【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:おこめ大統領

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10/25 7:18 車に乗るくだりを修正しました。
あげたばっかなのにすみません。


6. どうしてこうもうまくいかない

 気づいたら僕は大きな衝撃とともに身を投げ出していた。

唐 突な景色や状況の変化以上に、急に体に襲いかかった痛みに困惑していると、近くにいた駅員に何をやっているのかと咎めるように言われた。

 

 痛みをこらえて周りを見て、その既視感からある結論を導く。

 

 

 

 ここに戻ったのか。

 

 

 

 横でハリーが駅員に、カートが言うことをきかなかったと言い訳をしていた。状況を把握した僕はようやく動き出し、慌てて周りに散らかした荷物を回収する。

 

 ハリーにトラックが突っ込んだのは、正確にはわかんないけどホグワーツ特急が出発して10分後くらいだったと思う。

 とりあえず、それまでここで待機してたら安全だな。事故は駅の外だったし。

 

 そう結論づけ、無駄だとわかりながらもハリーと一緒になんとか九と四分の三番線に入る努力をしてみる。

 この状況でそうする努力をしないと不審でしか無いからね。僕もタイムリープに慣れてきたもんだな。

 

 頭上の時計では間もなく秒針が0秒に。

 あと、3…2…1…

 

「行っちゃったよ」

 

 僕がそういうとハリーがため息をつく。ヘドウィグがキーキー喚いていることもあり、周りから若干注目はされているのでできれば今すぐにでもここを立ち去りたい状況ではある。

 

 だが、ここにいなくてはハリーが危ない。なんとか周りの視線に耐えながらパパたちを待つとしよう。

 にしてもハリーはよく死んじゃうよな。普通そんなに命の危険にさらされるものなのかな。

 

 そこまで考えたところで、僕はあることに気がついた。

 九と四分の三番線の入り口が封鎖されて、車で待ってたらハリーがトラックに轢かれる。いくらなんでも偶然が過ぎる。

 

 もしかしたら去年みたいに、誰かがハリーの命を狙ってるのかもしれない。

 そうだとしたら結局ここにいるのも危険ってことになる。

 かといって、車に戻ったら先程の二の舞である。

 

 しまった。可能性は十分にあるな。というか、もうそれにしか思えなくなってきた。どうしよう。せめて誰に狙われているかさえ分かれば!それとも、どこかにヒントはあったのかな。

 

 いっそこの場に留まらないためにドライブにでも行こうかな。気分転換にもなるし。

 

 そんなくだらないことを考えていると、頭にある妙案がよぎる。

 

「ハリー!車だよ!ホグワーツまで車で飛んでいける!」

 

 僕はこれしかないと思った。もし悪い魔法使いに狙われてるのだとしたら、一刻も早くここから離れなければいけない。かといって、ふつうにドライブなんてしたらマグルの察警(Pocile)に止められるだろうし、わざわざ家に戻るのも不自然だ。

 僕はハリーに対してあやふやな魔法使いの法律など、車に乗るそれっぽい正当性を主張した。ハリーをその気にさせなければ。

 

 ハリーも、僕の熱弁に最初こそ躊躇するも結局好奇心に負け、結局車でホグワーツまで行くことに。

 

 その後、暴れ柳に衝突して杖を折ったり、宴会に出られなかったり、吠えメールをもらったりと散々な目に合ったところで、素直にあの場で待っておけばよかったと若干後悔することになる。

 

 車を飛ばすとろくなことがないことを学び、また一つ賢くなった。

 

 

 

 

 

 時は経過し、現在は5月の終わり。

 ハリーと僕は、まさに秘密の部屋の怪物の正体と場所を突き止めたところであった。

 

「これからどうする?マクゴナガル先生のとこに言って、このことを知らせようか」

 

 そう言うとハリーも賛同する。

 

 職員室までまっすぐに駆け、中に入るが、そこには誰もいなかった。すると、校内に生徒は寮に戻るようにとの放送が流れる。

 

 また生徒が襲われたのかと愕然とするが、状況を把握したいハリーの提案で、近くの衣装箪笥の中に隠れることに。

 

 しばらくすると、先生たちが戻ってきて、神妙な面持ちで会議を始めた。どうやら生徒の一人が秘密の部屋に連れ去られたらしい。誰が連れ去られたかを聞いたところで、僕は膝から崩れ落ちた。

 

 ジニーが、秘密の部屋に……。

 なんで、純血なのに……。

 そうだ、こういうときこそタイムリープだ!

 

 僕は目をつむり必死に念じるが、耳に入ってくる音も周りの空気も何も変化しない。目を開けても、やはり箪笥の中にいることには変わりない。

 

 そうこうしているうちに職員室から先生たちは出ていった。それに合わせてハリーが箪笥を開けたので、僕も重い腰をあげ、とりあえず寮に向かう。

 

 タイムリープするなら今だろ。なんで戻れないんだよ。それともその場にいないといけないのか。

 

 

 

 もしかしたら、誰かが死なないと、戻れないのか?

 

 

 

 僕はこの力が急に呪いのように思えた。

 

 

 談話室に戻ってからも、僕はずっと考えていた。

 もしも自分の力が、誰かが死ぬことで起きているのだとしたら、ジニーはまだ死んでいないかもしれない。その可能性を信じることでなんとか気を保っていた。

 

 どのみち危ない状況なのは間違いないので、今すぐにでも助けに行きたいがあまりいいアイデアが浮かばない。

 

 とりあえずロックハートに会いに行こうか、とハリーに提案する。

 先の職員会議では、ロックハートのみが秘密の部屋に立ち向かおうといていたので、他の教師陣よりは若干頼りに感じていた。なので、ロックハートに秘密の部屋に関する情報を共有しておこうと考えたのだ。

 

 僕は沈む心に鞭を打ち、ロックハートの部屋にまで駆け足で向かった。あたりはすっかり暗くなっていて、現在学校が置かれている危機的状況も相まってとても不気味に思えた。

 

 ロックハートの部屋につくと、なんと彼は逃げる準備をしていたのだ。話を進めていくとどうも今までの伝説はすべて自分以外の人間のものらしい。ここまで人間に失望したのは初めてであった。呆れてものも言えない。ふと隣のハリーの顔を見ると、僕と同じような表情をしていた。

 ハリーがロックハートから杖を取り上げる。盾くらいにはなるだろうと思い、ロックハートを連れてマートルのいる女子トイレへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 秘密の部屋はやはりその女子トイレにあった。ハリーが蛇語を唱えたことで現れたのだ。

 入り口のパイプはいかにも危険そうだが、そんなときこそロックハートの出番である。小突いてパイプに落とし、先の無事を確認してから僕達もそこに入っていく。

 

 パイプを降りるとそこは真っ暗な闇が広がっていた。

 ハリーが魔法で明かりを照らすと、そこには小さな動物の骨が大量に落ちていた。その姿に、ふと骨となったジニーが頭をよぎるが、ブンブンと頭を振ってイメージを振り払う。

 

 少し歩くとそこには大きな蛇の脱殻が落ちていた。優に6メートルはあるだろうか。とぐろを巻いたその毒々しい色は、洞窟の不気味さを格上げするには十分すぎるほどだ。

 

 その巨大な抜け殻を見た途端、先程振り払ったはずのジニーの死のイメージが再び頭をよぎる。不安になった僕は少しペースをあげて歩き続けた。

 

 すると、後ろでなにか重いものが落ちたような鈍い音がした。振り返ると、ロックハートが腰を抜かしたようだ。僕よりもロックハートに近かったハリーが呆れながらも彼を起こすために近づくと、なんとハリーを殴り飛ばし、杖を奪ったのだ。ハリーは打ちどころが悪かったのか倒れたまま起き上がらない。

 

「坊やたち、お遊びはこれでおしまいだ!僕はこの抜け殻を持って帰って、女の子を救うには遅すぎたとみんなに伝えよう!記憶に別れをつげるがいい」

 

 そういい、呪文を唱えようとすると、地面に転がっていたハリーが弾けるように起き上がり、ロックハートから杖を奪おうともがいている。僕もそれに続くように、ロックハートの方に駆け寄るが、その時ロックハートの声が洞窟に響き渡った。

 

「オブリビエイト!」

 

 ハリーは呪文を受け壁の方まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ハリー!」

 

 僕は叫ぶが、ハリーはピクリともしない。

 

「今のは忘却呪文さ。起きたところで何も覚えてない。僕はこの呪文だけは得意でね」

 

 ロックハートは醜い笑みを浮かべそういうと、杖を僕の方に構え直した。その時だった。洞窟全体が震え。天井が大きな音を立てて崩れたのだ。ちょうど、ロックハートのちょうど真上の天井が、である。

 音が消えた頃には、ロックハートの影は消え、声もしなくなった。おそらく崩れた天井の下敷きになったのだろう。

 

 この短い間に起きた怒涛の展開に呆気に取られるが、すぐさま切り替えて、ハリーの元に駆けつける。

 洞窟は今おきた崩壊でもう来た道には戻れなくなったが、幸いハリーはこちら側にいたため、分断されることはなかった。

 

「ハリー!しっかりして、ハリー!」

 

 ハリーを揺さぶりながら声を掛ける。呼吸音は聞こえるので、生きてはいるだろう。数秒すると、ハリーは小さくうめき声をあげて、目を開けた。周りを少し見回したあとに言ったハリーの一言が、僕をさらなる絶望に突き落とす。

 

「ここどこ?ていうかきみはだれだい?」

 

 僕は必死に目をつむり過去に戻れるように念じた。いやもしかしたら、ただ現実逃避をしてただけなのかもしれない。しかし、ハリーは記憶がないだけで死んではいないからか、何も変化は起きなかった。

 

 しばらくハリーを揺さぶっていた姿勢のまま固まっていたが、やがて僕はゆっくり立ち上がった。

 

「僕はロン。君はハリーって言うんだ。ここで僕が来るまでまっててもらっていいかな?」

 

 泣きそうな声でそういうと洞窟の奥へと歩みを進めた。

 記憶のないハリーに洞窟を歩かせることも、バジリスクがいるかもしれないところに連れて行くことも、流石にできなかった。

 

 

 しばらく歩くと大きな鉄の扉を見つけた。そこには悪趣味な蛇がたくさん掘られており、一目で秘密の部屋に関連するものであることがわかった。

もしかして女子トイレの水道みたいに、蛇語じゃないと開けられない仕組みだろうか。

 

 そう思いながらも、僕は必死に扉を押したり引いたり蹴ったりしてみるもびくともしない。呪文を使おうとも思ったが、もしここで壊れた杖が暴発でもして自分が気絶したら一環の終わりなので、泣く泣く物理的手段に出ていた。

 

 こじ開けられないことを悟った僕は、肩でしていた息を整え、さっきのトイレでハリーが話していた言葉を思い出し、シューシューという音を口から発した。

 

 しかし何もおきなかった。

 

 何度も挑戦するも、一向に変化は起きない。

 だが、その挑戦が50回を超えたあたりで、扉が開いたのだ。

 

 やったと内心ガッツポーズをとり中に足を踏み入れると、ちょうど扉のすぐ向こうにいた青年が興味深いものをみるようにこちらを見た。

 

「驚いたよ。パーセルマウスでもないのに、扉を開けられるなんて。君はなんてラッキーボーイなんだ」

 

 僕はその青年の存在には驚かなかった。なぜなら、青年が右手で引きずっている少女に目が釘付けになっていたからだ。

 

「ジニー!」

 

 そういって走り出そうとした途端、青年がジニーを僕に向かって投げ飛ばした。抱えるように受け止められたジニーは、白く、そして冷たくなっていた。生気を感じられない。ほんの、本当にわずかに胸が上下に動いていることに気づかなければ、すでに亡くなったと思っただろう。

 

「はじめまして、君はロナルド・ウィーズリーかな。この子から話はきいてるよ。」

 

「君はなんなんだ!僕の妹に何をしたんだ!」

 

 僕はかつてない怒りに支配された声でそう言った。

 

「何もしてないさ。ただ彼女の相談を甲斐甲斐しく聞いていただけだよ。ボロボロの教科書やお下がりのローブに対しての嫌気や兄に対する不満、そしてハリー・ポッターに対する恋心。全く嫌になってしまうよ」

 

 一呼吸おいて青年は続ける。その余裕に満ちた声は僕をさらに苛立たせた。

 

「だが、ジニーが徐々に正気をなくしていく過程は面白かったよ。見に覚えのない鶏の羽や真っ赤なペンキで汚れていることに困惑する彼女はまるで喜劇さ。良かったよ、君達家族がアーサー王伝説のアーサーやパーシーのような出来た人間じゃなくて。もし君らがジニーのことをもう少し気にかけてくれていたら、僕はこうして現出できてないだろうからね。名前だけが同じの無能だったおかげで僕はこうして復活できた。」

 

 言葉も出なかった。僕が、僕たちがもう少しジニーを見ていたらこうはならなかった。悔しさと自分への憤りで頭がどうにかなりそうだった。感情が爆発し、手に持っていた杖を青年に向けた瞬間、青年が驚異的な速さで呪文を唱えた。

 

「インペリオ!服従せよ」

 

 次の瞬間、先程までの感情の高ぶりがそっくりそのまま多幸感に変わったような気分に襲われた。宙に浮いているかのように頭の中はふわふわとし、今までの苦悩なんてどうでもよくなってしまった。

 

(ハリー・ポッターを連れてこい。その後、連れてきたらヤツの目の前で妹を殺せ)

 

 頭の中に声が響いた。あの青年の声だ。

 

 先程まではどこか見下すように話す彼の声に苛ついていたが、今は天使の歌声かのように聞こえ、その声に安らぎさえ覚えていた。ハリーを連れてきてジニーを殺したら、今よりもっと気分良くなれるのか。そんなことを考えていた。

 

 

 

 待てよ、なんで僕がそんなことをしなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 ふと我に返った。いまだ多幸感に包まれてはいるが、一度覚えたその疑問は次第に膨れ上がっていく。

 

(ハリー・ポッターを連れてこい!)

 

 いやだ、なんで大事な親友をわざわざ連れてこなきゃいけないんだ。

 

(ジニー・ウィーズリーを殺せ)

 

 僕のたった一人の妹だ!そんなことは絶対にしない!

 

(ハリー・ポッターを連れてこい!!)

 

「嫌だ!!!」

 

 自分の声が自分の鼓膜を震わす。そして全身を震わせた。地面を踏みしめることで浮遊感はなくなり、僕はまっすぐ青年を見据えることができた。正面にいる青年の顔に、先程までの余裕を持った表情はない。その顔で表現している感情は驚きだろう。彼の顔を見た100人中100人がそう答えるに違いない。

 

「僕の服従の呪文を……破っただとッ……たかが二年生の分際で……」

 

 その言葉に、自分が服従の呪文にかけられていたことに気がついた。父親から何度もその呪文の危険さを聞いていたが、まさか自分がかかるとは夢にも思っていなかった。だが、今はそれについて考えている場合ではない。

 

 状況を変えるには今しかない

 

 そう思い、呪文を唱えようと腕を振りかざした。だが、それには再び邪魔が入った。

 

「あー、いたいたー。ローン」

 

 緊迫したこの状況をぶちこわすかのようなゆるい声。聞き覚えしかないその声を、今だけは聞きたくなかった。

 

 青年は彼の登場に一瞬目を見開いたが、軽く咳払いをし、当初の落ち着いた威厳あるような表情を取り戻す。

 

「これはこれは。かの有名なハリー・ポッター。友人らのピンチに駆けつけるなんて、まるでヒーローじゃないか」

 

「ハリーきちゃダメだ!さっきいたとこに戻って!」

 

 焦った僕は青年の方に顔を再び向ける。

 

「君!ハリーには手を出さないで!ハリーには記憶がないんだ!君に抵抗なんてできないから、どうか見逃してやって!」

 

 ハリーをかばうつもりでそういったその言葉に、再び青年は表情を歪めることとなる。

 

「記憶がない……だと……。そんなバカみたいな嘘を信じるほど僕は優しくないぞ。ハリー・ポッター!英雄たる君と手合わせ願おうか!」

 

 青年はそう叫ぶも、ハリーには依然緊張感がない。

 

「こんにちは。えーっと、きみはここにすんでるのかな。ぼくはどこにいったらいいんだっけ?あれ、ぼくってぼくだっけ?あれ」

 

 その有様をみて青年は呆然とした後、顔を真赤にして怒りを顕にした。

 

「ふざけるな!ここまで準備して、ようやく出てこれたんだ!どれもこれも君を殺すためだ!それだというのに記憶がないだと。そんなふざけた理由で僕の計画を台無しにするのか!」

 

 堰を切ったように青年が叫び終わると、不気味な静けさが場を支配した。

 その静寂は青年の唱えた呪文によってかき消された。

 

 緑の光が飛び出し、ハリーの体を包み込んだ。

 ハリーはさっきまでのゆるい表情のまま、後ろに倒れ、動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 時間は再び巻き戻る。

 

 

 

 




正史との相違点
・秘密の部屋の道中、ハリーがロックハートの近くを歩く
・ロックハートの忘却術が成功
・ロックハート死亡
・リドルがほぼ実体を手にしてる
・ロンが蛇語で扉を開ける

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