函館方面派遣審神者よりのレポート(初陣)一部抜粋
急務につき案内人の元函館へと出陣。兵力は歌仙兼定率いる一部隊のみ。中腹時点での索敵結果、確認された敵勢力は少数部隊一個のみ。
即時開戦、先制攻撃に成功。敵一個小隊を撃滅。
以下、損害報告
兵力全部員の約3割損耗、部隊長歌仙兼定に軽微な損耗を認める。
敵勢力の形状等について
形状は人型に認めるも、人間と視認するのは困難と見ゆ。兼定の一閃により撃破した一個体、出血することなく霧散。明確な大義名分、目標等は確認されず各個合戦場を荒らすことを目的とした散発的行動が散見される。組織的行動が認められないことから、統一性において脅威なしと見ゆる。
総評
初陣における戦果は当敵対部隊に限られるも、余剰戦力充分に有している。
時間遡行軍の動きは散発的であり、組織戦に移行することが完了次第一点集中し攻勢に出ることを推奨する。歴史修正主義者全体規模の早期発見を待つ。
以上
「結果的に無駄足となったが、良い働きをしてくれた」
「有難きお言葉」
私は帰還後、即座にレポートを作成すると政府に送信した。組織戦ができないのは憂慮すべに事態。早めに提言しておくに越したことはない。まぁ尤も、組織戦になれば勝てるという見込みも無いのだが。
ちなみに、戻り方はこんのすけが教えてくれたが、同じく持っている端末を操作するだけで良いらしい。ただ、歴史改変に繋がる恐れがある為にこの次元に転移したタイミングへの帰還となる訳だが。
何れにせよこれにて通常業務をこなしつつ国家業務への遂行も可能になった。この命さえ失う事がなければ正しくホワイトな環境といったところだろう。
そうして、この端末を通じて部下への命令や士気向上の為のコミュニケーションも取れるわけだ。実に効率的な組織運営。
「ところで主、鍛刀はご存知か?」
「刀を作れるのか?」
「仰る通り。それで自軍の充実化と戦局の優勢が保たれるかと」
「ならばすぐにでも始めよう。鍛刀に必要な条件は?」
「大元からの支給があるから資材は問題無いとは思う。ただ……」
「なんだ?」
言い淀む兼定に思わず答えを促してしまう。有能な人材が言い淀むというのは決して良い傾向とは言えない。
「主の霊力を鍛刀に使うから、単純に疲労することは避けられない」
なるほど。私の体力を犠牲に新しい刀剣男士を迎えられるというわけか。政府からの支給がどれほど潤沢かは現状不明だが、兵站らしい兵站は刀剣男士顕現の為の資材のみらしい。
「その程度であれば業務に支障は無いはずだ。一度試してみよう」
端末を操作し、メニューから鍛刀を選択すると資材を適当に見繕ってタップする。
その瞬間、急に気怠さが襲い掛かり、私は座り込んでしまう。
……なるほど、疲労するわけだ。
鍛刀にかかるまでの数十分を過ごすと、端末画面に細目で短髪、半ズボンの青年が姿を現した。
「よぉ大将。俺っち薬研藤四郎だ。兄弟共々宜しく頼むぜ!」
意外と言っては失礼かもしれないが、見た目とはイメージの違う軽快な口調で、薬研藤四郎は声を掛けてくる。挨拶は社会人の基本だ。
「こちらは山田だ。今後共宜しく頼む」
「おう!」
とにかくやる気はある模様。生まれながらにしてこれだけの戦闘意欲を見せるのは素直に評価に値するだろう。早速兼定と共に戦場に連れていきたいところだが、初見にして怪我をされても困る。
『刀剣男士を強化するのならば練結! 兵力を増強するのならば刀装をお選びください!』
どこから現れたのか、こんのすけはそれだけ告げると、再びどこかへと消えていった。常に監視されている気がするのは気のせいだろうか?
「ならば先に兵力だ。先の戦いではほとんど孤軍奮闘だった。このままではいずれ限界が来るだろうよ」
「そうか。ならさっさと仲間を増やすとしよう」
私は薬研藤四郎の言葉に頷くと、刀装のボタンをタップする。鍛刀と同じような気怠さが来ると覚悟していたが、どうやらあれは刀装の実装には摘要されないようで一息つく。毎回あれを体感させられていたのでは戦闘以外で命を落としかねない。
そうして誕生した歩兵部隊、騎兵舞台をそれぞれの刀剣男士達に備えていく。交戦の際に私が出した指令を更に下の部分、要は実働部隊がこの兵装というわけだ。万が一の時の盾にもなる。実に有用な人的資源だ。豊富に用意して私の命を守ってもらわねばならない。
「……雅とは程遠い顔をしているぞ、主」
「なに、戦争に関しては雅とは真逆だよ。血で血を洗う泥沼。それが戦場だ兼定」
「やれやれ……」
私の表情を見兼ねたのか、兼定が口を挟んでくる。そうは言っても生き残るには仕方ないではないか。無論、そう言う兼定の意見を否定するつもりも、また毛頭ないが。生きとし生ける物ーーこの場合は無機物である刀剣も含むがーー皆自由意志があって然るべきである。
「兎にも角にも、初の状況発生事態だ。次の一戦に備えて二刀共休息せよ」
「「はっ!!」」
威勢のいい返事に満足した私は、端末を一旦消して自社を出ると、政府へと向かう為にタクシーを止めた。
「新人審神者への研修も、こんのすけだけでは手余りか」
「間違いありませんね」
「では、精通している者を派遣するとしよう。直近では南という新人が登録されていたはずだ」
「研究者は全員出払っております。誰か適任でも?」
「結城辺りならどうだ? 奴ならば徹底的に教えられるだろう」
「一応、横山が担当として付いていますが……」
「奴は実機に触れた経験がさほど無い。実戦経験が豊富なスタッフが付いたほうが審神者の活動もより有意義なものになるはずだ。暫定的に一度横山は外しておけ」
「御意に!」
日本国政府のごく一部でしか知られていない空間で交わされる会話は、緊急事態に対応しているトップのそれ。人的配置の困難さ、並びに人員不足の顕在化を再度確認するまでである。
「やれやれ……初陣でこそ上手くいったが、そこから"折れる"奴も多いからなぁ、この業界は……」
先程指示を出した某人はため息まじりに呟く。新人は果たしてどれだけやれるだろうか?
インセンティブを出した時だけ鼻息荒く戦果を上げようと息巻いた審神者は数多く見られた。そしてその大半が戦死している状況を見る以上、採用は最優先でありながら同時に審神者としての資質を見極めなければならない、非常に困難極まる仕事であった。
「正義のヒーローの登場はまだまだ先の様だが……とりあえずは新人に期待してみるとしよう」
否、期待せざるを得ないのだ。何故なら、現時点で本国が打てる唯一の策が、この歴史修正主義者殲滅作戦のみなのだから。