「待って朱乃」
朱乃に手を引かれながら歩くリアスは彼女に制止を求める。それに応じたのか、はたまたクイーンとキングの関係性ゆえなのか。朱乃は止まり、握っていたリアスの手を離す。不思議そうに小首をかしげる朱乃に対し、リアスは真剣な眼差しで朱乃を真っ直ぐ見つめる。
「私、やっぱり聖一の戦いを最後まで見届けたいの」
「しかし・・・」
「・・・あの子は、戦いなんて大嫌いだった。そんな子が、最近になって私達の活動に協力させてほしいと行ってきた時から、こうなるんじゃないかって思ってたわ。イッセーの時もそう。私は・・・見ているだけで、何もできない」
握った拳が、痛々しいほどに震えている。それを見たサーゼクスはというと。
「それは私も同じだ。イッセー君のことは私も見聞きしている。きみの為に、禁じ手まで解放させたと。あの時の彼は、まさに三年前の聖一君と同じだ。状況こそ違えど、覚悟を決めた者の目。あれは確かにそういう目だった。そして先ほどの彼も、そういう目をしていた。・・・立場というのは実に厄介だな。こうなる前に、いくらでもできただろうに」
自身に対する皮肉とともに溜息をつく。グレモリーの貴族、というだけで純潔悪魔の中ではかなり重宝される存在だ。まだ当主ではないリアスといえど、それは同じ。自身を縛るルールのせいで、最も守りたいものも満足に守れない。力及ばず・・・そんなものは、もはや言い訳にすらならない。あの試合の時でも、敗北宣言を出したのは自分だ。・・・弱いせいで、彼らに負わせた傷は深い。
だからこそ、そうする義務がある。彼の勇姿を、見届けなければ。
「・・・わかりました。でも、危ないと判断した場合はいくらお二人の命令とあっても私の判断で行動させていただきます。よろしいですね?」
「ええ」
「わかった」
二人の了承を確認した後、三人は来た道を引き返した。
†
歩く、というただ単純な行為。生き物であれば、するであろうその動作。しかし、その動作が恐怖を生むということはそれほど相手を恐ろしいものだと認識してしまっているということに他ならない。ライザー・フェニックス、フェニックス家の男児にして純潔悪魔の貴族。こなしてきたレイティングゲームでは親善試合(負けが要求される、謂わばやらせ試合)を除けば負けなしの強豪。欲しいものは全て手に入れてきた。そんな彼が、たった一人の人間に対してこれまでにないほどの恐怖を覚えている。全身の毛穴とい毛穴から汗が吹き出し、足が言うことをきかない。それもそうだ。なんせ相手は―――
「アギト・・・だと!?こんなガキが、神と同等の力を有してるとでもいうのか・・・ッ」
ライザーだけでなく、その場にいる悪魔全員がどよめく。口々に「嘘だ・・・」「アギト・・・」などと呟いている。遠目に見ても伝わる威圧感と風格。それだけでも、かなりのもの。対面しているライザーにとっては一たまりもないだろう。
『さぁ、覚悟してもらいますよ・・・』
得物を構える聖一。それに伴い雄叫びを上げるライザー。だが、向かってきたのは彼ではなく。
『・・・ッ!?』
彼の眷属たちだった。逆手で向けられたナイフを剣でいなし、蹴りを入れて弾き飛ばす。
『・・・これが貴方のやり方ですか?』
「チッ・・・!」
聖一の言葉にライザーは舌打ちをして再び指示を出す。目まぐるしく入れ替わりながら聖一とまみえるライザー眷属。その動きは長年の経験から来るものだけでなく、場数、そして阿吽の息と、それら全てから裏付けされたものだ。だからこそ下手には動けない。万が一強行突破を試みれば、得物が彼女たちを貫く危険性もある。多対一において、たとえ百戦錬磨の戦士といえども、相手を傷つけることを目的としない戦闘では一にかなりのハンデがある。こと、今回の聖一の目的は一誠のできなかった、「ライザーをぶっ飛ばす」という一点のみであり、「戦う」事ではない。この戦闘も、副産物でしかない。故に、聖一の動きは・・・止まる。そしてそれを見逃すほど、ライザーは愚かではなかった。
「そこだッ!」
『うわああああッ』
強烈な炎が放たれ、防御しきれぬまま吹っ飛ばされる。しかしタダでは倒れない、空中で即座に躰をひねって着地し事なきを得る。が、流石は不死鳥と言うべきか、炎の力が予想をはるかに上回るほどに強い。アギトに変身していなかったら、今ので決まっていただろう。それほどまでに、彼は強い。今の衝撃で変身は解け、元の姿に戻る。これほどまでにやられたのは聖一としても初のことだ。
(こんな人相手に、一誠は・・・)
やり方は滅茶苦茶ではある。だが、彼の持っている潜在能力は相当のもの。そして、ライザーには経験もある。それに対して一誠は僅かばかりの戦闘経験と山籠もりの特訓で得られたものしかない。差は歴然だった。だがその差を、彼は執念とも言うべき気合で埋めたのだ。
凄い。純粋に、そう思った。
「フン・・・所詮はただのガキ。アギトといえど、器がこれではな」
ライザーの勝ち誇った声が響く。そして、別の声も。
「ライザー・・・様・・・」
顔を上げれば、横たわり苦しみ震える女達。
「まさか今の攻撃・・・この人達ごと僕をッ!」
「オイオイ、勘違いしてもらっちゃ困るぜ?此奴らの顔をよく見てみな」
よく見てみれば、その頬は高揚し、苦しんでいるというよりは痙攣ともとれる。そしてその表情は―――恍惚。悦び。この傷を、この仕打ちを、快楽として受け止めているのだ。一歩間違えれば、命すら奪いかねない今の行為を。それを彼女たちは受け入れている。主人の為に。そして自分の為に。
「ライザー・・・貴方という男はッ!」
それを、引き返してきたリアスが目撃し激憤する。何よりも眷属のことを考える彼女のことだ。ライザーのやっていることが許せないのだろう、誰の制止も聞かずに飛び降りてライザーに向かっていく。
だが。
「嬉しいなリアス。まさかお前から俺の下に帰ってきてくれるなんてなァ」
拳をいとも簡単に受け止め、関節を決めて身動きを封じる。
「リアス!」
主人の危機に朱乃が動く。が、リアスを前にして魔法は使えない。満足に動くこともできずに出て行ったはいいものの、何もできずに唇をかむ。そこに、ライザーの笑いが響いた。
「どうした小僧。俺をぶっ飛ばすのではないのか?アァッ!?」
煽るライザー。
「先に言っておくが、此奴らは望んでやっていることだ。俺のやること全てに同意し、全てを受け入れ、そしてそれらすべてを悦びとする・・・」
「・・・ッ、命をなんだと思って・・・!」
「眷属なんて所詮そんなもんだろ?王に屈し、王に仕え、王の為に動き、散る。全ては王たる俺の為。そうだろ?お前ら」
ライザーの言葉に呼応するかの如くゆらゆらと立ち上がる。それを苦虫を噛み潰したような表情で見つめる朱乃。このままでは、いずれ負ける。また、あの時のように仲間を傷つけるだけ。その考えが、リアスの思考を埋めていく。
(聖一は命を奪うことはしない。あの子は、あの時からそういう優しい子だった。力を発現させて時も、どうしようもない時も、何時だって・・・。そして今は、私の為に。これ以上、あの子を苦しませるわけにはいかない。・・・こんな男に犯されるぐらいなら、今この場でッ!)
この至近距離からなら、どんな魔法でも外さない。自分なら、ライザーに一番近い自分なら、確実に沈めることができる。リアスの手に、魔法陣が小さく現れた。そしてそれは、滅びの魔法。自らを象徴する力を発動し、自分ごとライザーを滅する―――筈だった。
でもそれは、不発に終わる。
「ダメだッ!」
開いた扉。そしてそこには、レイナーレに抱えられながらも立って歩く、一誠の姿があった。置いてきた少年の登場に、聖一までもが驚く。
「イッセー・・・」
「それをやっちゃダメですよ、部長」
「でも・・・でもッ」
「そんなことしたら、貴女までソイツと同じになっちまう・・・それだけは、絶対にダメだ・・・!」
「・・・あの日、貴女は僕の手を握ってくれた。血に染まった、命を奪った僕の手を。多くを奪い、壊した僕を、貴女は立ち上がらせてくれた。貴女の魔法は、確かに滅ぼす為のものかもしれない。でもその手は、壊す為でも、ましてや奪う為のものじゃない。貴女を慕い、想う人達と繋ぐ手だ」
膝に力を入れて立ち上がる。
「聖一・・・」
「・・・それに、そんな手はもう僕一人で充分です」
「何を訳の分からないことを・・・」
「わかるわけないでしょ。アンタみたいな勘違いとっちゃん坊やが理解できるほど簡単な話じゃないっての」
レイナーレの毒舌に苦笑する聖一と一誠。一誠はレイナーレから離れ、聖一に並び立つ。
「・・・行けるよな、相棒」
「うん・・・イッセーは?」
「少しはな。ドライグも俺も、まだやれるぜ」
《アギトの小僧。俺から取った分と彼奴から取った分とあるんだ。とっとと使え》
「初めましてなのに言ってくれるなあ・・・でも、それには賛成かな。やるよ、一誠」
「あぁ・・・ブーステッドギア!」
一誠の左腕が異形のものに変わる。そして聖一は今一度ベルトを展開。しかしその構えは前と異なり、中央の装飾には龍の手を思わせる白と紫の装飾に変わっていた。
そして―――
「「変身ッ!!」」
炎と強大な魔力に包まれ、二人は変わる。二つの赤。二体の〝赤き龍〟が今、その姿を現した。
遅ればせながら、ついにバーニング登場と一誠合流!次回、vsライザー編最終回!