【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:おこめ大統領

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1万字近い文量です。


20. 勇気に満ちていたから

 僕はタイムリープしたことにすぐ気がついた。

 

 周りの景色などは先ほどと大きく変わらないが、死の呪文を食らったはずのトンクスが生きていたのだ。

 

「そんなもんかぁい!そんなんじゃあたしを殺すなんて、100年かかっても出来っこないよ!あんたら、この女は私の獲物だよ!手出しはゆるさないよ」

 

 ベラトリックスは挑発するように言うと、更に魔法の量を増やした。聞き覚えのあるセリフに僕は少し身構えた。

 

「こいつっ!ふざけた量の魔法使って!」

 

 トンクスも必死に応戦してる。

 多分そろそろだ。呪文をかけたのは、あの死喰い人だな。

 僕はトンクスに狙いをつけてる死喰い人の顔面に失神呪文を放った。それはきれいに直撃し、彼は箒から落下していった。

 

 その光景に一瞬気を取られたベラトリックスだったが、その隙を見逃すトンクスではない。ベラトリックスの箒に火を放ったのだ。

 

「ちっ!しょうもないことしやがって!」

 

 そう言いながら、どんどん高度を落としていった。それを境にほかの死喰い人ともこう着状態になっていった。

 

 やがて目的地の保護呪文下に着くと、死喰い人は去っていった。とりあえず一安心だ。

 

「ロン!助かったよ!君がいなかったら正直やばかったね!それにしても、あの顔面クリーンヒットの失神呪文はすごかったなぁ。語り継ぎたいレベルだよ」

 

 トンクスがそう言って僕を褒めてくれた。あまり褒められ慣れていない僕は少し照れた。すると、保護呪文下の中心にある家から人が出てきた。ミュリエルおばさんだ。

 

「遅かったじゃないか。大丈夫かい?え?」

 

「えぇ、ちょっと死喰い人にしつこく狙われてね。ポートキーはもういっちゃったわよね?」

 

 そう聞くと、ミュリエルおばさんは静かに頷いた。ぼくたちはこの家のポートキーでアジトである僕の家まで飛ぶつもりだったのだが、どうやら間に合わなかったようだ。

 

「それじゃ直接向かうしかないわね。ロン、ポリジュース薬がきれたら向かいましょう。もう君が変身している理由はないでしょう」

 

 僕たちは10分ほど家で休ませてもらった後、箒で家まで飛んで行った。その道中に襲われることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ビルとフラーの結婚式の最中、僕はポケットに入れていた灯消しライターが熱くなるのを感じた。

 

 これはダンブルドアが遺品として僕に残したものだ。その効果は周囲の灯を消してライターの中に貯めておけるというものだ。

 これを魔法大臣のスクリムジョールから譲り受ける時に「ダンブルドアとは親しかったのか」と聞かれ、思わず「そうでもない」と答えてしまい、ハーマイオニーに小突かれたのはいい思い出だ。

 

 だってみんな僕とダンブルドアの関係を知らないし、それに親しいって言ったらスクリムジョールからいろんなことを根掘り葉掘り聞かれると思ったから、ついそう言ってしまったんだ。

 

 それはさておき。今までこのライターは何度か使ってみたが、灯りを消したり出したり以外には特に使い道がなかった。それなのにライターが急に熱くなったのだ。

 

 もしかしたら、ダンブルドアが何か仕込んできたのかも。

 念のため人がいないところまできて、ライターをカチリとつける。すると中から緑の光の玉が出てきた。

 よく聞くと、その玉から何か声が聞こえる。小さく細い声だが、なんとか聞き取れた。

 

「ウィーズリー、今すぐ来い、って言ってるように聞こえるな。それにこの声、どこかで聞いたような」

 

 すると玉が弱く点滅し始め、僕の方に近づいた。それが僕の胸の中に入ると、聞こえてきた声の主を思い出したとともに、なんとなくどこに行けばいいのかわかった。

 

「スネイプが僕を呼んでる?でもなんで?」

 

 僕は念のため杖を手に取り、胸に入った光の玉に導かれるまま姿くらましをした。

 

 

 バシッと音を立ててやってきた先はどこかの公園だった。周りに人はおらず、遊具も錆びており、どことなく重苦しい雰囲気があった。スネイプの姿が見当たらないので、とりあえず公園を出ると、少し先の街灯の下でスネイプが待っていた。僕はなるべく自然に、なるべく早く歩いてそちらに近づいた。

 

「よく来た。飲み込みが早くて助かる」

 

 スネイプが表情1つ変えず、いつものように冷淡に言った。だが、どこか声に棘がない気もした。

 

「僕のこと呼びました?てか、このライターって一体なんなんですか?」

 

 僕は自分の声の柔らかさに自分で驚いた。去年までなら今よりもずっと低い声で話しかけていたのに。

 

「答えてやりたいが、今はそんな時間はない。魔法省はじきに陥落する。そうすれば今開かれている結婚式も襲われることになるだろう。そうなる前にポッターと場を離れるのだ」

 

 スネイプは駆け足で言った。彼の焦りをひしひしと感じた。

 

「わかりました。でも帰る前に1つだけ聞かせてください。ダンブルドア先生から僕のことはなんて聞いたんですか?」

 

 この質問は、僕の力を知ってるかどうかという意図で聞いた。スネイプと協力してハリーを助けるという指令を達成するためには、お互いの指令が一致しているかどうかと、僕のことを信用できているかを確かめる必要があると思ったからだ。

 

「信用できるやつだ、と。適宜君に情報を与え、共に陰ながらポッターを支えろと。だがお前も気をつけるんだな。今は誰が敵で誰が味方か分からん。我輩のことも簡単に信用すべきでない。そのうちちゃんと話す時間をこちらから設ける。早く行け」

 

 スネイプに急かされ、僕はすぐに結婚式場まで戻った。

 

 が、その瞬間に襲撃が開始された。

 周りの人たちは次々姿くらましをしている。騎士団メンバーは抵抗してるみたいだ。僕はどこかで自分を呼ぶ声が聞こえた。ハーマイオニーの声だ。すぐさま彼女を発見するとそちらに駆け出した。

 

 そして僕たちはそこから姿をくらまし、分霊箱破壊の旅を開始した。

 

 

 

 

 

 

 結婚式襲撃騒動から3日が経過した。みんなは無事だという知らせが何よりだった。今はグリモールドプレイス12番地、つまりブラック家の邸宅で、現在はハリーの所有物となってる家を隠れ家としていた。

 

 その早朝、僕は灯消しライターが熱くなるのを感じて目を覚ました。ライターからスネイプの声が聞こえる。起きろとか何とか言ってるな。寝起きで僕の機嫌もよくはないが、やむをえずカチリとスイッチを押し、出てきた光の玉に導かれるままに姿くらましをした。

 

 今度は海辺の砂浜に姿現しをしていた。スネイプが流木に腰掛けていた。今気づいたが、僕は裸足なままきてしまっていた。もしも森とかだったら危なかった。僕はザッザッと砂を踏みしめながら彼に近づいた。流石に隣に座る勇気はなかったので、すぐそばで立ち尽くしていた。

 

「おはようございます、先生。どうしたんですか?」

 

「これを逃すとしばらく会うことは難しいと踏んだので、呼び出させてもらった。なにせ、じきに学校が始まるのでな」

 

 スネイプは相変わらず不機嫌だった。その顔は日が昇る海辺に全くふさわしくなくて、少しおかしかった。

 

「校長が貴様に向けていた信頼は本物だった。闇の帝王を倒すために、ロナルド・ウィーズリーと協力しろというのが、我輩に残した言葉だった。だが、校長が貴様を信頼していようと、我輩が貴様を信頼することはできない。貴様は一体何を隠している」

 

 スネイプの声はどこか怒りに満ちているように、力強かった。それに対して僕は誠実であるべきだと思った。他の誰かなら、こうは思わなかっただろうが。

 彼の過去について触れたことが、ここにきて活きてきたようだ。いや、これもダンブルドアの策なのだろう。

 

「信じられないかもしれませんが、僕は人の死をみることで過去に戻れる力を持ってるんです。僕はそれで何度もやり直してきた。ダンブルドアが、彼の計画に僕を組み込んだのは、この力を使ってほしいところと使ってほしくないところを明確に僕に伝えたかったからです」

 

 スネイプの表情はあまり変わらなかった。結構衝撃的なことを話したつもりだったのだが。おそらく、僕が何らかの力を持っていることは聞いていたのだろう。

 

「校長には、どうやって信じさせた?」

 

「過去にさかのぼったことで得られた情報を伝えたり、この力の副作用を見たりしたら、ダンブルドアは信じてくれました。でも、今あなたにこの力を信用してもらうための材料を僕はもってないんです。すみません」

 

 スネイプは少し黙った。動揺しているのか、それとも何か考えているのか。僕には判断できなかった。

 

「先ほど、その力を使ってほしいところと使ってほしくないところ、といったな。使ってほしくないところというのは、ポッターの死の場面のことか?それとも、他の誰かか?」

 

「ハリーです。ハリーがあの人に殺される場面を見てしまうと、あの人を倒すことはできなくなってしまうそうなので」

 

「貴様は、それでいいのか。ポッターの親友なのだろう?奴が殺されなければならない運命と知ってなお、君はなぜ校長を信じられる。なぜ、時を戻さないと言えようか」

 

スネイプは明らかに狼狽していた。声がすこし震えていた。それは、冷たい海風の影響では無いと思った。

 

 確かに、生き返る可能性が高いとわかっていても、ハリーが殺されるのは抵抗がある。抵抗しかない。その場面にほんとに遭遇したら時を戻してしまうかもしれない。ダンブルドアの目的は別にあるのかもしれない。だが、彼はなにかを告げないことはあっても、嘘をついたことはなかった。その点に関してのみ、僕はダンブルドアを信じていた。

 

「それが、例のあの人を倒すのに必要だからです」

 

 スネイプはそれを聞くと首をだらりと下げた。急に力を失ったかのようだ。やがて、その重苦しい口をひらいた。

 

「君の、覚悟はわかった。私も、君を信じるとしよう。協力しよう」

 

 スネイプはそう言うと、意を決したかのように立ち上がり、僕の方を向いた。

 

「貴様らは今何処に潜んでいる?グリモールドプレイスか?」

 

「そうです。死喰い人の中であそこを知ってるのはスネイプ先生だけなので、問題ないと思いまして」

 

「死喰い人を君たちが自ら招き入れなければ問題は無いだろう。だが、あれをポッターが相続しているというのを魔法省は知っている。近い内に見張りが入るだろう。しかし、あそこが不死鳥の騎士団の本部だったことも、我輩が守人の1人であるということも彼らは知らない。安心していい」

 

 その言葉に少しホッとした。あそこはやはり安心できる隠れ家だ。そういうものが一つあるだけで、モチベーションもあがるというものだ。

 

「そして、もう一つ。決して闇の帝王の名を言ってはいけない。帝王は自分の名前に言霊の呪いをかけた。その名をいうことで、言ったものの周りの保護呪文は破れ、居場所が感知されてしまう。すぐさま人さらいや死喰い人が駆け付けるだろう。すでに何人もそれで捕まっている。ポッターは馬鹿だ。すぐに闇の帝王の名を言ってしまうだろう。それをなんとしてでも止めるんだ。いいな」

 

「わかりました。あ、先生。僕も聞きたいことがあるんですけど」

 

「何だ?」

 

「灯消しライターってなんなんですか?先生がいつも使うこの連絡手段も、灯消しライターの正式な使い方のひとつなんですか?」

 

 僕はここしばらく考えていたことをスネイプに聞いた。灯りを消すことと、この呼出機能、自分の中でどうも結びつかないので気になっていたのだ。

 

「灯消しライターは、正確には、人と場所を記憶し、そこに移動するのを補助するアイテムだ。

スイッチを押すことで、その場や、そこにいる人物を記憶することができる。人の記憶の場合、記憶された人が今の持ち主のことを強く念じ、持ち主がそれを受け入れることでそのものがいる辺りに姿くらましする手助けをしてくれる。そして場所の記憶の場合は、ライターが取り込んでいる限り、その場所に姿くらましをするのを手助けをしてくれる。たとえ地球の裏側だったとしてもな。

記憶をする際に何故かライターは灯りも一緒に取り込んでしまうそうだ。その近くでもう一度押すことで記憶の保持を解除することができ、灯りも元に戻るというわけだ。ダンブルドアが貴様にそれを持たしたのは、我輩との連絡手段のためだろう」

 

 なるほど。そんな機能だったのか。

 つまり、スネイプはあらかじめこのライターにスネイプの存在を記憶させていたのだろう。だからこうして連絡も取れ、彼のいる場所に来ることが出来たと。

 灯りを消すことなんて、ほんとに副次的な効果でしか無いんだな。正直名前も悪いと思うが、おそらく真の機能を悟られないためのミスリードなのだろう。

 

「逆に言えば、こちらからスネイプ先生に連絡を取ることは出来ないんですね?」

 

「そうなるな。だが、そちらの緊急時ともなれば、死喰い人側にいても情報は回ってくるだろう。ポッターの緊急時とは、翻って我ら死喰い人にとっては嬉しいお知らせのはずだからな。すまないが、そろそろ時間も終わりだ。戻り給え」

 

 そう言うと、スネイプは姿くらましをしてしまった。

 

 

太陽はすっかり姿を現していた。

 

 

 

 

 

 グリモールドプレイスに帰れなくなり、野宿の生活が続くようになり、どれくらい経っただろうか。

 

 確かに、分霊箱の1つであるスリザリンのロケットを手に入れることは出来たが、壊せないんじゃ何の意味もない。次の分霊箱についても、今はハリーの夢だけが大きなヒントだ。彼と例のあの人の魂が繋がっているとわかってから、僕はそれを大いに頼るようになっていった。だが、結果は芳しくなかった。

 

 ハリーもやたら例のあの人の名前を言おうとするし、ほんとうにうんざりだ。僕がそれを止めなかったらとっくに彼らに捕まっているという事実を噛み締めてほしい。

 

 これらのせいで僕の心は荒れに荒れていた。

 

 その根本的原因はスリザリンのロケットだ。ダンブルドアが言っていたように、僕の魔法耐性はかなり下がっている。そのせいでロケットが持つ、人の悪感情を引き出す効果を他の人より多く受けてしまうのだ。僕は、身につけていなくとも、それがそばにあるだけでイライラするようになってしまっていた。

 

 そんなときだ。久しぶりに灯消しライターが熱くなった。スネイプの声が聞こえる。

 

『2、3日、君を借りたい。明日の16時から17時の間に来てくれ』

 

 そう言っていた。ライターをカチリと鳴らすと緑色の光が出てきて、僕の胸に入った。

 でも、僕はすぐには姿くらましをしなかった。スネイプは明日の16時から17時と言っていた。今じゃない。果たして胸に入った灯りの効果は何日も持つものなのかわからないが、きっと大丈夫だろう。

 

 問題はどうやって2、3日も抜けるかだ。正直イライラしすぎてあまりろくな考えができない。いっそ喧嘩別れみたいに、言いたいことを全部言って勝手に離脱したほうがスッキリするんじゃないか。でも、ハーマイオニーとハリーが2人きりで旅をするのもなんか癪だな。素直に数日ちょっと1人になりたいって言おう。頭を冷やしてくるって。

 

 そうしよう!

 

 

 

 

 

 

 ダメでした。

 

 普通に喧嘩別れになってしまった。むしゃくしゃしてしまった。でも姿くらましをしてあのテントから離れた途端、心がスッキリした。やっぱロケットを着けてなくとも、影響を受けていたんだな。

 

「来たか」

 

 後悔の念に苛まれていると、横からスネイプの声が聞こえた。振り向くと、以前会ったときより少しやつれた姿で立っていた。右手に持っているのは、組分け帽子?

 

「分霊箱探しはどうだ?ロケットは手に入れたのだろう。他のものは何か目星はついたか?」

 

 答えづらい。今しがた喧嘩別れをしてきた組織の状況を言うのはなんともはばかられる。

 

「順調とは、言えません。スリザリンのロケットを手に入れて以降、探すのも壊すのも行き詰まった感じはあります。それにロケットは人をイライラさせる力もあって、僕もそのせいで、喧嘩別れみたいな感じでここにきてしまいました」

 

 スネイプはその話を呆れたように聞いていた。

 

「なんとも愚かな。やはり君たちには荷が重い仕事であるようだ」

 

 馬鹿にしたようなその言葉に僕は言い返すことが出来なかった。何より足を引っ張っていたのが自分だという自覚があったからだ。

 

「そんな貴様には、もう少し楽な仕事を用意してやろう。これだ」

 

 そう言って手に持っていた組分け帽子を僕に差し出した。

 

「これ、組分け帽子ですよね?これで何をすれば」

 

「簡単なことだ。この帽子からグリフィンドールの剣を取り出してポッターに授けろ。ここに来る前に私がこの中に剣を入れた。中に入っているのは確実だ。だが、普通に渡してはいけない。真の勇気をこの剣に見せねば、この剣を使うことは出来ない」

 

「なんでそんな回りくどいことを。普通に剣を渡せばいじゃないですか。ハリーは一回使ってるんですし、普通にしてても使えるでしょ。それか帽子をそのまま渡すとか」

 

 僕は思っていたことをそのまま口に出した。スネイプはまた呆れた顔になっていた。

 

「我輩はグリフィンドール生ではないので、一度帽子にしまったこの剣を取り出すことが出来ないのだ。だからといって組分け帽子をポッターに渡すのは不自然であろう。それに帽子がないことを学校にいる死喰い人の誰かが不審に思う可能性もある。帽子ごと渡すわけにはいかない。なのでお前は今すぐ、帽子から剣を引き抜き、それをポッターに自然にかつ、勇気を出す方法で授けるのだ。ポッターが剣を使ったのはだいぶ前で、かつ、状況も異なる。もう一度、剣に勇気を見せる方が確実だろう」

 

 スネイプの言ってることは分かる。分かるのだが、その作戦には重大な欠陥がある。

 

「僕に、剣を引き抜くなんて無理ですよ。真の勇気なんて示せません」

 

 消え入りそうな声で僕は言った。そう、僕が剣を引き抜けることが前提となっている。でも、自分にそこまでの勇気があるとは思えない。過去の世界で、みんなが死喰い人に立ち向かう中、僕は何も出来なかった。それに、今だって、ぼくは分霊箱探しから逃げてきたんだ。

 

「貴様はやはり愚かだな。勇気など、とうの昔から示しているだろう。貴様は何度世界をやり直した?友の死や家族の死を何度乗り越えてきた?そして、その死に何度立ち向かってきた?そのようなこと、普通の人間にできるわけがないだろう。並の人間なら繰り返すのが嫌になって逃げてしまう。死から目を逸らしてしまう。繰り返した世界を有効に使い、ガリオンくじを大当したりなんてするかもしれない。だが貴様はしなかった。ただ、()()()()()()()()()()。そんな馬鹿な真似ができるものに、真の勇気がないなど、そんなわけがないだろう。そんな力を持ちながら決して誇示せず、ただひたすら誰かのために戦ってきた貴様に真の勇気がないなど、そんなわけがないだろう。あとは自信の問題だ。時間がない。さっさとしろ」

 

 僕がその言葉に目をむいて驚いていると、スネイプは帽子を僕の手に無理やり握らせた。

 

 もしかして僕は今励まされていたのだろうか。

 この人は、こういう一面をもっとちゃんと出していけばいいのにと思いながら、僕は笑った。

 

「馬鹿は先生の方ですよ」

 

 そういって僕は帽子に手を突っ込み、ルビーで装飾された、銀色の剣を取り出した。

 

 そしてスネイプは、一つの呪文を唱えた。死喰い人が使えないはずのあの呪文を。

 

 

 

 

 

 剣を引き抜いた僕はすぐに先程の場所に戻った。そして、剣をハリーに渡すための仕掛けをした。だが、仕掛けをしているうちに、彼らはどこかに消えてしまったのだ。

 

 仕方がなく、しばらくは放浪の旅をしていた。いずれ、もしかしたら灯消しライターを通じて、ハリーやハーマイオニーから連絡が入るかもしれない。スネイプによると、通信を意図していなくても、灯消しライターが反応することはあるということだった。

 

 幾週間経った頃だった。灯消しライターが熱くなったのだ。またスネイプに呼び出されたのかと思ったが、声を聴く限り違うようだ。ハーマイオニーの声だった。ライターから出てきた青い光の玉が僕の胸に入っていった。おそらくこれが導く先にハーマイオニーがいるのだろう。僕は自分のリュックと剣と、そしてそばにいた()鹿()()()()()に触れながら姿くらましをした。

 

 姿現しをした場所は森だった。今は冬なので、かなり冷え込んだ。僕はとりあえず歩こうと思った瞬間、牝鹿の守護霊が駆け出した。

 

「ちょっとまってよ!」

 

 僕は山道を必死に駆けた。足場が悪く少し離されてしまったが、向こうは淡く光っているので、なんとか追うことが出来た。

 

 牝鹿は凍った小さな湖の上で僕を待っていた。ここに仕掛けろということなのだろうか。僕はその湖の氷を呪文で一部を破壊し、その底に剣を沈めた。そして氷で再び覆い、近くの茂みに隠れた。牝鹿はハリーを迎えに行った。

 

 僕とスネイプの作戦はこうだ。グリフィンドールの剣を取る以前に、まず剣の存在に気づいてもらわないといけない。そこで、スネイプに守護霊を出し、それにハリーを案内させるのだ。スネイプの守護霊は牝鹿で母親と同じなので、その守護霊にほいほいついてくるだろうと予想したのだ。そして、導かれるままに剣をとってもらおうというものだ。

 

 結果は成功に終わり、僕も再びハリーとハーマイオニーの旅に加わった。

 

 

 

 

 

 

 僕たちはマルフォイの館を必死こいて脱出した。ドビーの助けがなかったら、流石に不可能だっただろう。あいつら、よくもハーマイオニーにひどいことを!

 

 脱出できた安心感と死喰い人たちに対する恨みで心の中がごっちゃになっていた。

 

「ドビー!」

 

 ハリーが叫んだ。そちらをみるとドビーが胸から血を流していた。僕はそれを見て胸がキュッとしまったように感じた。姿くらましをする直前にダメージを食らったのだろうか。力の入らない足に活を入れ、そちらに近づいた。

 

『力をコントロールできるようになるのじゃ』

 

 ダンブルドアに言われた言葉が頭の中に反響していた。僕にドビーを治すのは無理だし、ハーマイオニーは錯乱してしまっている。

 こうなったら、ドビーの死を見届けるしか無い。そうして、過去に戻り、ドビーの死をなかったことにするのだ。

 戻る場所は、できれば少し前に。ロケットを手に入れるために魔法省に侵入する前辺りに戻ってくれ。

 

 僕はドビーをじっと見据えた。

 

「ハリー……ポッター……」

 

 ドビーはそう言って小さく震えると、それきり動かなくなってしまった。足を濡らす海水の感触だけが静かに僕の脳に伝わってきた。

 

 変化は、ない。

 ただ、一つの命が失われただけだ。

 

 薄々気づいていた。僕の力は人の死限定だということに。1年生のときにあの屋敷しもべ妖精が死ぬのを僕は見ていた。でもそれで戻ることはなかった。3年のときにスキャバーズの死で戻れたのは、あれが動物もどきの人間だったからだ。

 

 僕はただ、仲間の死を見守った。人生で初めて、大切な仲間が死んでいく瞬間を、この眼に焼き付けた。波の音はこんなにも鬱陶しいものだったのかと、的はずれなことを僕は思った。

 

 

 

 

 

 

 僕達は今ホグワーツに来ていた。正確には、秘密の部屋の入り口のある3階の女子トイレまで来ていた。

 

 ホグワーツでの最終決戦は既に開始されている。今もあちこちから悲鳴や物が壊れる音が聞こえる。僕たちは必死にそれらを聞こえないふりをしていた。でなければ、今すぐにでも、そちらに向かってしまうから。

 

「失われた髪飾りを探す前に、分霊箱を破壊する手段を持っておかないと!分霊箱にどんな呪いがかかってるかわからない以上、長く持ち続けるのは危険だ」

 

 ハリーのその提案に賛同する形で、僕達はここまで来たのだった。入り口を開けるために、ハリーが蛇語を唱えると、入り口が姿を現した。

 相変わらず不思議だが、なんでわざわざ女子トイレを入り口に設定したのだろうか。サラザール・スリザリンは変態だったのだろうか。

 

 入り口であるパイプに飛び込もうとした瞬間、ハリーが呻きながら地に伏した。必死に頭を抑えている。傷が痛むのだろうか。

 

「ハリー!大丈夫!?ハリー!」

 

 ハーマイオニーが必死に声をかける。ハリーはなんとか振り絞って声を出した。

 

「逃げろ……。あいつに場所がバレた……」

 

 言った瞬間、バチンと音がした。音の方を向くと、例のあの人がこちらをにらみつけ、立っていた。睨んではいるものの、その態度は余裕に満ちていた。おそらく勝利を確信しているのだろう。

 

「秘密の部屋か、久しいな。俺様の学生生活を彩った場所の1つだ。そして、ハリー・ポッター。この場所で貴様と対峙することに、俺様は少しばかり感動している。サラザール・スリザリンの正統な末裔である俺様は、その遺産の前に貴様を殺すことができるのだ」

 

「ロン!ハリーを!」

 

 ハーマイオニーの言葉とともに、あたりは暗闇に包まれた。インスタント煙幕を使ったのだろうか。僕はハリーの手を掴み、一目散に出口に向かった。ハーマイオニーが横で呪文を唱え、例のあの人に追撃している。だが、出口を出たところで、あの人は待ち構えていた。まるでずっとそこにいたかのように。

 

「そんな子供だましで俺様から逃げれると思ったのか。愚かな穢れた血だ。やはり、ハリーとは一対一で戦わなければ、意味をなさないな。お前たちは邪魔だ」

 

 

 例のあの人はそう言うと、死の呪文を唱えた。

 

 

 





正史との相違点
・バジリスクの牙を取りに行くことを提案したのが、ロンではなくハリー
・3人で秘密の部屋に向かう
・髪飾りを見つけていない
・ハリーが蛇語を話す

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