――――狙われているのは兵藤一誠。
こんな事とは無縁でいてほしかったと願わずにはいられないまでも、もう現実となってしまったのだからいくら後悔しても仕方ない。津上聖一は意を決して駅前でごった返す人ごみに紛れながらそれでも見失わないように親友を観察することに専念する。時刻は11時、そろそろ待ち合わせの時間になろうとしていたところで耳のインカムにザザザ、とノイズが走った後に声が聞こえる。
《聖一君、聞こえる?》
「うん、聞こえる。そっちから見える?」
《予想外で人が多い。この場所からじゃギリギリ見える程度で動こうにも動けないかな》
一緒に尾行している木場裕斗の報告を聞いてあの場所じゃ仕方ないということと、彼の独特の雰囲気というか、容姿が幸いしているのかもしれない。・・・・いや、十中八九そうか。あそこだけ女の子密集率がおかしい。
かくいう自分の周りもなんだかおかしい。さっきから大人っぽい女の人から声をかけられる。やれかわいいだの、食事に行こうだの、色々と今日はおかしい気がする。これも堕天使たちの策略なのだろうかと勘繰ってみるもそんな暇や余裕はない。一誠と夕麻が動き出したことにこちらも動き出す。裕斗にはこちらが追いかけるからもしもの事態に備えて置いてほしいとだけ言い、単独での尾行を決行する。
デートコースは前日一誠とメールしていた通り、彼のほぼ徹夜で練ったプランに従って動いている。ゲーセンから食事、ショッピングに公園を散歩、至って普通の展開に案外拍子抜けしていたところで自分の勘が珍しく外れてくれたことにホッと息をつく。これなら心配ないんじゃないかと思うが一応リアスから出た指示は「二人が別れて帰宅するまでの監視」だ。まだ気を抜くのは早いと思うがそれでも安堵はある。親友が襲われない、そして人生初の彼女も白だった、それで済めば嬉しいことこの上ない。もしそうだったら今度この無礼のお詫びに二人になにかしてあげようと考えていると二人の足はどんどん公園の奥へ。歩いている最中に手が触れ合ってドキッとしたと思ったら手を繋いだ一誠の男気に子を見守る母親のような気持ちで応援しつつばれぬようギリギリの距離を保ちながら追いかける。
そして、時刻は5時。夕日が噴水の水を綺麗なオレンジに染め上げて抜群のシチュエーションを演出する中、二人が立ち止ってなにか会話をするのが見える。残念ながらこの距離からは会話の内容をうまく聞き取ることができないがそれは野暮かなとこのまま見守ることに。
どんどん夕麻が距離を詰めていく。これはまさか・・・・!?
(あ、あああ天野さんて、意外と大胆・・・・!?)
まさか、いや誰もいないとはいえここでキスするの!?なんてことで軽くパニックになっているとなにやら空気の糸が急に張りつめたのを感じて逸らしていた視線を戻す。そこには腹部と背中を貫通され深紅の液体を吹き出しながら倒れる親友の姿が。それを見て聖一は飛び出す。よく見れば彼の前には背中から黒い翼をはやしたものすごく際どい―――――いや、もはや卑猥な部類に入るほどの衣装に身を包んだ天野夕麻の姿があった。あれは間違いなく堕天使。一番なってほしくない事態になってしまったことに聖一は舌打ちをする。
どうしてこうなるまで気づかなかった!?
・・・・いや、最初から気づいていたじゃないか。ただそのことを否定したくて目を反らして見て見ぬふりをしていただけ。こうなることを避ける術なんていくらでもあったじゃないか。
僕は・・・・愚かだ。
「一誠!!!」
駆け寄って傷を確認する。その際自分が現れたことに驚いている相手のことは気にしない、いや気にする余裕もない。
「一誠、一誠!」
触るのはよくないとわかりつつも身体を起こしてもう途絶えつつある意識に呼びかける。瞳の瞳孔はもうなにも捉えることなくただ虚ろを見ており既に自分の姿はおろか声も聞こえてはいまい。つまり――――
「どこの誰かと思えば、あんたこの前の男の子じゃない。けどごめんなさい、ソイツもう死・ん・で・る・か・ら♪」
響く笑い声。届くことのない自分の声。どんどん冷たくなっていく身体を、聖一はそっと地面に寝かせる。
「・・・・天野、さんは・・・・最初からこうするつもりで一誠に?」
「あったりまえでしょ。でなきゃ誰がそんな馬鹿と付き合うのよ。でもソイツちょろいわねぇ、絶対童貞ね。デートしてるときもずっと私の胸ばっかり見てたし。あ~、なんでこのアタシがこんな変態馬鹿相手に告白までしてデートまでしなきゃなんないのよ」
「・・・・一誠、すっごく喜んでたんだ。生まれて初めて彼女ができたって」
「そうみたいね。つまんないデートプランまで考えて心底退屈だったわ」
そう言って欠伸をする天野夕麻にギリっと歯を食いしばる。静かに立ち上がり、目の前の“敵”と相対する。
「煩悩だらけで、いっつも女の子の胸やお尻ばっかり見て追いかけてるし、成績もそこそこ悪いし、色々無茶苦茶だし!」
何を言い出したかと思えばただの愚痴か。此奴もよほどこの男に振り回されてたんだなと軽く同情する夕麻。だが、顔をあげた聖一を見た途端、身体を射抜くような何かが走ったことに一瞬顔を強張らせる。
「でも!根は優しくて、友達の為なら後先考えずに突っ込んでってボロボロになってまでその人の事助けようとするくらいに勇気もあるしカッコイイ所もたくさんあるんだ。何も知らないお前が・・・・人の想いを利用して踏みにじるようなお前が、一誠を侮辱するな!」
涙を流しながらの怒号。それがなんなんだと真っ向から付きかえす夕麻だが聖一から感じる得体のしれない恐怖に冷や汗を流す。
「・・・・すみません、朱乃先輩」
小声で呟いて、足を肩幅より少し大きく開く。なにが始まるのかと警戒心を尖らせる夕麻、聖一は次に腕を独特の構えからパッと開くと腰に淡い光と共にベルトが現れる。それを見た瞬間、さらにゾクリと悪寒が駆け巡った。
「・・・・変身!」
手を前にゆっくりと出した後パッとベルトの両サイドにあるスイッチを同時に押し込む。もう一度ベルトが光を放ち、その光と共に聖一の躰を波紋のようなものが包み姿を変える。金色の四肢に赤い複眼。人ならざるその姿は夕日の光を放ちその神々しさをより際だたせる。それをみた夕麻の顔が恐怖で歪んだ。
「神器(セイクリッドギア)の頂点にして神にもっとも近い存在、完全にして完璧。ありとあらゆる邪を払うとされる神秘の体現、神器の中の神器――――アギト!」
ありえない。こんな子供が、アギトの器など。いや、そもそも自分は・・・・とんでもない存在を敵に回してしまったのかもしれない。勝てるわけがない、今すぐ逃げろと脳内で警報が鳴り響く。
ゆっくりと、こちらに歩いてくる。ただ歩行しているというだけなのに、こうも威圧感があるとは。翼が強張って上手く飛ぶことができない。それもそうだ、相手はあのアギト。神に喧嘩を打ったようなものだ。いっぱしの堕天使である自分が相対していいような存在ではない。人の身でありながら神になろうなどと愚かなことだと思うが、その力は絶大。どうあがいても、勝ち目はないのだ。
距離が詰まる。足がすくんで尻もちをつく。失禁しそうになるのをギリギリ堪えるも、それもやっとのこと。
『・・・・あなたを殺したいと思わないと言えばうそになります。でも、できれば僕はあなたを殺したくはない。気が変わらない内に早くここから立ち去ってください・・・・!』
必死に怒りを抑えて言う。夕麻――――堕天使レイナーレはそのことにようやく身体が動いて翼を羽ばたかせ、黒い羽を散らして夕空へと舞い上がり消えて行った。それを見届けたあと後方で光が放たれたことに振り返る。赤い魔法陣が一誠を中心に広がり赤髪の少女がため息とともに姿を現す。
「甘いわね聖一。普通あそこまでやられたら私でも彼奴をころしてたわよ?」
『僕は殺しがしたいんじゃない。できれば力を使わないで解決したいだけです』
「それが甘いのよ。目の前で親友が殺されたってのによく怒りを抑えられたわね、普通は惨殺ものよ」
心底呆れたと同時にようやったと感心するリアス・グレモリー。
『・・・・こなっても、あなたが一誠にあの紙を渡していたのは見えてましたから』
「あら、そこまでお見通しだったわけ?」
『こうはしたくなかったですけどね。・・・・あなたが一誠を悪魔に転生させればグレモリー眷属になる。そうなれば、あなたのことを知っている悪魔や堕天使ならまず手を出そうとはしませんから。そうなれば、必然的に一誠の身の安全も神器も手の届く範囲におけますからね』
淡々と語る聖一にリアスはまたしても感心する。あれだけの感情を抑えてよくこれだけ冷静に物を言えたものだと思いつつポケットからチェスの駒のようなものを複数取り出す。それを詠唱と共に全て一誠に落とすと展開された魔法陣の光が強まる。
『ポーンをそれだけ・・・・それほど一誠の力が強いってことですよね』
「まあね。これは流石の私も予想外だわ」
膝をついていた恰好から立ち上がり手の甲で髪を払う。
「それはいいとして、あとで朱乃に謝っておきなさい。独断行動に力の使用、許可を取っていたとはいえこれは――――」
『独断行動に関しては僕はあなたの眷属じゃない、だから咎められることはないはずです。力の使用にかんしては・・・・僕が思うに、朱乃先輩は少し過保護すぎると思うんですけど』
「仕方ないわよ。あの子にも色々とあるし、あなたにこんな事せたくないってこともあるもの」
『・・・・わかってます』
一誠を担ごうとして伸ばした手を引っ込める。
そっか、一誠も悪魔になっちゃったんだよね・・・・・。
変身を解除して一誠を背負う。
「・・・・ごめんなさいね」
「部長が謝ることなんてなにもないですよ。これは、僕が背負うべきものですから」
そう笑顔で言って一誠を背負いなおして歩いていく。魔法陣が使えないとは難儀だなと思い、夕焼けの中をリアスと共に歩いて行った。
アギトってある意味チートですよね