新米審神者の生存戦略   作:職員M

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第2話

 横山が下の者に持って越させたのは、小さな端末装置だった。

 

「これはこちらからの緊急要請、並びに次元転移や刀剣男士の招集や鍛刀など、言わば武器の全てとお考えください。」

「これで実際の戦場へ行くというわけですね……」

「左様です」

 

 架空現実が拡張し五感や距離感も現実を超えたものが出始めている世の中だったが、よもやこれまでとは思わなかった。こんなことならこれを開発していたであろう大手電機メーカーの株式でも仕込んでおきたかったと、地味に私は臍を噛む。

 

「起動してみても?」

「どうぞ。ロックは南さんの指紋と網膜で解除されるよう設定済みです」

 

 横山の言われる通りにロックを解除すると、端末画面ほぼ全体に狛犬のような生き物の顔が映った。

 

「縮尺ミスってません?」

「いえ、彼が近寄っているだけです」

 

「初めまして主様! ぼくはこんのすけと申します!以後お見知りおきを」

 

「AIですか」

「いえ、彼には自我があります」

 

 私はこの時点で何か異様なものを感じた。確かに言われてみればAIには無い"気配"を画面内に感じる。まるで電話越しに会話しているような、どこかに存在感をこの生き物には感じるのだ。

 

「宜しく頼む。新しく審神者になる者だ」

「名前を伺っても?」

「あっそうだ! 忘れてた! ちょっと此方へ」

 

 急に横山が間に割って入って来た為に、私は名前を言いそびれる。そのまま促されるままに部屋の端にまで連れて行くと、彼は内緒話をするように私の耳に口元を持ってくる。

 

「本名、真名は教えないで下さい」

「何故?」

「南さんはこの契約が済めば最下級ではありますが神の領域に足を踏み入れる事になります」

 

 ふむ、つまり概念的な存在になるということか。

 

「故に、真名を知られてはより上級の神からどのような乗っ取りをされるか不明なのです」

「分かりました。言う通りにしましょう」

 

 どのような形であれ、指揮権を奪われるのは本意ではない。

 こんのすけの元に戻ると、私は堂々と偽名を名乗った。

 

「山田だ。宜しく頼む」

「かしこまりました!」

 

 手早く自己紹介を終えると、こんのすけとやらは一度画面から消えたかと思うと、複数の青年を連れてくる。

 

「この中から初期刀を選んで下さい!」

 

 そこで履歴書のようなプロフィールと自己紹介を受ける。一時的とはいえ人事部に出向になった数年前を思い出した。あれは酷いものだった……。

 

「横山さん、彼らの戦闘能力に差異は?」

「無い…………と思われます」

「思われます?」

 

 思わず聞き返す。これまでの歯切れの良い返事から一変、急に自信なさげな様子を見せる横山に、内心不安を覚えつつも表情には出さない。

 

「何故分からないんです?」

「データは何度も確認しました。しかし、能力を持たない我々ではこの刀剣男士を見るのは審神者の方が触っている時だけなのです……」

 

 なるほど、実際に見ていないから判断がつきかねる、と。

「私はデータを信じます。誰でも良いというのなら……君だ」

「僕は歌仙兼定。どうぞよろしく、主」

 

 このちょっと何考えているか分からない武器を私は選んだ。これが相棒との最初の出会いであった。

 

 

 

「一つ、確認しておきたいことがあります」

 

 私は兼定と一つ二つ言葉を交わした後、再び横山とソファにて会話していた。

 

「何でしょう?」

「本戦争において、戦時国際法は遵守されますか?」

 

 交戦規定の確認。つまりドンパチやるのにルールは必要ですか?民間人への攻撃はだめですか?というアレである。破ると大抵酷い目に遭うことは私だって知っていた。

 

「本戦争は現状、被侵略状態にある上、表面上国土、領海、領空、経済水域に至るまでの全てに直接被害を被ることはありません。故に、本国は本戦争を公表せず、宣戦布告すらしない状態にて防衛出動を発令します」

 

 つまり何をしても許されるということだ。終戦後に軍法会議にかけられた挙句討ち死にでは何の為に頑張るのか分からない。歴史修正主義者とやらがどんな存在か未だ不明だが、戦時国際法が守られない戦場のどれだけ過酷な事か、果たして覚悟しているのだろうか?

 

 

「それならば結構です。次に敵勢力の規模についてですが」

「南さん……それは、我々も現在調査中です」

「はて?」

 おかしい。戦争をするのだから敵勢力の規模は真っ先に確認されて然るべき事項。空挺師団でも何でも強行偵察にでも飛ばせば良いものを。

 

「我々は最近になってようやく次元間の観測に成功したところなのです」

「つまり、歴史修正主義者共の確認もそれと同時と?」

「その通りでございます」

 

 何ということだ。敵勢力規模すら把握できない戦争は、常に戦場の霧の中にいるも同然。歴史修正主義者の残存数が不明なれば、こちらの戦力摩耗は避けられない。

 

「そうなると、戦争は非常に厳しいものになるかと」

「存じております。なればこそお力を貸して頂きたいのです」

 

 私が逆の立場だったとしても、藁にも縋りたいところだろう。とりあえず戦力になりそうな人員は片っ端から揃えた上で、可能な限りの処置を施す。もしもやられてしまった暁には証拠が残らないよう徹底的に隠匿する。なるほど、報酬が巨額な訳だ。

 

 

「…………納得は難しいですが、事情は分かりました。私と、我が刀剣を信じてお任せ下さい」

「ありがとう御座います……!」

 

 さて、後は……。

 

「武器とできるものは、先程ご紹介いただいた刀剣男士のみ、ということでよろしいですか?」

「基本的には、そうなります。戦車や空母等、現在でも活躍する重火器を持ち込むと、それこそ歴史改変に繋がりかねません。歴史修正主義者が跋扈する時代に合わせた刀剣男士こそが合理的な選択でして」

 

 なるほど、得心がいく。つまり空を基軸とした現代戦から一つ前の時代に戻さねばならないということだ。戦争のやりやすさはガクッと落ちるが、その分自滅で歴史改変も防ぐことができるという訳だ。急場にしてはなかなか効率的な選択。

 

「結構です。では、事情を当社にも伝達して参ります。日本国からの正式な依頼と、"例の契約書"をご準備いただいても?」

「直ぐに準備させます。今しばらくお待ち下さい」

 ここも非常に物分りが良い。最終的な契約書は自分が確認するので問題もなし。後はこちらが調整するだけだ。

 

 

 

 

 

「ーー以上を理由として、便宜上副業を認めていただきたく」

「こちらは万事上手くやる。存分にやりたまえ! ……それにしても、国からの入札を有利な条件で得られるというのは本当なのかね?」

「こちらをご確認下さい」

 

 素早く実印入りの契約書を秘書に手渡し、そのまま社長の手に渡る。無論機密部分については口外できない為、国からの特務派遣要請を受けた事情により副業を特例的に認めてもらう措置を取るべく会議中。数百年前ならば、裁判員制度に選択されたようなものだろうか。尤も、あれも随分前に無くなって久しいが。

 

 ともあれ、契約書を目にした社長は見る間に笑顔になっていく。

 そして、わざとらしい咳払いを一つ。

 

「なるほど、賞与に関しては期待してくれて構わん」

「ありがとう御座います」

「それと、近々取締役を増やそうと思うのだ。どうも執行役員共と来たら相変わらず保守的な意見ばかりが出ていかん。ここは一つ、新しい風を取り入れようと思うのだが、どう思うかね?」

「大変結構な事かと。新鮮な意見が出てこそ、柔軟な組織は作られると私は思います」

「そうだろうそうだろう!」

 

 努めて冷静な口調だが、口元の笑みを隠し切れない。事実上の内示も同意だ。

 

「それでは、本件については……」

「認めよう! 仕事の割り振りを見直さねばならんな。これからは政府からの仕事でも忙しくなるんだろう。精進したまえ」

「ありがとう御座います!」

 

 一礼してから、大会議室を去る。咄嗟に思い付いた策とはいえ実に上手く行った。

 

 これでまた一つ、生きる意味が湧いたというものだ。必ずや生きて帰らねば私が報われない。

 胸元に仕舞っていた政府支給端末を開くと、そこには微妙な表情を浮かべた兼定がいた。

 

「どうにも大変そう……というか、悪い顔してるね主」

「悪い顔とは聞捨てならんな。人の昇進を素直に祝いたまえ」

「ま、僕には直接関係ないけど。ちゃんと命令出してよね」

 

 言われるまでもない。歴史修正主義者共に現代戦の思想を教育するより先に、組織マネジメントの前提とその素晴らしさを相棒一同に教育してやる必要がありそうだ。

 

 

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