作者のDr.JDです。
とうとうけいおん!編、書いちゃいました(笑)
こちらは基本的にはハイスクールフリート編と微妙にリンクしてます。
1つの町の中で繰り広げられる物語の1つとなっております。
それでは早速どうぞ。
[プロローグ]
2012年、7月14日、10;30;52
高校2年生 桜ヶ丘高校 軽音部所属
平沢 唯(ひらさわゆい)
桜ヶ丘高校 2-2組教室内
夏の風物詩の一つであるセミの鳴き声が校舎内に生えている木々の中から、学校全体を包み込んでいた。
夏特有の熱風が地球温暖化顔負けくらいの熱さまでになると、1人の少女が机の上でぐったりと顔をめり込ませていた。
彼女曰く『熱いのは苦手』だそうだ。
クラスはその熱気に負けず、相変わらずガヤガヤと世間話をする声や時折聞こえる笑い声などが、鼓膜を刺激していた。
突っ伏しているため、誰が誰と話しているかなど知らないが。
??????
「おい唯。お前が熱いのは苦手なのは知っていたけど、朝からそんなに机でへばるなよ。まだテストの返却が終わってないんだからよ」
彼女の様子を見かねた平沢唯の所属している軽音部の部長、田井中律(たいなかりつ)は、呆れた声を出しながら彼女の席へ近づいて、肩を軽く叩いた。
田井中はドラムを担当している部員であり、潰れかけた軽音部を立て直させた人物でもある。
特徴的なカチューシャが普段通りおでこを見せつけるが、平沢は首を軽く捻って横を向いて、ぶーぶーと言い始めた。
平沢 唯
「りっちゃん~、暑いものは暑いんだよ~。早くお家に帰って、アイスを食べたいよ~」
今度は手足をバタつかせて抗議し始める。
だがバタつかせた足は、机の脚に当たり、僅かながら机が揺れてペンを落してしまう。
??????
「ったく、唯はいつもそればかりだな。少しは飽きたりしないのか?」
平沢の前の席が今空席であったので、とりあえず座った同じ軽音部の秋山澪(あきやまみお)が平沢の席に肘を乗せる。
彼女の担当はベース。
幼馴染の田井中に誘われるまま軽音部に入部した部員である。
人見知りが激しく、黒い髪が特徴の彼女には、意外なことにファンクラブが存在するほど人気があるのだ。
本人が知っているのかは知らないが。
彼女は違うクラスのはずなのだが、本人は決して言わないが寂しかったので、ついつい遊びに来てしまったのだ。
平沢 唯
「全く飽きないよ~。こんな暑い日だからこそ、家で食べるアイスは絶品なんだよ~」
いそいそとペンを拾い上げる。
そして相変わらずまったり過ごす平沢にまた、声を掛ける者がいた。
??????
「そんな唯ちゃんのために、今日のお茶はアイスを」
秋山 澪
「えっ!?こんな暑いのにアイスなんて持ってきたのか!?」
??????
「と言いたいところだけど、今日は代わりに保冷剤付きケーキを持ってきたから安心して」
目を削ぐ秋山に変わらず微笑みを浮かべるのは、同じ軽音部の琴吹紬(ことぶきつむぎ)だ。
最初は合唱部に入部するつもりだったのだが、秋山と田井中と意気投合してそのまま軽音部に入部した。
担当はキーボード。
お嬢様風の物腰と礼儀正しいことから、クラスや部活では人望が厚い。
彼女達が所属しているバンド、”放課後ティータイム”を考案した人物でもある。
平沢 唯
「わーい!ムギちゃんのケーキはいつもおいしいから、楽しみだな~」
あともう1人だけ軽音部には後輩となる部員がいるのだが、紹介は今のところ割愛させて頂きたい。
まぁ、唯一の交配である事だけは伝えておこう。
秋山 澪
「おっ。もうそろそろ次の授業が始まるな」
教室の壁に掛けてある時計の時刻を見て、秋山は席を立った。
元の教室へ戻るために出口に向かって歩き出す。
田井中 律
「だな。あ~あ、別にテスト返却なんてなくったってあたしは生きていけるのに、何でこんな面倒な行事をするのかねぇ」
ぶつぶつと言いながら平沢の席から離れる田井中に、琴吹はまぁまぁと普段と変わらず慰めはじめる。
琴吹 紬
「まぁまぁ、りっちゃんそう言わないで。授業が終わったあとの終業式も無事に終えたら、待望の夏休みに入るわ。それに、明日から私の別荘で合宿もあるじゃない」
そう。
明日から高校生活2度目の夏休みだ。
夏休みと言う単語を聞いたからか、田井中は一気にテンションが上がった。
田井中 律
「うおー!そうだった!明日からは夏休みだ!みんなっ、この授業、張り切っていこー!」
クラス中に聞こえるような大きな声で右手を突き上げる田井中を見て、クラスメイトらはくすくすと笑い始める。
隣りで成り行きを見守っていた秋山が田井中の額を軽めに叩いた。
秋山 澪
「こら律!急にそんな大声を出すなよ!みんなこっち見て笑ってるじゃないか!」
田井中 律
「なにおー!少しテンションが上がっただけじゃん!怖がりな澪のくせに生意気なー!」
今度はお返しとばかりに、田井中は秋山の頬を両手で包んで掴み、その手を揉んだ。
秋山 澪
「ぬおーっ、なひするんらー!ころー!」
やられた秋山も田井中の頬を掴んで、もみくちゃにする。
琴吹 紬
「あらあらあらあら。もう、澪ちゃんとりっちゃんったら………」
そのシーンを横から見ている琴吹は頬を赤く染めて見つめている。
クラスメイトらもそれを見て、ドッと大きな笑いに包まれる。
なぜ琴吹がそのような表情になるのかは、今読んでいる読者の皆様の想像にお任せしたい。
??????
「もう、あなた達は本当にいつも変わらないわね。微笑ましいけど」
最後にもう1人、さっきまで秋山が座っていた平沢の前の席に女子生徒が座った。
平沢 唯
「あ、和ちゃん」
真鍋 和
「なかなか教室に戻って来ない澪を迎えに来たの。先生もいないし、今の内に澪を連れて行くわね」
走ってきたせいか、平沢唯の幼馴染である真鍋和(まなべのどか)は、顔や額に着いてる汗をハンカチで拭いていた。
彼女は生徒会に務めており、赤い淵の眼鏡がトレードマークの少女だった。
平沢 唯
「うん。まだ平気だと思うよ。それよりどうしたの?和ちゃんが予鈴ギリギリまで来るなんてさ」
真鍋 和
「特に大した理由じゃないわ。それより、唯。今回のテスト、ちゃんと出来たの?また赤点だったらまた追試を受けなきゃいけなくなるわ」
平沢 唯
「大丈夫だよ。澪ちゃんやムギちゃんが試験前に勉強教えてくれたからさ」
真鍋 和
「その中に律がいないってことは、あの子やっぱり唯の家で遊んでただけなのね………」
平沢 唯
「そんなことないよ!りっちゃんもちゃんと勉強教えてくれたよ!最初の10分だけ!」
真鍋 和
「あ、あらそう。なら、良かったのかしら?………澪、そろそろ行くわよ。先生が来る前に教室へ戻るわよ」
秋山 澪
「あ、ああ今行く。それじゃ皆、また部活の時に」
田井中 律
「ああ、まったなー」
琴吹 紬
「それじゃあね」
2人を見送ると、入れ替わるように次の授業の担当者が教室に入ってきた。
………和ちゃんと澪ちゃん、ちゃんと次の授業に間に合ったかな?
女教師
「これからテスト返却を行います。出席番号順に取りに来てください」
そこまで騒いでいた生徒は一瞬で静まり、順番にテストを取りに来ていた。
外では相も変わらずセミの鳴き声が木霊するだけだった――――
平沢 唯
「いや~。遅れました~」
部室の扉を開けて、いそいそと中へ足を踏み入れる平沢である。
すでに軽音部部員は4人揃っている。
終業式が終わったあと、本来ならSHRがあってそれもすぐに終わるのだが、どういう訳か平沢1人が遅れてやって来たのである。
田井中 律
「どうしたんだよ唯。今日は特に掃除もないから遅れることはないだろ?まさかテストの点がまた悪いから追試、とか?」
すでに琴吹お手製、紅茶タイムを満喫している田井中がケーキを口に入れながら平沢に恐る恐る尋ねてきた。
だけど本人は首を横に振る。
平沢 唯
「違うよりっちゃん。テストの点は問題ないよ。別の事考えてただけだよ」
琴吹 紬
「なら早速、お茶を淹れるわね」
琴吹は上機嫌に振る舞って、平沢の席に彼女のカップを持って紅茶を淹れた。
注がれた紅茶からは良い臭いがする。
?????
「もう先輩方!明日から合宿だからと言って、今日練習しないのはダメですからね!」
ここで紅茶を飲む4人の先輩に対して、抗議の声を上げるのは今年から入学してきた軽音部の後輩である中野梓(なかのあずさ)だ。
彼女は非常に小柄で、黒髪のツインテールをしている。
担当は平沢と同じくギターを務めている。
腕は平沢よりもうまい。
音楽知識も秋山と同じくらい豊富である。
田井中 律
「分かってるって、梓。このお茶を飲んだら、すぐに練習始めるって。なぁ唯?」
平沢 唯
「そうだよあずにゃん。今来たばっかりでお茶も飲んでないのに練習なんてできないよ~。だからもうちょっと待ってよ」
あずにゃんと言うのは、平沢が中野を呼ぶときのあだ名である。
猫っぽい仕草や姿を見て、そう呼んでいるらしい。
中野 梓
「まったくもう。唯先輩は相変わらずマイペースすぎます!」
平沢 唯
「へへへ~」
こんな流れがいつも続くのである。
これが彼女たちにとっての日常なのだ。
彼女たちの目標は『武道館でライブする!』である。
このペースではいつまで経っても夢は叶えられそうになさそうなのだが、それはまた別の話のことである。
秋山 澪
「それにしてもさ、明日からムギの別荘で合宿か。楽しみだな」
田井中 律
「ああ!去年みたくまた海水浴したり、バーベキューをしたり花火して肝試しして、それからそれから」
秋山 澪
「おい律!ちゃんと練習するんだからな!あと肝試しはいらない!」
平沢 唯
「楽しみだね~。今年の合宿はどんな風になるんだろ」
中野 梓
「合宿、ですか。楽しみです!充実した練習が出来るんですから!」
ここに1人だけ、去年の合宿の様子を知らない後輩がいるが、無駄に期待している者がいた。
秋山 澪
「どうするんだよ。梓の奴、ちゃんと練習できると思ってかなり期待してるぞ。ちゃんと練習するから、そのつもりな」
田井中 律
「え~!いいじゃん、昼に海水浴して、夜に練習すれば」
秋山 澪
「疲れてるのにちゃんと練習できるのか?去年だってヘロヘロでほとんど練習出来なかっただろうが!」
琴吹 紬
「まぁまぁ、楽しかったから良いじゃない。思い出も写真もいっぱい撮れたし」
平沢 唯
「ところでムギちゃん。明日からの合宿ってムギちゃんの別荘だって言ってたけど、それってどこにあるの?」
琴吹 紬
「ふふっ、実はね。今回の別荘は一番大きい所じゃないんだけど、尾阿嵯(おあさ)町にある別荘を借りることになったの」
秋山 澪
「なぁムギ。もしかしてその尾阿嵯町って」
彼女はなぜか目が、キラキラ光っているのが気になった。
琴吹 紬
「そうよ。最近ニュースでやってる『学園都市』と唯一、鉄道を開通することで有名なあの町に、私の別荘を借りたの!」
秋山 澪
「おお!それって本当なのかムギ!?そうかっ、あの町にか!」
田井中 律
「なぁ澪~。その尾阿嵯町って何だよ?そんなに有名なのか?」
平沢 唯
「えっ!?りっちゃん知らないの!?」
田井中 律
「なっ、唯でも知ってるのか!?くそっ、あたしの情報網が!」
平沢 唯
「澪ちゃん、教えて~」
田井中 律
「あたしの心配を返せっ、この野郎!」
中野 梓
「もう!先輩方は新聞を読まなさすぎです!ムギ先輩の言った尾阿嵯町って言うのは、『学園都市』と兄弟町になった尾阿嵯町と共同で鉄道を開通させて、セレモニーを催すってテレビでやってたじゃないですか。結構有名な話ですよ」
田井中 律
「あ~、そうだったんか。そらあたしじゃ分からない訳だ」
平沢 唯
「そうだね~。新聞やニュースを見ない私たちにとっては無縁のお話ですわね~」
秋山 澪
「何呑気なこと言ってんだ。ったく、少しくらいは世の中を知れ」
秋山に叱られるも、適当にあしらう2人を見て、後輩である中野はため息を吐きつつも、去年の合宿についていくつか聞いておこうと思い、琴吹に振り返った。
中野 梓
「あの、ムギ先輩。さっき澪先輩が昼に海水浴、夜に練習するって言ってましたけど、1日のスケジュールとしてはどんな風に予定されてるんですか?」
琴吹 紬
「えっと、予定としてはまず海水浴を」
秋山 澪
「待てムギ!海水浴で遊んでたら、夜になって練習できなくなるぞ!ここはまず、午前中に練習をしてだな!」
田井中 律
「え~!!せっかく海に行くんだから、まず最初に泳がなきゃ失礼だろ!」
中野 梓
「誰に対して失礼なんですか?」
田井中 律
「………海の神様あたりとか」
中野 梓
「大して深く考えずに答えましたよね?と言うより、私も澪先輩に賛成です!先に海水浴に行ってしまったら、遊び疲れてしまって練習に身が入りません!先に練習するべきです!」
平沢 唯
「いくらあずにゃんでもその意見は通らないよ!私は先に泳ぐ派に1票入れます!」
田井中 律
「さぁムギ!あとはお前だけだ!ムギは先に海水浴に行きたい?それとも練習するか、どっちが良いか!?」
琴吹 紬
「それはもちろん、先に海水浴に出かけ」
秋山 澪
「ムギっ、考え直せ!去年の二の舞を踏んじゃいけないんだ!疲れた中での練習は意外とキツイんだ!頼むっ、考え直してくれ!」
中野 梓
「そ、そうですよ!先に楽しんでしまいたい気持ちは分かりますけど、それで軽音部の合宿なのに練習しなかったら、いつものようなお茶会とほとんど変わらないじゃないですか!」
琴吹 紬
「お、落ち着いて2人とも。別に練習しない訳じゃないわ。ただ、思い出作りに先に海水浴に行ってからでも遅くはないと思うの。それに去年だって、少ししか練習できなかったけど、唯ちゃんやりっちゃんだって練習したじゃない。だからお願い!」
琴吹にしては珍しく真剣に頼んできた。
それを見た2人はやれやれと言った形で互いに頷いた。
秋山 澪
「分かったよ。ムギがそこまで言うなら、先に海水浴に行こうか」
中野 梓
「でもその代わり、夜にはちゃんと練習してくださいよ?でないと私、怒りますよ?」
平沢 唯
「おお~、あずにゃんの怒り顔も可愛いかも。それだったらわざと練習をサボって」
中野 梓
「………唯先輩?」
田井中 律
「ひっ!?梓があまり漫画とかやっちゃいけない表情をしている!?」
秋山 澪
「いや、それ読んでるだけの人からじゃ分からないから」
琴吹 紬
「澪ちゃん、何の話をしているの?」
秋山 澪
「いや、何でもない」
コンコン。
部室からノックする音がした。
一同は会話するのを止め、自然と扉の方に視線が飛んでいく。
田井中 律
「はいは~い。開いてますよ~」
適当な返事をすると、答えるように1人の女性が入ってきた。
山中 さわ子
「お邪魔するわ。はぁ~、ムギちゃん、いつものアイスティをお願い」
琴吹 紬
「はいはい、少々お待ちを」
席を立って彼女の分のお茶を用意する。
彼女は山中さわ子(やまなかさわこ)、教師である。
同時に吹奏楽部と軽音部の顧問でもあり、さらに彼女はこの高校のOGで軽音部に所属していた。
………その時代はヘヴィメタのスタートして輝いていた、のかな?
山中 さわ子
「どうしたの唯ちゃん?私の顔を見つめて」
平沢 唯
「いや、何でもないよさわちゃん」
田井中 律
「おやま~、平沢さんったらさわちゃんの事を意識しちゃって!」
平沢 唯
「ち、違うよりっちゃん!私にはりっちゃんがいるから良いんだもん!」
田井中 律
「ちょっおま!さり気なく凄い発言をするな!一瞬だけ本気にしちまっただろ!?」
秋山 澪
「えっ?律と唯、そんな関係だったのか………?」
田井中 律
「いやいや澪、お前まで本気にするなよ。お前はどっちかって言うと、軽く受け流す側だろ」
琴吹 紬
「そ、それを平気で言えるりっちゃんと澪ちゃんの方が………」
田井中 律
「いやいやいや。ムギが今考えてること全否定してやるよ。第一、あたしらは女同士だぞ?ふつう考えれば分かる事だろー?」
秋山 澪
「そ、そうだよ!何言ってんだよみんな!」
中野 梓
「だったら別にそんなに慌てて否定しなくてもいいんじゃ?2人とも顔が赤いですし」
田井中&秋山
「「あ、暑いからだし!!」」
平沢 唯
「あははは!2人とも息ぴったり!」
――――そんなこんなで、軽音部の面子は談笑に勤しんでいた。
紅茶を飲んで、その後でようやく軽音部らしく演奏の練習をした。
と言っても、何度か演奏を合わせただけでその日の練習は終わってしまった。
山中 さわ子
「うんうん。みんな大分息が合ってきたんじゃないかしら?………あら、もうこんな時間ね。今日はこれくらいにしましょうか」
壁の時計を見てみると、もう既に長針が6時を過ぎたところである。
夏の時期でまだ外が明るいとは言え、帰宅する生徒らが徐々に増え始めていった。
それに肖り、軽音部もそろそろ撤収するべきであろうと判断した。
田井中 律
「オッケー、さわちゃん。いやぁ、久しぶりに良い演奏したな!唯!」
平沢 唯
「うん!ギー太も調子が良いから、いつも以上に弾けてるよ!」
彼女が初々しく持ち上げるのは、彼女の愛用ギターのギー太である。
楽器に名前を付ける辺り、やはり相当な愛着があるのだろう――――
そんなこんなで、今は帰路についている。
歩きながら話すのも、いつもの習慣である。
中野 梓
「それよりも、明日は楽器を忘れないで下さいよ?唯先輩、いっつも大事な時に楽器を忘れるんですから」
平沢 唯
「ふえぇ!?」
琴吹 紬
「もしそうなっちゃったら、私のヘリを使って家まで取りに行きましょうか?」
秋山 澪
「おいムギ!あまり唯を甘やかすなよ。いや、ヘリ使って家へ戻る時点で甘やかす次元が違うけど………」
田井中 律
「確かに。つか、憂ちゃんに頼んで準備とか手伝って貰えよ。しっかり者の憂ちゃんなら忘れないだろうから」
平沢憂(ひらさわうい)。
1つ下の妹で、田井中の言ったとおり唯とは違いしっかり者である。
身の回りの世話だけでなく、成績優秀、スポーツ万能と言った三拍子。
髪留めを解き、髪を降ろせば唯本人にそっくりなほど、顔付きが似ている。
しかし中身の出来に雲泥の差がある。
平沢 唯
「うん、そうしよう!」
秋山 澪
「ったく、唯は相変わらず憂ちゃんに甘えっぱなしだな。そんなんじゃ、将来は苦労するぞ?」
中野 梓
「そうですよ。先輩はいい加減、一人になっても生活で困らないようにしないと」
2人の大事な仲間からきついお言葉を貰ってしまった。
………それは前から考えていたことだった。
私はいつまでも憂に世話をして貰うわけにはいかない。
普段から憂に頼っているのは、彼女の優しさに甘えているからだ。
平沢 唯
「そう、だね。うん、準備は一人でしてみるよ」
田井中 律
「おっ。唯がとうとう独り立ちする時が来たんだな。憂ちゃん、きっと喜ぶぞ?」
中野 梓
「いや、憂の事だからお姉ちゃんが独り立ちしちゃうーとか言って、逆に悲しみと思いますよ?そうだ、喜ぶと言ったら、憂と純と真鍋先輩とで旅行に行くらしいですよ?」
秋山 澪
「へぇ、珍しい組み合わせだな。どこへ旅行に行くって?」
中野 梓
「えと、静岡県のキャンプ場に行くみたいですよ。そこで釣り大会が開催されるから、大きいの取って優勝するんだーって、純ってば張り切ってましたよ」
田井中 律
「へぇ、純ちゃんがねー………っと、あたしらここだから気を付けて家を帰れよー?」
秋山 澪
「明日は遅れずに来いよ?」
琴吹 紬
「お疲れさまー、また明日ねー」
中野 梓
「あ、お疲れ様でした!!」
平沢 唯
「また明日ねー!!」
上記三人と帰り道が異なるため、ここで別れることとなる。
平沢と中野は他愛もない話をしながら、やがてはそれぞれの自宅へと目指していった。
平沢 唯
「ただいま~」
玄関の戸を開けると、スリッパに履き替えた。
そこへ、リビングから妹の平沢憂が出迎えた。
平沢 憂
「お姉ちゃんお帰りなさい。手を洗ってきたら、アイス食べよ~?」
平沢 唯
「アイス!ちょっと待ってて!!」
アイスと言う単語を聞いた途端、彼女は荷物をほっぽり出して洗面台へ向かった。
ぱっぱと手と口を洗うと、リビングへ乗り込む。
平沢 唯
「憂!手を洗ってきたよ!アイスアイス!」
平沢 憂
「はいはい、ちょっと待ってて………はい」
平沢 唯
「うわぁ!ありがとう!頂きますっ」
アイスを受け取り、袋を破って口に流し込む。
おい、そんなに勢いよく食ったら喉詰まらせんぞ。
平沢 憂
「もう、そんなに慌てて食べたら喉に詰まらせちゃうよ………そうだ、お姉ちゃん」
平沢 唯
「ん?ふぉうしたの?(どうしたの?)」
平沢 憂
「明日からだよね?夏合宿があるのって」
平沢 唯
「うん、そうだよ~。ムギちゃんの別荘で、一杯遊ぶんだ~」
平沢 憂
「もう、お姉ちゃんったら。それでね、明日の支度をしようと思うんだけど」
平沢 唯
「………その事なんだけどね。用意は自分でしようかなって思うんだ。だから、憂は手伝わなくてもいいよ」
いつまでも甘えるわけにはいかない。
一度決めたことは、簡単には曲げたくはないから。
彼女は、妹に向かって首を振った。
平沢 憂
「?そう?なら、必要なモノがあったら言ってね。出せるモノがあるなら出すから」
平沢 唯
「うん、ありがとう」
平沢 憂
「じゃあ今から夕飯作るから、支度頑張ってね」
平沢 唯
「うん!」
――――それから一人で支度を頑張ることとなった。
衣服、歯磨きセット、ギー太、etc………………………………………………………
バッグに必要なモノを次々と、確認しながら入れていく。
初めてで不慣れであったが、冷静になると以外とどうにかなるようだ。
ピロリンッ、ピロリンッ
用意をしていると、机にある携帯が鳴り始める。
取ってみると、メールのようで、送り主は琴吹からであった。
平沢 唯
「ムギちゃんから?どうしたんだろう?」
メールは一斉送信されていて、全員が軽音部のメンバー宛に送られていた。
すると合宿に関する内容かな?
と、予想しながらメールを開いた。
”こんばんは。
皆はもう準備は済ませたかな?
実は明日からお世話になる別荘がある町についての情報を、今更ながら送ることにしました。
もちろん練習も大事だけど、皆との思い出も沢山作りたいって思ってるの!
だから、今から町の情報が掲載されてるサイトを送ります。
良かったら見て、生きたいところを予め決めておくのも良いかも♪
ムギより”
平沢 唯
「さっすがムギちゃん!なら早速――――」
平沢 憂
『お姉ちゃーん!!夕飯出来たよー!!』
サイトを開こうとした途端、下から妹の声が聞こえてきた。
タイミングが良かったかどうか知らないが、夕飯の支度が出来たらしい。
平沢 唯
「はーい、今行くよー!………ご飯食べ終わってからサイト見てみよう」
――――夕飯後――――
平沢 唯
「よし、ムギちゃんからのメールを見てっと………ん?」
夕飯を食べ終わった後、部屋に戻ってきた。
メールの中身を再び確認しようと、携帯を開いてメールを見つめたのだが、思考が一瞬だけ止まった。
………メールの内容が、先程と違って見えると言う違和感を感じていたのだ。
どこの部分とは言わないが、文章が一部変わっているような………。
平沢 唯
「気のせい、かな。まぁいいや。内容自体はそんなに変わってないし。さてと」
ベッドに横たわって、両足をぶらぶらさせながら携帯操作でURLを押して、サイトを閲覧していく。
そして明日から世話になる町の情報を見つめていく。
平沢 唯
「ふふふ、楽しみだな~。明日からまたみんなと一緒に旅行行けるんだなぁ。そうだ、憂や和ちゃんにお土産を買っていこう!何が良いかな~」
こんな感じで、いつも以上にテンションが上がっていた。
明日から夏休みであり、2度目の合宿がそうさせていたのだ。
サイトを閲覧しながら、予定を立てていく。
考えるだけでさらにワクワクが募っていった。
だけど、この時は知らなかった。
明日から始まるこの合宿が、あんな事件に呼び込むなど、誰が予測できようか?
そして思い知ることになるだろう。
自分自身の行動が、後の巨大な騒乱を引き起こす要因になろうとは、知る由がなかった………。
もうそろそろ夏ですね。
皆さんは、今年の夏は何をして過ごされますか?