その光景を一言で言うなら、“惨劇”
床に広がる真紅の生暖かい生命の証である液体は本来流れている場所にはなく外気に触れ黒く染まりつつある。そのことからこの屍が生きていた時間から失われてから自分たちが発見するまでに時間がたっているのがわかる。そして、ここに横たわる男をこんな姿にしたのが目の前の歪んだ笑みを浮かべる少年だということが事態の深刻さを物語る。一端の高校生が、直面して耐えられるようなモノではない。
だが自分たちは普通の人間ではない。だからというわけではないが一度経験すると不思議なもので耐性ができてしまう辺り自分たちも異常だと思う。
冷静に考えられるだけの思考をギリギリ留めながら一誠は目の前の少年を睨むに近い目で見る。
「これ、は・・・・」
ようやく絞りだした声は多分裏返っていたと思う。客観的に見れるほどの余裕があるのは隣に聖一の存在があり、彼が焦りや恐怖を滲ませずに横で立っていることが大きな要因だ。一誠の声に少年が答える。
「見りゃわかるだろォ?殺して死体にしたんだよ。ったくこのオッサン、うぜぇったらない・・・・ああ、それで此奴悪魔なんか呼んだのか。神父のくせに悪魔に助けを求めるとかアホかっつーの」
死体を足で蹴る。いまだに事情が呑み込めないでいる一誠だが、視界の隅に映った見覚えのある金髪に反応し声をあげる。
「アーシア!?」
何故彼女がここにいる!?冷静になりかけていた思考が再び乱れはじめグチャグチャになる。そんな一誠の姿を見て少年はイイ玩具を見つけたように口角をあげニヤリと笑った。
「なァんだきみ達お知り合い?これは傑作だ!“教会”のシスターと悪魔が知り合いだなんてなァ!でもな~、此奴“能力”は使えるんだけど“仕事”ってなるとまるで使い物になんなくってなァ。ったく・・・・こーなったら身ぐるみはがして犯しちゃおっかな♪」
愉快だ愉快だと傍にいたアーシアの両手を動かせぬよう拘束し壁に叩き付け持っていた血の付いたももの剣で服を着る。黒いシスター服の下からアーシアの綺麗な白い素肌と下着が露出し露わいなる。普段なら願ってもない光景だが流石にそこまでアホなわけではない。エロは真面目へ、変態は怒りへと感情とテンションがベクトル変化し叫びと共に左腕を異形の物へと変える。繰り出されるは紅い拳。怒りに燃える一誠の感情をそのままにして纏ったそれは、だが届くことなく。聞こえてきたのは二発の銃声と自分を呼ぶ友の声。気が付いた時には両足に小さな穴が空いておりそこから真紅の液体がゴポリと零れる。
「イッセーさん!」
次に聞こえてきたのはアーシアの声。しかしそれを認識できるほど一誠に余裕はなく痛みと熱さに床を転がる。狂ったように高笑いを響かせるのは少年だ。
「痛いだろ?苦しいだろ?そうだろうよォ!これは対悪魔に特化した武器だ、これを喰らって難もないわけがねーよなァ!?きゃはははは――――あ?」
横殴りの衝撃。そして壁にめり込む自分の顔と身体。分厚い壁を壊し向こう側の部屋と繋げるかのような大きな穴を空けたのは一体何か。何が起きたかわからずに少年は衝撃の割にはピンピンした様子で起き上がりその犯人を見る、そして驚愕する。
金の四肢、そして赤い瞳に金のベルト。口をパクパクさせ、ようさく出てきた言葉は声を裏返しながら形となる。
「な、なんでだよ・・・・なんでこんな奴が、こんなバケモンが此処にいんだよォ!?」
それは、ある者にとっては恐怖の対象であり
ある者にとっては、希望の対象であり
またある者にとっては、“神”とも呼べる対象でもある
「なんでアギトがここに、悪魔と一緒にいんだよォ!?」
勢いに負けて殴ってしまったと軽く後悔する。力を使ってしまったことに嫌悪する前に“殴ってしまったことへの後悔”が先に来るあたりリアスが「甘い」と称すのも頷ける。そう自分を評価して聖一は目の前でビクビクと震える少年を見据える。
『・・・・前に聞いたことがある。神父という身でありながら種族関係なく惨殺を繰り返す“人間”がいるって。あなたがそうなんですか?神父、フリード・セルゼン?』
「な、なんで俺の名前を・・・・!」
『そんなことはどうでもいいです。今僕にとって重要なのはあなたが僕の友人“二人”を傷つけたという事実だけです。・・・・すみませんが、それ相応の“お礼”をさせてもらいますよ?』
ゆっくりと、ゆっくりと歩行するアギト。フリードの目に映るその光景は悪魔よりも恐怖で、天使よりも神々しい。しかし今の彼からは前者の印象しか受けられない為フリードはなんとか動く左腕を動かして銃を数発発砲。しかしそれは全て“素手でキャッチされ床に転がる”。その後も撃ち続けるが神父、エクソシストの武器がアギトに通用するはずもなくコロコロと転がって意味を成すことはない。
恐怖に顔をひきつらせ、みっともなく鼻水まで垂らす始末。
逃げろ。本能が訴える。
殺される。直感がそう警報を鳴らす。
なぜ悪魔と一緒に、とかどうしてこんな弱弱しい奴がアギトなんだとか、そんなことはどうでもいい。今はこの死の恐怖から解放されたい一心でフリードは身体を動かす。みっともないだろう、情けないだろう、“奴らに話せば笑われるに違いないだろう”。でもそんなことお構いなしにフリードは逃げる、逃げる、ひたすら逃げる。それを渾身の理性で怒りと今すぐにでも殺したい衝動を抑え、気配が完全に無くなったのを感じてから変身を解除する。
「一誠、大丈夫!?」
「ははは・・・・かっこわる・・・・」
「そんなことないよ。僕よりも真っ先に一誠は飛び出した。それは無謀なことかもしれないけど、気持ちとしては100点満点だよ」
「それ、褒めてんのか・・・・?」
「一応、ね。それよりも、早く治療しないと!」
「あ、あの!私できます」
服の乱れを被っていた頭巾で隠し、アーシアが一誠の元へと駆け寄る。撃ち抜かれた足に手を翳すと指にはめられた指輪が淡い緑色の光を放ち、一誠の怪我を癒していく。
「この程度なら、私の力で癒すことができます。これしかできませんけど、でも・・・・」
紡がれる言葉はない。けれど、その先の言葉よりもアーシアの放つ光は頼もしく見えた。
三人の後方で紅い光が部屋に満ちる。現れたのはオカルト研究部の面々だ。気配を察知して来てくれたのだろう。リアスが何事かと部屋中を見回す。
「聖一君、平気?」
「はい。一誠も怪我はしましたど、彼女のおかげで助かりました」
聖一の証言にリアスは一誠を助けたという少女を見る。一言で言うならならかわいい。だが感じたありのままを言うのであれば・・・・・反対側の人間。だがそれだけで物事を判断するほどリアスは愚かではない。下僕を助けてくれたことに素直に感謝し目線を合わせる。
「あなた、名前は?」
「アーシアと言います。これでも、一応・・・・・シスターです」
自信なさげな声色に苦笑。それで彼女の身にも何かがあると直感したリアスは、
「とりあえず帰りましょう。積もる話は、それからよ」
踵を返すリアスに続く聖一とアーシアを除くオカ研メンバー小猫に担がれ満ちていく光の中、兵藤一誠は二人の姿を見る。
また、助けられた
また、守れなかった
また・・・・何もできなかった
悔しさと、何もできずにまた聖一に望まぬことをさせてしまったことへの無力感に苦しめられながら一誠は意識を手放す。間際、彼はもう一度誓う。
強く、なろうと。