――――部長に夜這いされた。
そう聞かされた天野夕麻ことレイナーレは戦慄した。今朝、珍しく聖一が早かった為兵藤一誠ともに登校した彼女は我が耳を疑う。それもそのはず、彼の言う部長とはまごうことなきリアス・グレモリー。公爵であり、純潔悪魔の銘家であり次期グレモリーの当主。その振る舞いは気高く、そして美しい。まだ未熟な面はあるものの、それでも一族の長としての器であると、レイナーレは評価していた。そんな彼女が、自分の眷属、ましてや一番下っ端の
そして、今は放課後。いつも通り旧校舎に向かい、オカ研の部室の前まで来る。そこには、何故か扉の前で顔を俯かせている聖一の姿があった。今朝から今まで聖一と会話する機会がなかったせいか、自然と足取りは軽くなる。声をかけようかというところで聖一も気が付いたのか、こちらに向かって笑顔を向ける。
しかし、その笑顔がいつもと違い、緊張感を帯びているものでることに気が付かないほど、彼女はこの少年と長く一緒にはいない。
「・・・どうかした?」
「・・・うん」
察してくれて助かったとばかりに、今度は力なく微笑む。
「・・・レイナーレさん」
「なによ、急に改まったような声でして」
「今から僕のすること。そして言葉を、どうか見守っていてほしい」
「え、ええ・・・」
了承の意を返すと、何やら意を決した面持ちで扉を開く。そこには、いつものメンバーの他に見たことのない姿が複数存在した。ソファにいかにも偉そうに足を組んで座っているガラの悪い男。そして、リアスの傍らで佇むメイド服姿の女性。特筆すべきは、男が女と濃厚なキスをしていてそれを見ながら一誠がハンカチを「キーッ!」と噛みしめていることだろうか。兎に角、カオスなことこの上ない。
「・・・ん?リアス、これはなんの冗談だ。人間がこの場にいるとは聞いてないぞ」
「彼らは私の協力者よ。二人とも、驚かせてしまってごめんなさいね」
いつもと違う。レイナーレは謝罪するリアスの顔と声を聴いて瞬時にそう判断を下した。いつものようなふてぶてしいまでの凛々しさはどこにもない。例えて、一番近い言葉を選ぶのであれば・・・・うんざりしている、といった感じだろうか。
しかし聖一は、その域ではない。彼の表情は・・・そう。
「協力者?人間がか」
「ここは人間界よライザー。協力者に悪魔以外がいてもなんら不思議じゃないはずよ」
「そうじゃない。
含みを持たせた言葉に、この態度。そして先ほど聖一に向けた目。ムカつく・・・それが、レイナーレと。一誠、そして朱乃の共通意見だ。
「純潔悪魔の俺達が、これから婚約の大事な日程を決めようって時にどうして彼をここに呼んだんだ。おまけにそっちの女。見た目は好みだが、転生させた様子もない。なぜ堕天使までいる」
威圧するような目つきがこちらに向けられる。その鋭さ、以前の自分なら汗の一つでもかいただろうが、今となってはこの程度、普通にスルーできてしまう辺り多分感覚が狂ってると思う。主に、目の前の少年のおかげで。
「言ったはずよ。彼らは私の協力者。ひいては友人よ。距離感の近しい人物を呼ぶくらい許容してもいいと思うのだけれど。・・・それとも、フェニックス家の三男ともあろう男がそれぐらいの度量の広さも持ち合わせていないわけ?」
挑発と嫌味。あ、コイツこの男嫌いだとわかるには充分すぎるほどの言葉を、リアスはライザーに向けて言い放つ。
「・・・フン、まあいい。で、どうするリアス。俺は明日からでも構わないが?」
あからさまに話を反らした。此奴意外とビビりか?
「何度も言わせないで。私は貴方と婚約する気なんて毛頭ないわ」
「そうも言ってられないだろ?君の一族、グレモリーの家だって今は傾いてしまっている。君のお兄様もお父様も、今回の話は推してくれているんだ。その恩威に報いる為にも、了承したらどうなんだ?」
「私は、自分に相応しい相手ぐらい自分で決めるわ。それに、貴方のそういう表裏の隠し方が下手な会話は聞いていて不愉快なのよ」
イライラが頂点に達しそうだと言わんばかりにリアスは組んだ腕から伸びる綺麗な指を小刻みに動かし始めた。彼女が機嫌が悪い時、決まって右人差し指がこのリズムで動く、と聖一は内心苦笑いで二人に会話を聞く。
「そうだそうだ!大体、さっきからアンタ部長のおっぱいばっかり見すぎなんだよッ!」
イッセー、野次を飛ばすならもう少しマシなこと言ってよ。そう言ってやりたいがこの場に流れる張りつめた空気がそれを許さない。・・・改めて、こういう場合でもブレない彼は心底凄いと思う。
「それに、ずっと聞いてれば家だの純潔だのって・・・アンタ部長のこと想ってるならもっとマシな口説き方ぐらいできねーのかッ。その程度、三下ナンパ師でもしねえっつの」
嫌味たっぷりでこちらも煽る。が、リアスと会話している時とは違い、ライザーは眉をピクリと動かし、眉間に僅かな皺を寄せる。そしてだらんとソファの背もたれに垂らしていた腕を肩程まで上げ、紙飛行機でも飛ばすかのような仕草をすれば。
瞬間、一誠の躰は宙を舞った。何が起こったか理解できぬまま一誠は肺の中の空気を押し出され、壁に叩きつけられて床に伏せる。自分達の中で唯一スピード特化の祐斗でさえ、そのスピードを捉えることができなかった。
「兵藤君!」
祐斗が駆け寄る。見たところ、鳩尾を殴られて吹っ飛んだようだ。
「いい機会だから教えて置いてやろうリアス。これが、今の俺と君の差だ。ちなみにそいつはポーン。つまり、お前とクラスは一緒だ。ま、格は違ったがな」
ニヤリと口角を歪めるライザー。煽られ、怒った気持ちは理解できる。だが、これはやりすぎだ。そう思った聖一は一歩前にでる。
「あん?」
「・・・イッセーの言葉が悪かったのは、認めます。でも、暴力に物を言わせるのは人としてどうかと」
「生憎と、俺は悪魔でな。欲しいモノは力ずくで奪う。そして気に入らなければ力でねじ伏せる。そういう社会なんだよ、悪魔ってのはなァ。よかったな人間。少しは利口になれたぞ」
「だとしたら、貴方は余程の三下だ」
「・・・なんつった?」
「三下だと言ったんです。少なくとも、僕の知っている悪魔は例えどんなに後ろ指刺されようとも、自分のしていることに誇りを持ち、決して危害を加えるよなマネだけはしなかった。それに比べて、貴方は今手をあげた揚句
「・・・おい人間」
「なんです?」
「・・・死ね」
そう、ただ一言。ライザーが何よりも明確に指示を飛ばす。すると先ほど一誠を殴り飛ばした兵士の少女と、もう一人、控えていたメイド服姿の女性が明確な殺意を持って躍り出る。フォローに入ろうと自身の能力に手をかける朱乃、小猫、祐斗の三人だが。それも、一瞬の出来事だった。
「・・・相手を間違えない方がいい。それと、今の僕は怒っている。自分の眷属を
(あ、やっぱり反応で来た。これもアギトと戦った経験かしら?)
聖一はメイドの女性を、そしてレイナーレは光の槍を展開してそれぞれ相手の得物を止めている。聖一に至っては、握った相手の腕からなにやら煙のようなものまで立ち昇っているのが見える。それに悶える、眷属の女性。明らかに普通ではない苦しみ方にライザーは動揺を隠しきれない。戦意を失った二人は解放されるとすぐさま自分が本来いた位置にまで戻るも、聖一に腕を掴まれた方は重症のようで痛みに顔を歪めている。
「・・・アーシア。ごめん、あの人の事治してあげて。彼女には、悪気はないから」
「は、はい」
アーシアが治療を施す。それを見ながら聖一は顔を顰めた。
「お前・・・いったい何をした?」
「貴方が知る必要はありません」
ライザーのことを取り繕うとはせず、アーシアが治癒する女性に歩み寄り声をかける。
「すみません・・・こんな事をしておきながら言うのは、筋違いですが」
「・・・いいえ。強いのですね、貴方は」
そう言って、どこか幸薄そうな笑みを浮かべてくれる彼女に聖一は再度頭を下げた。
「・・・これ以上は、流石に私も傍観しかねます。ご不満であれば、レイティングゲームで勝負をなさってはいかがでしょう?」
レイティングゲーム。そのワードがリアス側に控えていたメイド姿の女性、グレイフィアから発せられたころには、既に陽も沈んだ頃だった。
次回より、vsライザー編開始します