さて、戦闘訓練の日は一見いい感じに終わったかのように見えた事だろう。
戦闘訓練ではアクシデントでルール上では勝つことになった。その後の反省会でもデクの嬉しそうな様子に満足する物もあった。
だが、あの時の勝負内容は完全に負けていた。フルカウルのスピードとパワーが完全に予想以上で、攻めさせられ、詰め将棋のように追い詰められた。こと勝負ごとにおいて、負けたままで居られるほどかっちゃん的感性は温くない。デクの成長を喜ぶ気持ちと同じぐらい、敗北の悔しさは身を焦がすほどに燃えているのだ。
なので、放課後にトレーニング施設の使用申請を出す。どんな咄嗟の状態でも、その時々に合わせた適切な爆発力を使う。乱気流の中であっても爆発で自在に動き回れるぐらいでなければ、この先も成長していくデクのフルカウルに対応できない。デクでなくとも、超スピードのヴィランが出た時にだって必要だ。USJの暴風災害ゾーンを使わせてもらえればトレーニングに最適なんだが……まだ紹介もされてない施設を使わせてくれとは言えない。
大型送風機も一緒に使用申請をして、室内に風の流れが一定にならないように配置、その中を飛び回るしかねえ。文字通りに蝶のように舞い、蜂のように爆撃する動きを会得するんだ!
デクはライバルだ。だからこそ、次は勝つ。俺を置いて一人先に行かせやしねえ!
しかもこのままだと、胸で勝ったとか言われ続ける。峰田の視線に!
それはただ負けたよりも許しがたい何かに感じられるのだ!
おかげでトレーニング中、口を開けば「ブッコロスッ!」しか出ない。やれやれだ。
「かっちゃん、帰ろうか。」
「デク、先に帰っててくれ。俺ぁ今から、特訓だぁ!」
あ、言ってたら特訓の意味がねえ! 結局特訓好き共があつまり、トレーニングルームをシェアする事になった。
地道な基礎能力強化だから、見られても秘密もなんもねえんだから構わないっちゃ構わないんだがな……
おいお前ら、シェアするんだから申請すんのも交代でやれよ。
さて、それはそれとして八百万との買い物は、1-A女性陣全員が参加する事になり、随分と賑やかになった。
買い物の内容は、わざわざ話すような事でもないので割愛だ。サイズや柄だの言ったところで峰田が喜ぶだけだしな。
ただ、八百万お勧めのインナーの機能は素晴らしい物だった。普通に近所になかったのは、ヒーローのスーツに使う素材を使ってて、サポートアイテム開発会社の出してる商品だったからだ。その分お値段も素晴らしかったんだがな。さすがは女性ヒーロー向けのショップだ。
買い物中、芦戸にはデクとの仲を散々からかわれることになり、お茶子が前の下校中にデクに聞いた話を漏らして、ラブだラブだとからかわれ続けた。おかげで帰った時にはぐったり疲れてしまった。クソッ! 恋愛脳か! ピンクなのは外側だけで十分だろうが!
そういえば、中学まではガキ大将だったから俺をこんなにからかえるやつなんていなかったし、からかいの対象は無個性のデクだった。だからか、とても新鮮な感覚ではあった。
登校中、校門前に取材陣が集まっていた。あぁ、そう言えばオールマイトが雄英の教師に就任したと言う記事が流れていたな。と言う事はこいつら、あの記事の後追いの上に取材を取り付ける伝手もねえ、出待ちぐらいしかできる事がねえダメダメなやつらじゃねーか。
ちゃんとした局や社は取材申請して、個別にやってるんだ。ここに集まるのは取材対象へのイメージダウンにしかならんだろうに……
飯田が真面目にインタビュー受けてるから、その横を通らせてもらうか。
「あれ? 君はヘドロの時の?」
「1年も経つんだ、勘弁しろや。」
また何かしらの放送に映ったら、ヘドロの時のR17.9の映像が蒸し返されるじゃねえか!
正門に飛び込むと、相澤先生とすれ違った。マスコミ対応してくれるみたいだ。本当に助かる。
「急で悪いが今日は君らに……学級委員長を決めてもらう。」
HRの時間、唐突に相澤先生が宣言した。今度はどんな抜き打ちテストが行われるかと緊張が走ったが、続けられた言葉に安堵感が広がっていた。
「委員長! やりたいです、それ俺!」
切島が両手を上げて言い、「俺も!」「ウチも!」と次々に立候補者が出る。
峰田、制服は学校の規定だからお前が委員長になってもスカートは短くならない。
それにたとえなったとしても、俺みたいにスカートの下にスパッツなり短パンなり履くようになるだけで、なんの意味もないぞ?
「静粛にしたまえ!」
ザ・委員長飯田が高々と右腕を上げながら起立して教室の騒ぎを収めようとする。
皆のリーダーを決めるなら皆で決めるべき、それには投票で決めるのがいいと語る。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん。」
「そんなんみんな自分にいれらぁ。」
梅雨ちゃんと切島の言うのももっともだ。
「だからこそ、ここで複数票取った者こそが真に相応しい人間と言う事にならないか?
どうでしょう先生!」
相澤先生は時間内に決まればなんだっていいと、何処から取り出したのか寝袋に入って仮眠を取り始めてしまった。
まぁ、俺も峰田じゃなければ誰でもいいとは思うが。非常口もあるしな。
そして投票結果……
殆どが自身の投票した1票で、講評の時に冷静な観察力を見せつけた八百万が2票。
そして3票を獲得してデクが……デクが? 俺じゃねえか!
「俺が3票!? なんで俺に!? 誰が!?」
ここはデクに集まるんじゃなかったのか!?
「1票……さすが聖職と言ったところか……っ! しかし誰が入れてくれたのだろう?」
飯田が呻いている。その1票俺なんだ。最後の呟きで、なんで自分に入れなかったんだ? と、砂藤と八百万が呆れていた。
「じゃぁ委員長は爆豪、副委員長は八百万だ。」
「なぜだ……俺は委員長向きじゃねえぞ?」
「悔しいですわ。」
八百万と二人ならばされて委員長の挨拶をさせられる。
どうしてこうなった? デク関連以外はほとんど原作通りに進んでいると言うのに!
完全にランダムなはずの戦闘訓練のクジですらそのままだったんだぞ?
昼休み、デクとお茶子に飯田の4人で食堂でランチラッシュの料理を食べる。
「うわー、今日もすごい人だね。」
「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな。」
たしかに、入学してからここが混んでいなかった試しがない。それだけランチラッシュの料理は美味いんだ。ただ美味いんじゃなく、活力が湧く感じがすんだよな。
だがさすがの俺も、今は元気が湧かねえ。
「なんで俺に委員長が……不良少女だぞ? 務まらねえだろ。」
「務まる。」
「大丈夫さ。」
お茶子と飯田が俺の呟きを拾う。
「爆豪君の口調は荒いが冷静でクレバーな所は戦闘訓練で見せてもらった。
緑谷君との事で優しい一面がある事も知っている。
だから君に1票を入れたんだ。」
「オマエが入れてたのか!?」
「私も。」「ボクも。」
「ブルータス、お前もか!」
飯田が信頼を伝えるように俺の目を見て言う。
デクじゃなくて俺に!? それにお前らまでか!
……そうだ、当然じゃないか。あの戦闘訓練で、本来デクは使いこなせないワン・フォー・オールで、暴走する原作かっちゃんをしのぎ切って勝利をもぎ取るんだ。それを、俺が原作介入して半年早く継承させてフルカウルを身につけさせた。
俺の行動が関係しないところだと、クジのようなランダムなものですら原作と同じになる。
でも、俺が介入した所はどんどん書き換えられていく……
「でも、飯田君も委員長やりたかったんじゃないの? 眼鏡だし。」
「やりたいと相応しいか否かは別の話。僕は僕の正しいと思う判断をしただけ。」
「「僕!?」」
3人が話をしているが耳に入らない。デクが半年早く継承できたのは悪い事じゃない。大怪我をする心配もずいぶん減った。しかし、委員長に選ばれるはずだった投票で俺に集まった3票。たとえこの後の侵入者事件で飯田に譲ったら結局同じ……と言う事にはならない。経緯だって重要じゃないのか!?
そこまで考えた時、今まで前世の知識を思い出す時とは比べ物にならないぐらい一度にたくさんのコマが、ページが思い起こされた。
フラッシュバック! なんだ!? まるで走馬灯みてーに……何かの警告、ヘドロの時に似てるけどその比じゃねえ!
委員長決めが、本来は戦闘訓練の翌日……? もう数日経っちまってんぞ!? なんでだ!? なにがどれだけズレていってる!?
いや、これじゃねえ! なにが……なにを警告してるんだ!?
「かっちゃん!? どうしたの!?」
デクが肩をゆすって心配そうに覗き込んでいた。いや、心配そうなのはお茶子も飯田も同じだ。
「あ、あぁ。今何か大事な事を思い出しそうだったんだが……」
そこまで口にした時、校内にけたたましいベルの音が鳴り響いた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難してください。』
食堂内、いや、おそらく学校中が騒然としだした。
「セキュリティ3ってなんですか?」
「校舎内に誰かが侵入してきたって事だよ。3年間でこんなの初めてだ。君らも早く!」
未だ事態を理解できていない俺達を代表するように、飯田が隣に座っていた上級生らしい男子生徒に尋ねる。
3年生と思われるその男子生徒はさっと席を立って走り去ってしまった。
だが、そんなにすみやかに避難できる者ばかりではない。小中で避難訓練なんかしてきただろうに、みんな並ぶこともなく出口に殺到する。この食堂が昼で混雑していたのが仇になった。ものすごい密集率だ。体格の小さな者は足が浮いてしまっているかもしれない程の圧力がかかっている! 完全にパニックになっている!
「デク、状況の把握が先だ。あんなところに飛び込んでも無事に避難できるわけがねえ。」
「そうだね。飯田君、麗日さん、セキュリティ3は侵入者って話だけど。」
「幸いここは食堂中央、出入り口からは一番遠い。一旦落ち付いて行動するにはいい場所だ。」
「うんっ!」
デクと飯田がすぐに理解を示し、お茶子が続く。さすがヒーロー科、冷静じゃねえか!
「お茶子、飯田を浮かせて上から様子を見させられるか?」
「宙に浮くなら爆豪君の方が適任じゃ?」
確かに俺は空中で飛び回れる。でもダメだ。
「ダメだよ、かっちゃんが飛ぶときは爆音がする。こんなパニックの時にそんな音がしたら、余計にひどい事になっちゃう!」
「飯田のマフラーからの噴気なら、もっと静かに移動できるはずだ。
いやむしろ、噴気で移動よりもSF映画の宇宙船内の移動みたいに、壁やら天井を押した反動で移動した方がいいか。
噴気は緊急の時だけの方がいい。が、緊急の手段があるって事はでけえ。いけるか?」
「わかった。僕が適任なんだな? この飯田天哉、役割を全うしよう!」
「じゃぁ、浮かせるよ。気を付けて!」
方針がすみやかに決まり、お茶子が飯田に触って宙に浮かせる。
「あれはっ! マスコミだ! 窓の外に報道陣が見える! 何かと思えばただのマスコミか。」
「なら危険はないんだね? だったらあとはそれを知らせて、パニックを収めさえすれば!」
「エンジン、ブースト!」
「あ、飯田君!」
飯田が空中でエンジンを吹かせ、回転しながら出口の上へと飛んだ。バカ、そうなるからSF映画みてーに天井とか押した反動で行けって言ったんだぞ!
そして壁に張り付いてまるで非常口のポーズのようになって、
「皆さん! 大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになる事はありません!!」
その叫びに食堂のパニックは収まり、あっという間に日常が戻って来た。
やっぱり頼りになるぜ、非常口飯田!
そして、俺は、さっきのフラッシュバックを、過去からの警告と真剣に向き合わなければと拳を握った。
昼休みが明けて午後。
「さ、委員長、始めてください。」
「ああ、他の委員決め……なんだがその前に、委員長を飯田に譲りたいと思う。」
「え?」
どういうこった? と視線が集まるが、やっぱり飯田が委員長の方がしっくりくる。
「昼休み食堂に居たやつなら納得してもらえると思うが、あんなパニック状態の奴らを見事に収めちまうのを見たら、適任ってのを感じざるを得ねえ。
俺は、委員長を飯田がやるべきだと思った。」
「……!」
ニヤっと笑って飯田を見ると、呆然とした表情が返って来た。
「俺はそれでもいいぜ、爆豪もそう言ってるし。たしかに飯田、食堂で超活躍したしな!」
「ああ、それになんか非常口の標識みてえになってたしな!」
食堂に居たらしい切島と上鳴が乗ってくれた。
「時間がもったいない、何でもいいから早く進めろ。」
蓑虫マンこと、相澤先生が寝袋に入ったまま言った。ああ、マスコミ対応で昼寝の時間削られたから機嫌が悪いんだな……
飯田が覚悟の決まった顔で立ち上がった。
「委員長の指名ならば仕方がない。
以後はこの飯田天哉が、委員長の責務を全力で果たすことを誓います!」
非常口飯田頑張れよっと。
「八百万、すまないな勝手に決めて。得票数的に譲るならそっちが先なんだろうけど。」
「仕方ありませんわね。わかりましたわ。」
そうだ、飯田の肩に手を置いて……囁く。
「俺の1票が無駄にならなくてよかったぜ。」
「君が入れてくれていたのか!?」
「じゃぁ、新委員長。他の委員決めをしていってくれよ。」
飯田に後を任せて、俺は席に戻った。
暑くてやばいです……
なんとか毎日投稿して来れましたが
ちょっと間が空くかもしれません
楽しみにしてくれていた方には申し訳ありません。
あと、そんなToL〇VEったりはしません。
むしろ、書いてるうちに暴走でもしない限りせいぜい体育祭で1回あるかないかだと思います。
期待してくれた方にはすまないと思います。