魔法界の物の値段だけで出してるレートなんで合ってるか分からないですが。
目を覚ました。
ベッドから体を起こし、伸びをする。窓から差し込む太陽の光をみる限り、まだ早朝だろう。
さて、いまは何日かな。
僕は去年から付け始めた日記を自分の机の引き出しから出し、パラパラとめくりだした。
日記を付けている理由は、誰かにきかなくても今が何日かわかるように、またその日の前後に何があったかをすぐに思い出せるようにだ。
どうやら今はドラゴンを見に行った次の日のようだ。
てっきり選手の立候補のあたりまで戻ると思っていたので、少し意外だった。セドリックは試験がドラゴンであることを知ってさえいれば、死なずにすむということだろうか。そうでなければ、戻ってきた時間がこのタイミングである意味がないだろう。
日記を机の上に戻し、備え付けのコンパクトな衣装箪笥をひらいた。
やはりといってはなんだが、ゴブレットに選ばれただけあって優秀なんだな。朝ごはんのときにでも、こっそり教えよう。『人を助けよう』が代々うちの家訓だし。
ちなみにこの家訓は、なんでも、あるご先祖は利己的で罪を重ねまくっていたので、その息子がそれを反面教師にしたとかなんとか。
もちろん、今度こそハリーにも教えるつもりだ。
さすがに、セドリックでさえ命を落とす程の課題で、ハリーにだけ内容を教えないのはまずいだろう。さすがにもうハリーが死ぬのは見たくない。
でも、僕達はいま喧嘩してるんだよな。ハリーは明らかに怒ってるし、僕の話なんて聞いてくれないかもしれないし、どうしようか。
とりあえず、ハーマイオニーに言伝を頼むか。それが一番丸い気がする。
僕はパジャマから制服に着替えながら、淡々と今後のことについて考えた。
ハリーには無事ハグリットからの伝言を伝える事ができた。
その際にフクロウのように扱われたハーマイオニーは怒っていたが、何はともあれミッション達成だ。これでハリーは第一の課題の正体を知るだろう。
他の選手がどうやってドラゴンを出し抜くかを見ていればそれも教えられたのだが、あいにくディゴリーが一人目の選手だったため、それは叶わなかった。ちなみにハリーの機嫌はまだ直っていなかった。僕もむきになってそっけない態度をとっているが、少し謝ったら許すつもりなので早く謝らないかな。
その帰り道、僕の不安は拭いきれなかった。ハリーにドラゴンのことを教えたところで、それを出し抜けなければ意味がないからだ。
ハーマイオニーにはハリーから直接相談がいくだろうし、僕は別口からアプローチしようかな。僕は、そのまま闇の魔術に対する防衛術の教室に向かった。
「珍しい客だな!どれ、そのへんに座りなさい」
僕は近場にあった椅子に腰を掛けた。そわそわしているが、それは仕方のないことだろう。
正面の机には
「さて、次の授業もあるので、長く話を聞いてやることはできん。端的に用件を伺おう」
授業のときのような危機感を煽る話し方ではなく、声を落としたその話し方に少し驚いた。こちらが緊張しないように気を使ってくれているのだろうか。
「実は、ハリーの第一の課題の力になってほしいんです。僕が、あー、その、たまたま森でドラゴンを見かけてしまったので、それが課題の内容だと思いハリーに知らせたんですが、それを自力で突破できるとは正直思えません。お願いします!」
僕は立ち上がり、頭を下げた。
そう、この部屋を訪ねた目的はこれだ。大人の魔法使い、それもとびっきり強い人の助けがあればハリーも第一の課題を無事に終えることができるだろう。
さすがに、ドラゴン使いの兄がこっそり教えてくれたとは言いにくかったので、そこは嘘をついたが。
ムーディを選んだ理由は、彼がハリーを気に入っていることを知っていたからであり、また、初回授業で言っていたが彼が一年で教師をやめることから、ハリーにヒントを出したとしても責任に問われたりすることは無いのではないかと思ったからだ。
「ポッターが課題の内容を知ってることについてとやかく言う気は無い。カンニングは三大魔法学校対抗試合の恒例行事だからな。だが、なぜポッター本人が来ないのだ。友人に頼みに行かせるのはいささか誠意が足りないのではないか?」
ムーディの声色が少し低くなった。ぎょろぎょろ動く魔法の眼で僕の眼をじっと睨みつけた。それに少しビビりながらも答えた。
「ハリーは僕がここに来てることは知りません。僕が勝手にやってることです。実はハリーと……なんていうか、少し喧嘩してて……」
「なるほど。表立ってサポートできんから儂を使おうというのか、ウィーズリー。面白い、協力してやろう!今回限りだ!」
なんだ、やっぱり意外といい先生なんだな。僕は顔がほころぶのを自分で感じた。
授業やたまに見かける光景からハリーのことを気に入っていることは知っていたが、ここまでスムーズに協力を取り付けられるとは思っていなかったので、ひとまず安心した。
「とはいっても、流石に儂も主催陣営の人間だ。選手に答えを直接教えることはできん。せいぜいヒントを授けるくらいだな。ウィーズリー、ポッターは何か得意なことや呪文はあるか?ドラゴンのことは一旦忘れてかまわん。」
僕は腕を組み、首をひねり少し考えた。
「ハリーといえばやっぱりクィディッチですね。100年ぶりの最年少シーカーだけあって、飛行は抜群にうまいです。それに彼の今の箒は世界最高峰のもので、いまやホグワーツで彼に追いつける選手は一人もいません。呪文で言うと、武装解除は2年生のときからうまかったです。それ以外は、できものの呪いとか鼻呪いみたいにいたずら系とかをよく使ってる印象です」
うなずきながらそれを聞いていたムーディだったが、僕が話し終わると、ムーディは立ち上がり口を開いた。
「それだけ分かれば十分だ。あとは儂がなんとかしておこう。そろそろ授業だから、ウィーズリーも早くいけ」
そういうと僕は時計をみて、慌ててカバンを引っさげて扉にむかって駆け出した。
「そういえば、ポッターと喧嘩したと言っていたな。この会合のことはポッターには黙っておいてやる。打ち明けるか明けないかはお前の好きにしろ」
「ありがとうございます!ムーディ先生!」
扉の前で、くるりと体を反転させ、ムーディにむかってお辞儀をしてそう言った。
僕は急いで次の授業に向かった。
次の日、僕はディゴリーを探していたが、意外と見つからないもので、すでに若干諦めかけていた。
学年が違うので授業は被らず、寮が違うので談話室で会うこともない。さらに、ハッフルパフの生徒に聞いてもだれも所在を教えてくれないのだ。おそらく僕がセドリックを襲うとでも思っているのだろう。僕がハリーと仲がいいのは周知の事実なので、それが仇となってしまった。
直に夕食時になるので、僕は大広間に向かった。唯一全生徒が集まる場所はここしかないので、夕食中はずっとここで待ち伏せようという計画だ。
大広間に来て2時間と少し経った頃、セドリックがようやく来た。相変わらず、多くの友人を引き連れている。あれは彼の人望なのだろうか、それともただの護衛なのだろうか。まあおそらくその両方だろう。
僕が彼に近づくと、その周囲にいたハッフルパフ生は警戒した。
「グリフィンドールがなんのようだ。セドリックを呪おうたってそうはいかないぜ」
「こいつ、ポッターの友達だぜ。ポッターのために、競争相手を減らそうってか。相変わらず汚いな」
ハッフルパフの生徒たちは口々にそう罵るが、僕は彼らを無視して直接話しかけた。
「ディゴリー!第一の課題のことで話があるんだ。少しいいかな」
僕がそう言うと、彼は周りのハッフルパフ生を押しのけて前に出てきた。
「やあ、ワールドカップのとき以来だね。いいよ、少し話そうか」
ディゴリーが歩きだしたので僕もそれに続いた。食堂の隅の方に移動してきた僕達は、小さな声で話しだした。
「第一の課題なんだけど、驚かないで聞いてくれ。実は……」
「ドラゴンだろ。今日ハリーが僕に教えてくれたよ」
彼のその発言に僕は驚いた。まさかハリーは敵にまでそれを教えたのか。
「その様子だと、君はハリーが僕に知らせたことを知らなかったんだね。ハリーもウィーズリーもお人好しだな。同じ学校とはいえ、試合に出れば敵同士なのに、わざわざ情報をくれるなんて」
ディゴリーはそういうと少しはにかんだ。なるほど、彼がモテる理由が少しわかった気がする。
「話はそれだけかな?わざわざ気にかけてくれてありがとう!それじゃ僕は戻るよ。じゃあまたね!」
そういって友人たちのもとに戻ろうとするセドリックに僕は再び声をかけた。
「ディゴリー!死ぬなよ!」
ディゴリーはこちらを向いて、サムズアップをして立ち去っていった。その様相は、ちょっとだけダサかった。
そんなこんなで、第一の課題は無事に乗り切った。
ハリーは箒を呼び寄せることでドラゴンを振り切っていた。セドリックもさすがの魔法捌きで見事高得点を叩き出していた。僕とハリーも無事仲直りが出来たし、万々歳である。
続く第二の課題もハリーの遅刻以外は大きな問題は起きなかった。
そしていよいよ最後の課題である。
僕とハーマイオニーは客席でじっと待っていた。迷路の中で何が行われているかわからない以上、僕達にはじっと待つことしか出来ない。膝の上で握られている手の中は汗まみれが自分でわかった。
次の瞬間、バチンと立ててハリーが戻ってきた。セドリックも一緒だが、彼は横になったまま動かない。あたりは歓声に包まれた。スタンディングオベーションだ。
「やったー!ハリーが帰ってきたわ!優勝よ!!」
「ハリーならやると思ってたぜ!!おめでとう!!」
ハーマイオニーと僕はぴょんぴょん飛び跳ねながらそう叫んだ。
だが、徐々に場は不穏な空気に包まれてきた。
ハリーが動かないセドリックに抱きついて離れようとしない。先生たちも、なにか慌てているようだ。
そして客席にある言葉が駆け巡った。
「セドリックが死んだ」
どこからともなく聞こえてきたその言葉に僕は愕然とした。
死んでいるわけがない。
挙げていた両手はいつの間にかだらりと落ちていた。セドリックの父親が、客席から降りて彼に近づいてく。彼を抱き寄せ、恥も外聞もなく泣きわめいてた。僕は瞬き一つせず、ディゴリーを凝視し続け、何度もタイムリープしろと念じた。
しかし、なにも起こらなかった。
その日、僕は初めて死を経験した。
ハリーがムーディに手を引かれ、スタジアムから出ていったのをハーマイオニーは見ていた。彼女に引っ張られる形で僕もそれを後ろから追いかけた。
医務室にたどり着いたあたりで僕はようやく我に返った。別に意識がなかったわけではないが、途中の記憶は何も思い出せなかった。
だが、中に彼らはいない。道中も追い抜いたりしていないはずだ。走れないムーディに連れられる以上、そんなに早く移動出来ないはずなのだが。
「あれ、どこ行ったのかしら?」
困惑したようにハーマイオニーがそういった。
「もしかしたら、ムーディの部屋に行ったのかも。ほら、競技場からだったら、あそこの方が近いし」
僕は小さく細い声でそういった。ハーマイオニーは僕の声の変化には気がついていないようだった。
「ありうるわね。じゃあそっちに向かいましょう」
ハーマイオニーが走り出してしまったので、僕も仕方なく駆け出した。
5分もしないうちに、ムーディの部屋にたどり着いた。
部屋に入ろうとしたが、話し声が聞こえてきたのでとりあえず聞き耳を立ててみた。間を見計らってから入ろうという気遣いからの行動だったのだが、扉の向こうから聞こえてきた会話に2人は驚きを隠せなかった。
「闇の帝王はお前を殺しそこねた。代わりに俺がやり遂げたら、どれだけ褒めてくださることか。あのお方のためにお前を殺せば、俺は他のどの死喰い人よりも高い名誉を受けられるだろう」
信じられなかった。それは間違いなくムーディの声だ。だが、その言葉の内容は、この世でもっともムーディには似合わないものだった。
「どういうこと?ムーディ先生は死喰い人に通じていたってことかしら」
ハーマイオニーは小さな声で僕にそう問いかけた。
「わからない。けど、早く誰かに知らせなきゃ。ハーマイオニー、今すぐダンブルドアを連れてきてくれ。僕はいざとなったら中に踏み入るよ」
僕は事態の重大さにいつもの僕に戻った。今は目の前のことに集中しなくては。だが、そう思えば思うほど、先程のディゴリーの死体が眼の前にちらつく気がした。頭を横に振り、そのイメージをなんとか捨てた。
ハーマイオニーは少し迷ったが、時間が惜しいと思ったのか、すぐに覚悟を決めた顔になった。
「わかったわ、ロン。なるべく早く戻ってく……きゃあ!」
ハーマイオニーがそれを言い終わる前に、僕とハーマイオニーは部屋に勢いよく吸い込まれた。地面に体を打ちつけられ、顔を上げるとそこにはムーディがいた。
「作戦会議は終わったか小僧ども。ちょうどいい。お前らはそこでみてろ」
そういうとムーディがこちらに杖を向けた。僕達はそのまま全身金縛りにあい、声を発することも、動くこともできなくなった。
「やめろ!ロン達は関係無いだろ!殺すなら僕だけを殺せ!」
「言われずともそうするよ、ハリー。だが、どうせなら大事な人に看取られて死にたいだろ。俺は優しいんだ」
ムーディは恍惚な表情をうかべた。
「ああ、これで俺も闇の帝王のご寵愛を受けることができる。長かった苦しみから、ようやく解放され、俺はあの方の真のしもべとなる!」
そのままムーディはハリーの方を向いて、静かに呪文を唱えた。
「アバダ・ケダブラ」
正史との相違点
・第三の課題の後、ロンとハーマイオニーがムーディについて行く
・ダンブルドアらがムーディの部屋に来ない