いやぁ・・・結構漫画版があると情景描写に困らなくていいですねぇ・・
あとは、異世界の単位が分かれば設定も楽になるんですが・・。通貨の単位も一定じゃないし・・・時間も分からん・・・仕入れた情報以外は独自設定かなぁ・・
用務員さんもちゃんとやってます・・イイわけです・・・来週までには次話投稿出来る様にやっていきます。
では~~~。
雲ひとつ無い蒼い空を、一騎の竜騎兵が自由に駆けていた。
古代竜や新生竜、古竜を除けば。帝国にあっては最大の大きさを誇る竜であった。大きさに見合わず、騎手に従う動きは機敏で良く訓練された見事なものだった。正に竜人一体。帝国竜騎兵教則において、最高の練度を示す言葉通りの機動だった。
空を征く竜人一体となった彼等を阻む事は、如何なるものでも不可能に見えた。勿論、騎竜と共に空を翔ける騎手も、大いなる誇りと共にその様に考えていた。
帝国の聖地、アルヌスの上空にさしかかるまでは…。
騎竜と共に、地上に布陣する整然と整列する軍団を見下ろす。どんなに精強な部隊でも、俺達を補足することは出来ない。そして、軍団の最先陣を切り。帝国に栄光をもたらすのは空を支配する自分達だけだ。そう思いながら、主要武器である火炎壺を落とす準備に入ろうとした瞬間、目標であるアルヌスの丘に光が瞬く。
光を認識した瞬間。彼らの意識は、より高い次元を目指して旅立つのであった・・・・。
「前段!!!前進!!帝国!!万歳!!!」
蒼く晴れた空の下、清々しさとは程遠い軍装に身を包んだ集団に進軍の号令が響き渡る。
軍団が目指すところは、自らが属する帝国にとって聖地と呼ばれるアルヌスの丘。聖地と言っても、何か特別なものがあった訳では無い。せいぜい200年前に建立された記念碑があるだけだったが。今、その場所にあるのは皇帝の勅命により創られた異界に通じる門が佇んでいた。
勇猛な指揮官によって率いられた軍団が目指す丘は帝国にとっての聖地ではなく。自らが戦を挑んだ勢力に占領された敵地に様変わりしていた。軍団の後方で指揮を執る首脳陣にとっては、いささか複雑な思いを抱くには十分な背景が存在していた。
もっとも、軍団最前列に位置する奴隷部隊にとっては恐怖の対象でしかなかった。仕方が無い事だった、何せ先発した完全編成の帝国正規軍一個旅団が『火の矢』によって完膚なきまでに壊滅させられる場面を見ていたのだから。
数時間前。
士気も上がらず、まったく統率も取れていない奴隷部隊を蔑みながら。怪異共を先陣にして突き進む正規軍。
一糸乱れぬ統率の元。がっしりと組まれた完全武装の重装歩兵による方陣は、いかなる攻撃でさえ跳ね返す厚みで構成されていて。旅団を形作る兵達は、数々の戦場で帝国の栄光を高めてきた歴戦の者達だった。
先発した重装歩兵の頼もしさに目を奪われ。彼らが進めば、どの様な敵も粉砕されて骸をさらし、勝利を帝国にもたらす様に見えた。
だが、皆が忘れていたことがあった。如何に頼もしく威容な出で立ちであっても、所詮は腐り落ちる肉と砕け折れる骨で構成された人であることに・・・・。
其の事を気付かせる様に、凄まじい爆発がアルヌスの丘で起こり。爆発の光を知覚する間もなく、恐るべき光景が旅団の頭上に顕われていた。軍に所属する魔導士達の破壊魔法など比較の対象にすらならない、火山の噴火の様な爆発が整然とした方陣を組んだ旅団を包み込む。
そして、爆発が起こした黒煙がゆっくりと流されてゆくと。平原に展開した旅団が、至る所で方円上に打ち倒され。人の形を留めない肉塊としてのみ存在を赦されていた。
あれほどまでに蔑み、畜獣以下の扱いしかしてこなかった怪異達と同じ場所で、同じように吹き飛ばされてしまっていたのだった。
「ある意味・・神ってのは平等なのかもな・・。吹き飛ばされちゃ、見た目変わらんしな?ミンナ仲良くひき肉で、平原の植物の肥料になっちまった・・・」
先程見た光景がよみがえる・・いや、あまりにも異様な場面が脳裏から離れる事が無くなった。焼き付けられた記憶が原因で、頭がしっかり反応しなくなったのかもしれない。
「何ブツブツ言ってんだ!!もうすぐ先発隊が吹き飛ばされた場所に、怪異共が侵入するぞ?!手筈どうりでいいんだよな!?バルド!!」
先程までの威勢の良さは何処へ行ったのか・・・指揮官然とした雰囲気は吹き飛び、いつもの奴隷身分のソランに戻ってしまっていた。
「うるせぇなぁ?もう既に冥界の門を潜っちまったんだ!覚悟を決めろよ?オメェさんの神さんにお祈りしたんだろ?加護でも信じとけよ?!」
「俺が信奉しているのは暗黒の神エムロイ!!冥府は管轄外なんだよ・・!」
「管轄とかあんのかよ・・・。ますます俗っぽい奴等だな?まぁいいや・・どっちでも構わんからお祈りしとけ!!ハンク!!怪異達が立て札から先に侵入したら、盾を構えて身を屈めろ!!盾持ち全員に徹底させろ!!」
「う・・うん・・。で・・でも・・後ろの弓矢は・・どうするの・・?」
「相変わらずでけぇ図体の割には、細かい事まで気にするやつだなぁ・・。」
「な…ナンカいったかな?」
「なんでもねぇよ!!いいから、言われたとおりにしろ!!今んところお前さん達が頼りなんだからよ!!」
バルドの声に従って、小隊前列で盾を構える者らに声を掛ける狼系人種のハンク。本来ならば部族の慣習に従って傭兵稼業につくはずが。生来の気の小ささが災いして、無茶な命令を出した上官に怪我をさせ(本人は軽く押しただけと言っていたが)てしまい。鉱山に送られてきたのだった。
「アルヌスが噴火した!!!」
前列にハンクと共に配された鳥人種のフェザーが、甲高い声で警告を発していた。
「おっぱじまったか!!身体を地面に着けろ!!!盾はシッカリ上に構えるんだ!!!」
「・・・カイ・・怪異達が・・・」
「ああなりたくなきゃ!!!しっかり言われたことをやってろ!!!」
『火の矢』の爆発により吹き飛ばされる怪異達を、震える躰を抑えながら見続けるフェザー。
「バルド・・?タシカに後方はキニナル・・。」
「・・・ああ・・ハンクにはああ言ったが、射撃をいつ決断するか分からんからなぁ・・」
其処までライネルと会話した所で、アルヌスの丘で別の光が明滅する。一瞬、先発部隊の惨状が蘇って来て首を竦めて地面に屈み込む。
しかし、自分を含めて何事も無かった事に安堵し、周りの状況を確認しようとした時。督戦隊の居る後方で大きな衝撃音と炸裂が起こり、焔の中を悲鳴をあげながら逃げ惑う督戦隊が見えた。
「ありゃ・・・竜騎兵が落とされたな・・。督戦隊めぇ、いい気味だぜ?ハンク!!!後方は気にするな!!全員聞けぇ!!!ここからが正念場だ!!気合を入れて、降伏の意思を表示するんだ!!!立て札の先には侵入するなよ!!!武器は捨てろ!!盾をしっかり上に構えて、地面にかがむ・・・」
バルドが見た目からは想像もできない大音量でもって、奴隷小隊全員に指示を出していたのだが。運命の悪戯か、竜騎兵を撃ち落とした二発の内の一発のミサイルが、燃焼不良を起こしバルドの至近に落下し。自らに収められた炸薬を破裂させたのだった。
今までに感じた事もない衝撃によって、地面に打ち倒されるバルド。
朦朧とする意識を手放さない様に努力し、状況を把握しようとするのだが。思うように身体が反応してくれなかった。衝撃の影響なのか、よく耳が聞こえない。それでも、皆の無事を確かめようと集中するバルドに、ソランの声が響いて来ていた。
どうやら、まだ冥府への門を潜る事はなかったようだ。
「冥府か…そんなとこあんのかよ…」
自分自身で思いついた言い回しに笑いを堪えつつ、意識を手放すバルドだった。
「………?バ………バル……!バルド!」
気持ちよく眠る意識に、外部から聴きたくもない不快な響きが流れ、覚醒を促してくる。多分、声の質からしてソランのものだと判断する。半ば覚醒しかけた脳は、ソランの声だとわかった時点で、肉体への休息の命令を出す。しかし反応の薄い事に気付いたソランは、声だけではなく、身体的にも目覚めさせようと物理的な加速度を加えて来ていた。
新任の鉱山管理官によって意味の無い労働を強いられた精神と肉体は、心地よい眠りを手放す作業を放棄し、人の眠りを邪魔するブッタイに向けてある行動を命じるのであった。
「バルド…!!気付いた…って!?痛ってぇ!!?何すんだよ!!?」
筋肉によって、一定の加速度を与えられた右腕は。目覚めを促す存在の右頬に、正確に右拳を命中させていた。
「うるせぇよ…がならなくても起きれる…今、良いとこなんだ。飯の時間になったら起こしてくれ…」
「…って…何、アホな事ぬかしてやがる?まぁ…そんな調子なら問題ねぇな…」
「あ゛…?俺は何時も問題なんぞ起こしてねぇよ。何があった?」
「これだよ、これだよ・・・。覚えてないのかよ?アルヌスの丘を目指して進軍中に、お前さん、爆風になぎ倒されたんだよ?」
「・・・・・っ!!?ソラン!!他の連中は無事なのか!?ライネルは?!ハンクはどうした?フェザーは?」
「やっと正気に戻ったか。安心しろ。皆、無事だ。お前さんがいっとう深手だったんだよ?」
奴隷小隊全員の生存を告げるソラン。ソランとの会話で、自分の状況を確認したバルド。傍に居るソランや、背中に感じるベッドの柔らかさ。身体に掛けられた、白く清潔なシーツ。室内なのに、昼間の外の様に明るい光をもたらす照明など…見た事も聞いた事もないモノで溢れていた。
「………ォイ……ソラン…オレ達、上手い事捕虜になれたのか?どう考えても、待遇が良過ぎるぞ?」
「ああ…お前が気を喪って倒れた所で、皆で肌着を脱いで必死に振ったのさ?異世界の連中に、降伏の意思を示す遣り方なんぞ分からなかったから。裸になりゃ、闘う意思なんぞ無いだろうってライネルが言うもんだから、やって見せたらさ。『火の矢』が後方の指揮官連中を叩き始めてよ。被害の大きさに連中は逃げて行き、オレ達は取り残され、メデタク緑のマダら集団の捕虜になった訳さ?」
「言葉は通じないだろう?どうやったんだ?」
「門を潜って奴等の世界に渡った軍の連中が捕虜になっていてな?其奴らが通訳で出て来たのさ。奴等と同じような服装だったから、面食らったがな?」
「……そうか……上手くいったのか……」
「ああ!お前のおかげさ!!だが、今は休め。何事も体力がなくちゃやってられないからな。」
「……そうする事にするよ…ありがとな?」
「……そんじゃな」
凄まじい状況を生き残って一皮剥けたのか。摩訶不思議な状況にあっても、冷静に行動できているソラン。自分自身も、この状況に慣れなければ。そう思いながら。今は、いっときの微睡みに意識を委ねるバルドだった。