陽も落ち、辺りが寝静まった頃に町はずれの教会へと4人の学生が集まった。
一人は、可憐な小さい少女。穴あきグローブを腕にはめ、その感触を確かめながら感情を表に出すことなく正面の建物を見る。
一人は、制服に西洋の剣を携える金髪の少年。見かけは酷く不格好だが整えられた容姿がそれを緩和しむしろカッコイイに留まっている。
一人は、左腕に異形の物を宿した少年。決意の眼差しで建物の、その奥に捉えられているであろう少女の安否を気遣いながら腕の感触を確かめる。
そして、最後の一人は他の三人とは違い何ももたない少年。いや、もってはいるが今はそれを使わないだけであり内に秘めるものは他の3人とは比べものにならないほどだ。じっと建物を見つめながら、溢れ出てくる気配を読む。
「一人や二人なんて数じゃない。100はいるかも」
「100!?おいおいマジかよ・・・・」
つくづく一人で行かないでよかったと思う。もしも単体で乗り込んでいたら間違いなく返り討ちにあっていたこと請け合いだ。そう思うとゾッとする。
「・・・・あっちも始まったみたいだ」
教会一帯を、空間ごと遮断し別の世界へと閉じ込める魔法。姫島朱乃による結界の展開が突入の合図だった。どうやら相手側はうまく此方の策にハマってくれたらしい。
「しっかしよくうまくいったよな」
「まあこういうのは普通正面から堂々とくるとは思わないでしょうから」
小猫が呟いてドアを派手に蹴り破る。中はある程度整備されているようで何時ぞやの教会よりはまだマシなほうだがここもそれなりに廃れているようだ。おかげで夜ということもあり普通に動ける。
が、ここでトラブルが。おそらく自分たちを待ち構えていたであろう警備の者たちは朱乃とリアスが抑えている。彼女達ならば負けることはマズないだろう。おかげで此方は難なく建物内部まで侵入できたわけだが。その内部に防衛線がはられていないはずもなく。聞きたくない、見たくない笑顔を浮かべた一人の少年が歓喜の声とともに現れたのだ。
神父フリード・セルゼン。一誠が敗北した相手だ。
「これはこれは御揃いで――――って、ンだよこっちが外れかよォ!?」
聖一の姿をみたフリードが心底残念そうな顔で叫んだ。それもそうだ。前回の接触でフリードは聖一に惨敗、しかも戦わずしえて逃げ出しているのだから笑えない。トラウマレベルでフリードの脳内に焼き付いている光景は彼の顔を見た瞬間に鮮やかに蘇る。
「みんなは先に行って。ここは僕が引き受けるよ」
「今日はずいぶんとやる気だね?」
「友達の命が懸ってるんだ。こんな時まで戦いたくないなんて言ってられないよ。それに・・・・僕は彼に一度お灸をすえたいと思ってたから」
それは頼もしい限りだねと裕斗が呟く。
「一誠。必ずアーシアを」
「ああ。わかってる・・・・任せたぜ」
三人同時にダッシュして祭壇下に見える階段へと駆け込む。それをフリードは“殺ろうと思えば難なく殺れたであろう間合いをスルーした”。それに違和感を覚えた聖一はフリードを睨む。その視線に気が付いたフリードはニヤリと口角と釣り上げた。
「俺はあいつ等がやろうとしてることなんざこれっぽちも興味はねぇ。ただ悪魔どもを狩れればそれでいい・・・・けど、今はお前だ。なァ?“人殺し”」
「・・・・ッ」
強調されたワードに聖一は大きく目を見開く。だがそれもすぐに元に戻り。それを見たフリードは「あれ?」と思いながらも続ける。
「おまえも俺と同じなんだよ。ヨワッチイ奴らをかたっぱしからぶち殺してその悲鳴を躰一杯に浴びてそれを快感とする・・・・なァ、おまえスゲーよ!だって一人でh――――」
「言いたいことはそれだけか?フリード・セルゼン」
呟くような声。だがフリードは完全に威圧され黙りこむ。褐色の髪の隙間から覗く瞳は普段の優しいそれではなく怒りや悲しみを帯びた鋭いものへと変わっていた。そこから放たれる冷たい光に危機感を覚える。
「あなたがどこでその情報を仕入れたか大体予想はつくけれど、一応聞いておきます。“どこまで知ってるんですか?”返答次第によっては・・・・・僕はあなたを殺さないといけない」
喋れない。口の内部が一気に乾き水分が失われ声にならない音が空気中に消えていく。気が付いた時には剣と銃を抜き、銃口を向ける。カタカタと揺れるのも認識できないままフリードは乱れる思考を整える。
(どうなっている!?これは奴にとって有効な手だったはずだ。なのになんで、なんでこんなに冷静なんだよこいつァ!?)
拒絶。答えをそう受け取った聖一はベルトを展開する。
「変身」
光が溢れ、波紋が躰を包み聖一をアギトへと変えた。赤い複眼に金の四肢、光の力の体現。悪魔にとっては猛毒。堕天使にとっては救い、そして天使にとっては信仰の対象とされるその力。では、フリードのような神父からはどうだろうか。答え簡単、“神の子”。が、それはフリード・セルゼンがまともな神父であったらの話でありこの場合この答えは当てはまらない。それならば何が正しいのだろうか。それはこうだ。
「化け物めがァ!」
定まらぬ銃身をアギトに向け発砲。しかし当たるどころか翳めることさえなく床を打ち付けキン、という音をなんども聖堂内に響かせる。銃弾の嵐の中歩行するアギトはただただ怯える顔で引き金を引き続けるフリードを見ながらゆっくりと、だが段々とその速さをあげていき、やがてその距離を腕一本分の間合いとした時アギトは拳を振り抜いた。フリードの躰はいとも簡単に吹っ飛び木でできた椅子をバラバラにしながら倒れる。
『その言葉はもう聞き飽きたよ』
出た言葉はフリードに届くことはないだろうと肩の力を抜く。が、突如走った直感にアギトは右に飛ぶ。
「調子にのんな化け物がァァァ!!」
頭から血を流し剣を振るフリード。それを真っ向から受け止めて蹴り飛ばす。クルリと空中で体勢を立て直し着地し再び剣を振るう。光り輝く刀身はただの剣ではないことを意味している。
聖剣だ。邪を払い、消滅させる力をもつ特殊な剣。悪魔にとっては猛毒、だがアギトにとってはただの剣と同意義。それを気づいているのかはたまたそうでないのかはわからないが恐らくは後者なのではないかと思考する。
(でも、まあ・・・・)
剣を弾いて蹴り飛ばす。
(これなら裕斗君の方が強い、かな・・・・)
距離が開く。アギトはそれを機にベルトの右側のスイッチを押しこむ。するとベルトから赤い光が溢れてそれに伴い右腕が赤く変化し、次にベルトに手を翳すとバックル部分から剣の柄のようなものが出現しそれを引き抜く。現れたのは長身の剣。赤い装飾が所々見える。アギトはそれを握り構える。
「聖剣まで・・・・!」
なんなんだよ・・・・!さらなる苛立ちがフリードを駆り立てる。何度も何度も邪魔ばかりしやがって・・・・!
怒り、憎しみ、焦燥、嫌悪、それらの感情がフリードを突き動かす。刃向っているのが、神に近い存在だということも忘れて。
向かってきたフリードをアギトは静かに構え、そして剣を上段へと振り抜く。みね打で腕を強打し剣を手から離すように切り払うと向けられた銃を今度は刃の部分で切り落とす。暴発した銃弾がフリードを吹き飛ばし今度は床の上を転がった。
ゆっくりと歩行するアギト。それはもう、恐怖でしかなかった。
「う・・・・ああああああああああああああああああああああああああああ!」
ステンドガラスを打ち破って外へと逃走するフリード、その後を追おうとはせずアギトは祭壇下から覗く階段を駆け下りていく。一直線に続く階段を下って行く最中、突如聞こえてきた悲鳴に一瞬足が止まる。
今のは・・・・アーシア!?
消えていく
命の鼓動が、ゆっくりと
消えていく
響く嗤いはどこまでも遠く
消えていく
小さな命が、今まさに
―――――認めない!
辿り着いた場所は大きく拓けた室内。そこにみえるは黒いローブを着こんだ無数の堕天使たち。その奥、階段を上ったさきに見えるは黒い羽に黒い衣装のレイナーレとアーシアを抱えている一誠の姿。その下では小猫と裕斗が大立ち回りをしているのが見える。
『小猫ちゃん、裕斗君!』
赤から今度は青へ、剣から槍へと変える。今度は左腕にそれを携え、頭上で回転させて巻き起こった風圧で回りの堕天使たちを一層し駆け寄る。
「聖一君、あの神父は?」
『ちゃんとお灸をすえてきたよ。ちょっとやりすぎちゃったけどね』
見上げるとレイナーレと目が合った。忌々しく自分を見下ろしてくる瞳にあの時のような恐怖感はまるでない。むしろかなり勝気だ。そして、その要因ともいえる彼女の手にある指輪。倒れているアーシアを一誠が抱えているのを見て聖一は感づく。
『一誠!』
「聖一…アーシアが、アーシアがァ!」
「遅かったわねアギトの坊や。もうこの子の命はないわよ?」
嘲笑うレイナーレ。こみ上げて来るのは怒り―――――かと思いきやそうではない。引っかかったのは、その笑いだった。
『・・・・・一誠、アーシアを連れて逃げて。まだ間に合うかもしれない』
「外に姫島先輩が控えてる。外に出ればきっと!」
「だから先輩は早く行ってください」
アギトが跳躍し、レイナーレと対峙する。そして小猫と裕斗が道を作り、一誠は自らのやるべきことをまっとうするためアーシアを抱え階段を飛び降りる。足がしびれることもお構いなしに出口へと駆けだした。
「・・・・美しい友情だこと。見ていて反吐が出るわ」
『…これが、きみの本当にやりたかったことなの?』
「なにをいまさら。当たり前じゃない。この力さえあれば、他の連中にも私を認めさせられることができる。あんた達に邪魔は――――」
『じゃあ、なんでそんな悲しそうに笑うの…?』
「・・・・は?」
言葉の意味がわからない。いったい何を言ってるんだこいつは?レイナーレはアギトを、聖一を見る。
『それがきみのやりたかったことなら、そうなんだろうね。でも、今のきみは心から笑えてない。寧ろ・・・・泣いてるように見える』
その時の衝撃を一言で言うなら、見透かされた。何を、と言われれば答えることはできないが。とにかく何かを見抜かれたような気がして心底不愉快だった。レイナーレの表情が怒りで歪む。
「おまえに何がわかるって言うのよ!」
掌に槍を作り出す。
「同族からも虐げられ!罵られ、貶され!そして居場所を失くす・・・・おまえに、最初から全てを持っているおまえに何がわかる!」
猛攻を丁寧に捌き、そして鍔競り合う。
『わかるよ』
「戯言を・・・・!」
『わかるよ。・・・・僕も、あなたと同じだ』
「同情なんて余裕ね・・・・これでもそんなことが言えるかしら!?」
ハルバードを切り上げ、一閃。それをすんでのところで躱すも次に繰り出されたレイナーレの突進で天井の壁を突き破って地上へと追いやられる。勢いそのままに地下からあっという間に地上へと出た直後、レイナーレからようやく離れたアギトは着地する。
「聖一君!」
朱乃の声だ。どうやら一誠と合流で来たらしいことに安堵すると『来ないで!』と制止する。
「どう?“聖母の微笑”の力をうまく使えばあなたに触れることもできる・・・・これでアドバンテージはなくなったわよ坊や」
『・・・・』
レイナーレに無言で立ち上がり青から金へと変わる。そのことにさらに腹を立てたレイナーレは面白くないと唇を噛む。
「なんなのよ、なんなのよあんたは!?」
近づいて、蹴る。
「知ったような口で!」
殴る
「私を!」
蹴る
「語らないでッ!」
殴り飛ばす。倒れるアギト。息も上がりレイナーレの呼吸だけが静まり返った室内によく澄んで聞こえた。
『・・・・わかるよ。僕も、あなたと同じだから・・・・』
起き上がり、フラフラと立ち上がる。
「まだ知ったような口を・・・・!」
『・・・・僕も、最初からこんな風だったわけじゃない。護りたいものがあって、譲れないものがあって。それを守るためなら何だってやれると思ってた。でも、それをやり抜いたあとに残ったのは・・・・虚しさだけだった。間違ったやり方じゃ、なにも残らない。誰も、笑えないんだ』
「だからなんだってのよ。もう私にはこれしかないの!力をつけてそれを証明する、それでしか私の居場所なんてないのよ!」
悲痛な叫び。それが彼女の本音かと聖一はただ彼女の言葉を聞くことに神経を集中する。
「誰も見てもらえない、誰も認めてもらえない・・・・この孤独がわかってたまるものか!」
『・・・・言ったでしょ?僕も同じだって。僕も、この力のせいで色々あった。そして今も、それは続いてる・・・・』
「聖一君…」
『居場所なんてないって、そう思ってた。でも、みんなが僕に居場所をくれた。ここにいてもいいって言ってくれた。だから僕は今こうして生きていられる。笑える。だから――――』
差し出す手。それは攻撃の物ではなく、和解のもの。
『僕は、きみにも笑ってほしい。心から、こんなことじゃなくて。居場所がないなら、僕がつくる。誰かが否定するなら、僕がそれを否定する。もう、誰にも泣いてほしくないから』
「でも、私は・・・・」
『大丈夫。もう、いいんだよ…もう、一人ぼっちじゃない。これからは、僕があなたの味方だから』
握られた手をレイナーレはじっと見つめる。熱くない。むしろ温かい。先ほどまで感じていた悪寒も黒い何かも、もう心の中からなくなっていることに気が付いた時には頬が湿っているのを感じた。
「・・・・私、あの子の命を・・・・」
『大丈夫。ちょっとごめんね』
アギトがレイナーレの胸元に手を翳す。そこから淡い光に包まれて出てきたのは聖母の微笑。
『さあ、本来の主の元へお帰り』
そう言うと聖母の微笑がレイナーレの元を離れ、アーシアの中へと入って行った。それをみたリアスが転生の儀式を執り行う。
「・・・・俺は、許せない」
一誠が呟く。
「でも、それ以上に俺は夕麻ちゃんが好きだった。たしかにひどいことされたけど、でも・・・・いい思い出だったって、言えるような気がするんだ。いつになるかはわかんねーけど」
「一誠君・・・・あなた・・・・」
「ただし。アーシアが起きたらちゃんと謝ってもらう。これだけは譲れねえかんな」
お人よし―――――。リアスは心の中でそう呟く。でも、
(そんなあの子だからこそ、“アギト”なのかもしれないわね・・・・)
『・・・・帰ろう。一緒に』
握った手から伝わる温度に、哀れな天使は静かに涙を流した。
というわけでレイナーレ救済。gdgdなのはご愛嬌ということで勘弁してください(:_;)
さて、ここまででのハイスクールD×D本家様との違いについて補足
1.リアスと朱乃の出逢いから朱乃がリアスのクイーンになるまで
2.朱乃の家族関係とその周辺の状況
3.レイナーレ生存
4.各種族でのアギトについての関連性と伝承
今のところはこんな感じです。次回からはレイナーレ中心になるやもしれません