〇賢者の石を守る仕掛けその5とその6
映画では、賢者の石を守る罠は
フラッフィー(ハグリッド)、悪魔の罠(スプラウト)、鍵の箒(フリットウィック)、チェス(マクゴナガル)、みぞの鏡(ダンブルドア)ですが、小説ではこれに加えて
トロール(クィレル)、薬品を使った論理パズル(スネイプ)
が登場します。
小説ではトロールは既に戦闘不能になっており、論理パズルの方はハーマイオニーが一瞬で解きます。
僕はベッドから飛び起きた。
冷静に考えたら、なぜ自分がベッドに寝転がっていたかわからないが、今はそんなことは気にしている場合ではなかった。
ハリーが……
矢のようにベッドから飛び降り、窓へと駆け寄る。窓を開け、身を乗り出して下を見るもハリーは見当たらない。
「ハリー!!」
どうしよう。下まで降りて探さないと。先生の誰かにいうべきか。いやまずはマダム・ポンフリーか。
頭の中で様々な言葉が駆け回っているが思考がまとまらない。ともかく、何かしなければ。
そう思い、窓から乗り出した身を部屋に引っ込め、ドアに向かおうとしたところで、先程の呼びかけの返事が帰ってきた。
「なんだよ、ロン。朝っぱらから。昨日遅かったんだし、もう少し寝かせてくれ……」
ピキーンという擬音が似合うほど、僕の体はきれいに凍りついた。ハリーは寝返りをうって再度眠りにつこうとしている。だが、それを許すほど僕は冷静ではなかった。ハリーに駆け寄り、肩を掴み思いっきり前後に振る。
「いやいや、ハリー!なんでベッドにいるのさ!君は今しがた窓から落ちたじゃないか!」
「んん、そんなわけないだろ。夢と現実をごっちゃにするなよ」
夢?そんなバカな。いくらなんでも夢にしてはリアリティありすぎだった。
頭ではそう思っていても、そう指摘されて顔が熱くなるのを感じた。この歳になって、夢と現実を一緒くたにして騒いでいたと思われ、恥ずかしくなったのだ。
このやりとりにどこか既視感を感じながらも、恥ずかしさをごまかすかのようにハリーに話をふった。
「そ、そういえば、昨日は邪魔されず鏡は見れた?」
「何言ってるんだロン。昨日は誰かの気配を感じて2人で逃げてきたじゃないか。鏡をじっくり見る暇なんてなかったよ。」
ん?やっぱり違和感があるな。会話が噛み合っていないような感じがする。
昨日はハリーが一人で鏡を見に行ってたよな。おとといは2人だったけど。
夢とごっちゃになってるのはハリーの方じゃないのか?
まさか、もしや、と思い、再三眠ろうとしているハリーに問いただした。
「ねえ、今日って何日だっけ?」
「あー、えーと、27日、かな。もういい?寝かせてくれよ」
丸一日さかのぼってる!
ハリーはクリスマスの朝に透明マントをもらって、翌日僕と2人で鏡を見に行った。そして27日に夜通し鏡を見て28日が今日のはず。
僕は自分がタイムリープしていると結論づけた。安易かもしれないが、自分のかつての経験が夢ではなかったこと、再びタイムリープできたことで僕は大きくガッツポーズをとった。
そうとわかればやるべきことは一つ。ハリーの死を防ぐことだ。
ハリーのベッドからかすかな呼吸音が聞こえる。おそらく眠りについたのだろう。今起こして死なないように説得しても、寝起きで機嫌の悪いハリーはあまり聞いてくれないだろう。それよりいますべきことは、そもそも何が原因でハリーがあんな死に方をしてしまったのかを考えることだ。
ハリーはあの時、両親のいない世界にいる意味がない、みたいな感じのことを言っていた。死の原因は、あの鏡で優しい両親を見すぎたせいで現実がいやになったってので間違いないだろうな。
なら、僕はどうすべきなんだ。
鏡を隠すか?いや、あんなサイズの鏡を一人で動かすのは難しいし、そもそも鏡を隠したところでハリーは絶対死に物狂いで鏡を探しちゃうだろうな。
ハリーを「両親は死んでしまっているけど大丈夫だよ」みたいな感じで勇気づけるのはどうかな。いや、下手したら死が加速しそうだな。う~ん、どうしよう。
せっかくタイムリープで過去に来たからには、自分の力で乗り越えたい。
だが、その想いとは裏腹にあまりいい解決案が思い浮かばなかった。とりあえず鏡の部屋に向かおうと談話室を後にした。
「うわあ、改めて見ると結構大きいな。僕の魔法で動かせるかな。」
部屋に来るまでに何もいいアイデアの思い浮かばなかったが、とりあえず鏡を移動させハリーの目から遠ざけようと企んだ。
「案外見つからなくなったら諦めてくれるかもしれないし、やるだけ損はないだろう」
少し前にトロールの棍棒さえ浮かした浮遊術で鏡を浮かせ部屋を出る。するとそこで意外な人物と鉢合わせることになる。
「ミスターウィーズリー、教室の備品を勝手に動かすのは感心せんの」
「ダンブルドア先生!いや、あのこれは……」
驚きのあまり浮遊術を解除してしまったが、ダンブルドアがすかさず浮遊術をかけ大事には至らなかった。ダンブルドアは僕の目をしっかり見据えながらお茶目な感じに軽く話し出した。
「ふむ、君はコレに魅了されているようには見えんのう。となると、これを移動させるのはハリーのためかな」
「いえ、あの違うんです。ハリーは関係なくて…」
責められているような気になり、とっさにハリーをかばってしまったが、続く言葉はダンブルドアにかき消されてしまった。
「そう心配するでない。わしは君を責めたりせんよ。むしろ、友を守るためにした君の行いは立派じゃ。じゃが、もう少し大人を頼ってもよいとは思うのう。どれ、話してみなさい」
ダンブルドアはすべてを包み込むような優しい声で、すべてを見通しているようなことを言った。
こうなったら、ダンブルドアに任せてしまおうか。僕が下手なことをして失敗してしまったとき、もう一度この時間に戻ってこれるかどうかわからない。そうならないためにも確実にハリーを救える道を選ぶべきだ。
そう決意し、僕はダンブルドアに一つだけお願いをした。
「ハリーを助けてください」
ダンブルドアはニッコリと笑った。
「任せなさい。年寄りはこういうときにこそ真価を見せるものじゃ」
ダンブルドアと別れてすぐ、僕は談話室に戻ってきた。見回すとハリーだけがそこにいる。そもそもクリスマスで寮に残ってるメンツが少ないから当たり前なのだが、前学期にあれだけ人がいたので、その光景に少しだけ違和感があった。
当のハリーは、やはり心ここにあらずといった様に見える。ぼーっと、何も無いところをじっと見ていた。
結局鏡はあの部屋に置きっぱだ。ダンブルドアがなんとかしてくれるとのことだったけど、窓から落ちるハリーの姿がどうもフラッシュバックしてしまう。
胸の鼓動が早くなるのを感じた。呼吸も早くなっている。ハリーの死を、ここにきてリアルに感じてきてしまった。
僕は首を左右に振り、深呼吸をすることでそのイメージを頭から取っ払う。
せめて鏡以外のことに気を向けれないかと、爆発スナップの話を振ったり、ハグリッドの話を振ったりしたが、手応えは今ひとつない。鏡のことに対して否定的なことを言っても、やはり変わらない。
鏡に関してダンブルドアに任せた以上、僕はハリーを説得することくらいしかできない。夜にもしハリーが鏡の前にずっと居座り続けるようなら力づくでも引きはがせるようにしておかないと。
僕は夜に備えて、今のうちに寝ておくことにした。
翌朝、僕は眠たい目をこすり、自分のベッドの上にあぐらをかいて座っていた。
昨夜はハリーを尾行し、鏡の部屋まで行っていた。その部屋でダンブルドアとハリーがなにか話をすると、ハリーはマントをかぶり、談話室に戻っていった。
こちらから目視できないハリーに見つかっては駄目、という状況だったため、移動がとても慎重になってしまい、僕が談話室に着いた頃にはハリーはすっかり眠ってしまっていた。
そして今日は前回の世界でハリーが自殺した日だ。
僕は自分の目で耳でハリーの正気を確認しようと思い、寝ずに今日この瞬間を待っていた次第である。流石にうつらうつらとしてきたが、ぽんと誰かに肩を叩かれてハッと目が覚める。
「ロン、いくらなんでも座って寝ることはないんじゃないか?クリスマスから新年の間、魔法族は座ったまま寝るとかいう冗談じゃ、さすがの僕もだまされないぞ」
以前ハリーに「魔法界には、新年に目上の人に豆を投げつける風習がある」と大嘘を言ってからかったことがある。それを実践されたマグゴナガル先生の顔は最高に面白かったが、代償は大きかった。
頭が過去に行きかけてたので、僕は寝ぼけた頭をブンブン振り無理やり目を覚ます。
「やあ、ハリー。昨日も鏡のところに行ってたのかい?」
あえて直接的に聞くことで、ハリーの感情を揺さぶろうとした。もしまだ依存しているようなら、ごまかしたり、動揺が見えたりするだろうなと思っての行動である。
「うん。でも、ダンブルドアにもう来ないほうがいいって言われたよ。残念だけど、僕もそう思うよ。どのみちダンブルドアは鏡をどこか別の場所に移すみたいだし、これで両親とはしばらくのお別れだ」
ハリーは肩を落として残念そうにそう言ったが、その顔にあの時見た大きな負の感情は見てとれない。
そのことに安堵し、二三言会話した後、僕は夕食まで深い眠りについた。
6月。
吹き抜ける温かい風が肌をなで、鳥や動物たちの鳴き声が遠くで聞こえる季節。
僕はこの季節が好きだった。去年までは。
ホグワーツと6月の組み合わせといえば、すなわち期末試験であり、人生で初めて6月が嫌いになりかけていた。ひと月前から「あーあ、一生5月ならいいのに」といったダメ人間の鑑のようなセリフを多く世に残してきたが、流石にずっとそうとは言っておれず、嫌々ながら勉強に励んでいた。
そして
なぜならいま僕は、ビショップに乗り、いつ倒されるかもわからない危険な魔法使いのゲームをしているからである。
三頭犬、気持ち悪い植物、鍵の鳥と来て、お次はチェス。ほんとうに賢者の石がこの先にあるのか疑問だった。ここがダンブルドアの暇つぶし場とか言われたほうが信じられるような気がする。
「ナイトをfの6へ!」
ハーマイオニーの声が響く。すでにゲームが開始され2時間が経過しているが、未だチェックの一回もかけられていない。ふと見回すと、ハリーとハーマイオニーの顔にはさすがに焦りが見える。
そんな時気づいてしまった。
「ハーマイオニー!このまま行くと君がとられちゃうじゃないか!」
「ええ、わかっているわ!でもこうすれば、後3手で詰めるのよ!時間を結構使ってしまった以上しょうがないわ」
「そんな……」
相手の番になり、相手がクイーンを動かす。クイーンの振るった一撃がハーマイオニーの横腹に直撃し、盤外までふっとばされていった。僕は思わず目をつぶってしまうが、音が静まった頃、勇気を出して目を開け、その目で相手のキングの方をにらみつけた。
ハーマイオニーが退場した以上、僕かハリーが指揮を取るしかない。彼女の言葉をヒントに、頭の中で勝ち筋を探っていく。しばらくしてそれ見つけると、そのとおりに駒を進め、辛くも勝利を果たした。
僕は意外とチェスが得意かもしれない。
続く部屋にはトロールがいたが、気絶しているのか、動かなかったため、そそくさと素通りさせてもらう。
だが、その奥の部屋で問題が起きた。
部屋に入った途端、入ったドアと出口となるであろうドアが燃え上がった。目の前に机に何やら大小様々な小瓶と羊皮紙がおいてある。羊皮紙を手に取り、書いてある文章を読んだ。
おそらく論理パズルのようなものなのだろう。この羊皮紙にかかれているヒントを元に、先に進むために必要な薬がどれに入っているのかを当てるのか。
僕にわかったのはそこまでだ。肝心の答えは何もわからない。
「なにこれ!毒入り瓶がイラクサ酒の左で、大きいのも小さいのも毒じゃなくて……。いやわかんなすぎるよ!どういうこと」
焦りから思わず口に出してしまっていた。すがるようにハリーの方を見るも、眼をキョロキョロさせ他の出口を探しているみたいだった。おそらくハリーも僕と同じ気持ちなんだろう。
「せめて、毒がどれかだけでも分かっとかないと。くっそー、ハーマイオニーならすぐ解けるんだろうなぁ」
そうして悩んでいると、前の扉、つまり先に進む方の扉が開いて誰かが入ってきた。
それが誰かと認識する前に、僕の胸を大きな衝撃が襲った。おそらく魔法をかけられたのだろう。為す術もなく倒れてしまい机の下に滑り込んでしまった。なんとか意識は手放さずにいた。力を振り絞って顔を上げるが、机の天板が邪魔でこの角度からだと相手が誰だかわからなかった。
「あの御方が言ったとおり。やはり来ていたか、ハリーポッター」
「ロン!そんな……なんであなたが!」
「あの御方は貴様を捕らえることを望みだ。だがその前に少し遊んで貰おうかな。なにせ私は今とても機嫌がいいのでね。クルーシオ!」
ハリーの痛々しい悲鳴が部屋に響き渡る。痛みで体をよじっているからか、いたるところに何かがぶつかる音もする。
……相手の声どこかで聞いたことあるような。だが、声の主と僕の記憶にいるはずの誰かはうまく結びつかなかったようだ。
「ハッハッハ!苦しいだろう、ハリー・ポッター!だが助けはこんぞ!ダンブルドアは今頃魔法省にいるだろうからな。」
しばらくするとハリーの声がやんだ。ようやく呪文を止めたのだろう。彼がハリーにズカズカと近づいていく。それと一緒に僕も視線を動かすが、彼の後ろに誰かいることに気が付いた。
茶色の皮膚にみすぼらしい服、尖った耳。おそらく屋敷しもべ妖精だろう。屋敷しもべ妖精は背丈がそこまで高くないので、いまの体勢からでも見ることができた。
彼はハリーの手を掴み、屋敷しもべ妖精に向かって命令をしようとした。
「おい!屋敷しもべ!姿くらま……グワァァァ!」
苦しむ声が聞こえた。しかし、それはハリーのものではなく、彼のものだ。
「ご主人様、やつに触れません!手が……私の手が!」
すると高く、そして冷たい声が部屋に響いた。
「それなら殺せ、始末しろ」
その声は、今までの誰よりも殺意に満ちていた。そして、その場にいる誰のものでもなかった。
ハリーとその相手が取っ組み合いになる。声の主は未だに姿を現さない。
相手は呪文を唱えようとしているようだが、苦しみからかうまくできないようだ。しかし、パチンと何かが軽快に弾けるような音とともにハリーが吹きとんで入り口のドアを突き破った。屋敷しもべ妖精がなにか魔法を使ったのだ。
屋敷しもべが主のもとに駆け出した瞬間、ハリーが突き破ったドアからロープが飛び出して屋敷しもべ妖精をぐるぐるに縛った。ドアの方に目を向けるとダンブルドアがハリーを抱えて入ってきた。
屋敷しもべ妖精が身を捩って抜け出そうとするが、それがかなわないとわかると魔法で自分の体に火をつけた。そうしてロープを燃やし尽くすと叫びながらダンブルドアめがけて特攻していった。
その声は怨霊が取り憑いているかのように低く、とても見た目から想像できないほどに重かった。
ダンブルドアは水を出したり、守りの呪文を使ってそれを防ごうとするが、それらの呪文は屋敷しもべ妖精の纏う炎に対して大きな効果を発揮はしなかった。しかし炎自体は徐々に小さくなっていっている。
そうしているうちに、今まで視界の外で苦しんでいた彼が、ダンブルドアの横をすり抜け逃走を図る。ドアを抜けた彼に対し追撃しようとしたところで、前の部屋のトロールが妨害してくる。タイミングよく目を覚ましたようだ。ダンブルドアはトロールを一瞬で昏倒させたが、そのすきに屋敷しもべ妖精が彼のローブに引っ付いた。
しかし、その瞬間炎は消えてしまった。いや、屋敷しもべ妖精も消えている。おそらく燃え尽きたのだろう。
「ハリー!目を覚ますんじゃ!まだ死んではならん!」
ダンブルドアは逃げた彼を追わず、腕の中のハリーに対して声をかけ続けた。しかし、ハリーは返事をしない。目を覚まさない。動かない。
僕は自分の意識が薄れていくのを感じながら、目を閉じて念じ続けた。
戻れ!戻れ!戻れ!頼む!戻ってくれ!!
やがて、僕は意識を手放した。
原作との相違点
・ハリーが鏡に依存しかけている時に、ロンがチェスの話をしない
・チェスを指揮してるのがハーマイオニーで、試合時間も長い
・ロンとハリーで薬の間にいく
・敵さん、賢者の石を自力で攻略
・敵さん、屋敷しもべを連れてる