刀使ノ巫女 刻みし一閃のバエルの燈火   作:とあるBael厨毒者

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警告!
今回の話は刀使ノ巫女の本編見た人じゃないと恐らく理解できません!
それに時系列も分からないと思います!不親切な作者をユルシテ……。
この話は主に刀使ノ巫女の8話から12話までが舞台です。

皆さんおひさしぶりです。
ドーモ、とあるBael厨毒者です。
皆さん、この作品の更新もう無いなって思った人絶対にいるでしょう?
実はあったんです!

突然ですけど、スマホゲームの刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火をサービス開始後1ヶ月か2ヶ月後ぐらいからずっとプレイしてるんですけど、ガチャってやっぱ怖いですよねぇ……3%とはなんぞや。

結芽ちゃん☆4欲しくて、ずぅーーーーっとガチャ回してたんですけど、通常も万札課金しても、いっつも同じキャラの☆4ばっかりで絶望してたんですけど、ついこないだ、何にも考えずに消費しなきゃと思って普通のチケットで回したら結芽ちゃんキター!!ってなりました。

これもうわかんねぇな。

でも、結芽ちゃんの嫁入り道具(素材)だけはとっくの昔に全て揃ってたし御刀も持ってたから一気に強くしました(やっぱ道具だけあってもキャラは居ないのは悲しいよね……)。

ちなみにガチャで爆死しまくった人におススメのアニメはラストピリオド!
このアニメを見ると心が浄化されるよ……。

え?話が長い?了解です。
今回のお話はなななんと5万6千256字に達してますのでゆっくり読んでいって。

(っ ・ω・ )っ <では、どうぞ



衛藤可奈美胎動編 その者の太刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクギリス・ファリド事件から2年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあぁ……ちょっと早く目が覚めちゃった……」

 

まだ朝日が昇らず、空が薄暗い中、私は目が覚めた。

皆はまだぐっすり眠っていて、私ももう一度寝ようとしたが、寝付けそうにもなかった為、私はこっそりと布団から出てる事にした。

制服に着替えてから部屋を静かに出る。

 

私、衛藤可奈美は今、姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃん達と一緒に折神紫に反抗する舞草っていう組織の隠れ里の神社にやって来ている。

 

ここに来て今日でもう2日目だ。

 

ここまで来るまでには色々な事があった。

 

大荒魂と化していた紫様……折神紫を倒そうとする姫和ちゃんと出会って助けて一緒に逃げたり、警察に追われたり、伊豆へ行ったら今度は親衛隊に襲撃されたり……途中には薫ちゃん、エレンちゃん達に会って仲間にもなった。

その後は折神紫に反抗する舞草っていう組織の潜水艦に乗って伊豆から脱出した。

 

ちなみに潜水艦が出てきた時はかなり驚いた。

潜水艦をこの目で見たのは初めてだったし、それにそれが薫ちゃん、エレンちゃん達も入ってる舞草のだって知るともう驚きすぎてどう反応すればよいか分からなかった。

 

その後はこの舞草の隠れ里に来て、20年前の荒魂大討伐、相模湾岸大災厄の真実とかを聞いて、それに私と姫和ちゃんのお母さんが関わっているって事も初めて聞かされた。

 

でも、まぁ、そんなこんだで色々あったけど私と姫和ちゃんは今日も無事に生きている。

 

これを姫和ちゃんの前で言うと姫和ちゃんが怒るかも知れないけど……。

 

正直、仲間が大勢いるって知って少し安心する。

 

私と姫和ちゃんだけじゃない。

同じ目的を持っている人たちがこんなにも大勢いる。

 

そう考えると今までのたった二人で逃げていた事を思えばこれほど心強い事はないと私は思った。

 

 

 

 

 

「そう言えば……ここに来て2日目だけど、この神社、ちゃんと見てまわった事ないなぁ……よし、それじゃあ、ちょっと散歩でもしようかな」

 

私はそう決めると、神社の中を散歩する為に歩みを進めた。

本当は御刀の朝稽古をしようと思ったけど、今日は午前に舞草の人たちが稽古をしてくれるって言っていたから、あまり体力を使ってはいけないと思い、朝稽古は今日はしないことにした。

 

せっかく舞草の人たちが稽古を付けてくれるんだから、その稽古には万全の体制で臨みたかった。

 

私は神社の通路を進む。

 

「へぇ……何の部屋だろ?仏像がたくさん……あれ?ここって神社だよね?」

 

この神社はすごく大きかった。

ここに初めて来たときも、大きい神社だなぁと漠然的に思ってはいたのだが、改めてこうやって歩いてみるとその広さを実感する。

流石は舞草の本拠地だけあって神社の敷地の広さはかなりのものだ。

 

その敷地内に舞草の施設がいくつかあるという感じになっている。

 

私は神社の建物を一周したり途中に紫陽花の花が咲いている綺麗な庭を見つけては庭の遊歩道を歩いて散策をしたりした。

 

「わぁ……すごく綺麗……これなんて花かな……こんなに綺麗なら皆も呼べばよかったかも……って、いやいやいや、流石にこんな朝早くに起こしたら迷惑だよね……あははー」

 

朝の時間は最初、何をしようかなと迷っていたが、思っていたよりも私の心にゆとりをくれた。

これまでの張り詰めていた感覚が少し和らいでいくのを感じる。

 

そうして私は朝の時間をゆっくりとリラックスして過ごしているうちに時間はどんどんと過ぎていった。

 

そして、時間の流れはついに、先ほどまで日が昇っておらず薄明かりだけだった空に朝日の光をよぶ。

 

「あっ……朝日だ」

 

私は朝日が差し込んできた事に気がついて朝日の方を見た。

山の向こうから出てきた朝日が昇り神社の境内をまぶしく照らしていく。

 

「そろそろ、戻ろっかな……皆に心配かける訳にはいかないし」

 

私はそう呟くと神社の庭から神社の建物の方へと戻る道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

皆が居る部屋に戻る道。

その途中の神社の廊下で私は人影を見つけた。

 

「神社の人?」

 

私が見たのはその人物が神社の一室の部屋に入っていく後姿だった。

 

「でも、外国人ぽかったしフリードマンさんの知り合いかな?」

 

その人物は男の人だった。

後姿だけだが、白いジャケットの様な服を上に羽織って下には白いズボンをはいていた。

そしてその肌は白くて髪の毛の色も金髪だった。

 

私はその人物が入った部屋の前に差し掛かると、その部屋の障子戸が少しだけ開いている事に気がついた。

 

私は少しだけその人物に興味を抱いた。

 

なぜなら、ここに来てまだ2日目、正確には今日で3日目だが、エレンちゃんのお爺ちゃんであるフリードマンさん以外には外国人の姿は見なかったからだ。

 

そして、先ほどの人物は明らかに外国人の様に見えた。

 

私は、悪いとは思いつつも、好奇心には勝てずに部屋の中を覗いてしまった。

 

部屋の中は灯りがついておらず外から見るには暗く、辛うじて畳んである布団と、テーブルの上に置かれたノートパソコンが見えた。

しかし、さっきの人物が何処にいるかは分からない。

 

「うーん……よく見えないなぁ……」

 

すると、私がそう小さく呟いたその瞬間。

 

何の前触れもなく私が覗いていた障子戸が開いた。

 

私は突然開いた障子戸にビックリし顔を上げた。

 

「えっ……?わ、わぁ!?あっえっとすいません!え、えと、あ、アイム、ソーリー!」

 

私はとりあえず謝った。

なぜなら私の前には先ほどの外国人の男がいたからだ。

障子戸を開けたのは先ほどの彼だった。

 

私は数歩後ずさる。

絶対に怒られるとそう思った。

当然だ、他人の部屋をじろじろと覗いたのだから。

 

だが、彼は私を見て意外な反応を示した。

 

「美濃関の制服……」

 

「え?」

 

その外国人は流暢な日本語で私を見てそう呟いた。

 

「あ、えっと……日本語……」

 

「大丈夫だよ。私の国籍はこう見えて日本国籍だ」

 

「え?てことは日本人ですか?」

 

「まぁそうなるね」

 

彼は私を怒らなかった。

それどころか、彼は私に対して笑みを浮かべた。

私は彼が怒らなかった事から少し冷静になり、落ち着いて彼の方を見ることにした。

 

彼は男の人には正直うとい私から見てもかなりのイケメンの顔たちだった。

年齢は見る限りでは20代か30代の間くらい。

日本人にはない翠色の瞳をしていた。

 

私は彼の顔をじっと見る。

 

目が綺麗だったとか、イケメンだからとかそう言う理由ではない。

ただ、それ以上に私の心の中では引っかかる事があった。

 

「あの……どこかで会った事ありませんか?私、あなたの事どこかで見たことがある気がするんですけど……」

 

私は彼の顔をどこかで見たことがある気がしたのだ。

どこかは思い出せない。

でも、そこまで昔ではない頃に見た事がある気がした。

 

「いや……私と君に面識はないはずだよ」

 

しかし、彼はそれを否定する。

 

「そうですか……ってあ、えっと、さっきはすいませんでした!勝手に部屋を覗いたりして……」

 

「ははは、大丈夫、私は怒ってないよ。私の様な者がこのような神社にいれば、気になって当然だろう。それにしても、君は朝早いのに元気だね」

 

「あ、それはその……実は早く目が覚めちゃいまして」

 

「なるほど」

 

「あの一つ聞いても良いですか?」

 

「ん?なんだい?」

 

「もしかして、フリードマンさんの知り合いですか?それとも舞草の?」

 

すると、私のそんな質問に彼は表情を一瞬、曇らせた。

そして、右手を顎のしたにおいて一瞬考えるそぶりをする。

 

「……?」

 

「……なるほど。少し失念していた。ここに居る時点で君もこちら側の人間というわけか」

 

「え……?」

 

「君の質問に答えよう」

 

「え?あ、はい」

 

「まず、君はフリードマンの知り合いかと聞いたが、その質問の問いはYESだ。だが、私は舞草の人間ではない。まぁ協力者ではあるがね」

 

「へぇ~そうなんですか。私てっきりこの里に居るから舞草の人かと思いました」

 

「まぁ、そう思っても仕方ないよ。ところで……私からも一つ良いかい?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「私はここに長くいるが、君を私は見たことがない。君は美濃関の制服を着ているが君も舞草のメンバーなのかな?」

 

「あーえっと……どうなんですかね?あはははー……」

 

私は彼からの質問になんと答えたら良いのだろうかと悩んだ。

なぜなら、私はなりゆきで舞草にやってきたは良いものの、正式に自分が舞草の一員であるかは分からないからだ。

 

「じ、じつは……」

 

私は正直に言う事にした。

 

「私、なりゆきで舞草に助けてもらったんですけど、自分が舞草の一員かどうかって聞かれるとちょっと分からないです」

 

「なりゆきか……なりゆき……」

 

彼が急に神妙な顔をする。

 

「ふっ……なるほど、そう言うことか」

 

彼は急に思い出したように薄っすらと笑みを浮かべた。

 

「これは私の推測だが、君はもしかして噂の鎌倉で行われた御前試合で折神紫を襲撃したという生徒の二人の内のひとりではないかい?」

 

「え!?あ、あの……はい。そうです」

 

「やはり……君達の情報は聞いているよ。たった二人で折神紫を襲撃し、さらには親衛隊にも一歩も引かずに勇敢に戦っていたとね」

 

「ゆ、勇敢だなんて。私、友達を守りたくてそれで。それに私は友達を助けただけで私は切りかかってません」

 

私は急な褒め言葉に少し照れた。

しかし彼の話は止まらない。

 

「ん?どうやら私の入手した情報に少しだけ誤りがあったようだな。しかし、そんなに謙遜する必要はないよ。君達の話を聞いた時は私も久しぶりに心が躍ったものだ。そこでなのだが」

 

彼は楽しそうに話す。

 

「どうだろう。ここで会ったのも何かの縁だ。挨拶がてらに私と一つ手合わせをしてみないか?」

 

「え?手合わせですか?」

 

「そうだ。私もこう見えて武道には少しだけ自信があってね。流石に刀使の様な試合は私は刀使ではない為出来ないが、ぜひ、通常の手合わせはどうだろうか?」

 

「え、えっと……でも、部屋のみんな、もう起きてるかもしれないし……」

 

「やはりダメかな?」

 

私は彼の表情を見た。

私は断ろうと思ったのだが、彼は残念そうな表情をしていた。

それを見て私は迷った。

でも、少しの時間ならと了承する事にした。

 

「分かりました。それじゃあ、一本勝負でどうですか?」

 

「良いだろう。では、向こうの方に道場がある。そこでするとしよう」

 

「え?この神社に道場なんてあるんですか?」

 

「ああ。あるよ。この神社の庭があるのは分かるかい?」

 

「はい。さっき散歩もしてましたんで」

 

「ならば、話は早い。庭に道があっただろう?紫陽花が咲いている場所だ。そこの道を真直ぐ山の方へと行くと今は使われていないが道場がある。道は行けば分かるはずだ。君は先に行っててくれないだろうか?私も準備をしたらすぐに追いつこう」

 

「えっと、はい。わかりました」

 

そうして私と彼はその場で一旦別れ、私は道場の方に、彼は部屋へと入っていった。

私は靴をもう一度履くと先ほどアジサイの花が咲いていた庭の道を進んだ。

先ほど来た時は神社周辺の散策ルートしか通らなかったが、私は彼に言われた通り、山の方へと昇るルートを進んだ。

ただし、山と言ってもそこまで険しい道というわけではなく、あくまで庭の延長線上にあり階段でしっかりと舗装されていた。

そうして階段を上っていくとすぐに少し開けた場所に出た。

 

「ここかな」

 

その開けた場所には和風の建物が一棟建っており、戸などは全て閉め切られて入るが風格は道場その物だった。

私はその道場の建物に近寄ると戸が開く事を確認して中へと入っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

約十分後。

 

「待たせたかな」

 

「あっいえ」

 

私が道場で待っていると彼はそう言って道場に入ってきた。

ちなみにこの時、私は彼を待っている間に道場の閉め切られていた戸を開けて道場内の澱んだ空気を換気して朝日を道場内へととりこんでいた為、道場は明るく使える環境となっている。

私は彼がそう言って入ってきた事を耳で確認すると入り口の方を振り返った。

 

見ると彼は見慣れない服装に着替えなおしていた。

彼は先ほど着ていた白いジャケットにズボンという姿ではなく、なんというか、まるでスマートな宇宙服の様な服を着ていた。

その服は青系や白系の色でかためられている。

 

私はその服装を疑問に思った。

 

「あ、あの……その服は?」

 

「ん?ああ、これは特殊なスーツだ。素材は特殊な物を使用しているから通常の日本刀の攻撃くらいならば、怪我はしない。本来は別の目的があるのだが、今回の様な試合でも役に立つだろうと思ってね」

 

「そうなんですか……あ、えっと試合なんですけど、この道場って摸擬刀とかって無いんですか?幾ら探しても見つからなくって……無いと試合が……」

 

「心配は要らない」

 

「え?」

 

「君はいつも通りその御刀を使用するといい。君も使い慣れた剣の方が良いだろう」

 

「えぇ!?で、でもそれじゃあ……」

 

「なにも迅移や八幡力の業を使ってほしいとは言っていない。あくまでも普通の試合だ。それがただたまたま摸擬刀ではなく御刀であったというだけの事。それにさっきも言ったが、私が今着ているこのスーツは通常の日本刀による剣撃程度では容易には貫けない。だから安心していつも通りやってほしい。だが、君の方は写シは使ってほしい。そうすれば互いに全力に近い形で試合ができるだろう」

 

「は、はぁ……えっとそれじゃあ、試合をしても良い……って事で良いんですよ、ね?」

 

「ああ、かまわない」

 

そう言うと彼は手に持っていた剣へと手を伸ばした。

だが、私はその時、あることに気がついた。

 

「その剣……」

 

「ん?ああ、見るのは初めてかな?」

 

「あ、はい」

 

「そうか。これはヨーロッパの普通の剣だ。ロングソードという類の剣で、ただ見かけ通りのアンティークだがね」

 

「えっと、その……私、初めて見ました!もしかして、剣術も?」

 

私ははじめて見たヨーロッパの剣に少しテンションが上がりそれと同時に自然に声も上がる。

 

「私は10歳まではイギリスに居た。その頃から剣術にはそれなりに親しんでいる。ただ、西洋式の剣術だがね」

 

私は西洋式の剣術と聞いて胸が高鳴った。

私は剣術が好きなのだが、日本以外の剣術にも興味があって中国の剣術などは本などでかなり調べたりしていた。

でも、ヨーロッパの剣術に関してはあまり資料が見つからず良く分からなかったのだ。

しかし、今、自分の目の前にいる人がヨーロッパの剣術を使うと知って私の好奇心は大きく刺激されていた。

 

「ふっどうやら、そちらも我慢の限界といった所かな?よし、では始めるとしようか」

 

「はい!」

 

私と彼は互いに位置につくと一礼をしそれから私は御刀を彼はロングソードを互いに構えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

静けさが場を支配する。

だが、次の瞬間、静けさは私の声によって破られた。

 

「はぁ!!」

 

私は御刀を振りかぶって彼に向かって走っていく。

そして、御刀で彼に一太刀を入れる。

しかし、それは彼の剣によって防がれた。

 

「なかなかの剣だな!しかし!!」

 

彼は御刀の攻撃を受け流すと私を攻撃してくる。

私はそれを防御した。

その後、私と彼は攻撃、防御の交互に繰り返すように互いに太刀を入れていった。

 

その間私はずっと興奮していた。

私が見た事のない経験した事のない剣術が披露されていたからだ。

薙ぎ払いのタイミング、防御の方法、その立ち回りまで。

それらは私の好奇心をより大きくしていった。

私は久しぶりに試合でここまでの興奮を味わっていたのだ。

 

でも、そんな試合にも終わりは来る。

 

そして、それから暫くして試合の決着はついたのだ。

 

「はぁはぁ……」

 

「はぁはぁ……やはり、私の見込みは間違いなかったようだね。すばらしい腕前だ」

 

「そ、そんな事ないですよ……はぁはぁ」

 

私と彼は結局、試合を3本も取ってしまった。

1試合目は引き分け、2試合目は彼の勝ち、3試合目は私の勝ちだった。

試合の結果は総合的には完全に引き分けだった。

 

「それにしてもすごい剣術でしたね!私、こんな剣術見るの初めてです!でも、少しだけ気になる事があるんですけど、なんていうか……」

 

「何が気になったのかな?」

 

「はい、剣撃を受けてる時に思ったんですけど、少しだけ動きというか構えが二天一流……ううん、流派までは良く分からないんですけど日本の二刀流の流派の剣術に似ている気がしました」

 

「これは驚いたな」

 

「え?」

 

「今ので気づいたか。凄まじいなその感覚」

 

彼はそう嬉しそうに言った。

 

「君の指摘は正しい。私は本来では二刀流の流派だ」

 

「やっぱりそうなんですね!でも、それじゃあなんで一刀だけで?」

 

「残念ながら今はこれしかなくてね。やむ終えずという事だ」

 

「そうだったんですね」

 

「そう言えば……」

 

すると、彼は急に思い出したように話し始めた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、今更ながら君の名前をまだ聞いていなかったと思ってね」

 

「そう言えば……そうですね。私も聞いてませんでした」

 

私と彼はそう言い互いに顔を見合うと、おかしくなって小さく笑った。

あれだけの試合をしたのに互いに自己紹介も忘れていたなんてと思うと少しおかしかったのだ。

すると、彼は自己紹介をしようと提案してきた。

 

「良ければ君の名前を教えて欲しいのだが」

 

「良いですよ。私の名前は衛藤可奈美です!美濃関学院中等部二年生の13歳!」

 

「では次は私だな。私の名前はマクギリス。マクギリス・ファリドだ」

 

「マクギリスさんですね!分かりました!」

 

「それにしても……衛藤可奈美か。衛藤……ふっまさかな」

 

「あの……私の名前になにか?」

 

「いや、私の知っている人物に少しだけ心当たりがある苗字だったのでね」

 

「え?私の事知ってるんじゃないんですか?」

 

「私が知っていたのは君と平城の子が事件を起こしたという事だけだよ。名前までは知らなかった。と、少し気になる事があるのだが、少し聞いてもいいかい?君の苗字は衛藤だが、お母さんはもしかして……藤原美奈都さんという人ではないかな?」

 

彼は真剣な表情で聞いてくる。

私はその質問に驚いた。

 

「え、えっと……はい、そうですけど……」

 

「っ!やはりそうか……」

 

「あ、もしかしてお母さんの知り合いですか?」

 

「いや、面識はないよ。ただ、ここ舞草に来て20年前の相模湾岸大災厄の真実に関する資料を見て知っていただけさ。なるほど。君は真の英雄の娘だったというわけか」

 

そう言うと彼は笑みを浮かべる。

 

「そ、そんな英雄の娘だなんて!だって家は何処にでもあるような普通の家族ですよ?」

 

「周りから普通に見えるからこそ英雄と呼ぶに相応しいのだ。生まれや所属など関係なく己がただ力を研ぎ澄ます事で大荒魂を鎮める事ができた。これを英雄と呼ばないでなんと表現すれば良いのか。私には分からないよ」

 

「は、はぁ……」

 

「娘である君の前で言うのは少し恥ずかしいが、正直言って私は相模湾岸大災厄の真実知った時、心が躍ったよ。たった3人で絶大な力を誇る大荒魂に挑みそしてそれを鎮める。確かにその結果は失敗かもしくは時間稼ぎにしかなってはいなかったのかも知れないが、私はまるでアグニカ・カイエルの伝説の一場面のようだと思った」

 

「アグニカ?」

 

「ああ、そうだ。アグニカ・カイエル。世界を救った英雄さ」

 

「あの、そのアグニカ・カイエル?ってなん」

 

私がアグニカ・カイエルについてなんなんですか?と聞こうとした丁度その時だった。

道場の入り口の方から扉が開く音がした。

 

私と彼が入り口の方を見るとそこには一人の黒いスーツを着た男の人が一人立っていた。

 

「准将、お迎えにあがりました」

 

「石動か。もうそんな時間か」

 

「マクギリスさんのお知り合いですか?」

 

「ああ、私の部下だ」

 

私は黒いスーツを着たその人の顔を見た。

その人の顔の形は綺麗に整っており、髪の毛は肩まで伸びていた。髪の色は一瞬見ただけでは黒髪の様に見えたが良く見ると暗い色の茶髪だった。

私の第一印象は少し変わった人という感じだった。

 

すると、マクギリスさんが私の方を見た。

 

「衛藤可奈美。今日はとても有意義な時間を過ごさせてもらった。お礼を言うよ」

 

「お、お礼なんて!それに私も楽しかったですから!」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。それでは衛藤可奈美、またいずれ手合わせをしよう」

 

そう言うと彼は笑みを浮かべて私の方に握手の手を伸ばしてきた。

それを見て私も笑みを浮かべる。

 

「あ、はい!その時はこちらこそよろしくお願いします!次こそは勝っちゃいますからね!」

 

私も握手の手を伸ばす。

そして私と彼はガッシリと互いに握手を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あっちゃー思ったより時間過ぎちゃったな……皆もう起きてるかな……」

 

私は道場の閉じまりをしてから、あの石動って人からスポーツドリンクを一本貰ったのでそれを片手に小走りで神社の方へと走っていた。

小走りをしている理由は簡単だ。

実は三本の試合を取っている間にそれなりの時間が過ぎていて気がつけば皆がもう起きている頃になってしまっていたのだ。

 

私は神社の境内を進む。

 

「そういえば……やっぱ、あの二人どこかで見たことある気がすんだよなぁ……」

 

私は道中そんな事を呟いていた。

ものすごく気になるとかそう言うわけではないのだが、随分前にマクギリスさんと後から来た石動さんを見たことがある気がしたのだ。

その疑問が私の頭の片隅でもやもやとしていた。

 

そして、そうこうしている内に私は皆と泊まっている自分の部屋へとたどり着いた。

 

「そろーり、そろーり……」

 

私はそーっと障子の戸を開けるすると、丁度その時。

 

「おい、何をやってるんだ可奈美」

 

「ギクッ……あ、あはははー、おはようー姫和ちゃん」

 

私が後ろを向くとそこには私の仲間であり友達の十条姫和ちゃんが立っていた。

姫和ちゃんは私の後ろで腕を組んで呆れた表情で立っている。

 

「はぁ……いくら驚いたとしてもギクッなんて本当に口に出すやつがあるか」

 

「あはははーごめん!」

 

「それで?何処に行ってたんだ?朝早くに」

 

「えーっとね実は……」

 

私はとりあえずさっきあった事を簡潔に説明した。

 

 

 

「なるほどな。早く起きたから散歩をしてたら神社の中で見なれない男を見かけてその男と話してそれから道場で試合をして戻ってきたというわけか」

 

「うん、大体そうだよ」

 

ちなみに私はこの時、マクギリスさんや石動さんの名前は出していない。

 

「まぁ色々言いたい事はあるがまぁ良い。さっさと行くぞ可奈美。全員神社の広場で待ってるぞ」

 

「あ、うん!分かった!」

 

私は姫和ちゃんと一緒に皆と朝の稽古をするために皆が待つ神社の広場へと移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼とのなんの変哲もない出会い。

しかし、私と彼の話はその日の夜に突然大きくなり始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃんの6人は夕飯を食べた後、神社の客間に呼ばれた。

さいしょはどんな話なのか気が気でなかったが、行って見るとそこでは折神朱音様、リチャード・フリードマンさんが居て私たちは軽い話しをしていた。

 

「ふふふ、そうですか孝子さん達に稽古を付けてもらったのですね。それはよかったです。この里に皆さんが来て今日で3日目ですが、どうですか?少しは落ち着きましたか?」

 

朱音様が私達に落ち着いた様子で聞いてくる。

恐らく私や姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃんに言っているものだとは理解できた。

朱音様は心配してくれているのだ。

 

「はい。おかげさまで」

 

姫和ちゃんがそっけなく答える。

 

「そうですか。それは良かったです。これまで大変でしたでしょうから」

 

「それで、朱音様……私達を呼んだのはどのような用件でしょうか?」

 

姫和ちゃんは少しトゲがある言い方をした。

 

「ちょっと姫和ちゃん」

 

「……よいのです衛藤さん。彼女の我々への不満があるのは仕方ない事ですから。ですが、今日皆さんをお呼びしたのは本当に皆さんが落ち着いたのかそれをお聞きしたかっただけなのです」

 

「では、何も用がないというのならばなぜ、その男もこの場に居るのですか?」

 

姫和ちゃんはフリードマンさんを見る。

すると、次はフリードマンさんが口を開いた。

 

「私がここに居るのはただ単に、時間が空いていたからだよ。特段の事情は今はないから安心してくれ姫和くん」

 

「……そうですか」

 

「…………」

 

「…………」

 

気まずい……私はそう思った。

フリードマンさんはにこやかな雰囲気で話してくれたのだが、そのあと、会話が続かなかった。

朱音様にいたっては私から見ても気まずそうな表情だ。

沈黙が始まって本当に僅かな時間が経過するがその沈黙の時間がすごく長く感じた。

 

私はこの雰囲気を変えられないかと話題を考える。

だが、それはすぐに無駄になった。

 

「まぁまぁ、そんなに警戒をしていてはお互い身がもちませんデスよ」

 

エレンちゃんがお得意の笑顔とノリで沈黙を破ったのだ。

 

「だが、ここに来てもう3日目だぞ?これでどうやって、折神紫をうつというんだ!」

 

するとそれに対して姫和ちゃんが少し大きめの声で言う。

 

「姫和くん。勝負には挑むべき時と挑むべきではない時がある。今は折神紫を倒す為に準備をしている段階だ。従って今はまだ待つべきだと私は思うよ」

 

「それは……」

 

「焦る気持ちは分かります。ですが、十条さん今は私達を信じてください」

 

「……分かりました」

 

姫和ちゃんは不満げがありそうだが、なんとか頷いた。

 

「例を挙げるなら20年前の相模湾岸大災厄でも内容こそは全く違えど戦略級の作戦はしっかりと取られていたはずだからね」

 

フリードマンさんが相模湾岸大災厄を例に出して言う。

すると今度は舞衣ちゃんが声を上げた。

 

「戦略級の作戦?」

 

「ああ、そうさ。今日、君達が訓練をしていたのは、戦術級の訓練だ。言うなら目の前の戦いに勝つ為の作戦かな。戦略級はその上のランクだ。一つの大きな戦いをどうやって制すか。いくつかの戦術級の作戦の上にそれがあるんだ」

 

「なるほど……」

 

舞衣ちゃんはそう言うと何か考え込む。

 

だが、その時だった。

 

私は今さっきの相模湾岸大災厄というフリードマンさんの口から出た言葉に、何の前触れもなく、ふと彼の事を思い出した。

 

彼が道場で私にしてくれた話を。

 

 

 

 

 

(私はまるでアグニカ・カイエルの伝説の一場面のようだと思った)

 

 

 

 

 

あれって結局どういう意味だったんだろう……。

 

私はそう思った。

あの時、道場では結局聞けなかったのだが、そのせいか、私の心の中では、そんな疑問の気持ちがずっとモヤモヤしていて、それが今のフリードマンさんの言葉でこの気まずい雰囲気の中、私の心の中にモヤモヤが一気に溢れ出てきてしまった。

 

すると、私は気がつくと無意識にフリードマンさんに向かって小さく手を上げていた。

 

たぶん、今、この部屋に漂っている気まずい雰囲気をどうにかしたいとずっと思っていたのと、モヤモヤが合わさってできた行動だと自分で思う。

なんとか話題の方向性を変えようと思ったのだ。

 

それに私は彼、マクギリスさんが私に言ったこのアグニカ・カイエルという言葉の意味を知りたくて仕方なかった。

 

あの時、相模湾岸大災厄の話をしていた時にでてきた言葉だから相模湾岸大災厄に何か関係があるのではないかと道場で聞いた時から私は思っていたのだ。

もしも相模湾岸大災厄に関係があるのなら、その戦いを戦った私のお母さんにも何か関係があるのかも知れない。

そう思うと私は本来ならまたマクギリスさんに会った時に聞こうと思っていたそれをこの場で聞かずにはいられなかった。

 

「あの……一つ聞いても良いですか?」

 

「ん?なんだい可奈美くん?どんな質問でもウェルカムだよ」

 

フリードマンさんが、にこやかに私を指す。

 

「その……もし関係なかったら、話を中断させて悪いと思うんですけど……」

 

「別に大丈夫だよ。なんでも聞いてくれ」

 

「えっと、相模湾岸大災厄で思い出したんですけど……アグニカ・カイエルってなんなんですか?相模湾岸大災厄になにか関係があるんですか?」

 

私は単刀直入に疑問をフリードマンさんにぶつけた。

 

「「…………」」

 

すると、私がこの質問をした瞬間、フリードマンさんと朱音様は一瞬驚いたような表情をした。

 

「……え?」

 

そしてその次の瞬間には互いに表情を一気に険しくした。

二人は互いに顔を見合す。私はこの状況に何かまずい事を聞いてしまったのかと思い困惑した。

 

一方で私が話の流れ的にはまったく脈絡のない話を急に切り出した事にさっきまで気まずそうな雰囲気だった姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃんは気まずい雰囲気を忘れたように何だそれと言わんばかりに疑問を浮かべた。

特に姫和ちゃんに関しては「急に何の話をしているんだ?」と私に聞いてきた。

 

ただ、フリードマンさんや朱音様の表情が一気に険しくなった事を感じていた私は二人の方に恐る恐る声をかけた。

 

「えっと、あのすいません……私何か聞いちゃまずい事でも聞いちゃいましたか?」

 

私がそう言うと朱音様が、無理に笑みを浮かべて私の方を見た。

 

「別にそんな事はないですよ……えっと、衛藤さん、質問に質問で返す様で悪いですが、その話は誰から聞いたのか聞いても良いですか?」

 

「はい、えっと、朝、散歩をしてた時にフリードマンさんとは知人だっていう人に会ったんです。その人から聞きました。マクギリスさんからです」

 

私が正直にそう言うと二人の表情はますます暗くなる。

朱音様に関してはフリードマンさんに向かって「失念していました……やはりあの方の部屋は別館にすべきでしたね……」と小声で話しているほどだ。

 

「あの……どうかしたんですか……?」

 

私は正直こんな事になるとは思わず困惑する。

 

「マクギリス……どこかで……」

 

私の隣で姫和ちゃんは考え込む。

見れば舞衣ちゃんもだ。

 

その一方でエレンちゃんと薫ちゃんは普通にしている。

だが、どこか何となくピリピリとした様子だ。

すると薫ちゃんが私の方を見る。

 

「お前……アイツに会ったのか?」

 

「え?あ、うん。朝、散歩してたら偶然見かけて。それで話をした後に試合をしようって言われたから試合してたよ」

 

「だから朝、起きた時居なかったのか……変な事吹き込まれてないだろうな?」

 

「変な事?」

 

「おいおい気がつかなかったのか?アイツの名前聞いて分からなかったのか?アイツは……」

 

薫ちゃんがそう言おうとしたその時、舞衣ちゃんが話しに割ってはいる。

 

「……ね、ねぇ可奈美ちゃん」

 

「え?な、なに舞衣ちゃん?」

 

「そ、その可奈美ちゃんが会った人のフルネームって分かる?」

 

「フルネーム?えっと……確か……マクギリス……」

 

「マクギリス……?」

 

「マクギリス・ファリドだったよ」

 

私がマクギリスさんのフルネームを言う。

すると、その瞬間、室内は一気に静まり返った。

 

そして、今度は姫和ちゃんが急に何かに答えを見つけた様な表情をして急に立ち上がった。

 

「なっ!?マクギリス・ファリドだと!?」

 

姫和ちゃんは立ち上がると同時に私に向かって驚いたような声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

「き、急にどうしたの姫和ちゃん?」

 

「どうしたじゃない!可奈美!本当にそいつはあのマクギリス・ファリドだったのか!?」

 

「あのってどういう……」

 

「さすがに覚えているだろ!二年前の……事件は……」

 

「二年前の事件?なにかあったっけ?えっと……あっそういえば、東京で大きい事件があったような……」

 

私は思い出したように言う。

すると、その瞬間、私はある事を思い出した。

 

私は普段はニュースも新聞も全然見ないのだが、あの時は寮の中でなんだか騒ぎになっていて後からちょっと気になってテレビをつけたらニュース番組かなにかの特番である外国人風の男の人の顔写真が大きく映っていたのだ。

 

そこまで思い出して今日の事をまた思い出す。

 

彼の事を。

 

金髪に翠色の瞳を。

 

「あっ!!もしかして皆が言ってるマクギリス・ファリドってもしかして二年前の……」

 

これで一つ合点がいった。

どおりでどこかで見た事がある気がすると思ったのだ。

見たのは以前に会ったのではなくニュースで見ていたのだ。

 

「ようやく気がついたのか……かなり常識だぞ……」

 

「さすがはカナミンですネ!」

 

エレンちゃんは面白そうにいつも通り笑う。

 

「可奈美ちゃん……もう少しニュースとかちゃんと見ようね……」

 

そんな様子を見ていた舞衣ちゃんは私に向かって苦笑いを浮かべたままそう言った。

私は「あはははー」と苦笑いを返す。

 

だが、そこで私は一つの疑問を抱いた。

 

「あれ?でも……」

 

「いや、まてよ……」

 

姫和ちゃんも声を出す。

 

「だが、よく考えたら変じゃないか?マクギリス・ファリドは二年前にマクギリス・ファリド事件を起こして事件の最中に死んだはずでは……その死人がなぜここに居るんだ?人間違いではないのか?」

 

私が思った事を姫和ちゃんが代わりに言う。

 

「そういえば……そうでしたね……それじゃあ、可奈美ちゃんが会ったのは別人?」

 

舞衣ちゃんがそう言ったちょうどその時。

 

 

 

 

 

「残念だが、別人ではないんだな。これが」

 

 

 

 

 

その声は障子の戸を開ける音と共に聞こえきた。

 

「真庭学長……」

 

姫和ちゃんが声がした方を見てそう呟く。

みんなも同じ方向を見た。

声の主は今、外廊下から部屋の戸を開けた五箇伝の一角である長船女学院の学長、真庭紗南さんだった。

真庭学長はそのまま部屋に入ってくる。

 

「おー誰かと思ったら、うちの学長じゃねぇか」

 

薫ちゃんが真庭学長にそう言った。

 

「よう薫。聞いたぞ?訓練でずいぶんしごかれてるらしいじゃないか薫」

 

「知ってるなら全部終わったら少しくらいは休暇くれよな」

 

「安心しろ。出世させてもっと忙しくしてやる」

 

真庭学長は笑みを浮かべながらそう言った。

 

「うぃぃぃ……」

 

それに対して薫ちゃんは明らかに嫌そうな声を出した。

すると、今度は私達全員の方を見た。

 

「3日ぶりだな。お前ら。どうだ?少しはこっちにも慣れたか?」

 

真庭学長は私達をリラックスさせようとしているのか普通のノリで私達にそう言った。

しかし、姫和ちゃんは険しい表情のまま真庭学長に向かって口を開いた。

 

「真庭学長……それよりもどういう事ですか?今あなたが言った別人ではないとは?」

 

それを聞いた真庭学長は何だかバツの悪そうな表情を一瞬して頭をかいた。

 

「はぁ……」

 

真庭学長は一度、溜息をつく。

 

皆、真庭学長の方に注目していた。

 

「本題に入ろう」

 

そう言うと真庭学長は一気に真面目な表情に変わった。

その表情は3日前、この隠れ里に来て二十年前の真実の話をした時と同じ真剣さだ。

 

私はなんだか緊張を感じる。

 

「朱音様、フリードマン博士、もうよろしいですね?」

 

「ああ、私は構わないよ。こうなってはもう仕方ないだろう」

 

「はい。私も構いません。これ以上、彼女達に隠し事をする訳にはいきません……」

 

真庭学長は朱音様とフリードマンさんに確認を取ると二人は特に朱音様は思い詰めたように了承した。

それを聞いた真庭学長は何も言わずに頷くと私達の前に座った。

姫和ちゃんが真剣そうに口を開く。

 

「真庭学長……」

 

「まぁ落ち着け十条。今から順を追って説明する。だが、その前に……」

 

真庭学長はそう言うと僅かな間目を閉じてそれから意を決したかのように目をゆっくりと開くと先ほど真庭学長が入ってきた入り口の方を向いた。

 

「……?」

 

皆がそれを見て何をするのだろうかと思う。

真庭学長が声を出す。

 

「……入ってきてくれ」

 

その声はとても静かで落ち着いた様子だった。

 

すると、その声に反応するかのように、入り口の戸がゆっくりと開く。

そして一人の人物が室内に入ってきた。

 

「やぁ、また会ったな衛藤可奈美」

 

知った声が私に向かって向けられる。

 

「あっ」

 

入ってきたのは彼だった。

彼は朝と代わらぬ服装をして同じ笑みを私に向ける。

私は彼の名前を呼ぼうとした。

 

だがその瞬間、だった。

 

「っ!?貴様は!!」

 

「っ!」

 

姫和ちゃん、舞衣ちゃんは部屋の中に入ってきたその人物を見た瞬間、2人は驚くと同時に即座に立ち上がりその人物から距離をとると警戒したように御刀を抜いて構えた。

 

二人が御刀を向ける先には……見間違える事は絶対にない。

彼、マクギリス・ファリドが立っていた。

 

「姫和ちゃん!?」

 

私は二人の行動に驚く。

一方で薫ちゃんやエレンちゃんはやっぱりこうなったかとでも言いたいような表情をしていた。

御刀を向けられているマクギリスさんはというと、御刀を向けられているのに平然そうだ。

 

「こ……これはどういう事だ!?本物のマクギリス・ファリドじゃないか!!」

 

「十条!柳瀬!落ち着け!ここは御刀を納めろ!私が呼んだんだ!コイツと話をしていたらコイツが衛藤と朝に会ったとか言ってたからな。こうなっているんじゃないかと思い連れてきたんだ」

 

真庭学長が二人を制止する。

 

「しかし……」

 

姫和ちゃんはそう呟くが二人は数秒の沈黙の後に姫和ちゃん、舞衣ちゃんは互いを見合うと、しぶしぶ了承し御刀を鞘に納めた。

 

「分かった……」

 

「分かりました……」

 

部屋の中をピリピリとした空気が包む。

 

「ふっ、剣を下げてもらった事、感謝しよう」

 

マクギリスさんが、笑みを浮かべて姫和ちゃん、舞衣ちゃんに向かって言う。

 

「これはどういう事か、ちゃんと説明してもらえるんですよね……?」

 

「はぁ……もちろんだ。順を追って説明しよう」

 

真庭学長が疲れた風に言う。

一方で姫和ちゃんの言葉に朱音様はさらに表情を暗くしたのを私は見逃さなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その話は真庭学長、そして後から入ってきたマクギリスさんが座布団を出して席に着くと始まった。

真庭学長、マクギリスさんの二人は朱音様、フリードマンさんの隣に二人並ぶようにして座る。

 

そして、部屋の中の空気は最悪だった。

 

「まずどこから話したものか……」

 

真庭学長がそう呟くすると、マクギリスさんが口を開いた。

 

「いや、本題に入る前に私の自己紹介をした方がよろしいのではないですかな?真庭学長」

 

「……それもそうだな。良いだろう」

 

「では、諸君、もう知っているかも知れないが、私が2年前、この日本に革命を起こそうとしたマクギリス・ファリドだ。薫君とエレン君とはこれで直接会うのは8回目になるかな?」

 

「……そうなりますネ」

 

「そうだな……」

 

エレンちゃんと薫ちゃんの声が歯切れ悪くなる。

だが、マクギリスさんは相変わらず笑みを浮かべている。

ただしそれは不敵な笑みだ。

私はそこまでマクギリスさんを警戒してるわけではないのだが、その笑みに少しだけ怖さを覚えた。

マクギリスさんが、姫和ちゃんや舞衣ちゃんの方を見る。

 

「そして、君は十条姫和さんだったかな?衛藤可奈美から話は聞いている。そしてその隣は柳瀬舞衣さんだったかな?まぁこれからよろしく頼むよ」

 

「…………」

 

「フッ……どうやらまだ警戒されているようだな」

 

姫和ちゃんはマクギリスさんを睨んだ。

 

「当然だッ!貴様は日本で一番有名なテロリストだぞ!!警戒しない方がおかしいというものだ!!そもそも、なぜ貴様が生きている!そしてなぜ、ここに居る!」

 

「……十条、落ち着け。それとマクギリス、それぐらいにしてもらおうか。話をこれ以上ややこしくしないでもらおう」

 

「どうやら怒らせてしまったようだ」

 

真庭学長がマクギリスさんに向かって静かにしかし、目に睨みを利かせてそう言うとマクギリスさん口を閉じた。

 

「……それじゃあ、本題に入るぞ。お前らの疑問は分かってる。なぜ、こいつが生きていてなおかつ、この舞草にいるのか……そういう事だな?」

 

「はい。その通りです」

 

舞衣ちゃんが真剣な声で答える。

 

「では、今から順を追って話す。そうすればお前達でも話の筋書きだけは理解できるはずだ。筋書きだけ、はな……」

 

そう言うと、真庭学長はどこか遠い目をしながら語り始めた。

 

「全ての始まりは舞草の結成の頃にまで遡る……今から5年前の事だ。当初、舞草は朱音様や私、羽島学長、五條学長を中心に有志の刀使達が伍箇伝や民間から集まって結成された。しかし、当時すでに折神紫は刀剣類管理局の局長にまで昇進していて、もはや有志の刀使だけの力では状況を覆すには困難な状況に陥っていた。そこで、我々は政治的な面から折神紫に対して圧力をかける事を計画した。当時の政府の関係者とコンタクトを取ったんだ」

 

「政府にですか?」

 

舞衣ちゃんが真庭学長に聞く。

 

「そうだ。厳密には警察庁と防衛省だがな……当時はまだ警察や自衛隊の中にはまだ相模湾岸大災厄の真実を知っている者達が居たんだ。防衛省の制服組のトップ、外山之夫統合幕僚長。警察庁の長官、大山坂城長官だ。この二人は20年前の相模湾岸大災厄時でもそれぞれが現場指揮官として事件に対応していた。その為、我々の主張も概ね信じてくれた。これによって我々、舞草は外山統合幕僚長と大山警察庁長官の協力という非常に心強い味方を得る事に成功した」

 

「それで、その状況でどこからこの男が出てくるんだ?」

 

姫和ちゃんが良く分からなそうな表情をする。

 

「ここからだ。だが、それを説明するにはまず、当時の政府内での勢力図を説明する必要がある。当時、刀剣類管理局を巡る派閥は政府内に2つ存在していた。一つは折神紫率いる折神家派。そしてもう一つが……」

 

真庭学長が言おうとしたその時だった。

 

「我々、ギャラルホルンだ」

 

マクギリスさんが口を開いたのだ。

 

「我々、ギャラルホルンは刀剣類管理局と立場を巡って水面下で対立し、ギャラルホルンは名目上は刀剣類管理局傘下の組織ではあったが、その実態は我々の政治的工作によって刀剣類管理局の影響をほぼ受けない独立組織だった」

 

話について行けず私は疑問を口にする。

 

「え?でもギャラルホルンってテロ組織?だったんじゃないんですか?」

 

「テロ組織ではないよ。元々は警察庁刀剣類管理局傘下の組織の一つだ。ギャラルホルンは元々、私が学生時代に作った組織でね。そこでの働きが警察庁に認められ正式に組織化されたのだ」

 

すると、そこまでマクギリスさんが言った所で姫和ちゃんが疑問を浮かべた。

 

「ん?それはおかしくはないか?さっき言っていたその派閥とやらが、ギャラルホルンと折神紫派しかなかったのならば、舞草はどちらに属していたんだ?」

 

「確かに……そうですね……」

 

舞衣ちゃんも疑問を口にする。

それに対して答えるのは真庭学長だ。

 

「……どちらでもあり、どちらでもないと言った方がこの場合は正しいな。我々は特定の派閥にはついていない。派閥はコイツの言った通りギャラルホルンと折神紫派が存在していた。一方で我々、舞草だが、我々はその目的上、秘匿された組織だった。折神紫にバレれば我々の画策は失敗だからな。だから当時はまだ折神紫派にも舞草の存在は知られていなかった。例えるならば舞草は……第三の派閥、だろうな」

 

「第三の派閥……」

 

沙耶香ちゃんが呟く。

 

「もちろん、派閥などという固まった物ではない。我々は別に刀剣類管理局の実権その物が目的ではなかったからな。あくまで折神紫の討伐が目的だった。そんな我々は普段は折神紫派の派閥に属す振りをして、裏では外山統合幕僚長と大山警察庁長官の支援を受けていたんだ。そのおかげで舞草はその勢力を拡大させた。当時の組織の拡大の勢いは、まさに近い将来には、折神紫を刀剣類管理局の局長から引きずり下ろす事ができると思ったほどにな」

 

「そんな勢いだったのらなぜ……」

 

「十条、お前の言いたい事は分かる。ではなぜ、今も折神紫が刀剣類管理局を支配しているのか、だろ?」

 

「ああ……」

 

「それはだな……」

 

真庭学長が言おうとしたその時。

 

「……コイツのせいだ」

 

薫ちゃんが突然腕を伸ばしてマクギリスさんの方へと向けると指差した。

 

「え?どういう事?」

 

私が薫ちゃんに聞く。

すると薫ちゃんも答えた。

 

「コイツが二年前に、例の事件を引き起こしたせいで舞草はぶっ壊れかけたんだ」

 

「どういう事?」

 

私はあまりにもピンと来ない為に聞き返してしまう。

それに対して真庭学長が答えた。

 

「……二年前、この男、マクギリス・ファリドが引き起こしたクーデター事件。マクギリス・ファリド事件の影響でギャラルホルンは組織解体。さらにクーデターを手引きした者、ギャラルホルンのクーデターに協力した者がほぼ全員逮捕された。そして、その中には外山統合幕僚長と大山警察庁長官もいた……これがどういう意味だかわかるか?この二人は実質的にはギャラルホルンに組したメンバーだった。そして、舞草の協力者もギャラルホルンに協力した罪で逮捕された者が多くでた」

 

「え?でも……舞草は折神紫派の派閥だった……んですよね?」

 

「そうだ。刀使を中心としたメンバーはな……だが、逮捕された外山統合幕僚長と大山警察庁長官はギャラルホルン派の中核メンバーであった事がわかっている。そして逮捕された舞草の協力者は全て防衛省、警察庁の内部に居た外山統合幕僚長と大山警察庁長官に従う者達だった。舞草の実体としては事件前はギャラルホルンと折神紫、どちらの派閥にもまたいで存在していたんだ。だが、ギャラルホルン派閥の消滅によって結果として舞草の組織規模は縮小を余儀なくされた。資金面、人員面、政治面、全てにおいてだ。政治的影響に関しては皆無となったと言っても良いだろう。しかも、さらに事態は悪化した。舞草の中で折神紫を支持する者達が現れたんだ。折神紫はギャラルホルンの蛮行を阻止した英雄だとな。現に折神紫は事件中、事件収束のための陣頭指揮を執っていた。これを賞賛する声が刀使だけでなく、当時は世間一般からも上がっていた。これによって舞草のメンバーはさらに少なくなった。創設時は平城学館も舞草のメンバーだったんだが……しかし、平城学館は事件当時、運悪く刀使の部隊が東京に研修として来ていてな。事件に巻き込まれた事もあって、学内でギャラルホルンを打ち倒した折神紫を支持する者が大半を占めたんだ。岩倉学長もこの声を抑えることができず、結果として平城学館は舞草を離脱した……これによって事実上、組織としては最盛期の四分の一以下の規模にまで舞草は縮小したんだ」

 

「そんな事が……あれ?でもおかしくないですか?経緯は分かりましたが、その人が何故ここに居るのかの説明にはなっていない様な気がしますが……それにニュースでは死亡したって……」

 

「その点は私が説明しよう」

 

舞衣ちゃんが鋭い指摘に対してマクギリスさんが言う。

 

「確かに報道では私が死亡したと言われた。そしてそれは報道だけではなく警察や自衛隊も同じ見解だっただろう。しかし、実際は私は奇跡的に東京より脱出する事に成功していたのだ。そして、事件後、私はまだ捕まっていない同志達に連絡を取り一時的にかくまわれ、そこでギャラルホルンの組織再編をする事になった」

 

「だが、先ほど真庭学長がギャラルホルンのメンバーは逮捕されたと言っていただろう?今の話を聞くと、逮捕されていない奴らが居る様にも聞こえるが……」

 

姫和ちゃんが疑いを持った目で聞く。

 

「良い質問だ十条姫和。確かに、残念ながら我々の主要な戦力やメンバーはその大半が逮捕されたと言って良いだろう。しかし、現実はそうではない」

 

「どういう事だ?」

 

「実際に逮捕されたのは政府内のギャラルホルンの協力者と私と共に革命に関わったギャラルホルン奥多摩支部、ギャラルホルン千葉支部のメンバーだ。ギャラルホルンには3つの支部がある。いや、あったか……二つは今言った支部だ。そしてもう一つが京都の今は無き私の母校でもある綾小路総合武芸学舎を拠点とするギャラルホルン京都支部だ。革命前、私は万が一、革命が失敗した場合の事を考えて京都支部には革命には関わらない様にと事前に指示を出しておいたのだ。むしろ、我々と敵対している風に装えとな。その結果、事件後、京都支部はギャラルホルンの解体と廃止に伴い支部も解散となったが、京都支部のメンバー自体は逮捕されなかったのだ」

 

「なるほどな……つまり残党か」

 

「ふっその通りだな。まさか私もこの予備プランを発動させる事になるとは考えてもいなかったよ。残党……虚しい響だ」

 

「だが解せんな。貴様らテロリストの残党が居るという事は分かったが、なぜ貴様がここに居る理由になるんだ?」

 

 

 

 

 

「それは……それは、私が説明します……舞草の創設者として責任は果たさねばなりません」

 

 

 

 

 

すると、朱音様が今まで黙っていたのに急に声を上げた。

しかしその表情は暗い表情をしたままだ。

その場に居る全員が朱音様の方を見る。

 

「……あの事件の後、舞草は空中分解寸前の状態にまで陥りました。今まで私達を支援してくれた人たちの多くが我々の元を離れていったのです……」

 

朱音様は悔しそうに語る。

 

「当時の私達は舞草を存続させる為に多くを模索しました。幾つかの企業にも支援を要請しました。しかしその殆どは交渉の時点で失敗し、辛うじて八幡電子株式会社だけは支援をしてくれる事になりましたが、それだけでは、もはや舞草は立ち行けない程にまで追い詰められたのです。そんな時でした……八幡電子株式会社の方々からある提案を持ちかけられたのです……その提案とはある組織との組織協力案でした。その組織はある出来事がきっかけで組織の規模が大幅に縮小してしまった組織だったのです……」

 

「まさか……その組織というのは……」

 

姫和ちゃんが何かを察したように言う。

 

「そうです。八幡電子株式会社が紹介してきた組織というのは……ギャラルホルンの残党だったのです。彼らは私達舞草に対してギャラルホルンの残党と協力するように働きかけたのです。彼らも人員が足りずに困っていると……」

 

「そ、それは……」

 

舞衣ちゃんが驚愕したような表情を見せる。

舞衣ちゃんだけではない、その場に居る事情をしらない者達全員がだ。

ただ、私の方はというと未だに話がよく理解できていなかった為に頭の中で必死に理解しようと務めていた。

 

「皆さんはギャラルホルンがクーデターを引き起こした時、何故、戦力の少ない彼らが東京を支配する事ができたかその理由は知っていますか?」

 

「ああ……知っている」

 

「あれは忘れられません……」

 

姫和ちゃん、舞衣ちゃんが呟く。

エレンちゃんと薫ちゃんは何も言わないが二人が何を思っているかは雰囲気で分かった。

 

「皆さんもテレビを見ていたのなら分かるでしょう。あのおぞましい殺戮マシンを……」

 

朱音様が思い出したように殺戮マシンと言った、その瞬間。

 

「……おぞましい殺戮マシンとは言ってくれるな。折神朱音」

 

マクギリスさんが突然、不機嫌そうな声を上げたのだ。

マクギリスさんを見ると、さっきまでは何を言われてもずっと平然としていたマクギリスさんの表情が明らかに怒った様な表情をしていた。

 

「まさか、それは私のバエルの事を言っているのではないだろうな?」

 

「その事を言っているのです。マクギリス・ファリド」

 

朱音様がマクギリスさんを睨みつける。

 

「おい、朱音様に対して口が過ぎるぞ。マクギリス」

 

さらに真庭学長もマクギリスさんに対して言う。

 

「あれをおぞましいと言って何がおかしいのでしょうか?刀使の技術を悪用し多くの人々の命を奪ったあれを」

 

「ギャラルホルンにおいてバエルを持つものは唯一絶対の力を持ちその頂点に立つのだ。バエルを持つ私はそのような些末で断罪される身ではない」

 

「その論理はあなた達だけではないですか!」

 

朱音様とマクギリスさんの応酬が続く。

二人はどうやら仲が悪いようだと私は思った。

でも、このままでは話が進まないと思い、私は小さく手を上げた。

 

「あ、あの~……」

 

「え?ああ、すいません。お見苦しい所をお見せしました……」

 

「私も少々意地が出てしまったようだ。もうしわけない」

 

朱音様とマクギリスさんが皆に向かって謝る。

 

「い、いえ……それで、あの、その、バエル?ってなんですか?すいません、よく知らなくって……」

 

「それは……」

 

私の質問を朱音様が答えようとするが、それに対してマクギリスさんが横から出てくる。

その表情は私の目にはどこか嬉しそうにも見えた。

 

「バエルとは我々、ギャラルホルンがS装備の技術を元に我々の技術を結集して現代に蘇ったアグニカ・カイエルの鎧なのだ」

 

「アグニカ・カイエルの鎧?」

 

「そうだ。一応、アグニカ・カイエルについても説明するがアグニカ・カイエルとは今から数百年前、中世の時代のヨーロッパで多くの国々が荒魂によって滅亡の危機に瀕していた時代に人類を救った英雄だ」

 

「ヨーロッパで荒魂が?でも荒魂は日本にしか居ないはずじゃ……」

 

私がそう疑問を言うと補足するようにフリードマンさんが説明した。

 

「……今はね。今では多くの者達は知らなくて当然かもしれないが、今から300年以上前のヨーロッパでは御刀と呼べる物が存在し荒魂も存在していたという事は考古学でも伝承でも現代に伝えられているんだ。ただし、威力の高い鉄砲の出現等によって無くなって完全に廃れてしまったがね」

 

「補足ありがとうフリードマン博士。今の説明にもあったとおりヨーロッパにも荒魂や御刀に類似した物が昔は存在していたんだ。しかし、今では荒魂など、ヨーロッパには何処にもいない。伝承によれば一時は荒魂の軍団まで現れたという……だが、今は一匹たりとも存在しないそれは何故か?理由は簡単だ。英雄アグニカ・カイエルを筆頭とした者達が荒魂を打ち払ったからだ。そして、そのアグニカ・カイエルが身に着けていたという鎧、それこそがバエルなのだ。ただし、私の持つバエルは残念ながらオリジナルではなく現代の技術を使って蘇らせた言わば、複製品だがね」

 

「え、えーっと……」

 

私がいきなりのマクギリスさんの熱い説明に少し困惑していると、朱音様が割って入った。

 

「衛藤さん、気をつけてください。この方はこの日本にアグニカ・カイエル伝説を流布しそれを基にしたアグニカ・カイエルの思想をも広め多くの人々を先導して事件を引き起こしたのです……だいぶ脱線してしまいましたね。では、話を戻しましょう」

 

朱音様は話を仕切りなおす。

 

「先ほど、例のロボット、バエルはS装備の技術を基にしたと言いましたね。そして皆さんには一つ思い出して頂きたいのです。S装備を開発している企業の名前を……」

 

姫和ちゃんがハッとした様な表情を浮かべる。

それは舞衣ちゃんもだ。

 

「八幡電子株式会社……」

 

姫和ちゃんが言う。

 

「そうです。私達が独自に調べた所によると、八幡電子株式会社はギャラルホルンの研究に過去に積極的に関わっていたことが分かっています。恐らく繋がっていたのでしょう。今思えば、もっと慎重になるべきでした……つまり、私達が八幡電子株式会社から支援を受けられる事ができたのは……」

 

「そうなるべくしてなった……という事ですね」

 

「はい、この方は違うとは主張はいますが我々はそう考えています。ですが、追い詰められていた私達としては、もはやその提案に乗らざるを得なかったのです……皆さんの思っている事は分かります。例えその目的が大荒魂の討伐であったとしても、テロリストと協力するなど、許される事ではありません」

 

みんなも当然そうな雰囲気を出す。

 

「ですから私達はテロリストと協力せざる終えないのなら、圧倒的に資金面で劣勢である我々に対して資金面で優れているギャラルホルン側に対し万が一の為の保険として人質を要求したのです」

 

「人質……」

 

物騒な言葉に私は生唾を飲む。

 

「それではその人質というのは……」

 

姫和ちゃんがマクギリスさんの方を見る。

すると、マクギリスさんは笑みを浮かべた。

 

「そうだ。その人質というのは私だ。こちらとしても、組織の規模が縮小し肩身が狭くなっていたのでね。今回の協力案には互いが協力し合うという事で両組織の維持や規模の拡大が可能というメリットがあった。しかし、メリット以上に舞草側のデメリットは大きいだろう。万が一、この情報が外に漏れた場合には舞草の存続が危うくなるのだからね。場合によっては折神紫をうつなどという事は言っていられなくなるだろう。だからこの私が直接、人質となったんだ」

 

マクギリスさんの言葉に朱音様は目を細める。

 

「心配しなくても朱音様、我々はあなた方の情報をリークする気はありませんよ。もはや我々は一心同体だ。それに、人質であるという理由を抜きにしても、私個人も折神紫を倒すという目的に変わりはない。それが大荒魂であるのならなおさらだ。大荒魂を討ち、バエルの持つ力を示さねばならない」

 

「あなたに一心同体などと言われるいわれはありませんね」

 

「ふっどうやら機嫌を損ねてしまったようだ」

 

朱音様が私達の方を真剣なまなざしで見る。

 

「皆さん……これが私達、舞草の今の現状です。理解してほしいとは言いません。むしろ正義のあり方としては間違っていると言われてもしかたありません。しかし、現状では舞草以外には折神紫を倒そうという組織が存在しないのです。ですので、皆さんにはもう一度よく考えて頂きたいのです。本当に私達に協力しても良いのか悪いのかを……明日、いえ明後日にもう一度返事を伺います。それと、今まで隠していた事をお詫びします」

 

朱音様の話はこれで締めくくられた。

しかし、話の内容が内容なだけに、みんな黙り込んでしまった。

エレンちゃんと薫ちゃんに関しては恐らく事情をすでに知っていたと思う。

朱音様が最後の話をした時は本当に悔しそうな後ろめたそうなそんな表情をしていた。

恐らくその悔しそうな後ろめたそうな感情は私達に向けられているものだと薄っすらと感ずいた。

 

そんな沈黙がずっと続くかと思ったその時、最初に口を開いたのは姫和ちゃんだった。

 

「……私はどんな手を使ってでも折神紫を討つと決めた。私は折神紫を討てるのなら私はお前達が何をしようが、してようがどうでも良い」

 

「わ、私も姫和ちゃんに付き添います」

 

姫和ちゃんに続くように私も言う。

すると朱音様は私と姫和ちゃんの方を見る。

 

「本当にそれでよろしいのですか?」

 

「私は……姫和ちゃんに最後まで付き合うってきめたんで」

 

「可奈美……」

 

姫和ちゃんが私を見て呟く。

朱音様はそんな私達を見て何も言わずに目を瞑って頷くと今度は舞衣ちゃん、沙耶香ちゃんの方を向いた。

 

「あなた達はどうしますか?」

 

「私は……すいません。少し考えさせてください……」

 

「私は舞衣と一緒なら」

 

「わかりました。柳瀬さん糸見さん、私達はあなた達の答えが例えNOだとしても、あなた達がここに居る間の身の安全は保障するので安心してください」

 

「わかりました」

 

舞衣ちゃんと沙耶香ちゃんの答えを聞いてこの日の朱音様達と私達との会話は終わり、私達6人は自分達の泊まっている部屋へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結局、部屋に戻っても一言も喋らなかった私達はそのまま朝を迎える事になった。

恐らく皆、真剣に色々考えていたんだと思う。

だって私も色々考えていたんだから。

 

朝、私はまた昨日の朝の様に早めに起きると制服に着替えると、皆を起こさないようにこっそりと部屋を出て行った。

だが、昨日とは違うのは昨日は目が早くさめたからだったが、今は自分の意思で早く起きていた事だった。

 

まだ日も昇りきっておらず朝霧がたちこめる中、私は神社の外廊下を歩いていく。

 

「ここには居ない……どこだろ?」

 

私はそんな事を呟きながら外廊下を歩く。

途中からは靴を履いて庭に出た。

そこから庭を歩いて神社を半周するように今度は神社の正面へと向かう。

 

すると、私はそこで彼を見つけた。

 

彼は神社正面の賛同の真ん中に立ち鳥居の方向を向いて後ろで腕を組んで立っていた。

 

私は彼の元に近寄る。

すると、最初に話をしてきたのは彼からであった。

 

「ふっ……まさかあの話の後に君の方から私の元に来るとは思わなかったな」

 

「マクギリスさん……」

 

私は彼、マクギリスさんに向かって言う。

すると、マクギリスさんはいつもの笑みを浮かべたまま後ろを向き私の方を見た。

 

「あの、ひとつ聞いても良いですか?」

 

「ああ……なんでも聞いてくれてかまわない」

 

私は昨日の話の後からどうしても聞きたい事があった。

 

「どうして、あんな事をしようと思ったんですか?」

 

私はマクギリスさんに聞く。

昨日の夜、私は寝る前に舞草の人に貰った携帯でネットでマクギリスさんが起こしたというマクギリス・ファリド事件について調べたのだ。

 

案の定、マクギリス・ファリド事件と検索するとすぐにマクギリス・ファリド事件を扱ったサイトを沢山見つける事が出来た。

私はいくつかのまとめサイトやウィキで事件の事を詳しく知った。

東京で起こった事、鎌倉で起こった事。

そして、マクギリスさんや朱音様が言っていたバエルという物の事も調べた。

動画サイトを見ればバエルの戦闘する様子も映っていた。

沢山のヘリコプターがバエルに切られて落とされていく様子……。

墜落したヘリコプターで炎上する町の様子……。

マクギリスさんが操る二刀流の白い悪魔を。

 

それを見ると私は分からなくなった。

道場で私とマクギリスさんと切りあった時、彼の太刀からは一切の曇りは感じられなかった。

だから私もやっててとても楽しかった。

 

でも、昨日、バエルがヘリコプターを落とす動画を見てから私は分からなくなった。

動画に映っている物を操っているのが本当に昨日の朝に自分と剣を交えた人物だとは思えなかったのだ。

 

「どうしてとは?」

 

「私、あの後、調べました。なんであんな事件を起こしたんですか?」

 

「事件……か。ふっ確かに事件だな。虚しい響だ。私が革命を成功させていれば、事件とは呼ばれず我々の勝利であった筈なのだがな……まぁ良い。君の質問に答えよう衛藤可奈美。そうだな……昨日話したアグニカ・カイエルの話は覚えているかな?」

 

「はい」

 

すると彼はおもむろにポケットから一冊の緑色の本を取り出すと私に渡す。

 

「これは?」

 

「アグニカの伝記さ。私は彼の様に……アグニカが目指した理想に共感したのだ。生まれや所属など関係なく、己が力を研ぎ澄ますことで、 この退屈な世界に嵐を起こすことができる……純粋な力のみが輝きを放つ真実の世界を……そんな世界を見たかったのだ……ふっ……しかし、あの時は失敗してしまったがね。それに……」

 

マクギリスさんはどこか遠くを見て言う。

 

「それに……?」

 

「それに……私は」

 

マクギリスさんが何かを言おうとする……しかし、その時。

 

「あの時はという事はまだ、諦めていないという事だな」

 

知った声が後ろの方から砂利を踏む足音と共に急に聞こえる。

私はその声の主がすぐにわかった。

 

「姫和ちゃん!?」

 

「お前が出て行くのを見かけてな。ついてきたというわけだ」

 

姫和ちゃんが私を見ていう。

 

「十条姫和か」

 

「そうだマクギリス・ファリド。質問に答えてもらおうか」

 

「愚問だな。私の目的は変わらないよ。しかし、今の私は君と同じだよ十条姫和」

 

「私と同じだと?」

 

「そうだ。確かに私は2年前、革命を起こした。そしてそれは今でも諦めてはいない。しかし、だ。今の私の優先目標は折神紫だよ。しかも、それが大荒魂であるというのならなおさらだ。私は折神紫を討ちバエルの力を世界に示す。そうすれば純粋な力のみが輝きを放つ真実の世界を証明する事ができるのだ」

 

「貴様の言っている事はどうでもいいが……そうだな。昨日は取り乱したが、私はどんな手を使ってでも折神紫を討つことだ。その為なら、舞草であろうが、なんであろうが、私はなんでも利用する」

 

「姫和ちゃん……」

 

私は姫和ちゃんを複雑な気持ちで見つめる。

 

「ふっやはり君達は英雄の娘だな……では、そんな君達に私から提案させてもらうとしよう」

 

「提案だと?」

 

「そうだ」

 

マクギリスさんは楽しそうに言う。

 

「どうだろう。まだ恐らく舞草は動かないだろう?ならば、だ。衛藤可奈美、十条姫和。私と模擬戦をしてみないか?」

 

マクギリスさんからの突然の提案に姫和ちゃんが怪訝な表情をする。

 

「なぜ貴様と模擬戦をしなければならないんだ?」

 

「君達は重要な点を見落としているようだ。昨晩、君達はどんな手を使ってでも折神紫を討つと言った」

 

「私は言ってないんですが……」

 

私は苦笑いを浮かべて二人に聞こえないくらいの小さな声で言う。

でも姫和ちゃんには聞こえていたようで姫和ちゃんが私を横目で睨んでくる。

 

「私は2年前、バエルで折神紫と2回に渡って戦っている。残念ながら私はあの時、圧倒的な力を持つバエルをもってしても折神紫には勝てなかったが……しかし、私は2年前、多くの刀使や自衛隊を倒している。折神紫を討つと言っている君達だ。ならば、この意味は分かるだろう?」

 

「つまり……貴様を倒せないようでは折神紫には勝てないという事か……」

 

「そう言うことだ。で、どうかな?」

 

「…………いいだろう」

 

「姫和ちゃん!?」

 

「それが折神紫を倒す事に繋がるならな……」

 

「それでこそだよ十条姫和。それでは……そうだな、今日は流石に私の方の準備が出来ん。明日はどうだろうか?都合がよければ明日の夜、8時……いや、9時ごろに道場に来たまえ。場所は衛藤可奈美が場所を知っている。私はそこでバエルを用意して待っていよう」

 

「分かった」

 

「それでは私はこれから用があるので失礼する。衛藤可奈美」

 

「え?あ、はい」

 

「君の先ほどの質問にはまたいずれの機会に答えよう」

 

「あ、はい……」

 

そう言うとマクギリスさんは、そのまま神社へと戻っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

夏祭り・夕方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が山向こうに沈み里全体が茜色からさらに暗い色へと変り始めた頃。

夏祭りで盛り上がっていた里のあちこちでは、路上に松明の火の灯りがそこかしろに灯り半ば幻想的な光景を作り出していた。

 

私は一緒にお祭りの屋台を周っていた姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃんの私を含めた6人で神社へ向かう通りを一同浴衣姿で歩いていた。

 

二日前はかなり重い話をして皆の空気も澱んでしまっていたが、日を一日挟んだ事やお祭りのおかげで皆、大分、和やかな雰囲気になった。

 

一番気を張っていた姫和ちゃんも何らかんら言ってお祭りを楽しんだ様だ。

といいつつ私もなのだが。

 

「エレン、そろそろ時間だ」

 

「そうですね」

 

先頭を歩く薫ちゃんとエレンちゃんが急にそんな会話をし始める。

 

「かなみん、ひよよん、あと、まいまいと、さーやにも見てもらいたい物がありマース」

 

「ん?なんだ?」

 

「グランパが今日の祭りのメインイベントに招待したいそうデース」

 

「メインイベント?」

 

そんな会話をしつつ私たちは神社の社への階段を上っていく。

すると、一番上についたとき、私たちの目の前に飛び込んできたのはメラメラと燃える木の柱だった。

それは神社の広場の真ん中に置かれ、周りの人達から注目を得ていた。

 

「きれい……」

 

舞衣ちゃんがそれを見て呟く。

私たちがその柱のそばでその光景を眺めていると。

 

「あっ!姫和ちゃんと可奈美ちゃんみーつけた」

 

聞いた事のある声が背後から聞こえた。

 

「え!?」

 

私は突然の事に驚きの声を出す。

なぜなら、私たちに声をかけてきたのは。

 

「累さん!?」

 

私たちに声をかけてきたのは姫和ちゃんと一緒に二人で追っ手から逃げている時に東京で私と姫和ちゃんをかくまってくれた元刀使の恩田累さんだった。

 

「元気だった?二人とも」

 

累さんは手を軽く振りつつ、笑顔を私たち向けてきた。

私はそれを見てすぐに累さんに駆け寄った。

 

「累さんこそ大丈夫だったんですか!?あのあと……」

 

私がそう言うとそれに対して薫ちゃんが答える。

 

「大丈夫なはずないだろ」

 

「るいっぺは逮捕されてたらしいですよ?折神紫襲撃事件の容疑者の一人として」

 

「えぇ!?それって……やっぱり私たちが押しかけたせいで……」

 

「あ~気にしないで。羽島学長が手を回してくれたからすぐに釈放されたのよ」

 

「そう……だったんですか……」

 

累さんは軽い事のように冗談話を言うかのように笑みを浮かべたまま言った。

すると。

 

「私を忘れてもらっては困るな」

 

もう聞き馴染みの声が累さんの後ろから聞こえる。

それはマクギリスさんだった。

だが、昨日までのマクギリスさんとは少し違っていて昨日までは着ている服装は私服だったのだが、今日の服はなんだか、白、金、青の色で構成されたすごく派手な。

まるでコスプレの衣装のような服装を着ていた。

 

すると累さんはまるで私たち接するのと同じ様にマクギリスさんの方見た。

 

「あっこれはどうも。ご無沙汰です准将。もちろん声をかけてもらった事は感謝しています」

 

「ふっ……あぁ、そうか。だが、直接会うのは3年ぶりだったかな?」

 

「ええ、そのくらいにはなりますね」

 

累さんとマクギリスさんは親しそう会話する。

すると姫和ちゃんは小声で薫ちゃんとエレンちゃんの方に話しかけた。

 

「おい、あの二人はどういう関係なんだ?」

 

「あれ?ひよよんは知らなかったデスか?るいっぺは今は舞草のメンバーですけど、昔はギャラルホルンのメンバーだった事があるんデース。でも結構信用できますよ」

 

「はぁ!?」

 

姫和ちゃんが素っ頓狂な声を出した所で累さんは私たちの方を向いた。

 

「あーごめんね。ちょっと久しぶりで話こんじゃって。えっと、あなたが舞衣ちゃんね?それと、沙耶香ちゃんはお久しぶり~」

 

「え?沙耶香ちゃんは知り合いなの?」

 

「襲った。あの人の家を」

 

「えぇ!?」

 

姫和ちゃんが素っ頓狂な声を出したと思ったら今度は舞衣ちゃんだ。

ちょっとなんだかおかしくて私は小さく笑った。

 

「さ。じゃあ行きましょうか。呼ばれてるんでしょ?あなた達も。ファインマンに」

 

「え?という事はマクギリスさんもですか?」

 

私はようやくマクギリスさんに話しかける。

 

「ああ、その通りだ。一応私も関係上、参加する事になっているからね」

 

「そうなんですか……あの……一つ聞いてもいいですか?」

 

「なんだい?」

 

「その格好は……」

 

「これは」

 

「それはギャラルホルンの正式な制服だよ」

 

マクギリスさんが答えようとした瞬間に横から累さんが答えを言ってしまう。

だが、これで疑問も解決だ。

 

「あーそうだったんですか」

 

「やっぱり可奈美ちゃんもそう思うよね?派手すぎるよねぇこれ。私も前に言ったんだけどねぇ……って、ほら、さっさ、みんなファインマンも待ってるし行こ行こ」

 

「そんなに派手か……?」

 

マクギリスは累さんの派手という言葉に反応していたが、私たちは累さんに急かされる形で神社の舞台の座布団がおかれている席にへと向かったのだった。

マクギリスさんはというと後から入って来て累さんの隣の開いている席に座った。

 

私たちが席に着くと続々と開いている座布団の席にも人が集まり始めた。

その中にはフリードマンさんも居て、私たちは最前列から2番目の席で一緒に座った。

 

それから、十分ほど後だろうか。

 

神社で儀式が始まった。

 

「孝子さんと聡美さんだ!」

 

私は小声で言う。

儀式では舞草の刀使で昨日や今朝、稽古をつけてくれた孝子さんと聡美さんがいつもの長船女学院の制服ではなく巫女装束で御刀を持って舞を踊っていた。

その奥の祭壇では神主さんが御神体の側で儀式を行っていた。

それに朱音様の姿も端のほうに見る事ができた。

 

神主さんが祭壇の扉を開ける。

 

「あれが御神体?何が入っているんだろう?」

 

私はその様子を見てこのような儀式に訪れれば一度は誰もが気になるであろう疑問を口にする。

その答えは私の隣に座っていたフリードマンさんが答えた。

 

「ノロだよ」

 

「え?」

 

「折神家に回収されていないノロがまだ存在していたのか……」

 

姫和ちゃんも驚いている様だ。

 

「驚いた?数はだいぶ減ったけど、この国にはまだこんな風に、ノロを奉る社が幾つかあるんだよ?」

 

累さんがフリードマンさんを挟んで教えてくれる。

 

「奉る……」

 

「そう。丁重に敬い奉るんだ。可奈美君はそもそもノロがどのようにして生まれるのか、知っているかい?」

 

「え、えっと……」

 

「御刀の材料。珠鋼を精錬する工程で不純物として分離される」

 

私が答えに困っていると舞衣ちゃんが後ろから助け舟を出してくれた。

 

「さすが、舞衣君だ。御刀になる程の力を持つ珠鋼から分離されたノロは御刀とほぼ同等の神聖を帯びている。今だ人の持つ技術ではこれを消し去る事はできない」

 

「でもそのまま放置しちゃうと荒魂になっちゃうから折神家が管理してるって」

 

私は学校で教わった事を思い出しながら喋る。

 

「うん。不正解だな」

 

フリードマンさんは残念そうに言う。

 

「うぅえ!?あっ……」

 

予想外の反応に私はつい大きな声を出してしまった。

儀式を行っている朱音様や周囲の人からの目線を浴びる。

 

「少し場所を変えようか」

 

それを見てフリードマンさんはそう言った。

累さんも苦笑いを浮かべていた。

 

私はさすがに恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じたのだった。

 

 

 

そして屋外、火の燃えている柱の近く。

 

 

 

私たち一同はそこに集まっていた。

そこで私たちはフリードマンから話を聞いていた。

 

「かつてノロは全国各地の社でこんな風に祭られてきた。それを今の様に集めて管理する様になったのは明治の終わり頃だね。主に経済的な理由から社の数を減らしたかった当時の政府が合祀を進めていったんだ。当然そのままではノロはスペクトラム化し荒魂になってしまう。そうならない様に当時の折神家がノロの量を厳密に管理していた。でも、戦争の足音が大きくなるにつれ、軍部を中心にノロの軍事利用を声が高まりたががはずれてしまったんだね」

 

フリードマンさんのメガネは燃えている火のせいか反射する光のせいでその下の目を見ることはできなかった。

難しい話けど深刻な、重要な話をしている事は私にも伝わった。

 

「軍事利用……」

 

姫和ちゃんがそう呟く。

 

「ノロの持つ神聖。つまり、隠世に干渉する力を増幅させ、まさに君たち刀使にのみ許された力を解明し戦争に使おうとしたのさ。だが、当時の日本軍はこれを解明することはできず結局前大戦でも使われる事はなかった。しかし戦後、米軍が研究に加わった事でノロの収拾は加速した。表向きは危険なノロは分散させず、一箇所に集めて管理した方が安全だと言って日本中のノロが集められていった。しかし、思わぬ結果が待っていた。ノロの結合。スペクトラム化が進めば進むほど彼らは知性を獲得していった」

 

「それって、ノロをいっぱい集めたら頭のいい荒魂がでいあがったって事ですか?」

 

「ねね!」

 

私のその質問に後ろで薫ちゃんの肩に乗る、ねねが得意げな表情をエレンに向ける。

 

「あは、簡単に言えばそう言うことだね。今や、折神家には過去に例が無い程膨大な量のノロが溜め込こまれている。それが……」

 

「タギツヒメの神たる由縁か……」

 

フリードマンさんの結論を姫和ちゃんが納得したように言った。

 

「問題はそれだけではないわ……」

 

するとそれに対して累さんがいつにもない程真剣そうな表情とトーンで言った。

 

「もしもその大量のノロが何かの弾みで荒魂に……いえ、大荒魂になってしまったら、もう私達にコントロールするすべは無いの」

 

「あの相模湾岸大災厄の様にね……」

 

「どういう意味だ」

 

フリードマンさんの口から出た相模湾岸大災厄の単語に姫和ちゃんが反応する。

 

「あの大災厄はノロをアメリカ本国に送ろうと輸送用のタンカーに満載した結果起きてしまった事故……つまり人の傲慢さが引き起こした人災だ」

 

フリードマンさんが重い事を言うように語尾を強くして語った。

 

「彼らの眠りを妨げてはならなかった……ノロは人が御刀を手にするために無理やり生み出された言わば犠牲者なんだ。元の状態に戻す事が出来ないのならせめて社に奉り安らかな眠りについてもらう。それが今の所我々にできる唯一の償いなんだ」

 

「犠牲者?荒魂が?」

 

姫和ちゃんが眼光を鋭くして言う。

 

「それじゃあ、私達がやってきた事って!」

 

舞衣ちゃんもだ。

それぞれが声を上げる。

 

「刀使たるもの、御刀を使い荒魂となってしまったノロを払い鎮める。その行いはちゃんと人を救ってきたわ。でも……」

 

「刀使の起源は社に勤める巫女さんだったそうだね。荒魂を切る以上、その巫女としての勤めも君達はちゃんと受け継いでいでいかなきゃならないって事さ」

 

こうしてフリードマンさんの話は終わった。

私達はこの学校で教わってきた事を根底からひっくり返す様な衝撃的な話に誰一人口を開かなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この話はかなり後で累さんから聞いた話である。

 

私達がフリードマンの話を聞いて、分かれてから累さん、フリードマンさん、朱音様、マクギリスさんの四人は神社の離れで話をしていたそうだ。

 

「彼女達の様子はどうでしたか?」

 

「さすがに堪えた様です」

 

「そうでしょうね……」

 

「伍箇伝すら、折神紫によって歪められた事実を教えてきた。そう簡単には受け入れられないでしょうな。特に舞衣君は優等生ですから」

 

「受け入れてもらわなければなりません。刀使であるのならなおさら」

 

「彼女達はどうするでしょうか?」

 

「わかりません……ただ、どのような決断をしようとも、私はそれを尊重したいと思います」

 

「それも、我々舞草の勤め、ですな」

 

「それはどうかな」

 

累さん、フリードマンさん、朱音様の話は綺麗にまとまったと思ったその時。

障子に軽く背中を預けて縁側の方に立っていたマクギリスさんが口を挟んだ。

 

「……どういう意味ですか?」

 

朱音様が怪訝な表情をする。

 

「ふっ……これは君達、刀使のあり方に関する問題だ。だから、私は極力口を挟むつもりは無い。しかし」

 

そう言うとマクギリスさんは真剣な表情で3人を見た。

 

「ただ伝統にすがる。それで果たして良いのかと私は思うよ。フリードマン博士。あなたは彼女達にノロの軍事利用に関して反対の立場をとった。と私は解釈している。それで間違いないかな?」

 

「ああ、それで問題ない」

 

「朱音様と累には聞かなくても答えは決まっているだろう。だが、ここはあえて私の意見を言わせてもらおう。私はノロの軍事利用……軍事を含めた技術革新こそが、刀使の未来を切り開く物だと確信している。例えば今回話題になっているノロの刀使への投与も私個人としては大した問題ではないと思っている。むしろ医療分野での研究が深まるのなら進めるべきだ。それで救える命もあると……私は思う。その点だけで言えば私は折神紫の現在の方針には賛成の立場だ。しかし、たった一ヵ所にノロを集めるのだけは危険すぎるとは思うがな……」

 

「あなたは刀使では無いからその様な事が言えるのです。ノロを体内に投与するなど刀使としてあるまじき行為です」

 

「折神朱音。いや、あなた方には問題の本質が見えていない様だ」

 

「それはどういう意味ですか?准将」

 

累さんも怪訝な表情をする。

 

「君達はそもそも御刀とはノロとは何だと考えている?フリードマン博士。あなたは先ほどノロを神聖なものだと言った。しかし、それは断じて違う。この二つは現状ではただ単に危険な物質にすぎんよ」

 

「……」

 

「近年、荒魂による民間人や刀使の被害者は少なくなっている傾向にある。これは何故か?それは折神紫による技術革新によって荒魂に対する素早い対処が可能となったからだ。これを否定する事はできまい。しかしだ。それでも刀使には毎年の様に死者は出ないとしても重軽傷者が非常に多い。私の知っている限り、ここ最近で最も大きな被害は長船女学院の笹野美也子という生徒だろう。彼女は荒魂との戦闘で右目の視力と左腕の自由を失っている。君達もこの一件は知っているはずだ」

 

「それは……」

 

朱音様が暗い表情をする。

 

「この様な事件はなにもこれが始まりではない。過去に遡れば折神紫体制以前では死者までが数年に一度のペースで出ていた。珠鋼やノロの軍事利用、医療などの技術革新が進めばこの様な被害は最小限に抑えられるだろう」

 

「それが貴方のバエルだとでも言うのですか?」

 

「ふっ……その通り、と言いたい所だがそれでは60点だな。では、より現実的な話をしよう。累、近年刀使の数は全国的にどの様に推移しているのか知っているかな?」

 

「え?確か……若干減少傾向にあったと思います」

 

「その通りだ。近年の少子高齢化の問題は刀使にも無縁ではない。刀使は人気の職種だ。今はそれで何とか持っているが、今後、十年二十年三十年ともなれば話は全然違う物となるだろう。ただでさえ、刀使になるには御刀の適正がなければならない。果たしてその時代の刀使は現在の戦力を維持できているのだろうか……恐らく現行を含めて君たちの主張する旧来の体制では維持は不可能だろう。ではその時代の刀使達の犠牲者は一体どれだけの数になるのか。考えるだけでも恐ろしい事だ。恐らく刀使だけではなく民間人の犠牲者も増える事になるだろう。だから、私はそれを可能な限り少なくするには珠鋼やノロの軍事利用、医療などの技術革新が重要だと考えている」

 

「確かに君の言う技術革新自体には反対はしないよ。でもね、私は君が作ったバエルの様な危険な兵器を生み出すような軍事利用やノロを人間の体内に入れるような行為は倫理的な観点からもすべきではないと考えているよ」

 

「それによって救える命があるとしてもかね?」

 

「そうだ。人間には越えてはならない一線がある。それに、君は先ほど、ただ伝統にすがると言ったね?では君のギャラルホルンはどうなんだい?ギャラルホルンも同じではないのかな?アグニカ・カイエルの思想に妄信し、バエルを信仰するその様は私から見れば刀使……いや、比べるのもおこがましいね。時代錯誤も良い所だと私は思うよ」

 

フリードマンさんがマクギリスさんの言葉に反対を示しさらに皮肉をこめて言う。

マクギリスさんは不機嫌そうな表情をした。

 

「……フリードマン博士。あなたは何か勘違いをしている様だ」

 

「ほう。勘違いというのであれば、どこが勘違いなのかを指摘してほしいね」

 

「荒魂に関して言えば三百年前、欧州で荒魂が引き起こした厄災戦と呼ばれる戦争でアグニカ・カイエルは思想や出自に関係無く多くの者達から支持を集め、荒魂と戦いそして勝利した。その彼は荒魂を葬るべき存在であるとした。崇め奉るものではないとね。彼は荒魂を滅びるべきものだとして、彼や彼の下に集まった人々は純粋な力のみによって欧州から荒魂を根絶させたのだ。私は人間にとってただ有害であるのならば荒魂は根絶すべきだと考えている。かつて欧州において成功した事が現在の我々にできない筈はない。その点では、あなた方と我々の思想は対立していると言える。だが、ギャラルホルンは荒魂だけに固執する組織ではない。我々は新たな世界を作る為に行動している。アグニカ・カイエルは生まれや所属など関係なく己が力を研ぎ澄ますことでこの退屈な世界に嵐を起こす事ができる世界を提唱した。このアグニカの思想はその後の欧州世界の秩序の基礎を築き上げたと言っても良いだろう。フリードマン博士、今の日本はかつての欧州と似ているとは思わないか?荒魂が闊歩し、なおかつその社会では多くの歪が生まれている。多くの人々はその歪に気づいていないが、その歪は確実に広がっている。いや、歪みに関しては日本だけではない。アグニカを失い三百年がたった世界中の様々な国々でただ力を持つだけの者達が弱者を虐げている。この状況を打開するには我々は原初に絶ち帰らねばならないのだ。アグニカ・カイエルの魂に」

 

「それを時代錯誤だと言っているのだがね……世界を本当に変えたいのであればアグニカ・カイエルや遺跡荒らしをしてバエルを持ち出すべきではないよ」

 

「はぁ……フリードマン博士の言う通りです。なぜ最後にアグニカ・カイエルが出てくるんですか……」

 

朱音様は溜息を吐くと頭を押さえる。

するとマクギリスさんは笑みを浮かべた。

 

「ふっ……やはり、君達と私は進む道が違うようだな」

 

そう言うとマクギリスさんは縁側の方へと向き3人に背を向けた。

 

「私は折神紫を倒すまでは君達には協力しよう。しかし、本来の契約通り、この一件が終わった後は協力関係は破棄させてもらう」

 

「ええ、改めて言われなくても、もとからそのつもりです」

 

朱音様ははっきりとそう言った。

そして、マクギリスさんはそれを聞くと累さんにまた明日会おうとだけ言って部屋を去っていったという。

この話を聞いた時はやっぱり朱音様とマクギリスさんは仲が悪かったんだなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も着替えたのか」

 

姫和ちゃんは私を見てそう言った。

私はあのフリードマンさんの話のあと、制服に着替えると縁側の所でひとり座っていた姫和ちゃんに近づいていっていた。

 

そして姫和ちゃんの隣に座る。

 

「楽しかったね。お祭り」

 

「ああ……」

 

「お母さん達も一緒に居たりしたのかな?」

 

「どうだろうな……」

 

「…………」

 

「………………」

 

「可奈美……ん?」

 

長く感じた無言の後に姫和ちゃんが私に何かを言いかける。

だが、その時。

 

「……小烏丸」

 

「千鳥も……」

 

私達の持つ御刀、私の千鳥、姫和ちゃんの小烏丸が共鳴を始めた。

それを見て私はなんだか笑みがこぼれ出る。

 

「運命……だったのかな?お母さん達が手にした御刀を持つ姫和ちゃんと私が出会ったのは」

 

「……」

 

私の言葉に姫和ちゃんは答えず神社の庭の方を見る。

 

「行ったのかもな」

 

すると急に姫和ちゃんがそんな事を言い始めた。

 

「え?」

 

「お祭りだ」

 

姫和ちゃんが笑みを浮かべる。

 

「お前の母親と私の母と一緒に」

 

「うん。きっとそうだよ」

 

私達二人は互いに笑みを浮かべたのだった。

 

ちょうどその時。

 

「あっ花火だ」

 

「そうだな」

 

里の方から花火が上がった。

色とりどりの花火が夜空に咲き誇る。

 

私と姫和ちゃんはその光景をただ何も言わず、とはいっても一緒に居てなんだか楽しくぽかぽかとした温かい感情で見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後7時半過ぎ。

私たち一同は朱音様やフリードマンさん、累さんがいる部屋にやって来ていた。

その目的は二日前に考えておくようにと言われていた舞草に協力するかしないかの答えを話すためだ。

 

「では、あなた達は我々と行動を共にすると言うのですか?」

 

朱音様が私たちに聞く。

 

「はい。前にも言ったとおり、歪みを正し刀使を本来の役目に戻すのであれば目的は同じです。私はその元凶、折神紫を倒す」

 

姫和ちゃんが朱音様にしっかりと筋の通った答えを言う。

折神紫の部分は語尾を強くして。

しかしこれに対して、朱音様は少し心配そうな表情をして隣に座るフリードマンさんの方を見た。

 

「優秀な刀使が増えるのは喜ばしい事だと思いますが?」

 

「あなたは……」

 

朱音様は一瞬溜息交じりに小さく呟く。

そして一瞬の間をおいて朱音様は私達の方を見た。

 

「そうですね。気持ちは分かりました。舞草はあなた達を歓迎します。ただし……」

 

朱音様が真剣な表情で歓迎の言葉の後に何かを言おうとする。

しかし、その時だった。

 

「大変です!!」

 

廊下のほう側のふすまが突然、勢いよく開かれ孝子さんがそう言って部屋に入ってきた。

 

「何事だ」

 

するとその瞬間にフリードマンさんの表情が強張り強い口調で孝子さんに聞いた。

それに対して孝子さんは焦った様子でこう言った。

 

「特別祭祀機動隊が里に踏み込んできました!」

 

「なんだと!?」

 

「なんて事……」

 

孝子さんの発した言葉にフリードマンさんは驚愕した表情を浮かべ、朱音様も信じられない様な表情をしたのだった。

 

私はこの時、大変な事になるとすぐに直感で感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらは、特別機動隊です。この地域は特別災害予想区域に指定されました。我々の指示に従い、速やかな行動をお願い致します――』

 

私たちが神社の建物の外に出るとそんな拡声器で呼びかける男の人の声が響いていた。

私たちは途中、累さんとも合流すると急いで神社の広場へと向かう。

この神社は山の上に作られているから里で何が来ているのかを見渡す事ができるのだ。

 

私たちがそこに到着すると、私たちよりも先にその場所に立っている人がいた。

腕を後ろで組んで背が高く金髪の髪に派手な服装を来た彼。

マクギリスさんだ。

 

「君たちも来たか」

 

「准将!いったい何が!?」

 

累さんがマクギリスさんに聞く。

私たちが焦っている一方でマクギリスはいつもとは変わらない雰囲気だ。

 

「それは直接見たほうが早いだろう」

 

マクギリスさんはそう言うと里のほうを見た。

私たちもマクギリスさんの立っているあたりに着くと里のほうを見渡す。

すると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

 

お祭りの出店が出ている通りでは警察の機動隊が舞草の刀使たち対峙していたり、刀使たちが機動隊に銃を向けられ逮捕される光景が広がっていたのだ。

 

「折神家!?」

 

「荒神じゃなさそうだな……」

 

「ねー……」

 

そのあまりの光景に姫和ちゃんは驚きの声を上げ、薫ちゃんも、ねねもまずそうに言う。

 

「我々は既に罪人扱いというわけか……」

 

フリードマンさんも厳しい表情で言う。

 

「でも……どうしてこの里の場所が……」

 

「方法など幾らでもあるさ。だが、今はそんな詮索をしている場合ではないだろう」

 

「貴方の意見に賛同するのは癪ですが、その通りです。今はそんな詮索をしている場合ではありません」

 

累さんの疑問にマクギリスさんと朱音様が答える。

 

「この里に居る人間を全員拘束しようと?」

 

「だろうね。その上で舞草に関わる人間を選別し逮捕するつもりなのだろう。さて、いかがなさいますか?」

 

エレンちゃんにそう言うとフリードマンさんは朱音様にそう聞く。

 

「ここで捕らえられる訳にはいきません」

 

「では、戦略的撤退といきますか」

 

「撤退ってどうやってデスか?」

 

「この調子だと難しいかもしれんが、潜水艦だろうな。あれの所属はアメリカ海軍のままだ。警察組織の彼らが手を出せる相手ではない。よろしいですか朱音様?」

 

「ええ」

 

朱音様がそう頷くとフリードマンさんはすぐに手を一回叩いた。

 

「決まりだ!」

 

「了解です。では、二手に分かれましょう。私たちは朱音様達を桟橋へ」

 

「私は残っている刀使達を集めてここで迎え撃ちます」

 

フリードマンさんに米村さんと、小川さんがそう言う。

 

「聡美、あとは任せた」

 

「ええ!」

 

そう言うと小川さんは走っていった。

その様子を見て私も何かをしなくちゃと思った。

 

「あの、私達は?」

 

私ははっきりとフリードマンさんにそう聞く。

するとその質問には米村さんが答えた。

 

「お前達は私と来い!エレンと薫もだ!」

 

「では、そうと決まれば行動だ!」

 

フリードマンさんがそう言うと私達は皆頷き、移動を始めた。

ただひとりを除いて。

 

私はそれに気がつくとすぐに口を開いた。

 

「あっ!皆、ちょっと待って!マクギリスさんはどうするんですか!?」

 

「あっ忘れてました」

 

私の言葉に一同は立ち止まり朱音様からは失念していたと声が漏れる。

 

「君達は先に潜水艦へと向かうと良い。私はバエルをとりにいかねばならない。桟橋で合流を。間に合わなければ出港してかまわない」

 

「わかりました。ではそのように」

 

マクギリスさんの言葉に朱音様はそう返すと今度こそ全員で行動し始めたのだった。

マクギリスさんは道場のほうへ。

私達は潜水艦へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな抜け道が……」

 

姫和ちゃんが洞窟の中でそう呟く。

 

「ここは大昔の水軍の拠点のひとつだからね。いざと言う時の備えは万全だ!さぁ行こう!」

 

私達は、洞窟などの抜け道を通って岩で断崖絶壁となっている海岸線に作られた小さな道を進んだ。

洞窟を進んだ後はロープでその細い道に下りたりして私達は十数分くらいたった後だろうか?

私達は潜水艦が留まっている海に面した広い洞窟内の桟橋のすぐ側にいた。

しかし……。

 

「やはり既に手がまわされていたか……」

 

孝子さんが、岩の陰から少しだけ顔を出して桟橋のほうを覗き込み小さく言う。

 

「撃ってくるデスか?」

 

「たぶんね。ほら、見てごらん」

 

フリードマンさんが冷静に状況を説明する。

 

「彼らはスペクトラムファインダーを装備しているだろう?舞草の構成員は人間だよ?摘発するのにあんな物が必要だと思うかね?」

 

「じゃあ……」

 

私は良くわかっては居ないものの感覚で何となく察しがつく。

 

「伊豆での事を思い出して下さい。目の前に荒魂がいたというのにスペクトラムファインダーはピクリとも反応しませんでした」

 

「まさか、官給品に細工を?」

 

エレンちゃんの言葉に舞衣ちゃんが答えそれをフリードマンさんに向かって言う。

 

「恐らくそうだろう。アレはS装備同様、折神家から齎された技術で作られた物だ。今なら、そう。御刀に反応するように設定されている、といった所か」

 

フリードマンさんがそう言ったちょうどその時。

潜水艦の前に陣取る機動隊に動きがあった。

 

「荒魂の反応複数あり!すぐ近くです!!」

 

「気をつけろ!総員警戒!!」

 

機動隊が一斉に私達の隠れている方向を見てくる。

 

「っ!?」

 

「このままだと、我々は荒魂として処理されるぞ!」

 

フリードマンさんが焦った口調で言う。

 

「荒魂が……!人を荒魂呼ばわりするか!!」

 

姫和ちゃんが怒りのこもった声で言う。

 

「くっそ!行くぞ!!」

 

孝子さんが御刀を握って警官隊に突撃しようとする。

 

「お待ちなさい」

 

だが、それを朱音様は冷静な口調で止めた。

 

「彼らは命令に従っているだけです」

 

「わかっています」

 

孝子さんは朱音様にそう言われると冷静になった様で一瞬気がついたように言った。

そして孝子さんは岩陰から出て行くと銃を持った警官隊の方へと走る。

その警官隊からは。

 

「本当に刀使が荒魂に!?」

 

「う、撃て!あれは人ではない!荒魂だ!!」

 

困惑の声がこちらにも聞こえる。

だがしかし、次の瞬間には耳が痛くなるほどの銃声が洞窟内にこだました。

 

ズダダダダダと銃声が始まる。

 

孝子さんと、私達と一緒についてきた舞草の刀使2人も警官隊へと一気に切り込む。

警官隊の盾を装備した人たちの上を飛び越え3人は御刀で警官を何人も峰打ちで気絶させていく。

 

だが、その時。

 

銃声とは違うズガンという思い音が響いた。

瞬間。

 

「ぐわっ!?」

 

舞草の刀使の一人の胸の部分に矢が刺さる。

警察が使用したのは特殊なボウガンだった。

 

「っ!?写しをはがすな!」

 

孝子さんはその刀使を仲間の刀使と抱えつつ一旦、私達が隠くれる岩陰へと下がると矢を受けた刀使を運ぶ。

そこまで来ると私と舞衣ちゃんが手伝い岩陰に矢を受けた刀使を隠した。

孝子さんは一旦下がり、もう一人の刀使が戦闘を継続する。

 

「気をつけて!」

 

「しっかりしろ!今、写しをはがせば生身の体に矢が残る!」

 

そう言うと孝子さんは刺さっている矢を持った。

 

「少し痛むぞ……」

 

「やって!」

 

負傷した刀使が痛みをこらえて言う。

 

「いくよ!」

 

そういった瞬間に孝子さんは矢を引き抜いた。

矢が刺さっていた刀使は矢が抜けた瞬間に力尽き写しが消え、気絶する。

 

「これって……!」

 

「刀使の動きを封じる為の武器だろうね……!」

 

舞衣ちゃんは刺さっていた矢を見て驚き、フリードマンさんは語尾を強めてそう言った。

 

「姉さまが……こんな物まで用意するなんて……!」

 

そしてそれは朱音様も同じ……いや、もっとも驚愕していたの朱音様だった。

信じられない、まさにそういった表情を朱音様はしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから孝子さんと、舞草の刀使の人による警官隊との激しい戦闘は最終的に孝子さんが矢の攻撃を胸に受けつつも辛うじて勝利を収めた。

ただ、警官隊と同様に私達についてきた舞草の刀使の人も警察からの激しい攻撃で写しは剥がれすでに気を失ってしまっていた。

 

だが、このタイミングは脱出の唯一の時だった。

 

一番長い荷物、つまり御刀の祢々切丸を持つ薫ちゃんが先に潜水艦に乗り込み物資搬入用のハッチへと急ぐ。

 

「朱音様!お早く!」

 

「すみません」

 

孝子さんがそう言うと朱音様を先等にフリードマンさん、累さんの順で桟橋を渡って潜水艦へと乗り込む。

 

「衛藤、柳瀬はやくしろ!みんな乗り込め!」

 

次は私達だ。

私達は続々と桟橋を渡って行く。

 

全ては順調に行っていると思っていた。

しかし……。

 

「ふふふ……」

 

先ほどまで警官隊から隠れていた岩陰のそばで一人の少女が不敵な笑みを浮かべていた。

よく見れば、御前試合の時に見た娘だ。

孝子さんはそれに気がつくと桟橋へと向かっていた足を止める。

 

「舞衣ちゃん早く!」

 

「うん!」

 

私は潜水艦のハッチの所で最後に渡ってきた舞衣ちゃんを待っていた。

だが、孝子さんが動こうとしない事に気がつく。

 

「先にいけ……朱音様を頼む!」

 

「孝子さん!?」

 

舞衣ちゃんも声をあげる。

そしてそのほぼ同時に潜水艦はゆっくりと動き始めた。

 

「あーあ。間に合わなかったかーざーんねん」

 

「……神社に居た刀使はどうした?」

 

そう言うと孝子さんは御刀を構える。

 

「刀使ー?あれがー?ぜーんぜん手ごたえ無かったんだけどー?あっでも、この御刀持ってた人はちょっとはマシだったかな!」

 

そう言うと少女は一本の御刀を孝子さんの方へと投げる。

 

「聡美……」

 

「やるのー?そんな状態で?待っててあげるからその矢抜いたら?」

 

そう言うと少女は楽しそうに写しをはる。

 

「なんなら手伝ってあげようか?」

 

少女は挑発的な事を笑みを浮かべたまま言う。

 

「必要ない……荒魂に頼っているような刀使に負けはしない!!」

 

聡美さんは弓を抜くとそう少女に言い放つ。

すると少女は、途端に不機嫌そうな顔をした。

 

「……あっそ」

 

「っ!?」

 

瞬間、少女は迅移を使って聡美さんに近づくと聡美さんを御刀で突き刺した。

 

「ぐわあああああああ!?」

 

少女は物凄いスピードで聡美さんを切っていく。

 

「聡美さん!!」

 

「あの娘、すごく強い……」

 

舞衣ちゃんが声を上げ私は少女の剣撃に驚く。

すると、潜水艦のハッチから姫和ちゃんが上がってきた。

 

「おい!お前達早く中へ入れ!!」

 

姫和ちゃんが私達に言う。

だが、姫和ちゃんが上に上がってくるまでには聡美さんと少女との戦いは終わっていた。

少女は聡美さんに御刀を突き刺すと怒った様子で何かを言う。

 

だが、それがなんなのかは、もうそこから潜水艦が離れている為に聞こえない。

すると、少女は突き刺していた御刀を抜き聡美さんの写しが剥がれた事を確認すると今度は私達の方を見た。

 

その瞬間に私達は気づく。

 

まだ、潜水艦は出港したばかりで刀使ならば桟橋を使わなくても飛び乗れる距離に居たのだ。

 

少女と私の目線が合う。

 

そして少女は笑みを浮かべた。

 

来る。

 

私が……いや、恐らく姫和ちゃんも舞衣ちゃんもそう思った。

しかし、その時だった。

 

突然、突風が巻き起こったのだ。

上の方から強い風が吹き私達三人と少女の髪を舞い上げたのだ。

そしてその突風と共に奇妙な聞いた事のない音が響いた。

何かが勢いよく噴射されている様な音を私達はその音がする方向を向いた。

そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうやら、少し遅かった様だな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拡声器で喋ったような機械を通して聞こえる声が洞窟内に反響する。

 

「マク、ギリス……さん?」

 

私は呟く。

そこには……。

 

「あ……あれは!」

 

「まさか……!」

 

姫和ちゃん、舞衣ちゃんが私と同じ方向を見て驚いた様に言う。

 

そこには、私達の上、厳密に言えば洞窟の海側の、少女がいる船着場側の方寄ってそれは突然上方より現れた。

 

二つの翼から蒼い光を噴射しながら強烈な風を巻き起こしながら現れたその巨体。

大きさは三メートル……四メートルくらいだろうか?

人型で、背中に生えた翼から光を噴射しその白銀色の巨体を浮かばせている。

両手には金色に輝く二刀の大きな剣を持ち、そして。

 

そして、私達を見下ろす様なその人型の頭部分の目からは赤い光がまるで獲物を獲たかのように光っていた。

 

その外見はどうみても、ロボット。

でも、その威圧感は悪魔や天使とも言って良いとも思えた。

それは洞窟の海側の出口の上からまるで落ちて来るかのように。

かといってそのまま落ちるという意味ではなく途中、途中で背中の噴射している青い光を調整しながら降りてきていた。

 

間違いなかった。

 

そのロボットは私達がぼぅっと見ている間に少女と対峙するように船着場へとガシャンと重い音を立てて降り立つ。

 

その間、3秒あるかないか。

 

間違いないこのロボットは……。

 

「ガンダム・バエル……」

 

私はそのロボットの名前を呟いた。

 

間違えるはずがなかった。

 

「…………」

 

私達が気をとられていると。

そのロボット。

ガンダム・バエルから再び話しかけられた。

つまり、それを操縦するマクギリスさんからだ。

 

『衛藤可奈美』

 

「あっ……は、はい!」

 

急に話し掛けられて私は内心ビックリする。

本当にマクギリスさんがあの中に居るんだなぁと思った。

 

『ここは私が時間を稼ごう。緊急時のマニュアルに従い、後ほど合流ポイントで合流する。そう、折神朱音に伝えてくれ。さぁ早く君達は潜水艦の中へ』

 

「わ、分かりました!」

 

私はそれを聞くとまだ呆然と見ている姫和ちゃん、舞衣ちゃんに呼びかけて潜水艦の中へと入る事にした。

 

「あ、ああ……そうだな」

 

「さあ、舞衣ちゃんも!」

 

「う、うん!」

 

そう姫和ちゃんの返事を聞くと姫和ちゃんから先にハッチの梯子を降りていく。

それを確認すると私は次に舞衣ちゃんを先に潜水艦の中へと入らせた。

そして最後に私がハッチの中へと入る。

 

私はハッチを閉める前にもう一度だけ、マクギリスさんの乗るバエルの方を見た。

 

もう潜水艦は洞窟から最後尾が完全に出た状態だ。

だが、その後ろではバエルと少女が対峙している。

 

でも、なんだろう……。

 

「おい可奈美!はやくハッチを閉めろ!」

 

「う、うん!ごめん……」

 

私は姫和ちゃんに言われ潜水艦のハッチを閉める。

 

私の心になにか引っかかった所があった。

 

マクギリスさんのバエルと向かい合っていた少女。

少女も私達の様に驚いていた様にも見えたのだが……。

 

私の目には私達の驚愕の感情とはどこか違う……なにか特別な感情も篭っていた様に見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっ!ただいま美濃関学院に警察が突入しました!繰り返します!美濃関学院に警察が突入しました!』

 

そんなテレビが全国に一斉に速報として流れていた。

私と舞衣ちゃんが通っている私達の学校に警察の人達が次々と入っていく……。

悪夢でも見ているかのような現実離れした光景だ。

 

『各県警は大規模テロ関与の疑いで、伍箇伝の長船女学園と美濃関学院に強制捜査に入りました』

 

テレビの女性アナウンサーがそう伝える。

その番組のテロップはこうだ。

 

速報。

長船だけでなく、美濃関も関与?

伍箇伝テロ関与の疑いありか?特別機動隊により強制捜査。

 

『当局によりますと、両校共に刀使による戦闘部隊を編成し、テロ行為の準備を進めていた疑いです。警察は複数の学校関係者の身柄を拘束し現在、取調べを行っています。なお、警察はこの事件について深く関与していると思われる折神家関係者の女を重要参考人としてその行方を追っています』

 

中にはこんなテロップを使っているニュース番組もあった。

 

速報。

長船と美濃関が大規模テロ関与の疑い。

ギャラルホルンの再来か?

 

いずれにせよ日本中の多くの人々が不安そうにこのトップニュースを注目していたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞草の隠れ里から潜水艦に乗って脱出した私たちは、その後、時間にして夜が開けるまで海の底で時間を過ごした。

 

でも、その間に一度だけ海の上に一回だけ浮上して、マクギリスさんのバエルと合流しバエルを潜水艦の中に回収したりもした。

 

潜水艦の中では皆が落ち込んだ雰囲気だった。

 

特に薫ちゃんやエレンちゃんの落ち込みようは端から見ていても分かった。

二人は何も言わなかったがそれでもそれは伝わってきたのだ。

 

それもそうだろう。

なにせ二人は私たちよりも長く舞草に関わってきたのだから。

 

そして、私たちは潜水艦のこじんまりとした家具などが一式置かれている部屋で私、姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃん、累さん、朱音様と一緒に状況の確認をしていたのだった……。

 

「……長船と美濃関が?」

 

「平城も警察によって封鎖されたそうです」

 

累さんの報告に朱音様は信じられないといった様な深刻な表情をしていた。

累さんの言葉にも事態の深刻さがにじみ出る。

 

「うちの学長は!」

 

「……」

 

私の隣に座っている薫ちゃんが珍しく語尾を強めて累さんに聞くが累さんは無言のまま首を横に振るう。

 

「……」

 

累さんの答えに薫ちゃんは俯いた。

いつもなら絶対にこんな薫ちゃんは見れないだろう。

それだけ事態が悪化している事を表しているのだと私も分かった。

 

「孝子さん達どうなったんだろう……」

 

舞衣ちゃんが呟く。

だが、それに答える声は存在しなかった。

すると、丁度その時、思い鉄の扉が開く音がしてフリードマンさんが入ってきた。

見るとその後ろにはマクギリスさんの姿も見える。

 

「各地に潜伏中の舞草のメンバーも皆、折神家の監視が強化されて身動きが取れなくなっているようだ。一気に窮地に追い込まれたねぇ……だいぶ前から仕組んでいたんだろう」

 

「どうして里の事が知られていたのでしょう」

 

フリードマンさんがやられたという表情で言ったあと、累さんが聞く。

 

「舞草内に内通者がいた痕跡はないし、あの里の情報は地図やネット、衛星からもリアルタイムでデリートし続けているからね。知られていたというより、何らかの方法で見つけたんだろう。もしかすると、我々の今の位置も筒抜けかもしれないな」

 

「まさか……」

 

フリードマンさんの話を聞いた朱音様は真っ先に疑いの目をマクギリスさんの方へと向ける。

すると、マクギリスさんは壁に背を預け腕を組んだ状態で言った。

 

「ふっ……その様な詮索は不要だよ折神朱音。私は今回の件には何もからんでいない。むしろテロリストである我々が公的機関の裏組織である君たちを裏切るメリットがないからな」

 

「はぁ……そうですよね」

 

朱音様も分かってて言ったのだろう。

疲れた様にため息をはいて言う。

 

「私はフリードマン博士の仮説には賛成しよう。だが、恐らくこの潜水艦の位置がバレている可能性はほぼゼロに等しいだろう」

 

「なぜそう言えるのかね?」

 

「この潜水艦の所属はアメリカ海軍だ。つまり、この潜水艦の位置が折神紫にバレているのであれば、それはアメリカが我々を売ったという事に他ならない。もしそんな事が起きているのだとすれば、我々はすでにあの洞窟で海上自衛隊なりに押さえられていたはずだ。だが、現実はそうはなっていない。そして、今も我々は無事のままだ。これが意味するのは言わなくも分かるだろう」

 

「なるほど。本国はまだ我々を見限ってはいないという事か……」

 

「だが、それも時間の問題だろう。なぜなら、もはや君達、舞草は我々ギャラルホルンと同じテロリストの烙印を押されたのだからな。やってくれるな。折神紫……」

 

「…………」

 

マクギリスさんが不敵な笑みを浮かべて舞草の事をテロリストとそう言うと朱音様は俯いたまま悔しそうな表情をした。

だが、すぐに前を向く。

 

「大荒魂が力を増している様ですね……」

 

「問題は邪魔者がいなくなった奴らが次に何をするつもりなのか……」

 

「まさか!二十年前のような!?」

 

フリードマンさんの言葉に累さんははっとした様子で言う。

 

「それで済むかな?今や折神家に集められたノロの総量はあの時以上のものだよ」

 

「あっ……」

 

累さんはフリードマンさんの指摘に言葉を失った。

 

「まさに、ステイルメント。打つ手なしだね……」

 

フリードマンさんのその言葉に一同はさらに沈黙する。

だが、それをエレンちゃんが破る。

しかし、それはとても希望的でもなんでもない事だ。

 

「このまま予定通り舞草に向かいますか?」

 

だが、その言葉にフリードマンさんと朱音さまは苦しそうな表情をした。

 

「いっそ、国外にでも逃げるかい?この調子だと恐らくアメリカになるとは思うけどね」

 

フリードマンさんは苦笑いを浮かべてそう言った。

 

敗北。

 

その言葉が誰の心の中にも浮かんだのだった……。

 

だが、その時。

 

「まさかとは思うがここで逃げ出すのではあるまいな?」

 

マクギリスさんだった。

マクギリスさんが口を開いたのだ。

しかし、その表情はどこか残念そうに聞こえた。

 

「戦力も殆ど残されていない今の状態でどうしろと?いずれにせよこの状態では身動きがは取れないよ」

 

フリードマンさんが聞く。

 

「ふっ……なるほど。脱出を選択するか。私の知る君達なら、当然戦いを選ぶものかと思っていたが……」

 

そう言うとマクギリスさんは、私たちに背を向けた。

 

「何処へ行くのですか?」

 

朱音様が聞く。

 

「君達が何処へ行こうとも私はかまわない。しかしだ。私と君達の契約は履行してもらおう」

 

「何を求めると?」

 

「この艦の進路を鎌倉の方面へ向けてもらいたい。沖合い100kmほどの地点でも構わん」

 

そう言うとマクギリスさん鉄の扉を開けた。

 

「私は包囲網を単独で突破する」

 

そう言い残しマクギリスさんは部屋から出て行ったのだった。

私たちはただ、この状況で単独で突破すると言い放った彼を半ば驚きをもって見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はひとり潜水艦の中を歩いていた。

あの状況確認の後、私たちは一度自分の部屋に戻ったのだが、私はトイレに行くと言って部屋から出てひとり考えていた。

 

私はどうすれば良いのだろうかと。

 

正直、この状況にはもう絶望感しか感じていなかった。

舞草の人たちもやられてしまって、もう残っている刀使は私達だけ。

最初の状況に戻ったと言えばその通りかもしれないけど、最初の時だって私達の学長や、舞草の人たちが助けてくれたからここまで逃げる事ができたのだ。

でも、もうその舞草の人たちの力は頼れない……。

 

言うなれば日本全てが私たちを狙っている……。

 

でも……。

 

それでも姫和ちゃんは例え独りでも紫様を倒す為に行くだろう。

その時に私はどうすれば良いのだろうか。

 

フリードマンさんの行ったとおり逃げる?

姫和ちゃんをおいて……そんな事は私にはできない。

 

じゃあどうすれば良いのか。

姫和ちゃんと一緒に二人だけで紫様を倒しに行く……?

無理だ……。

 

正直、私にでもこのままたった二人だけでは紫様の所まではたどり着けるとは到底思えない。

みんなを頼る?

 

もしかしたら、命の危険があるかもしれないのに……。

 

私はどうしたら良いのだろうか……?

 

そんな事を考えている内に私は薄暗い潜水艦の格納庫らしき場所にやってきていた。

そこは多分、ミサイルか何かを発射する為の場所なんじゃないだろうか。

S装備の射出コンテナが並んで置いてある。

 

私はそこを真直ぐ歩いていく。

 

明かりは潜水艦の中ではよく見る赤い照明だけだ。

 

すると、私は一番奥の方だけが赤い照明ではなく何かが普通の白いライトか何かで明るく光っている様子が見えた。

 

私は光に釣られる虫の様にその光に吸い寄せられていく。

 

すると、私はそこで金属音が響いているのに気がついた。

何かを組み立てる様な調整している様なそんな音だ。

 

そして、私はそこにたどり着く。

 

「あっ……マクギリスさん」

 

「ん?衛藤可奈美か」

 

そこに居たのはマクギリスさんだった。

マクギリスさんは胸の部分が大きく開いたガンダム・バエルの前で座り、そのバエルの中に繋がる幾つもの配線が繋がる数台のノートパソコンの画面を見て何か作業をしていた。

 

「どうした?」

 

マクギリスさんはさっきの部屋での事は、まるで無かった事の様に私に普通に話しかけてきた。

 

「あの……マクギリスさんは、この後どうするんですか?」

 

私はその時、心から疑問に思っている事をそのまま口に出してしまう。

 

「ふっ……先ほど言った通りだよ。私は単身で折神紫を討つつもりだ」

 

「確かにそのバエルなら出来そうですね……」

 

「ああ、私と折神紫には少なからずの因縁がある。私はバエルの力を奴らに示さねばならない。それに石動、私の副官には万が一私が居なくなった場合に備えて指示を出している」

 

「そう、ですか……」

 

「ところでだが、君が聞きたいのはそんな事ではあるまい」

 

「え……?」

 

マクギリスさんは作業の手を止めると、立ち上がり私を見る。

 

「君はどうしたいんだ衛藤可奈美」

 

「それはどういう……」

 

「そのままの意味だよ。私はこれから、単身で折神紫の元へと行くつもりだ。だが、君達は、いや。君はどうしたいんだい?このまま逃げるのも良いだろう。確かに理性的な判断だと言える。しかし、十条姫和は違うだろう。あの目は私と同じ目だ」

 

「私、私は……」

 

「……まぁ良く考えると良い。だが君は……」

 

「……?」

 

「ふっ……いや、なんでもないよ。さあ、早く仲達間の元へと戻りたまえ。そこで答えを見つけると良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、戦いたい」

 

私と姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃんは休んでいるように累さんに言われた為、船室に戻っていた。

その場に居た全員が何もいわずにその場が沈黙に支配される。

そんな時に私達の中で一番最初にそれを言ったのは舞衣ちゃんだった。

 

「マクギリスさんみたいな事言うつもりはないけど……だって……あんなの酷すぎる……」

 

「舞衣ちゃん……」

 

私は意外な舞衣ちゃんの反応に少し驚く。

 

「十条さん……」

 

舞衣ちゃんはそう言うと立ち上がると姫和ちゃんの方を真剣な眼差しで心の靄が晴れた様に話し始めた。

 

「私、あなたに戦う理由が無いって言われて、ずっと考えてた。自分がどうしたいのかって……私は可奈美ちゃんに追いつきたくて、沙耶香ちゃんを放っておけなくて、ここまで来たの。ただそれだけで、状況がどうなっているのかも、紫様の事も実感がなくて……」

 

「舞衣……」

 

沙耶香ちゃんが呟く。

 

「でも、聡美さんや、孝子さん、他にもお世話になった沢山の舞草の人たちが戦う姿を目の当たりにして……改めて思ったの。これ以上目の前の人達を傷つくのは嫌だって……!私の力じゃすべての人達を助ける事はできないかもしれないけど、せめて見える範囲の人達だけでも助けたい。それが私の戦う理由だって」

 

その瞬間、もう諦めかけていたその場の全員の心に多分、舞衣ちゃん気持ちは届いていた。

それは無論、私にも。

 

「私も」

 

「沙耶香ちゃん」

 

「私にはそれしか出来ないから」

 

沙耶香ちゃんが舞衣ちゃんの言葉に一番に反応しそれは他にも広がる。

 

「オレも里の皆の敵を討つって決めた。このまま黙っていられるか……!」

 

薫ちゃんだ。

薫ちゃんからは怒りのこもった声が聞こえる。

 

すると、エレンちゃんから冷静な声が響いた。

 

「ちょっと待ってクダサイ!残った刀使は私達だけなんですヨ?そもそもこの状態でどうやって……」

 

「この艦を下ろしてもらって孝子さん達の無事を確かめに行きます」

 

「それから鎌倉に戻る」

 

「敵は一人じゃありませんよ?大荒魂に辿り付くまでには、きっと沢山の障害がありまス」

 

「十条さんは、一人でその障害をかいくぐって紫様に一太刀入れました」

 

舞衣ちゃんがそう言うと今までベットに横になっていた薫ちゃんが一気に起き上がる。

 

「そこのペッタン女にできてオレ達にできないはずは無い」

 

「ねー!」

 

薫ちゃんとネネもそう言う。

するとエレンちゃんはため息を一つつくと立ち上がった。

 

「やれやれデース。分かりました。五人だけでは頼りないですから私も一緒に行きますよ!」

 

エレンちゃんは笑みを浮かべて言う。

そして、姫和ちゃんの方を向いてウインクをした。

多分、最初からこの答えになると分かっていたのだ。

 

私はなんだか嬉しくなった。

 

「姫和ちゃん!皆で行こう!」

 

私は姫和ちゃんに向かってそう言う。

 

「……良いのか?」

 

姫和ちゃんが皆に聞く。

それに対しての返事はもちろん全員がイエスだった。

全員の返事を聞くと姫和ちゃんも薄っすらと笑みを浮かべた。

 

「ありがとう」

 

姫和ちゃんが真摯にそう言う。

なんだかこっちまで気恥ずかしくなるほどだ。

 

だが、その時、誰かのお腹の音がなった。

 

「今の……」

 

「お腹の音だよね?」

 

「ひよよんデスか?」

 

「ち、違う!」

 

「……私」

 

腹の虫がなったのは沙耶香ちゃんだった。

 

「そう言えば、お昼食べるの忘れてたね」

 

舞衣ちゃんが思い出すように言う。

そうだ。

 

言われて見れば今日は色々あったせいで何も食べていなかった。

そう意識すると、なんだか私のお腹もすいてくる。

 

「腹がへっては戦はデキマセン!潜水艦の非常食なら沢山ありますヨー!」

 

「あんまり美味くないがな……」

 

「ねぇー……」

 

なんだか皆の顔に笑顔がまた戻ってきて私も嬉しかった。

私も笑みを浮かべる。

 

しかし、その時だった。

 

「ッ!?」

 

「なっ……今……これ!?」

 

「なんだこれは!?」

 

突然の事だった。

その場に居た全員の体から写しの様な写しがダブっているかのような変な現象が起きたのだ。

それにその瞬間、背筋がゾクゾクの嫌な感じがした。

 

そしてそれは、その場に居た全員がだ。

 

皆が困惑する。

 

「えっ」

 

「なっ……」

 

「ワッツ!?」

 

よく見ればネネも同じ現象が起きていた。

 

後々分かる事だがこの現象は日本中で起こっていたらしい。

 

私達はすぐに朱音様、フリードマンさん、累さんがいる部屋に走った。

 

私達が来るとすぐにフリードマンさんから第一声がとんだ。

 

「どうした!」

 

見るとフリードマンさん以外のその場に居た全員にその未知の現象が起こっていた。

だが、丁度その時、その現象は収まっていった。

 

「あっ……戻っ……た?」

 

「今のは一体……」

 

「グランパはなんともなっていませんデシタね……」

 

「ああ……」

 

するとフリードマンさんは深刻そうな表情をした。

それを見た舞衣ちゃんが言う。

 

「フリードマンさん……何か、知っているんですか?」

 

そして、フリードマンさんは重そうな口を開いたのだった。

 

「……この現象は刀使達にしか起こらない……以前同じ現象が確認された事がある。20年前のことだ……恐らく……隠世で何か大きな変化が起こったのだろう…………そして、大荒魂が出現した……」

 

フリードマンさんの言葉にその場に居た誰もが息を呑む。

それもそうだ。20年前の大荒魂といえば一つしかない。

 

全ての元凶……相模湾岸大災厄だ。

 

「……これは国家レベルの災害です。一刻の猶予もありません。この事をすぐにでも人々に知らせなければ」

 

朱音様が言った。

 

「どうするんですか?」

 

累さんからは当然とも言える反応が返ってくる。

だが、私達が思っていたよりも自分達以外の国家レベルでの危機を目の前にした朱音様の対応は早かった。

 

「まず、真直ぐ横須賀へと向かいます。報道陣を集められますか?」

 

「なるほど。マスコミを使うのか。今、貴女が姿を表せば国中の注目を集めるでしょうね」

 

朱音様は頷く。

 

「そこで私が全ての真実を語ります。折神家が隠してきた事も……そして、タギツヒメの事も」

 

「それが明らかになれば、もはやこの国だけの問題だけでは無くなるかもしれないな……だが、折神紫がそれを許すとは思えん。最悪の場合もありえます」

 

フリードマンさんは目線を鋭くして言う。

 

「私に何が起きようと、舞草には協力者が沢山居ます!」

 

朱音様が語尾を強めていうと今度は累さんが珍しく大きな声を出した。

 

「駄目です!朱音様の代わりは居ません!」

 

「逆に言えば、貴女さえ無事ならチェックメイトにはならない。この例えは不敬ではありますがギャラルホルンの様に……」

 

「ですが!…………」

 

朱音様は声を上げようとするが、反論ができずに口を閉じてしまう。

 

再び室内が沈黙に包まれる。

 

「では、横須賀からは私達は別行動をとります」

 

すると、今度は姫和ちゃんが沈黙を破った。

その発言に朱音様、フリードマンさん、累さんは驚いた様な表情をする。

 

「なにを、するつもり……?」

 

「折神紫を討てば全ては終わる」

 

「攻撃は最大の防御と言いマース!」

 

「そんな無茶な!」

 

「あなた達……」

 

朱音様、フリードマンさん、累さんは私達の顔をまじまじと見る。

すると、累さん私達の顔を見てソファに座り込んだ。

 

「……止めても無駄なようだね。朱音様といい、君達といい、本当に刀使というのは……」

 

「分かりました。お願いします」

 

「朱音様!?」

 

累さんは私達の行動を止めようとしない朱音様に驚きを示す。

 

「ですが、せめて私にできる事はお手伝いさせてください。あなた達が戦いやすくできる様……少しでも多くの敵を私の元へ引き付ける様にしましょう」

 

「朱音様……」

 

朱音様の自分の身を危険にまでさらす行動に舞衣ちゃんは感謝からか声を漏らす。

 

「ところで、どうやって折神紫の元へたどり着く?」

 

「え?それはー……」

 

薫ちゃんの質問にエレンちゃんが困る。

すると、その時だった。

 

私の頭の中にある光景が思い浮かんだのだ。

そこで私は声を上げる。

 

「ねぇ、あれ使えないかな?」

 

 

 

 

 

この何気ない私の考えが後に包囲網の突破口になるとはこの時は考えてもいなかったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そっか……6人で行くんだ――

 

――うん……皆が姫和ちゃんと一緒に戦ってくれるって言ったから――

 

異常に濃い霧が立ち込める場所で私はともう一人の少女は階段に座って話していた。

少女は一見すると自分と同じ位の年齢に見えた。

 

何処か古めかしい学生制服を着た彼女は私と同じ御刀、千鳥を持って見つめている。

 

今私が座っているこの場所が何なのかは分からない。

神社の様にも見えるしお寺なのかも知れないが結局は謎だ。

 

ただ一つだけ分かっている事は、ここが夢の中だという事だ。

 

私は昔から度々この夢を見る。

昔から何度もこの夢を見ているが起きると何故か忘れてしまう不思議な夢だ。

でも、怖い夢ではなくて、私にとってはとても楽しみな夢だ。

 

私は夢の中でこの隣の少女に御刀の稽古をしてもらったり、悩み事があれば相談にのってもらえるのだから……。

 

この少女は一体何者なのか……。

 

実は、今私の横に座っている少女は私の剣の師匠でもある……お母さんなのだ……。

 

厳密に言えば高校生の時のお母さんだ。

 

――ふふ、良かったね――

 

お母さんが立ち上がる。

 

――でも、強いよ。紫は――

 

そう言うお母さんの声は真剣そのものだった。

 

――分かってる……あの人が御刀を持ってるとこ、一回見たから……――

 

――そっか……まぁ、強いって言っても、私ほどじゃないけどねぇ~――

 

――えぇ~そうなの?――

 

お母さんが気を楽にして言った事に私は興味が出る。

 

――ふふふ――

 

お母さんは私に気を使ってくれているんだとすぐに私は分かった。

お母さんは今日ここに来てから気を落ち込ませていた私に元気をつかせたいのだと思った。

やっぱり、昔のお母さんも私の知っているお母さんと代わらない。

 

――ねぇ、可奈美。刀使って素敵だと思わない?――

 

――ほえ?――

 

急に違う話題を振るお母さんに私は素っ頓狂な声を出してしまう。

 

――人を守って感謝されて剣術も学べる!――

 

お母さんは御刀を構えながら楽しそうに言う。

 

――最高だよね!――

 

――うん!――

 

私は笑顔で頷いた。

 

――その上、福利厚生はバッチリだしね☆――

 

なんだか、最後に星のマークが付きそうなイントネーションでお母さんは私にウインクをしながら言った。

私はなんだかおかしくなった。

 

――えーそこー?――

 

私は笑いながら言った。

 

――ふっふっふ、っとそう言えば――

 

すると、そんな楽しい会話をしていた中、急にお母さんが思い出した様に言った。

 

――そういえば可奈美さ。前に不思議な男の人に会ったって言ってたじゃん?結局あの後に何か進展あったの?――

 

――マクギリスさんの事?――

 

――うんうんそうそう――

 

お母さんが言っているのはマクギリスさんの事だった。

以前、私はマクギリスさんと最初に会ったばかりの日の夜にお母さんにマクギリスさんの事を言ったのだ。

 

――それが……えっと、何て言ったら良いんだろ……――

 

――どうかした?――

 

――師匠……前にも言ったけど私、あの人と一回しか剣を打ち合った事ないんだけど、あの人からは、何ていうか……変な感じがしたんだ……――

 

――変な感じ?――

 

――今日だってそう。舞草の里が襲われて、それから潜水艦で逃げてた時も、あの人、一人で包囲網を突破するって言って不機嫌そうに部屋から出て行っちゃたんだ――

 

――ふーん。変わってるねぇ――

 

――お母、師匠もそう思う?すごく強いんだけど、でもね。なんだか……あの人を見てると、寂しそうなな感じを受けるんだ……――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可奈美ちゃん!そろそろ時間だよ」

 

眠りから目を覚ますと目の前に舞衣ちゃんがいた。

どうやら私を起こしてくれた様だ。

 

「ん……おはようー」

 

私は舞衣ちゃんに言う。

すると薫ちゃんが私を見て呆れた顔を向けた。

 

「こんな時によく眠れるな……」

 

「どこでもすぐに眠れる事も刀使の大事な資質デス!」

 

エレンちゃんが面白そうに言う。

私はベットから起き上がると御刀を手にした。

 

すると丁度その時、累さんが部屋に入ってきた。

 

「みんな!そろそろ横須賀だよ!」

 

「はい!」

 

「ねー!」

 

累さんの声で皆に緊張感が走る。

私たちは自室から出ると作戦の準備の為に廊下を歩いていった。

 

「ねぇ!大荒魂を倒したら皆で美味しいもの食べに行かない?」

 

私は皆の緊張を解す為に声をかける。

 

「そういう事なら私がご馳走してあげる」

 

私の意を汲んでくれたのか累さんが話に乗ってきた。

 

「Oh~!るいっぺ、お腹太いデース!」

 

「わざと間違ってるだろ」

 

エレンちゃんの反応に薫ちゃんがツッコミをいれた。

良かった。

少しだけど皆の緊張がほぐれたみたいだ。

あとは……。

 

「やった!姫和ちゃん!デザートはもちろんチョコミントアイスだよね!」

 

私はまだ一人、固い表情を隠していなかった姫和ちゃんに声をかける。

 

「コース料理確定かよ」

 

薫ちゃんの言葉に送れて姫和ちゃんは表情を崩した。

 

「人をチョコミントのアイスがあれば良いみたいに言うなっ」

 

累さんはそんな私たちを見て少しだけ、少しだけだけど安心した様子を示した。

 

「皆、無事に戻って来てね。美味しいお店探しておくから」

 

累さんは笑みを浮かべた。

 

「「はい!」」

 

私たちはそんな累さんに向かって大きく返事をした。

私も皆も分っているのだ。

累さんは笑ってくれているが内心はすごく私たちを心配してくれている事を。

 

「十条さん?」

 

すると姫和ちゃんは舞衣ちゃんに近づいた。

 

「お前が全体の指揮を取れ。お前の指示があれば、きっと折神紫まで辿りつける」

 

「えっ」

 

舞衣ちゃんは驚いたような表情をした。

たぶん。

舞衣ちゃんは姫和ちゃんにそんな事を言われたのが意外に思えたのだろうと私は思った。

姫和ちゃんは舞衣ちゃんの為に戦う理由がないなら戦うなと気を使っていたから。

でも今は戦う意思を認めている様だった。

 

でも、今の目の前の様子を見てて私はなんだか嬉しかった。

 

姫和ちゃんはもう独りぼっちじゃない。

 

そう確信できたのだから。

 

「お前にはその力がある。孝子先輩達もそう言っていただろう」

 

「十条さん……」

 

「姫和で良い。舞衣、後ろは任せたぞ」

 

そう言うと姫和ちゃんは笑みを浮かべた。

舞衣ちゃんもそれを見て嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「うん姫和ちゃん!」

 

 

 

それから私達七人は潜水艦の中にある作戦司令室にやって来た。

司令室はとても薄暗い部屋だった。

室内の明かりは幾つも点灯しているコンピューターの画面の明かりだけだ。

累さん曰く、この部屋は正式な名称ではCICという部屋なのだそうだ。

本来は船の指揮をする部屋なのだそうだが、今、この場には八人しか居なかった。

 

「それでは皆さんこれより本作戦の最終確認を行います」

 

モニターのみが点灯している薄暗い司令室内で朱音様が作戦の説明を開始した。

私達、六人はテーブル型の大型モニターを挟んで朱音様の前に並んだ。

 

「我々の目標は私の姉……折神紫にとりついた大荒神の討伐です。今回の作戦は奇襲作戦となります。この後、この船は横須賀港に到着します。すでにフリードマンさんの働きかけにより複数の報道陣が横須賀港には到着している筈です。そこで私は報道陣の前に素顔を晒し、そこで全国民に向けて今回の件の真実を語ります。彼らはすでに里を墜した事で勝利を確信しているはずです。そこに私が姿を表せば恐らく本部の刀使や警察の戦力を集める事が可能でしょう。あなた方は私に彼らの目がそそがれている間にS装備を装着の上、強襲コンテナにて射出。折神家の本部を強襲します。なにか質問はありますか?」

 

「私は無いな」

 

姫和ちゃんが納得して頷く。

すると、舞衣ちゃんが手を上げた。

 

「あの、すいません。ひとつ良いですか?」

 

「なんでしょうか」

 

「あの人……マクギリスさんはもう居ないんですよね?」

 

「ええ、あの方はすでに今から三時間前の浮上時にこの船より単独で出発しています」

 

「マクギリスさんはどの様に行動するつもりなんでしょうか?場合によっては作戦が変わってしまうと思うんですが……」

 

舞衣ちゃんは懸念した様に言う。

すると、私は初耳の話に驚いて目を見開いた。

 

「えっ!?マクギリスさんもう居ないの!?」

 

「何だお前、そんな事にも気づかなかったのか……」

 

薫ちゃんが呆れたように言う。

 

「かなみんが、寝てる間にあの人はこの船から出発しまシタ」

 

「えぇ~!なんで起こしてくれなかったの!?」

 

「この状況で良く眠ってたからな。起こさないでおいたんだ。眠れるにこしたことはない」

 

エレンちゃんと姫和ちゃんが私の質問に答えた。

すると、私がその答えを聞いたのを見ると朱音様は話を戻した。

 

「話を戻しましょう。柳瀬さん。彼の点は安心してください。あの方はここを去る際に我々の作戦の邪魔はしないと約束しました。また、現在も彼とは通信でやり取りをしていますのでこちらの動きも分かっている筈です」

 

「分かりました」

 

「この作戦は皆さんの活躍が頼りの作戦です……本来ならばこの様な無理な作戦はしたくはなかったのですが……私も皆さんが戦いやすくなるように出来うる限りの事はするつもりです。作戦の成功を切に願います」

 

「「はい!」」

 

私たちの返事が司令室に響いた。

 

そして作戦は時を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィンと私の耳に甲高い機械音が響く。

視界は殆ど真っ暗だ。

ただ、私の目の前のモニターのみが光を放っている。

私はただ目を瞑りこれからの作戦の為に精神を統一させていた。

 

「…………」

 

私が目を瞑っている間にも甲高い機械音はどんどん高くなっている。

すると、その時だった。

 

『皆さん!私は折神朱音です!私の話を聞いてください!』

 

その時、強襲コンテナの内部にて、通信画面越しに外の声が入ってきた。

映像はなく、音声のみだが、その声は朱音様その人だ。

 

『今、この国に大きな危機が迫っています!二十年前の、いえ、それ以上の災厄が起ころうとしているのです。二十年前の災厄の元凶。大荒魂が再び蘇ろうとしています!』

 

最初の予定通り、私達の乗った潜水艦は今、横須賀の港に居る。

そして、今、この船の上では朱音様が港に集めたマスコミの前に立って私達を送り出す為の時間稼ぎをしてくれているのだ。

 

今頃、この潜水艦の周りにはマスコミの他にも沢山の警察や刀使達が集結しここを包囲しているはずだ。

 

『刀使の皆さんは感じたでしょう!先ほどの不思議な現象を!大荒魂が現れる前兆です。もはや一刻の猶予もない……』

 

すると、朱音様がそこまで言い終えた所で目の前の画面に緑色の文字が表示された。

 

――カウントダウンスタート……10、9、8、7――

 

カウントダウンスタートの文字が表示された瞬間、ガコンという小さな音と共に私が乗る強襲コンテナが上に上がっていく感覚が湧き上がった。

エレベーターに乗っている感じだ。

 

いよいよだ……流石の私もなんだか緊張してくる。

 

『どうか!皆さんのお力をお貸しください!』

 

その言葉が合図の様な感じだった。

 

――2、1――

 

0と数字が表示された瞬間。

私の体は強烈な轟音と共に今までに感じた事のない衝撃を感じた。

 

「くっ……!」

 

今までに感じた事のない圧力に私は声を漏らす。

これが出発前に聞いたGというものだろうとはすぐに分かった。

 

そしてこの衝撃と圧力は私を乗せた強襲コンテナが潜水艦の本来は大きいミサイルが発射する為にあるという格納スペースから空へと打ち上げられたから発生したものだ。

 

外の様子は分からないが、私以外にも姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃんを乗せた強襲コンテナが潜水艦より発射されているはずだ。

 

そして、その目標地点は大荒魂、紫様が居る刀剣類管理局の本部でもある折神家の本家その物である。

 

 

 

私を載せた強襲コンテナが射出されてから、どれ程の時間がたった時だろうか。

私は必死にコンテナの射出に伴う衝撃と振動に耐えていたのでその時間は長く感じてしまったが、強襲コンテナは恐らく1分もしない内に、射出の時とは比べ物にならない程の衝撃に襲われた。

 

「っ!!」

 

頭が若干くらくらとするが、それもすぐに治まる。

なぜならば、先ほどまでずっと続いていたGや機械の振動が途端に停まったからだ。

 

「…………」

 

すると、私の目の前のハッチ、つまり強襲コンテナの扉がプシューと空気を抜くかのような音と共にゆっくりと開いた。

それと同時に私をコンテナ内で固定していた安全装置や拘束具が外れる。

 

ハッチが開かれた瞬間、私の目には装着しているS装備のバイザー越しに宙に舞う土埃が目に移映り、そして、私の頬を夏の夜の生暖かい風が撫でていた。

 

私を乗せた強襲コンテナは無事に折神家の本部の敷地内へと降り立つ事に成功したのだ。

 

周囲を見れば、ここは敷地内の駐車場の様であった。

 

私はS装備がちゃんと可動している事を確認すると、皆との集合地点となっている御前試合が行われた広場へと急いだ。

 

素早く高くジャンプすると屋根の上に上りそのまま高速で移動する。

 

私は前にも学校の実習でS装備を装着して実際に動かした事があるが、やっぱりS装備はすごいと改めて思った。

写シも迅移も使っていないのに、人間の常人を遥かに超えた動きができるのだ。

S装備は刀使をサポートする為に作られた一種のパワードスーツ……ってフリードマンさんや学校では教わった。

でも、S装備の稼働時間はたったの30分だけ……とにかく、とにかく急がなければならない。

 

すると、私が集合地点に降り立ったちょうどその時。

他の皆も到着した。

 

姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃん、皆そろってる。

 

「……」

 

「……」

 

皆顔を一瞬だけ見合わせ笑みで頷きあったが、それだけだ。

今の私たちには言葉は要らない。

共通の目的に向かって突き進んでいるのだ。

 

私たちは姫和ちゃんの下に集まると姫和ちゃんを最初に門を飛び越え、御前試合が行われた会場の敷地内へと侵入した。

 

私の目にあの日の光景がフラッシュバックする。

自然と私の口元は笑みを浮かべていた。

 

「どうした可奈美?」

 

姫和ちゃんが私に問う。

私はそれに答えた。

 

「ここで出会った皆と、また戻ってきたんだなって」

 

「そうだな……戻ってこられるとは思わなかったが」

 

姫和ちゃんも私と同じで感慨深そうだ。

すると、足を止めた私たちに沙耶香ちゃんが注意を出した。

 

「感慨にふけるのは早い」

 

「サーヤの言うとおりデース。ストームアーマーの稼働時間は予備電池を含めても30分。それまでに大荒魂を討たないと」

 

「時間は私たちの味方ではないんですね」

 

「ネネー!」

 

そんな会話をしてると、薫ちゃんの肩に乗る、ねね、が声を上げた。

警戒している様子だ。

 

「そっちか……ねね」

 

「こっちも反応している……恐らくこの方角で間違いないだろう」

 

ねねが示した方角と姫和ちゃんが持つスペクトラム計も大荒魂のいる方角を示す。

 

「これは……祭殿の方角」

 

沙耶香ちゃんが方角を見てそう言う。

 

「祭殿?」

 

舞衣ちゃんが聞く。

 

「折神家の一番奥。御当主様しか入る事を許されない禁足地」

 

私は山の上の建物を見た。

 

「じゃあ、大荒魂がいるのは……」

 

「見てて母さん……」

 

私の隣で姫和ちゃんが姫和ちゃんのお母さんの形見のスペクトラム計を握り締める。

 

「姫和ちゃん……ねぇ姫和ちゃん!」

 

「ん?なんだ」

 

「絶対に勝とうね」

 

「ああ、そうだな」

 

私と姫和ちゃんは互いの意思を再確認する。

 

 

 

 

 

そして、その時だった。

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

 

 

 

 

「っ!」

 

私たちは御刀をいつでも抜ける様に構えると笑い声がした方向。

私たちの頭上の屋根の上を見た。

 

そこには、月を背後にひとりの少女が笑みを浮かべて私たちを見下ろしていた。

 

「あの娘は!」

 

舞衣ちゃんがいち早く反応し、そして私もあの少女をすぐに思い出す。

潜水艦で里を脱出する時に孝子さん達を襲った親衛隊の制服を着た刀使だ。

 

「あはは!えーっと」

 

するとその少女は屋根の上から頭に手をかざして私達をまるで品定めするかの様に眺めた。

少女と私の目が会う。

そして……少女は目を細めて満面の笑みを浮かべた。

 

「きーめた!」

 

その瞬間。

少女の姿が消えた。

 

「――っ!!」

 

私はすぐに御刀を引き抜くと構えた。

それとほぼ同時に御刀を通して私の体に衝撃が加わる。

その衝撃は私の体を先ほど立っていた場所から100m以上も動かされる程だ。

 

目を開けは私の目の前に先ほどの少女が御刀を持って目の前にいた。

 

少女は迅移を使ったのだ。

一方で突然の襲撃に写シや迅移を張っていなかった私は対応に遅れた。

 

「あっはははははは!!」

 

少女は笑いながら自身の御刀に力を込め、一方の私はその攻撃を止める事に集中した。

本殿の建物の中まで入った所で私はようやく少女の御刀を払うと地面に着地する。

 

そして着地後すぐに私は御刀を構えた。

 

「親衛隊の!」

 

「ふっふふー良いねぇ、相手がお姉さんなら、私はきっと」

 

少女はすごく楽しそうだった。

本当に満面の笑みを浮かべている。

その様子が本当にご満悦といった様子だった。

 

「はあぁー!!」

 

少女が笑みを浮かべたまま切りかかってくる私も、写シや迅移を発動させて少女の攻撃を防いだり、少女への攻撃を行ったりした。

 

「あっはははははは!!」

 

少女は楽しそうに笑いながら攻撃を仕掛けてくるが私と少女の攻撃と防御はまさに両者一進一退といった状況であった。

私は少女と一旦距離を取る。

 

「あははは――やっぱりだ!あの時そうじゃないかと思った。お姉さんはきっと、誰よりも強い」

 

「くっ」

 

「だからお姉さんを倒せば私は!!」

 

少女は再び切りかかってくる。

だがその攻撃を強烈そのもので、私は後ろへと押された。

その余りにも強烈な攻撃に私は一瞬戸惑う。

 

すごい気迫……この娘どうしてこんなに!と。

 

「ふっ!このっ!」

 

私もやられてばかりではいられない。

すぐに私も少女へと攻撃に転じた。

だが、その攻撃は避けられてしまう。

 

強い!これが天然理心流の境地!

 

私はこれまでの戦闘で少女の御刀の流派は見破っていた。

だが、相手の流派の理解は出来てもそれが、勝てるかどうかは別の話だ。

剣術とは互いの流派のぶつかり合い。

その場に応じた行動が求められる。

 

でもだ。

こんなに楽しいのは久しぶりだった。

 

私は自然と笑みを浮かべる。

 

「私も!」

 

私はそう言うと少女への攻撃を連続で行った。

少女の剣撃を避けつつその合間を縫って私の剣撃をしかける。

 

少女は私から距離をとった。

 

「はぁはぁはぁ……まだだよ……お姉さん」

 

少女は息を荒くしてそう言う。

激しい戦闘で疲れたのだろうか?

だが、それにしても、私から見て少女の様子はおかしくみえた。

 

違和感を感じたのだ。

 

先ほどまであんなに楽しそうだったのに、今はなんだか急いでいる様だ。

まるで何か時間に追われている様な……そんな感じ。

 

「はぁはぁ……楽しいねぇ……」

 

違和感は感じていた。

しかし。

 

「うん!」

 

私は頬を上げる。

この少女はこんなにも必死なのだ。

それにこんなにも楽しそうなのだ。

 

これに答えない訳にはいかない!!

 

少女も息を整える。

 

ここで攻撃をするというのは野暮というものだ。

私はこの少女とは正々堂々と勝負がしたかった。

 

少女は息を整え終えると御刀を再び構える。

 

そして、再び少女からの剣撃が炸裂…………しなかった。

 

「横槍!」

 

「ダイナミーック」

 

少女を横から出てきたエレンちゃんが突き飛ばし、私はというと薫ちゃんの太刀の鞘で吹き飛ばされた。

 

「うわわわ!?」

 

突然の事に私はそんな声を上げる。

そして突き飛ばされた先には姫和ちゃんがいて私を抱えるように文字とおりキャッチした。

 

「行くぞ可奈美!」

 

「ふぇ!?ちょ、ちょっと姫和ちゃん!?」

 

そして姫和ちゃんは私を抱えたまま本殿の廊下を走り始める。

後に続くのは舞衣ちゃん、沙耶香ちゃんだ。

 

「ま、まって舞衣ちゃん!あの娘との決着がまだ!」

 

「いいから!」

 

「ほへ?」

 

これは……怒ってる舞衣ちゃんだ……。

そう思った。

そして私は今やるべき事を思い出したのだった……。

 

今はあの娘との戦いよりも大荒魂を優先すべきなのだ。

 

あの娘との決着はまた今度つければ良い。

 

だけど……。

 

私はこの時なぜか、妙な不安を覚えていた。

 

もしかしたら……もしかしたらだけど、あの娘とちゃんと剣を交える機会はもう来ないのではないかと……そんな不安を……。

 

だけど、私は今は大荒魂を優先すべきだ。

だから私はあの親衛隊の少女の事をなんとか頭の片隅にしまいこんだ。

 

そして、私達は大荒魂が潜む祭殿の奥深くへと進んでいったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……私の不安は実現する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はその後、二度とあの時の少女とちゃんとした戦いをする事はできなかったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやはや、投稿が遅くてゴメンよ……。
でも、1話、三千文字換算にすると1話と2話たして97798文字だから約32話分を投稿した事になるのでは!?(すっとぼけ)

次は誰目線で書こうかなーと考え中。
やっぱ順当な流れでいうと結芽ちゃんかなーと。
結芽ちゃんを次ぎ書けば胎動編が終わるけど他のキャラでも良いかなーとか考えちゃう。
とりあえず、とじみこが続く限りこれも細々と続けようと思います。

ちなみに恩田累さんかわいいですよねぇ。
実は私、眼鏡キャラって好きになる事ってあんまり無いんだけど累さんは別。
ビビッときちゃいます(あっ別に眼鏡をディスってる訳じゃないよ)。

だけど……累さんのイラスト少なすぎないん?

どの娘が好き?(アンケート機能を使ってみたかったというのは内緒の話…だけど、もしかしたらアンケートの結果次第ではメインもしくはサブで今後登場するかも…)

  • 鈴本葉菜
  • 土師景子
  • 蓮井麻由美
  • 笹野美也子
  • 丸山茜

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