翌日兵藤一誠は考えながら通学路を歩いていた。
逸れ悪魔のこと
力のこと
そして・・・・アギトのこと。
触れられないと、部長は言った。もし触れるようなことがあればそれこそ本当の意味で絶命すると。それほどまでに一誠と聖一では立っている位置も違うしおそらく見えているものも違うのだろう。持っている神器(もの)は同じでも、その質と意味は真逆。光と闇、決して交わることのない存在だ。
だがそれは気にするほどのことではないと一誠はこれを割り切る。
力と存在が対極だとしてもそのせいで自分たちの関係が変わることはないし変えるつもりもない。今まで通り、幼馴染で、同じクラスの友達で、悪友で、親友だ。アギトだの悪魔だの自分たちには関係ない。だからこれはもう考える必要はない。
考えることは、自分の力のこと。低級とはいえ、あまりにも弱すぎるし知らなさすぎる。自分の中に今まであったモノなのにそれを何一つ理解しないまま戦闘になり、命がけの実戦をした。あの場にいる誰よりも自分が弱いと思い知らされたことで一誠は強くなりたいと切に願う。そのためには何をするべきかを考え、実行に移す。まず思いついたのは体力だ。大好きな漫画の主人公は特訓に特訓を重ねて大技や新しい力を手に入れていった。現実が漫画のようになるとは思えないがそれでもやらないに越したことはない。幸い、悪魔になったことで身体能力も多少なりとも上がっていることだしと最初に思いついたのは重しの入ったバンドによる筋力トレーニング。以前勢いで購入した手足に装着するものを両手足に着けている。
だが、
「悪魔になったからってそこまで身体能力あがるわけじゃないんだな。スッゲー重い・・・・」
自分の軽さが憎いと軽く後悔したところでこれをやめる気はない一誠はそのまま学校へと向かう。
道中。角を曲がったところで何かとぶつかった。相手の方が軽かったのか、こちらは軽く二三歩さがる程度で済んだものの相手は尻もちをついて持っていたバッグの中身をぶちまけてしまったようだ。「いたたた・・・・」と腰の部分をさすっているであろうその人に一誠は慌てて駆け寄る。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「は、はい。私もよそ見していましたから・・・・」
その容姿を一言で言うなら、かわいい。
その“気配”を一言で言うなら、対極。
ともあれ、目の前に可憐な金髪美少女が尻もちをついていて手を差し伸べない紳士兵藤一誠ではない。一瞬見惚れてしまったことを頭を振って追い出し手を差し伸べる。もちろん「御嬢さん、大丈夫ですか?」とイイ声で言うのも忘れない。
「はい。ありがとうございます」
笑顔もまたかわいらしい。こんな美少女に朝から会える、しかもこの展開はまさに使い古され、昨今ではあまり萌えないとされている曲がり角での早朝登校イベント!憧れのシチュエーションにまさか巡り合えるとは・・・・・神様、感謝します!
直後、頭痛に見舞われたのは言うまでもない。
「どうかされました?は、まさか先ほどの衝突で怪我を!?」
「あいや、大丈夫。朝はちょっと弱くてさ・・・・」
嘘ではない。得意ではないのでこの言い訳は合っている。自分が悪魔でその悪魔が神様に感謝なんてそんなシュールなことするものじゃないなと一つ教訓にする。兵藤一誠は学習する悪魔なのだ。
「そうですか?それでしたらいいのですが・・・・・」
心配してくれる姿もまた良し!まったく、美少女はサイコ―だぜ!神様こんな素敵イベントをありがとう!
「・・・・大丈夫ですか?」
「oh・・・・」
兵藤一誠、高校二年生兼悪魔。同時にアホでもある。
◇
「じゃあ、アーシアはこの街の教会に赴任してきたシスターなんだ」
「はい。以前いたところは、その・・・・色々ありまして」
目的地である教会へと案内しながら一誠は道を歩く。隣には美少女、そしてもう片方にはびしょうz――――
「一誠。今ヘンなこと考えてなかった?」
「イイエナニモ」
「まったく・・・・・」
津上聖一。アギト。アーシアと出逢い、話しているといつもこない自分のことを気にかけて迎えに来てくれた経緯でそのまま二人でアーシアを案内することに。顔立ちだけなら喋らなければ絶対に美少女の部類に入る幼馴染に心底残念な思考をした一誠だが、致し方ないとその念を切る。
しばらくすると目的の教会が見えてきた。少し高くなった丘の上に立つその白い建物は悪魔である一誠には近寄りたくない場所となってしまっていた。
「・・・・じゃあ、僕たちはこの辺で」
「あ、はい。どうも御親切にありがとうございました。この出会いを、神に感謝します」
「・・・・」
「・・・・聖一?」
痛みを堪えて苦笑いで返す一誠は曇り顔の聖一を見る。だがそれも一瞬で笑顔に変わったことでそれもどうだったか自分の目を疑う。
さっきの表情はいったい・・・・?
きっと気のせいだと気にしないことにしてアーシアと別れ学校へと向かう。道中始終その時みた聖一の顔が頭から離れなず、後に彼は思い知ることになる。
その笑顔の裏に隠された、果てしない悲しみを。だがそれは今よりもまだ未来の話である。
◇
その夜。一誠は再び召喚された。小猫の召喚リクエストがまた被ったためだ。なんで自分は転移魔法で行けないのかと愚痴をこぼしながら自転車を漕ぐでも、今回の召喚は自分一人だけではない。だからその愚痴をこぼす口もペダルを漕ぐ足も軽かった。
「仕方ないよ。ていうか、それを言ったら僕も同じだし」
「でも聖一はアギトだから姫島先輩の魔法が効かないってのはなんとなく納得がいくんだけどさ?これってぶっちゃけ差別だと思うわけよ」
「それ今更じゃないかな?」
「ぎゃふん」
解せない。そう呟く一誠に苦笑で返す聖一。最近これが彼の口癖になりつつあるなと思いながら目的地が目の前に迫ったことに二人は自転車の速度を緩め、停車。場所は静まりかえった住宅街。見かけはそれ相応な立派な家で、悪魔を呼び出してまで解決したい悩みがあるようには見えない。
だからこそ、怪しい。漂う気配の不穏さに聖一は警戒心を尖らせる。
なにかがおかしい。
「すみませーん、誰かいませんか?・・・・・留守か?」
「呼び出したからにはいると思うけど・・・・悪戯かもしれないね」
ガチャリ、ドアが開く。鍵はかかっていないし中を覗けば明かりも見える。不審に思いながらも二人は家の中へと入り、明かりが見えるリビングのドアを開ける。
そして、見えたものは。
人の死体と。歪んだ笑みを浮かべる少年の姿だった。