11. 大誤算
ホグワーツ4年目が始まった次の日。
学校中が湧いていた。
話題はもちろん、三大魔法学校対抗試合について。
細かく言えば、誰がホグワーツの代表になるか、他校はどんな雰囲気なのか、どうやって17歳に達していいなくても立候補できるか、など様々である。
周りの話を聞くと、ディゴリーが一番の有望株らしい。個人的には、あのいけ好かないナイスガイになるくらいなら、双子のどちらかに代表選手になってほしいところではある。
双子は17歳には達していないが、彼らなら裏技を見つけられるかもしれない。でも、もしそうなったといたら僕にも教えてほしいものである。僕は密かに立候補を狙っていた。
だがそれは今じゃない。“次“だ
三大魔法学校対抗試合は何人もの死者を出してきた危険な大会である。今回も死人が出るかもしれない。
不謹慎ではあるが、もし試合中に死人が出て僕がそれを目撃していたらどこに戻るだろうか。おそらく、代表を決めるあたりに戻るだろう。そうなった場合、僕は唯一人試合の内容を知っていることになる。
僕はその状態で立候補するのだ。
たしかに上級生に比べて魔法を扱う力は弱いかもしれないが、何が課題になるかを知っていれば流石にクリアできるだろう。優勝すれば、賞金1000ガリオン。そして最年少で優勝したヒーローになれる。
取らぬ狸の皮算用とはこのことだろう。
僕は気持ち悪い笑みをうかべていた。
そんなことを考えていたら、一限目の薬草学が終わった。
授業の終わりにハンナが馬鹿なエロイーズ・ミジョンのニキビの話をしていたことしか覚えていないが、まあ課題も出ていないようだし、そう問題もないだろう。
その後僕達は魔法生物飼育学をうけるために禁じられた森の方に行った。
授業は衝撃的だった。
まず、尻尾爆発スクリュートという、殻のないぬめぬめした伊勢海老のような生き物に対面させられ、これを一年かけて育てなきゃいけないと言われた。
しかも、ハグリッドはこの生物を飼育したことが無いらしい。
ハグリッドにとって未知の生物の飼育はとても楽しいイベントなのだろうが、大多数にとってそれは危険でつまらなく何の意味も無いものだ。
僕はこいつらを全部踏み潰してしまおうかと考えたが、もしかしたらタイムリープが起きてしまうかもしれないのでやめることにした。
そういえば、仮にもし僕が誰かを殺めたとしても、タイムリープは起きるのだろうか。
ちょっとした疑問が生まれたが、それが確かめられることはないだろう。嫌々ながら授業に意識を戻した。
魔法生物飼育学とは対照的に、闇の魔術に対する防衛術の授業は非常にエキセントリックで面白かった。なんていったって、最初の授業の際に、許されざる呪文を実演したのだ。
正史でなくなったかつての世界で服従の呪文は一度かけられたことがあったので、その脅威は知っていた。ムーディがクモに服従の呪文をかけてタップダンスをさせていたとき、クラスのみんなは笑っていたが、僕はとてもじゃないが笑えなかった。
何回か授業が経過すると、内容は更に過激になっていった。なんと呪文に対する抵抗力を身につけるため、生徒一人ひとりに服従の呪文をかけるというのだ。
流石にハーマイオニーが苦言を呈したが、ムーディに言い負かされてしまった。珍しい光景に僕とハリーはニヤリと笑った。
さて、いざ実践だ。服従の呪文でみんなが面白い行動を取らされていたなか、なんとハリーは呪文を打ち破ったのだ。傍からみていると、机に向かって突撃をしたように見えたが、ムーディが言うには呪文に抵抗したらしい。
「よーし、そうだ!それでいい!」
ムーディはそれからひとしきりハリーを褒めた。あの見た目で人を褒めていることに少し違和感はあったが、少しハリーが羨ましかった。
僕もハリーに続こうと、前に出た。
ムーディは僕の目をじっと見たあと、呪文を唱えた。
「インペリオ!」
気がついたときには僕はタップダンスをさせられていた。
どうやら呪文はすでに解除されているようだが、体にまだ効果が残っているようだ。
「ふむ、どうやらお前は呪文が効きやすい体質らしいな!だが、安心しろ!昼飯までには元に戻ってるだろう!」
一度服従の呪文の呪文を跳ね返した身としては、この結果に納得がいかなかった。完全復活をとげてなかった日記のトム・リドルより、ムーディの方が強いということで自分を納得させた。
味方が強いにこしたことはないね。うんうん。
10月31日
宴も終わり、三大魔法学校対抗試合の選手も決まり学校全体の熱気は最高潮、ということにはならなかった。イレギュラーが発生した。代表選手にハリーが選ばれたのだ。
一体何で?どうやって?
いや、そんなことはわかりきっている。
ダンブルドアの年齢線を越える方法を見つけて、一人で立候補しに行ったに違いない。
なんなら、ダンブルドア自身がハリーを推したのかもしれない。なんていったってお気に入りの英雄ハリー・ポッターだ。なにも不思議な事はない。
僕は今グリフィンドールの談話室で、みんなとともにハリーを待っていた。周りの人は、ハリーがどうやって年齢線を突破したのかを話し合っていた。中にはハリーに対して不満をたれるものもいたが、全体としては少数派だった。
「ハリー、大丈夫かしら。やっぱあそこでハリーの名前が出てくるなんて不自然よ」
隣でハーマイオニーが不安そうに話を振ってきた。
「さあ?聞いてみたらわかるだろ」
僕は突き放すように言うと一足先に部屋に戻った。この空気感に耐えられなかったのだ。
しばらく部屋で横になっていると、ハリーが帰ってきた。僕はなるべく自然な風を装って話しかけた。いや、顔がひきつっていた気もする。ハリーも僕の表情からなにか違和感を感じとったのか、目をそらし、肩に付けられたグリフィンドール旗を必死で取ろうとしていた。
その後、どうやって年齢線を越えたのかを聞いたが、一向に話してくれない。「僕は名前をいれてない」の一点張りだった。
どうやら親友の僕にさえ話してくれないらしい。
なんやかんや言いつつ、ハリーは周りからもてはやされることが好きなんだ。
例のあの人を倒した、100年ぶりの最年少シーカー。
そして、三代魔法学校対抗試合の4人目の代表
さすがの僕もうんざりを通り過ぎて怒りすら覚えた。
今まで僕は君を何度救ってきたと思っているんだ。君のために何度も何度も頑張ってきたんだぞ!
誰にも褒められない。誰も慰めてくれない!そんな裏の舞台で必死で戦ってきたのに、君はそうまでして表舞台に立ちたいのか。
さすがの僕ももう限界だ。
後は君一人で頑張ってくれ。
僕はハリーから逃げるようにベッドに伏した。
ハリーに理不尽な怒りを抱いてからしばらく経ったある日。同時に第一の課題が始まる1週間ほど前である今日、僕のもとにチャーリーから手紙が届いた。チャーリーから手紙が届くなんて、1年のときにハグリッドがこっそり育てたドラゴンを受け渡して以来だ。
……少し嫌な予感がするな。
内容は、今日の夜中にハグリッドの小屋に来てくれたらいいものを見せる、というものだった。チャーリーが学校にくるということだろうか。にしてもハグリットの小屋で見れるいいものか。嫌な予感は膨れ上がるばかりだ。
それが万人にとってのいいものであることを期待するしか僕には出来なかった。
夜になって、僕は一人でハグリッドの小屋に行った。
すると小屋の前でチャーリーとハグリッドが話しているのが見えた。ハグリッドから、2人の仲がいいのは聞いていたが、実際に自分の家族と友だちが仲良さそうに話しているのをみるのは違和感があった。
チャーリーがこちらに気づき、手を振ってきた。
「お!ロン!久しぶり……でもないか。ワールドカップで会ってるもんな。」
「やあ、チャーリー、ハグリッド。こんな夜中に僕を呼び出して、一体全体何を見せてくれるっていうんだ?」
僕はキョロキョロと周りを見回したが、特に何も見当たらない。小屋の中にあるのかな。そう予測していたが、どうやら違うようだ。
「手紙にも書いたろ。面白いもんだ。ついてこいよ」
チャーリーはそう言うと、禁じられた森の方に足を進めた。僕の不安そうな顔とは対称的に、ハグリッドの顔はキラキラと輝いてみえた。
十分ほど歩いたところで、僕は衝撃的な光景を見た。
ドラゴンだ。
それも4頭もいる。
巨大な牙。射殺すような瞳。全身を覆う分厚い鱗。そのどれもが攻撃的だ。全長20m弱ほどの獰猛な龍が柵の中で鎖に繋がれ、一頭に付き8人ほどでそれを抑えているようとしていた。
そのうちの一頭が火を吐いた。その火は10m以上も伸び、僕達のすぐそばまで迫った。
僕はその光景に思わず腰が抜けてしまったが、ハグリッドは目を輝かせ感心していたし、チャーリーは口角をあげ、ニヤニヤしていた。
「ロン見ろ!このドラゴンたちを!在学中に複数のドラゴンを一挙にこんな近くでみれることなんて無いぞ!僕も学生のときにこんな機会があればなぁ」
「すんばらしい!俺も一度にこんなにドラゴンをみたこたあねえ!なあチャーリー、ちぃーっと近づいてもええか?刺激はせん」
ハグリッドはとても興奮していた。そのきらきらした目で、腰を低くしチャーリーにお願いしていた。低いといっても、もちろんぼくの身長よりは高い腰だが。
「残念だけど、それは出来ないよハグリッド。彼らは今日ここに来たばかりで気が立ってる。そもそもドラゴン使い以外の人をここまでつれてきているのも結構まずいんだ」
チャーリーはハグリッドの背中を叩きながら、なだめるように優しく言った。ハグリッドは目に見えて気落ちしていたが、僕はそれどころじゃなかった。
「な、なんでホグワーツにドラゴンがいるのさ!」
地べたに尻をつけたまま、僕はチャーリーに尋ねた。
「決まってるじゃないか。三大魔法学校対抗戦の最初の課題だからだよ」
森からの帰り道、ハグリッドは僕に、明日ハリーを連れてきてほしいといった。ハグリッドもハリーを心配してのことだろう。さすがに僕もちょっと心配だ。
でも、こちらから話しかけるのも癪なので、どうにかうまいこと伝えなくてはいけないな。僕はハグリッドの提案に賛同し、部屋まで帰った。
ハリーはすでに眠っていた。
そのことに少し安心したが、明日の夜までにハリーにどうやって言おうかを考えるとまた憂鬱になった。
三大魔法学校対抗試合初戦。
生徒の大半はすでに客席についていた。
僕は結局ハリーにドラゴンのことを教えなかった。なんとなく気まずくて、ハリーに話しに行けなかったのだ。
ハグリッドには、ハリーには言ったけど代表として忙しいらしくて行けないって言ってたと嘘を伝えた。ハグリッドはしょんぼりとしていたが、髪はやたらテカテカで、香水もつけていて少し不気味だったので、そのまま慰めもせずに帰ってしまった。
一見ハリーを見殺しにするような危険な行為だが、僕はそこまで問題は無いと思ってる。なぜなら今年の三大魔法学校対抗試合は今までのものとは違うからだ。
今年は参加に年齢制限を設けていることからも分かる通り、安全には十分に配慮されているのだ。それにいざとなったらダンブルドアもいる。ハリーが死ぬことは無いだろうとたかをくくっていた。
まあ最悪タイムリープをすればいいだろう。
僕は極めて楽観視していた。
選手の一人が黒焦げになるまでは。
その瞬間、客席から悲鳴が続出した。
隣にいたハーマイオニーも思わず目をそらしてる。客席をみると、あまりの衝撃に気を失っている生徒もいるようだ。特にホグワーツの席あたりは混沌としていた。
だが僕はその空気感について行けなかった。1人だけ置いていかれているのが分かる。
みんな、いくらなんでも過剰に反応しすぎていないか?
人が焼けただけだぞ。流石にちょっと酷い光景だけど。
いや、違う。
おかしいのは、僕だ。
そうだよ、人が死にそうになってるんだよ。しかも全身を燃やされて。
普通は身震いもするし、泣きもする。感情が大きく揺さぶられるはずなんだ。それほどまでに、人の死とは心に大きなダメージを与えるんだ。
僕は唐突に今年のはじめに考えていたことを思い出した。
――もしこの大会で誰か亡くなったらタイムリープで選手決めまで戻ってこれる。
――そうすれば自分ももしかしたらこの大会で優勝することもできるかもしれない。
僕は自分がいかに馬鹿なことを考えていたのか理解した。
いつの間にか死を軽んじるようになっていたのだ。タイムリープの力を得て最初の方こそ、人の死を悲しみ、二度と起らないように必死に動いてきた。
だが、最近は死を見ても悲しまなくなり、あまつさえ「また過去に戻ってしまった」と愚痴を漏らすほどになっていたり、タイムリープを利用したりするようになっていた。
奇しくも実現してしまったあのときの僕の願いを前に、僕は久しぶりに死というものの凄惨さを噛み締めた。失っていた感情が1つ心に帰ってきた。
ドラゴン使いや教師たちが競技場におりていくのが見えた。マダム・ポンフリーが無残に焼け焦げた出場者に何やら呪文を唱えているのを見ながら僕はつぶやいた。
「ディゴリー……」
正史との相違点
・ハリーに、ハグリッドが呼んでたことを伝えない
・セドリックがドラゴンのことを知らない
・セドリックが死亡
映画版と小説版の相違。
〇ロンがハグリッドに言伝を頼まれ、ハリーに伝えたにいく。ロンがドラゴンを見る
→小説だと、ムーディとハグリッドが直接ハリーのとこにくる。
この場面では映画版の状況を採用しました。