どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者であります。
いやぁ、お盆休み最終日(ただし深夜0時を過ぎたからもう平日)に投稿に成功しました。
更新速度が遅くてすみません。
さて、ここに来て新たなキャラが出てきます。
けいおん!と同じバンド関係からの出演です。
正直に言って、キャラの口調や台詞が合っているか不安ですが(笑
また、前回と同様に地の文が多めな上、一番長いです。
どうぞお楽しみ下さいませ。
[夏合宿!-1日目(後編)]
2012年、7月15日、17;35;21
高校2年生 桜ヶ丘高校 軽音部所属
平沢 唯(ひらさわゆい)
日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 琴吹家別荘 砂浜付近
みなさんこんにちは?
もしくはこんばんは?
とても微妙な時間のため、どちらの挨拶にすれば良いのか分からない平沢唯です。
えっ?
それなら外の暗さで判断しろ?
うーん、今は夕日がとてもキレイなので、ならこんにちはと言うべきかもしれません。
まぁ、挨拶談義についてはこの辺にしましょう。
実は今私は、一人で外で散歩しています。
他のみんなは別荘に居て、今頃は寛いでいると思います。
………さっきまで私達は演奏の練習をしていました。
理由はもちろん、明日のオープンセレモニーで演奏をするためです。
その話を聞いたあずにゃんがすごく張り切っているのを、今でも思い出されます。
ずっと連続で演奏していたので、指と腕がパンパンです。
少し指を曲げると痛みが走りますが、それでも楽しさを感じられるのは、正直驚きです。
さて、話を元に戻します。
今は砂浜を歩いて居るとこで、特に目的地はある訳ではないので、ブラブラしている、と表現した方が正しいでしょう。
そこから見る夕日はとてもキレイです。
立ったままじゃ上手く撮影できないから、一旦座ることにしました。
思い出に写メを撮っていると、後ろから声が掛かりました。
その相手は、りっちゃんでした。
よう、と片手を上げると、私も返しました。
私の隣に座り、同じように夕日を眺めています。
田井中 律
「うおー!夕日がキレイだな!こう、地平線に沈んでいくー、って感じが!」
平沢 唯
「もうりっちゃん、なに言ってるか分からないよー」
田井中 律
「何をー!!」
平沢 唯
「あはっ、あはははは!くすぐったいよぅ!」
りっちゃんが私の脇をくすぐり始めました。
この広い砂浜には、私とりっちゃんの騒ぐ声しか聞こえませんでした。
夏の風物詩であるセミの音も、今は鳴りを潜めています。
それでも全く寂しさを感じさせないくらい、楽しいです。
………さっきからくすぐられ過ぎたせいで、呼吸が追いついていませんが。
平沢 唯
「はぁ、はぁ、はぁ………」
田井中 律
「あー、ごめん。やり過ぎた………」
平沢 唯
「もう、こうなったらりっちゃんにはアイスを奢って貰うしかないよ!」
田井中 律
「うぐっ、ま、まぁ1個くらいなら」
平沢 唯
「2個で」
田井中 律
「鬼か!つか、腹壊すから1個にしとけ!」
平沢 唯
「ふふ、冗談だよ。明日は演奏会なのに、ここで体調を崩したくないから」
田井中 律
「お、おう、何か唯がすごくまともな事言ってるぜ」
平沢 唯
「もう!私はいつだって真剣だよー!!ただその時間が短いってだけで………」
田井中 律
「ダメダメじゃんか-!!」
平沢 唯
「そう言うりっちゃんだって、珍しくノリノリで練習してたじゃん!学校じゃほとんど紅茶飲んでただけだったのにっ」
田井中 律
「それは唯だって同じだろー!!
平沢 唯
「なにをー!!」
と、ワチャワチャしながら取っ組み合いをするけど、別に本気で喧嘩してるんじゃありません。
そう言ったフリをしているだけです。
ご安心下さい。
田井中 律
「ふぅ。まぁ冗談はその辺にしておいて、もうそろそろ戻ろうぜ。夕飯とかの係決めを………ん?」
平沢 唯
「?どうしたの?」
先に立ち上がったりっちゃんでしたが、視線を私の反対側を向いていました。
気になってその視線を追うと、崖の上を見ているようでした。
徐々に暗くなっていくから見づらいですけど、崖の上に建物が建っています。
暗さと相まって、どこか不気味さを感じる建物でした。
田井中 律
「なぁ、あの建物って何なんだろうな?屋敷か?」
平沢 唯
「さぁ?ムギちゃんに聞いてみれば良いんじゃない?」
田井中 律
「それもそうだな。もしかして、廃病院だったりして」
平沢 唯
「あんな所に病院なんて建てないでしょー」
それもそうかー、と呟くりっちゃん。
そして別荘に戻り、ムギちゃんにこの事を話すと――――
琴吹 紬
「えっ、崖の上に病院?あー、あったわね、そんな場所………」
この話題に対してあまり覚えていないのか、ムギちゃんは考える人のポーズを取る。
ちなみに澪ちゃんはいつも通り、両耳を押さえて怖くない、怖くないと繰り返して呟いていました。
あずにゃんははぁ、とため息を吐きながら整備したいるギターのムッタンを床に置きました。
中野 梓
「もう、なに変な話を持ち込んでるんですか。それよりも、明日のセレモニーに向けての練習を………」
田井中 律
「そうだ!今からあの廃病院に行って、肝試しでもしようぜ!」
りっちゃんがとんでもない爆弾を落していきました。
えぇ………あの病院に行くの?
秋山 澪
「りりりりりつ!?なに言ってるんだ!?そそそ、そんな事するなんて………!!」
田井中 律
「大丈夫だって、オバケなんてもんがあるわけないだろ?ちょっと覗くだけだって」
琴吹 紬
「あ、思い出したわ。確かあそこで昔、殺人事件が起きたんだったわ」
秋山 澪
「ぎゃー!!殺人事件!?」
琴吹 紬
「ええ………あれは10年くらい前の今頃の時期だったと思うわ。病院長を勤めてた男性が殺害されたのよね」
田井中 律
「へぇ、そうだったのか。んで、その事件は解決したのか?」
琴吹 紬
「えーっと、あの事件はね………あれ?」
続きを話そうとするムギちゃんの声がピタッと止まりました。
中野 梓
「?どうしたんですか?」
琴吹 紬
「ごめんなさい。私も事件がどうなったのか、思い出せないの。齋藤なら、何か知ってると思うんだけど」
うーんっと頭を捻って思い出そうとするけど、なかなか言葉にならないようです。
その光景が何というか、すごく可愛らしいです。
田井中 律
「ほうほう。それにしても、殺人事件ですかぁ。これは………調査するべきですなぁ!!」
するとりっちゃんが何か思い付いたように立ち上がりました。
あー、両目をキラキラしてします………。
こうなったりっちゃんを止めるのは、至難の業です。
しかしあずにゃんは僅かに声を震わせながら。
中野 梓
「だ、だから、行きませんよ。明日に向けての演奏の練習を」
田井中 律
「おやー?梓ちゃんは怖いのかなー?ほうほう、そうですかそうですかー」
中野 梓
「べべべ、別に怖くありませんよ!澪先輩じゃないんですから!」
秋山 澪
「梓ぁ!?どう言う意味だ!私だって別に怖くなんか!」
田井中 律
「なら行っても問題ないよな~?それにまだ腹も減ってないから、腹空かすにはちょうど良いんじゃネェの?」
むふふー、とドヤ顔で2人を挑発しています。
うーん、こうなっちゃったらどうなるかは大体は予想がつくわけで………。
中野 梓
「そこまで言うなら行ってやるです!ムギ先輩、その場所はどこですか!?」
琴吹 紬
「えと、そこの崖だから、そう遠くはないけど………あそこは立ち入り禁止だったような」
田井中 律
「いやいや、ちょっとだけなら大丈夫だって!パパッと見て、パパッと帰ってくればいいから!」
秋山 澪
「わ、私は絶対に、絶対に行かないからな!行くなら私抜きにしてくれ!」
絶対、と言う言葉をこれでもかと強調すると、傍にあるソファーの上に飛び込み、頭から枕を被りました。
そしてプルプルと震えながら”聞こえない、見えない”を繰り返しています。
田井中 律
「うーん、ここまで意固地になった澪は誰にも動かせないからなぁ。仕方ない、今回の肝試しツアーは澪抜きで行こうぜ!」
琴吹 紬
「待って。念のために齋藤に、もしもの為に近くに居て貰うことにするわ」
すると携帯電話を取りだして、齋藤さんに電話を掛け始めました。
2,3言葉を発したら、通話を終了させます。
クルリとこちらを微笑んでいます。
琴吹 紬
「大丈夫だそうよ。ただ、廃墟になってから時間がかなり経過しているから、危なくなったらすぐに逃げてって」
田井中 律
「なら決まりだな!よし!なら早速、出発だーーーー!」
中野&琴吹
「「おおぉーーー!!」」
平沢 唯
「うん!」
秋山 澪
「聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえない見えない………」
こうして、肝試しツアー(仮)が開催されました。
………残念ながら澪ちゃんは不参加となってしまいましたが――――
琴吹 紬
「それで、ここの道を真っ直ぐ進んで行けば、りっちゃん達が見た廃病院が見えるわ」
夜道を歩きながら、ムギちゃんを先頭にして廃病院へ向かっています。
………近くには必要最低限の街頭しかなく、民家は全くありません。
木々の山道を切り開いた様な道が続いており、そのせいか余計に不気味さが増しています。
田井中 律
「それでさ、ムギ。聞かせてくれないか?」
琴吹 紬
「?なにを?」
田井中 律
「さっき言ってた殺人事件の話だよ。その事件があったから、廃病院になったんだろ?」
中野 梓
「私も気になります。何があったんですか?」
琴吹 紬
「私の小さい頃に起きた事件だから、うろ覚えよ?まぁ、殺人事件があったから閉鎖された訳じゃないんだけどね………ちょうど10年前の今頃だったかしら?」
平沢 唯
「夏に起きちゃったんだね」
琴吹 紬
「そうよ。そこの病院長を勤めてた人が殺害されたのは、さっきの話で言ったでしょ?」
平沢 唯
「うん」
琴吹 紬
「病院長が殺害されたのは、何と密室の院長室だったの。だから警察は当然、解決するのに難航したわ」
中野 梓
「密室、ですか。推理ミステリーでは定番ですね」
田井中 律
「実際に起きた事件だけどな」
琴吹 紬
「それでね、偶然にもその場に居合わせた高校生探偵がその事件を解決しちゃったの!」
田井中 律
「ほえー、こりゃまたベタな展開だな。んで、密室殺人のトリックは何だったんだ?」
琴吹 紬
「ふふふ、それは実際に現場に着いてから話すわ。それよりもほら、見えてきたわ」
ムギちゃんの細い指が、何を指すのかはもう分かっていました。
矛先にあるのは、ボロボロの廃屋でした。
どういう訳か、窓ガラスはほとんど割れていませんでしたが、家具や廃材によって塞がれていて、そこから入るのは無理そうです。
さらにコンクリートには所々にヒビが入っていて、今にも崩れそうです。
外から中の様子が窺えますが、やはりと言うべきか、中は真っ暗。
入る前から既にビクビクしていますが、澪ちゃんは着いて来なくて正解だったと感じた瞬間でした。
手元の懐中電灯の明かりを点け、入り口のてっぺんを灯しました。
平沢 唯
「尾阿嵯町診療所………?」
琴吹 紬
「この町で唯一の病院機関だったの。この町は昔、今ほどの発展してなかったから、地元住民は皆ここを頼ってたみたいなの」
田井中 律
「へぇ、結構でかいんだな診療所ってのは、こう、もっと小さいのをイメージしてた」
琴吹 紬
「住民だけじゃなくて海外の人も利用してたから、自然と大きい建物になったらしいわ。もっとも医者や看護師、スタッフの人数が足りないから、常に火事場状態だったみたいよ。でも」
中野 梓
「でも?」
琴吹 紬
「事件が起きた日は、ほとんど患者はいなかったの。たまたまなのか、それとも何かしらの原因が発生したのかは今でも分からないわ………さぁ、中へ入りましょう。でも足下には注意してね?」
田井中 律
「おっしゃ!心霊写真を撮るぞー!」
中野 梓
「いや、さすがにそれはまずいんじゃないですか?信じてる訳じゃありませんけど、呪われたらシャレになりませんよ?」
田井中 律
「おやぁ?今になって怖くなったのか~?梓?」
中野 梓
「いえ、それで先輩方の身に何かあった後だったら、もう手遅れじゃないですか。そんなの、嫌なんですよ」
田井中 律
「お、おう。その、挑発して悪かったな。でも大丈夫さ、何かやばそうな雰囲気になったらすぐに逃げ出せば良いんだからよ」
平沢 唯
「でもりっちゃん。もう中に入ってから既にやばそうな雰囲気なんですけど」
まずは1階から。
入り口にはやはりと言うべきか、待合室や受付が設けられている空間が広がっています。
私達の歩く際の足音しか聞こえてこず、それが逆に不気味さをさらに醸し出しています。
たまにガラスを踏むので、その音がこの空間に溶け込んでいきます。
懐中電灯を頼りに進んでいますが、これで大丈夫かな?
パシャッ
すると私の横から写真を撮るりっちゃんの姿が。
後ろを歩いているあずにゃんの目が吊り上がります。
中野 梓
「ちょっと、結局撮影するんですか!?すぐに消してください!」
田井中 律
「大丈夫だって、あと数枚撮るだけだって。ふひひ、これで澪を驚かしてやるぜ」
中野 梓
「はぁ、もう勝手にしてください………」
琴吹 紬
「ここに階段があるわ。医院長室は2階にあるから」
田井中 律
「お、おう。やべぇ、何か緊張してきた」
平沢 唯
「私は最初から緊張してるよ。でもさ、りっちゃんってこんなに」
ガシャンッ
突然、上の階からモノが割れるような音が響きました。
当然の如く、私達は驚いてしまい、心臓の音がすごくうるさく感じました。
身体はガタガタと震え、その場からすぐに動けませんでした。
田井中 律
「なっ、今の何の音だ!?」
中野 梓
「ガラスが割れるような音、ですよね?」
田井中 律
「か、風とかが吹いてガラスが落ちて割れただけだろ?」
平沢 唯
「だと、良いんだけどね………ねぇ、もう帰らない?なんか背中が寒気するんだけど」
田井中 律
「………そう、だな。もう、写真はいい。みんなもそれでいいよな?」
中野 梓
「はい。まぁ、言い出しっぺの律先輩がそれでいいなら別に」
平沢 唯
「私もオッケーだよ!」
琴吹 紬
「そうね、これ以上は詮索はよしましょう。それに、嫌な予感がするわ」
満場一致でこの建物から出ることに決めました。
みんなが出口に向かい、あっという間に出口に辿り着いたので、ホッとしました。
ムギちゃんが扉に手を掛けて戸を押そうとしましたが――――
琴吹 紬
「………あら?」
ムギちゃんから変な声が漏れたのは、その時でした。
不審に思った私達は、ムギちゃんの様子を伺いました。
中野 梓
「あの、ムギ先輩?どうしました?」
田井中 律
「どうしたんだよ?さっさとここから出ようぜ」
私もそう思ったのですが、ずっと扉の前で止まっていてなかなか動かないムギちゃんは、私達に向かい合いました。
その表情は青ざめていて、こんなムギちゃんを見たことがありません。
琴吹 紬
「それが、その。扉が開かないの」
………人と言うのは現実離れした事態に直面すると、始めは混乱するかと思いますけど、実際はものすごく冷静でいられるようです。
いえ、現実離れした時点で、冷静な状態ではいられないと思いますけど。
田井中 律
「ま、またまたー。そう言う冗談は笑えないぞ、ムギ。そこから入ったのに、どうして閉まってるんだよ?」
中野 梓
「………律先輩、どうやら冗談じゃ済まないようです。本当に開かないです」
田井中 律
「おいおい、マジかよ………!」
りっちゃんも続いて、あずにゃんに代わって扉を押したり引いたりしますが、全く開かれる様子はありません。
先程まで開いていた扉が、なぜ?
疑問が生まれ、そして不安と言う感情が呼び起こされます。
ま、まさか、本当に――――
田井中 律
「な、なぁムギ!電話で齋藤さんを呼べないのか!?近くにいるんだろ!?」
琴吹 紬
「それがさっきから電話してるんだけど、全然繋がらないのよ!さっきまではアンテナが立ってたのに!」
さすがのムギちゃんでも、この事態は予想外だったみたいで、すでに泣く寸前までになっています。
私も試しに携帯を見てみますが、圏外となっていて、繋がる気配はありませんでした。
そこであずにゃんが扉を叩き始めました。
中野 梓
「ちょっと!誰だか分かりませんが、私達はまだ中にいます!閉めたのなら、開けてください!!」
田井中 律
「ちょっ、大きな音を出すなよ!ビックリするだろうが!」
中野 梓
「なに言ってるんですか!?元はと言えば、律先輩が肝試しなんて企画しなければこんな事にはならなかったんですよ!?」
田井中 律
「はぁ!?あたしのせいだって言うのかよ!?後から付いて行くって言い出したのは、梓だろ!?」
琴吹 紬
「喧嘩は止めて!今は一刻も早く外に出るのが先よ!喧嘩ならその後でやってちょうだい!!」
喧嘩する2人の間を無理矢理入って、仲裁するムギちゃん。
珍しく怒鳴るムギちゃんを見て、2人は驚きのあまり、しばらく固まっていました。
そして私は相変わらず、何も出来ませんでした。
田井中 律
「そ、そうだよな。すまん2人とも。あたし、冷静じゃなかったな。ごめん」
中野 梓
「私こそごめんなさい。付いてきたのは私の意思なのに、それを先輩のせいにしてました………」
何とか喧嘩は治まったモノの、打開策は見出せていません。
これからどうするべきでしょうか?
平沢 唯
「と、とりあえず、上の階を目指さない?怖いけど、さ」
琴吹 紬
「理由を聞いて良いかしら?」
平沢 唯
「さっき物音がしたでしょ?それって、風が吹いてモノが落ちたからだと思うだよね」
田井中 律
「あたしらを閉じ込めた誰かが、わざとモノを落してあたしらをビビらせているだけかもよ?」
平沢 唯
「うっ、そ、それもそっか」
中野 梓
「でもどの道、この建物から抜け出すためには、あちこちを歩き回って情報を集めないと」
田井中 律
「ま、そりゃそうか。よし!なら全員でこの建物から脱出を図るために、一致団結しようぜ!!」
全員
「「「おおーーー!!」」」
こうして、私達は一致団結することが出来ました。
時刻は午後7時を回ったばかり。
早めに帰らないと、別荘で待ってる澪ちゃんが寂しがるからね。
だから私達は、一刻も早く脱出するために走り回る――――
あれだけ散々、上の階へ上るのが嫌だった2階へ上り、探索を始めました。
優先事項としては、出口の捜索。
他には携帯電話が使える場所の捜索も行いたかったが、望みは薄い状態です。
先程から携帯をちょくちょく確認してますが、一向に繋がる気配がないためです。
だから、出口を探しているところなのです。
田井中 律
「おーい、そっちに出口あったかー?」
中野 梓
「いえ、まだ見つかってません。と言うか、簡単に見つかるわけないでしょう」
田井中 律
「それもそうだな。ちっ、相変わらず携帯はダメか………」
携帯という単語を聞いた途端、私は思い出しました。
昨日ムギちゃんから送られてきた、この町に関するメール。
目を離した後の文章が若干異なる事に違和感を覚えていた私は、見取り図を確認しているムギちゃんに近付きました。
平沢 唯
「ねぇムギちゃん、ムギちゃん」
琴吹 紬
「なに、唯ちゃん?」
平沢 唯
「昨日さ、この町に関するメールを送ってくれたじゃない?あれって2通送った?」
琴吹 紬
「………?いいえ、2通も送らないわ。皆に一斉送信したもの、間違って2通送ったのなら他の皆にも届いてるはずよ。それがどうかしたの?」
平沢 唯
「ううん、何でもない。確認したかっただけだよ」
琴吹 紬
「そうなの。にしても、この診療所は部屋の数が多いわね。1つ1つ回るのは骨が折れそうね」
平沢 唯
「ホントだ。さすがに覚えきれないから、これを持って行こうよ。どうせ誰も使わないんだし」
琴吹 紬
「そうね、そうしましょうか………よいしょ、はい唯ちゃん。持っててくれる?」
平沢 唯
「うん!!」
私はムギちゃんから”診療所の見取り図”を受け取りました。
………改めて見ると、この診療所はかなりの広さを持っているようです。
それにも関わらず、外へ出られそうな出口は一向に見つからないなんて、とても不思議でした。
さっきも言ったとおり、外へは家具や廃材が邪魔をしているので出られません。
持ち上げようとしても鎖で繋がっているため、いくら力持ちのムギちゃんでも鎖が邪魔で持ち運べるはずがありません。
中野 梓
「にしても、なんで閉鎖された診療所は家具に鎖なんて巻いて、中から出られないようにしたんでしょう?」
田井中 律
「っお、おい、今はその話はよそうぜ。これじゃまるで………」
琴吹 紬
「”私達を閉じ込めようとするために施したみたいだ”って言うつもりだった?」
田井中 律
「ちょっ、ムギ!言うなよっ、考えないようにしてたのによ!!」
琴吹 紬
「ごめんなさい、でも私もそう考えてしまうの。だってものの数分前には通じてた出口が閉まっていて、他の窓や扉にはわざわざこんな手の込んだモノまで配置してる。これはもう明らかね」
田井中 律
「………誰かが意図的に、あたしらみたいな不法侵入者を閉じ込めるためにこんなの置いたって?」
とうとうりっちゃんが口にしてしまいました。
私も薄々は感じてはいましたが、いざ同じ境遇の仲間の口から言われると、より現実味が増します。
平沢 唯
「でもでも、ただ単に閉じ込めるだけなら、何で誰も出てこないの?普通私達を閉じ込められたのなら、様子くらいは見に来るよね?」
中野 梓
「た、確かに」
田井中 律
「あたしらの慌てた様子でも見て、画面の向こう側でほくそ笑んでるんだろ?ここ、監視カメラもあるし」
動いているかは分からないけどな、と付け足して、りっちゃんは監視カメラのある天井を睨み付けました。
………個室や廊下には絶対に1台は置いてある監視カメラ。
ただ単に患者の様子を見るためだけに付けられたのでしょうか?
どのみち、不気味である事は変わりありません。
ガチャンッ
するとまたしても、何かが割れる音がしました。
今度は同じフロアから、です。
田井中 律
「うわっ!?」
中野 梓
「ひっ、こ、今度は近くから!?」
琴吹 紬
「皆落ち着いてっ。動かなければこちらに気付かれないわ」
ムギちゃんは冷静にそう告げて、近くの壁に寄って耳元を立て始めました。
その体勢で音を聞くつもりなのでしょう。
本当にムギちゃんはすごいなと、感じた瞬間でした。
琴吹 紬
「………………足音がするわ。数は2人くらいかしら?なら」
ムギちゃんは静かに呟くと、床に置いてある鉄パイプを持ちました。
田井中 律
「お、おいムギ、まさかっ」
琴吹 紬
「幽霊の正体を確かめに行きましょう。もっとも、相手は幽霊じゃなくて人みたいだから」
中野 梓
「危ないですよ!相手は複数人いるんですよ!?」
琴吹 紬
「でもこっちは倍の数がいるわ。それに、もう逃げるのはお終いにしましょう。澪ちゃんも待ってるし」
平沢 唯
「ムギちゃん………」
琴吹 紬
「大丈夫よ唯ちゃん。1人は私が抑えるから、もう1人は3人で捕まえて欲しいの」
かなり無茶な用件を言われた気がしますが、やるしかなさそうです。
確かに、もうそろそろ疲れてきたので、帰りたい気分が徐々に高まってきます。
最初から高かったようにも感じられますが――――
とにかく、私達は音のした通路の奥へと向かいました。
先手は取れた方が良いので、先頭にムギちゃんがいます。
次にりっちゃんにあずにゃん、最後に私となりました。
私は背後を警戒しつつ、周囲にも気を立たせます。
うん、どこかのスパイ映画の真似をしているようだ。
そして先頭を歩いていたムギちゃんが一度立ち止まり、また耳を澄ませました。
琴吹 紬
「………この先から物音がするわね。よし、せーので行くわよ?準備は良い?」
中野 梓
「大丈夫です」
田井中 律
「いつでも行けるぜ」
平沢 唯
「早く帰って合宿の続きをしよう!!」
田井中 律
「続きって………はは、こんな時でも唯は唯なんだな」
中野 梓
「でもこれが唯先輩らしくて良いと思いますよ」
琴吹 紬
「よし、なら行くわよ………せーの!」
ムギちゃんの合図で、一斉に通路の向こう側へ雪崩れ込みました。
すると私達から見て後ろ向きにいた人達は私達を見て、驚愕の表情をしていました。
そりゃそうだろう、いきなり後ろから人が襲い掛かってくるなんて、まるでホラー映画のようです。
??????
「ひっ、ひいぃぃ!?」
??????
「っ!?」
恐怖に耐えきれなかったのか、女性の悲鳴が診療所を満たしていました。
………ん?女性の悲鳴?
琴吹 紬
「動かないで!その場で大人しくしなさい!!」
田井中 律
「ガタガタ抜かすと島流しにするぞ!!」
中野 梓
「先輩、それいつの時代の懲罰方法ですか………」
やることはもう大してありませんが、私は怯えている2人の様子を観察することにします。
2人とも女性で、片方は濃い紫色の少し長めの髪をした人で、中性的な顔をした人でした。
ガクガクブルブルと震え、もう1人の人の背後に怯えるようにこちらを見ています。
もう1人は怯えている様子はなく、ただ背中に隠れている1人目の女性を庇うように私達を睨み付けていました。
髪はオレンジ色のショートヘアーで、少しボーイッシュな格好をした子でした。
するとオレンジヘアーの子が私達に突き付けました。
??????
「あ、あなた達は誰!?ここへ閉じ込めてどうするつもりなの!?」
田井中 律
「は、はぁ?閉じ込めたのはそっちの方だろ?」
??????
「そんなことしないよ!はぐみ達はここへ肝試しに来ただけだもん!!そう言うあなた達の方が怪しい!」
田井中 律
「あたしらだってここには心霊ツアーに来ただけだっつうの!他にやましい事なんてしない!」
琴吹 紬
「待って2人とも、お互いに落ち着いて!!」
ムギちゃんがヒートアップする2人の間に割って入りました。
お互いに閉じ込めた犯人として疑い始めたためでしょう。
中野 梓
「えと、あなた達はどこから入ってきたんですか?私達は1階の入り口から入ってきたんです」
??????
「私達、は、裏口から入ってきたんだ。しばらくして外へ出ようとしたら、開かなくなってしまって………」
平沢 唯
「へぇ、そうだったんだ………あ、私は平沢唯だよ!あなた達は?」
??????
「えと、自己紹介も良いが、私達には連れがいるんだ。彼女達と合流してからお互いに自己紹介をしようじゃないか」
琴吹 紬
「私達に他の連れが居ないから、このまま合流しましょう」
ようやく調子を取り戻したのか、紫色の髪の子が立ち上がりました。
ふーん、他にも連れが居たんだ。
田井中 律
「お、おう、分かった。それと、さっきはいきなり怒鳴って悪かったな。すまん」
??????
「気にする必要はないさ子猫ちゃん達。誰だってこの状況では冷静ではいられなくなるさ。そうだ、なら私達だけでも自己紹介を済ませてしまおう。私の名は瀬田薫(せたかおる)と言う者だ。羽丘女子学園高校の2年生だ」
??????
「はぐみは北沢はぐみ(きたざわはぐみ)だよ!花咲川女子学園高校1年生!!よろしくね!!」
田井中 律
「よろしくな!あたしは田井中律、桜ヶ丘高校の2年だ――――」
歩きながらお互いの自己紹介を済ませます。
………しかし今思ったのですが、廃病院の中で真っ暗な空間にも関わらず、女子高生同士の会話になっていました。
怖かった雰囲気が一気に霧散していました。
おかげでオバケ屋敷のような空間にいるにも関わらず、全く怖くありません――――
1階へ再び降りてくると、そこは資材が大量に保管されている空間に出ました。
地図で見た資材保管庫のようです。
天井まで高く積み上げられた段ボールや木箱は、今にも崩れそうで怖いです。
そんな事を考えていると、資材の陰から2人の女の子が出てきました。
あの子達が薫ちゃん達の連れなのかな?
瀬田 薫
「やぁ、待たせたね子猫ちゃん達。無事に戻ったよ」
??????
「お帰りなさい薫、はぐみ!それで、どうだった?出口は見つかったのかしら?」
??????
「ふ、ふえぇぇ………知らない人達がいっぱい居るよぅ」
北沢 はぐみ
「ううん、見つからなかったよ。それより、はぐみ達と同じ境遇の人達を連れてきたよ!!」
??????
「あら、そうなの?もしかして後ろに居る人達がそうなの?」
瀬田 薫
「そうなんだ。いやぁ、迷える子羊の如く私達が運良く彼女達を見つけら、どこも怪我をせずに済んだよ」
涼しい顔して嘘をつく薫さん。
あれ?さっきはビクビクしていて、はぐみちゃんの後ろに隠れてなかったっけ?
クールキャラを崩したくないのかな?
私と同じような心境に陥ったのか、あずにゃんとムギちゃんは薫ちゃんの顔を凝視したままだった。
田井中 律
「はぁ?なに言ってんだ?あたしらが最初にお前らを見つけて――――」
??????
「あらそうなの?さすがは薫ね!あたしは弦巻こころ(つるまきこころ)よ!それでこっちに居る大人しい子が」
??????
「あの、えと、松原花音(まつばらかのん)と言いますぅ。ふえぇぇぇ………」
金髪でキラキラした目をする弦巻こころちゃんと、先程からオドオドしている松原花音ちゃんがそれぞれ紹介しました。
怖がっているせいか、花音ちゃんの身体が小刻みに震えているようです。
私はそっと彼女に近付き、彼女をギュッと抱き締めました。
松原 花音
「あっ、あの………」
平沢 唯
「大丈夫だよ、怖がらなくていいよ。大丈夫、私達が出口を見つけるから、ね?」
松原 花音
「あの、ありがとう、ございます………」
弦巻 こころ
「まぁ………」
田井中 律
「あー、まぁあいつは誰かに抱き付く癖があるから、あまり気にしないでくれ。おっと、あたしは――――」
ここでこちらのメンバーの自己紹介を始めます。
名前と学年、所属学校くらいしか言いませんでした。
これ以上話したら、時間がムダに経過しかねないからです。
弦巻 こころ
「そうだったのね!皆よろしくね!唯、あなたのおかげで花音が落ち着いたわ!ありがとう!」
平沢 唯
「えへへへ、どういたしまして」
琴吹 紬
「弦巻、こころ………」
中野 梓
「?どうしたんですか?ムギ先輩」
琴吹 紬
「ねぇ、もしかして弦巻こころちゃん?覚えてない?私の事」
弦巻 こころ
「………?どこかで会ったことあるかしら?」
琴吹 紬
「琴吹紬よ。ほら、前に財閥同士で開かれたパーティで会ったじゃない」
弦巻 こころ
「ああ、思い出したわ!あなたムギね!久しぶりね!」
2人は互いに知り合い同士だったのでしょう、嬉しそうに手を繋いではしゃいでいます。
それにしても………。
平沢 唯
「2人とも金髪だから、姉妹に見えるね。顔付きも似てるし」
田井中 律
「あー、確かに。あたしもさっきまでもしかして姉妹か?って思うくらいだし」
北沢 はぐみ
「はぐみもそう感じた!」
瀬田 薫
「………さて、互いに自己紹介を済ませたところで、この病院から脱出しようじゃないか。美咲も外で待たせているしね」
松原 花音
「そう、だね。美咲ちゃんだけ、外で待っていてくれてるもんね」
どうやら、もう1人だけ連れがいるようです。
私達にも………澪ちゃんが待っています。
中野 梓
「私達も澪先輩が待ってますし、早くここから抜け出しましょう。そちらはどの辺りを捜索しましたか?唯先輩、さっきムギ先輩からこの診療施設の見取り図を出してください」
平沢 唯
「うん、ちょっと待ってね………はいこれ」
私はあずにゃんに”診療所の見取り図”を渡しました。
するとこころちゃん達は見取り図に赤い丸の印を入れ始めました。
弦巻 こころ
「あたし達が見た箇所はこの辺よ。あなた達は?」
琴吹 紬
「私達はこことここよ。でも途中で引き返したから、2階は全く探索してないの。ごめんなさい」
弦巻 こころ
「謝る必要なんてないわ。この暗い中だもの、無闇に歩いて怪我したら危険よ。はい唯、地図に書いたわよ!」
平沢 唯
「ありがとう」
私はこころちゃんから”印の付いた見取り図”を貰いました。
調べた箇所は――――
平沢 唯
「1階は受付、会議室と資材室。2階は2つの会議室っと………ん?」
私はこの見取り図を見て、違和感を感じました。
………小さい町の診療所なのに、会議室が多い気がします。
なぜだろう?
それに………。
平沢 唯
「ねぇこころちゃん。この医院長室にあるハテナマークはなんなの?」
弦巻 こころ
「そこはどう言う訳か、開かなかったのよ。鍵が掛かってもないのに、変だわ。でもそうね、もしかしたら幽霊がイタズラをしているのかも知れないわ!はぁ、会えるなら会ってみたいわ!」
瀬田 薫
「はぁ、儚い………ぐふっ」
北沢 はぐみ
「ミステリーなニオイがするね!うーん、ワクワクしてくるね!」
松原 花音
「ふえぇぇぇ………早くここから出たいようぅ………」
それぞれが異なる反応をしました。
ふふ、個性があってなかなか面白そうな人達だと感じられました。
………私達も同じような個性が、確かにある。
その個性があって、私達………放課後ティータイムがある。
放課後ティータイムによって、楽しい時間が過ごせている。
それはこころちゃん達にも言えることなのだろう。
そう感じました。
その個性がある事にどこかで感謝しながら、私はムギちゃんとあずにゃん、りっちゃんに振り向きました。
平沢 唯
「ねぇみんな!それなら、その医院長室に行ってみない?」
中野 梓
「えっ?医院長室に?」
平沢 唯
「そこだけ開かなかったんだよね?他は資材が置いてあって見られない部屋があったけど、今はそこしか行けないでしょ?なら、そこへ行ってこの怪奇現象の謎を解いちゃおう!」
弦巻 こころ
「あら、それは良いわね!ならば早速向かいましょう!全員、出撃よ!」
北沢 はぐみ
「よーし!敵将を討ち取りに行っちゃおう!」
田井中 律
「うっし!行くぜ野郎共!放課後ティータイム、全員出動だ!!」
琴吹 紬
「おおぉーー!!!」
中野 梓
「澪先輩居ませんけどね。とりあえず、おおぉー」
チーム一丸となり、医院長室に向かうことになりました――――
8人の大所帯となり、ちょっと移動しづらくなったため、医院長室には半分の4人が突入する方向になりました。
外の4人は見張りで、周囲の状況の確認をします。
それで突入する人と言うのは………。
平沢 唯
「私とムギちゃん、こころちゃんにはぐみちゃんの4人か」
弦巻 こころ
「どうしたの唯?忘れ物でもしたのかしら?」
平沢 唯
「ううん、ちょっと、ね」
琴吹 紬
「薫さんと花音ちゃんには外で待っていましょう。何だか2人とも顔色が悪いみたいだし、ね?」
瀬田 薫
「す、すまないね、子猫ちゃん達。何だかこの空間に居続けていたせいか、身体が重たいんだ………」
松原 花音
「ごめんなさい、私も、その、暗いところが苦手で………」
平沢 唯
「気にしないで………りっちゃん、あずにゃん、2人をお願いね?」
田井中 律
「よし、殿と2人は任せろ!」
中野 梓
「皆さん、気を付けてくださいね?さっきから嫌な予感しかしないんです」
4人に見守られて、私達は医院長室前まで来ました。
正直に言ってかなり怖いですが、みんなが居てくれるから前へ進めます。
ドキドキするけど、ライブとは違う緊張感が漂っています。
それは、ここにいる4人が同じように感じている………と思っていましたが。
弦巻 こころ
「とってもワクワクするわ!いよいよ幽霊とのご対面ね!一体どんな姿なのかしら?」
北沢 はぐみ
「そうだね!はぐみもとてもドキドキしてるよ!ライブをする時以上だよ!」
はぐみちゃんの口からライブという単語が出てきました。
もしかして、はぐみちゃん達もバンドを組んでいるのかな?
琴吹 紬
「見て皆。あそこにダクトがあるわ。あそこが外れれば、中へ入れるわ」
平沢 唯
「でもあの様子だと、誰かが肩車しないと行けないね」
琴吹 紬
「なら私が肩車をするわ。この中なら、私の方が一番力あるし」
弦巻 こころ
「ムギ、お願いね!最初はあたしが行くわ!肩車してちょうだい!」
琴吹 紬
「ちょっと待ってて、滑るといけないからゆっくりとね?」
弦巻 こころ
「うん!」
平沢 唯
「………」
北沢 はぐみ
「?どうしたの唯ちゃん?2人を見つめて?」
平沢 唯
「あ、ううん。私から見て、やっぱり2人は姉妹に見えるなーって」
北沢 はぐみ
「そうだねー!もしかしてホンモノの姉妹だったりして」
琴吹 紬
「よいしょっと。はい、次ははぐみちゃんの番よ」
北沢 はぐみ
「はーい、今行きまーす!」
そこにはちょうど、こころちゃんがダクトを登り終えたところでした。
次は、はぐみちゃんが登る番でした。
運動神経が元々高いのか、はぐみちゃんは軽々とした足取りでダクトを登り切りました。
そして最後に私の番。
琴吹 紬
「唯ちゃんにまだ言ってなかったわね。先に行ったこころちゃんには言ってあるけど、中へ入ったら可能な限りで良いから入り口のモノをどかして欲しいと伝えてあるわ。そうすれば、最後に残った私が中へ入れるでしょ?」
平沢 唯
「あー、そっか!頭良いね!それなら、最後に踏み台になるムギちゃんも中へ入れるね!」
琴吹 紬
「そ、そうね………さ、唯ちゃんも早く登って?」
平沢 唯
「うん!」
ゆっくりとムギちゃんの差し出された手を掴み、彼女の肩に足を掛けました。
そして身体が少しずつ上昇していきます。
段々とダクトへ近付いていき、そして手が端の部分に乗りました。
平沢 唯
「よし、手が掛かった!ムギちゃん、先に行ってるからね」
琴吹 紬
「気を付けてね、唯ちゃん」
ダクトの中へ入ると、ホコリは先に2人が通ったからか、ほとんどないように見えました。
抱腹前進で進むと、少し先に光が漏れていました。
恐らくそこが医院長室の真下なのでしょう。
私はそこへ突き進みました。
平沢 唯
「よいしょっと」
下に2人が居ないのを確認すると、私はダクトから降りました。
けど空中でバランスを崩してしまい、尻餅を付いてしまいました。
平沢 唯
「痛い!!」
弦巻 こころ
「だ、大丈夫、唯?結構高いところから落ちたみたいだけど」
北沢 はぐみ
「ごめんね唯ちゃん。受け止められなくて」
平沢 唯
「だ、大丈夫だよ。それより、2人が下敷きにならなくて良かったよ。いたたた………」
だけど痛いのは変わりはなく、お尻を何度もさすってしまいます。
弦巻 こころ
「唯はそこで休んでて?あたし達で出口を塞いでるこの家具を動かすわ。はぐみ、手伝って!」
北沢 はぐみ
「うん!」
私も手伝うと言いようとしましたが、思った以上の痛みが走ったので、やむなく彼女達の言葉に甘えることにします。
2人はそう言い残して入り口の確保へ向かいました。
その間に、私は医院長室を観察することにしました。
――――部屋全体が例にも漏れず酷く荒れていました。
家具は壊れていて、割れた蛍光灯がぶら下がっています。
そして何より、火事で燃えたように周囲が焦げた跡があったことです。
他の部屋や通路は荒れていただけなのに、ここだけは特にそれが顕著となって現れているようです。
だから服が汚れないようにするために、座ることも出来ません。
でも先程、落ちた時に尻餅を付いてしまったので、ズボンのお汁の部分が煤だらけです。
ううぅ、帰ったら憂に怒られちゃうよ………。
あ、でもムギちゃんにお願いして洗濯機でも借りれるようにお願いしようかな。
弦巻 こころ
「でもそうね、どうしてこの部屋だけこんなに荒れてるのかしら?」
平沢 唯
「ムギちゃんが言ってたんだけど、ここで昔殺人事件があった、って」
北沢 はぐみ
「そうなの?結構物騒だねー。もしかして、はぐみ達を閉じ込めたのって、その殺害されちゃった人の幽霊なのかな?」
弦巻 こころ
「………かわいそう、ね」
平沢 唯
「そう、だね。これから楽しいこともあっただろうしね………」
弦巻 こころ
「死んじゃったら、笑顔になれないわ!この世界には楽しいことがいーっぱい溢れてるのに!勿体ないわ!」
北沢 はぐみ
「なら生きているはぐみ達がその分、楽しい思い出をいっぱい作ろう!だけどその前に」
弦巻 こころ
「ここから出るのが先ね!さて、ムギを早く入れないとね!」
??????
「あらダメよ。医院長室は本来立ち入り禁止にしてるんだから」
すると背後から女性の声がしました。
驚いて私達は振り返り、その正体を見ました。
ふわりとした髪をしていて、20歳くらいの女性がそこに立っていました。
薄青色のスカーフを首に巻いているのが、なぜかとても印象的でした。
弦巻 こころ
「あなた誰?もしかして、殺害された人の幽霊かしら!?」
??????
「ふふ、面白い冗談ね。だけど残念、あなたの目当てにしてる幽霊じゃないわ」
北沢 はぐみ
「あれ?はぐみ達、幽霊に会いたくて来たって事、行ったっけ?」
??????
「ここに来る人達はね、大体は肝試しや心霊スポットを巡るのが理由なのよ。それでさっきのあなたの殺害された幽霊って言葉で、幽霊に逢いに来たって思ったのよ。ま、そんな人達が来ないように窓や出入り口を塞いだんだけどね」
なるほど、だから建物の至る所にモノが置かれていて、入れないようなっていたんだ。
でもそれで出られなくなってしまったのなら、ありがた迷惑である。
もっとも、それなら最初から入らなければいい話になるけど。
北沢 はぐみ
「ほえー、なるほどー」
弦巻 こころ
「あなただってこの病院にいるじゃない」
??????
「………私はここには仕事で来ているから良いのよ。大事な仕事の、ね………どうやって入ったのかは知らないけど、早くここから出なさい。危険なんだから」
一瞬だけど、彼女は暗い顔になるのを見逃せませんでした。
仕事でここに来ている?
こんな廃墟で、彼女は何をしようとしているのだろう?
弦巻 こころ
「出たいんだけど、出口が全部塞がってて出られないのよ。あなたが塞いだんじゃないのかしら?」
??????
「あら、そうなの?妙ね、私が入ってきた時は塞がってなかったのに」
北沢 はぐみ
「どこから入ってきたの?」
??????
「2階の窓からよ?1階じゃあ、窓と入り口は全部塞がれていたし」
淡々と答える彼女の言葉を変だと思ったのは、私だけじゃないよね?
窓から侵入って………。
でもこころちゃんとはぐみちゃんはおかしだと思ってない。
私が変なのかな?
北沢 はぐみ
「ならその窓から逃げようよ!他が塞がってたなら、もうそこしか出口はないだろうし」
??????
「そうね。それなら、あなた達を外へ逃がすことが先決ね。だから――――」
グラッ
両足の裏から、小さな振動を感じました。
最初は何も感じませんでしたが、それは徐々に大きくなっていきました。
まるで今からこの建物が崩れるかのように。
北沢 はぐみ
「うわぁ!?こ、この揺れは!?」
??????
「まずい!もうすぐこの建物が崩れるわ!皆、急いでこの建物から脱出して!」
平沢 唯
「で、でもまだりっちゃん達が!」
??????
「他の子達なら大丈夫よ、さっきこの部屋へ入る前に出るように伝えてあるからっ、後はあなた達だけよ!!だから早く!!」
弦巻 こころ
「なら安心ね!さぁ、さっさとここから脱出するわよ!」
北沢 はぐみ
「うん!唯ちゃん、早く行こう!」
平沢 唯
「う、うん!」
こうして私達は、急いで建物から脱出しました。
それからどうやって、外へ脱出するかは覚えてませんでした。
覚えている事と言えば、医院長室のすぐ外に居るムギちゃんとちゃんと合流して、いつの間にか外へ出ているだけです。
そして外へ出た私達は――――
田井中 律
「お、おい見ろ!」
先に外へ脱出していたりっちゃんが、背後から轟音がする方へ向きました。
そこには廃診療所が少しずつ崩れる様子でした。
………私は一生この光景を忘れることは出来ないでしょう。
さっきまで自分達がいた場所が、轟音を発しながら崩れていくなんて。
中野 梓
「あっ、診療所が………」
瀬田 薫
「崩れていく………はぁ、儚い」
松原 花音
「ふえぇぇぇぇぇ………怖いよぅ」
琴吹 紬
「はぁ、はぁ、あ、危なかったわね」
平沢 唯
「そう、だね………」
私達はただ唖然としながら、崩れていく様子を見ているしかありませんでした。
不気味な空間を醸し出していたあの廃診療所は、あんなにあっさり崩れ去るなんて。
そして――――全てが崩れ去った後は、大量の瓦礫の山しか残っていませんでした。
まるで、夢の跡地が去ったのような空気が、私達を支配しています。
元気一杯のこころちゃんやはぐみちゃんでさえも、その光景を見て――――
弦巻 こころ
「すっっっごいわ!今の迫力満点の崩壊!まるで映画のワンシーンの様だわ!ねぇねぇ、そうとは思わない!?」
北沢 はぐみ
「うん!脱出する時なんて、ずっとハラハラドキドキしたよ!危機一髪だったね!」
田井中 律
「ああ!スタントマンならぬスタントウーマンだな!ひゃー、とにかく冷や冷やしたぜ」
それぞれが脱出できて、興奮しているようでした。
でもみんな、復活が早いなぁ。
いや、そもそもアトラクション感覚だったから、大して気にしてないのかも。
??????
「こころ、花音さん!みんな!」
私達が居る方向とは逆から、今度は別の方向から女の子が走ってきました。
黒髪の女の子で、こころちゃんと花音ちゃんを抱き締めていた。
大粒の涙を流しながら、何かを言っていました。
きっと、無事に再会できたことを喜んでいるのでしょう。
彼女の言葉が来なかったのは、私の意識が遠のいていったからだと思う。
隣に居るあずにゃんとムギちゃんが、聞こえない言葉を言っていたけど、内容は全く入らない。
瞼も重くなってきて、足下も覚束ない。
あずにゃんにもたれ掛るように倒れました。
そこから、全く覚えてません。
どうやら、緊張や疲労、空腹感が溜まっていて、倒れたようです。
――――さて、明日からはどんな出会いが待っているのでしょうか………。
こんな感じで話を進めていきます。
次回から合宿2日目をお送りします。
お楽しみに。