【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:おこめ大統領

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 話が飛んでいる部分は、基本的に原作と変わりない部分と思っていただければと思います。
 原作知識については映画の内容を知っていれば問題ないと思います。小説でしか出てこない設定や場面が出てきた際は補足を入れるように致します。

 また、小説と読み比べをすると、より楽しめると思います。

※10/24 後書きに正史との相違点を書いてます。自分で考えたい方はお気をつけください。



ロン・ウィーズリーと賢者の石
2. ご乱心ハリー、鏡に夢中


 僕は昔の夢を見ていた。

 

 今となってはそれが現実に起きたことなのか、それ自体も夢のことだったのか、定かではない出来事。自分の人生や人格に大きな影響を与えた出来事。

 

 

 

 タイムリープ

 

 

 

 当時9歳だった僕はアレを現実のものと疑わず、もう一度タイムリープしようと何度も何度も試してみた。念じてみたり、オリジナルの呪文を唱えてみたり、倉庫に小火を起こしてみたり。小火はさすがに怒られた。

 

 何ならマグルの書物まで見たほどだ。父親に「マグルの文化に興味が出てきたから、どこかそれを調べられる場所へ連れて行ったほしい」とねだると、待ってましたとばかりに僕を図書館へ連れて行ってくれた。

 

 意外や意外、そこではいくつかの成果を得ることが出来た。自分に起きた現象が「タイムリープ」と呼ばれていることと、机上の空論以前の問題で、実際に観測されていないということである。あくまでマグル世界の知識だが、少しだけ進展した。いや、むしろ停滞に拍車をかけた。その後現在に至るまで、それは続く。

 

 

 いかんせんアレは2年も前の出来事である。記憶も薄れてきて、自分自身も夢ではないかと疑いだしてきたこのタイミングであの日のことを夢に見ると、本当に夢だったのではないかと思わざるをえない。

 

 そんなことを考えていると寝ぼけた頭が徐々に覚醒してきた。頭を左右に振り、眠気を完全に吹き飛ばしてから周りを見渡すと、そこにはいつもの光景があった。

 

 隣に座っているハリーは、まだ夢の中。斜め前に座っているディーンの目は開いているが、時々がくんと首が下がっている。この教室内で目を開け、羽ペンを持ち、授業も聞くという三冠を果たしているのはハーマイオニーだけだろう。

 

 ハロウィンの前までは彼女をいけ好かないガリ勉だと思っていたが、仲良くなった今では、いけ好くガリ勉へとランクアップを果たしていた。同じ行為をしていても友達かそうでないかだけで印象が違うものかと自分でも驚きである。

 

 すると、黒板の方から声が聞こえた。……今までも黒板の方から声は聞こえてきていたのだろうが、僕の耳がその受け取りを拒んでいたようだ。

 

「これで授業を終わります。クリスマス休暇の宿題は先程言ったとおりですので、ちゃんとやるように」

 

 ビンズ先生のその抑揚のないその声を脳が正確に受け取ってくれない。

 ハーマイオニーが教科書や羊皮紙を片付けたところで「ああ、授業終わりか」と認識した。

 

 

 

 

 

 今は1991年12月。

 

 いくつかの授業が終わり、すっかりクリスマスムードである。ニコラス・フラメルについては未だ謎で、三頭犬が守ってるものもわかってない。

 

 今日も図書館でニコラスについて調べていると、ハーマイオニーが小声で話しかけてきた。

 

「どう?なにかわかった?」

 

「ぜーんぜん!もはやハグリッドの言い間違いを疑ったほうがいいんじゃないかと思いかけてるよ。ハグリッドなら誰か別の人をニコラス・フラメルって名前で覚えていたとかありえそうだし」

 

 僕は冗談半分本気半分くらいでそう言った。なんせ彼は口が滑って教えちゃいけないことを言ってしまうような人だ。いくら調べても出てこないような無名の人の名前を正確に覚えている方がおかしいというものだろう。

 

「うーん、反論できないのが痛いわね。ところで、私は明日のホグワーツ特急で帰っちゃうけど、あなた達二人は残るのよね?私も持ってる本で調べておくから、二人も頼んだわよ。わかったらフクロウで知らせてね。」

 

 僕は空返事をして本に目を向けた。正直、クリスマスにまで本なんかを読みたくはない。

 

 

 

 

 

 クリスマスの翌日、ハリーから昨日もらったばっかりの透明マントを使って禁書の棚を調べたという報告を受けた。……僕も誘ってくれればよかったのに。

 

 それにしても、死んだはずの両親が映る鏡か。

 夜になったらその所に連れて行ってくれるってことだけど、正直少し不安だな。

 

 

 

 亡くなった人が映る鏡。

 

 

 

 魔法界には、対となる鏡を介して通信ができるものから見たものを永遠に閉じ込めるものまで、様々なマジックアイテムの鏡がある。だが、生まれてこの方魔法族の僕も、死者に会えるものなんて聞いたことがない。そんな夢のようなものがあれば有名でもおかしくないはずなのに。

 

 だが、それ以上に僕はハリーのまとってる雰囲気が気になった。鏡について話している時にハリーは、上の空というか、まるで心が違うところにあるかのような感じがしたのだ。

 

 まあ、鏡の正体については実際に行ってみればわかるだろうと思い、寮に残っていたみんなが寝静まった後ハリーとともに透明マントをかぶり、鏡捜索に出かけた。城の中を徘徊しすぎて、歩いているのか止まっているのかわからないくらいの疲労が足に蓄積されたころで、ようやく件の鏡を発見した。

 

「ここだ……ここだった……そう」

 

 ハリーはマントをかなぐり捨てて部屋に入り、鏡の前に走っていった。

 鏡の前でにっこり笑うハリーの顔をみて、手に汗がにじむのを感じた。純度100%の喜びの笑顔なのに、ほんの少しだけ恐怖を感じた。

 

 ハリーが鏡を見ている隙に、僕はその鏡の裏や縁を観察して回った。魔法の痕跡とかはよくわからないが、有名な闇の魔法使いなら少なくともハリーよりは知っているので、せめてその名前が掘られていないかだけでも確認しようと思っての行動だ。

 

 だが、見つけたのは不思議な文章だけ。それを反対から読むと意味のある文章になるのを気づいたときは謎が解けた気がして少し嬉しかった。

 

「ロン!君もここに立ってみてよ!」

 

 そうしているとハリーに手を引かれた。なんだなんだと言っているうちに鏡の正面に立たされてしまった。そして、そこには信じられないものが映っていた。

 胸に首席のバッチをつけて箒を持った自分が何度も過去に戻り、色んな人を救い、多くの成功を収め、みんなに讃えられていた。

 

「僕の家族が君を囲んでるのが見えるかい?」

 

「いや、僕が色んな人に讃えられている!ビルがつけていたような首席のバッチもつけてる!すごいや!この鏡は未来を見せてくれるのかい?」

 

「そんなはずはないよ。僕の両親はもう死んじゃったし。」

 

 僕はなんとなくタイムリープのことを伏せてそういった。ハリーに過去のタイムリープのことを言ってない理由も同じだが、どことなく恥ずかしかったのだ。

 もう一度鏡を見せてとせがむハリーと、もう少し鏡を見ていたい僕の口論はしばらく続いた。みんなから称賛されることなんてそうそう無いので、もう少しだけこの光景を見ていたかった。ほんとに、少しで大丈夫だから。

 

「君は讃えられているだけだろう!僕はもう死んでしまった、会いたかった両親に会える大事な鏡なんだ!こんなことなら君に見せなきゃよかった!」

 

 その言葉に僕は動揺してしまい、その隙にハリーは鏡の前に鎮座してしまった。その言葉は彼の意図せぬダメージを僕に与えていた。

 

 自分は過去に兄を()()()()()()()

 

 もし、あれが現実であの時タイムリープできなかったら。

 大切な家族が自分のせいで亡くなったら。

 もしその人ともう一度会えるなら。

 

 僕が焼け落ちた倉庫の中から過去に飛んでチャーリーに会えた時、どれだけ嬉しかったか。

 

 僕は兄の死を経験したことがある。その経験から今のハリーの気持ちを理解することはなんとなくできた。

 

 そう考えたところで、部屋の外から物音が聞こえたので、僕達はそそくさと部屋を後にした。ハリーを鏡から引き剥がすのはそれはそれは重労働だった。

 

 

 

 

 

 翌日、ハリーが鏡のことを考えていることは丸わかりであった。

 僕は、鏡に書いてあった文章や自分が見た時に映し出されていたもの、それに自分とハリーがそれぞれ違うものが鏡に映ることから、あの鏡は自分ののぞみを映すものだろうとあたりを付けていた。

 

「ハリー、あの鏡のところにはあんまり行かないほうがいいよ。あれは多分自分の望みを映すものだ。あんまりあれを見ていると駄目になっちゃうよ」

 

 僕はハリーがあの鏡をみることに反対だった。ハリーの両親は死んでしまっている。このまま鏡の虜になってしまったら、ハリーの心はもう戻ってこないように思えたのだ。それほどまでに、鏡を前にしたハリーは狂気に満ちていた。

 

「ロンは自分の家族が生きているからそんなことが言えるんだ。それに2人が死んでいることは僕もわかってる。大丈夫だよ」

 

 ハリーは意外と冷静に答えた。だが、声に棘がある。機嫌が悪いのは明らかだった。昨日の口撃が効いたのを自覚したからか、家族の点を攻めてきている。

 

 そして彼の思惑通り、僕はそう言われると弱かった。自分は家族においてはとても恵まれていると思っている。ハリーに対して、そのことに若干の後ろめたさを感じていた。

 

「……。そこまで言うなら、もう止めないよ。ただ、今日はやめたほうがいい。昨日部屋の近くで物音がしただろ?誰かが見張ってるかも知れない」

 

「確かにそうだね。でも僕、待てる気がしないよ」

 

「それなら、透明マントかぶりながら鏡を見るとかどう?パパとママと一緒には映れないけど、バレずに見ることができるんじゃないかな。できるかわからないけど」

 

「いいねそれ。試してみるよ」

 

 ハリーの目は終始、僕を見ていなかった。おそらくハリー自身でも、鏡への依存が良くないことだということはわかってるのだろう。

 

 しかし、今日一日くらいならいいだろう。明日になってもこの調子だったら流石にマクゴナガル先生にでも相談して、鏡を隠してもらおう。

 

 僕はそう心に決め、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 次の日の朝、ハリーは部屋には帰ってこなかった。

 

 まさかと思い、鏡の部屋に行ってみるが、部屋には誰もいないように見える。透明マントをかぶったハリーがいるなら鏡の前だろうとそのあたりを捜索していると、ふと手に見えない何かがあたった。見えない何かを手で掴むと、虚空から人が姿を表した。

 

ハリーだ。

 

「ハリー!もう朝だよ!こんな時間まで見ていたのか!」

 

 ハリーから返事はない。キッと僕にらみつけ、再び鏡の方を向いた。

 

「ロン、今いいところだから邪魔しないでくれ」

 

虚ろな目で鏡を見ながらハリーがいつもより低い声でそう言う。僕は流石にやめるよう何度も言った。だが彼は聞く耳を持たなかった。

 

「わかったよ。じゃあせめて朝ごはんだけでも食べてくれ。夜通しここにずっといたんだろう。食べたり飲んだりしないと死んじゃうよ」

 

 僕は肩を落として、せめてもの妥協を提案する。

 

「じゃあ持ってきてくれ。」

 

 僕はその提案にすこし呆れたが、なるべくハリーを1人にしておきたくなかったので急いで大広間に向かった。

 

 

 

 

 

 ハリーの分の朝食を持って鏡の部屋に向かう。

 流石に危機感を覚えていた。後ろめたいとか言っている場合じゃない。ハリーに朝食を渡したらマクゴナガル先生に相談しよう。そう考えていると、前からハリーが走ってきた。

 

「ちょっとハリー!どうしたのさ!」

 

 相変わらず返事がない。しかしその形相は悔しさか悲しさか怒りか、とにかく負の感情に支配されているように見えた。僕はハリーの朝ごはんをその場に置きあとを追いかける。

 

 しばらく走るとハリーはグリフィンドールの太ったレディの肖像画の前に止まり、そのまま談話室に入っていった。少し遅れて僕も入る。軽くとはいえ朝ごはんを食べたばかりなので、お腹に鈍い痛みを感じていて、そのせいでハリーとだいぶ離されてしまっていた。

 

「談話室にはいない……。部屋かな」

 

 部屋に向かい扉を開けると、窓のそばにハリーが立っていた。

 

「どうしたのさ。走ったりなんかして。眠すぎておかしくなっちゃった?」

 

 違うと思いながらも、そうであってほしいと願い、そう声をかけた。

 

「もううんざりだ!僕がどんだけ願っても両親は帰ってこない!身の回りには家族に恵まれた幸せな人が大勢!そんな人を見るたびに僕がどんな思いをしてきたか!ホグワーツに来ても僕の辛さを理解してくれる人なんかいないんだ!」

 

 想定を超える声量と負の感情に僕はたじろいだ。ハリーを慰めようと口を開いたが、続くハリーの言葉にかき消されてしまう。

 

「ホグワーツが終わったら僕はまたあそこに戻らないと行けないんだ。

一晩中僕に寄り添ってくれる本当の優しい両親を知ってしまった僕にあんなところは耐えられない!もう嫌だよ……。なんで僕ばっか……。もう、パパもママもいない世界になんていてもしょうがないんだ……」

 

 ハリーの体から力が抜けるのがわかった。

 

 そして、次の瞬間にはハリーがいなくなっていた。

 

 

 

 違う。落ちたんだ。窓の向こうに。

 

 

 

 そう気づいた僕は一目散に窓へと駆け寄った。落ちていくハリーと目があった。

 

 

「ハリー!!!」

 

 

 大きな衝撃が塔を揺らすのと同時に、視界は暗転した。

 

 

 

 








原作との相違点
・図書館でのやり取り。ハーマイオニーが自身の両親が歯医者だと言うくだりがない。
・ロンが初めて鏡を見たときにハリーに結構エグいこと言われる
・鏡を見ているのが誰にもバレないようなアドバイスをしちゃう
・ハリーが徹夜で鏡を見る

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