くつもりだ? アザレアをさらに発展させるのか、新たな機体を作るのか」
ミサはさして悩む様子もなく「発展で」と答える。それを聞いて、アラタはパソコンにアザレアリバイブの3Dデータを呼び出す。
「すご、こんなの作ってるの」
「最悪これがあれば今は3Dプリンターで間に合わせの部品を出力できるからな」
正面から、側面から、背面からといくつかの視点でアザレアリバイブの立体データをキャプチャし画像としてペイントソフトで開く。パソコンを折りたたみタブレットモードにして机に広げた。
ミサにペンを手渡して画面を見せる。
「とりあえず、今の機体をどう改造するのかここに描きこんでみてくれ」
その間俺は観戦してくる、とアラタは立ち上がる。一人残されたミサはペンを片手にタブレットとにらめっこを始めた。
ミサから少し離れてガンプラバトルの様子をモニターでバトルを観戦しようとしていたアラタは、モニター前に人だかりができているのを見つけた。騒ぎ声も聞こえる。何やらトラブルが起きているらしい。
ふと、人ごみの中から子供たちやインフォの声に交じり聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ねー、モニターまだ? バトル終わっちまうよ~」
「うるせぇな、1バトルぐらい待ってろよ」
「カドマツ様、もうそろそろ修理を終えていただかないと営業に支障が」
「わかってるっつーの! ったく、落ち着いて作業させてくれよ」
「……何やってるんすか、カドマツさん」
アラタに声をかけられた男性――無精髭を生やし、白衣をダボっと着こなした中年の男性――かつてアラタやミサとともにガンプラバトルがらみの騒動を解決したエンジニアのカドマツは、以前より若干濃くなったようにも見える髭と隈、そして皴が刻まれた顔をアラタに向けた。
「んぁ? よぉ、お前さんこそ、何してんだこんなとこで。……いや待て。お前さん、確か工学系に行ったんだっけか」
修理に戻りかけてアラタのことを認識したカドマツは、面倒ごとからは逃げようとしたアラタの手をつかんだ。
カドマツに手を引かれたアラタは、工具箱を手渡される。手伝え、ということなのだろう。
「駄賃いただきますよ」
「きっちり仕事したらな」
カドマツが求めるままに箱から工具を手渡す。工具の名前しか言ってこないが、幸い判断はそこまで難しくはなかった。
カドマツがモニター下の配線箱を開ける。中をライトで照らしたカドマツはふぅ、と息をついた。
「やっぱりな。中の配線が焼ききれてる。何やらかしたんだ……?」
「水でもこぼしたんじゃないですかね。配線箱の縁に若干水垢が見えますよ」
アラタは観察して得た率直な意見を述べる。カドマツはなるほどな、と頷くともうひとつのボックスから替えの配線を取り出し慣れた手付きで再接続を行っていた。
修理をしながら言葉をアラタに投げ掛けてくる。口にラジオペンチを咥えているのにどうやってこんなに明朗に話せているのか。そして、話しているのになぜペンチは落ちないのか。アラタの疑問は尽きなかった。
「さっきも言ったが、お前さんなんでこんなところにいるんだ? 大学生だろ?」
「今日は講義ありません。……ちょっとガンプラバトル、というかバトルの研究に」
配線箱を元通り閉じてカドマツが立ち上がる。
「そうか。ってことは、ミサの嬢ちゃんもどっかにいるのか?」
アラタは指で談笑コーナーを指す。カドマツがニヤリと笑った。
「よぉし、悪いがさっきの話はナシだ。ここで駄賃はまだやらん」
工具箱を手早く片付けて、くたびれた白衣のエンジニアは質の悪い笑顔をアラタに向けた。
「嬢ちゃんも呼んでこい。お前らにしか頼めなさそうな仕事があるんだ。ちゃんとやったら、ランチ一食分ぐらいのギャラはくれてやる」
絶対面倒な仕事押し付けられる。ランチ一食では割に合わないくらいの。アラタは無表情のままそう確信した。
カドマツにミサとともに連れられた、と言うより拐われたアラタが着いたのは、隣町のハイムロボティクス研究所だった。
研究所も隣接されたオフィスも随分と大きく広くなっている。以前見に来たときとは、もはや別物のようであった。
「前、こんなだったっけ?」
ミサが目をしばたたかせる。その反応も致し方なし、とアラタも自分の目を疑いたくなりながら頷いた。
カドマツが妙に胸を張りながら手を広げる。
「あの大会でお前達のエンジニアになる時、ガンプラにうちのロゴ入れさせただろ」
そんなことあったねぇ、とミサが頷く。確かに、今は外したが、ガンプラの肩にハイムのロゴを入れていたことがあった。彩渡商店街の文字とともに、ハイムロボティクスの会社ロゴも入れていたのを覚えている。騒動が解決した後TV中継の映像を見てみると、テレビ局側も分かっていたのかあからさまにロゴをしっかり映すカメラワークを行っていた。
「お前さん達があれ背負って世界で大暴れしてくれたお陰で大会終了後からうちの売り上げも株価もうなぎ登りでな。おかげさまで、ウハウハだったよ」
「その割には、漂う貧乏研究者感は抜けてないよね」
「ほっとけ。これが俺のアイデンティティなの」
ミサのからかいにカドマツはしかめ面を返す。
カドマツの雰囲気はともかく、確かにハイムロボティクスは企業としてこの数年で成長を遂げていたようだ。施設が拡張されているのはもちろん、各所に設置された最新鋭の出退勤管理システムがそれを物語っていた。
ふと、オフィス入り口前に設置されたオブジェにアラタは目をやる。そこまで大きくはなくとも目を引くそれは、騎士ガンダムの像だった。
「これ、ロボ太……?」
ミサが青銅製の像に歩み寄る。まだ新しいそれは、日の光に照らされ兜や鎧が煌めいていた。
「まぁ、うちとしては一番の功労者は紛れもなくこいつだからな。表向きにはうちの主力商品をアピールといった目的だが」
今もまだ、宇宙のどこかを漂っているかもしれない自分たちの大切な仲間。宇宙エレベーターでの事件以降、いくつかの宇宙開発会社が捜索活動を行ってはいるようだが、広い宇宙の中からたった1メートルかそこらのトイボットを探しだすのは砂漠の中で指輪を見つけるようなものだ。いや、砂漠はまだ上下の制約があるからマシかもしれない。あの暗黒の空間には、西も東もなければ空も地もないのだから。
「ロボ太が今のバトルを見たら、どう思うのかな……」
ミサがポツリとこぼす。カドマツはバツが悪そうに頭をかき、そっぽを向いた。
「まぁ、いい反応はしないだろうな。けど──」
カドマツはいったん言葉を切り、ブロンズの像を優しくなでる。
「ガンプラバトルがあくまで『遊び』である以上こいつらはそれを否定はできない。トイボットは玩具(トイ)であり、遊びのための存在なんだからな」
たとえ今のガンプラバトルが楽しさを越えた何かに染まりかけていても、それは戦いではなく遊び。遊びを否定すれば、トイボットは自分で自分の存在理由を否定することになる。カドマツは、やりきれない思いをにじませながら言葉を吐き出していた。
話し終えたカドマツが首を振る。アラタとミサを手招きした。
「っと、こんなんじゃあ空気が重くなるばかりだな。とにかく行くぞ。研究所だ」
「研究所……?」
ミサが首をかしげる。いよいよ呼ばれた理由が分からなくなっていた。
「おう。とびっきりワクワクするやつを見せてやる」
カドマツに渡されたゲストパスを使ってアラタとミサはハイムロボティクスの第1研究室に入っていく。その先にあったのは、2基のガンプラバトルシミュレーターだった。
「どうよ、これが今年のガンプラバトルチャンピオンシップから導入予定の新型シミュレータだ」
アラタは近寄ってしげしげと筐体を見つめる。一目見た感じ、そこまで前世代機との違いがあるようには見えなかった。
「これ、何か変わってる?」
ミサがアラタの思いを代弁する。カドマツはその反応を待っていたと言わんばかりにモニターの電源を入れた。
「確かに、外側は大して変わってない。だが、中身はまるで違うものになってるぞ」
カドマツはシミュレータにも電源を入れる。システム音声が正常に起動したことを知らせ、光が二人を手招きするように灯った。
カドマツがアラタに手を伸ばす。アラタはその仕草が意味するところを感じ取り、背負ってきたバックパックに手を入れた。
「事前に頼んでいたスクラッチビルドのガンプラはちゃんと持ってきたみたいだな」
カドマツに頼まれ一度自宅に戻ったアラタは、昔作ったガンプラを一つ引っ張り出してきていた。指定された条件は「ガンプラとしては発売されていない機体」だった。
アラタはガンプラの入った箱をバックパックから取り出す。その中に収められていたのは、青と白、そしてクリアグリーンに彩られたガンダムだった。
「これは……エクシア?」
「ガンダムエクシアリペアⅣ、だな。正確に言うと」
ガンダムエクシアリペアⅣ。朗読劇「機動戦士ガンダム00 Re:Vision」に登場した機体であり、ガンダムマイスターとなったグラハム・エーカーが駆る機体。その144分の1スケールモデルだった。
「これガンプラでは出てなかったっけ?」
「『METAL BUILD』っていう完成済みモデルシリーズでなら出てる。ガンプラとしてではHGでもMGでも発売されてない」
アラタからカドマツはガンプラを受け取る。それを、新型シミュレータのほうへ持っていった。
「もうちょっと奇抜な奴でもよかったんだけどなぁ。まぁ、いいか」
パソコンでいくつかのデータを打ち込んだ後、カドマツはシミュレータ内部、ちょうど操作用レバーの間に位置付けられたスペースに《ガンダムエクシアリペアⅣ》を収める。上部からシャッターのようなカバーが下りてきて、機体を完全に隠してしまった。
「これで準備OKだ。モニター見てな」
カドマツに促されるままにアラタとミサは画面を見つめる。シミュレータ側のシステム音声が淡々と告げた。
「スキャン完了。登録機体名、『ガンダムエクシアリペアⅣ』」
そうしてモニターに真っ暗な宇宙が映る。見たところガンプラバトルの宇宙ステージのようだったが、何が起こるのかアラタもミサも全く分かっていなかった。
その時、いきなり画面を青と白の二色が埋め尽くす。カメラが引くと、そこには《ガンダムエクシアリペアⅣ》が大モニターに大写しになっていた。
アラタはそこまでの流れからうっすらと予想する。「スキャン完了」の音声、手渡したガンプラ、そして映っているガンプラ。何より、うっかり失敗してそのままにしていた左腕部GNコンデンサーの形状が失敗したままになっている。
「まさか、これ──」
「そのまさかだ。正真正銘、お前さんのガンプラだよ」
カドマツの声と同時に、唐突にモニターが暗転する。シミュレータが「バトル中止、バトル中止」と繰り返していた。
シミュレータから出てきたカドマツがアラタにガンプラを返却する。アラタの手に収まったそれは、数分前にアラタが手渡したものと何の変わりもなかった。
「カドマツ、これって!」
ミサが興奮気味に叫ぶ。カドマツが誇らしげに胸を張った。
「おう、これこそが次世代ガンプラバトルシミュレーターの魅力! 自分で作った機体をまさにそのままゲーム内に持ち込める、AI併用3Dスキャン式アセンブルシステムさ」
ミサが感嘆の息をこぼす。アラタも、内心驚きと興奮が止まらなかった。
今までのバトルシステムは、すでに発売されているガンプラのデータを使って作られたデータベースを基にしている。故に、例えば《MSA-120》や《ザクスピード》など、ガンプラ化されていない機体は基本使用できず、またそもそもカスタマイズ元が存在しないフルスクラッチ作品などもゲーム内には持ち込めなかった。その為、熱心なガンプラビルダーからのガンプラバトルシミュレーターに対する評価は芳しくはなかった。
「でもこれなら、今までできなかったようなカスタマイズがゲーム内にも反映できる」
アラタも躍る心を抑えながらつぶやく。カドマツが微笑んだ。
「正直な話、ガンブレ学園の影響力はすさまじいものがある。あの学園の設立からして大物政治家や富豪どもが何人も絡んでいるからな。あそこが下したガンプラがらみの決定を覆すのは、今の日本どころか世界で見てもなかなか難しい」
カドマツはふぅ、と息を吐いてシミュレーターに手をつく。
「だから、それを覆すにはあいつらの土俵に立つしかない。交換条件でこのシステムの導入は認めさせたのさ。ブレイクバトルシステムを日本大会以上に適用することと、な」
アラタはなるほど、と納得する。ガンブレ学園の過激派が掲げているのは「己の作品による戦い」「大切なものをかけた戦い」だ。自分が作った作品がそのまま投影される、というこの新システムは彼らの掲げる理想にもうまく波長が合わせられていた。
それに、とアラタはかすかな期待を抱いていた。今までのシステムではコンテストに応募するようなビルダーたちの独創性ある機体の一部が参加できず、それ故にある種の敷居の高さを生み出していた。
「カドマツさん、これビルドシリーズのやつとはちょっと違うんでしょ?」
「あぁ。機体を3Dスキャン、AIを使ってゲーム用のボーンを設定する仕組みだが、作品の出来栄えは問われない。塗りが下手くそでも接着が甘くても初期パラメータに影響はねぇよ」
だが、これなら今まで参加できなかったハイクオリティビルダーや小さな子供でも参加しやすくなっている。多様性が広がれば、それはガンプラバトルを「遊び」或いは「交流の場」に戻しやすくなる、ということでもある。
ミサが目を輝かせながら新型シミュレータを見つめている。そして彼女は振り返り、アラタに詰め寄った。
「やろう! これで、ガンブレ学園を倒せば、またバトルが元通りになるかも!」
カドマツは少し呆れたような表情を見せながらも、彼もまた少しだけ心を再び熱くしていた。
「ま、そういうことだ。完全にブレイクバトルは無くせんかもしれんが、それでも俺たちみたいな層が勝ち進めば今のガンブレ学園が推し進める方針に対する疑問が自ずと世間から生まれてくる。つまり、今まで通り勝ち進めばいいってことさ」
アラタはミサに笑い返す。すでに、彼の中は燃え滾っていた。
「あぁ、やろう。俺たちが好きだった自由を、もう一度取り戻すんだ」
自然と、三人の手が重なっていた。誰ともなく掛け声が流れ、手が研究室の空に舞い上がる。彩渡商店街チーム、再始動の瞬間だった。
さてと、とカドマツが底意地の悪い笑みを見せる。アラタとミサは、背筋に何か寒いものが走るのを感じた。
「これで話は決まったな。実は、お前らに言ってないことがあった」
嫌な予感が、する。アラタもミサも、滾っていた心が一瞬で冷えていくのを感じた。
「実はこのシミュレーター、完成度としては9割。後は軽度のバグチェックを行う程度だ。だが」
カドマツは二人の男女の肩に手を置く。予感が、確信に変わっていた。
「動作チェックのためにテストプレーヤーが必要。だが、これはまだ未発表だから外部の人間にはそうおいそれと頼めない。つまり……?」
カドマツは二人の前に立ち堂々と宣言する。
「お前ら二人をこの次世代シミュレータのテストプレイヤーに任命する! 大会予選開始まであと8ヶ月。なので、二人には1ヶ月でスクラッチビルドの機体を一機ずつ作ってチェックに参加してもらう!」
アラタがフリーズした。ミサも、開いた口がふさがらなかった。
先に声を上げたのはミサだった。
「ちょ、ちょっと! あと1ヶ月とか無茶過ぎない?」
「なに言ってんだよ。世界大会出場のスーパーコンビならできるだろ。大学も、あと少しで夏休みだろ? いけるって」
「夏休みって……わたしもうすでにバイト入れちゃったよ? アラタも! ね?」
「仕事しながらやるなんて社会人の基本だ。今から体験しとけ。バイト以外の時間、遊んだりなんだりの時間を削ればいいさ。最悪眠らなきゃいい」
「さ、最悪だぁ!」
ミサが絶叫する。アラタは、自分の目が死んでいくのを感じていた。
後、1ヶ月。予選まであと8ヶ月。アラタとミサにとって、人生で最も忙しくなるであろう夏がやってこようとしていた。