【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:おこめ大統領

23 / 24
この章は当小説の最終回となっております。
最終回ですが、2話目3話目として読んでも楽しめるようには作っているつもりです。
そういった楽しみ方をしたい方のみ先読みをすることをオススメします。


23. 最終回

 戦争は終わった。

 

 ヴォルデモートはハリーに破れた。死喰い人も有力な者たちは亡くなり、残党は散り散りになっていった。だが、喜ぶには、あまりにも失ったものが多かった。

 

 ハリーたちと校長室に向かう途中に、ハリーは憂いの篩でみたスネイプの過去と、森であった出来事を話してくれた。スネイプの過去について具体的なことを知らなかった僕はかなり驚いた。

 

 スネイプの話をしている時のハリーは、シリウスが死んだときと同じ顔をしていた。喪失感にかられ、自分を責めている、そんな顔だ。

 

 僕はそんなハリーの顔を見ることが苦痛でしかなかった。

 スネイプは僕が殺したんだ。君は何も悪くないんだ。だから自分自身を責めないでくれ。

 

 でも、僕はそのことをハリーに言うことはできない。

 

 

 

 僕は責められることさえできないのだ。

 

 

 

 校長室でハリーはダンブルドアの絵画と数言話すと、ニワトコの杖で自分の杖を直し、それをダンブルドアの墓に戻すと誓った。

 

 ダンブルドアはその会話中、チラチラと僕を見てきたが、僕が絵を燃やすとでも思っているのだろうか。残念ながら、僕にそんな元気はない。校長室から出る直前に、フォークスが窓の外から帰ってきた。フォークスは僕を見て、怒り狂ったような啼き声をあげたので、そそくさと校長室を後にした。

 

 その後、ハリーがダンブルドアの墓に向かったが、僕は1人で別行動をとった。

 

 別に、どこかに目的地があったわけではない。ただ、1人になりたかったのだ。結局僕もスネイプも、ダンブルドアに利用され続けたんだ。確かに彼の言うことは正しかった。大局で見れば大成功だ。でもその正しさは、僕にとっては重荷でしかなかった。

 

「これから、どうしよっかな」

 

 僕の心は喪失感に満たされていた。つまり、何もない。

 

 今まで大なり小なり目的があって生きていた。それはタイムリープの力によるところが大きいが。ともかく、巨大な敵もいなくなり、僕は何をしていいのかわからなくなってしまった。

 

 力の封印について、より詳しく調べようか。他にも方法があるかもしれない。そう思ったときだった。

 

「好きなことをやりなさい。今はまだなくてもいい。無いなら探せばいいのだから。君ならきっと、いい未来を見つけることができる」

 

 僕の目の前にいつの間にか立っていた老人が優しい声でそう言った。薄くなった赤髪とやせ細った体、少し曲がった腰の男性だ。顔つきだけで言ったら、パパの10年後を見ているようだ。

 

「えっと、どちら様でしょうか?」

 

「私は未来から来た君だ。逆転時計でここまで戻ってきたのさ」

 

 そういって彼は灯消しライターを手元でくるくると回し、カチリとスイッチを押した。すると、近くにあったランプの灯りが消えた。僕はその光景を訝しみながら見ていた。そして自分のポケットからも灯消しライターを取り出して言った。

 

「……世界に1つしか無いこれを持ってることで、あなたが未来から来た人だということは一旦信じます。でも、だからといって僕だっていう証拠はないでしょう?」

 

「そうだね。君が最初にタイムリープをしたのはチャーリーの死の時で、場所は父親の倉庫だったことも、君が3年生を丸3回も過ごしたことも、6年の時にフェリックスフェリシスを私利私欲に使ったことも知っているけど、僕は君だとは証明は出来ないな。こうなったら、君の恥ずかしい秘密を大声で暴露するしか無いな。例えばベッドの……」

 

「わー!わかったから!信じる信じる!君は僕だよ!」

 

 僕は彼の発言を遮った。僕しか知らない、失った歴史を話している時点で、少なくとも僕の関係者だってことはわかった。僕のベッドに秘密なんて無いけど、確かにないけれど、大声で暴露されるのは流石にたまったもんじゃない。

 

「ふふっ。ほんとに、私のときと同じ反応だ。面白いな」

 

 老人の僕は笑い声をこぼした。

 

「それで一体、未来の僕がなんのようなの?」

 

 僕は当然の疑問を聞いた。いましたが笑われたことに少し不快感もあり、やや低めの声となってしまった。

 

「君の魂を直しにきたんだ。だいぶすり減ったその魂では、今後生きるのに大きな支障が出てしまう。そこで私の出番というわけだ」

 

 その発言に僕は眉間にしわを寄せた。

 

 魂を直す?そんなことができるのか。

 

「なんでそれをわざわざ僕自身がやるのさ」

 

「自分じゃないと出来ないからさ。それに私も未来の自分にそうしてもらった。今度は私がやる番だ」

 

 そういった老人の顔には覚悟が宿っているようだった。先程までと纏ってる雰囲気が変わったような気がして、少し気圧された。

 

「でも、直すって言ったって、どうやってさ」

 

「私の魂を君に渡すのさ。全く同じ魂だから、それは完全に融合される。そうすれば君が今まで失ってきた魂分くらいは補うことができる」

 

「そんなことをして、大丈夫なんですか?」

 

「当然私は死んでしまう。だが、私はこの先長くない。今の若い君に生きてほしいのさ。私の人生、つまり君の人生だが、この先本当に面白い出来事がいっぱいあるし、面白い魔法もいっぱい待ち受けている。それになんと言っても自分の子どもや孫さ。あんなに可愛いものはない!僕が君の魂と融合しなければ、そんな思い出も作れないと思うと、どうももったいなくてね。さっき言った通り、僕が君の年のときにも、未来から僕が来て魂をくれた。きっとこれは永久に続く運命なんだ」

 

 僕はその話をどう聞いたらいいか、全くわからなかった。

 自分に待ち受ける楽しい未来は、目の前の人間の死の上に成り立っている。しかも、その人は未来の自分だという。そう思うと、喜んでいいのか悲しんでいいのか、受け入れるべきなのか突き放すべきなのか、わからなくなってしまった。

 

「これは君のためにするんじゃない。自分のためにするんだ。まあこの場合、それらは同じ意味だが。君は気負う必要なんて無い。自分を助けることに理由なんていらないからね」

 

 そう言って彼は僕の方に杖を向けたが、僕はそれを腕を払うように遮った。やはり、いくら自分自身とはいえ、誰かの命を犠牲にはできない。

 

「でも、僕はそんなの受ける資格なんてない。もっとうまくやれると思ってた!もっと多くの命を救えると思ってた!僕はもっと、強いと思ってた…。でも結局、何も出来なかったし、昔と何も変わらなかった。肝心なところは他力本願、誰かに踊らされて、自分でろくに考えることも出来なかった。もしも、この力を僕じゃない人が持っていたら、きっともっとうまくいってた。英雄になってた。でも僕には、出来なかった。僕は、みんなに顔向けできないよ……」

 

 僕は素直な心情を吐露した。話していくうちに、自分のことがどんどん惨めに思えてきた。こういう力を持ってたら、普通は成長するもんだ。でも僕は最初っから最後まで、これに振り回されていた。誰の力にもなれなかった。

 老人はそんな僕に杖を向けたまま話をした。

 

「自分で言うのはなんだけど、君はよくやったよ。私の言葉が受け入れられないなら、スネイプ先生の言葉を思い出して。彼が君に剣を渡したときの言葉だ。『貴様は今まで誰かを救うために生きてきた。そんな馬鹿な真似ができるものに、真の勇気がないわけがない。そんな力を持ちながら決して誇示せず、ただひたすら誰かのために戦ってきた貴様に真の勇気がないわけがない』。そう言っていただろ?」

 

 少し間を置いて彼は続けた。僕は思わず俯いてしまった。

 

「君は彼のこの言葉をあまり信じていないだろう?剣を抜かせるために言った虚言だと思っているだろう?だが、それは逆だ。彼は剣を抜かせることを口実に君を激励したんだよ。なぜなら、彼はあの状況で帽子に剣を戻す意味がないからね。そしてそれは見事成功した。君は帽子の前で真の勇気を実践したわけでもないのに、君は剣を引き抜けた。それは君の心が真の勇気に満ちていたから出来たことだ。自分が英雄じゃないなんて卑下することは無い。君は、誰も知らない英雄なんだ。そのことは()がよく知っているよ」

 

 その言葉を聞き、僕は下を向いていた顔を上げた。しかし、彼の姿は消えており、服だけがその場に残された。体の中に、何か温かいものが満ちていく感覚があった。彼が魂を僕のものと同化させたのだろう。

 

 僕はしばらく立ち尽くしていた。彼がいった言葉は、僕がずっと欲していた言葉なのかもしれない。そして、彼は僕を認めてくれた。僕は自分自身を認めることができたんだ。

 

 そして、彼の言葉を聞いて、いつかの世界でネビルが言っていた言葉を思い出した。

 

『君は死んでしまった仲間の分を生きなきゃいけないんだ!君を守って死んでいった人の分も生を楽しまなきゃいけないんだ!彼らに、つまらない人間を守って死んだやつ、なんて肩書きを与えちゃいけない!過去を背負って、未来を生きるんだ!』

 

 僕は頭をくしゃくしゃとかき、ほっぺを両手でばちんと叩いた。そして前を向いた。

 

 

 

 これからはやりたいことを探そう。ホグワーツに戻って勉強し直すのもありだな。それに闇払いになって、逃げてる死喰い人達を捕まえるのもいい気がしてきた。それにジョージと一緒にいたずら店の手伝いをするのも楽しそう。

 

 それに、ハーマイオニーと結婚するのもいいかもしれない。子供の名前はやっぱりローズかな。女の子っぽい名前だけど、男の子につけても、それはそれでいいかも知らない。

 

 今まで過去にしか向いていなかった目が、初めて未来を見た気がした。それを自覚した瞬間、心がスッと軽くなった。

 

 そして改めて、未来の自分の言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

      僕はなりたかったものに、なれていたんだ。

 

 

 

        これから僕は、未来を生きよう。

 

 

 

 

 

 




正史との相違点
・なし、のはず。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。