ハイスクールD×Ω   作:tubaki7

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episode11

「“朱乃姉ちゃん”、その人参取ってくれる?」

 

「はい聖一君。…あら、ジャガイモどこかしら?」

 

「ああ、それはそこの袋の中だよ」

 

 

リズム感のいい人間ならばこのリズムに歌詞でもつけて脳内に歌を流しながら暇をつぶしていることだろう。だがあいにくと自分はそこまで器用じゃないため現状暇を持て余してるような状況だ。キッチンにはエプロンをした朱乃と聖一の二人。その姿は仲のよい姉弟のようにも見え・・・・仲の良いカップルにも見えた。

 

 

面白くない。

 

 

理由は特にあるわけじゃないがなんだか面白くない。見ているのもイヤなのでとりあえずテレビをつけてみる。電源が立ち上がり今朝の状態で放置しておいたためチャンネルはそのまま、ニュースをやっている。美しく、だが清楚に着飾ったレディースーツを着こなして口に淡くルージュをひいている。真珠のネックレスが自己主張しすぎない程度に首元で輝き彼女の端正な顔立ちを引き立たせる。

 

綺麗な人だな――――それが率直な感想であり、その姿と雰囲気は彼女、姫島朱乃に重なる。きっと彼女をもうちょっと厳格にしたらこうなるんだろうなと思う。同じ女性としては羨ましく思う。・・・・とくにその女子力の高さとか、胸とか。

 

 

(なに考えてるんだか・・・・)

 

 

ため息をついてテレビの電源を消す。右手で頬杖を突ついて特にやることもないのでボーっと二人の姿を見る。うん、やっぱりカップルにはちょっと違うかな。姉弟の方がシックリくると眺める。眺めていると聖一と目が合い、彼が微笑みかけると照れくさくなって顔を逸らした。

 

「できたよ」と一声が聞こえてパンに入ったバスケットとシチューが運ばれてくる。マットと皿、そしてスプーンなどの食器などを並べて席に座る。聖一の隣に朱乃が、聖一の正面にはレイナーレが座っている。

 

頂きますと一声。それぞれ食べ始める。初めてここに来たときも口にした食事は今日も変わらない味で、なんんだか安心する。

 

 

「・・・・おししい」

 

 

そんな言葉が自然と口から出た。無意識に、完全に意識しないででた言葉に恥ずかしくなり慌てて口を押えると二人はニヤニヤとした顔で此方を見ている。なおのこと恥ずかしいと再び顔を逸らした。そこで、レイナーレはふと思考する。こんな風に食事をするのは、どれくらいぶりかと。

 

・・・・いや、そもそもこんな機会などなかったような気がする。酷く曖昧な記憶はそれほどレイナーレにとっては自らの地位を押し上げることがどれだけ重要だったかを意味していた。他のことなどどうでもいい。今にも崩れそうな居場所を繋ぎ止めたくて、自分という存在を認めさせたくて求めた結果は、いつしかこんな風に予想だにしない形で歪んだ。コレをよかったと言えるかと言われれば否と答える。

 

払った犠牲は大きい。犯した罪はまた大きい。命を、名誉を、そして心を傷つけてきた自分には身に余る幸福だ。

 

だからこそ、レイナーレは改めて思う。ここは自分のいていい場所じゃないと。

 

 

「・・・・レイナーレさん?」

 

 

名前を呼ばれ顔をあげる。心配そうに覗き込んでくる二人に大丈夫と冷静に答え、シチューを一口。旨いと感じても、それ以上のことは感じることができない自分が、どこか空っぽな気だしてならなかった。まるで、何もないかのように。

 

 

「・・・何か悩み事かしら?」

 

 

朱乃がいつもの調子でにこにこしながら此方を見てる。それに嘘はつけないと野生の勘的なもので判断し、ありのままを答える。

 

 

「・・・・正直、私はここにいるべき存在ではないと思う。あなたに優しくされる資格はないし、こうして生きることもホントはおかしいと思う。今にも夢で見るのよ。こことは違う、別の世界の私は、騙したイッセー君をまた騙そうとして失敗して――――リアス・グレモリーに消滅させられた。それを見て以来、本当はそっちが正しくて、この今あるこの時間が偽りのものなんじゃないかなって・・・・そう思うの」

 

 

レイナーレの独白に聖一は真剣な顔つきをした後、両肘をついて目を閉じる。笑みを浮かべ、彼が口を開いた。

 

 

「・・・・レイナーレさんは、このシチューを食べてどう思った?」

 

「・・・・おいしい」

 

「ん。でもね、死んじゃったら、おいしいって感じたり誰かとこうしてご飯を食べることもできなくなっちゃうんだ」

 

「・・・・」

 

「一人ぼっちも同じだよ。確かにレイナーレさんは悪いことをした。それは多分、きっと許しても許されないことだと思う。だけどそれだけで僕はあなたを否定できないししたくない。だって、“僕も知ってるから。一人ぼっちの寂しさや悲しさ”は。だから、かな。ちょっとだけレイナーレさんの気持ちがわかるんだ。抱えてるものとかはわからないけどね」

 

「・・・・だから私を助けたの?結局同情だったわけね」

 

「・・・・」

 

「黙ったってことは肯定と受け取るわよ?ま、あんたは所詮その程度よね。さっきから綺麗ごとばかり並べて、それで済むならなにも起こらないわよ」

 

 

失望した、絶望した、そんな気持ちを孕んだ言動にバカにしたような印象を受けた朱乃は怒って立ち上がろうとするが、それを制するような、大丈夫だと言いきかせるような声の柔らかさで聖一が言う。

 

 

「綺麗ごとだよ。だからこそ現実にしたいじゃない、誰だって悲しいことなんて起きてほしくないもん」

 

 

その笑顔に曇りはない。いや、それどころか奥になにかあるような、そんな感じさえしてくる。レイナーレはそれを感じ取って座りなおす。そのままの姿勢で、聖一が続けた。

 

 

「生きることはおいしいってこと。僕のお父さんが言ってた言葉なんだけどね。最初はわからなかったけどいまならそれがよくわかるんだ。僕の作った料理を食べてみんながおいしいって言ってくれる。おかわりって言ってくれる。それがすごく嬉しいんだ。でも、独りぼっちになったり死んじゃったりしたら、それもできなくなっちゃうんだよ。・・・・だから、僕はこう思うんだ」

 

 

目を開き、レイナーレをまっすぐ見つめる。その瞳に、迷いや曇りはひとかけらもない。あの彼と、同じ目だ。

 

 

「誰かの涙は見たくない。みんなに笑顔でいてほしい。僕も昔色々あってね。大切な人から大切なものを取っちゃって。でもその人は僕のことを誰よりも心配してくれるんだ。…僕の役目は、その人や周囲の人たちが笑顔でいられるようにする。それが僕の罪滅ぼしであり、贖罪なんだ。・・・・でも、レイナーレさんを笑顔にできないのが、ちょっと悔しいかな」

 

 

そう言って苦笑する聖一。

 

 

「・・・・なによ、それ。メチャクチャじゃない」

 

「よく言われる。でもこれが僕の気持ちだよ。堕天使とか、天使とか、悪魔とか人間とか関係なしに僕はみんながいるこの世界が好きなんだ。だから僕はきみもここにいてほしい。我が儘だけど、僕がそう思ってるんだ。“ただいま”って言ったら“おかえり”って返してくれる。“おかえり”って言ったら“ただいま”って言ってくれる。それがすごく嬉しくて、涙が出るくらい幸せなんだ。そこにレイナーレさんもいれくれたら、それは凄く素敵なことだって。そう、思うんだ」

 

「・・・・」

 

「・・・・なんてね。これはある人からの受け降りなんだけど、でも気持ちは本当だよ。レイナーレさんが初めて僕のシチューをおいしいって言ってくれた時本当は凄く嬉しくて泣いちゃうくらい嬉しかったんだ。だから――――」

 

 

テーブルに無造作に置かれたレイナーレの左手を握る。そして反対側の手は朱乃が握り、二人は顔を見合わせ「せーの」と小さく声を合わせ、

 

 

「「おかえりなさい」」

 

 

そう、呟いた。握られた手は凄く綺麗で、優しくて。温かさが肌のぬくもりと一緒に心に染みわたるのを感じて、次に感覚がとらえたのは朱乃により口に半ば強引に放り込まれたシチューの味。「どう?」訊かれた。「おいしい」と照れ隠しで言うと二人は凄く嬉しそうな顔をしたのを見て思う。

 

 

 ああ、これが生きるってことなんだ

 

 

始めて感じたものだらけで心と頭の整理がつかない。彷徨ったモノは行き場を失くし、滴となって体外に流れる。

 

 

「おいしい・・・・おいしい・・・・あんた、料理ウマすぎなのよ、毎回食べさせられるこっちの身にもなってほしいわ」

 

「褒められたのに貶された!?」

 

「あらあら、困ったものねぇ」

 

 

のんびりとした朱乃の声とは裏腹に顔は笑顔。あたふたする聖一と、泣き笑いでシチューを食べるレイナーレ。歪かもしれない。だけどそれは確かな“生きる”という意味であり、形で。これを見たかつての“仲間”は自分を責めるだろうか?それとも祝福してくれるだろうか?

 

どちらでもいい――――というわけにはいかないのだろう。

 

 

 

でも

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

今は亡き友に届くように。呆れるくらいに、愚かなくらいに――――誇れるように。

 

 

 

 

だから私はここにいます。元気です。

 

 

「後でレシピ教えて。今度は私がつくるわ」

 

 

笑顔で、そう言った。




感動的な場面は描くことができない。どうか生暖かい目で見守ってください
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