――――らしくない。
部室で事務仕事をしながら姫島朱乃はため息を漏らす。それを専用のデスクから眺めていたリアスが隣にいる一誠に小声で喋る。
「朱乃ってばこの間からずっとあーなのよ。もうため息ばかりで」
「なんか悩みとかでもあるんですかね?」
姫島朱乃のことを詳しくしる人物はこの学園内でも自分を置いてはいないとリアスは自負しているつもりだ。彼女とは割と古い付き合いだし、なにかと一緒に行動することも多かった。だからこそ知りうることもたくさんあるし、知らないことなどほとんどない。
筈だった。
だが今彼女がどうして上の空なのか全く判断が付かない。どうしたものかと思考錯誤しているとお茶が二つ分運ばれてきた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう。アーシア」
リアスにより再び悪魔として蘇ったアーシアは現在リアスの計らいで駒王学園の生徒として一誠や聖一と同じクラスにいる。ちなみに家をもたない彼女は今のところこの部室にある部屋を使って生活をしている。
お茶を一口。お菓子が欲しいと思う二人だがあいにくとまだ聖一は来ていないためそれもない。朱乃に頼もうにもこの状態。早く何とかしなければあの麗しのティータイムまでなくなってしまうという些細な、ホント些細な悩みにリアスと一誠は全力で思考を働かせる。
なにかイイ手はないものか。そう考えている内にドアが開く。入ってきたのは聖一と―――――レイナーレこと天野夕麻だ。一誠の「よ」という声と手に同じように返す。その後ろで夕麻が一礼する。あの一件以来随分と丸くなったものだとリアスは軽く驚く。
そういえば、この子は今どこに住んでいるのだろう?
目論見が明るみになった以上、あの教会にもいれないし、一人でいれば狙われることもあり得る。堕天使の内部事情は詳しくは知らないがそれなりに結構ギクシャクしているらしいと聞いたことがある。そんな彼女がいくらなんでも一人でいるのは危険なのでは?と思う。
このリアスの疑問は割とすぐに解決することとなる。
「レイナーレさん、今日の夕飯はなにがいい?」
「えっと・・・・この前のシチューがいい、かな・・・・」
「わかった。じゃあ帰りに買い物してから帰ろうか」
「うん」
今晩はシチューか。そういえば最近ちょっと食べてないなぁと思いつつ3人は「うん?」と首をかしげる。
・・・・帰りに買い物してから帰ろうか。そして今日の夕飯の献立を訊いた。たしかに訊いた。レイナーレの頬も心なしか赤い。となれば、導き出される答えは一つしかない。
「えちょっと待って。聖一、まさかあなた彼女と・・・・」
「はい。一緒に住んでます」
「「「なんですとおおおおおおおおおおおお!?」」」
「てことはおまえ、まさか夕麻ちゃんと一つ屋根の下なのか!?」
「念のために言っておくけど、一誠の想像してるようなことはこれっぽっちもしてないから」
「なーんだ、残念」
「どうしてそこで残念がるのさ・・・・」
「でも一緒に住んでるってことはそれって、どどどど、同棲ってことですよね?」
「アーシアもヘンに解釈しないで」
「聖一、あなた朱乃というものがありながら・・・・」
「部長もヘンなこと言わないでください。というかもうツッコミ疲れたんで休んでいいですか?」
深くため息をついてソファに座る。その横をちゃっかりとレイナーレがキープするあたりますます怪しい。そこで、三人は気づく。もしや朱乃ため息の原因はコレなのかと。だがここで一誠は以前聖一が言っていたことを思い出す。
――――朱乃先輩はお姉さん、って感じかな。
そう、聖一にとって朱乃は幼馴染のお姉さんという認識だ。これを踏まえるとそんなことはないような気もする。だが、明らかに彼女の視線は二人に向いているし、心なしか若干纏っている空気も変わってきているのを見てリアスは思う。
これが修羅場か、と。
そしてそれにまったく気づかない聖一はある意味すごいとしか言いようがない。流石はアギト・・・・いや、これは関係ないか。とにかく、このままでは我らが憩いの時間もこのぎくしゃくとした雰囲気のままでは気が休まらない。なんとかせねばと再び思考の海に潜るもいい案など出るはずもなく。
「聖一君、今夜は私もいいかしら?」
「はい。人数が多い方が食事も楽しいですから。ね?レイナーレさん」
「う、うん・・・・」
修羅場は、激化をたどりそうな勢いだ。
◇
レイナーレが聖一と住むようになってから一週間ほど。距離あったアーシアやほかのメンバーともなんとか打ち解けたはいいものの聖一は悩みがあった。それは今この状況である。
(どうしてこの二人はこんなにも仲が悪いんだろう・・・・?)
バチバチと火花を散らすのがなんとなく見える気がする。別に険悪な仲という仲の悪さではなく単に馬が合わないとか、そんな感じなのだがこういう会話内容になった時はいつもこうなる。どうにかして仲良くしてもらいたいが打つ手がない。リアス同様頭を悩ませる聖一の耳にチャンスともいえる言葉が飛び込んできた。
「聖一君、今夜は私もいいかしら?」
渡りに船とはまさにこのことだと内心ガッツポーズ。これなら、きっと二人の距離をグッと縮められるかもしれないと聖一は快諾する。日本には古来から同じ釜の飯を食うと云々ということわざがある。きっと二人も同じ釜の飯を食えばきっと仲良くなるはず!
・・・・食べるのはシチューだしそもそもレイナーレは堕天使。このことわざが通用するのかと疑問に思ったがここはあえて深く考えないようにしようと思考を切る。
「聖一のシチュー・・・・ああ、腹減った」
「私も・・・・今夜は私もお邪魔しちょうかしら」
「部長、それは流石にやめた方がいいんじゃないですか・・・・?」
3人のそんな会話もよそに聖一は頭の中でシミュレーションを繰り返す。
さて、楽しい夕食にしよう。そう考えながら。