ゲート 奴隷 彼の地にて、斯く戦えり   作:顔面要塞

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鉱山奴隷だった筈が、得体の知れない勢力が陣取るアルヌスの丘に向けて進軍しなければならなくなっていた。

其処は『火の矢』が降り注ぐ地獄以外の何物でもなかった・・・。

しかし、奴隷達に選択肢は無い。

後退すれば督戦隊による死・・・前進しても『火の矢』による原形を留めない死・・・

絶望的な状況に於いて、死の中の『生』を拾うために進むバルドだった。


奴隷

 何時の頃からだろうか?自分の境遇に嘆かなくなったのは・・。

 

 何時の頃だったのだろうか?生きていく為の努力を放棄し、惰性のまま状況に流されるようになったのは・・。

 

 そして・・・・いつ頃かだとか考える事を放棄しはじめたのは・・・・。

 

だが、希望が無いわけではないから。日々、僅かな糧を頼りにして今日も働いている…

 

俺はバルド…しがない奴隷身分…解放奴隷を目指して、今日も砂金を見つけ出すために泥の河に身を置く…

 

 

 

 「オイ!!!ソコノやつ!!!ウゴケナクナッタ奴などホッテおけ!!ソレヨリモ、今月は収穫量が少ない!!モット気合をいれんかぁ!!」

 

 僅かなランタンによる明かりの中で。半裸の男達が、身ぎれいな看守の様な監督官の酷い訛りのある命令を受けながら泥水の中から砂金を取り出そうと、ふるいにかけ続ける。

 明かりが乏しい夕闇の中では、砂金を見つけ出す事がより困難になるだけなのだが。監督官にも上役がおり、彼もまた仕事の都合上無駄だと知りながら、奴隷達に対して仕事を促さなければならなかった。

 

 「・・・すまない。後で精がツクものを見繕って来るから・・・少し、休んでいてくれ・・」

 明滅するランタンに照らされた倒れた男の顔つきは蒼白で、今にも息を引き取りそうになっていた。もっとも、倒れた男に呟きかけた男も、栄養不良から視力が落ち。男の状態を確認する事が困難になっていた。

 

 「・・・・あ・・ありがとう・・・。俺は・・もう・・駄目だ・・・・バルド。」

 「諦めるな・・!!しゃべれる体力が在るうちは簡単に死ねないさ?故郷に帰るんだろうソラン?」

 「・・・ふっ・・お前と喋っていると死ぬのが馬鹿らしい事に感じるな・・・」

 「当然さ?戦争捕虜なんだろ?まだまだ苦しめってお前が送った冥界の奴等が叫んでるよ。」

 「・・・そうか・・まだ苦しまなければならないのか・・・」

 「それじゃ後でな?監督官も莫迦じゃない。もうすぐ無意味な作業も終わるさ?帝都から来た新任の坊ちゃんが張り切っているだけで、そろそろ中止を提案するだろ?休んどけ?」

 

 倒れた男を介抱し、落ち着かせた後。監督官に手を上げ、作業に戻るヒデト。その姿を見て監督所に戻る監督官。

 

 ヒデトの推測どうりに無意味な作業は一時間も経たずに終了し。奴隷達には詫びのつもりか、大麦の粥と焼いたニンニクが配膳されたのだった。

 

 久し振りに食べごたえのある配膳で腹を満たすと。自然、自分の境遇を考えてみたくなる。

 

先ずは自分の現状を整理してみる。むさ苦しい奴隷身分、金鉱山の作業員として日々酷使される。この場所に送り込まれたのは一年前。街道上に血を流して倒れていたのを、近くの農家が介抱して。その後に奴隷商人に売り飛ばされ、鉱山奴隷として身を置くことになった。

酷い話に聞こえるかもしれないが、帝国では身分保障もない人間には権利など存在しない。ここで働かされて、嫌という程身に沁みた。

 

そして、自分の名前であるバルドも自分のものではないらしい。言葉が通じる様になった半年辺りから、監督官が教えてくれた。頭に受けた怪我のせいか、記憶に障害がある様だ。事実、介抱された以前の記憶が無い。バルドとゆう名前も、見た目から付けられた。おおっぴらに言って『髪の薄い奴』という意味らしい。

髪の色や瞳の色が珍しい黒なんだから、そっちで名前を付けてもいいじゃないのかとも思ったが。何故かシックリきてるから困りものだった。

過酷な鉱山奴隷としては珍しく、半年以上も身体を壊さず働くものだから。いつのまにか古株になっていた。怪我などをしても異常に治りが早く、酷い怪我でも1日休めば労働に出られた。そんな事もあって昇進を考えていない軍を退役した監督官には重宝されていた。

古株になると、イロイロと頼られるし。監督官にも融通が効く様になる。奴隷の健康状態を維持する為の提案をしたり、採掘事業の計画を話し合ったりして生産性を上昇させたりもした。

事実、帝国の金鉱山の中でも。ここ、ヴィレテゥス鉱山は毎月僅かづつではあるが。生産量が伸びていた。まぁ、イキナリ伸びても枯渇するのが早くなるだけだから、監督官と示し合わせて生産量を調整しているのは内緒の話だが…。

 

そんなこんなもあって『お零れ』が僅かづつではあるが、俺にも降ってくることになった。何のことは無い。この境遇から抜け出したいと思っている奴は監督官の中にもいる。そんな奴に砂金を少量づつ溜めこむ方法を教えれば、自然とコチラにも配分が回って来る。

記憶の障害は治らないが、何故か読み書きは身についていたようで。帝国公用語も半年経つころには覚えてしまい、算術の様なモノも含めて書類仕事もやる様になっていた。

 

 まぁ、帝国全体では少量の生産量の上昇などは好ましい事と思われる程度だから。監督官達の退官後の生活が安定する程度には帳簿を誤魔化す事など些事に過ぎなかった。

 

 帳簿の状況や、監督官達の話を聞く限りにおいては。どうにも帝国は拡大期を過ぎて停滞期に入っている様だ。実際の所、俺達にとってはドウデモイイ話しだったから気にしちゃいなかったが。

 

 解放奴隷身分まで後僅か程で、こんなところに連れて来られるとは思っても見なかった・・・・

 

 

 

 それは、気持ちよく晴れた酷く暑い日だった・・・・。

 

 

 

 

 「栄えある帝国軍団の一員として!!諸君らに先陣の栄誉を与える!!彼奴等、緑の者どもは!恥ずかしげも無く帝国の神聖な地であるアルヌスの丘を占拠し・・・」

 

 

 粗末な軍装に身を包み、これまた役に立つかどうかも分からない古びた槍と盾を与えられて、奇妙な丘に布陣する『緑の奴等』に相対している自分を自覚して、絶望を味わい始めている。

 

 クダラナイ演説が延々と続くが、先発した部隊の惨状を目の当たりにしては。はなから存在しない士気など上がる筈も無い。本来なら逃亡を選択肢に加えるところだが、弓を備えた部隊が後方に構えており。その的が撤退の素振りをみせる奴隷部隊に向けられるとあっては、前進しか道は無かった。

 

 しかし、先発した部隊が訳も分からない攻撃によって壊滅した場面を目撃したのに。方陣を連ねて突撃しか選択しない上層部は何を考えているのか・・・。敵の奇妙な楔形の陣地から『火の矢』が降り注ぐたびに、地面と一緒くたに吹き飛ばされた肉塊を見ていないのだろうか?

 

 「・・・・・諸君らの帝国への貢献と勇気を示す時である!!」

 

 考え事をしていたら、何時の間にか演説が終わったらしい。これから先、あるかどうか分からない未来に向かって突き進まなければならない。

 

 まぁ、策が無いわけでもない。目の前の丘に陣取る勢力は、好んで殺戮に講じている訳では無いようだった。

 

 先発した帝国正規軍の大半が吹き飛ばされちゃいたが。交戦の意思を喪い、撤退(言葉のアヤだ、逃げ帰って来ただけ)をした部隊には『火の矢』は飛んでこなかった。

 

 奴隷部隊である俺等には、逃げ帰るなんてことは許されないが。撤退するのに方向は関係ないしな。しかも、奴隷身分の俺達には帝国に義理立てる事柄なぞ、これっぽちも無いわけだし。

 

 「・・・・ぉい・・・オイ!バルド!大丈夫なんだろうな・・?」

 

 同じ部隊に配属されたソランが話しかけてくる。ヤッコさん、上手く回復できたようで、すこぶる元気が良い。その元気の良さのお蔭で、今回は選ばれてしまったから何が災いするか分からない。

 

 「何事もやってみなきゃ分からんよ?少なくとも吹き飛ばされて肉塊になるよりマシだと思うぜ?其れより、皆に伝えたか?」

 「ああ・・・盾持ちはお前の合図で、すぐさま後方に展開出来る様に伝えた。皆、傭兵や野盗、軍上がりだからやれると思う・・でも・・・」

 「なんだぁ?まだ不安なのか?いい加減、覚悟を決めろよ?軍経験あるんだろ?」

 「人間、安全な所に長いこと居ると希望ってやつを持っちまう・・・あとチョットで解放身分だったのに・・」

 「諦めろ・・・。お前が信じてるエムロイってやつにお祈りしてみちゃどうだ?」

 「・・・そっそうだな!・・・我が神・・エムロイ様・・・・」

 

 やれやれ・・・どうにも軍にいたってのは嘘臭い話だなぁ・・・こんな状況で見た事も触れる事も出来ない存在に願いを託すなんてな・・締まらない話だぜ・・・。

 

 「・・バルド・・・皆、準備・・・トトノッタ・・テハズドウリニ動ける・・・」

 

 鉱山奴隷にしては筋骨隆々な、半裸の獅子頭をもった獅子系ヒト種のライネルがボソボソと話しかけてくる。

 

 「ああ・・・ありがとよ。ソランの奴が指揮階級だってほざくから隊長に推薦したが・・正直、肝の据わり方でライネルに頼んだ方が良かったぜ・・・」

 「ボヤクな・・・。何事も、エテ不得手がある・・・」

 「正直・・・五分五分だ・・・全員が生き残れるか分からん・・・」

 「ソレは承知の上だ。皆、お前をタヨリニシテイル・・・。他にイイ案もウカバナカッタしな・・・」

 「よーっし!!!上手く行ったら地獄の酒場で一杯奢るぜ!!!ソラン!!声を掛けろ!!!」

 

 「奴隷集団第一小隊!!方陣隊形!!」

 先程までの弱弱しさは全くなく、気合の入ったソランの掛け声が響く。

 

 「オオーー!!!」

 奴隷部隊としては考えられない程の鬨の声が響き渡る。それは、三個大隊で構成される奴隷部隊の中にあっても、異質と思われる程のモノだった。

 

 「前段!!!前進!!帝国!!万歳!!!」

 

 奴隷部隊の士気の高さに驚きつつも、軍団の先頭を構成するゴブリンやコボルト、オーガーとトロルを操る魔獣使い達にも指示を出す。軍団の実質的な先頭は、畜獣の様に扱われる彼等だった。

 

 「先陣大隊!!前進!!」

 奴隷部隊の指揮官の号令が響き渡る。しかし、その声は部隊の遥か後方。最後段の重装歩兵に守られた場所からであった。

 

 

 さて・・・上手く行くかどうか・・・サイは投げられた・・・思うようにはならねぇなぁ・・・

 

 

 前方に待ち構える、恐るべき楔形の陣が築城された丘に向かって。重い脚をあげるバルドだった・・・。

 

 

 

 




疲れていたんです・・・・

新しい風が必要だったのです・・・

用務員さんも頑張るから・・・・

赦してください・・・
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