ウラコイ   作:日向 ゆい

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オトマリ

人には得手不得手というものがある。得意な部分は伸ばし、苦手な部分は克服する。そんなことが出来るのは完璧な人間だけだ。普通は難しい。治そうとしてもそんなのはただの付け焼き刃だ。すぐに元に戻ってしまう。治したい部分を継続して意識できる奴が克服したって言えるのではないのだろうか。

 

「……ねむっ」

 

欠伸を噛み殺しながら賑やかなクラスを見渡す。偶に任される仕事柄、気配や存在感を消して接近することが多い。だから俺は気配を消して耳を澄ませる。

 

「そう言えば楽ー?桐崎さんとはうまくいってるのか?」

「……まぁ、それなりにな。最近は楽しいよ」

 

舞子集は人の関係に関して意外と目ざとい。察しがいいしよく見ていると思う。だがまぁ、事を面白い方へ転がそうとするので心臓に悪いことこの上ない奴だ。

一条楽はとにかく優しい。昔からそういう奴だ。なんというか、そのうち騙されんじゃないのかってくらいお人好しだ。けど、一方で鈍感だ。他人からの好意に気づいていないくらいには鈍いと言える。その癖案外わかりやすい。一条は小野寺さんのことが好きだ。まぁ、惚れる理由もわかるが。俺も付き合えたらな、とか思ってたし。

 

「やったよるりちゃん!私夜雲君の隣だって!」

「聞いてたからわかるわよ……って、なんで彼がいない時にだけ夜雲くんって呼ぶのよ」

「えっ……だって恥ずかしいんだもん……」

 

小野寺小咲さんは人の警戒心を簡単に解いてしまう。だから魅力的に見えるのだろう。集のように人のことを良く見ているから共有できる話を持ちかけてすぐ仲良くする。俺もそれで助けられたことがあるし、嫌いといえば確実に嘘になる。後は……あれだ、料理が致命的なこと。盛り付けはすごく上手なのだが……実際にとんでもないことが起きたらしい。

宮本るりさんは基本的に冷めている。他者への関心がないのかは分からないが、ある程度までしか踏み込むことをしない。だが、小野寺さんのことが関わると途端に世話焼きになる。小野寺さんの幸せを願うのなら当たり前なのだろうが、何事も程よくがいいのではないのかと偶に考える。

 

「……ほんとに眠くなってきた」

 

残りのメンバー、桐崎千棘嬢と鶫誠士郎……さん?と橘万里花さんはいずれ話すとしよう。今はとにかく眠くなってきた。幸いにもHRは終わっているので、少しくらい寝ても怒られないだろう。

 

 

……この時俺は夢を見た。暖かい空間に居た時とその後のおぞましい昔のこと。今言っても良いのだろうが、まだその時じゃない。あの四人にも話したいと思っているので今は割愛。

 

まぁ、それはそれとしてだ。

 

「……きて……おき……」

 

すごく優しい声が聞こえる……俺の過去を浄化してくれるような慈愛の声が聞こえ…………あれ、今聞こえるのはその慈愛の声、っつか小野寺さんの声だけでいつもみたいなガヤの声が聞こえないな。何故だろうか。

 

「ん……おはよう小野寺さん」

「あっ、やっと起きた……おはよう桐条君。早く帰らないと最終下刻時間になるよ?」

 

はて、最終下刻時間とは何だろうか。今は昼くらいだろう。……にしてはやけに茜色の教室だな。朝とは大違い……だ……?

 

「……もしかして、もう授業終わってた?」

「もしかしても何も、私達以外はみんな帰っちゃったよ?」

 

なんということだろうか。転校して早々に居眠りで全授業を潰してしまった。これは教師からの印象最悪だろうなぁ……。まぁ、せめてもの救いは小野寺さんがここにいることだろうか。

 

「悪いな、俺のせいでこんな時間まで残らせて」

「ううん、そんなことないよ。……寝てる夜雲君の顔可愛かったし……」

「ん?何か言ったか?」

「いっ、いや!?何でもないよ!?」

 

なんだ?やけに慌ててるが、それほど知られたくない事だったのか?小野寺さんが何でもないというのだから俺は深く干渉しないようにするが。

 

「……さて、帰るか。家まで送っていくよ」

「えっ、えぇ!?いやいや、ホント大丈夫だよ!?」

「んなわけあるか。小野寺さんは可愛いんだからこんな時間に一人で帰らせるわけにいかないだろ」

 

その言葉を言った途端に小野寺さんの顔が真っ赤に染まる。何か変なことを言っただろうか。それとも夕日のせいで赤く見えるだけなのだろうか。俺には詳しくわからないが、とにかく急がないと怒られてしまう気がする。

 

「ほら、行くぞ小野寺さん」

「あっ、うん!……えへへ……可愛い、可愛いかぁ……」

 

とりあえず教師とは会わずに昇降口まで来れた。ここまでくれば安心だな。さて、どうやって送る口実を作るか……。

 

「あのね、桐条君。本当にここまででいいよ?」

「……いや、やっぱ送ってくよ。ちょうどおのでらの和菓子食べたくなってきたし」

 

これなら問題ないだろう。行く方向が同じなのだから、止める理由はない。まぁ、俺は小野寺さんと居ることが出来ればそれでいいのだが。

 

「そ、そういうことなら……よろしくね、桐条君」

「おう、任せとけ」

 

茜色に染まる道を二人で歩いていく。傍から見ると恋人に見えるのだろうか。俺としては嬉しいところではあるが、小野寺さんは迷惑だろう。彼女は楽が好きなのだから、俺では不服なのだと必死に考え込む。

 

「そう言えば、楽は桐崎さんっていつから付き合ってるんだ?」

「えっとね……千棘ちゃんが転校してきてすぐくらいだったかな」

 

桐崎嬢が来てすぐ……という事は桐崎さんと一条さんの間で何かがあったと見て間違いないだろうな。それが偽物だろうと本物だろうと、俺には些細な問題だから関係ない。楽の幸せを願うなら早めに真実を教えたいが……こればかりは他人から告げてはいけない。本人同士の問題だ。

 

「小野寺さんは、好きな人とかいないのか?」

「えぇっ!?いっ、いないよ!?」

 

そんなに顔を赤くされても……まぁ、居ることを知ってての質問なのでタチが悪いとは思ったが、会話のネタが無いのでこの質問から話を広げていこう。

 

「小野寺さんって男子からの人気高いから、告白したらすぐオーケーされるんじゃないかな?」

 

例えば楽とか。楽なら絶対オーケー出すと思うがな。集は……多分好きなやついるから無理だな。かく言う俺は間違いなく即オーケー出す。当たり前だろ。優しいし可愛いし、人のこと良く見てるし、センスがいい。料理が致命的なことを除けば基本的に非の打ち所のない美少女だと思う。

 

「で、でもっ、桐条君だって女子からの人気高いよ?」

「そうなのか?俺は知らないんだが……」

 

ホントに俺は知らない。黄色い歓声が上がったことは覚えてるが、珍しいもの見たさな気がする。どうやら転校生は皆見目麗しい少女達だったらしいから。

 

「そうだよ?……桐条君は中学生の時から格好よくて、優しくて、頭が良くて。私の憧れだったんだ」

 

そう言って微笑む小野寺さんを僕は直視出来なかった。何この子可愛すぎるだろ。それにしてもよく見てるよな。やっぱこの子は優しくて素敵な子だな。

 

「……小野寺さんはよく見てるよな」

「そっ、そんなことないよ?」

 

そんなことがあるから言ったのだか……どうやったら認めてもらえるのだろうか。そう考えながら後は他愛もない会話をしている。

 

「ここが私の家だよ……って知ってたよね」

「何度かここの和菓子を食べたからな……いつ来ても綺麗だよな」

 

幸いにも今日は華の金曜日。少しくらい贅沢しても怒られることはないだろう。だが、雲行きが怪しくなってきているから急いで帰るに越したことはないな。

 

「いらっしゃいませー……って小咲じゃない。それと……そちらは?」

「ただいま、お母さん。今日はお客様を連れてきたよ」

「お邪魔します……?」

 

毎度思うが小野寺さんのお母さんと言うだけあって美人な人だと思う。けどなぁ……親子って性格が違うってこともあるし、怖いなぁと思いながらいつも頼む大福を筆頭に新商品と書かれたどら焼きを注文する。

 

「ありがとうございましたー」

「今日は送ってくれてありがとうね、桐条君」

「おう、また来」

__ザアアアアアア__

 

帰ろうとした矢先のことである。とてつもない大雨に見舞われてしまった。これは果たして止むのだろうか。正直すごく不安になってきた。

 

「……あの、小野寺さんのお母さん」

「あら、何かしら」

「今日だけ、泊まらせていただけないですかね。次の日お手伝いしてお詫びしますので」

 

流石に泊まるのは無理だよな。全く知らない人、その上小野寺さんと一緒に帰ってきたような奴だ。許される気がしてない。

 

「……いいわ。その条件飲んであげる。けど」

「けど……?」

「一度和菓子を作ってくれないかしら。その腕で変えるわ。」

 

……おおっと?これは試されているよな?一応プロ相手に自分の作った和菓子を出せと?そんなの弾かれるに決まっているだろうに。なんて無茶難題を出てくるんだとは思うが、ここでやらなきゃ確実に風邪を引いてしまう。

 

「……わかりました。なら、厨房を借りていいですか?」

 

エプロンを借りて厨房に立つ。さて……何を作るか。条件は和菓子。これだけでもジャンルは狭まる。そして今は時間が限られている。仕方ない。少し時間はかかるが、あんころ餅が良い。幸にも餅が余ってるらしいしな。

 

「それじゃ、作らせていただきますね」

 

餅があるので餡子を作る。まぁ、細かい工程は省くとして、甘すぎると飽きられてしまうので少し甘さを抑えた餡子を作り、餅を包む。やったことと言えばざっとこんなものなのである。

 

「……どうぞ」

 

おれは二人分を用意して片付けを始める。小野寺さん母は品定めをする勢いで品を見てるし、小野寺さんは携帯で写真を撮っている。晒されたりしたら俺泣くぞ。

 

「いただきます」

「私も、いただきます」

 

それだけ言うと二人はじっくり味わうように食べ始めた。うーむ……いつも通りに作ったのだが、俺の味覚がダメだったのだろうか。二人は全く反応をしなくなってしまった。

 

「なぁ、小野寺さん。そんなに不味かったか?」

「……ぇ?あっ、ううん!すっごく美味しかったよ!」

 

なんだよその反応、めっちゃ可愛いじゃねぇか。うっかり惚れて玉砕するところだった。危ない危ない、気持ちを強く保て……そうすれば俺はまだまともでいられる。

 

「ねぇ、貴方名前は?」

「え?桐条夜雲です」

「そう……桐条君。貴方を泊まることを許すわ。部屋は小咲の部屋を借りなさい」

 

どうやら許可を得れたようだ……良かった、不味いとか言われなく……て?

 

「「えっ……えぇぇぇぇ!?」」

 

美味い不味いの前に、とんでもないことを小野寺さん母から言われてしまった。いや、泊まらせてもらえるだけでもありがたいが、小野寺さんの部屋で寝るのは流石に体がもたない……

 

「いやいやいや、さすがに小野寺さんが了承しませんよ……ね、小野寺さん?」

「わっ、私なら……別に構わないよ……?」

 

なんでこんな時に追い討ち掛けに来るの小野寺さん!ますます逃げられなくなってしまった……

 

「……桐条君は嫌、かな?」

「そっ、そんなことは無いが……」

 

涙目と上目遣いのコンボは反則だ。ましてや小野寺さんのような美少女なのだから暴力的なまでに可愛い。この人本気出したらどこまで可愛くなれるのかすごく気になってきた。

 

「とにかく、小咲は桐条君連れて部屋に行きな」

「あ、うん。わかったよ」

 

心做しか嬉しそうに微笑む小野寺さんについていきながら、心の中で生きて帰れるように心の中で願いながら、夜を迎えようとしていた。




昨日上げると友達に言って間に合いませんでした。どうもゆいです

まだまだ始めたばかりですが暖かい目で見守り下さい。他の作品も急ぎ仕上げますので許して……

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