【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:おこめ大統領

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ロン・ウィーズリーと秘密の部屋
5. 悪意の無い攻撃


 初年度を終え家に帰ってきた頃の僕は、入学前と比べ大人びていたかもしれない。

 一つ一つの言動に注意を払い、以前に比べ慎重に行動するようになっていたからだ。

 

ホグワーツ一年次の()()()()、僕はずっと気を張っていた。ちょっとした行動の選択ミスにより友人が死ぬ学生生活を送っていたんだ。当然思慮深くもなるだろう。それに僕は己の無力さに嘆いたこともあり、人の目から見たらどことなく殊勝に映っていたかもしれない。

 

 しかし、それもつかの間だった。ゆるい日常を家で過ごしてるうちにすっかり元に戻ってしまった。時間の経過とともに悪い記憶は美化されていったので、僕の手元には「やばいときには過去に戻れる都合のいい力」だけが残った。そんな力があれば、日頃の思慮なんて不要だろう。

 

 両親は思慮ある僕の消失を大いに悲しんでいた。

 

 

 そして、思慮深い僕と選手交代をしたのは調子にのっている僕だった。

 

「フレッド、ジョージ!ハリーを迎えに行こうよ!」

 

 僕は双子を自分の部屋に呼び出して力強く提案した。

 

「迎えに行くったってよ、ロン。一体どうやるのさ。ハリーの家はマグルのだろ。煙突飛行で行きようもないし、姿現しも僕たちはまだできないし」

 

「手紙の返事がないのは、もしかしたら俺たちに会いたくないだけかもしれないよ。迎えに行くのはむしろ迷惑になりかねないってパパも言ってたろ。金曜になっても連絡が来なかったら直接行ってみるとも」

 

 突然の提案に兄2人は困惑しているようだった。

 あれ、思っていた反応と違うな。いつもなら賛同してくれそうなものなのに。

 多分別件でママにこってり怒られたんだろうな。

 

「ハリーは今まであの家の人たちに酷い仕打ちにあってきたんだ!早く僕たちの家に来たいって言ってたし、手紙の返事さえしないのは明らかに不自然だ。もしかしたら監禁されてるのかも……」

 

 僕は少し怒鳴るように言った。ハリーが心配で仕方がなかったのだ。去年にハリーからダーズリー家から受けてきた仕打ちを聞いた時、この世にそんな家があるのかとひどくショックを受けたのを覚えている。

 

「うーん、たしかに、正直不安ではあるけど」

 

「2人はいつからそんな意気地なしになったんだ。こうなったら、僕だけでも行くよ」

 

 僕はそう言って、そばにあった上着を手に取り、部屋の外に向かった。

 

「どうやってさ?」

 

 ジョージが眉を吊り上げ、聞いてきた。

 

「うちの移動手段と言ったら、アレしかないだろ。2人がいつも隠れて乗ってるアレだよ」

 

 僕は調子に乗っていた。

 空飛ぶ車でマグルのすむ世界の空を飛び、監禁された友人を助けにいくという計画を発案するくらいには調子に乗っていた。

 

 結果からいうと、救出は双子と共に実行され、無事に成功。マグルの街の上を飛ばしたことはなかった双子だったが、運転慣れはしていたため特に問題は起きなかった。ダーズリー家以外のマグルには見つからず、ハリーも五体満足である。

 だがハリーの無事と引き換えに、僕らは母親にねっちょり絞られることになる。僕は怒られている間、ひたすらにタイムリープを念じていたが成果は芳しくなかった。

 

「なんで自由にタイムリープできないんだろうなぁ。」

 

 僕は自身の力の融通のきかなさに対して、贅沢な不満を漏らした。いざというときに戻れるからこそふざけていたのに、タイムリープできないんじゃ意味がないじゃないか。

 

 少しだけ落ち着きを取り戻した僕に、両親はとても喜んでいた。

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり、いよいよホグワーツの始まる日だ。

 僕らは時間に余裕をもって起きたものの、あれがないこれがないと騒いでるうちにすっかりギリギリの時間になってしまった。こんな時でもジニーはハリーに照れていた。

 

 パパが魔法で座席やトランクを広げたフォード・アングリアに乗り込み、急いで駅へと向かう。ママには「いやーマグルの車の中は意外と広いな!外からじゃわからんが」とか言ってごまかしていた。ジニーはハリーの隣の席で照れていた。

 

 駅につくやいなや、パパが人数分のカートを持ってきて、大急ぎで荷物を載せて駅の構内に入った。ジニーはカートを押してるハリーに照れていた。それはもはや見慣れた光景だった。

 

 九と四分の三番線の入り口となる柵についたころは時刻は11時の5分前。ママが急かすようにパーシー、パパ、双子を柵に押しやった後、ジニーと一緒に柵をすり抜けていった。

 

「一緒に行こう。あと1分しかない」

 

 僕が言うと、ハリーと共にカートを押し、駆け足で柵へと向かう。

 しかし、九と四分の三番線に到着することはなかった。大きな音とともに柵にぶつかり、カートを引っくり返したのだ。

 

 近くにいた駅員に何をやっているのかと咎めるように言われた。

 

「なんでもないよ!カートをうまくコントロールできなくて」

 

 僕はそういってそそくさと散らかした荷物を片付ける。

 周りにはまだ若干こちらに注目する人がいたが、それどころではない。傍から見て不自然では無いように柵をつついたりと色々試したが、どうも向こう側、つまり九と四分の三番線のホームには行けそうも無い。

 

 頭上の時計では間もなく秒針が0秒にたどり着こうとしている。

 あと、3…2…1…

 

「行っちゃったよ」

 

 呆然としながら言った。頭の中にいろんな不安が渦巻いていた。

 もしホグワーツに行けなかったらどうしよう。もしかしたら留年になるのか。いや。それよりパパ達は戻ってこれるのか。

 

「なぁロン、とりあえず車の側で待とう。ここじゃ人目につきすぎるし」

 

 考え事は絶えないが、騒がしいフクロウのせいもありやたら人目につくので、ハリーの提案で一旦車まで戻ることにした。

 

 

 

 

 

「なんで通れなかったんだろう」

 

 ハリーは暗く重い声色でそう漏らす。ハリーが僕よりも沈んでいるのはおそらくダーズリー家のことを考えているのだろう。通れなかった生徒はホグワーツに通えず、一年間自宅学習する、みたいな校則がないことを必死に祈っているに違いない。

 

 さて、これからどうしようか。

 少なくとも僕達は汽車に乗ってホグワーツにはいけなくなってしまった。行くとしたら、煙突飛行か、姿くらましか、そのへんかな。それとも僕達が知らない秘密の移動手段があるのかな。

 

 何はともあれ、僕達だけではできない選択肢しか無いのは間違いがない。ここはおとなしくパパたちが帰ってくるのを待とう。あ、でもパパたちも戻ってこれるとは限らないのか。どうしようかな。

 

「ハリー、とりあえずホグワーツに手紙でも送ろう。ヘドウィグもいることだし。」

 

 そう言うと、ハリーは賛同しカートから荷物をおろした。まもなくカバンから羽ペンと羊皮紙を取り出し、車のボンネットを机代わりにして、ホグワーツ宛に手紙を書こうとしたが、なかなかハリーのペンが進まない。

 

「ハリー、大丈夫だって。僕たちは別に遅刻もして無いし、何か問題をおこしたわけじゃないだろ?退学になんかならないし、自宅学習も未成年のなんとかっていう法律上無理だ。九と四分の三番線に入れなかったのは向こうのミスだし、ありのままを書けばいいさ」

 

 そう言われて気分が軽くなったのか、ハリーはペンを走らせた。若干手持ち無沙汰になった僕はハリーに提案する。

 

「僕、もう一回九と四分の三番線のとこに行ってくるよ。もしかしたら、他にも通れなかった人がいるかもしれないし、なんならパパたちが帰ってきてるかも」

 

「あー、そうだね。一人でここに残るのは少し不安だから、早めに戻ってきてくれると嬉しいな」

 

 ハリーからのGOサインが出ると、僕は駆け足で駅構内に向かう。

 

 そういえば、改めて駅を見るとなんというか、壮観だな。

 行き交う人たちはマグルのピシッとした服に身を包んでいる。至る所に貼られている広告の写真は一つも動かないが、カラフルで綺麗だ。そしてなんと言っても建物自体が力強くて立派に見えた。

 

 去年はホグワーツ一年生ってことで緊張してたし、今年はふつうに急いでた。あまりマジマジと駅を見ることはなかったので、かえって新鮮だった。

 

 そう思いふけっている時だった。

 

 背後から大きな爆発音のような音が聞こえ、驚きのあまりころんでしまったのだ。

 

 1秒ほど無音になったが、やがて堰をきったように周りが騒然としだした。

 

「なに!どうしたの!」 

 

 爆発にトラウマがあるため、若干震えていながらそういった。だが、嫌な予感がしたためすぐに起き上がって周りを見渡した。

 周囲の声に耳を傾けてると、駅前で事故があったことがわかった。それを聞いて嫌な予感がした僕は、今来た道を急いで逆戻りしていく。

 

「ハリーは大丈夫だよな…」

 

 駅の入口のすぐ横の壁には、トラックがめり込んでいた。おそらく、止まれずに突っ込んでしまったんだろう。

 そして、トラックが突っ込んでいる場所。何か見覚えがある。

 

 自分はついさっきまであそこにいなかったか?

 

 そう考えた瞬間嫌な汗がブワッと出て、脇目も振らず野次馬をかき分け、トラックの方に駆け寄る。

 

「ハリー!ハリー!返事して!どこにいるの!」

 

 トラックの周りを叫びながら駆ける。そこで僕は見てしまった。トラックと駅の壁の間に挟まる、フォード・アングリアを。そして、その隙間から見える、羽ペンを持ち、赤く染まった手を。

 

「ハリー…?」

 

 さっきまでの大声が嘘であるかのように小さく漏らした。

 

 

 眼の前が真っ白になった。

 

 






正史との相違点
・柵にぶつかった後に駅員に弁解したのがロン
・車に戻って学校に手紙を書く

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