戦いを決意した瞬間、目の前でネビルが死んだ。
その結果に僕は奥歯をぐっと噛み締め、血が出そうなほど手を握りしめた。
ネビルを死なせないために戦おうとしたところで、ネビルは殺された。そして結果的にタイムリープが起こり、僕はネビルを含むみんなを死の運命から救う事ができる権利を獲得した。
だがこれは、ある意味においての敗北だ。
結局僕は、あのとき誰も守れなかったのだ。
誰一人守ることが出来なかった。僕はただただ悔しかった。
もっと早くに戦う決意を固めていれば…!
握りすぎて手のひらから痛みを感じてきた。それで我に帰った僕は、いったい今はいつなんだろうと、目線だけで周囲を観察した。
談話室だ。
ホグワーツの生徒は一年の大半は各寮の談話室で過ごす。時には友達とふざけあい、時には真面目な話をし、時には山のような課題に取り組む。そんなマルチな目的に使える我らがホーム、グリフィンドールの談話室。
だが今は人っ子一人いない。
ふと窓の外に目をやると、うっすら明るいのが見て取れた。人がいないのもあわせて考えると今は早朝なのだろう。そして視線を下げると目の前には見覚えのある宿題の山。
どうやら、前回と同じ時間に帰ってきたのだろう。
前回と同じリスタート地点。
だが、今の僕はあの時とは違う。
死に恐怖し、敵に恐怖して戦うことから逃げたあの時とは。
戦うことから逃げることが間違いだとは思わない。逃げることが大事なことだってもちろんある。だが、今はその時ではない。
僕はそれから、どうすればあの未来にならないかを必死に考えた。いつもなら、明確な分岐点があるのだが、今回はそれが何なのかわからない。前回と前々回で大胆に行動を変えただけあって、一体どこで何をすれば最悪の未来を回避できるのかわからなかった。
しばらく考えたが結局いいアイデアは思いつかなかった。
だが、気がついたことがある。4年生までの僕にはなかったものだ。
今の僕にとって、唯一にして最強の頼れる存在。
僕はその人物を尋ねるために談話室をでた。
「ほっほ、ようやくわしを頼ってくれたか。一体、前の世界では何があったんじゃ?」
ダンブルドアは開口一番にそう言った。にこやかに笑いながら見透かすように。
僕は校長室に来ていた。
校長室を守っているガーゴイル像まで来たはいいが、流石に早朝に行くのは迷惑かと思い少し思い悩んでいたところ、ガーゴイルが独りでに動き出し、僕を中に入れてくれたのだった。
「ダンブルドア先生、ようやくっていうのはどういうことですか?それに僕が既にタイムリープしてることも、どうしてわかったんですか?」
「うむ、簡単なことじゃ。君がこんな朝早くにここに来たということは、おそらくつい今しがたこの時間に戻ってきて、それについてわしに話したいことや相談したいことがあるのだろうと思ったのじゃ。それに、君は今まで1人で未来を変えるために頑張ってきたのじゃ。つまり、人に頼るという選択肢を選びにくくなっておる。だからわしは、君がすでに何回か時間を繰り返しているのだろうと推理したのじゃ。まあただの推測だったのだが、当たったようで何よりじゃ」
当たりすぎて怖い。心でも読まれてるんじゃないだろうか。ずばり言い当てたダンブルドアに少し引きながら、僕は前回と前々回の世界のことを話した。
前々回の世界では、死喰い人に立ち向かおうとした結果、友達を死なせてしまった。
前回の世界では、死喰い人から遠ざかろうとした結果、友達を死なせてしまった。
僕が話している最中、ダンブルドアはうなずいたり、声を少し出したりとリアクションをしてくれていたため、こちらも話していて楽だった。だが、長い話になってしまったことに加え、時間も行ったり来たりした話になってしまった。ダンブルドアにちゃんと伝わっているかすこし心配だった。
「あ、それと前の世界でダンブルドア先生にもらった手紙の中に、今のあなたへの言伝がありました。もしも、自分が生きている時間までもどったら伝えてほしいって」
「ほう、それはなんと!なんて書いてあったのじゃ」
ダンブルドアは驚いたように言ったが、見た目からはそれを感じることはできなかった。もしかしたら、僕が未来のダンブルドアから伝言を預かることを予期していたのかもしれない。
「はい。えーっと、分霊箱、なめくじ、槍、だったかな。忘れないようにちゃんと覚えたので多分あってると思います」
ダンブルドアはここで初めてあからさまに動揺した。前のめりになっていた姿勢はすっかり伸び、目にも驚きの色が窺える。
「それは、なんと、そういうことだったのか……」
「先生、一体これは何の暗号なのでしょう?」
「今はまだ伝えるときではない。だが安心しなさい。時期が来たら必ず君にも伝えよう。さて!」
ダンブルドアは少し大きな声を出し、仕切り直した。僕はその声に思わず全身に緊張が走る。
「わしは今までの話を踏まえて、今回どうすべきかを提案すればよいわけじゃな?」
「はい!お願いします」
「それでは、まずは1つだけ。魔法の勉強会についてじゃが、これは発足すべきであろう。君たちにはこれからも戦わなくてはいけない場面が多く待っている。学べるうちに学んでおくべきじゃ。リーダーはハリーでいいじゃろう。彼の闇の魔術に対する防衛術は上級生を含めても一級品じゃ。ただし、メンバーはより多くの人を募るべきじゃ。そうすれば、そのものたちは守るべきものではなく、共に戦ってくれる仲間となるじゃろう」
「でも先生。前回6人でも失敗したのに、これ以上増えても大丈夫でしょうか?ハリーはクィディッチや課題で忙しいし……」
僕はダンブルドアの提案に恐る恐る返答した。それは前回しっかり失敗した。もしかしたら、先程の話を聞き漏らしていたのかもしれない。
「おそらくじゃが、問題はない。むしろ多くなることでハリーに責任感が芽生えるじゃろう。以前の少人数の内輪でやるのでは得られなかったものじゃ。それにクィディッチの忙しさも、きみがいればなんとかなる」
「僕がいればってどういうことですか?」
「君もクィディッチ選手になるのじゃ。魔法の勉強会でも、クィディッチでも、君がハリーを支え、ハリーと共に戦うのじゃ。それにクィディッチの忙しさや疲労はミスターフーパーによるものが大きいのじゃろう?君がキーパーになれば何の問題もない」
ダンブルドアの自信満々の言葉に流石に驚いた。僕がキーパーになることで、そんなうまく解決できるとも思えなかったし、今の自分にそんなことをしている余裕はない。なぜなら、フーパーは確かにうまいからだ。選抜を勝ち取るには相当練習しなくてはならないし、受かった後も相当練習しなくてはいけない。
「でも、僕にキーパーなんて……。フーパーはくそですが、キーパーの技術自体はうまいんです。僕が選ばれる可能性なんて、1%もありません」
「じゃが、0ではない。聞くところによると、君は双子の兄たちと休みの日にクィディッチで遊んでるそうじゃないか。それも君がキーパーで。クィディッチ選手になることに憧れはあったじゃろう?」
「それは、たしかにありましたけど」
憧れはあった。クィディッチ選手になりたいと何度思ったことか。自分の抑えていた欲求がふつふつと顕在していってくのが自分でもわかった。
「では決まりじゃな。別のアドバイスはまたいずれしよう。わしも少し考えたいのでな」
ダンブルドアはそういうと満足そうに微笑み、立ち上がった。僕もそれにあわせて立ち上がる。
「はい、ありがとうございました」
ダンブルドアに促される形で、僕は部屋の外に出た。
その帰り道、僕は先程までの話を振り返り、少し心配になっていた。
ダンブルドアは大丈夫って言ってたけど、ほんとに勉強会組織をしちゃっていいんだろうか。それに、僕がキーパーになるって。
そんなことでうまくいくなんて、とても思えなかった。確かにダンブルドアは偉大な魔法使いだったけど、いまはすっかり衰えてしまったなんて話はよく聞く。今までそれは嘘だと思っていたけど、でも、もしかしたら本当なのかもしれない。
かと言って他にアイデアもない。とりあえず、ダンブルドアを信じてみよう。
しばらくは全力でキーパー練習しなきゃだな。
ダンブルドアのアドバイスに従い行動した結果、全体的には物事はうまく進んでいた。
僕はあの日から毎日キーパーの練習をしていただけあって、なんとかチームの正キーパーに選出された。フーパーほどうまくはないが、チームメンバーと元々関わりがあったのでコミュニケーションは円滑に進めることができた。
ダンブルドア軍団、DAと名付けられた魔法の勉強会も今のところ順調だ。
僕がキーパーの練習をしていたこともあり、前に結成した時よりも結成時期は遅れたが、そのおかげでホグズミード行きの日にメンバーを募ることができた。
ちなみに最初はハーマイオニーにだけ話した。前回、ハリーは結成自体には賛成だったが、自分が先生になることは渋っていた。まずハーマイオニーと意見を一致させ、組織の具体的な目的やプランとかを持って行った方が成功率が上がると思ったの行動だ。
ハリーも先生になることを承諾し、メンバーも集まり、場所も見つけられた。
全ては順調に進んでいた。
最初に問題が起きたのはクィディッチの方だ。
ハリーとフレッドとジョージがクィディッチを禁止されたのだ。
僕が緊張しいなこともあり、練習や試合中のスリザリンからの野次に僕は踊らされていた。思うように実力を発揮できなかったのだ。
その試合終了後に、そのことで僕を煽ったマルフォイをハリーとジョージは暴行したのだ。そこにアンブリッジがかけつけ、2人と、ついでにフレッドにもクィディッチ禁止を言い渡したのだ。
僕のポンコツのせいでハリーからクィディッチを奪ってしまった。たしかにそのおかげで、ハリーはその時間と熱をダンブルドア軍団に費やすようになったが、だからと言ってハリーから大好きなクィディッチを奪っていい理由にはならない。
自分のへぼさに、僕は辟易していた。
そしてDAについてだが、僕は今日、そのことでダンブルドアに呼び出されたのだ。ダンブルドア軍団って名前にしたのがまずかったかな。
そんな不安を胸に、僕は校長室に向かった。
「よくきてくれた。最近DAの活動の方はどうじゃ?順調かの?」
「今のところは特に問題もないです。守護霊の呪文に取り組み出したので、みんなそれに苦労してますが。でも、それだけ真剣にDAに臨んでくれているんだと思います。特にネビルの熱の入りようはすごいですよ」
「ほっほ、それはよいことを聞いた。みながレベルアップしてくれているなら、次のステップに進んでもいいかもしれんの」
ダンブルドアは含みをもたせて言った。言葉を一度切ったということは、僕が聞き返すのを待っているのだろう。
「次のステップ、ですか?まさかダンブルドアが直々に稽古をつけてくれるんですか?!」
僕は期待をこめてそう言った。たしかに、そうしてもらえれば死喰い人なんて目じゃないくらい強くなれるかもしれない。だが、その思惑はハズレなようだ。
「そうしたいのは山々じゃが、今はちょいと都合が悪い。次のステップというのは、実戦じゃよ。ハリーがシリウスの夢を見たら、戦えるものたちと一緒に魔法省に行って欲しいのじゃ」
「な、なんでですか?行ったらハリーは死ぬかもしれないんですよ!いくらなんでも賛同できません!」
思いもよらないダンブルドアの発言に僕は狼狽した。確かに、今まで訓練してきて、前のときよりみんなも強くなったとは思うが、それでも向こうは大人の闇の魔法使いだ。
罠だとわかっていて、わざわざ出向く意味がわからない。
「じゃがこれは必要なことなのじゃ。わしは此度の魔法省での決戦で、ヴォルデモートの存在を魔法省に認知させるつもりじゃ。じゃが、ただヴォルデモートが復活したとニュースになるだけでは魔法界は大混乱に陥るじゃろう。それだけ、あやつの全盛期はすごかったのじゃ。そうならないためにも、みんなに希望が必要なのじゃ」
「…だから、ハリーに例のあの人を倒させるんですか?」
ダンブルドアの意図がわかってきた。
なぜ、僕達に魔法の訓練をさせたのか。最初から、僕達を、いや、ハリーを戦場に向かわせるつもりだったんだな。
「いや、倒す必要はない。対峙したという事実だけでよい。幼き日から何度もあやつを退けた実績、嘘つきと非難されようともヴォルデモートの復活を主張し続けた正義感、そしてなにより若さ。これらをもってハリーは『選ばれしもの』として魔法界の希望になるのじゃ」
「おっしゃってることはわかります。そして、それが大事だということも。でも、もしハリーがその戦いで死んだらどうするんですか!いや、ハリーだけじゃない。ハリーを守るために一緒に行った仲間も死ぬかもしれない!僕は、そうならないためにこの時間に戻ってきたんだ!希望にならアナタがなればいいじゃないか!」
僕はダンブルドアに対して怒りを向けた。まさか最初からこのために僕は利用されていたのか。ダンブルドアは、失敗しても僕なら時間を戻せるから大丈夫だろうとでも思っているのか。冗談じゃない。
「わしみたいな死にかけのジジイでは魔法界の希望にはなれんよ。わしにできることは、知恵を授け、力を授け、皆の足りない部分を埋めることじゃ。ロン、君を利用したこの老いぼれを許してほしい。じゃが、これは必要なことなんじゃ。もちろん、迅速に騎士団を向かわせるつもりじゃ。頼む、協力してほしい」
ダンブルドアは頭を下げた、僕はその光景を見て驚きのあまり、一気に冷静になってしまった。ダンブルドアには他にも企みがあるだろうことはなんとなく理解している。だが、今まで言ったことが嘘ではないことも分かる。
迷った挙げ句、僕はダンブルドアを信じることにした。
ダンブルドアは何より生徒を大事にしていることは知っている。その彼がわざわざ危険なところに行けというのだ。もうそれしか無いのだろう。
「……わかりました。次のDAからその戦いも視野にいれて特訓しようと思います」
だが、その特訓が実現することはなかった。DAの活動がアンブリッジにばれて活動できなくなってしまったのだ。
そして、ダンブルドアもどこかに姿をくらました。
魔法省での戦いが終了し、2日が経過したところで、僕は眼を覚ました。
起きたときには、前後の記憶が不明瞭で、何がなんだかわからない状態だったが、みんなから話を聞いているうちに色んなことを思い出し、そして激しく後悔した。
僕達生徒の中には怪我人こそいれど、死者は出なかった。だが、騎士団の中からは、この戦い唯一の死者を出してしまった。
「シリウス…っ!」
誰も死んでほしくなかった。そのために僕は今まで訓練してきたのだ。僕がその場にいれば、シリウスを救うことが出来たのに、メンバーの中で僕だけが現場に居合わせることさえ出来なかったのだ。
シリウスが戦っているとき、僕は半狂乱で"脳みそ"と戦っていたらしい。脳みそがある部屋に行ったのはなんとなく覚えている。だが、どうしてそんな状態になっていたのかはさっぱり思い出せない。
僕は馬鹿だ。
この戦いでは何があってもハリーのそばから離れるべきではなかったんだ。予言をハリーが持っていた以上、戦いがそこに集中することはわかっていたのに、僕は早々にはぐれてしまった。
僕はその日の夜中に医務室を1人抜け出した。
医務室を抜けた僕は、湖の畔に寝そべって星を眺めていた。
ホグワーツに住む多くの人が学生であることも相まって、夜中はほとんど明かりはない。その御蔭で、夜になると夜空は満点の星で彩られていた。
ここに来たことに、特に意味はない。
ただ、みんなと一緒にいるのが辛かった。
一人だけ早々にリタイアし、ろくに戦うことも出来なかった僕は、みんなと同じ空間にいるだけでなにかに押しつぶされそうになってしまったのだ。
湖の方から魚が飛び跳ねる音が聞こえた。ふとそちらに眼をやった瞬間、巨大なゲソが湖から飛び出し、その魚を捕まえていた。
湖に来て数時間後。人の気配を感じた。
「こんばんは。夜の湖のそばは冷えるじゃろう。もしよければ中に戻らんか?」
ダンブルドアだった。僕はもう、この人が何を考えているかなんて、何もわからなかった。
「先生、今年のこと、どこまで予想通りでしたか?」
僕は低い声で言った。ダンブルドアは僕に話す義務がある。DAの解散、予言の破壊、シリウスの死、一体どこまでがダンブルドアの手のひらの上だったのだ。
「……おおむね、わしの予想していたとおりじゃった。だがそれは予想であり、理想ではない。この世界を理想と言うには、失ったものがあまりにも大きい」
そう聞かれることも予想していたのだろう。ダンブルドアは続きの言葉を丁寧に紡いだ。
「シリウスが死ぬことを、わしはなんとなく予感していた。だからこそ、わしはそれを避けるためにシリウスにいろいろと警告をしていた。じゃが、わしの言葉ではシリウスを止めることはできんかった。彼の勇気とハリーへの愛は、たかが1人の老人の言葉で縛り付けられるものじゃなかったのだ」
それを聞いて僕は黙った。
それじゃまるで、シリウスが死んだのはシリウス自身のせいと言ってるみたいじゃないか。確かに、戦いの場において死の理由を自分以外の誰かに押し付けるのは筋違いというものだろう。だが、ダンブルドアは戦いがあることを知っていた。シリウスの死をコントロール出来たんじゃないか。
僕の中に、ダンブルドアに対する不審が、ただ積もっていく。
「ダンブルドア先生、あなたは何が目的なんですか?あなたはハリーを、例のあの人を一体どうしたいんですか?」
「わしの目的はひとえに、魔法界の平和じゃ。ハリーには成長して、ヴォルデモートを倒してもらいたい。この言葉に嘘偽りはない。そして、君にはより詳しいことを話すべきじゃとわしは思う。夏休みが始まったらすぐに君に直接話そう。詳しくは手紙を送る。今度はいなくなったりせん」
ダンブルドアは僕の返事を聞かずに歩いて去っていった。
僕はダンブルドアが城の入り口に入るまで、目を逸らさなかった。
正史との相違点
・なし
※映画だと、アーチの間にDAメンバーと騎士団が揃っていて、そこでシリウスの死にます。ですが、小説版だと、ロンだけそこにいません。この章で書いたみたいに、錯乱してでっかい脳みそと戦っていました。ネビルもその場にいましたが、ロンを放置し、ハリーの方に加勢に来ます。
あと、ダンブルドアがシリウスの死を予期していたのも原作通りです。ダンブルドアがハリーにそれを言ってブチ切れられてました。